くすぐり作文晒し場

カワイイ女の子の靴下脱がしーの足の裏をコチョコチョしちゃう系小説投稿ブログ! 本番行為は一切無しなので、健全な18歳児でも安心してお楽しみいただけます!

~現役アイドル達の足の裏をくすぐっちゃいました!~

○駅前
  ピンクのシャツに深紅のベスト、紺のミニスカート、白いソックスに赤いスニーカーを履いた、
  ツーサイドアップの女の子が駆けてくる。
  耳につけっぱなしになったイヤホンから、シャカシャカと音楽がもれ聞こえている。

??「おはようございます!」

――イヤホンをされてますが、何の曲ですか?

??「新曲ですよ! 新曲! ……あ、すみません。つい興奮して」

――自己紹介をお願いします。

春香「天海春香(あまみはるか)、17歳です。趣味はカラオケとお菓子作りです」

――あなたにとって『アイドル』とは?

春香「そうですね。小さい頃からの夢だったんですけど、今の私にとっては……、皆で一緒にステージに立っているときが一番『アイドル』なんだって実感できます」

――くすぐりには強いですか?

春香「へっ? くすぐり、……ですか? あんまり強くは、ないと思います」

――最近くすぐられたことは?

春香「……? 無い、……ですかね。小さい頃は、友達とふざけてくすぐりあったりしたこともあると思うんですけど……」


(暗転)

質問に困惑されているなので、さっそく撮影現場にご同行いただきました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、春香の計4人。
  木板の足枷から突き出た春香の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の傍に靴下の詰め込まれた春香のスニーカーが踵をそろえて置かれている。

春香「えへへへひひひひひっ、嫌っはっはっはっはっはっ!! やっ……やめてくださいっ、あぁっはっはっはっは~~!」

――天海さん。スタンダードな足枷に足の指までしっかりと拘束されて、徹底的に足の裏をくすぐられるのはいかがですか?

春香「えひゃへへへへへへっ!!! 苦しいっ、苦しいですぅぅっはっはっはっはっはっは!! 息がっ、っはっはっは!! いやめてぇぇ~~はははははははははっ」

――おや? さきほどは初めての経験で楽しみだとおっしゃっていましたが。

春香「駄目ぇえっへっへ、もう無理ですっ!!! ひゃっはっはっは限界!! 早くやめてぇぇ~~ひゃっひゃっひゃひゃ」

――天海さんともあろう方が、途中で仕事を投げ出すおつもりですか?

春香「そっ、そんなっ、でもっ……はっはっは、これ以上は無理ぃぃ~~~っひっひっひっひ!!」

――アイドルが仕事を放棄しようとするなんて、言語道断ですよ。しばらく笑って反省してください。

春香「そんな嫌ぁぁああぁっはっはっはっはっはっ!!! うひゃはははははっ!!! 駄目えぇぇ~~っへっへっへっへ」


(暗転)


○田んぼ前小路
  タンクトップに短パン、運動靴、水色のリボンをつけたポニーテールの女の子が走っている。

――我那覇響(がなはひびき)選手、『響チャレンジ特別版』ということで走って現場まで向かうということですがいかがですか? 時間内に到着できそうですか?

響「なんくるないさ~」

――沖縄弁で「大丈夫だ。問題ない」だそうです。我那覇選手。軽く自己紹介をしていただきたいのですが。

響「我那覇響! 沖縄出身の16歳だぞ!」

――以上ですか。あなたにとって『アイドル』とは?

響「みんなの餌代も稼がないとだしねー」

――みんなというのは、ご自宅で飼われているペットのことですね。何匹飼われているんですか?

響「んーと、ハム蔵だろ、いぬ美だろ? ワニ子、シマ男、ブタ太、ねこ吉、オウ助、へび香、うさ江、モモ次郎」

――聞いてない名前までありがとうございます。10匹ということで。それはしっかり稼がないといけませんね。くれぐれも、時間厳守でお願いしますよ。


(暗転)

結局我那覇選手は、予定より10分遅刻して撮影現場に到着しました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、響の計4人。
  木板の足枷から突き出た響の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の傍らに響の運動靴が転がっている。

響「ひぎゃぁあはははははははっ!!! うひゃひゃひゃひゃっ!! がぁぁああっはっはっはっはっはっはっははははっはっはっ!!!」

――我那覇選手。だから時間厳守だとお伝えしたのに。いかがです? ハーフマラソン並みの長距離を走り終えて疲労した足を、スタンダードな足枷に足の指までしっかりと拘束されてくすぐられるのは?

響「ぎゃはああはははははっ!!! きついっ!! きつすぎるぞぉぉ~~ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

――足の裏が真っ赤。酷使されたばかりの土踏まずの筋肉が、激しく掻き毟られることで、ひくひくと震えるようにもがいています。おそらく普段の数倍敏感になっていることでしょう。

響「ひぎぃぃぃ~~っひっひっひ、解説やめぇぇえあひゃあひゃあひゃひゃ!」

――遅刻は厳禁。しっかり笑って、反省してください。

響「ふぎゃぁあぁあっはっはっはっはっはっ!!! いぎぃぃぃ~~っひっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」


(暗転)


○765プロダクション事務所前
  青いシャツにジーンズ、革の靴を履いた長髪の女の子が出てくる。

――あ、すみません。如月千早(きさらぎちはや)さんですよね?

千早「……」スタスタ

――そんなに急いでどこへ行かれるんですか?

千早「これからレッスンなんです」

――あなたにとって『アイドル』とは?

千早「……歌うこと。それだけです」

――くすぐりには強いですか?

千早「……」スタスタ

――足の裏とかいかがです?

千早「どこの記者の方か知りませんが、ふざけた質問にお答えするつもりはありません。時間の無駄です。私、急いでいるんです。失礼します」


(暗転)

もちろん、強制連行させていただきました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、千早の計4人。
  木板の足枷から突き出た千早の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の周辺に千早の靴と靴下が、乱雑に散らばっている。

千早「ひゃはははははははっ!!? やめてぇぇ~~ふひゃひゃ、やめてぇ~~っはっはっはっはっはっは~~っ!!!!」

――如月さん。『ふざけた質問』に身をもってお答えいただきありがとうございます。ずいぶんと弱いようですね。連れ去られた挙句、抵抗むなしく靴も靴下も脱がしとられ、スタンダードな足枷に足の指までがっちりと拘束されて、めちゃくちゃ足の裏をくすぐられる感想は?

千早「はひゃっはっはっはっはっ!!? わはっ、私っ!! レッスンがぁぁ~~っっひゃっひゃっひゃ、レッスンがぁぁぁああははははははははははははっ!!!」

――アイドルの仕事は歌だけではありませんよ。

千早「ふひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! そんなことっ!! ひゃひゃひゃひゃっ、あなたに言われなくてもぉぉ~~っはっはっはっはっは!!! お願いぃぃひひひひひひひひひ、やめてぇぇぇえひゃひゃひゃ」

――ファンサービスですよ。如月さん。普段クールな如月さんの笑い狂う姿を、もっとファンの皆さんに見ていただきましょう。

千早「嫌あぁぁああっひゃっひゃっひゃ、とめてぇぇぇっひっひっひ~~っ!!!! カメラとめてぇぇぇ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!」


(暗転)


○喫茶店
  半そでのシャツにフリフリのスカート、サンダルを履いたボブヘアーの女の子が、
  四人掛けテーブルの向かいに座っている。

??「……あ、あの……っ! で、できれば女性のインタビュアー……の、方、とか?」

――すみません、萩原雪歩(はぎわらゆきほ)さん。うちの事務所、人手不足で、こうして動けるのは私だけなんです。どうしてもというのなら、日を改めますか? その日までに、女性スタッフを一人なんとか工面できれば。

雪歩「いっ、いえっ! すみません、勝手なこと言って! 良いんです……その、私のわがまま、ですし……、もっとこういうことにも、慣れていかなきゃ、いけないし」

――そうですか。助かります。では、自己紹介を。

雪歩「は、萩原雪歩、です。じゅ、17歳……。高校生で、す」

――あなたにとって『アイドル』とは?

雪歩「あ、その、私……こんな風に自分に自信がないからこそ、違う自分になれたらいいなって思います」

――なるほど。アイドルを通して、自分の良さを再発見したいと。

雪歩「はい。あのっ……その……、こちらからも質問ひとつ良いですか?」

――どうぞ。

雪歩「今日の撮影って……いったいどんなこと、するんですか?」


(暗転)

興味津々のご様子なので、すぐに現場へお連れしました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、雪歩の計4人。
  木板の足枷から突き出た雪歩の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の傍らに、雪歩のサンダルが並べられている。

雪歩「ひぃぃぃ~~っひっひっひっひ! 男っ!!! 男の人らめぇぇぇっひっひっひっひっひっひっ!!!」

――ずいぶんと男性恐怖症なんですね。部屋に入ってすぐ失神してくれたおかげで、拘束が楽でしたよ。萩原さん。お上品な白い足を、スタンダードな足枷に足の指までぎっちぎちに拘束されて、むさい男どもにくすぐられるお気持ちは?

雪歩「最悪っ!!! ひっひっひ、最悪ですぅぅっひゃっひゃっひゃっひゃ!!! 嫌ァァああひひひひひひひひひひひひっ」

――はっきり言いますね。

雪歩「触らないでっ!!! 触らないでぇぇぇひひひひひひひひっ、いぃぃ~~っひっひっひっひっひ!!! こんなことっ! っひゃっひゃ、こんなことされるなんて、プロデューサーに聞いてません~~っひっひっひ」

――プロデューサーにも言ってませんからね。

雪歩「ひひひひっ!!!? そんにゃっ、そんなの違法じゃないですかぁぁっひゃっひゃひゃっひゃ!!」

――心配ご無用。きちんと既成事実にしますから。

雪歩「ふひゃぁあ~~っっはっは!!? な、にをっひひひひひ!!? あがっ、いやあぁ~~っひゃっひゃあひゃひゃっ!!!」


(暗転)


○本屋
  橙のチェックシャツの上に紺のパーカー、オリーブのスカートに、ブーツ姿のボーイッシュな女の子が、
  本を立ち読みしている。

――何読んでるんですか?

??「うわっ!!? ……ってもしかしてプロデューサーが言ってた取材の人ですか?」

――遅くなりました。ところで『王子様』はずいぶんと女性向けな雑誌を好まれるんですね。

??「ボクだって女の子なんですよ」

――実は案外乙女だったりして。自己紹介をお願いします。

??「菊地真(きくちまこと)。765プロ所属。17歳。乙女座です!」

――世間ではすっかり『王子様』のイメージが定着してしまいましたが、そんな菊地さんにとって『アイドル』とは?

真「最初は、ふりふりっとしてプリプリッとしたお姫様みたいになれたらなぁって思っていたんです」

――へぇ、今と反対ですね。

真「ホントに……。トホホ。でも今は、ファンの夢のために『王子様』としてのボクを磨きつつ、少しずつ女性的な魅力もアピールできたらなって思います」


(暗転)

男性でも思わずときめいてしまいそうな爽やかな笑顔をみせてくれた『王子様』は、快く場所の移動に賛同してくれました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、真の計4人。
  木板の足枷から突き出た真の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の傍に、真のブーツが折り重なって倒れている。

真「ぶわぁぁっはっはっはっはっ!!! なっ、なんですかコレぇえぇっはっはっはっはっ!? 話と違うぅぅ~~っはっはははははははは!!!」

――王子様。スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏を思い切りくすぐられて、爽やかなイメージとは程遠い下品な笑い声を強制的に上げさせられる今のお気持ちは?

真「くあぁはははははははっ!!! やめっ、やめてくださいぃぃ~~っひっひっひひっひっひ!! くるしぃぃっ、苦しいぃぃひひひひひひひひひひひ!」

――王子様。ファンの方々が見てますよ。

真「嫌あぁぁぁっはっはっはっはっはっ!! 見ないでぇぇっへっへっへ、やだぁぁぁっはっははははははははっ!!!」

――多くの女性ファンを魅了する女王子様。世の男性達の嫉妬や憎悪を一心に背負って、笑い死んでください。

真「はぁぁ~~っはっはっはっはっはっ!!! いやぁぁあ~~、嫌あぁあ~~っ!! ぷろっ、ひっひっひっひ、プロデューサーぁあっはっは、誰かっ! 助けてぇぇぇっはっはっはっは!」


(暗転)


○ラーメン二十郎
  胸に大きなリボンのついたブラウス、長いスカート、ブーツ、
  長く美しい銀髪にカチューシャをつけた女の子が、
  もやしのたっぷりのった極太ラーメンをすすっている。

――すごい量ですね。『銀色の王女』と名高い四条貴音(しじょうたかね)さん。全部食べ切れますか?

貴音「それは、トップシークレットです」

――こちらのお店にはよくこられるんですか?

貴音「それも、トップシークレットです」

――あなたにとって『アイドル』とは?

貴音「それも、トップシークレットです」

――どういった質問ならお答えいただけるんでしょう?

貴音「それも、トップシークレットです」

――…………。

貴音「カメラマンさま。後ろがつかえています。おしゃべりも結構ですが、速やかに粛々と食すのです」


(暗転)

もうまったくわけがわからないので、さっさと現場へ移動していただきました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、貴音の計4人。
  木板の足枷から突き出た貴音の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の横に、貴音のブーツと靴下がまとめて放られている。

貴音「きゃははははははははっ! おやめください……っ!! ぷ、はっはっはっはっはっは!」

――質問にきちんとお答えいただくまでやめられませんよ。銀色の王女様。染み一つ無い美しい素足をスタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、むさぼるようにくすぐられてみてどうですか?

貴音「ぷひゃっはっはっはっはっははっ!!! どうってふっぁっはっはっはっは、くすぐったいですわぁぁっはっはっはっはっ!!! なにゆえっ、このような所業をぉぉっははっはっは!?」

――銀色の女王様。『トップシークレット』では取材になりません。どうか正直にお答えください。

貴音「きゃはっ、ふぁっはっはっはっは、かはっ、可能な限りお答えいたしまぁははっははっはっはっはっは~~!!!」

――ラーメン二十郎の好きなトッピングは?

貴音「麺カタカラメ野菜ダブルにんにく脂増し増しぃぃぃっひっひっひっひっひ~~っ!!」

――ご出身は?

貴音「ふっはっはっは!!? ……うくっふっふっふ、と、トップシークレット――……ぶはっ!!!? きゃは、急に強くぅぅぅ~~~っひっひっひ、きゃぁぁぁ~~ははははははははははっ!!!!


(暗転)


○タクシー後部座席
  グリーンのタンクとっぷにデニムのミニスカート、ブーツを履いた金髪の女の子が、
  座席に抱きつくような格好で眠っている。

――星井美希(ほしいみき)さん? 到着しましたよ? 起きてください。

美希「あふぅ……ムニャムニャ」

――少し予定より早くなってしまったからですかね。星井さん。あなたにとって『アイドル』とは?

美希「スー……スー……きらきらーって、輝いてる人ー」

――……寝言のようですね。


(暗転)


まったく起きる気配が無いので、現場まで運搬しておきました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、美希の計4人。
  木板の足枷から突き出た美希の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の横に、美希のブーツが並べて置かれている。

美希「やっはっはっはっはっはっ!!! なんなのっ!!? なんなのぉぉ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!?」

――星井さん。寝起き早々、スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏をたっぷりくすぐられる気分はいかがですか?

美希「やぁぁ~~~ははははははははは!!! わかんないっ!! 全然意味がっ、わかんないのぉぉ~~っはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

――トップアイドル星井さんは、実はくすぐったがり屋ですか?

美希「きゃひゃひゃひゃっ!! くすぐったいぃぃっひっひっひ、美希はぁぁっはっは!! くすぐったがりなのぉぉっひっひ、やめてぇぇ~~ふぁっはっはっ!」

――各局のDさん。これで星井さんの寝起きどっきりのテンプレは決まりましたね。では眠気覚ましに、もう少し笑っていただきましょう。

美希「嫌あぁぁあぁっはっはっはっはっはっ!!! やめっ、やめてなのぉぉ~~~ふひっひっひっひっひっひ!!!」


(暗転)


○スーパー特売品売り場
  オレンジ色のトレーナーにデニムの短パン、白い靴下にスニーカーを履いた、ツインテールの女の子が、
  買い物カゴに大量のもやしを詰め込んでいる。

――そんなにもやしばかり買って何を?

??「あっ、今日はもやし祭りなんです」

――もやし祭り?

??「はいっ! と~~っても! 美味しいんですよー」

――自己紹介をお願いします。

??「うっうー! 高槻やよい(たかつきやよい)! 14歳! 6人姉弟の、一番お姉さんなんですー」

――あなたにとって『アイドル』とは?

やよい「はい! 少しでもウチにお金を入れて、両親の役に立ちたいなーって思います」


(暗転)

家族のためにがんばってアイドルのお仕事をこなしているようなので、楽しいお仕事を紹介してさしあげました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、やよいの計4人。
  木板の足枷から突き出たやよいの左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の周囲に、やよいのスニーカーとくしゃくしゃになった靴下が落ちている。

やよい「ふひゃはははははははははははっ!!! にゃっ、何ですかこのお仕事ぉぉ~~~ひにゃははははははははははは!!!?」

――スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏をくすぐられるお仕事ですが、何か?

やよい「こんなの嫌ですぅひゃっ!! は、は、は! ふにゃっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

――ずいぶんとくすぐりに弱いようですが?

やよい「ひひゃぁぁっはっは!? こにゃっ……こんにゃ状態でくすぐられたらぁぁっ! 誰だって笑っちゃいますよぉおっ、ぃにゃはははははははははははっ!! やめてくださぃぃぃっひっひっひ~~」

――ご家族のために、しっかり笑って稼いで帰ってください。

やよい「ひにゃぁぁ~~っはっはっはっはっ!!? か、っひゃっひゃっひゃ、もうだめぇぇっ、もう駄目ですぅぅっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」


(暗転)


○某テレビ局廊下自販機前
  黄フードのピンクパーカー、スパッツの上に白スカート、向かって右側にサイドテールを作った女の子が、
  ベンチの上で胡坐をかいてポータブルゲーム機をいじっている。

――お休み中失礼します。双海真美(ふたみまみ)さん。あなたにとって『アイドル』とは?

真美「んー、もっとも~っと、テレビとか出てみたいかな」

――今以上にですか。それは、『亜美真美(あみまみ)』としてですか? それとも、『双海真美』として?

真美「どっちも! 亜美(あみ)は亜美でがんばってるから、真美も真美でがんばらなきゃって思うし、それとは別に、亜美と真美でもがんばりたいなーって」

――今日は、まだ帰られないんですか?

