「レン。あの女が来てる」
T高校第二共用棟最上階生徒会執行部室に入るや否や、不満げな声を上げる小林凛(こばやしりん)。本校の生徒会書記である。
「やあ凛。あの女ってどの女かな?」
机上の書類から目を上げ、佐藤蓮(さとうれん)は問い返す。
「……とぼけんなよ。わかるじゃん。あいつだよ。面倒くせぇ……」
「り~んちゃんよぉ~、誰がめんどいやってぇ~?」
身長151cm程度の凛よりもさらに8cmほど背の低い色白の西洋人形のような少女が入室する。
不敵な笑みを浮かべた少女は、すばやく凛の背後に回り、凛の脇腹に指を這わせた。
「ぶひゃっ!? ちょまっ、だひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! うにょぉぉぉ~~っほっほっほっ、やめで……っぎゃははははははは!!」
凛は身をよじり、涙を流しながらその場に倒れこんだ。
少女は、両手を凛の脇腹に押し当てたまま馬乗りになり、くすぐり続ける。
「おうおう、相変わらず弱いやっちゃなぁ~」
「ぎゃははははははっちょっ!! やめっ、だめっ、しつこいっ!! しつこいってぇぇぇっひゃっひゃっひゃ」
「これはこれはスズキ総長。ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
蓮は立ち上がり、来客用の高級ソファを手のひらで示した。
「ようやく生徒会長(かしら)が板についてきたようやんなぁ? 佐藤会長?」
少女――K女学園生徒会長兼学生自治団総長、鈴木玲奈(すずきれいな)――はニヤリと口角を上げると、勢いよく凛の上から飛び降り、そのままどすんとソファへ身体を投げた。
「凛ー、お茶ー」
玲奈は脚を投げ出すように正面のテーブルの上で組みながら、間延びした声を上げた。ローファーのかかとが、コチとテーブルの上で音を立てた。玲奈の着ているK女学園の制服はかなりスカート丈が短いため、下着が見えそうになる。
凛は、床に四つんばいになって、はぁはぁと息を切らしている。
「凛ーっ!」
玲奈は右目のモノクルを外し白いハンカチで拭きながら声を張った。
「……はぁ……ちょっとは、休ませろっての……このアマ……」
凛はいまいましげにつぶやき立ち上がる。
「会長、書記の言葉遣いちゃんと指導しときやー」
玲奈は鼻にかかった声で小姑のように言いながら、モノクルに息を吹きかける。
「ハハッ、失礼。凛? お客様にお茶を」
蓮は、玲奈の正面のソファに腰掛けた。
「鈴木総長は、この季節でもアイスティーがよろしいんですよね?」
「ノンシュガー、レモン2、茶葉1.5ぉー」
「だって。凛。頼むよ? ハハッ」
蓮が言うと、凛はしぶしぶという風に隣の給湯室へと姿を消した。
「さて……」
「あの可愛い一年は今日おらんの?」
蓮の言葉にかぶせるように玲奈が問う。
「……どの一年生のことですかね? ここに出入りする一年生は可愛い子しかいませんので」
「副会長」
「ああ、彼女なら今、心愛(ここな)と一緒にジャーナル部の方にいますよ」
「データバンクと? なんで?」
「校内で未調教の子達のピックアップをしてもらってます」
蓮の答えに、玲奈は驚いたように目を見開いた。
「はあっ!? まだここ全校生徒奴隷化終わっとらんの!? 会長就任してどんだけ経っとんね、いっくらなんでも遅すぎやろ、おま……っ」
玲奈はそこで一旦口をつぐんで、
「佐藤生徒会長さんよ」
一応「お前」呼ばわりを訂正した。
「ハハッ。僕は鈴木さんと違って、じっくり調教する過程を楽しみたいタイプなんですよ」
「まあええけどやなぁ……はよ終わらせてくれな、ウチの選択肢がいつまでも広がらんやん。どんだけ待ちゃぁええの?」
玲奈はため息をつき、脚を組み直した。
「鈴木さんにお送りした本校の調教済み生徒名簿はかなり充実させたつもりですが」
「穴だらけやん、あれぇ! 課金前で選択項目が部分的にグレーになっとる感じ……見えとるのに選べんストレス! ウチはお宅さんと違って、全部駒揃ってから選ぶ過程を楽しみたいタイプなんやっちゅーに」
「全校生徒となると、調教にはまだ時間がかかりそうですね」
「そうなんや……まあ、しばらくは古参メンバーおるけぇ、ええけどやなぁ」
凛が戻ってきて、そっとアイスティーの入ったグラスを玲奈の前へ置いた。
玲奈は一口飲んで、
「さ、取引の話しよか」
ふーっと天井をあおいだ。
「前回同様、副会長とデータバンクの二人」
玲奈の言葉に、蓮は頷き、
「鈴木さん、気に入ってますね。レンタル日数はどうしましょう?」
「一泊二日」
「よろしいんですか?」
「今回、こっちの製品がそんなたいしたもんやないけぇ」
「いえいえ、ありがとうございます」
蓮が軽く頭を下げると、玲奈はポケットから、一対の白い手袋をとりだし、テーブルの上へ放った。
「『擽力増強グローブ』」
蓮は受け取ると、にやりと笑みをこぼす。
「試すんやろ?」
「もちろん」
「場所は?」
「この下の階、会議室Cを空けてます」
「りょーかい」
玲奈は胸ポケットから携帯を取り出し、ソファにふんぞり返る。
「あー、モリー? 予定通り。あがっといで」
◆◆◆
T高校文化祭の一件以来、K女学園は大切な取引相手となっていた。
何を隠そう、K女学園のトップに君臨する鈴木玲奈は蓮と同じく極度のくすぐりフェチ。しかも、くすぐった人間をその指の虜にする能力にかけては、蓮をはるかに凌ぐ、凄腕のくすぐり師であった。
文化祭でT高校側がK女学園の女子生徒に手を出してしまったことを発端に一時対立を生んだものの、結果両者とも貴重な情報を得ることができた。
一度あるくすぐり師によって調教を受けた者は、他のくすぐり師の調教を受けない。
蓮の指に調教された者はいくら玲奈がくすぐってもその虜とはならず、玲奈の指に調教された者は蓮がいくらくすぐってもその虜とはならなかったのである。
現在二人は、くすぐり器具やくすぐり奴隷の貸し借り等の、協力関係にある。相手から提供される「決してこちらの指を受け入れることのできないくすぐり奴隷」は、常にこちらへ拒絶反応を示し続けてくれる。絶対に落とせない奴隷達を無理やりにくすぐり笑わせる行為は、互いのS欲求を満たすのに役立った。
◆◆◆
T高校第二共用棟会議室Cの中央に、黒いセーラー服を着た二人の少女が大の字で並べて拘束された。
二人とも左胸に名札をつけており、向かって左が『福田(ふくだ)』、右が『西村(にしむら)』とある。
身長約146cmの福田は、前髪ぱっつんの耳だしボブヘアで、ふて腐れたようにつんとそっぽを向いている。小さな目とふっくらとした頬が、小動物のような印象を際立たせている。
身長約148cmの西村は、1000円カットで粗く切っただけのようなセミロングで、ボーっと宙を眺めている。能面のような顔立ちが、日本人形のような印象を際立たせている。
制服の胸に付いたリボンは白で、靴下と運動靴も白に指定されているようだ。
二人の少女の拘束を終えた黒服女子集団は、K女学園の参謀、森杏(もりあんず)の指示で、壁際へと移動し整列した。
「総長、セッティングが完了いたしました」
「うむ」
杏の透明感のある声は、か細くとも室内全員の耳を一瞬でひきつける魅力を持つ。身長157cmほどの華奢すぎる体躯を隠すように、ぶかぶかの白衣を羽織っている。
「これはどこの制服かな?」
蓮は疑問を口にした。
「E中学の冬服です。糞野郎」
杏は丁寧な口調で言った。
「杏。糞野郎とはご挨拶だね」