真美「この後亜美と一緒にゲームする約束があるから」


(暗転)

『竜宮小町』の収録が終わるまで、うちの事務所へご招待しました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、真美の計4人。
  木板の足枷から突き出た真美の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の傍らに、真美のピンクのスニーカーがばらばらに放られている。

真美「にゃははははははっ!! うにゃっはっはっはっはっは!!? なんでっ、なんでぇぇぇ~~っへっへっへっへっへ!!!」

――スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏をくすぐられるゲームです。

真美「ゲームぅぅぅにゃんにゃぁぁぁああっはっはっはっはっはっはっ!!?」

――小さな足の裏がごつい指に激しくくすぐられ、たまらず泣き喚く少女。こういうのを求めるファンもいるんですよ。

真美「あぁぁっはっはは、意味ぃぃ~~意味わかんにゃぁぁっはっはっひっひっひひひひひひひ!!!」

――双海亜美さんが到着されるまで、存分に笑ってくださいね。

真美「あにゃぁっぁっはっはっはっは!!? 亜美ぃぃっひっひっひ、逃げてぇぇ~~っはっはっはっは!!」


(暗転)


○某テレビ局控え室
  黄フードの青パーカー、スパッツの上に白スカート、向かって左側にサイドアップを作った女の子が、
  鞄に台本やペットボトルを仕舞い、帰り支度をしている。

――双海亜美さん。収録お疲れ様でした。これからお帰りですか?

亜美「うん。真美に待ってもらってるからねー。急がなきゃ」

――ならひとつだけ。あたなにとって『アイドル』とは?

亜美「なんか大変だけど、チョー楽しいよね!」ニカッ

――最高の笑顔をありがとうございました。


(暗転)

お急ぎのようなので、事情を説明してうちの事務所に駆けつけていただきました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、亜美の計4人。
  木板の足枷から突き出た亜美の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の傍らに、亜美の青いスニーカーがばらばらに放られている。

亜美「にゃはっはっははははっ!! うにゃっ!? 嘘つきぃぃっ!! 嘘つきぃぃ~~っひっひっひっひっひ~~っ!!!」

――嘘つき? ゲームはゲームでも、スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏をくすぐられるゲームです。

亜美「そんっ! にひひ、そんなの聞いてにゅ……っはっはっはっはっはっはっ!!!」

――悪態などつかず、ファン達にとびきりの笑顔をお願いします。

亜美「あぁぁ~~っはっはっはっは!!? 笑顔ってぇぇひゃひゃ、……真美はっ!! 真美はどこぉぉ~~にゃははははははははは!!!」

――準備中です。すぐにお会いできますよ。

亜美「うにゃぁぁ~~っはっはっは、どういうことぉぉ~~ひゃひゃひゃ!?」


(暗転)


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、亜美、真美の計5人。
  4つ穴の開いた長い木板の足枷から突き出た亜美、真美の素足を、
  くすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。

亜美「ふにゃはっはっはっ!!! 真美ぃぃ~~っひっひっひっひ」

真美「亜美ぃぃっひひひひひひ、にゃぁぁ~~っはっはっは」

――並べて足の裏をくすぐられる『亜美真美』の貴重なワンシーンです。ファンの皆様、互いに名を呼び励まし合う姉妹愛、むさい男達に足裏を掻き毟られてもがき笑い狂う少女達の断末魔、合わせてお楽しみください。

亜美「嫌っ、いにゃぁぁ~~あっはっはっはっはっはっは!!」

真美「にひっ!? やめてぇぇ~~っひゃっはっはっはっは!!」


(暗転)


○カフェレストラン
  紫色のワンピースドレスにサンダル、前髪をアップにしたロングヘアーの女の子が、
  丸テーブルの向かいに座り、ストローで100%オレンジジュースをすすっている。
  うさぎのぬいぐるみを片手に抱えている。

――水瀬伊織(みなせいおり)さん。そちらのうさちゃんのお名前を教えていただけますか?

伊織「シャルル・ドナテルロ18世」シャララン

――美味しそうな名前ですね。

伊織「ちょっと! やよいみたいなこと言わないでください!」

――最近ではすっかり『竜宮小町』で有名になってきましたが、あなたにとって『アイドル』とは?

伊織「まだまだです! もっともっとこの伊織ちゃんをみーんなに認めさせないと!」

――『みんなに』とおっしゃいましたが、『ご家族に』ということですよね?

伊織「ぐっ……」


(暗転)

家族間でフラストレーションが溜まっているようなので、しっかり発散していただきましょう。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、伊織の計4人。
  木板の足枷から突き出た伊織の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷の周辺に、伊織のサンダルとシャルルが無造作に散らばっている。

伊織「きゃぁぁあっはっはっはっはっ!!!? やめてっ!!! やめなさいよっ!! あぁぁあっはっはっはっはっは~~!!!」

――スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏をくすぐられる今のお気持ち、率直にお聞かせ願えますか?

伊織「うるさいうるさいうるさいぃぃ~~っひっひっひ!! すぐやめなさいっ!! やめないとっふゎっはっはっはっはっはっは!!!」

――やめないと?

伊織「きゃはははははっ!!? ひ、ひ、ひ、ひどいんだからぁぁ~~っはっはっはっはっは!!!」

――今日は日々のストレスも忘れて、たっぷり笑って帰ってください。

伊織「はぁぁっはっは!!? 何言ってんにひぃぃ~~~ひっひっひっひ!! にひひひひひひひひひひひひひっ!!!」


(暗転)


○結婚式場
  ウェディングドレスに身を包んだショートカットの女性が慎ましくお辞儀をする。

??「三浦あずさ(みうらあずさ)です。私、のんびり屋さんですけど、アイドル頑張っていますよ~。うふふ」

――あなたにとって『アイドル』とは?

あずさ「運命の人を探す旅です。こうしてアイドルとしてがんばっていれば、きっと誰かが見つけてくれますよね」

――……結婚の予定も無いのにウェディングドレスを着ると、婚期が遅れるって言いますが。

あずさ「そうなんですぅ。でも、絵になるからってリツコさんが~~」

――ところで、くすぐりにはお強いですか?

あずさ「あらあら……、試してみます?」


(暗転)

案外ノリノリのご様子だったので、さっそく同行していただきました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、あずさの計4人。
  木板の足枷から突き出たあずさの左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷のすぐ傍に、あずさのウェディングシューズが丁寧にそろえられている。

あずさ「あははははははははははっ!!! ま、はぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは~~」

――ずいぶん協力的で助かりました。美しい花嫁姿のまま、スタンダードな足枷に足の指までがっちがっちに拘束されて、足の裏をくすぐられるご感想は?

あずさ「ふふっ、あははははははっ!! 案外っ……ひ、きついものですねっ、あぁ~~はっはっはっはっはっはっはっは!!」

――花嫁衣装がまぶしいですね。

あずさ「あはははっ、ありがとうございますぅぅふふふふ、ふぁっはっはっは」

――実に絵になっています。くすぐられる花嫁。見ている方々は、さまざまな妄想を膨らませ、興奮することでしょう。

あずさ「はっはっはっはっ!!! すふっ、すみませんっふふふふふふっ、いひ、……いつまで続けるのかっ、ふぁはは! 教えていただけませんかぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっは!?」


(暗転)


○461ビル1階『応接室』
  レディーススーツをぴっちりと着た、メガネの女性が腕を組んでソファに座っている。

――秋月律子(あきづきりつこ)プロデューサー。どうなさいましたか?

律子「どうもこうもありません。確かにうちのアイドル達の取材の許可はしましたが、あんな破廉恥な撮影を許可した覚えはありません」

――律子プロデューサー、あなたにとって『アイドル』とは?

律子「これからの――って、何インタビューしているんですか! こっちは抗議しにきているんですよ? うちのアイドルの破廉恥な映像を頒布することは許しません。対応いただけないようなら、出るところに出ますよ」


(暗転)

ずいぶんとご立腹なようなので、さっさと笑っていただきましょう。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、律子の計4人。
  木板の足枷から突き出た律子の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷のすぐ傍らに、律子のパンプスがひっくり返って転がっている。
  ストッキングは破かれ、両足ともかかとまでずり下げられている。

律子「いぎゃぁぁっはっはっはっはっはっ!!! 嫌ぁぁぁははっははははっ!! やめ……っ、うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

――どうですか、律子プロデューサー。スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏を徹底的にくすぐられるシチュエーションは? 楽しんでいただいてますか?

律子「楽しくないっ!!! ぃぃっひっひ、楽しくなんかないぃぃぃ~~っひっひっひっひ!! なんで私がぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!?」

――律子プロデューサーも元アイドルだそうじゃないですか。ファン達も大喜びですよ。

律子「なっ!? ひぎゃぁぁはははははははっ、やめっ、こんな映像外に出さないでぇぇ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

――鬼軍曹も笑顔の方が似合ってますよ。

律子「嫌ぁぁあっはっはっはっはっはっ!! やめてぇぇ~~っひぇっひぇっひぇ」

――映像頒布をご許可いただくか、笑い死ぬか選んでください。

律子「ぎゃぁぁぁあ~~っっはっはっはっはっ、そ、そんなぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! ひぎゃぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!」


(暗転)

おまけ


○765プロ事務所
  緑色を基調とした事務員の制服姿、インカムを付けたショートヘアーの女性が机に向かっている。

――音無小鳥(おとなしことり)さん。あなたにとって『アイドル』とは?

小鳥「あはは……私はアイドルじゃありませんよ」

――ピアノバー『Unamela』で歌手業をされているという情報がありますが。

小鳥「あらら、バレてますか。でもあちらは本業ではありませんし」

――アイドルになろうとは思わなかったんですか?

小鳥「女には色々な過去があるんですよ。今の私は時々歌えればそれで幸せなんです」


(暗転)

ピヨピヨと仕草がかわいらしかったので、事務員さんもお持ち帰りしました。


○461ビル3階『仮想拷問室』
  撮影者1人、くすぐり師2人、小鳥の計4人。
  木板の足枷から突き出た小鳥の左右の素足をくすぐり師2名がそれぞれくすぐっている。
  足枷板の端に小鳥のサイハイソックスがだらんとひっかけられており、
  サンダルはその傍らに転がっている。

小鳥「あははっ、あぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっはっ!!! やめっ、やめてくださいぃぃっひっひっひっひっひっひっひ!!!」

――音無さん。アイドルの皆さんにも楽しんでいただいた、スタンダードな足枷に足の指まで拘束されて、足の裏を徹底的にくすぐられるシチュエーションはいかがですか?

小鳥「ひぃぃ~~っひっひっひ!!? あは、皆さんもこんにゃっ!!!? いゃぁぁ~~っはっはっはっはっはっは、駄目ぇぇぇっひっひっひっひっひ!!」

――アイドルのお仕事ですよ。

小鳥「やめてぇぇぇぇひゃっひっひっひっひっひっ!!! だからぁぁっひゃっひゃ、私アイドルじゃありませんひひひひひひひひひ~~!!」

――可愛らしいので問題ありません。

小鳥「もひょっ!!? 問題だらけですぅぅ~~っはっはっはっはっはっははっ」

――ピヨピヨ言っていただけませんか? オオトリですよ、コトリさん。

小鳥「ぴよっ!!? よほぉぉ~~っふぉっほっほっ、にゃっ!? 何言わせるんですかぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっはっ!! 駄目駄目ェえぇぇっひっひっひっひっひ~~っ!!」


(暗転)

~現役アイドル達の足の裏をくすぐっちゃいました!~


(完)

黒糖巫女笑顔の練習

「始めましょうか」
「またトップもらうでーーっ」
「させない!!」
東京のとあるホテルの一室にて、
竹井久(たけいひさ)、愛宕洋榎(あたごひろえ)、鹿倉胡桃(かくらくるみ)が楽しそうに声を上げる。
各々、清澄高校、姫松高校、宮守女子高校の制服に身を包んでおり、その熱気は、第71回の全国高校麻雀選手権中堅戦を彷彿させる。

「……」
巫女装束姿の滝見春(たきみはる)は、ベッドの上で四肢を拘束された大の字の仰向け状態で、一人不安そうに眉を寄せる。

「ルールを確認するわね」
言いながら久は、手に持った紙切れを見る。
「一人持ち時間5分、一人ずつ、ここにいる滝見さんをくすぐり、一番笑わせた人の勝ち。
優勝者には『喜界島黒糖』三年分が送られるわ」
「黒糖三年分てどないやねん!」
「うるさいそこ!」
洋榎のつっこみに、すかさず胡桃が追いつっこみをかける。
「(´T△T`)」
「えっと、あと、永水さんから送られてきたファックスによると、
……『普段黒糖と鬼門の話でしか笑わないはるるを、思いっきり笑わせてあげて欲しいのですよー』だそうよ。
久しぶりに二回戦のメンバーに招集かかったと思ったら、なんだか拍子抜けの内容ね」
「ね」
「せやけど、なかなかおもろそーな企画やん。コレ。交通費も持ってくれるゆーてどんだけ太っ腹やねんな」

「道具もこんなに用意してくれてるっ」
胡桃が、テーブルに乗った羽根やら筆やらをちょこちょこいじる。
「じゃぁまず私からだねっ。しょっぱなから鋭くいくよっ」
胡桃は鳥の羽根を構え、独特の不敵な笑みを浮かべた。

「……動けない」
春がわずかに表情を歪めながら、両手両足をギシギシと動かす。
胡桃は春の顔を見下ろしながらフフフと笑う。
「ハルちゃんとは二回戦、共闘した仲だからねっ! 容赦なくいくよっ」
「理由になってへんがな」
「うるさい外野!」
洋榎の差込みも容赦なく撃ち落とす胡桃。
「……今ボケたやん」
「そーゆーのいーからストップウォッチ!」
口を逆三角形にしながら、洋榎はストップウォッチを構える。
「……ほな。よーいどん……です」
「やる気っ! キレが悪いっ! やり直しっ!」
洋榎は一旦口の形を三角にし、一呼吸置いてから、握りこぶしを作って声を張った。
「ほな、いくでぇ!! 宮守はんがやってくれはるでぇ!!? 永水の黒糖はんを笑かしてくれはるでぇ!!? いくでぇ!!?」
「そーゆーのもいーからっ!」
胡桃のキレのある言葉に、再び口を三角にする洋榎。
「……清澄はん。ストップウォッチ代わってや。ホンマにへこむわ」

「ありゃりゃ (この二人、なかなか面白いコンビじゃないかしら?)」

後ろで腕組をしていた久が洋榎からストップウォッチを受け取り、ようやく胡桃の親番が始まる。


「さて、ハルちゃんの弱点はー、ここかなっ?」
胡桃は鳥の羽根を使い、春の首筋をサワッと撫でた。
「んっ!」
春はびくっと首をすぼめ、顔を歪めた。
「ほれほれー」
胡桃は、必死に首をちぢこまらせようとする春の首に、羽根をねじ込みサワサワと撫で回す。
「んっ……や、みぃ、……」
「おっ、なんか……っ」
胡桃は羽根をくるくると回しながら春の首からうなじ、耳の裏へと這わせていく。
「ひっ……んんっ……くぅ……」
びくびくと体を震わせながら、悶える春。
「ふわぁん……っ!!??」
羽根が耳の穴に触れ、春は艶かしい声で鳴いた。
「おっ、エロいっ!」

「ちょいちょい宮守はん、わかってんか? 笑わさなあかんねやで」
「うるさい外野!」
胡桃は春の耳を鳥の羽根でくすぐりながら、キッと背後の洋榎を睨む。
「ふぁぁ……あぁ~……んんん」
顔を赤らめながら春はぎゅっと目を閉じて喘いでいる。

「なぁなぁ、清澄はん。ウチ、宮守女子に嫌われとんかいなぁ?」
洋榎がストップウォッチを握った久の袖をくいくいと引っ張る。
久がストップウォッチから目を離すと、洋榎は悲しそうな顔をしていた。
……と一瞬思ったものの、もともと洋榎はたれ目なので、実際悲しいのか寂しいのか不服なのか、良く分からない表情だった。
「そんなことないんじゃない? 私には、あの子、あなたと絡むの楽しんでるように見えるけど?」
「ホンマか! 清澄はんの目ぇ、節穴やないやろなぁ、デクだけに!」
久は少々カチンときた。声の調子から、洋榎に悪気がないのは明らかなのだが……。
「……そろそろ、二分経過ね。このままじゃ、本当にあの子、少しも滝見さん笑わせられずに終わりそうね」
「清澄はんが二分経過やゆーてんでーっ!!! 宮守はん頑張りやぁーっ!!」
「うるさいそこ!」
「(姫松のこの子、聴牌気配は読めるのに、空気はまるっきり読めない子なのかしら?)」

「ふわぁん……あぁぁん、ひぅぅ……」
「うーん……」
胡桃は羽根で、春の耳から首筋をサワサワ往復させる。びくびく震えながら顔を赤らめる春。
胡桃は目を瞬いた。
「(まずい……っ!!! この子っ、かわいいっ!!!)」
胡桃は、大会では無表情しか見せなかった春が必死に官能的な刺激を耐える姿に、見とれてしまっていた。

「三分経過ー」

「(清澄の声……。残り二分。そろそろ真面目にやらないと、本格的にまずいかなっ)」
胡桃は思考を巡らせながらも、春の鼻の下を羽根でこそこそくすぐってみた。
「ふわっ!! ……ふぁぁぁ……っ! ふわっ……っ!!」
春は鼻をむずむず動かせながら、くしゃみが出そうで出ない、気持ちの悪い感覚に耐え忍んでいるようだ。

「(くぅ……名残惜しいっ! まだ、笑わせるの、もったいないっ!)」

胡桃が春の鼻をさらに、羽根でこすってやると、春は目を閉じたまま嫌々するように首を左右に振る。
「ひゃっ……ひゃぁっ、……ふぁぁぁぁ~~~」
春がくしゃみをしそうだったので、胡桃は春の鼻の左穴に羽根を押し込んだ。
「ふごっ!!!? もごっっ……!!? ひゃめっ……っふんがっ!!」
春は痒そうに、鼻をもごもご動かせた。
「うぅぅ……ひのい……」
鼻に羽根がねじ込まれているせいで、春は鼻声になっている。

「(『ひどい』がちゃんと言えてないよっ……かわいすぎるっ! ハルちゃん、反則過ぎるよっ!)」

胡桃が、ねじねじと羽根を回すと、「ふぁっふぁっ」と春が鳴く。
引っ張り抜くと、びろーんと、鼻水が糸を引き、春の口元から顎にかけて垂れた。
「うぅぅぅぅぅ……~~~~~~~」
春は、強制的に鼻水を晒されたことに少しだけ怒っているようだ。眉を少しだけ寄せ、胡桃を睨んだ。

「(怒った顔もかわいすぎるっ! もっといろんな顔見たいっ。なんで一人5分しかないかなーっ! 短すぎるよっ)」

「残り30秒ー」
「早くないっ!!? 四分経過の合図はっ?」
「やったわよ? 熱中してたんでしょう。ていうか、この時間すごくもったいないんじゃない?」
ぐっと唾を飲む胡桃。
「(まずいっ!! 残り30秒しか……。後30秒で出来ることっ。30秒で……っ!!)」
胡桃は春の鼻水の付いた羽根をテーブルに置き、筆を手に取った。
そのまま、春の鼻の穴を再びくすぐってやる。
「ふぁぁっ!!! ひゃっ……ひゃめっ……あぁぁ、ふわっ!!! ふぁぁぁぁ~~~~」

「終了ー」

「ふぁくしゅっ!!!!!」

久の終了の合図と同時に、春はくしゃみをした。春の少量の鼻水と唾が胡桃の顔にピチリと飛び散る。
「(うん! 満足っ!)」
胡桃はグッと拳を握りガッツポーズ。それを、春は今にも泣き出しそうな表情で「うぅぅ~~~」と睨んだ。


「さぁて、次は私の番ね」
久が腕まくりをして、気合を入れる。
「……」
春がじっと久の顔を見つめている。
「どうしたの? 滝見さん。あの黒糖、すごく美味しかったわよ」
「……拭いて欲しい」
春は気持ち悪そうに顔をゆがめながら呟く。
「あ、なるほど。ごめんなさいね。気付かなくて」
久は言いながら、いそいそとポケットティッシュで春の顔についた鼻水と涎を拭いてやった。
「気持ち悪かったでしょう」
「……感謝」
「鼻かむ?」
ちょっとだけ間があって、春はこくんと頷く。久がティッシュを春の鼻にあてると、春はチンと鼻をかんだ。
「すっきりした?」
再びこくんと頷く春。
「ホントにあの子は……、くしゃみ出させたんなら責任もって顔拭いてあげるぐらい……って、あの子、顔に滝見さんの鼻水と涎つけっぱなしだし。ああいう状態が気にならない性質なのかしら? ねぇ」
久の呆れた声に、春も小首をかしげた。

話の主題である胡桃は、部屋の後ろで洋榎と何やらもめている。
どうやら、このゲームのルールを知ってる知らないの水掛け論らしい。

「あの二人仲良いわね」
「……そう思う」
春は軽く微笑んだ。
「(あら、この子。黒糖なくても普通に笑ってるじゃないの) ……じゃ、始めるけど、痛かったら言ってね?」
「……大丈夫」
春は再び微笑む。
「(くすぐられることに関しては、そこまで抵抗ないのかしら? ……うん。なんだか、妹みたいで、守ってあげたくなるタイプの子よね)」
久は春の頭を軽くなで、後ろを振り向いた。
「お二人さん、いつまでやってるの? どっちがタイムキーパーやってくれるのかしら?」

「せやからな! 笑かすんと、くしゃみさすんて、全然違うやんか」
「だーかーらっ! それは知ってるのっ!」
「ほな、鼻ほじったら、なんで笑うと思たん?」
「あー、そこからまた始めるっ!?」
久の言葉など全く耳に入らないのか、洋榎と胡桃の問答は続く。

「まだまだ長引きそうだから、こっちで勝手に始めちゃいましょうか?」
久は、呆れ顔で春の顔を見た。春も頷く。
「5分、と」
「あ……っ!」
ストップウォッチを設定し直していた久を、春は呼び止めた。
「どうしたの?」
「何分でもいい……」
「え?」
予想外の言葉に、久は聞き返す。
「向こうが終わるまで……何分でも……」
春の頬は少しだけ赤くなっている。期待しているのだろうか? 
「……わかったわ。向こうは向こう、こっちはこっちでゆっくり楽しみましょう」
言いながら、久はストップウォッチをポケットにしまった。

「(そんなに私のこと信用してくれてるのかしら? それとも、実はこの子、意外とマゾだったり……?)」

なんの開始合図もないままに、久の親番は始まった。


「さぁて、どこから始めようかしら?」
久が春の目の前で両手の指をわきわき動かしてみると、春は大人しく目を閉じた。
「(……あら。お任せしますって? こういうプレイってやったことないから、実はどうすればいいのかわかんないのよね~)」

とりあえず、久は春の体に馬乗りになり、両手を春の腋に差し込んでみた。
「んふぅっ……!!」
「うぉっ!」
久は、自分の指先にちゃんと春が反応したことに対して、軽く感動を覚える。
目をぎゅっと閉じ、口元をぴくぴくさせる春。
まだ久は指を動かしていないが、春は「くすぐったさ」がいつ起こるか予測できないため、緊張しているのだろう。

久はゆっくりと指先に力を込める。
「んふっ!! ……くくく、んんっ。ぷふっ……~~~~~~~~んっ」
ゆっくり指を動かされるのが辛いのか、春は頭を左右にぶんぶん振り乱した。

「(これは? 効いているのかしら?)」

さらに久は指をばらばらに、徐々に速く動かしていく。
「~~~~んんんっ!! んふふふっ………ふくっ!! ~~~~~~~~!!!」
久は指先に春の体温を感じる。腋の下が徐々に湿り気を増してくるのがわかる。
久はこしょこしょと指先を這わせるように、春の腋をくすぐる。
「ぷしゅっ!!! んぅぅぅ~~~~~~~~~~っ!!! ~~~~~~っくくく」
春は身をくねくねとよじり、一文字に結ばれた口の先から時折、少々官能的なうめき声を漏らす。

「滝見さん? 大丈夫? やめた方がいい?」
久は指の速度を緩めながら、春に優しく問いかける。
「んふぅぅぅ~~~~ぅぅ~~ぅぅ~っ!!! 」
春はぶんぶんと首を横に振り、うっすらと目を開けて久の顔を一生懸命に追った。

「(続けろってことね。いいわ。……なら、もう少し強めに)」
久は、人差し指に意識を集中させ、春の腋の下の血管を選り分けるようにくりくりと指を動かした。
「くはっ!!!? たはっ!!! ……~~~~~~ぅぅぅぅぅぅん」
一瞬吹き出したような気がしたが、すぐに春は口を閉じ奥歯をかんだ。

「(ここでこの反応……。さっき表面を複数の指で撫でたときよりも数倍の反応。この意味って……)」

久は親指を突き出すようにして、春の上腕部と腋窩部のちょうど境をえぐるようにくすぐった。
「ふわぁぁぁっ!!!? へへっ!! ……~~~~ふひっ!!! ひひひひっ。えへへへっ……んふぅ~~~」
春は口をぱかっと開き、明らかな笑い声を発した。

「(――笑った。この下には神経の束、そして腋窩動静脈がある。皮膚の表面よりも、体内のポイントを意識して責めた方が、この子には効きそうかも。……それならっ!)」

久は親指だけを春の腋の内側に残し、残り四本ずつ、春の鎖骨下あたりに乗せる。
そして、春の乳房上部の付け根、鎖骨下までをぐりぐりとツボ探しをするように、八本指を動かす。
「ぷぁはっ!!!? ひゃはっっ!!! ぶはっ、ひひひひっ、へへへへへっ!!! うぃひへへへへへへへへへへ~~~!!!」

「(なるほど……。親指で刺激した神経やら血管は、束になって肩甲骨の表面を通って、鎖骨の下をくぐる。知ってれば、ポイントを探し当てるのは意外と楽だったわね)」

「まはぁぁっ!!! はははははっ!!! おぴぅふふふふっ!!! いひぃぃぃ~~~。痛いっ!!! ひひひひひひひひひひっ~~~」
「あ、痛い? ごめんなさいね!」
春は笑い声のなかで、確かに「痛い」と言った。久は慌てて手を止めた。

ケホッ、ケホッ、と咳をする春。春の両目には涙が浮かんでいた。
久は、若干調子に乗りかけていたことを反省する。

「(露出した神経を刺激するのはやはり危険……。強弱変化を上手くつけるには、もっと経験を積まないと難しいかしら)」


「滝見さん、大丈夫? ごめんね。痛かった?」
久は春の体からおり、優しく春の髪の毛を撫でた。
春はハァハァと肩で息をし、頭は久の手に預けたまま、ゆっくりと目線を久に向けた。
「……大丈夫。……ちょ、……ちょっと、痛かった、だけ……つ、続きを……」

「(う~ん……。慣れた人なら、上手くくすぐた~い感覚だけ与えられるんだろうけど……)」

久は春の体側に立ち、腕を組んで、春の体を舐めるように見回した。

「(おなか周りもダメだな~。経験不足の私じゃ、最悪滝見さんを痛がらせるだけになっちゃうかもしれないし。……神経が集まっていて、比較的皮膚が厚い部位、か)」

久の目に留まったのは、白い足袋に包まれた春の小さな足だった。

「(そういえば、優希が足袋ソックスがどうの~とか言ってたわね)」

久は春の足下に移動する。春は、荒い息を立てながら、久を目で追った。
春の足袋を履いた足の裏は、若干汚れて見えた。

久はとりあえず、春の右足から足袋を脱がすことにした。
足袋はソックスのように伸縮しないものの、コハゼという留め具が掛糸にひっかかっているだけなので、かなり楽に脱がすことができる。
足袋のかかと後ろをぺろんと両手でめくり、そのまま脱がし取る。
春の素足は、親指と人差し指の間が少し開き気味になっている。足袋を履きなれている証拠だ。

「……え? ……す、涼しい?」
春は突然足元に訪れた感覚に、感想を漏らす。

久は、人差し指の爪の表面で、春の素足の裏をかかとからツツーっとなぞりあげた。
「ひゃっ!!? ひゃぁぁぁぁぁぁぁんっ~~~~」
春の足の親指がひくひくと動く。

「(なるほど。さわり心地に対する反応も良好。ここなら強めにくすぐっても……? ん? 親指? 親指 だ け が動いた? ……。この意味って……)」

久は、春の素足を見る。四本の短く丸い指。人差し指、中指、薬指、小指が、かなりまとまって縮まっていることに気付く。

「(もしかして……っ!)」

久は、春の素足から中指を選び、ぐいっとつまんで反らす様に引っ張った。
「ひゃっ!! ひゃははははははははっ!!? やははっ! ぷひひひひひひひひひひひ、にへへへへへへへへへ~~~」
春は、久がそれほど動かしていないにも関わらず、目に涙を浮かべ大笑いを始めた。

「(やっぱり……。長年、小さめの足袋に履き続けたせいで、親指以外の指が締め付けられた状態に慣れてるのね。てことは、親指以外の四本指は、意識的に動かすことすら難しい――超敏感ポイントっ!)」

「ひょっ!!! ひょっ!!! まぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!!! まっへっへっへっへっへっへ~っ!!!」
口をだらしなく開け、必死に久に懇願の目を向ける春。

「(ちょっと待ってって? う~ん……、今回はちょっと、勘弁してあげられないかな)」

久は春に向けて微笑むと、春の四本の足指を掴んで反らせ、指の間の部分を撫でてやった。
「あはぁっ!!!! ははははははははっ~~~!!! ひゃはははっ!!! きゃはっ、うひゃはっひひひひひひひひひっ!!! はひっ!!? はひっ、はひっ!!! にひひひひひひ~~!!!」
春は膝をがくがく震わせながら、上半身をねじり、今までに無いほど笑い悶えた。
「ひひひひひっ!!! あはっ!!! だぁぁははっ、だめっ!!!! くすぐっ……ひひひひひ!!! にへへへへへへへへへへへへ!!!」
春のだらしなく開いた口からは涎が垂れる。
「痛くは無い?」
「ひひひひひひっ!!! にゅひひひひひひひっ!!! にゅあぁーっはっはっはっはっはっはっはっ!!! くしゅぐってぃあっ!!! ひゃぁぁーっはっはっはっはっは~~!!!」
春は、小刻みに首を左右に振り、「くすぐったい」と表現する。
「痛くは無いのね?」
「にゃぁぁひひひひひひひひひっ!!! なひひひひひひひひぃぃぃぃぃ~~~っ!!! にへへへへへへへっ!!! いぃぃっへっへっへっへっへ~!!!」
久は、春がただ純粋にくすぐったがっていることを知り、少し嬉しくなった。


「ふひっ!!! ふひひひっ!! ふひぃっ!! にひひひひひひひっ、ひひぃぃん」
「あ」
久が人差し指を、春の足指に這わせていたところ、春の足の親指と人差し指で、久の指がパクっと捕らえられた。
「こらぁ、離しなさーい」
「ひひひ……、も、もう、い、ひひ、むひひひひ……」
春は、若干怯えの混じった引きつった顔をしていた。頬がぴくぴくと笑いを堪えるように痙攣している。

「(へぇ、この子。こんな表情もするんだ)」

久は、向けられた春の瞳の中に、期待というか、怖いもの欲しさ、物足りなさのような感情を見つけた気がした。
「うーん。右手が捕まっても、私には左手もあるのよー? どの指をいじったら離してくれるかしら?」
「ふひ……うぅぅぅ、んぅ~~~~~~~~っ!!!」
春は、頬を膨らませるが、瞳はキラキラしており、むしろこの状況を楽しんでいるように見える。

「それっ!」
久は左手の人差し指と親指で、春の足の小指をつまんだ。
「んぷふぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~!!!!! くぅぅぅぅぅぅぅうぅっ!!!!!」
春は涙を流し、ぷくっと膨らました頬を真っ赤にして、必死に笑いを堪えている。ぷるぷると、久の指を挟んだ親指が震えている。

「(うわ……。この子、こんな可愛い表情するんだ……。この顔は、反則じゃないかしら?)」

久は、つまんだ春の小指をじらすようにゆっくりと左右運動させた。
「んふふふふふふふっ!!! ふくくくくくくっ!!! んくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!」
「しぶといのね」
何度も何度も、春の小指と薬指の間を開いたり閉じたり、時々、小指を曲げたり反らしたりしてやる。
春は足の小指の動かし方がわからないのか、久のされるがままになっている。

「んひゅひゅひゅひゅっ~~~~~~、くひゅっ!!! うびゅふぅぅぅぅっ!!!!?」
春は口を頑張って閉じすぎたのか、空気が漏れた拍子に、ピュッと鼻水が春の鼻から飛び出した。
「ありゃりゃ。……後で拭いてあげるから」
「ふぁっぷっ!!? ふふふっくぅぅぅぅぅぅぅぅひゅひゅひゅ~~~!!!」
春は、涙と鼻水で顔を濡らしながらも、くしゃくしゃの顔で笑いを堪えている。
「まだ我慢するの? なら、その口、こちらから開かせてあげましょうか? その方がすっきりするでしょう」
「んふぅぅぅぅぅふぅぅっ~~~~!!! ふぷぅぅぅぅぅぅぅ~~~」
春の反応は、拒否なのか快諾なのか、もはやさっぱりわからなかった。

久は、ニコリと笑うと、春の足指から力任せに自身の右手を引き抜き、開かれた春の小指薬指間を右手で思い切りくすぐる。
「わはっ!!!!!? ぶわっぁっはっははっはっははっはっはっはっ~~!!! にぃぃひひひひひひひひっ! にひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~っ!!!」
たがが外れたように、春は体をびたんびたん打ちつけながら笑い暴れた。
「ホント、可愛らしい声で笑うのね」
「ひひひひひひひ!! にひひひひひ、くるひっ!!! くるひぃぃぃぃっひっひっひっひっひっひ~~~~!!!!」

「えっと……。なァ、清澄はん? もう5分過ぎてんのちゃうの?」
「え」
突然の声に、ハッと久が背後を振り返ると、呆れた表情の洋榎と胡桃が並んで立っていた。

「あ、ありゃ? ……お二人とも、もめごとは、解決したのかしら?」
「とっくになー」
「あんなの、もめごとっていう程のことでもないよっ」
しれっと答える二人。
「(こっちが声かけたときはてんで無視だったくせに!) ……えっと、いつ頃から、ご覧に?」
「足脱がしたあたりか?」
「10分ぐらい前かなっ」
「めっちゃ楽しんどんなーゆーて、なぁ」
「邪魔したら悪いとは思ったんだけどねっ」
「止めな終わらへんのちゃうかー、ゆーて」

「(う~ん……ちょっと、これは恥ずかしかったかなー。というか、やりすぎたかもなー、時間的に。最後滝見さん、苦しいって言ってたし)」

久は乾いた笑いをしながら向き直り、ポケットティッシュで春の顔を拭いてやる。
「えっと、滝見さん……、その、ちょっとやりすぎ――」
春は、久が謝罪しようとしていることを察したのか、フルフルと首を思い切り左右に振った。
「……感謝」
春は、正面の久に向けて、ニコっと微笑んだ。
激しい運動の後のせいか顔がすっかり火照っていた。頬がトマトのように赤い。

「(う~ん。……やっぱりこの子、マゾなのかしら? ……それとも、私、……なんだかちょっと、もしかして、……なにかしら責任取らないといけない?)」

久の心に一抹の不安を残しつつ、いよいよ洋榎の親番が始まる。


「ほな、やろか?」
数分の休憩後、洋榎が手首を鳴らしながら春の元へ向う。
「準備いい? いくよっ。よーい――」
「あーっ、ちょい待ちちょい待ち!」
洋榎は、ストップウォッチを構えた胡桃を制止させた。

「永水の……、ハルルーやったな。袴、しんどいやろ? 紐緩めてええか?」
春は、ぽかんとした。
「……別に必要ない」
「5分やろ? 多分1分以内にきつなってくんで? まー、ウチに任しときーや!」
言うと、洋榎は頭にハテナを浮かべる春にまたがって、春の胸の下で結ばれた緋色のちょう結びを解く。
帯を後ろに返し、春の背中を抱きかかえるようにして、手探りで背中のちょう結びも解くと、袴は形こそ保っているものの、いつでも外せる緩々の状態になった。
「ちょいこそばいでー?」
「……? ふひゃっんぅ!!!?」
洋榎は、春の胸の下に巻きついただけの帯と白衣の間に両手を差し込み、ぐいぐいと隙間を広げていった。
「……んっ、んぅふふっ! くぅぅ~~ん」
「こんだけで笑たらあかんがな」
洋榎は、言いながら、白衣を支えていた腰紐を解いて抜き取った。
さらに洋榎は、春の白衣の襟から手を差し入れ、襦袢を支えた腰紐も外す。
「これで紐は、全部かいな?」
「……一応」
春は顔を赤らめた。紐を失ったことで、春の体は、下着の上に布を巻きつけただけの状態に、ほぼ等しい。

「ほな、一発やったるでー!!! おっしゃいくでーーーー!!!」
「(うるさいっ……けど、この五分ぐらいは我慢してあげようかなっ)」
胡桃がストップウォッチを構えると、洋榎は両手を春に向けて突き出した攻撃準備態勢のまま、チラッ、チラッ、と何度も胡桃の顔を確認した。
「(うんっ! 限りなくウザいねっ!) ……はじめるよー。よーい、スタートっ!」

胡桃の合図と同時に、洋榎は両手を春の帯の内側に差込み、春の脇腹をぐにぐにとくすぐった。
「わっ!!? ふわわっ!!? ひゃはっ!! ひゃはははははっ!!! ふふぁははははははははははははは~~っ!!!?」

「あら、いきなり……」
久が、ほぉと感嘆の声を上げる。

洋榎は春のおなか周りから、脇腹をぐるぐる人差し指で強弱緩急をつけながら、かき回す。
「あひゃっ!!!? ひひゃぁっ!!! にんひひっひひひひひひひひひひっ~~~!!! ひひひひっ!! うひゃぁひゃひゃひゃっ!」
「なんや、腹回り汗吸っとんやないか」
「あはっ!!! ひゃはっ!! ひふぁぁっ!!!! はははっ! はははっ!!」
髪の毛を振り乱し、体をくねらせて笑い悶える春。
がくがくと体をめちゃくちゃに揺するため、どんどん服がはだけてくる。

「どや!! これが、元こちょばし部エースの手さばきや! 初心者と一緒にしてもろたら困る」
「ひひひひひひっ!!! うひゃぁぁっはっはっはっはっはっはっは~~~~!!!!」
「格が違うわ」

「(すごい自信ね……)」
「(バカみたい!) ……1分経過」

「はっ!!? はっや! その時計おかしーやんっ!!」
「……」
胡桃は無言でストップウォッチの液晶画面をチラリと見、なんの反応も示さずに洋榎に顔を向けた。
「(……ん? うるさいて、きーひんのか?)」
洋榎は口を三角にした。