言いながら蓮は、杏の細すぎる腰を白衣の上から両手でくにっと掴んだ。
「ひきゃっ!!? な……、さっ、触らないでください!」
「杏の声は相変わらずかわいいね」
もがく杏を尻目に蓮は、指をくりくりと動かし始める。
「きゃっ、きゃはっ!!? きゃはははははっ!! やぁっ、いやぁ! やめくださいっ、変態! 糞野郎っ! 総長っ、やめさせ……っきゃははははははっ!!」
甲高い声で笑いながら、両手を蓮の顔へ押し当てて嫌悪感を示す杏。
「おっと杏、逃げたらだめだよ? こっちはさっきそちらの総長さんに、うちの凛をやられたばかりだからね。取引外での貸し借りは早めに清算しておかないと。……鈴木総長さん、構いませんよね?」
蓮が指を杏の腋や脇腹へ滑らせながら言うと、
「あぁ、てきとーに」
玲奈は、拘束された二人の中学生の顔を覗き込みながら、興味なさそうに言い放った。
「きゃはははっ!? 総長ぉぉ~~っはっはっはっはっ! 助けてくださいっ! ひひひひひひ、私っ……この人嫌いですっ! 嫌ぁぁははははははっ」
杏は必死に腋を閉じ、地団太を踏んで暴れる。
杏はすでに玲奈の指に落ちているため、蓮の指で落ちることはない。それゆえに示される拒絶反応が、蓮を高揚させた。
「さて……」
蓮は杏を解放すると、玲奈の隣に並んだ。杏は息を切らして蓮をにらみつけている。
「ここ来る途中、E中張って、校門から出てくる中学生の中から見つけたんよ」
玲奈は、杏を気遣うそぶりも見せず、二人の中学生の説明を始めた。
「こっちが擽力1」
玲奈は福田を指す。
「こっちが擽感1」
そして隣の西村を指す。
「くすぐるのが下手なやつと、くすぐられるのに強いやつ、両方見つけるんは骨やったわ」
玲奈はふふんと笑いながら、自身のモノクルを人差し指で軽く押し上げた。
「あ、そのモノクル、擽力も表示されるようになったんですか」
「こないだ美咲(みさき)借りたときになー。若干改良したんよ」
もともと玲奈のモノクルには、レンズ越しに見た人間の『擽感:擽られ感度』を表示する機能があった。今回、新たな表示項目として『擽力:擽り力』が追加されたらしい。
「森ー? そんなところでうずくまっとらんで、はよ説明してー」
玲奈はモノクルの新機能を自慢して満足したのか、杏に説明を丸投げした。
「……はぁ、はぁ……わ、わか、ってます」
森は、立ち上がると、一旦蓮をじろりとにらみつけてから、用箋挟を構えた。
「今回提供させていただく『擽力増強グローブ』ですが、名前の通り、手にはめて他者をくすぐっていただきますと、本来の擽力以上の力を出すことができます。えー、山本(やまもと)美咲氏の作成した擽力表に照らしますと、初期値+8~+10程度の擽力増強が期待できます」
「ハハッ、それはすごいn」
「喋らないでください。糞野郎」
杏は蓮の感嘆をかき消すように言う。蓮は肩をすくめた。
「『擽力増強グローブ』の効果を確認いただく実験では、二種類の女子中学生を使用します。それぞれ擽力1、擽感1を特徴とし、他ステータスは無視をして選出しています。まず、総長もしくは糞野郎に擽力1の女子中学生を落としていただき、擽感1の女子中学生をくすぐらせます。そこで擽力1のくすぐりで擽感1の身体がどの程度の反応を示すのかを確認していただいた上で、今度は『擽力増強グローブ』をはめた擽力1の女子生徒に、擽感1の女子生徒をくすぐらせます。『擽力増強グローブ』の効果により、擽力1の女子生徒の擽力は10程度に増強されることが期待されます。擽力表の表記『擽力1:くすぐりに弱いと自己認識している者を驚かせる程度』『擽力10:くすぐりに強いと自己認識している者を笑わせる程度』から、『擽力増強グローブ』の効果はかなり顕著な反応として確認いただけると思います。実験終了後、使用した女子中学生二名は自由にしていただいて結構です」
言い終えると、杏は一歩下がる。
「つーわけで、どっち取るか決めよや」
玲奈は拘束された女子中学生を指差して言った。
「僕はもう喋っていいのかな?」
蓮は杏を見る。杏は黙って蓮をにらんでいる。
「あー、森はもう出番終わりやけぇ、気にせんで。それより、せっかく二人も中学生おるんやけぇ、おたくとウチで分けよや」
「そうですか。じゃあ……、僕としては、こっちのやさぐれ気味の福田さんが欲しいですね」
「ふふん。らしいなぁ。反抗的な奴を屈服させたいっちゅーいつもの変態趣味かー? ほんなら、ウチはこっちの西村ちゃんか。実験終了と同時に、壊しちゃるけぇなー」
玲奈はぺろりと舌なめずりをした。
当の中学生二人は、まったく状況が飲み込めない様子だった。
「最初は佐藤会長さんからやんな。あんま時間かけすぎんといてや?」
「まあ、ほどほどに遊ばせてもらいますよ」
「ほどほど、な。森ー? 椅子ー」
玲奈は杏の持ってきた肘掛け椅子にどかっと腰掛け、脚を組んだ。
頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる玲奈を尻目に、蓮は大の字に寝そべる女子中学生のもとへ一歩足を進めた。
●●●
「君、下の名前は?」
蓮は大の字仰向けに拘束された福田に問いかけた。
「……あんた、誰?」
福田はつんとそっぽを向いたまましばらく黙っていたが、ぼそりと問い返した。
「僕は佐藤蓮。T高の生徒会長さ」
「……キモ」
福田は憮然としてつぶやく。
「ハハッ、ひどく嫌われたものだね。僕は君と仲良くなりたいんだけど、駄目かな?」
福田は答えない。
「じゃあまず下の名前を教えてもらって、距離を縮めるところからはじめようか」
言うと蓮は、くっと両手十本の指を福田の脇腹へつきたてた。
「うひっ!?」
びくんと福田の身体がのけぞった。
「おや? 案外くすぐったがり屋さんなのかな?」
「……っ!!!」
一気に顔を紅潮させ、ひくひくと頬を上下させる福田。
「下の名前を教えてくれるかな?」
「……――ほ、よ」
観念したように福田は口を小さく動かせた。
「……花帆(かほ)、よ」
福田の声は震えていた。
「福田花帆ちゃんだね?」
こくりと頷く花帆。
「よく言えたね、ご褒美だよ」
蓮は、花帆の脇腹でわしゃわしゃと十本の指を蠢かせた。
「んはっ!!!? ぶぁっはっはっはっはっはっはっ!!?」
花帆はすっかり油断していたのか、驚いたように目を見開き笑い始めた。
「いやっはっはっはっ、なっ!! 嘘つきぃぃっ、名前言ったのにぃぃっひっひっひっひっひ~~!!」
「別に僕は、『名前を教えてくれたらくすぐらない』なんて言ってないよ?」
言いながら蓮は、指先をぐりぐりと花帆のあばらへ押し込んだ。
「うひっ!!! やはははははははっ!! だめっ、やはっ!? やみて~~っはっはっはっは」
「『やみて』ってかわいいね。花帆」
指でぐりぐりと骨をほぐすようにくすぐる。
「ぎゃはははははははっ!!! やっ、言うなぁぁぁっはっはっはっはっは~~っ」
蓮は蠢く指を徐々に上方へ移動させていく。
「さて、花帆は何年生かな?」
「やははははははっ!! うわっはっはっは」
ただ笑い続ける花帆。
「ほら、早く言わないと弱そうな腋の下へ到達しちゃうよ?」
蓮は指の動きをやや抑えいじわるく言う。
「やはははっ……にっ、二年!」
花帆は首を左右に振りながら叫んだ。ぎゅっと閉じられた目には涙が浮かんでいる。
「そっか。じゃあ来年受験だね」
言うと蓮は指の動きを速めながら、
「おっと、腋の下に到達しちゃったね」
花帆の腋の下を勢いよくくすぐった。