「ま……まぁ、元こちょばし部っちゅーんは、嘘なんやけどな」
ひたすら大笑いする春をくすぐりつづけながら、洋榎がチラリと胡桃を見ると、また何の反応もしてくれなかった。


「(……。……。さみしーやんっ!!!!)」

洋榎は腹いせに、両手をもぞもぞと春の体の上を這わせていき、乳房の横から背中に向ってごりごり探るように肩甲骨と肋骨の間辺りをくすぐった。
「おはぁぁっ!!! おひゃぁぁっ!!!? いひひひひひひひひひひっ!! ぐふっっ!! うふふふふ」
「骨ごりごりするん、効くやろ~?」
「あはははっ!! はははっ、うくくふふふふふふふっ~~~~!!!」

「(ウチの指でよぉ笑てくれるんはええねんけど……)」

洋榎は親指で春の側胸の肋骨をしごく。
「いひひひひひひひっ!!! きひひひひひひひひひっ~~~。にぃぃぃっひっひっひっひっひっひっひー!!!」

「(あんまコミュニケーションとれんと、つまらんなぁ。……宮守もダマなってもーたし)」

洋榎は手を止める。
「ぁっ……けほっ……けほっ……ひぃ………」
ぜぇぜぇと深呼吸する春。
襟が肌蹴て、和装下着が見えている。
「ハルル? へーきか?」
春は涙目でこくりと頷く。
「ほな質問や。清澄とウチ、今んとこ、どっちの勝ちや」
「え……」
春は、戸惑いながら、チラチラと部屋の隅に立っている久を見た。

「(えっ、私!?)」

「ええわ。わかった」
洋榎はふぅっと深めに息を吐く。
「清澄はん、やったなぁっ! 今んとこ黒糖に一番近い女やで!」
「(私ってそんな甘っちょろい女に思われてるのかしら……)」
久は複雑な気持ちを、乾いた笑いで誤魔化した。

「……さて。技術はウチの方が圧倒的に上や。やのになんで、こんなことになるんか」
「(この人、語りだしたよっ!)」
胡桃はストップウォッチを見ながら、つっこみたい衝動に堪えていた。

「ハルルー。清澄んこと、好きやろ?」
「!?」
「はぃっ!?」
春と久が同時に反応した。
「いやいや、変な意味やのーて。普通に、好きやん。ウチも好きやし……って、なんでそない動揺しとんねん!! って、清澄もかいっ!!」

胡桃はぽかんとして、
「(きもちわるい……!!)」

「まー、なんやかんやゆーて、こそばいーて感じるんは、互いの信頼ちゅーもんがめっちゃ影響すんねん!」
「(……一体何の講義かしら?)」
「3分経過ー…… (って聞いてないか)」

「せやからウチはな――」
洋榎は春に顔をぐいっと近づけた。
「――技術で、その信頼を超えたるわ! ハルルーよ! 絶対に、ウチの勝ちやぁ言わしたるでぇっ!!!!」
「(なんか一人で盛り上がってるよっ!?)」

「宮守はーん? 時間あとどんくらい?」
「……2分切って、残り約1分半」
「おっしゃ、そんだけあれば……って、そんだけかっ!!? なんでもっとはよ教えてくれへんねん!!!」
洋榎が胡桃に向って、ガーっとライオンの像のような形相で怒鳴る。
「(やっぱ聞いてないしっ! うん我慢無理っ!) もう、だから喋りすぎっ! その時間が無駄って気付かないかなー!?」
「時間気にして喋れるほど器用やないわっ!! 教師かっ!」
「だからっ、その時間っ! 文句言う時間で手を動かしなよっ! はい、そうしてる間に1分半切ったよっ!」
「なんでやねん!!!」
「時は刻まれるものなのっ!!!」
「哲学か!!!」
「常識だよっ!!!」

「(ホント、この二人、仲良いわね)」
久が呆れ笑いをしながら春の顔を見ると、気持ちが通じたのか、春も久に向けて微笑み返した。


「さぁオーラスや! ハルル、覚悟しぃや」
春に馬乗りになった洋榎は、わきわきと両手の指を動かす。
「そういうのやってるから――」
「っかぁしぃな! わかってんねん!!」

洋榎は胡桃を黙らせると、春の白衣、襦袢の襟を両手でまとめて持ち、ガバッと開ける。
「……んぅ」
春は恥ずかしそうに顔を赤くする。
洋榎は和装下着越しにも大きいことがわかる春の乳房の下の部分、ちょうど肌の露出した鳩尾の部分に人差し指を置き、肋骨を下に向けてなぞっていく。
「ふひょっ!!!? ひゃはっ!! ふひゃっ!!! あぁっあっああっ!!! はぎゃっ!!! うひぃっ!!!」
春は目をぎゅっと閉じぶんぶん顔を振って、断続的な笑い声を上げる。

「どや? きっついやろ? ここは肋軟骨ゆーてな、やっわーい肋骨や」
言いながら指でいじいじと春の素肌を撫でる洋榎。
「きひひっ!!! うひっ!!? あひゃぁん!!! ひぎぃぃっ!!! ぶひゃっ!!? なひぃぃんっ!?」
「素人には真似できひんで? 敏感な部分や。ちょっとでも力加減間違ーたら痛いだけになってまう」
「ははっ!!? あははっ!!! ひぎぃぃっ!!! ひひっ!!! あひゃぁぁぁっ!!」
「こぅな、下まで行ったらな、こうやって、腹の中からひっかきだすようにして」
「あひゃはぁっ!!!? はっはっはっはっはっはっはっはっ!!! にょほっ!!? ぎひっ!!! ひひひひっ!!!」
洋榎は指先を器用に使い、くるくると春の内臓を焦らす。
「ぐひっ!!! ひ~はっはっはっはっはっはっ!! あひんっ!? ひひんっ!! うひゃぁぁっ!!」
春はたまらず、口から涎を吹き出す。

「ほんで、お待ちかねの脇腹やっ!」
言うと、洋榎は春の袴の前部分を上からベロンとめくる。
わしゃわしゃと十本の指で、春の脇腹をくすぐる。
「ひゃははははっはっ!!! にぁぁぁーっはっはっはっはっはっはっはっ!!! ひゃぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!!! ひひひひひっ!!! にひっ!!? いひっ! いきがぁぁっはっははっはははは~~~!!!」
「せやなー。腹は大事な内臓やら神経の宝庫や! そんな上でうねうね異物が蠢いとったら、そりゃ笑いたなるわなー!」
「いひひひひっ!!! ひひひひひひっ、ひゃ……っ!!! いきっ!! ひひひひひ、いひぃぃぃぃぃぃ~~~!!!」
拘束されているにもかかわらず、春は飛び跳ねるように体をよじって笑う。
「揉んでほぐしたり、指で突いたりするんもええが、肌の表面の神経を直にこそこそ刺激するんも一興やろ!」
「あひひひひひっ!!! おねっ!! ほねぇぇっ! あひゃっ、ひぃぃっひっひっひっひっ~~」

「終了ー」

「はっ!? まだやろっ!! ってか1分前宣言してへんやろっ!!!」
洋榎が、手を止めずに胡桃につっかかる。
「また聞いてないしっ! ちゃんとしたよっ! ……ちょ、もう終りだって!」
「ワンチャンっ!!! ワンチャンまけてやっ!!!」
「何言ってるのっ」

「ひひひひひひひひっ!!! とめっ!!! きひひひひひひひいひ~~~」
洋榎が一向に指の速度を緩めないため、春はまともに喋ることもできずにただ笑わされ続ける。

「後5分でええんや! 一本場! 一本場! ロスタイム! ロスタイム!」
「倍じゃんっ!」
「ほな、最後腰っ! 腰だけやったら満足するわ! もうやーやー言わんっ! 頼むわー!」
「……」
胡桃は春の顔を見た。
春は目から涙を流し、顔を真っ赤にして笑い悶えている。開きっぱなし口からは涎がだらだら流れ出、鼻水まで噴出し始めていた。

「(ハルちゃん、かわいい……) もう、好きにすればっ!?」
「えっと……一応、滝見さんに確認してからの方がいいんじゃない?」
「10分以上ぶっ通した奴が何言うとんねん!」
「うぐっ」

「ハルルー? ええやんなぁ? 腰だけっ!!! 腰だけやらしてーな!! な?」
「ひひひひひひひひっ!!! はがっ!! あがっひぃっ!!? いっひっひっひっひっひっひ~~~っ!!」
春は返事をしたいようだが、完全に洋榎のくすぐり攻撃に翻弄されている。

「……流石に滝見さん、その状態じゃ喋れないんじゃないかしら?」
「おぉっ! せやな。賢いやん、清澄」
「(……激しく馬鹿にされた気がするわね)」

「……ヘェ、ヘェ……ハァ、……ケホっ……。こ、腰だけ、なら……」

春の許可が下り、洋榎の正真正銘最後の親番が始まる。


「いやぁ~、やっぱ時間制限ないってええなぁ~」
「いひひひひひっ、ひひひひひひっ!!! あぁぁ~っはっはっはっはっはっは~~~」
洋榎は、春のおなかをくすぐりながらしみじみと言う。
「そこ腰じゃないよっ!」
「わーってるわーってる! ただの余興やん」
洋榎は胡桃を軽くあしらうと、指を春の腰骨に乗せる。
「ひぅぅんっ……こ、腰だけって……」
春は涙目で訴える。

「すまんな。……手ぇ滑ってん」
けろっと言うと、洋榎は、指を春の腰骨にそって這わせた。
「ひゃはんっ!!!? ひぅうっ!!! ひひひひっ!!! くひゃぁぁっ」

「知っとるか? この出っ張っとる部分をな、腸骨ゆーんや」
洋榎は言いながら、春の骨の出っ張りをちょいちょいと弾くようにくすぐる。
「きゃははははははっ!!! ひゃははははっ!!! ふひゃひゃひゃひゃっ!!? いぃぃひぃぃっ!! ひぃぃぃんっ」
「腸を上乗っけて支えとんねんなー、えらいやろ?」

親指を、上から骨をえぐりだすような動きに変えると、春は上半身をねじりながら暴れた。
「ふひゃはっはっはっはっはっはっ!!! くるひっ!!! うひひひひひひひひひひいひひっひひひいいひぃぃぃ」
春の四肢が苦しそうにビクビク動く。
「ほひょっ!!! ほんとにぃぃひひひひひひひひひひひひっ!!! くる……っ!! ひひっ! うひひひひひひひひひひ~~」

「どや? ぼちぼち勝敗は決したんちゃうか?」
洋榎が春の腰周りを揉み解しながら言う。
「いひひひひひっ!!!! ひひひひひひっ!!! あっぁっはっはっはっはっはっはっ!!!」
ぶんぶんと左右に首を振る春。
「ほんまかぁ~? 腹ん中身はそう思てへんのちゃうか~? うりうり」

洋榎は両手を春の尻の方へ滑らせる。
「ひゃはっ!!! ははははははっ!!! むひっ!! むひぃぃぃっひっひっひっひっひっひ」
「こそばいやろ~~? ケツん中心向いてほじるんがコツやねん!」
「うははははははっ~~~!!! もふっ!!! もぉっ!!! やっーっはっはっはっはっはっはーー!!」

目を見開いて、笑い狂う春。
焦点が合わなくなってきたところで、洋榎は手を止めた。
「ひひひひっ!! ひひっ!? ……げっほっ……けほっ、……けほっ」

「しまいにしよか。おおきにっ!」

歯切れ良く言うと、洋榎はベッドから飛び降りた。
「結局清澄に勝てへんかったな~。ま、正攻法だけやないっちゅーこっちゃ! ハルルお疲れやったな!」
「ハルちゃんお疲れっ!」
「滝見さん、大丈夫?」
久が春の元へいくと、春は少し咳き込んでから、こくこくと頷き微笑む。

ぴ~ひょろひょろ~♪

「あ、なんか来たよっ!」
胡桃がホテルのファックスから紙を抜き取る。

「んっ。永水から。『皆さんルール違反しすぎですよー。時間オーバーは失格。笑わせてないのも採点外ですよー』」
「ほれ見てみぃ、くしゃみ採点外やん」
「うるさい、失格っ!」
「あら? どこかでモニターでもしてたのかしら? 滝見さん、どうなの?」
「……? 何も、聞いてない」

胡桃が続ける。
「続き読むよっ。『――というわけで、全員チョンボ! 今姫様がお仕置きのためにそっちへ向っているので、皆さんきっちり罰を受けてくださいですー。ルール違反を誘発したはるるは言語道断ですよー』 って、え?」

「なんて?」
「はぃっ?」
「……え」

室内の四人が唖然としていると、部屋の来客ベルが鳴った。

『九面の誰が来るかはお楽しみ。姫様の親番、まもなく始まりますよー』


(完)

美咲流くすぐり拷問

(文化祭当日13時14分)

「林さくら(はやしさくら)。15歳。1年A組在籍。所属部活動、無し。4月時点での身長は153.9cm。体重が4――」
「や、やめ、やめて」

 林さくらはオドオドとどもりながら制止を求めた。
 T高校第一共用棟ジャーナル部の取調室にて、さくらは制服の上着を脱がされたワイシャツ姿で椅子に縛り付けられていた。両手首を左右の肘掛に、両足首を椅子の左右の前脚に、腰から太腿にかけてを座の部分に、しっかりとロープで拘束されている。ローファーは脱がされているため、白い靴下を履いた両足が宙ぶらりんになっている。
 部屋の中央に椅子、椅子と向かい合う壁側に長机が置かれており、2人の女子生徒が面接官のようにさくらと対峙していた。

「よ、吉田さん。勝手に、個人情報を生徒会と全然関係ない人に漏らすのは、規則違反だよ……」
 さくらは、左右非対称でボサボサの前髪の間からわずかに覗く左目で、長机の1人をおそるおそる睨んだ。

「林さん。これは情報開示じゃないから、規則違反にはならないの。私は自分の記憶にある林さんの情報を、『データベースに関係なく』ただ喋っているだけ」
 綺麗なアニメ声で淡々と返すのは、ジャーナル部データ管理責任者の吉田心愛(よしだここな)。ウェーブがかったワカメボブの頭頂部からアホ毛がぴょこんと飛び出している。
「残念だけど、ヨッシーに屁理屈で勝つのは無理だよ。生徒会則に一応目を通してるのは好感が持てるけどね」
 心愛の隣に座るジャーナル部員の清水希(しみずのぞみ)は、鼻でさくらをフォローした。
「希? いつも言っているけど、私のは屁理屈じゃなくて、ただ規則に準じた発言を――」
 心愛が少しムッとしたように言いかけると、
「お2人とも。尋問対象の言葉にいちいち耳を傾けないでください。時間の無駄です」
 長机と反対側の壁にもたれかかって腕を組んで立っていた山本美咲(やまもとみさき)が、じろりと流し目で心愛と希を交互に睨みつけた。文化祭当日で魔女を模した真っ黒なローブを身につけているせいで、普段以上に厳格な雰囲気を醸し出している。

 希はごくりと唾を飲んだ。
「す、すみませんっ」
「吉田さん。早く続けてください」
 希の謝罪に被せるように、美咲はやや苛立った声を上げた。
「失礼しました、山本先輩。続けます」
 心愛は特に動じた様子も無く淡々と述べ、さくらの頭越しに美咲へ軽く目線を送ると、『尋問対象』の説明を再開した。

「――対人関係において、目だったトラブルはありません。クラス担任は『妥協癖があるが、やり通す力は充分にある。友人を大切にできる生徒』と評価しているようです」
 心愛は空でスラスラと説明を終えた後で、
「今申し上げた情報は私の『曖昧な』記憶と印象によるもので、あくまで個人の見解にとどまるものです。ジャーナル部のデータベースとの関連は一切ありません」

 心愛がふうと息をつくと、目を瞑って聞いていた美咲はゆっくりと顔を上げた。
「……吉田さんありがとうございました。ある程度の人間性は把握しました。では」
 美咲は歩を進め、椅子に縛られたさくらと正対した。
「尋問を始めます」

◆◆◆

「林さくらさん。私は2年K組の山本美咲といいます。これからいくつか質問しますので、私の顔をしっかりと見て、簡潔に答えてください」
「……は、はい」
 さくらは怯えたように声を絞った。

「第一問。あなたは何をもって、第四共用棟二階のお化け屋敷が『不正かもしれない』と思ったのですか?」
 さくらはうつむく。
「答えてください」
 美咲はぐいっとさくらの顔を覗き込んだ。
「私は、あなたが本日11時32分に、お化け屋敷を訪れたことを、あちらで清水さんが持っている入場者名簿を見て知っています。その後、ランチ時間を利用してジャーナル部の記者である清水希さんに『不正かもしれない』と告発したことも知っています。時間稼ぎは無意味です」
 美咲が語気を強めると、さくらは目を泳がせながらゆっくりと口を開いた。
「ほ、他の階の、教室を回ったときと比べて……その、なんていうか、感覚が、狭いなって」
「って?」
 さくらはビクビクと身体を震わせ、目をしばたたきながら言葉を繋ぐ。
「……感じました。そ、それで、変だなって思っていたら、……入場するとき書いた名簿欄の4つ前の人に、追いついちゃって。一部屋だけ、防音が他の部屋よりしっかりしてるのに、装飾だけの部屋があって……。もしかしたらと、思い、ました」

 美咲はさくらの目を見て頷いた。
「林さん。なかなかの洞察力ですね。……そんなに怯えないでください。正直に答えていただければ、私は何もしません。怯えながら言うと、本当のことも嘘に聞こえますよ? この尋問に裁判のような公平性は一切ありません。私があなたの証言を嘘と判断した時点で、拷問に移らせていただきますので、あらかじめご理解ください」
 美咲は一瞬表情を和らげてさくらに微笑むと、すぐに表情を引き締めた。

「第二問。あなたの命運を左右する重要な質問ですので、慎重に答えてください。あなたは、清水さん以外の誰かに、このことを喋りましたか?」
 美咲はじっとさくらの目を見た。
「……っ」
 さくらは一瞬目を細め、質問の意味がわからないというような表情を作った。
 美咲は落胆したようにため息をついた。
「はい、いいえ、どちらですか?」

「……い、いいぇ――」
「肯定と見なします。第三問。あなたが情報を漏らした相手の人数は、何人ですか?」
 美咲は、急かすようにさくらの顔をにらみつけた。
「……え、い、言ってませ――」
「1人?」
「……っ」 
 さくらはぐっと息を詰まらせ、一瞬の間を作ってしまった。
「2人以上ですね、わかりました」
「……っ!? ち、ちがっ――」
「第四問。林さんが苦痛を免れる最後のチャンスです。あなたが情報を漏らした相手をすべて、フルネームで言ってください。学年組も一緒にお願いします。3秒間待ちます」
 美咲は言い終えると、さくらの後ろに回り、さくらの両肩に手を置いた。

 さくらはビクッと肩を震わせた。
「……ま、待って、待ってください。私、しみ、清水さん以外には誰にも――」
「3秒経ちました。拷問に移ります」

●●●

 美咲は、椅子に縛られたさくらの後ろで、中腰になった。
「これから林さんに1分間の苦痛を与えます。1分後、同じ質問をしますので、きちんと返事を考えておいてください」