「ぎゃっ、だぁぁっはっはっははっはっ!!!? にゃっ、ひぎゃぁぁっはっははははははははっ」
花帆は首を上下に振り乱して笑う。
目を見開き、蓮をにらみつける。が、口元が思い切り笑っているのでまったく怖くない。
「だから『言ったらやめる』とは言ってないよ? 花帆は早とちりさんなんだね」
「だっはっはっはっはっ!! やめろぉぉ~~ははははははははははっ!!」
花帆は背中を浮かせて身体をのけぞり、笑わされつづけた。
しばらく花帆の腋をくすぐった蓮は、花帆の足下へと移動した。
「どう、花帆? 苦しいかい?」
花帆は体中汗だくで、顔の横には涙の筋が跡になっている。
「……うぅ……苦しいょぅ」
「だいぶ素直になってきたね。えらいよ花帆」
蓮は笑いながら、花帆の運動靴を両足から脱がした。
白い靴下を履いた足の裏は、薄灰色に汚れ、指の形がぼんやりと見えた。
「花帆、部活はやってるの?」
「……ぅう」
花帆は答えず、涙を流した。
蓮は、花帆の両足の裏、土踏まずのアーチの部分をこそこそと人差し指でくすぐった。
「きゃはははっ!!!? あはっ、いひゃあぁっ、バっははははっ、バドミントン!」
「そっか」
蓮はかりかりと、指の動きを速める。
「いやっはっはっはっはっ!! やめっ、ひっひっひ、やだぁぁぁははははははっ」
ぶんぶんと左右に首を振って笑う花帆。
「練習きつい?」
「やっはっはっはっはっ!! あんまりっ!! きっひひひひ~~」
靴下の上からでも花帆の足の指がぎゅっと縮こまっているのがわかる。
蓮は、花帆の足の裏をくすぐりながら、違和感を覚えた。足裏の筋肉のさわり心地が、運動を日常的にやっているような印象を受けないことに加えて、
「今日平日だよね? 部活はなかったの?」
「っ!!! いやっはっはっはっは!! う……はははははははっ」
花帆はわかりやすく動揺を見せ、笑い続ける。
蓮は両手の指を三本ずつに増やし、花帆の足の裏を掻き毟った。
「だひゃっ!!? ぎゃははははははははっ!!! サボった! サボったあぁあっはっはっはっはっ! ごめんなさいぃぃっひっひっひっひっひっひ~~!」
花帆は足をくねくねと左右へ振り動かしながら泣き叫んだ。
「別に僕に謝ってくれなくてもいいんだけどね」
蓮は微笑むと、花帆の両足から靴下をするりと脱がし取った。
エジプト型の正常足。
親指の付け根のふくらみが少し黄色くなって乾燥しており、かかとの部分は一部皮がむけかかっている。
足の手入れはまったくされていないようだ。
蓮は花帆の両方の素足に指をあて、かかとから一気になぞり上げた。
「うひゃぁぁんっ!!?」
花帆が甲高い声を上げる。目からはとめどなく涙があふれ出す。
「どうしたの? 花帆。やめて欲しいかい?」
蓮は、花帆の両素足の土踏まずの上のふくらみ部分に、それぞれ四本の指を突き立てて言う。
「うふっ……ひ、や、やめて、ください」
花帆は、搾り出すような声で懇願した。
「やっと敬語が使えたね。えらいよ。花帆」
言うと蓮は、がりがりと計八本の指で花帆の素足をひっかいた。
「がはっ!!? あはっはっはっはっはっはっ!!! だぁぁぁ~っひゃはははははははは!!」
花帆の足指がびっくりしたように反り返る。と、花帆は泡を吹かせて笑い出した。
「がははははっはっ!! げほっ、やめっ!! やめてって、ぎぃぃっひっひっひっひ、やめてってぇぇぇぇだひゃはははははははははっ!!」
花帆の口元からだらだらと涎が流れ出る。
「僕は『やめて欲しいならやめる』とは言ってないよ」
蓮は笑いながら、花帆の暴れる足指の付け根をほじくるようにくすぐる。
「うひっ、ぎぃぃっひっひっひ、もうやだぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!! 助けてぇえぇぇっはっはっはっはっはっはっ」
花帆の身体がはちきれんばかりにのけぞる。脚をがにまたに開いて膝をがくがくと揺らし、飛び上がらんばかりである。
しかし、拘束具のゴム縄が花帆の手足を締め付け、花帆を逃がさない。
「だぁぁぁぁっはっはっはっはっはっ!! ぎにゃぁぁっ」
「どう? 花帆、そろそろやみつきになってきたんじゃないかい?」
蓮は、花帆の右足の指を押さえ、反らせた素足の裏をくすぐりながら言う。
「ぎにゃっ、あぁぁ~~っはっはっはっははっは!!?」
花帆は目を見開いて大笑いする。
「僕の指、もっと欲しくないかい?」
反らせた足の指の付け根をかりかりとひっかく。
「ぐひひひひひひひっ!!! いぃぃぃ~~っひっひっひっひっひ!!!」
花帆は舌を出して笑い悶える。
かなり限界の様子で、顔は涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃだ。
「まだ素直になれないかな? なら、やめちゃってもいいかな」
蓮は言いながら、花帆の右足の縁の部分を両手の指先でさわさわとくすぐった。
「ふわっはっはっはっ!!! ひゃっ、ひゃめっ……っひっひひっひ」
花帆の身体がびくびくと痙攣する。
蓮は徐々に、指の動きを弱めていく。
「ひ、ひひひっ……くふ、ふひひひ……」
花帆は悩ましく眉を寄せ、ぐっと歯を食いしばった。
ぎゅっと目を閉じ、何かを耐え忍ぶような花帆の表情を見て、蓮は唐突に花帆のかかとを十本の指でがりがりと一気に掻き毟った。
「ぶぎゃひゃはははははははははっ!!!! あぎゃぁぁあっはっはっははっ、やめないでっ!!! ぎゃははははっ、続けてっ、ぎひひひひひひひひっ!!! お願いしますぅぅぅ、ぎゃっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
髪の毛をぶんぶんと振り乱しながら花帆は叫んだ。
蓮は、もう何人目になるかわからない奴隷の誕生に、笑みを浮かべた。
「おめでと」
玲奈からは、ぺち、ぺち、と小ばかにしたような拍手が送られた。
◆◆◆
「ああぁぁぁっ!!」
いきなり蓮が指を止めたため、花帆が落胆の混じった悲鳴を上げた。
「やぁっ!! れ、蓮様っ! やめないでくださいっ!!」
すっかり落ちてしまったらしい花帆は、涙ながらに蓮を見つめた。
「花帆」
「はい」
即答。さきほどまでの反抗的な態度とは打って変わって、従順な態度を示す花帆。
「僕の指が欲しいかい?」
「欲しいです!」
「なら、ちょっと実験に協力して欲しいんだ」
「…………」
考えるように眉を寄せる花帆。
「協力してくれないなら、僕の指はあげないよ?」
途端、花帆は泣きそうに瞳を潤ませる。
「……実験が終わったら、絶対に、蓮様……くすぐってくれますか?」
「約束しよう」
花帆の協力の意思を確認すると、玲奈が顎でK女黒服女子へ指示する。
黒服女子達は、花帆の拘束を解いた。
「あの、……蓮様」
花帆は身体を起こし、脱がされた運動靴を履き直しながら慎ましい声を出した。
「なんだい? 花帆」
「その……、先に下着を取り替えても、いいでしょうか。……その、……びちょびちょに、濡れちゃって」
花帆はぎゅっとスカートの裾を握り締め、赤面して言った。
「はっ! か~~いちょ~~っ、女子中学生に何言わせとんね!」
後ろから、玲奈がご満悦の様子で囃した。
●●●
「西村、……さん?」
着替えを終えた花帆は、大の字に拘束された西村の前に立った。
西村は、ぼーっと花帆の顔を見上げると、目をぱちくりさせた。
「……え?」
「全然喋ったことないけど、あなたを笑わせないといけないみたいだから、協力して」