「ちょ、ちょっと待っ――」
 美咲は、まだ何かを言おうとするさくらを無視して、両手の指を左右から、さくらのがら空きの脇腹へグッと突き刺し、ぐにぐにと激しく揉み始めた。

「――んナッ!!? んぁはははははははははっ!? なぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

 さくらはビクンと大きく身体をくねらせると、目をぎゅっと閉じて激しく笑い始めた。

 美咲は親指でさくらの背側の肋骨を刺激しつつ、残り8本の指でお腹回り、横っ腹をむしる様にくすぐる。
「んゃぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! なぁ~~っはっは、やめっ……ひふっ!! ぁっはっはっはっはっはっはっは~~」

 さくらの両手の指がわきわきともがく。
 目に涙を浮かべて笑うさくらの姿を見て、希は「へぇ……」と感嘆の声を漏らした。

「なぁぁっはっはっは、やめてっ!! やめてくださいぃ~~っひっひっひ」
 笑い続けるさくらの後ろで、美咲は黙々と指を動かし続けた。
 さくらは笑いながら制止を求めるが、美咲はまったく聞こえないかのように無言であった。

 さくらの肋骨を規則正しくしごき続けた美咲は、ちょうど1分経ってピタリと手を止めた。
「ぶは……っ、ヒィ、……ハァ」
 さくらはジュルリと鼻水を鳴らして、泣き腫らした目を瞬いた。たった1分でもかなり体力を削られたらしく、肩で息をしていた。

 美咲はさくらの後ろから再び問うた。
「林さん。あなたが情報を漏らした相手をすべて、フルネームで言ってください」 
「……ヒィ、……ちょ、ちょっと、や、休ませて――」
「3秒経ちました。拷問を再開します」

 美咲は言うと、いきなりさくらの腋の下へ両手の親指を押し込み、指先でグリグリとえぐるようくすぐり始めた。

「んはっ!!!? んぁ~~ははっはははっはははははっ!!! ちょっと、ぁぁっはっはっはっはっはっは、待ってェェぇぇえははははははははっ!!!」

「続いて2分間、林さんに苦痛を与えます。2分後に同じ質問をしますので、きちんと返事を用意しておいてください」
 美咲は、親指をさくらの腋の下の骨に押し当てたまま、他8本の指をバラバラに動かし、さくらの乳房の脇をくすぐる。

「んぃひぃぃ~~っひっひっひっひ、はがあっぁっ!!! さ、ひひひひひひひ、さっきよりきついぃぃ~~っはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

「林さん。その通りです。k巡目の体感くすぐったさは ak という値で単純化されます。aは拷問用に私自身の擽力から算出した定数。k巡目にk分間くすぐり続けますので、各巡目における林さんの苦痛は ak^2 で表せます。すなわち、n巡目までに蓄積する林さんの苦痛は ak^2 の総和 an(n+1)(2n+1)/6 になります」
 美咲はつらつらと言いながら、8本の指でさくらの肋骨を横から選り分けるようにくすぐる。
 長机では、希が「さすがっ」と目を輝かせるのと対照的に、心愛は「また語りだしたよ……」とでも言いたげに呆れた表情を作った。

「んやぁぁっはっはっはっはっははっ!! いぃぃ息がぁぁっはっはっはっは、息が、できないぃぃぃ~~~っひっひっひっひっひっ!!!」
 
 さくらは首を左右にぶんぶんと激しく振って笑う。両足両足の指はぴんと反り返り、身体中が攣ったように痙攣している。

「身体が限界のようでしたら、次の休憩時にきちんと私の質問に答えることをお薦めします。苦痛は、巡目値の2乗に比例して大きくなります。わかりますね? 林さんが黙れば黙るほど、林さんの身体はつらくなります。林さんが白状するまで、永遠と続きますので、決断の機会を逃さないよう気をつけてください。残り1分で再質問します」

 美咲は、両手を上下に動かし、さくらの体側を指で舐るようにくすぐっていく。さくらは美咲の指の動きに合わせ、左右に身を捩って笑う。
 数十秒で、さくらは根を上げた。
「んぁなぁっはっはっはっはっはっ!!! なぁぁぁ~~ふぁぁあっぁっ!!! わかっ……ひっひっひっひ、わかりましたっ!! 言いますっ!! っはっはっはっは、言いますからっ! 一旦やめてっ、んぁぁっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

「ダメです。残り30秒あります」
 美咲はまったく指の動きを緩めない。
「そひひひひひっ、そんなっ!!? んぁぁっはっはっはっはっは~~っ!! ぃひひひひ、かぁはっはっは、もぅ、息がぁぁっはっはっはっ……」

「繰り返します。決断の機会は逃さないように気をつけてください」

◆◆◆

 ぴったり2分経って、美咲は手を止めた。
「さて、林さん。あなたが情報を漏らした相手を全員、フルネームで教えてください」
 美咲は再度、後ろからさくらの顔を覗きこむようにして言った。
 さくらは、大きく息を吐いた。
「3、2、――」
「い、い、言いますっ! 言います。……ごめん。マオ、ナナミ。し、清水さん以外には、え、A組の、石井真央(いしいまお)と西村菜々美(にしむらななみ)……です」
 さくらはボロボロと涙を流しながらうつむいた。友人を売ってしまった自分が許せないのだろう。

「以上2名で、すべてですか?」
 美咲は、さくらの正面に移動し、表情を確認する。
「すべてです」
 さくらはうつむいたまま言いながら涙を流した。

「吉田さん。その2人と林さんはどういう関係ですか?」
 美咲はさくらの顔を見つめたまま、心愛に聞いた。
「はい。親友同士と判断して問題ないと思われます。普段から仲が良く、3人で行動することが多いようです」
「ありがとうございます。とりあえず……A組ということは、さっそく後藤姉が使えますね。清水さん。彼女と協力して、2人を至急捕獲してください。手段は問いません」
「わ、わかりましたっ」
 希は勢いよく席を立つと、足早に退出した。

「さて、林さん。第五問です」
「…………え?」
 さくらは、びっくりしたように顔を上げた。予想外すぎて涙も止まってしまったようだ。

「あなたは何故、お化け屋敷に彼女ら2人と一緒に訪れなかったんですか?」

 さくらはポカンとした。

「入場者名簿によると、林さんの名前の前後入場者は、林さんと無関係の人間です。つまり、あなたは1人でお化け屋敷を訪れたことになっています。何故ですか?」
「……そ、それは」
 さくらの目がフラフラと泳いだ。
「……林さん。あなた、まだ誰か庇っていますね?」
 美咲がずいっと顔をさくらの目の前に近づけると、さくらは目を逸らしてしまった。
「肯定とみなします。第六問。それは誰ですか?」
「……っ」
 さくらはぐっと息を詰まらせた。

「さきほどの責めを受けてもなお黙るということは、よほど大切なお友達ですか。石井さんと西村さんの名前を出せば、誤魔化し切れると踏んでいたんでしょうが、甘かったようですね。いいですか? あなたが黙っていると、あなたに関わりのある生徒すべてに迷惑がかかることになりますよ? あなたと同中の生徒から、あなたが体育大会の種目で一緒に走った生徒まで、こちらではすべて把握しています」
「……ジ、ジャーナル部の、デ、データ、ベースで、ですか?」
 さくらは、ゆっくりと口を開き、おそるおそる聞いた。
 美咲は、眉をひそめ、さくらの顔を凝視する。一瞬さくらの口元がピクリと緩むのを、美咲は見逃さなかった。

「なるほど、他校の生徒さんでしたか」
「……っ!!!!!?」
 美咲の言葉に、さくらは目を見開いた。すぐに「しまった」という顔になるが、時すでに遅し。美咲はさくらの表情を見て、してやったりという顔を作った。

「あなたは今、『こちらではすべて把握しています』に対して『データベースでですか?』という確認を行い、しかも一瞬安堵の表情を見せました。『こちらで把握しているすべて』が『データベースの範囲に限られること』を確認したがっているということは、あなたの庇っている人物が『データベースの範疇外』にある可能性を示しています。他校の生徒さんは入場者名簿に名前を書きませんから、私のあなたに対する疑問はすべて解消されるわけです。あなたは午前中その方と文化祭を回り、午後から石井さん西村さんと合流したのですね」

 さくらは美咲の言葉を聞きながら、わなわなと唇を震わせた。
 美咲はさくらに近づき、ワイシャツのボタンに手をかけた。

「もしかしたら、最初にお化け屋敷の違和感に気付いたのも、その他校の生徒さんだったんじゃないんですか? 最初の質問時のあなたの挙動は、怯え以上に、真相を口走りそうになった焦りによるものだったのですね」
 言いながら美咲は、さくらのワイシャツのボタンを全て外し、バッと観音開きにした。さくらの桃色のブラジャーが露になる。太っているわけではないが、腹から腰にかけての肉付きはやや寸胴である。
「……っ!」
 さくらは顔を真っ赤にし、耐え忍ぶような表情をした。

「林さんのこれまでの態度から察するに、その生徒さんはすでにこの学校内にはいないのでしょう。すなわち、林さんご自身の口から名前と学校名を聞き出すしか本人を探す方法が無くなったわけです」
 美咲は息継ぎ無しに述べながら、腕まくりをした。

「では林さん。その方の名前と学校名、ついでに住所を、教えていただけますか? ……あ、覚悟を決めて、もう口を開く気すら起こりませんか。そうですか。では、身体の限界が来るまで頑張ってください」

 美咲は一方的に言うと、もはや一切目を合わせようとしないさくらの身体に、両手を伸ばした。

●●●

 椅子に両手両足を縛られ動けないさくらは、正面から迫り来る美咲の指の動きに「ひぃ」と軽く悲鳴をあげ、ぎゅっと目を閉じた。
 美咲は、右手の人差し指で、さくらのおへそをちょんとつついた。

「んひゃぁぁ……っ!!!」

 びくんと身体を震わせるさくら。
 美咲は指先をちょろちょろと動かし、さくらのへそを断続的に刺激した。

「ひゃっ……んひゃぁ!! んっ……! んひっ、ひぃ、ひひっ、ひひひひっ、くぅぅ~~、やめ、やめてくださいっ」

「林さんには選択権があります。庇っている人物の名前を吐くか、笑い死にするか。お好きな方をお選びください」
 美咲は、くるくると人差し指の先で、さくらのへそ周りをいじる。
「ひぃぃ、ひひひ~~、んぃぃっひっひっひっ!! んぅぅうぅひひひひひひひひっ」
 さくらのお腹がひくひくと動く。

「3分後に再度お尋ねしますので、きちんと、返事する準備をしておいてください」
 美咲は言うとさくらの前にひざまずくような姿勢で、両手の指をさくらの素肌のお腹へ当て、こそこそとくすぐり始める。

「んぁぁぁっははっはっははっははっ!! んひゃぁぁぁぁぁ~~~ははっははっははははっ!!! やぁぁ~~っはっはは、だ、ダメぇぇっはっはっはっはっ」

 さくらの横腹からおへそまでの区間を美咲の10本の指が、うねうねと這う。

「ぁぁぁ~~っはっはっはは、んひぃぃひっひっひひっ!! なぁぁ~~っはっはっは、はははははははははっ!!」

 さくらは大笑いしながらガタガタと椅子を揺らして暴れ、手首足首のロープがギシギシと音を鳴らした。
 美咲の指が、さくらの横っ腹の背側部分、肋骨のちょうど下あたりに食い込むと、さくらは一段と大きな反応を示した。

「んひゃぁぁぁっっひゃっひゃっひゃひゃっ!!! あぁぁ~~ひひひひひひひ、そこはダメぇぇ~~っ!!」
 さくらの身体が左右に反る。
「ココが弱いんですか」
 美咲はさらに指先の力加減を調整し、クリクリとほじくるように、さくらの素肌を刺激した。
「んにぇぇぇぇっぇひひひひひひひひひひっ!!? んぁぁぁあぁぁぁひゃひゃひゃひゃっ!!」

 もともとボサボサの髪の毛をさらにボサボサに崩して、涙を撒き散らして笑うさくら。
 美咲はさくらのぐしゃぐしゃに歪んだ顔を下から覗き上げながら、
「なるほど。林さんは、この部分に対して『弱点』という意識があるようですね。……把握しました。他の部位も、このぐらい反応できるよう開発しますので、頑張ってください」
 美咲は冷淡に言うと、両手の指をすぐ上、さくらの乳房の真横に押し当て蠢かせた。
「んひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ダメぇぇっ、ぬぁぁぁひっひっひっひっひっひっひっひっひ~~っ!」

「かなり感度が上がっています。全身が『弱点』と化さないうちに、ギブアップすることをお薦めします」

●●●

 さくらの上半身を散々くすぐりまわした美咲は、ちょうど3分経って指をとめた。
「名前と学校名、住所をおっしゃってください」

「……ヒィ、げほっ、……ぅぐ」
 さくらは咳き込んだ。
 口元からは涎が滴り、鼻水も垂れている。
 身体がすでに限界であることは傍から見ても明らかだったが、さくらは美咲の命令に応じようとはしなかった。
 さくらは美咲の顔を見、ぎゅっと目をつぶると、苦しそうに首を左右に振った。

「この状況でわざわざ抵抗の意志を見せるとは、なかなか度胸がありますね。林さんの覚悟に、敬意を表します。私も誠意を持って、拷問させていただきます」

 美咲は言うと、腰をかがめ、さくらの座った椅子の左右前脚を持った。左右後脚を軸に、椅子をさくらごと、ガクンと後ろに倒す。
「っ、ひゅぁっ!?」
 さくらはバランス感覚を失い驚いたのか甲高い声を上げた。
 椅子の背もたれが床につくと、重力に従いさくらのスカートがひらりと太腿までめくれた。
「……ぁっ、やっ!」
 さくらが咄嗟にもがいたため、余計にスカートがめくれ上がってしまう。

 椅子の前脚にそって突き出されたさくらの両足。美咲はそのつま先を持ち、靴下をぐいっと一気に引っ張った。ぽんと脱がし取ると、さくらのやや赤みを帯びた素足が露になった。
 すべての指の長さが完全に等しい、教科書に載るような見事なスクウェア型だった。靴下越しでも輪郭がややぼってりとした印象だったので、脱がす前から偏平足であることは予想できた。

「4分後に、もう一度同じ質問をします」
 言うと美咲は、さくらの両足の裏をガリガリとひっかくようにくすぐり始めた。

「ッ、うはっ、んひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ぬゃぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

 さくらは膝を左右にがくがくと揺らして笑う。
 必死に足をひっこめようとしているのか、ギチギチとロープの軋む音が激しくなった。

 美咲の指の動きに合わせ、さくらの足はくねった。
「んゃぁぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! やぁぁぁっひゃっひゃ、やめてぇぇ~~っ! ひぃぃぎぃいぃぃ~~」

 さくらは激しく身体を震わせ、涙と唾を辺りに撒き散らしながら笑い続けた。
 2分ほど経つと、さくらの笑い声はかすれてきた。

「んがぁぁ~~ひゃっひゃっひゃっひゃ、……言うっ、んひひひひひひひっ!!! いいまずぅぅぅぅうっひゃっひゃっひゃ、いいまずがらぁぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ、もぅやめてっぇぇぇ~~」

 とうとう耐えられなくなったのか、さくらは目をひん剥いて懇願した。
 
 美咲はガリガリとさくらの土踏まずを掻き鳴らしながら、
「まだ2分弱あります。決断の機会は逃さないように気をつけてください」

「そんなっ、っひゃっひゃっひゃ、がぁぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃぁ!!!」 
 美咲の無慈悲な宣告に、さくらは涙を流して笑い続けた。

●●●

 4巡目が終了し美咲が手を止めると、さくらはぐでっと脱力した。
「ヒィ……ひひひ、……ひひひ、かはっ……ひひぃ」

「さて、林さん。名前と学校名、住所を言ってください」
 美咲は、さくらの頭の前でかがんで、さくらの顔を覗きこんだ。

 さくらの目がゆっくりと美咲へ向く。
「……ひ、ひぃ……、ひひひ。っ。…………」
 さくらは口から笑い声を漏らしながらも、歯を食いしばっていた。
 
「3、2、1、…………」
 美咲は一瞬間を作って、さくらのアバラをくすぐり始めた。

「あぎゃぁぁっ!!!? んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! んぎゃぁぁぁっはっはっははっははははっ!!! んあぁぁっ!! なんでぇぇぇ~~ひゃひゃひゃひゃひゃっ! 言うってぇぇぇぇっぇっ、言うっでいっだのにぃぃぃぃっひっひっひっひっひ~~っ」
 貪るような激しいくすぐりに、さくらは奇声のような笑い声を上げた。

「3秒経ちましたので、5巡目に入ります。私は3度も『決断の機会は逃さないように』と注意を促しました。『返事を用意するように』とも言いました。にもかかわらず、あなたは躊躇しましたね。再々の注意喚起の意図が読み取れませんでしたか? 質問には即答してください。姑息な時間稼ぎは無意味です」

 美咲はじっとりと汗で濡れたさくらの身体をくすぐりながら言った。

「んゃぁぁっひゃっひゃ、ぎゃぁぁぁ~~っひひひひひひひひひひっ!!! もぅダメェっ、ほんどにぃぃぃひひひひひひ! あの時間じゃぁぁぁっひゃっひゃっひゃ、言えないですぅぅっひっひっひひ~~っ!!」

 さくらは舌を出して笑いながら叫んだ。

「何甘いことを言っているのですか? きちんと準備をしていれば、言えるはずです。……いえ、本当は準備の必要なんてないのですよ? 今この瞬間にだって、言いたければ言えば良いじゃないですか」

「がひゃっ!!? んぐっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!! どうゆひぃぃぃ~~っひっひっひ!」
 さくらはビックリしたように美咲を見つめた。

「林さんは2度に渡って、拷問中『喋るからやめてくれ』という趣旨の宣言しましたね。そして2度とも、私の『まだ残り時間がある』という言葉を聞き、黙ってしまいました。わかりますか? もしも心が折れたのならば、その瞬間にすべてを喋って許しを乞うべきなのです。なぜそうしなかったか? あなたの心には依然として『あと少し耐えれば終わる』という余裕があるのですよ。まだあなたの心身は限界に達していないのです。あなたは完全に心が折れていないのに、妥協して、友達を売ろうとしたのです」

 美咲は糾弾するように言い、指の動きを激しくした。

「がひゃっひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! んぇぇぇひぇっひぇっひぇひぇひぇ!!!?」
 さくらの笑い声が裏返った。しばらくして目からはとめどなく涙が溢れ始めた。美咲の言葉がかなり効いたようだ。

「『言いたくない』と『くすぐられたくない』が葛藤しているうちは、まだ心に余裕がある証拠です。『言う』しか選択肢がなくなるまで、存分に笑わせます。今日ぐらい、限界まで頑張ってみましょうか、『妥協癖』のある林さん?」

「んがぁぁぁっはっはっははっはははは!! だぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁ~~っ!!!」

◆◆◆

(文化祭当日18時) 

「持ち上げたり貶めたり、言葉巧みに獲物の心をえぐる、陰湿な責めがまさにっ、美咲さんらしいですねー」

 ジャーナル部の応接室にて、PCで動画を見ながら感想を述べるのは佐々木杏奈(ささきあんな)であった。
 SM嬢のつもりなのかレ○ザーラ○ンHGのつもりなのか、よくわからない皮製のボンディジコスチュームに身を包んでおり、朝から美咲に「お化け屋敷と関係ない」と厳重注意を受けていた。