花帆は、ちらちらと蓮の方を気にしながら不機嫌そうに言う。
「え?」
西村はとぼけた表情で聞き返した。
眠そうな目は、まったく覇気がない。
花帆はちっと舌打ちをした。花帆にとっては、会話がスムーズに進まない西村の性格、何事にもやる気がないように見える態度が気に入らないのだろう。
花帆と西村は同学年だが別のクラスで、一度も会話したことはないのだそうだ。
クラスも部活も違い、性格も真反対の花帆と西村に接点がないのはごく当然であろう。
「部活、なんかやってるの?」
蓮の真似をしてか、花帆は西村に問うた。
「……え?」
西村は花帆の質問全部を聞き返している。花帆はため息をついた。
「これからあなたをくすぐるから」
花帆は西村の聞き返しには答えず、両手を西村の腋の下へと伸ばした。
「こ、こちょこちょ」
花帆は言いながら指を動かす。
が、さすが擽力1。西村はぴくりとも反応しない。
「くすぐったくないの?」
しばらくくすぐった花帆は西村に問う。
「……え?」
再び聞き返す西村。
「イラッ」
口で言ってしまうほど、花帆は苛立った様子だ。
「ふ、あいつアホやな」
玲奈は壁際で椅子にふんぞり返ったまま、隣の蓮に小声でささやく。
「あんなもんくすぐったいわけないやん。指先で服のゴミ落としよるだけやないかい」
「まぁまぁ鈴木さん。擽力1ですから」
蓮もフォローするが、内心「駄目だこいつ」と見限っていた。
花帆はただ、西村の着ている服の上で指の関節を動かしているだけだ。くすぐる対象がまったく把握できていない上に、力加減が全然駄目だ。あれはくすぐりではなく、指の運動だ。指の運動をしている先に、偶然西村の腋があるに過ぎない。
花帆にもプライドがあるようで、なんとか西村を笑わせようと画策しているようだ。
西村の足下へ移った花帆は、そっと西村の運動靴を脱がす。
「え? 何?」
西村は急に首を起こし、足下の花帆をにらんだ。
面倒くさそうな声に、花帆のプライドは余計に傷ついたようだ。
「だからくすぐるっていってんじゃん」
「え?」
西村の侮蔑を含んだようにも聞こえるやる気のない声に、花帆は再び舌打ちをした。
花帆は反撃のつもりなのか、
「西村さん、ちょっと足、臭うよ? ちゃんと手入れしてんの?」
「「お前が言うな」」
思わずハモる蓮と玲奈。
西村も、花帆の発言は気に障ったのか、あからさまに眉を寄せた。
「別に臭くないよ」
「へぇ、西村さん自分の足のにおい嗅いでるんだぁ~~、きっもーい」
花帆は鼻にかかった声で言う。西村は呆れたという表情で、そっぽを向いた。
「はよせーや!」
女子中学生のノリにイラついたのか、玲奈が怒鳴った。
びくっと肩を震わせる花帆。西村の方は、無反応にも見えたが、ワンテンポ遅れて視線を玲奈の方へ向けて反応を示した。肝が据わっている。
玲奈は用心棒のように椅子の上で膝を立てており、ギラリと光る眼光は、かなりの迫力であった。
「花帆? 君らのやりとりは実験上あまり意味がないんだ。そこやったら、もう次進んでもらえるかな?」
蓮は苦笑しながら諭すように言った。
「は、はい! す、す、すいませんっ」
花帆は大声で謝ると、西村のうっすら糸くずのついた白い靴下の上に指をあてた。
「こちょこちょ」
口に出す花帆。
しかし、西村は足下を見ようともせず、無反応だ。
こんなもんか、と蓮は思う。
布一枚のみに覆われた足裏とはいえ、花帆の力は弱すぎる。あの手の弱いタッチでくすぐるならば、もう少し動きにひねりを加えなければ効果は生まれない。素足ならばまだしも、あれでは、靴下の生地のさわり心地を確かめているだけだ。蓮は、まさか花帆が、最もくすぐったさを感じない人体の触れ方を体得しているのではないかという、錯覚すら覚えた。
花帆は無反応な西村に苛立ったのか、左足の靴下をいっきに引っこ抜いた。
西村の素足が露になる。足の指がそれぞれかなり短い、エジプト型の扁平足だった。
靴下を脱がされた感覚にはさすがの西村も首を起こして足下を見て、はぁと呆れたようなため息をついた。
「何?」
「全然くすぐったくないの?」
花帆は言いながら、西村の素足に指先を這わせた。
「返して」
花帆は指先でさわさわと土踏まずからかかとにかけて撫でる。
「えっと、くすぐったくない?」
「ソックス、返して」
西村は憮然と繰り返した。
蓮は「これが擽感1か」と感心した。
花帆のくすぐり方がものすごくへたくそなのを差し置いても、素肌をあれだけ撫でられて、まったくの無反応、しかも平然と喋っている西村はかなりくすぐりに強いと見える。出逢ったばかりの葵(あおい)を連想するが、それ以上かもしれない。
「ほんとに全然くすg」
「早く返して」
西村に真顔で言われ、花帆は指の動きを止めてしまった。
◆◆◆
「いいよ、花帆。よくがんばったね」
蓮は花帆にねぎらいの言葉をかけた。
「蓮さm」
「じゃあ、それつけてやってみて? 腋の下からだよ?」
蓮はいちいち感激しようとする花帆をさえぎり、『擽力増強グローブ』を指した。
玲奈は用心棒の姿勢のまま、花帆をにらんでいる。「はよやれよ」という風に顎でしゃくると、花帆は少し怯えた様子で、『擽力増強グローブ』を装着した。
「8やな。陽菜(はるな)ぐらいか」
玲奈はモノクルで、花帆の擽力が1から8へ増強されたことを確認したようだ。
「……なるほど」
蓮が頷くのと同時に、
「森ぃぃっ!」
玲奈が怒声を上げた。
「はい、総長」
杏はすばやく玲奈の傍に膝をついた。
「説明書、訂正しとけよ?」
「……はい?」
杏が聞き返すと、玲奈は途端般若の形相を作り、
「お前さっき『初期値+8~+10程度の擽力増強が期待』できる言うたやろがっ! 『+7~』に直しとけ言いよんや! わかれや、一回でぇっ!!」
玲奈の怒鳴り声に、花帆が「ひぃ」と震え上がった。西村はくっと眉をしかめた。
「は、はいっ! 申し訳ございません!」
杏は全身全霊という風に声を張った。
目に涙まで浮かべ、実に哀れである。
玲奈の視線はすでに、花帆と西村へ向けられている。杏の謝罪には見向きもしない。
「のう、佐藤会長さんよ。うちの製品の効能良ぅ見ときな」
玲奈はにやけ顔を蓮へ向ける。
「ハハッ。オーコワイコワイ」
「なんて?」
「なんでもありませんよ、総長さん。始まりますよ?」
蓮は、自分に落とされた奴隷達は案外幸せ者の部類だろうと思う。
●●●
「西村s」
「ソックス返してって」
西村は口調こそ淡々としているがかなり苛立っているようだ。
「今度こそ、笑わせてやるから!」
花帆は西村に向けて、いーっと歯を見せると、両手を西村の腋の下へとつきたてた。
「……っ」
ぴくり、と西村の身体が反応する。
「こちょこちょ~」
言いながら花帆は、指をゆっくりと動かし始めた。
「……何?」
西村の口調は変わらない。
「えっ? くすぐったくないの?」
「……っ、やめて。ソックス早く返して」
花帆は不安げに蓮を見る。蓮は「続けて」と目で合図する。
「グローブをはめると、本人が擽力8になるわけではなく、指の動きが擽力8になるってことですね?」
蓮は小声で玲奈にささやく。
「その通り。さすが佐藤会長。見たらわかるんやんな。……あいつ、もう論外やろ。あの反応見て、『くすぐったいのを我慢』しとるって見抜けんようじゃあセンスないわ」
「まあまあ鈴木総長。もとが擽力1ですから……」
蓮は、フォローしながらも花帆の先行きが不安だった。美咲や凛にトレーニングしてもらえば、なんとかなるだろうか?