 室内には心愛と杏奈の2人きり。再生中の動画では、山本美咲を林さくらをくすぐり責めしていた。
 心愛は少々警戒しながら、脚を組んでふんぞり返って座る杏奈に、一切れのメモ用紙を渡した。
「佐々木先輩。こちらが、聞き出していただきたい内容です」

「ほぉ、ボスは達筆ですねー」
 メモを受け取るや、杏奈は言った。
「書いたのは山本先輩です」
「…………。あーあー、よくよく見れば、字のやけに力んだ感じ、美咲さんの無駄に攻撃的な性格がよく表れてますねー。…………。なるほど、実に興味深い内容ですねー」
 目を通した杏奈は、ぽいっと机上にメモを放った。

「で、自分の獲物は?」
「取調室です。すでにセッティングも完了しています」

 動画がちょうど、クライマックスに差し掛かった。
 PCから漏れる林さくらの笑い声は、はち切れんばかりの奇声である。
『んぎゃっぁぁぁっはっはっはっは、くくくくけぇひひぇひぇひぇ、K女ぉぉぉぉっひゃっひゃっひゃ!! K女のぉぉ~~っひっひ、小川未来(おがわみく)ぅぅぅぅひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!! じぬぅぅぅぅげぇひぇひぇひぇ!』

「23分11秒(尋問含)ですかー。常人にしては、よく耐えた方じゃないんですかねー?」
 PCを閉じながら、杏奈は薄ら笑いを浮かべた。
「山本先輩の6巡目を耐え切った人間は、未だにいないそうです」
 心愛が補足すると、杏奈はハッと鼻で笑った。

「まー、自分は自分のやり方で楽しませていただきますよー。他校の生徒で遊べるなんて、興奮が収まりません! ボスの信頼を裏切らないよう、自分も全力で任務あたらせていただきましょーぅ!」

 杏奈は勢いよく立ち上がると、K女学園の1年生で林さくらの幼馴染である、小川未来を拷問するために取調室へと向かった。



選挙管理委員

 T高校では、文化祭の一週間後に生徒会長選挙が実施される。
 会長立候補者は文化祭の出し物にて、自身の指導力と企画力を、有権者に示さなければならない。
 T高校の文化祭は、3年生の最後の思い出作りと同時に、次世代指導者の選別を兼ねているのである。

 今年度、会長立候補者は2名。2年K組の学級委員長、佐藤蓮(さとうれん)と、現生徒会執行部副会長、2年A組の木村花音(きむらかのん)である。
 2年K組はL組と合同でお化け屋敷を、A組は映画上映を、それぞれ文化祭にて催す。
 立候補者のいるクラスの催しには、全校生徒の期待がかかっていた。

◆◆◆

(文化祭当日12時半)


「――委員長。起きてください。委員長」

 身体を揺さぶられて、蓮は目を覚ました。一瞬状況が飲み込めず、目を瞬く。

「委員長。眠気覚ましにコーヒーをどうぞ」
 湯気のたったマグカップを差し出してくるのは、K組の図書委員、山本美咲(やまもとみさき)であった。厳格な性格で、プライドの高い小柄な少女である。
 美咲の姿を見て、蓮はようやく状況を察した。

「もう時間か。美咲。すごく似合っているじゃないか。かわいいよ」

 美咲は魔女を模した格好をしていた。
 ボブカットに揃えた頭には黒いトンガリ帽子が乗っており、真っ黒なローブを小さな身体にまとっている。

「……この格好を『すごく似合っている』と言われても、全然嬉しくありませんよ」
 照れ隠しなのか、美咲は『全然』を強調して言った。

 お化け屋敷の運営室として利用しているL組の教室の一角で、蓮は仮眠を取っていたのだった。
 すでに文化祭開始から3時間である。

「どうだい? 客入りは」
 蓮は伸びをしながら聞いた。
「上々です。委員長自身の目で確かめてください」

 蓮はコーヒーを飲み終えると、美咲の案内で、お化け屋敷の会場へ向かった。
 第四共用棟の2階をフル活用しているため、かなりスケールの大きなお化け屋敷である。

 階段のすぐ傍に机と椅子を並べて作った受付があり、K組学級委員長の斉藤陽菜(さいとうはるな)とL組学級委員長の小林凛(こばやしりん)が並んで構えていた。
 2人とも冬服のブレザー姿で、真面目に着こなしている陽菜と、上着の前を全開にして灰色のセーターをだらしなく見せつけている凛は、見事なほど対照的だった。

「小林さんは、学級委員長としての自覚がないのですか?」
 美咲はすぐにつっかかった。
「うっせーなっ! そ~んな変な格好して喜んでるヤツに言われたくねーよっ」
 腰まで伸びたツインテールをなびかせ、凛はべっと舌を出した。

 2人は会うたびに軽い口げんかをしているようだが、凛が美咲の言葉を聞いてすぐに「服装に対する注意」だと理解する辺り、実は仲が良いのだろうと、蓮は考えていた。
 陽菜もそう考えているのだろう、凛と美咲の様子を見て微笑んでいる。
「佐藤君。おはよう。……佐藤君も、名前、書く?」
 陽菜は言いながら、机上に乗った入場者記入用紙を指した。
 校内生徒が文化祭の催しに入場する場合は、受付でクラスと氏名を記入することになっている。
「書いておこうかな。一人でも欄が埋まっていた方が、繁盛して見えるからね」
 書きながら、蓮は入場者の中に標的がいることを確認した。
「蓮。早く行ってやんなー。最初のヤツなんか、もうかれこれ3時間だから」
 凛は足を組み直しながら、「ヒヒヒ」と軽く笑った。

 お化け屋敷の中は真っ暗で、防音壁で区切られた迷路になっていた。
 適度に楽しみながら、美咲に先導されて迷路を進む。
「こちらです」
 美咲は少しひらけた空間で立ち止まると、木々の装飾品を寄せて隠し扉を出した。扉を開けて、蓮を導く。
 蓮が中に入ると小さな部屋で、奥にはさらに扉があった。
「あ、ちょっと待っていてください。こちらの扉を完全に閉めてからでないと、声が漏れますので」
 美咲は言うと、入ってきた扉を両手で丁寧に閉めた。
「では、どうぞ」

●●●


 奥の扉を開けると同時に、女の子の激しい笑い声が聞こえてきた。

「いやぁぁっはっはははっはっはっ、もうやめてぇぇ~~っ!!」
「きゃはははっ、ははは……ふふ、ひひひっ」

 2人居る。
 部屋の中央に、おかっぱ頭の少女が2人、真横を向いた状態で宙吊りにされていた。
 2人は両手両脚をそろえた万歳Iの字の体位で、緩衝材を挟んで背中合わせに縛り付けられている。
 蓮の側からは片側の娘の顔しかよくは見えないが、反対側の娘の方が激しく笑っているようだ。

 2人とも下着のみの姿であった。5人の女子生徒が、吊るされた2人の無防備な地肌を筆やら指やらで激しくくすぐっていた。

「あ、蓮。遅かったね。そろそろこっちのコは限界かも……」
 かかとを合わせて縛られた2人の素足の足の裏に、両手に持った筆を上下に這わせていた中村愛莉(なかむらあいり)が、蓮を見るや言った。2人のギリシャ型の足の指は、くねくねとくすぐったそうに動いていた。

 愛莉は書道部の主将であった。
 おかっぱの2人をくすぐっているのは全て書道部員。
 文化祭の下準備として、書道部を襲撃したのは記憶に新しい。事前に愛莉を味方につけていたこともあり、人数の少ない書道部員を一網打尽にするのは至極簡単であった。
 蓮にくすぐられた書道部員達はすっかり、「くすぐり」の虜になっているようだ。

 美咲の分析によると、蓮の指には不思議な能力が備わっているらしく、蓮にくすぐられた者は、蓮の指の依存症に陥ってしまうらしい。
 生粋のくすぐりフェチである蓮にとっては、非常にありがたい能力であった。
 蓮はその指を駆使して、陽菜をはじめ、美咲、凛と、次々と周囲の女子生徒をくすぐり落としてきたのだ。

「愛莉、お疲れ。そっちが妹の方かな?」
「いいえ。姉の方です」
 蓮が聞くと、愛梨が口を開く前に美咲が即答した。
「委員長から見えるのが妹の後藤ひかり(ごとうひかり)。1年C組の学級委員長です。普段は内気で動きが鈍く『姉がいなければ何もできない』といったような批判に晒されていたことから、姉よりも早く崩れると思われたのですが、かなり根はしっかりしているようですね。反対側にいる姉の後藤あかり(ごとうあかり)が開始5分で大笑いを始めたのに対し、妹ひかりは1時間ほど耐えていました。自身の苦痛に耐え忍びながら、姉を勇気付けようと声をかける姿も散見されましたが、姉の泣き喚く姿に心を折られてしまったのでしょう。今ではご覧の通り両名とも破顔してしまっていますが、録画してありますので、後でごゆっくりお楽しみください」

「きゃぁぁぁっはっははっははっ!!! いやぁぁっはっははっはは、ひぃぃぃぃぃいはははははははっ!!」

 蓮が回り込んでみると、あかりはIの字の身体をくねらせて笑い悶えていた。
 腋から脇腹にかけて書道部員2名の指が縦横無尽に這い回り、足の裏には愛莉の筆がさわさわと刺激を与え続ける。

「だずげでぇぇぇぇひひゃひゃひゃひゃっ!!! あぁぁぎゃぁぁぁぁはっははははは、だずげでぇぇぇぇひひひひひひひひっ!!!」
 あかりは涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔をさらに歪めて、激しく笑う。

「きゃははは、っ……ははは、姉さん……ふはははっ!! 姉さ、いひひひひっ、姉さん……」
 あかりと背中合わせに縛られたひかりは、全身を筆責めされている。涙を流しながら必死に姉を勇気付けていた。
 ひかりはまだ少し余裕があるのか、笑いながらも歯をかみ締めて堪える様子が見えた。

「どうぞ委員長。この状態ならば、委員長の指で2人とも1分以内に落ちるでしょう」
 美咲が促す。
 蓮はしばらく2人の周り歩いて観察すると、
「先にあかりの方だけ落としておいて、あかりにひかりをくすぐらせるって言うのはどうかな? ひかりを落とすのはその後で」
 蓮の提案に、美咲は目を見開いた。
「妹の心を完全に砕くわけですか。……委員長、相当鬼畜ですね」
「褒め言葉として受け取るよ?」
「当然です」

 蓮の指であかりを落とすのに要した時間は、たったの10秒であった。

●●●


 扉を次々と進んでいくと、様々な「くすぐり」が見物できた。
 十字架にくくりつけられて身体中をくすぐられる少女。天井から両手を万歳に吊るされ、爪先立ちになったまま、腋をくすぐられてぴょんぴょんと飛び跳ねて笑う少女など。
 お化け屋敷の裏は、秘密のくすぐり拷問室だったのである。

 捕われた少女は、ほとんどが学級委員長であった。
 学級委員長(立候補者を除く)は、来週の会長選挙において、選挙管理委員を務める。
 学級委員長を全員味方につけてしまえば、学級委員会と選挙管理委員会を一度に掌握することができるのである。会長選挙に有利なだけでなく、その後の運営活動も円滑に行うことができる。
 1・2年生で合計26クラス。個別に対応するのは骨が折れる。一度に全員をくすぐる舞台として、生徒移動の激しい文化祭は最適だったのだ。
 生徒の注目の集まる会長立候補者主催のお化け屋敷に、のこのことやってきた標的を、順に隠し部屋へ引きずり込んでいけばよかった。
 捕獲時に多少悲鳴が漏れたとしても、お化け屋敷内では誰も怪しまないし、迷路には、客の空間把握を鈍らせ、隠し部屋の発覚を防ぐはたらきもある。

「次で、学級委員長は最後になります」

 美咲が先導して扉を開けると、部屋の中央に立てられた2枚の板に、2人の女子生徒が向かい合わせにX字体位で磔にされていた。
 板にはいくつも穴が開いており、板の後ろに立った人間が穴から腕を差込んで、磔にされた2人の身体中をくすぐっている。
 くすぐっているのは、かなり前に調教しておいた文芸部の面々で、4人ずつそれぞれ板の後ろについていた。

「向かって左側が1年M組学級委員長。長谷川百花(はせがわももか)です」
 美咲は、左の板に磔にされ、大口を開けて笑うメガネの生徒を指した。

「はひゃっ!? あひゃっ、ひっひっひっひ、だめっ!!! もぅっ、いひひひ、やめてっ!! かっはっはははっあひぃっ」

 涎をだらだらと口から溢れさせて笑う百花。
 上着とスカートは取り払われて、ワイシャツのみの姿であった。が、ワイシャツのボタンも全て外されて、ふくよかな胸や、くびれた腰、すべすべのお腹を、30本の指で弄ばれている。
 百花の足下には、百花の衣類と思われるブレザー、スカート、ネクタイ、白いハイソックスがぐしゃぐしゃに散らばっている。
 足下にしゃがんだ文芸部員は、百花の両足の裏を指で追い掛け回すようにくすぐっていた。

「はひゃっ、ひゃひゃっ、うひゃっ!!! ひひひっ、ひゃひゃひゃぁぁっ」

 手首、足首から先をくねくねと動かして悶える百花。かなり長時間くすぐられ続けたのか、目も虚ろだった。

「長谷川さんは、ほぼ文化祭開始と同時にいらしたので少なくとも3時間はくすぐられていることになります。しかも、途中1時間ほど佐々木(ささき)さんの執拗な責めを受けていますので、すでに肉体精神とも極限状態でしょう」
 美咲は淡々と解説した。
「杏奈(あんな)の責めか。杏奈はくすぐるのが上手いからね」
「佐々木さんは、対象により大きな苦痛を、効率よく、効果的に与える技術を磨いているようですので、拷問においてかなりの力を発揮します。そこで――」

 美咲は右側の板を指した。
「こちら1年J組の学級委員長、遠藤彩華(えんどうあやか)をおびき寄せるために利用しました」

「きゃぁぁぁっはっはっはっはははっははっはっ!!! やだぁぁぁっはっはっはっはは、にぃぃぃっひっひっひっひっひ!!! 百花の裏切り者ぉぉぉっひゃっひゃひゃ~~」

 彩華はショートボブの髪の毛をぶんぶんと左右に振り乱し涙を撒き散らして笑いながら、向かいの百花に対して罵声を吐き続けていた。
 上半身は上着の前が全開にされ、ワイシャツ越しに脇腹や腋の下をくすぐられていた。
 足元は左足のみが素足で、靴下を履いた右足と一緒にカリカリとひっかくようなくすぐりを受けていた。
 百花よりも服装の乱れが軽いことから、くすぐられ始めてからそれほど時間が経過していないように見えた。

「『裏切り者』だってさ」
 蓮がハハッと笑うと、美咲は2人を指で差しながら、
「遠藤さんは、最初からこのお化け屋敷には来る気がなかったようです。というよりも、文化祭の催しを回る気が一切なくて、ずっと教室で漫画を読みながら時間をつぶしていたのです」
「面倒くさがり屋さんなんだね」
「はい。そこで同じ中学出身の長谷川さんを利用することにしました。最初は『遠藤さんを誘い出せ』と言うこちらの要求を断固拒否していた長谷川さんでしたが――」
「杏奈の責めに耐え切れなくなって、見事、友達を売ってくれたわけだ!」
「その通りです。……こちらも一部始終録画していますので、後でご覧になってください。佐々木さんの責めはかなりえげつない様子でしたので、委員長の好みといいますか、かなり楽しめると思いますよ」
 美咲は若干杏奈に対して少し嫉妬心を抱いているのか、やや嫌味っぽく言った。

「はひゃぁっ、ひゃぁ、ひゃぁっ、ごめ、ふひひひひひ、ごめんにゃひゃひひひひひ~~っ」
「百花のアホぉぉぉっ!! にゃぁぁっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!!」

▼▼▼


 最後の部屋に到達した蓮と美咲は、扉を開けた瞬間に怒声を浴びせられた。

「あんたら何考えてんのよっ!! こんなことしてっ、ただで済むと思ってんのっ!!?」

 物凄い形相で2人を睨みつけるのは、選挙管理委員長の松本柚希(まつもとゆき)。
 身長は美咲と同程度かほんの少し高い程度。セミロングのストレートヘアは、右おでこを出してピンで留められていた。
 大きな目と、長いまつげが特徴的で、本来ならば美人と評されるはずの顔立ちなのだが、いつもイライラしているのか常に眉間に皺を寄せていた。
 2年A組に在籍しているため、蓮とはほとんど接点が無いのだが、『史上最怖の選管委員長』という噂は常々耳にしていた。
 知る人によると、美咲のような理屈による批評者的怖さではなく、柚希自身の快・不快による暴君的怖さがあるらしい。

 そんな暴君柚希も、壁を背にぺたんと足を前方に突き出して座らされ、無様な格好を晒されていた。足首は晒し台で固定されており、両肘をくの字に曲げて力こぶを出すようなポーズで、手首は壁に固定されていた。
 晒し台の2つの穴からは、白いソックスを履いた足が突き出している。ソックスの足の裏は指に沿って、薄茶色に汚れていた。

 室内には、蓮、美咲、柚希の3人しかいない。

「抵抗が激しく捕獲には苦労しました。暴れるところを8人がかりで押さえつけ、なんとかこの状態に拘束しました。委員長の言いつけ通り、まだ誰も触れていません」
 美咲が状況を説明する。よほど激しく抵抗したのか、柚希の制服ブレザーはやや乱れ、ネクタイが曲がっていた。
「……山本がっ、なんでこんな奴の言いなりなってんのよ!!? おかしいんじゃないのッ!?」
 柚希が再び吼えた。
 美咲が蓮に従っていることが、よほど意外らしく、柚希は狼狽を押し殺すような表情を見せた。

 柚希は美咲を成績上位者同士、同じ穴の狢として、強く意識していたのだろう。美咲に似て、プライドも高そうだ。
 ならば先に精神を崩しておくのも良いかもしれないな、と蓮は思った。

「私もこの『おかしい』状況については疑問を抱いています。2時間もすれば松本さんもこちら側ですので、そうしたらこの『おかしさ』について存分に議論しましょう。楽しみにしていま――――ッ!!!?」

 美咲の話の途中で、蓮はいきなり、後ろから美咲の脇腹を抱きかかえるように揉み始めた。

「ひひゃっ!!? ちょ、ちょっと、委員長っ!? いひっ!! いきなりっ……ふひっ、なな、なにをっ!!!?」
 美咲は身体をくの字に曲げて身悶えた。
「はぁ???」
 と、柚希。
「ちょっ、ひひぃぃっ、委員長っ!!! ちがっ……な、何やっているんですかっ、ひひゃっ」
 美咲は両手で蓮の手首を掴んで抗議しながら、地団太を踏んだ。

 柚希が唖然とする様子を脇目に、蓮は指を美咲の腹部へ食い込ませる。
「ひゃぁぁっ!!? もぅっ、いひっ、……ふざけないでくださ――っ!!」
 ローブの裾につまずいた美咲はバランスを崩した。
「おっと」
 転倒しそうになった美咲を、蓮は抱きかけて支えた。