花帆は、西村の足下へと移動した。
蓮は軽くため息をついた。
腋は十分効果が見られた。もっと時間をかけてくすぐれば、セーラー服の上からでも十分笑わせられるというのに。
花帆が西村の素足に手を伸ばそうとすると、キッと西村が首をもたげ、花帆をにらんだ。
「……何? やめてって言ってるのに、聞こえないの?」
西村はやや早口に言った。焦りが見え隠れしている。
「言ったじゃん? 私、西村さんを笑わせないといけないから」
花帆は言うと、グローブをはめた人差し指をつつーっと西村の素足に這わせた。
「――っ!!! フッ……っ!」
西村はぴくっと肩を震わせ、吹き出す。
が、すぐに口をぐっと結び、こらえた。
「なにがしたいの? もう意味ないから。やめたら?」
西村は苛立ったような声で言った。
花帆は、再び不安げな表情を蓮に見せた。
本当にまったくわかってないんだな、と思う。蓮は微笑んで頷いてやる。
ちらりと隣の玲奈を見ると、花帆の不手際にかなり苛立っているようで、爪を噛み貧乏揺すりを始めていた。
花帆は、再び西村の素足に指をあて、さわさわと撫でる。
「……っ! やっ、やめて。ソックス早く返して。時間の無駄だから」
「くすぐったくないの?」
花帆は指先で西村のかかとを触りながら言う。
「くっ、……っ」
西村は一旦言葉をつまらせて、
「くすぐったくないから……っ」
頬を若干引きつらせて言った。
西村はかなり饒舌になっている。蓮の目からは西村がかなりくすぐったがっているのは明らかだったが、花帆にはそれが理解できないようで、何度も不安げに指を止め、蓮の顔色をうかがう。
「まるで自動小銃持たされた二歳児やな」
「的確ですね。本人の能力を超えた技術がいかに無益かよくわかります。ただ、『擽力増強グローブ』はすばらしいですね。ある水準以上の人間が使えば、間違いなく有効活用できるでしょう」
「ほんなら、実験は成功ってことでええんか?」
「はい。『擽力増強グローブ』の効能は十分に把握しました」
「……い、いい加減にしてよ」
西村がくっと顔をしかめて言うと、花帆は指の動きを止めた。
「はい! 花帆、ご苦労様! 下がっていいよ」
蓮は、今にも泣きそうな表情の花帆にやさしく声をかけた。
「すっ、すいません! 蓮様……っ、私っ」
「いいよ。笑わせられなかったことは気にしなくて。これからゆっくり、花帆のペースで上達していけばいいからね」
「蓮様……」
花帆はぽーっと呆けたような表情をする。
蓮は花帆の手にはめられた『擽力増強グローブ』を見て、今後の使用法に思いをめぐらせた。
玲奈は杏から受け取ったアイスティーを飲み干すと、ゆらりと立ち上がり、ゆっくりと西村の拘束された台へと歩いていく。
「あ、始まるよ、花帆。目をそらせたら駄目だよ?」
「な、何が始まるんです?」
「本物の、くすぐり調教だよ」
蓮は、玲奈の後ろ姿、左右に広がるロングヘアを見つめ、軽く背筋を伸ばした。
●●●
「名前は?」
「え?」
玲奈は西村を見下ろすとすぐに質問した。西村は花帆のときと同様に聞き返す。
「下の名前」
「……なんで言わないといけな――ひぃっ!?」
突然怯えたような表情をする西村。
玲奈はただ、指先を西村の身体へ向けただけだ。
「……紗那(さな)、です」
花帆のくすぐりでは、感情をほとんど表に出さなかった西村紗那の声が、明らかに震えている。
「西村紗那? 今日からお前はウチの奴隷や」
「…………」
紗那は、聞き返さず、
「あなた、……いったい、何者なんですか?」
顔を恐怖にこわばらせて言った。
玲奈は「ほやな」と考えをめぐらせるそぶりをし、鼻で笑った。
「調教くすぐり師とでも名乗っとこか」
○○○
蓮は、美咲の言葉を思い出していた。
『あれは、人間ではありません』
二泊三日のレンタル期間、美咲が玲奈の何を見て、何を感じたのかはわからなかったが、美咲の言葉は真に迫っていた。
『あれだけの技術を習得するためには、拷問……いえ、そんな生ぬるいものではなく、地獄。本物の地獄です。人一倍感覚過敏の女の子が、いつ終わるかも知れない地獄を、自我形成の段階から延々と見続けなければならなかったはずです』
『地獄?』
『とんでもない数の人間に、代わる代わる、倫理的にありえない非人道的なありとあらゆる手法でくすぐられ続ける毎日。年端もいかない小さな子どもが、24時間、365日、ずっとです。そんな想像にも耐え難い地獄のような環境で、発狂せず、自分を保ったまま生き残る確率は』
蓮は息を呑んだ。
『一千万分の一です』
○○○
会議室Cに耳をつんざくような絶叫が響き渡った。
「いぎゃぁぁぁああああっはっはっはっはっはっ!!! あぁぁああひゃひゃひゃひゃっ、ひぎゃぁぁはははははははははははははっ!!!?」
紗那は、両手両足を引きちぎらんばかりに身体をのけぞらせ、笑い叫んでいる。
玲奈の指が、セーラー服を着た紗那の脇腹に食い込みくすぐったさを与えているようだ。
「うひゃひゃひゃひゃっぎゃぎぃひひひ、むでぃ無理っ!!! ひひひひひひひひ無理無理無理ぃぃぃぐひゅひゅひひひひひひひひひっ」
左右に髪の毛を振り乱して笑う紗那。能面のような顔は醜くゆがみ、涙や鼻水を撒き散らす。
『擽力とか、そんな次元じゃないんです。あれは』
「あぁぁばばばばばっ!!!? にゃかぁぁぁっははっはっひゃっひゃひゃっ、中はぁぁわうひぇひぇひぇひぇっ!!!?」
玲奈の指は、セーラー服の裾から内側へ侵入し、紗那のおなか、素肌を直にくすぐった。
「おぼぉぉぉぉっふぉっほっほっほっほっ!!!! んぎゃぁぁぁはははははははははっだぁぁぁ」
紗那の身体は前後左右上下に暴れまわる。
拘束された両手両足の指先がびくびくとめちゃくちゃに動き、そのとてつもない苦痛を物語っている。
「ひ、あ、あんな……」
紗那をまったく笑わすことのできなかった花帆が絶句している。
「あぎゃぁぁひぇひえぇひぇひぇひぇっ!!! んびゃぁぁぁあっはっはっはっはっはっはっ」
腋の下をくすぐられ、紗那は白目を剥き始めた。
ぱっと両手で目を覆う花帆。
「駄目だよ、花帆。ちゃんと見ないと」
蓮は言うと、花帆も覚えながら指の間から紗那の暴れ狂う姿を垣間見た。
「森ーお茶ー」
喉が渇いたらしい玲奈は杏を呼びつけた。右手でくすぐり続けながら、左手でアイスティーの入ったグラスを受け取っている。杏は玲奈の要求を予測して、しっかり新しくアイスティーを準備していたようだ。
「ひぎゃぁぁががががが、びゃっ!!! ひゃべっ、ひゃべっでぇぇひぃひぇひぃひぃひっぃいいっひいっひっひっひっひっひ~~っ!!」
玲奈はまったく紗那の方を見ずに、アイスティーをごくごくと飲み干す。
右手の親指で、紗那の小ぶりな胸の付け根をいじっているだけだが、紗那は必死に身をよじり、首をねじり、くすぐったさから逃れようと必死に暴れている。
玲奈は杏へグラスを放り返すと、靴を脱ぎ、紗那の身体に馬乗りになって抱きつくような体勢で、両手で紗那の顔を持ち、至近距離で首筋や耳をくすぐり始めた。
「あひっ、あひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! はぎゃぁああひあひあひあひっ」
紗那の顔は、苦悶の表情から恍惚の混じった表情へと変化していく。
眉間の皺が弛緩し、目の焦点がぶれている。
「西村ぁ、どうや? 気持ちええやろ?」
「あひゃはひゃひゃ、はいぃぃいっひっひっひっひ!!! きもちぃれしゅぅぅひひひひひひひひひ」
紗那の頬はひきつって笑ったまま固まっている。眼球は天井辺りの宙を見つめたままぐるぐるとゆるやかに円運動。本当に壊れたような表情である。
「どうして欲しいんや?」
玲奈は、紗那を抱きしめるようにくすぐりながら艶かしい声をだす。
「うひょひょひょひょっ、もっとぉぉっ!!!! んほっ、あひゃぁ、からだ中をぉぉ、くしゅぐってくらさぃいひぃ~~っひっひっひっひ」
喋りながら、紗那の口からはべちゃべちゃと涎が垂れた。
玲奈はふんと鼻で笑うと、紗那の身体の上に寝そべるように抱きついたまま、身体を反転させる。
「あひゃぁぁ、っひっひっひ、うひぃぃっ!?」
紗那は身体の上で玲奈がもぞもぞ動くのがくすぐったいようで、笑いがとまらない。
玲奈は匍匐前進をするように、紗那の下半身にのっかり、紗那の左の素足と靴下を履いた右足の裏をがりがりとひっかきはじめた。
「おぉぉぉ~~~~っふぉっほほほほほほほっ!!! うぎぃぃぎぎぎひひひひひひひひひひひひっ!! あだぁぁぁぁあひゃひひゃひひゃひ」
玲奈を乗せた紗那の身体が弓なりにのけぞる。
エジプト型の扁平足はくねくねと左右によじれた。
「ぐげぇぇっぇっひぇっひぇっひぇ、ひぃぃ~っひっひっひっひっ!!!」
玲奈はしばらく、紗那に靴下ありなしの違いを楽しませたあと、右足からも靴下を脱がしとり、指の間をひっかいた。
「どひゃっひゃっひゃっひゃ、いぎぃぃぃぃひっひっひっひっひっひ~~!!!!」
玲奈は自身の左足を器用に紗那のセーラー服の裾からつっこむと、足指で紗那のあばらをくすぐる。
「あががががががっ!!!? だひゃっひゃっひゃっひゃ、ぎゃぁぁあっひえぃえひえはっはははっはっ!!!?」
玲奈の右足は、紗那の身体を服の上からまさぐるように動く。
「ああぁぁあぁひひひっ!!!! ぐぎぎっ!! ぎゃひゃひゃひゃひゃ、あびゃぁぁ~~っ!」
紗那は玲奈の両手両足に、上半身下半身を同時にくすぐられ続けた。
「ぐひゃひゃひゃ、だあぁぁぁぁああああああっ!!!! ふぎゃぁあぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
笑い声の中に嬌声が混じる。 玲奈の右足が、紗那のスカートの上、ちょうど秘部の辺りで、ぎゅっと握り締められている。
絶頂を迎えたのだろう。
紗那の顔は涙と鼻水、涎でぐしゃぐしゃ、恍惚にも苦痛にもとれるわけのわからない笑顔だ。
そのまま玲奈はスカートの中へ右足を突っ込み、ドドドと紗那の秘部を圧迫した。
「あぎゃぁあぁあひぃひぇひぇひぇっ!!! うびゃぁぁあああああああああっ」
紗那は何度も絶頂を迎えさせられ、舌を出して笑い叫ぶ。
玲奈が右足を軽く上げると、黒いニーソックスの先端にねっとりと透明な液体が糸を引いた。
「あーあ、汚れてしもたやろが。お前、どうすんね?」
玲奈は指の動きを止め、紗那の腹の上で胡坐をかいた。
「ひ……ひひ」
紗那は余韻でびくっ、びくっと身体を震わせた。
玲奈は紗那を蔑むように見下ろし、両脇腹をくりくりとつまむようにくすぐった。
「うひゅひゅひゅひゅっ!!!? もっとぉぉひょひょ……っ、くしゅぐってくらさいぃぃぃっきっひっひひっひっひ~~」
◆◆◆
最終的に、紗那は、一糸まとわぬ姿でくすぐられ、失神した。
失神する寸前まで「もっとくすぐってください」と言い続けて……。
◆◆◆
「会長、絶対に、鈴木総長になろうだなんて、考えないでくださいね」
夕暮れの生徒会室。
T高図書委員長山本美咲の言葉に蓮は顔をあげた。
「ん? どういうことかな? 美咲」
「技術力のことです。今日も鈴木総長が来て、ひとり、やった、そうですね。会長、食い入るように見ていたそうじゃないですか。いくら見ても、あの技術は到底盗めません」
「なんで知ってるの?」
「凛に聞きました」
「……ふーん。美咲はいつから凛の事を『凛』って呼ぶようになったのかな? 凛が美咲のことを『図書委員』から『ミサ』に呼び変えた時期と符合するようだけど?」
「い……っ!? ふ、深い意味はないです」
「珍しいね。美咲が受け答えに失敗するなんて。僕は『いつから』って聞いたんだけど?」
「……選挙の前。会長と鈴木総長が初めて会談した日からです」
「なるほど。あの日は、凛も大活躍だったからね」
「昔話は結構です。それより会長。もし会長が、鈴木総長のような技術を身につけようとしたら、ノルマとして、六十年間、毎日三十人をくすぐって、毎日三十人にくすぐられなければなりません。それでも、鈴木総長に追いつけるかどうか、わかりません。会長はそんな生活を望みますか?」
「……ふふ。美咲は、僕が古参メンバーをくすぐる時間を減らしてしまうんじゃないかと心配しているんだね?」
「はい。枠が減るという事は、蹴落としあいの激化を意味します。そうなると私は……、会長にくすぐられたいがために、ライバル全員の抹殺を企てざるを得ません」
美咲の表情は真剣だ。
「ハハッ、美咲。僕には僕のスタイルがあるし、鈴木さんには鈴木さんのスタイルがある。彼女と違って、僕はじっくりと調教する過程を楽しみたいタイプなんだ。彼女の技術はいらないし、彼女の体制を真似ようとは思わない」
「それなら、安心です」
美咲は目をつぶる。
「使い捨ての奴隷は作らないよ」
蓮は言うと、生徒会室の中央でX字に拘束された体操服姿の美咲の身体に、指を這わせた。
(完)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
PixivでⅢの2まで見られた方々、突然の時間跳躍驚かせてすみません。玲奈のキャラを出したくて出したくて、勢いで書いてしまいました。
ブログではこのシリーズに関して、しばらくはぽつぽつ時系列不順で単発をアップしていきます。
すっとばしてしまった、Ⅲの3以降の内容を簡単に記します。もしかしたらそのうち小説として書くかもしれませんが、未定です。興味のある方は新たな人間関係確認にご活用ください。
・Ⅲ-3 杏奈/未来 蓮のくすぐりで落ちなかった未来を杏奈が拷問。他にも蓮のような指を持った人間がいるのではないかという美咲の疑問を解消しようとする。未来は知らぬ存ぜぬの一点張り。
・Ⅲ-4 K女学園はすでに鈴木玲奈の指によって全生徒がくすぐり奴隷と化していた。未来がT高で行方不明になったと参謀森杏の連絡を受けた総長鈴木玲奈は実働部隊のT高派遣を指示。「やられたらまず頭(カシラ)取るんがうちのやり方や」と玲奈。T高征服をもくろむ。その日(休日)偶然T高にいた生徒会の井上美桜会長、木村花音副会長、美咲、柚希がさらわれ、K女学園による報復を受ける。美桜、花音は玲奈にくすぐり落とされるが、美咲、柚希は玲奈のくすぐりに落ちず。玲奈はすぐに自分と同じ指を持った人間がいることに気づき、T高の次期生徒会長選挙に立候補した蓮に目星をつける。
・Ⅲ-5 未来の調教に失敗したことに加え、美咲と柚希と連絡が取れなくなって動揺していた蓮の元へ、玲奈からじきじきに連絡がある。一度二人きりで話をしようとのこと。蓮は美咲の可能性が的を射ていたのだと察する。T高で対談することに。杏奈の調査で、美咲と柚希がK女子学園に監禁されていることが発覚。玲奈(および引き連れていった大勢の実働部隊)がK女を留守にするタイミングを狙い、杏奈、希、凛でK女へ向かう。杏奈/杏、くすぐり責めをしている隙に、凛が美咲を救出(希は空気を読んで一旦退席)。凛、希、美咲で由希を救出。その頃T高、蓮は同じ指を持った玲奈と意気投合するも、拘留中の美咲と由希の写真を見せ付けられ、人質交換をしぶしぶ了承。そのとき、人質奪還の連絡を受け、自慢げな蓮、ブチ切れる玲奈。蓮は一矢報いたものの、玲奈との圧倒的な力量さを理解している。約束どおり、未来も解放。今後の、T高K女互いの不可侵、安全保障を約束。
その後玲奈の命で花音は選挙から辞退。蓮は生徒過半数の承認を得て、生徒会長に就任。生徒会執行部の代替わりと同時に、三年生の委員会関係者は引退。美咲は図書委員長に就任。成績の条件をクリアしている凛は、由希を最高責任者とする選出管理委員会の承認を得て、生徒会執行部へ入部。
……という感じでした。