「……ハァ、委員長。な、なに考えているんですか。今日は松本さんをメインに落とす段取りで……」
 美咲は荒い息を立てながら、蓮の顔を睨む。頬が紅潮して、少し目が潤んでいる。
「柚希には先に、美咲がすでに陥落していることを、見せつけてあげようと思ってね」
 蓮が微笑むと、美咲は目線を逸らせた。
「……また、精神攻撃ですか。松本さんの中での私の位置づけによっては、有効かもしれませんが……今日は、ダメ、です」
「どうしてだい?」
「今日は、文化祭の進行をしないといけないので、あまり、その……スイッチを入れたくない、といいますか」
 美咲は身をゾクリと震わせながら、口ごもった。
 きっと、欲望を理性で押さえつけているのだろう。
「美咲のそういうところ、すごくかわいいよ」
「や、やめてくださ――ッ、ひゃぁぁっ!!?」

 蓮は美咲の身体をうつ伏せに押し倒すと、腰辺りに馬乗りになった。同時に、美咲の頭からトンガリ帽子が転がり落ちる。
「じゃぁ美咲の言うスイッチとやらを、僕が入れてあげるよ」

 蓮は言うと、両手の人差し指と中指を美咲の肋骨にくりっと押し込んだ。
「ふひゃぁぁぁっ!!! ひひ、ひひひっ、委員長!!」
 ビクンとえびぞりになる美咲。

「……なっ!? なにやってんのよアンタら!?」
 ようやく、驚いたような声を出す柚希。

 柚希の発言を無視して、蓮は、ローブ越しにゴリゴリと美咲の肋骨をひっかくようにくすぐる。
「ひっ、ひゃっ!!? ひゃひゃっ、ひはははっ! はは、ひひひ、いひっ、委員長!! ひひゃひゃ、とめてっ、ひひひひ、とめてくださいっ!!」

「こっちの方がよかったかい?」
 蓮は右手を美咲の腋の下に差し込む。
「ひゃははっ! ひひひ、ひひぃ、……いひひひ、ひはは」
 真っ赤にした顔を左右に振って笑い悶える美咲の姿を、柚希はただ呆然と眺めていた。

 蓮は中指を、美咲の腋と胸の間あたりに押し当てて震わせた。
「ひゃはははははははっ!!!? くふっ、そこはっ! くふふふふっ」
 美咲は一旦大きな笑い声を上げるが、すぐに耐え忍んでしまう。
「まだ、スイッチは入らない?」
「ひひひ、ふひゃっ、……ひひ、入れませんよっ。ふひひひ」
 美咲は首をぶんぶんと振った。
 ボブカットの髪の毛がわさわさと揺れる。

「そうか。じゃぁ」
 蓮は身体を反転させると、ブーツを履いた美咲の両脚を持ち上げた。
「い、ちょっと、委員長っ!?」
 美咲の膝辺りまでローブの裾がまくれる。
 美咲は黒いタイツを履いていた。
 蓮は、ふくらはぎから足先に向けて美咲の脚をタイツ越しに撫でていく。
「んふっ、……くふふ」
 美咲は笑いを堪えるように、ローブの裾を握り締めた。

 蓮は美咲のブーツをぐいぐいと捻って脱がしながら、
「もう抵抗はあきらめたのかな?」
 両足ともブーツを脱がし取ると、タイツ越しに美咲の足の指ひとつひとつがうっすらと透けて見えた。親指と人差し指だけが他3本の指よりも長い、偏平足だ。
「……ブーツ履いたまま暴れたら、委員長が怪我するじゃないですか」
 美咲は床にあごをつけたまま、いじけたような声を出した。

「美咲は優しいね」
 蓮は言うと、左腕でしっかりと美咲の両足首を押さえ、自身の胸に押し付けた。
 そのまま右手の指を、美咲の両足の裏の上でわしわしと踊らせた。

「ひゃはっ!!!? ひゃははははははっ、ひははははっ、はひゃっ!!! ひぃぃ~っひっひっひっひっひっひっひッ!!」

 美咲はタイツに包まれた足をくねくねと捩って笑い出した。

「滑りやすいタイツ越しは、いつもよりくすぐったいかな?」
「ふひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ちょっ、ひひひひひひひひっ!!? ホントにっ!!! ホントにスイッチ入っちゃいますぅぅぅっひゃっひゃっひゃひゃ~~っ!!」

 蓮ががりがりと美咲の足の裏をひっかくようにくすぐると、美咲の足の指もくしゅくしゅと連動して動く。

「ひひひひひひっ、だめぇぇっ、ひゃははははははっ!!!」

 美咲はこぶしでダンダンと床を叩いて笑う。
 蓮は人差し指を、美咲の足の親指と人差し指の間にぐりぐりと押し込んでやった。

「きゅひゃぁぁぁぁっひゃっひゃっ!!! ふひゃひゃひゃひゃっ、ひゃめぇぇぇ~~」

 さらに爪で足の裏を弾くようにくすぐってやると、美咲は上半身を捩って暴れた。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! もふっ!! 委員長っ!!! くひゃひゃひゃひゃひゃっ」

「おねだりしていいんだよ?」
 美咲の足の裏をひっかきながら、蓮は優しい声をかける。チラリと柚希の方を見ると、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを睨んでいた。
「ほら、柚希が見てるよ? 美咲。僕の指が欲しいって言ってごらん」

「ひぎぃっ!? ひひひひ、ふひひひひひっ!!!」

 笑いながら首を左右に振る美咲。なかなかしぶといな、と蓮は指をで美咲の左足の親指あたりをこそぐようにくすぐる。
「ひゃはははははははっ!!! きひひひひひっ、きついですっ!!! ひゃぁあぁはっはっはっはっはっ」
「ならおねだりしてごらん? いつもみたいに」
 蓮は、美咲の左足親指辺りを爪でこそぎ続け、タイツを破く。穴から指を入れ込み、美咲の素足の指の間をいじり始めた。

「ぃぃひゃっひゃ~~っ!!! くひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!! ひぃぃぃぃひひひひひひひひっ!!!」

 美咲は両手をバタつかせて笑い始めた。
「ほらほら、早くおねだりしないと、ここでやめちゃうよ」
「あひゃぁっ!!! ふひひひひひひっ!!! 委員長のっ、ひひひひひひひっ!! 変態っ!!! 変態ぃっひっひっひっひっひ~~っ!!! もっと、きっひっひっひ~~、もっとお願いしますぅぅぅひゃひゃひゃ~~っ!!」

「よく言えたね。えらいよ美咲」
 言いながら蓮はチラリと柚希の顔を見た。絶望感を隠そうと必死に表情を険しくする柚希の心境を想像すると、なかなかそそられた。同族意識のある人間が屈服させられる姿ほど、見ていて悔しいものは無いのだろう。

 蓮は、左手でしっかりと美咲の左足首を掴むと、タイツの穴に突っ込んだ指を動かし、穴を押し広げていく。
 5本の指を穴に押し込むと、美咲の足の指の付け根辺りを思いっきりひっかいてやる。
「かひゃっ!? はひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ひゃぁぁっははっはっはっははっはっははっはは~~っ!!!」
 美咲は笑いながら、床に投げ出された右脚をくの字に曲げ、つま先をひくひくと痙攣させた。

 柚希の方をチラリと見ると、声も出せないのか、ごくりと生唾を飲み込んだ。自分がこれから何をされるのか、想像してしまっているのかもしれない。

 足の裏をがりがりと掻き毟りながらタイツを破いていき、かかとの部分をべろんとめくる。
 美咲の左脚はレギンスのような状態になった。
 露出した美咲の左足の裏に再び5本の指を這わせる。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! いぃぃぃひひひひひひひひひひひひっ!!! もぅっひひひ、委員長っ!!! ひゃっはっはっは、責任取ってくださいよぉぉぉぉひゃっひゃっひゃ~~!!!」
「責任?」
 蓮は、美咲のかかとに爪を立てながら聞く。
「ひゃっはっはっは、ダメって言ったのにぃぃっひひひひひひ!!! スイッチひゃはは、入っちゃったじゃないですかぁぁっはっはっは~~っ!!」

「へぇ。最高だね」
 言うと蓮は、手を止めて立ち上がった。
「あぁぁっ!!!」
 途端に美咲は声を上げて、ごろんと転がり、仰向けになった。美咲の顔は真っ赤に上気していた。
「……委員長。まさか、ここでやめるつもりですか?」
「だとしたら?」
「本気で怒ります。委員長が遊ぶ前に、私が松本さんを壊しますよ?」
「ハハッ、冗談だよ」

 蓮は、美咲の脇腹を揉むようにくすぐり始めた。
「ぅひゃっはっはっはっはっはっ!!! ひゃぁぁ~~っはっはっはっはっはっ!!」
 美咲は哄笑しながら、両腕を伸ばして自ら万歳する。
 下ろすまいと気合を入れているのか、肘がぷるぷると震えている。

 蓮は美咲の要望どおり、上半身に両手の指を縦横無尽に這わせてやった。
「いひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! あぁぁひゃひゃひゃひゃひゃっ、ひぃぃ~~ひひひひひひっ!!! ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
 美咲は目に涙を浮かべ、ローブの裾がめくれ上がるのもお構いなしに両脚をバタつかせて大笑いした。

 美咲は蓮の指の動きに合わせて、激しく笑い狂った。柚希が傍にいることをすっかり忘れてしまったかのような乱れようだ。
 蓮はあらためて、自身の指の力に畏怖の念を抱いた。

◆◆◆

 蓮が美咲をくすぐり始めて5分ほどたった頃、突然扉が開いた。
 蓮はすぐに手を止めた。室内の3人が同時に扉を見る。
 入ってきたのは、ジャーナル部の1年生清水希(しみずのぞみ)であった。先々週、隠し撮りしていたところを見つけて捕らえ、くすぐり落とした娘だ。その後決行されたジャーナル部陥落計画では、非常に良いはたらきをしてくれた。
「…………。えっと。何やっているんですか?」
 希は、乱れた美咲の格好を見て尋ねた。
「軽いウォーミングアップだよ」
「美咲先輩『で』ですか……」
 蓮の答えに、希は訝しげに首をひねった。
 当の美咲は、破かれ穴だらけになったタイツをローブで覆いながら、
「清水さんは、どういったご用件ですか?」
 淡々と聞いた。
 切り替えが早いな、と蓮は感心した。

「あの、実は緊急事態が発生しまして……」
「それは大変だね」
「ヒトゴトではありませんよ?」
 蓮の無責任な合いの手に、美咲はブーツを履き直しながらツッコミを入れた。
「その……、私のクラスの、A組の子が一人、このお化け屋敷の隠し部屋の存在に勘付いたようなんです。 それで『不正かもしれない』と、ジャーナル部の私のところへ、ネタ提供と言いますか、告発に来たんです」
 蓮が美咲の方を見ると、すっかり身だしなみを整えて、表情を引き締めていた。
 希は言葉を繋ぐ。
「お喋りな子ではないのですが、もしかしたら他の誰かにも告げ口をしているかもしれません。ジャーナル部の部室に監禁して尋問しているのですが、根が強いのか黙秘を続けていて」
「……佐々木さんでもダメなんですか?」
 美咲が眉を寄せた。
「あ、いえ、佐々木先輩は今、副選管委員長の拷問で手が離せないと……。『絶対に邪魔するな』ときつく厳命を受けていて、その……なので、お取り込み中本当に申し訳ないんですが……」
 なるほど。蓮は希の意図を把握した。
 蓮が美咲の顔を見ると、美咲はこくりと頷いた。
「わかりました。私が行きましょう。委員長は予定通り、松本さんの調教活動をゆっくりと楽しんでください。その間に、私がすべて吐かせておきます」
 美咲はパンパンとローブの裾を叩いて姿勢を正すと、トンガリ帽子を被り直し、「行きましょう」と希を促した。
「美咲」
 蓮は美咲の背中を呼び止めた。美咲は横顔で応じる。
「こっちは2時間程度で終わると思うけど、それまでにきちんと任務を遂行できるかい?」
「愚問ですね。25分あれば充分です」
 美咲は鼻を鳴らし、右手の指を軽く動かして見せた。「お預け」を食らって気が立っているのか、美咲の 横顔はいつもより冷徹に見えた。

▼▼▼


 美咲と希が退出すると、蓮は、柚希の渋面を覗きこんだ。
「ようやく2人きりだね。柚希」
 柚希はクッと蓮を睨みつけると、その刹那、蓮の顔面に勢いよく唾を吐きつけた。
「馴れ馴れしく名前を呼ばないでよ! 汚らわしいっ。早くコレ、外しなさいよ!」
 柚希は手首の枷をカチャカチャと音を立て、嫌悪感を露にした。
「ハハッ、元気がいいね」
 蓮はハンカチで顔を拭きながら、柚希の右前辺りの床の上に腰を下ろした。
「あんた、何が目的なのよ!? 私が誰かわかって、こんなことやってんの!?」
 柚希は物凄い形相で蓮を威嚇した。
「柚希はいつも怒ってばかりだね。きっと笑った方がかわいいと思うよ」
「はぁ? なにそれ。口説いてるつもり? 馬っ鹿じゃないの!?」

 柚希がやや前のめりにつっかかってくるのは、虚勢だろうと、蓮は思った。必死に焦りを隠そうとしているのだろう。
 やはり、柚希の目の前で美咲をくすぐったのは、正解だったようだ。

 蓮は両手を、そっと柚希の腋へと近づけていく。
「ち、近づけないでっ! 目的を言いなさいよ、目的をっ! イヤっ、触らないでっ」
 柚希が激しく金切り声を上げるのを無視して、蓮は柚希の両腋の下にそれぞれ人差し指を置いた。
「んっ……」
 柚希の身体がぴくっと反応した。しかめ面がさらに歪む。

「僕はただ、柚希の笑顔がみたいだけだよ」
 蓮は、ゆっくりと人差し指を上下に動かせ始めた。

「くっ……ば、馬っ鹿じゃないの。……ん、く……こんなことして、ただで済むと思ってんの」

 柚希は思いっきり眉間に皺を寄せ、蓮をにらみつけた。
「僕の指、くすぐったいだろう?」
「あ、……く、アンタ、頭おかしいんじゃない? んく、……こんなの、何が、楽しいのよ」
 柚希は腕をぷるぷる震わせながら、ギリッと歯噛みした。

「敵意をむき出しにしてくれて嬉しいよ。柚希。その方が落とし甲斐があるからね」
 指先の上下移動に強弱をつけながら、蓮は言った。
「……落とすって、何よ。……馬鹿みたい」
「美咲だって最初は、君みたいに抵抗していたんだよ」
 柚希は額に汗を浮かべて、顔をしかめた。
「それが今では、僕の指を欲しておねだりしてくるんだよ? 美咲のような厳格なコが、くすぐって欲しいって。……柚希もすぐ、おねだりしたくなるからね」

「ふ、ふざけないでよ……っ。なんで、私が、アンタなんかに……ん、く」
 柚希は毒づくが、内心は相当焦っているのだろう、目線がふらふらと泳いでいる。

「さて、どこまで我慢できるかな? 欲しくなったら、いつでもおねだりしていいんだからね」
 蓮は、指先にきゅっと力を込め、柚希の腋の下を突いた。
「くふっ……!! ……つ、や、やめなさい……」
 柚希は目を瞑り、刺激に耐えた。
 蓮は2本3本と指を増やし、柚希の身体に少しずつ感触を覚えさせるように、指先を優しく動かす。
「くっ、ちゅっ……馬鹿……やめっ……く」

 柚希は顔を赤らめ、眉間に皺を寄せ、ぐっと歯をかみ締めていた。
「笑っていいんだよ?」
 蓮は言いながら、柚希の両脇の下でこちょこちょと、指を蠢かせた。
「ばっ、かふっ!!! ……くふ、……く……、つ、…………」
 吹き出しそうになるも、柚希は堪え、口をぐっとへの字にした。

 身長の割にはやや発育良く見える乳房の外側のツボに親指を入れる。
「ふぐっ!? ひ、……くぅ、ぅ……」
 柚希はあごを引き、目を見開いて、刺激に耐えていた。

 しぶといな、と蓮は思う。
 ツボ入れしてぐりぐりと指を動かしてみるも、柚希はむんずと口元を引き締めて耐えた。
「強いね。柚希? 僕に笑顔を見せるのがそんなに嫌かい?」
「……っ、……っ」
 柚希は口元をひくひくさせながら、蓮を睨んだ。鬼のような形相である。
「声を出すと一緒に笑い出しちゃうかな?」
 蓮は笑いかけながら、柚希の脇腹まで両手を下ろし、揉むようにくすぐる。

「くっ!!? ……っ、くふ……っ!」
 柚希はうつむき気味に横を向いた。
 身体中が震えている。
 蓮が柚希の顔を覗きこむと、柚希は反対側に顔を背けた。口元が緩みそうになるのを必死に引き締めようとしているようだった。

 肋骨をごりっとえぐるように指を押すと、柚希は身体をびくんと震わせ、顔を上に向けた。
「ぐっ、く、きっ……!!」
 左右に髪を大きく振り乱し、歯を食いしばる柚希。

「耐えるね」
 蓮は指をアバラに差し入れくりくりとほじくるように動かす。
「がっ!! くぅっ……、っ」
 下唇をかみ締めて、蓮を睨む柚希。憎悪に満ち溢れた目は、蓮を興奮させた。

 蓮の指の振動に合わせて、身体をビクビクと震わせる柚希。鼻息荒く、頬の筋肉が上下に痙攣している。
「……っ、っ、……っ!」

 しばらく脇腹からお腹をくすぐり、蓮は指の動きを止めた。
「よく耐えたね。すごいよ、柚希」
 柚希は肩を上下させながら、
「……あ、後で、覚えておきなさいよ」

 蓮は柚希のスカートの裾を少し上げ、膝小僧から太腿を露出させた。
「ちょ、ちょっと、馬鹿! な、何するのよ」
「大丈夫。変なことしかしないから」
 蓮は両手の指先を柚希の膝小僧に乗せ、ふわふわと優しく動かす。
「ふっ!? ……な、やめなさいっ! 気持ち悪いっ」

 指先で柚希の太腿から膝辺りをさわさわとくすぐっていくと、柚希は動ける範囲で、必死に膝を曲げて抵抗する。柚希の白い太腿は鳥肌だっていた。
 柚希は蓮に向かって罵声を吐き続けた。喋れる分、まだ余裕があるようだ。
 そのまま蓮は両手を柚希の脚に這わせながら、足下へ移動した。

▼▼▼


「さて」
 と、蓮は晒し台から突き出た柚希の右足の親指を軽く弾いた。
「つっ、触んないでよ……」
 柚希はきゅっと足を捩って逃げた。
「そろそろ、くすぐられるのも楽しくなってきた頃かな?」
「……そんなわけ、ないでしょ。……この馬鹿、変態」
 肩で息をしながら、蓮を上目で睨む柚希。

「そう? そろそろ身体に正直になっていもいいんだよ?」
 蓮は言うと、人差し指をつーっと柚希の右足のかかとから指先に向けてなぞり上げた。
「くぷっ!! ふぐっ……」
 足の指を縮こまらせ、足を左右に捩る柚希。
 蓮は柚希の右足を人差し指で追いかけ、カリカリとソックス越しにひっかく。