新たに生徒会副会長に就任した一年生(心愛の同じく、4月に副会長候補として選出された)の姿かたちは未定。T高の選出システムについては下図参照。
もちろん蓮が会長就任後最初の仕事は、この新副会長の一年生を落とすことで間違いないのですが、そのエピソードもまた機会があれば。
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T高校第二共用棟最上階生徒会執行部室に入るや否や、不満げな声を上げる小林凛(こばやしりん)。本校の生徒会書記である。
「やあ凛。あの女ってどの女かな?」
机上の書類から目を上げ、佐藤蓮(さとうれん)は問い返す。
「……とぼけんなよ。わかるじゃん。あいつだよ。面倒くせぇ……」
「り~んちゃんよぉ~、誰がめんどいやってぇ~?」
身長151cm程度の凛よりもさらに8cmほど背の低い色白の西洋人形のような少女が入室する。
不敵な笑みを浮かべた少女は、すばやく凛の背後に回り、凛の脇腹に指を這わせた。
「ぶひゃっ!? ちょまっ、だひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! うにょぉぉぉ~~っほっほっほっ、やめで……っぎゃははははははは!!」
凛は身をよじり、涙を流しながらその場に倒れこんだ。
少女は、両手を凛の脇腹に押し当てたまま馬乗りになり、くすぐり続ける。
「おうおう、相変わらず弱いやっちゃなぁ~」
「ぎゃははははははっちょっ!! やめっ、だめっ、しつこいっ!! しつこいってぇぇぇっひゃっひゃっひゃ」
「これはこれはスズキ総長。ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
蓮は立ち上がり、来客用の高級ソファを手のひらで示した。
「ようやく生徒会長(かしら)が板についてきたようやんなぁ? 佐藤会長?」
少女――K女学園生徒会長兼学生自治団総長、鈴木玲奈(すずきれいな)――はニヤリと口角を上げると、勢いよく凛の上から飛び降り、そのままどすんとソファへ身体を投げた。
「凛ー、お茶ー」
玲奈は脚を投げ出すように正面のテーブルの上で組みながら、間延びした声を上げた。ローファーのかかとが、コチとテーブルの上で音を立てた。玲奈の着ているK女学園の制服はかなりスカート丈が短いため、下着が見えそうになる。
凛は、床に四つんばいになって、はぁはぁと息を切らしている。
「凛ーっ!」
玲奈は右目のモノクルを外し白いハンカチで拭きながら声を張った。
「……はぁ……ちょっとは、休ませろっての……このアマ……」
凛はいまいましげにつぶやき立ち上がる。
「会長、書記の言葉遣いちゃんと指導しときやー」
玲奈は鼻にかかった声で小姑のように言いながら、モノクルに息を吹きかける。
「ハハッ、失礼。凛? お客様にお茶を」
蓮は、玲奈の正面のソファに腰掛けた。
「鈴木総長は、この季節でもアイスティーがよろしいんですよね?」
「ノンシュガー、レモン2、茶葉1.5ぉー」
「だって。凛。頼むよ? ハハッ」
蓮が言うと、凛はしぶしぶという風に隣の給湯室へと姿を消した。
「さて……」
「あの可愛い一年は今日おらんの?」
蓮の言葉にかぶせるように玲奈が問う。
「……どの一年生のことですかね? ここに出入りする一年生は可愛い子しかいませんので」
「副会長」
「ああ、彼女なら今、心愛(ここな)と一緒にジャーナル部の方にいますよ」
「データバンクと? なんで?」
「校内で未調教の子達のピックアップをしてもらってます」
蓮の答えに、玲奈は驚いたように目を見開いた。
「はあっ!? まだここ全校生徒奴隷化終わっとらんの!? 会長就任してどんだけ経っとんね、いっくらなんでも遅すぎやろ、おま……っ」
玲奈はそこで一旦口をつぐんで、
「佐藤生徒会長さんよ」
一応「お前」呼ばわりを訂正した。
「ハハッ。僕は鈴木さんと違って、じっくり調教する過程を楽しみたいタイプなんですよ」
「まあええけどやなぁ……はよ終わらせてくれな、ウチの選択肢がいつまでも広がらんやん。どんだけ待ちゃぁええの?」
玲奈はため息をつき、脚を組み直した。
「鈴木さんにお送りした本校の調教済み生徒名簿はかなり充実させたつもりですが」
「穴だらけやん、あれぇ! 課金前で選択項目が部分的にグレーになっとる感じ……見えとるのに選べんストレス! ウチはお宅さんと違って、全部駒揃ってから選ぶ過程を楽しみたいタイプなんやっちゅーに」
「全校生徒となると、調教にはまだ時間がかかりそうですね」
「そうなんや……まあ、しばらくは古参メンバーおるけぇ、ええけどやなぁ」
凛が戻ってきて、そっとアイスティーの入ったグラスを玲奈の前へ置いた。
玲奈は一口飲んで、
「さ、取引の話しよか」
ふーっと天井をあおいだ。
「前回同様、副会長とデータバンクの二人」
玲奈の言葉に、蓮は頷き、
「鈴木さん、気に入ってますね。レンタル日数はどうしましょう?」
「一泊二日」
「よろしいんですか?」
「今回、こっちの製品がそんなたいしたもんやないけぇ」
「いえいえ、ありがとうございます」
蓮が軽く頭を下げると、玲奈はポケットから、一対の白い手袋をとりだし、テーブルの上へ放った。
「『擽力増強グローブ』」
蓮は受け取ると、にやりと笑みをこぼす。
「試すんやろ?」
「もちろん」
「場所は?」
「この下の階、会議室Cを空けてます」
「りょーかい」
玲奈は胸ポケットから携帯を取り出し、ソファにふんぞり返る。
「あー、モリー? 予定通り。あがっといで」
◆◆◆
T高校文化祭の一件以来、K女学園は大切な取引相手となっていた。
何を隠そう、K女学園のトップに君臨する鈴木玲奈は蓮と同じく極度のくすぐりフェチ。しかも、くすぐった人間をその指の虜にする能力にかけては、蓮をはるかに凌ぐ、凄腕のくすぐり師であった。
文化祭でT高校側がK女学園の女子生徒に手を出してしまったことを発端に一時対立を生んだものの、結果両者とも貴重な情報を得ることができた。
一度あるくすぐり師によって調教を受けた者は、他のくすぐり師の調教を受けない。
蓮の指に調教された者はいくら玲奈がくすぐってもその虜とはならず、玲奈の指に調教された者は蓮がいくらくすぐってもその虜とはならなかったのである。
現在二人は、くすぐり器具やくすぐり奴隷の貸し借り等の、協力関係にある。相手から提供される「決してこちらの指を受け入れることのできないくすぐり奴隷」は、常にこちらへ拒絶反応を示し続けてくれる。絶対に落とせない奴隷達を無理やりにくすぐり笑わせる行為は、互いのS欲求を満たすのに役立った。
◆◆◆
T高校第二共用棟会議室Cの中央に、黒いセーラー服を着た二人の少女が大の字で並べて拘束された。
二人とも左胸に名札をつけており、向かって左が『福田(ふくだ)』、右が『西村(にしむら)』とある。
身長約146cmの福田は、前髪ぱっつんの耳だしボブヘアで、ふて腐れたようにつんとそっぽを向いている。小さな目とふっくらとした頬が、小動物のような印象を際立たせている。
身長約148cmの西村は、1000円カットで粗く切っただけのようなセミロングで、ボーっと宙を眺めている。能面のような顔立ちが、日本人形のような印象を際立たせている。
制服の胸に付いたリボンは白で、靴下と運動靴も白に指定されているようだ。
二人の少女の拘束を終えた黒服女子集団は、K女学園の参謀、森杏(もりあんず)の指示で、壁際へと移動し整列した。
「総長、セッティングが完了いたしました」
「うむ」
杏の透明感のある声は、か細くとも室内全員の耳を一瞬でひきつける魅力を持つ。身長157cmほどの華奢すぎる体躯を隠すように、ぶかぶかの白衣を羽織っている。
「これはどこの制服かな?」
蓮は疑問を口にした。
「E中学の冬服です。糞野郎」
杏は丁寧な口調で言った。
「杏。糞野郎とはご挨拶だね」