「く……な、何よっ、ぅく……、こんなこと、時間の、んくぅ、無駄よっ」
 柚希は顔を真っ赤にして、首を左右に振って悶えた。

 柚希の側からは、晒し台の板に阻まれ、くすぐる様子が見えない。
 柚希は目を瞑って、前後左右に首を振って笑いを堪え続けていた。
「見えないのによく我慢できるね。じゃぁ、もう少し激しくしてみようか」
 蓮は、左手で柚希の右足の指を持って反らし、5本の指でガリガリと足の親指の付け根辺りのふくらみをひっかき始めた。

「ばはっ!!? くはっ……!!! かはっ、か、……く、き、あがっ……」

 柚希は口元をぴくぴくと震わせ、開きかける唇を必死に噛んでいた。顔面は真っ赤で、目尻には涙が浮かんでいる。
 もう限界だろう、と蓮は思った。
 しばらく土踏まず辺りをソックス越しにひっかいてやり、蓮は手を止めた。

 両足のソックスのつま先を持って、引っ張っていく。
「……く、このっ!! やめなさいよ……アンタ、……こ、殺してやる」
 柚希は力なく毒を吐きながら、足をくねらせて抵抗する。足首の枷でソックスがつかえるが、蓮は思い切り引っ張り、両足とも柚希のソックスをすぽんと脱がし取った。

 エジプト型の素足はやや黄色で、非常に美しいアーチを作っていた。
 蓮が指でひと撫ですると、「くふっ」と柚希は吹き出し、素足をくねらせた。足のよじれる様子が、かなり官能的であった。
「綺麗な形だね。今日は柚希のために、用意したものがあるんだ」
 蓮が微笑むと、柚希は低い声で「死ね」と応じた。

「なんだと思う?」
 蓮は紙袋を柚希に見せた。
「……し、らないわよっ。早く、解放しなさい。アンタ……ぶっとばしてやるんだから」
 柚希は火照った身体を疼かせながら言った。

 肉体的にはほぼ落ちたと判断してよいだろう。柚希の身体はすでにこの指を受け入れつつあるように思われる。後は、大笑いさせてやって、身体の変化、心の変化を理解させてやればよい。

 蓮はニヤニヤしながら、紙袋から円筒形のプラスチック製容器を取り出した。
「なんだと思う?」
「……っ」
 柚希は舌打ちして目を逸らせた。
 天花粉であった。
「ベビーパウダー」
 蓮は手に直接粉を取ると、いきなり柚希の右足に擦りつけた。

「くひゃっ!!? ひゃっ、……くっ、つ、ちょっ、き、ひぃっ!!!」
 柚希の口元が緩んだ。
「ほら、すべりが良くて、くすぐったいだろう? もう我慢しなくていいんだよ」

 蓮は、粉にまみれた両手10本の指で、柚希の左右の素足を同時にくすぐりはじめた。

「ッ――……ふっ、はっ!!! くははははははははははっ!!! くぁっはっはっはっはははっは、もぅだめぇ~~っ!!!」

 柚希は溜め込んでいた息を一気に吐き出すように、笑い出した。
 吊り上げ続けた眉をへの字にし、大口を開けて笑う柚希の表情は、普段の鬼形相とは別人であった。

「やっと笑ってくれたね。やっぱり笑顔の方がかわいいじゃないか」
 蓮は、柚希の足の指の間にも、指先で粉を擦り付けていく。

「くはっはっはっはっはっはっ、うるさいうるさいっ!!! かっはっはっは、やめてぇぇ~~っ!! くははははははっ」

 柚希は首を左右にぶんぶんと振り回し、涙を流して笑う。
 蓮は柚希の足裏に丁寧に粉を擦り付けていった。
 柚希は一度タガが外れてしまうと、笑いが止まらないようだ。小さな刺激にも敏感に反応し、蓮を楽しませた。

「きぃぃ~~っはっはっはっはっ! やめてやめてっ!! くぁぁぁはっはははっははあはっ、笑いたくないのっ!! ひぃぃっひっひっひっひ、笑いたくないのよぉぉぉきっひっひっひっひ~~っ」

「そうかい? 楽しいだろう?」
 蓮は柚希の土踏まずの窪みに粉を擦り付ける。
「きひゃぁぁぁぁっはははっははははっ!!! 馬っ鹿っ、ひひひ~ひっひっひっひ、馬っ鹿じゃないのっ!!! くぁっはっはっは、苦しいぃぃひひひひひひひ、苦しいのよぉぉ!! っはっはっはっはっは、やめてぇぇひっひっひっひっひ!!!」
「でも、笑うと楽しくなってくるだろう?」
「くひひひひひひひっ!! 楽しくないっ!!! 楽しくないわよぉぉぉっひっひっひっひっひ~~」

 蓮は両手で柚希の左足を左右から挟んで持ち、足全体に粉を塗りこむようにくすぐった。
「くひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっっ!!? ば、っひゃっひゃっひゃっひゃ、頭が、ひぃっひっひ、おかしくなるぅぅぅぅ~~」
 柚希の足の指がくすぐったそうにバラバラに動く。
 反対の右足は親指がぴんと反り返って、びくびくと痙攣していた。

「指の付け根にもムラ無く塗っておいてあげないとね」
 両手で柚希の足の指を無理矢理全開にし、指の間をこそぐようにくすぐる。
「きぁぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっ!! ひぃぃぃひひひひひひ、くひひひひひひひひひっ!!」
 柚希は首を上下にガクガクと揺らせ、悲鳴を上げた。
 開きっぱなしの口からはダラダラと涎が流れ出、鼻水も噴出している。

「さて、柚希? 僕の指がもっと欲しいかい?」
 柚希の両足を満遍なく粉まみれにした蓮は、柚希の両かかとを軽く引っかきながら聞く。
「ひっひっひっひっひっひっ!!? くひゃっ、いらないっ!! いらないわよぉぉ、きっひっひっひっひ!」
 柚希は口元に泡を立てながら言った。
 やはりプライドの高い娘はおもしろいな、と蓮は思った。

「そう? こんなことされてもまだ意地を張るかい?」
 蓮は、柚希のかかとの下側、アキレス腱の方にも人差し指を這わせ、指先で弾くようにくすぐる。
「くゃっはっはっはっはっはっはっ!!! 意地なんて、……くひひひひひっ!!! そんなとこ、あひゃ、やめてっ、いぃぃっひっひっひっひっひっ!!」
 柚希の足が左右にいやいやと揺れる。

 鉤のような形にした人差し指を、かかとの裏を通って這わせていき、柚希の両足の側部をひっかいてやる。
「くぅぅぅ~~~っふっふふっひっひっひっひっひっ!!! ぅぅうひひひひひひひひっ! 馬鹿っ、ひっぃっひっひっひっひぃぃ」

「足の甲も意外とくすぐったいだろう?」
「きひひひひひひっ!! やめてぇっ!! ひっひっひっひっひ、やめてぇぇっ!!」
「じゃぁこっち側の方が良いのかな?」
 蓮は両手をくるりと回し、柚希の足の土踏まず側をバリバリと勢いよくひっかく。

「あぁぁひゃぁぁぁっはっはっはっはっはっははっ!!! くひぃぃ~~っひっひっひっひっひっひっひ」

 形の良い素足がくねくねとよじれる様子は非常に官能的で、美しかった。
 舌を出してだらしなく顔を歪めて笑う柚希のプライドは、すでにボロボロであろう。
 この指の虜になるのも時間の問題だ。

▼▼▼


 さらに数分ほど柚希の足の裏をくすぐり、蓮は手を止めた。

「……かはっ……ひ、ひひひひ、くくく、……くふっ、ぃひひひ」

 柚希は、蓮が触れなくても笑いがこみ上げる状態に陥っていた。
 蓮は両手をタオルで軽く拭きながら、柚希の緩んだ顔を見据えた。
「柚希。どうだい? おねだりしたくなった?」
「……くっ、くふふふ、……き、ひ、……ば、馬鹿、じゃない、のっくぃひひひひひひっ」
 柚希は歯を食いしばり、こみ上げる笑いを我慢しつつ答えた。
「それは、僕の指がいらないって解釈でいいの?」
「ひ、ひひひひ……くひひひ」
 顔をしかめて笑いながら、柚希は下を向いた。
 かなりの葛藤があるのだろう、と蓮は思った。

「迷ってるんだね。じゃぁ素直にならせてあげよう」
 蓮は言うと、紙袋から豚毛筆を取り出した。
「コレで柚希の足についた粉を、綺麗に落としてあげるからね」

「や、ひひひ、やめっ……」
 柚希が顔をぐしゃぐしゃにして制止するのを無視して、蓮は弾力のある豚毛を、柚希の素足に這わせ始めた。

「かはっ!! くゎっはっはっはっはっはっはっ!! ……ぃぃいははははははは、きひひひひっ、だ、ひぃ~っひっひっひ」

 蓮は筆先を柚希の足の指の間に押し込んだり、かかとから上下に這わせたりして、柚希の足裏についた粉をこそいでいった。
「少し粉をつけすぎちゃったかもしれないね」
「きぃぃっひっひっひっひっひ、くぁぁぁぁはははぁ~~っ!!!」
 柚希の足の指が開き、びくびくっと痙攣するように動く。
 ケバケバした豚毛はかなり刺激が強いようだ。

「ほら、どんどん綺麗になっていくね。綺麗になったら終わりにしちゃうけど、それでいいのかな?」
「くっ!!? ふふふふふふふっ、きぃぃぃひひひひひひひひっ」
 柚希は顔をしかめ笑い続ける。ぎゅっと閉じた目からは涙が溢れ出した。

 じっくりと足の掃除を続けた後で、
「さて、そろそろ終わりだけど――」
「ば、きひぃいひひひひひひひひひっ!!! アンタ馬鹿よっ、ひひひひひひひひ、馬鹿よぉぉひぃははっははは!! しねぇぇっひひひひひひひひひひひっ」
 柚希は甲高い声で蓮を罵った。

 蓮は柚希の言葉を聞いて、微笑んだ。
「それは、僕の指が欲しいって解釈でいいの?」

「くぁぁあぁっはっはっはっはっ、当たり前でしょうがぁぁぁっはっはっはっはっは!!! 早くぅひひひひひひひ、アンタの指でぃぃいひひひひひひひ、続けなさいよぉぉぉひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

 柚希の敗北宣言を聞いて蓮は手を止める。
「ひぃひひひひ……」
 余韻で笑い続ける柚希を見て、蓮は筆を置いた。
「柚希。ちゃんとおねだりしてごらん? でないと、このまま解放しちゃうよ?」

 柚希は歯を食いしばり、
「きひ、ひひひひ……、ば、か、……アンタの指、が、欲しいのよ、くふふふっ!! 続けなさ――……続け、て、くださいっ、ぃぃいひひひひひひひひ」

◆◆◆

 すべての工程を終えるのに要した時間は、2時間20分であった。
 また美咲や陽菜に時間のかけすぎだと怒られるなぁと、蓮は苦笑した。



宮河家の濡れ衣

「ちょっとあんた達! 何すんのよ!」

 放課後の空き教室にて、たどたどしい口調で激昂するのは宮河ひかげ(みやかわ ひかげ)。ごくごく普通の小学四年生だと自負しているが、オタクの姉の浪費癖のために家計が圧迫され、質素倹約生活(貧乏生活)を余儀なくされている。
 午後四時のタイムセールに間に合うように急いで校舎から出たところを、突然同じクラスの男子五人組に取り押さえられ、空き教室まで連行された。抗う間もなく椅子に無理やり座らされたひかげは、靴と靴下を脱がされ、大きく開脚させられた足首を、縄跳びで天井から水平に吊り下げられたモップにくくりつけられた。両手は背もたれの後ろで縄跳びで縛り付けられた。
 ひかげは、椅子の座部の上でV字開脚をした状態で、男子達をにらみつけた。

「いったい何なのよ! こんな恥ずかしい格好させてぇ!」
 語尾を強め、怒りを露にするひかげであったが、言い方があざとく聞こえ、あまり迫力がない。

「宮河、お前、俺達の給食費返せよ」
 男子の一人が言う。
 ひかげは一瞬ぽかんとして、
「はあ?」
 怒気のこもった声とともに顔をゆがめた。
「ネタはあがってんだよ!」
 別の男子が言う。
「さっき職員室で先生達が話してるのが聞こえたんだ。うちのクラスの給食費がなくなったって。宮河。お前が盗ったんだろ!」
「は……っ」
 ひかげは、怒りのあまり言葉につまった。
 下唇が震えて、うまく声が出せない。
「宮河。給食費返せよ」
「いくら貧乏だからって、他人の金盗んなってんだよな」
「だから貧乏人がいるクラスは嫌なんだよ」
 男子達は口々に悪態をつく。
 ひかげはきゅっと唇をかんだ。気付くと目尻に涙が溜まっていた。

 払えるのに払わないような親がいるときに、お姉ちゃんは毎日一生懸命働いて、私に給食費もたせてくれてるのにっ!

 ひかげは、姉までが侮辱されているようで悔しかった。

「わ、わ、私っ! 盗ってないもんっ!!」
 ひかげは声を震わせて叫んだ。今にも男子達に飛びかかりたかったが、両手両足を縛りつけた縄跳びがそれを許さない。

「おいおい白切る気かよ……」
「嘘つきで泥棒とか最悪じゃね?」
「宮河。正直に言うなら今のうちだぞ?」
 男子達は呆れたという風に笑った。
 そんな態度が余計にひかげの神経を逆なでする。

「盗ってないって言ってんじゃん!!!」
 ひかげは金切り声で叫んだ。

「しかたねーな。お前ら、やるぞ」
「うしっ」「よっしゃ」「おー」「待ってました」
 男子達は口々に大声で気合を入れた。
 その熱に、ひかげはびくっと首をすくめた。

●●●

「な……、何よっ!?」
 ひかげは、意識的に強めに叫んだ。
 意味深な笑みを浮かべて近づいてくる男子達が不気味で、怖かったのだ。

 脚は大きくVの字に開かれ、下着と両足が男子に向けられている。
 下着はもちろん、普段他人にめったに見せることのない足の裏がさらされていることにも、恥ずかしさを感じる。

「宮河。泥棒がどんだけ悪いことか、体で教えてやるよ」
 言うと男子達は、ゆっくりとひかげの足に手を伸ばす。
「だから盗ってないって――きゃはっ!!?」
 突然の予期せぬ刺激に、くんと身をよじるひかげ。男子達は、ひかげの両足の裏をカリカリとくすぐりはじめたのだ。

「きゃはははははははっ!!? なっ、何っ!? やはははははっ!! やめっ、やめてよぉ~~」

 反射的に膝に力が入るものの、モップでしっかりと足首が固定されているため、足をひっこめることができない。

「いやっはっはっはっ!? やめてっ!! やめてってばぁぁぁっはははははははははははははっ!!!」

 ひかげは、自分でも風呂以外で触れることのない足の裏を、男子達に激しくくすぐられ、恥ずかしくてたまらなかった。
 男子達は、一心不乱にひかげの足の裏に指を走らせている。

「うああぁああっはっはっはっはっはっ!!? なにぃぃぃっひっひっひ、なんなのぉぉ~~はっはっは、なんか言ってよぉぉ~~っふぁっはっはっははっはっはっ!!!」

 ひかげの足の指がびくびくと痙攣するように動く。
 激しい刺激により、ひかげの足の裏はあっという間に血色の良い桃色に変化した。

「宮河。本当はお前が給食費盗ったんだろ? 正直に言えよ。言ったらやめてやるよ」
 リーダー格の男子が、ひかげの右足の指と指の間に、自身の手の指をねじ込みながら言った。

「くぁっはっはっはっはっ!!! そ、そんなぁぁぁははははははははっ!! 盗ってないぃぃっひっひっひっひ!! 盗ってないぃぃ~~っひっひっひっひ~~!」

 ひかげは必死に首を左右に振った。
 左サイドアップポニーテールが激しく揺れ動く。
 開きっぱなしの口からは涎が滴り、ぎゅっと瞑った目尻からはとめどなく涙があふれてくる。

「強情な奴だな。おい! 秘密兵器もってこいよ」
「やめてぇぇぇ~~へっひっひひ、秘密っ、秘密兵器って何ぃぃぃっひっひっひっひ~~っ!!」
 笑いすぎて喉が痛い。
 ひかげには、男子達の楽しそうな様子が恐ろしく感じられた。
 一人の男子がくすぐる手を止め、机においてあった鞄からシリコンでできたシャンプーブラシを取り出した。
 リーダー格の男子がシャンプーブラシを受け取ると、
「宮河~~? これが見えるか~~?」
 いやらしい笑みを浮かべ、ひかげに見せ付けた。

「ひぃぃ~~っひっひっひっ!!!? な……っ!!! まひゃっ、まさかぁぁ~~っはははははっ!! そ、そんなのでっ!? ふぁっはっは、絶対っ、っひっひ、絶対やだ!! やだやだ絶対やだぁぁぁっはっはっははっ!!」

 ひかげは必死に男子を見つめ、首を左右に小刻みに振り、拒否を示した。
 流れ出る涙が開きっぱなしの口に入り、しょっぱかった。

「やめるわけないじゃん」
 リーダー格の男子は無慈悲に言うと、シャンプーブラシでごしごしとひかげの右足の裏を擦り始めた。

「はぎゃっ!!!? ――ぎょ、っ、ゎはぁぁぁぁぁっはっはっはっははっ!!!? 嫌あぁああぁぁぁはははははははっ、駄目ぇぇぇえひぇひぇひひひひひひひひひひ!!!」

 これまでの刺激とは次元が違った。
 シリコンの硬すぎず、柔らかすぎない絶妙な触感がたまらないくすぐったさを生み出す。足の裏の皮膚をぎりぎり傷つけない程度の、痛みとも痒みとも判別できないような刺激が脳にびりびりと伝わってくる。

「うぎひひひひひひひひひひひっ!!! ひぃぃぃ~~~っひっひっひひ、あぁぁぁあああああっは、は、は、死ぬっ!!!! 死んじゃぅぅぅぅ~~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 ひかげは叫んだ。
 頭の中が、くすぐったいという感覚、「笑え」という命令に支配され、何も考えることができない。

宮河ひかげ($様作)

「ほらよ。宮河。泥棒ってのはこんぐらい重罪なんだぞ? わかったら自分の罪を認めて謝れよ」
 リーダー格の男子が言う。
 ひかげは必死に耳から入った男子の言葉を解読して、
「ふぎゃぁぁあっはっはっはっはっはっは!!! 違うぅぅぅぅっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! 私じゃないぃぃぃぃっひっひっひっひ、ぎぃぃ~~っひひっひっひ!!」
 全身全霊で否定した。

「じゃあ、謝るまでくすぐってやろうぜ」
 男子達は猛る。
「いやぁぁぁっ!!! いやああ~~っはっはっはっはっはっは、ふぎぃぃ!!!」

 ひかげはその後、異変に気付いた親友えりかとゆきなが助けに到着するまで、延々と笑わされるのであった。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 本文中に挿入いたしました、ひかげちゃんのカワイらしいV字開脚イラスト! 『CoCyo CoCyo』の村長$様に描いていただいた絵に、小説をつけさせていただきました。モップでの開脚拘束、たまんないですね! チャットルームにて、インスピレーションが最高潮に達し、今朝一気に書いてしまいました。万歳!
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