言いながら蓮は、杏の細すぎる腰を白衣の上から両手でくにっと掴んだ。
「ひきゃっ!!? な……、さっ、触らないでください!」
「杏の声は相変わらずかわいいね」
もがく杏を尻目に蓮は、指をくりくりと動かし始める。
「きゃっ、きゃはっ!!? きゃはははははっ!! やぁっ、いやぁ! やめくださいっ、変態! 糞野郎っ! 総長っ、やめさせ……っきゃははははははっ!!」
甲高い声で笑いながら、両手を蓮の顔へ押し当てて嫌悪感を示す杏。
「おっと杏、逃げたらだめだよ? こっちはさっきそちらの総長さんに、うちの凛をやられたばかりだからね。取引外での貸し借りは早めに清算しておかないと。……鈴木総長さん、構いませんよね?」
蓮が指を杏の腋や脇腹へ滑らせながら言うと、
「あぁ、てきとーに」
玲奈は、拘束された二人の中学生の顔を覗き込みながら、興味なさそうに言い放った。
「きゃはははっ!? 総長ぉぉ~~っはっはっはっはっ! 助けてくださいっ! ひひひひひひ、私っ……この人嫌いですっ! 嫌ぁぁははははははっ」
杏は必死に腋を閉じ、地団太を踏んで暴れる。
杏はすでに玲奈の指に落ちているため、蓮の指で落ちることはない。それゆえに示される拒絶反応が、蓮を高揚させた。
「さて……」
蓮は杏を解放すると、玲奈の隣に並んだ。杏は息を切らして蓮をにらみつけている。
「ここ来る途中、E中張って、校門から出てくる中学生の中から見つけたんよ」
玲奈は、杏を気遣うそぶりも見せず、二人の中学生の説明を始めた。
「こっちが擽力1」
玲奈は福田を指す。
「こっちが擽感1」
そして隣の西村を指す。
「くすぐるのが下手なやつと、くすぐられるのに強いやつ、両方見つけるんは骨やったわ」
玲奈はふふんと笑いながら、自身のモノクルを人差し指で軽く押し上げた。
「あ、そのモノクル、擽力も表示されるようになったんですか」
「こないだ美咲(みさき)借りたときになー。若干改良したんよ」
もともと玲奈のモノクルには、レンズ越しに見た人間の『擽感:擽られ感度』を表示する機能があった。今回、新たな表示項目として『擽力:擽り力』が追加されたらしい。
「森ー? そんなところでうずくまっとらんで、はよ説明してー」
玲奈はモノクルの新機能を自慢して満足したのか、杏に説明を丸投げした。
「……はぁ、はぁ……わ、わか、ってます」
森は、立ち上がると、一旦蓮をじろりとにらみつけてから、用箋挟を構えた。
「今回提供させていただく『擽力増強グローブ』ですが、名前の通り、手にはめて他者をくすぐっていただきますと、本来の擽力以上の力を出すことができます。えー、山本(やまもと)美咲氏の作成した擽力表に照らしますと、初期値+8~+10程度の擽力増強が期待できます」
「ハハッ、それはすごいn」
「喋らないでください。糞野郎」
杏は蓮の感嘆をかき消すように言う。蓮は肩をすくめた。
「『擽力増強グローブ』の効果を確認いただく実験では、二種類の女子中学生を使用します。それぞれ擽力1、擽感1を特徴とし、他ステータスは無視をして選出しています。まず、総長もしくは糞野郎に擽力1の女子中学生を落としていただき、擽感1の女子中学生をくすぐらせます。そこで擽力1のくすぐりで擽感1の身体がどの程度の反応を示すのかを確認していただいた上で、今度は『擽力増強グローブ』をはめた擽力1の女子生徒に、擽感1の女子生徒をくすぐらせます。『擽力増強グローブ』の効果により、擽力1の女子生徒の擽力は10程度に増強されることが期待されます。擽力表の表記『擽力1:くすぐりに弱いと自己認識している者を驚かせる程度』『擽力10:くすぐりに強いと自己認識している者を笑わせる程度』から、『擽力増強グローブ』の効果はかなり顕著な反応として確認いただけると思います。実験終了後、使用した女子中学生二名は自由にしていただいて結構です」
言い終えると、杏は一歩下がる。
「つーわけで、どっち取るか決めよや」
玲奈は拘束された女子中学生を指差して言った。
「僕はもう喋っていいのかな?」
蓮は杏を見る。杏は黙って蓮をにらんでいる。
「あー、森はもう出番終わりやけぇ、気にせんで。それより、せっかく二人も中学生おるんやけぇ、おたくとウチで分けよや」
「そうですか。じゃあ……、僕としては、こっちのやさぐれ気味の福田さんが欲しいですね」
「ふふん。らしいなぁ。反抗的な奴を屈服させたいっちゅーいつもの変態趣味かー? ほんなら、ウチはこっちの西村ちゃんか。実験終了と同時に、壊しちゃるけぇなー」
玲奈はぺろりと舌なめずりをした。
当の中学生二人は、まったく状況が飲み込めない様子だった。
「最初は佐藤会長さんからやんな。あんま時間かけすぎんといてや?」
「まあ、ほどほどに遊ばせてもらいますよ」
「ほどほど、な。森ー? 椅子ー」
玲奈は杏の持ってきた肘掛け椅子にどかっと腰掛け、脚を組んだ。
頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる玲奈を尻目に、蓮は大の字に寝そべる女子中学生のもとへ一歩足を進めた。
●●●
「君、下の名前は?」
蓮は大の字仰向けに拘束された福田に問いかけた。
「……あんた、誰?」
福田はつんとそっぽを向いたまましばらく黙っていたが、ぼそりと問い返した。
「僕は佐藤蓮。T高の生徒会長さ」
「……キモ」
福田は憮然としてつぶやく。
「ハハッ、ひどく嫌われたものだね。僕は君と仲良くなりたいんだけど、駄目かな?」
福田は答えない。
「じゃあまず下の名前を教えてもらって、距離を縮めるところからはじめようか」
言うと蓮は、くっと両手十本の指を福田の脇腹へつきたてた。
「うひっ!?」
びくんと福田の身体がのけぞった。
「おや? 案外くすぐったがり屋さんなのかな?」
「……っ!!!」
一気に顔を紅潮させ、ひくひくと頬を上下させる福田。
「下の名前を教えてくれるかな?」
「……――ほ、よ」
観念したように福田は口を小さく動かせた。
「……花帆(かほ)、よ」
福田の声は震えていた。
「福田花帆ちゃんだね?」
こくりと頷く花帆。
「よく言えたね、ご褒美だよ」
蓮は、花帆の脇腹でわしゃわしゃと十本の指を蠢かせた。
「んはっ!!!? ぶぁっはっはっはっはっはっはっ!!?」
花帆はすっかり油断していたのか、驚いたように目を見開き笑い始めた。
「いやっはっはっはっ、なっ!! 嘘つきぃぃっ、名前言ったのにぃぃっひっひっひっひっひ~~!!」
「別に僕は、『名前を教えてくれたらくすぐらない』なんて言ってないよ?」
言いながら蓮は、指先をぐりぐりと花帆のあばらへ押し込んだ。
「うひっ!!! やはははははははっ!! だめっ、やはっ!? やみて~~っはっはっはっは」
「『やみて』ってかわいいね。花帆」
指でぐりぐりと骨をほぐすようにくすぐる。
「ぎゃはははははははっ!!! やっ、言うなぁぁぁっはっはっはっはっは~~っ」
蓮は蠢く指を徐々に上方へ移動させていく。
「さて、花帆は何年生かな?」
「やははははははっ!! うわっはっはっは」
ただ笑い続ける花帆。
「ほら、早く言わないと弱そうな腋の下へ到達しちゃうよ?」
蓮は指の動きをやや抑えいじわるく言う。
「やはははっ……にっ、二年!」
花帆は首を左右に振りながら叫んだ。ぎゅっと閉じられた目には涙が浮かんでいる。
「そっか。じゃあ来年受験だね」
言うと蓮は指の動きを速めながら、
「おっと、腋の下に到達しちゃったね」
花帆の腋の下を勢いよくくすぐった。
「ぎゃっ、だぁぁっはっはっははっはっ!!!? にゃっ、ひぎゃぁぁっはっははははははははっ」
花帆は首を上下に振り乱して笑う。
目を見開き、蓮をにらみつける。が、口元が思い切り笑っているのでまったく怖くない。
「だから『言ったらやめる』とは言ってないよ? 花帆は早とちりさんなんだね」
「だっはっはっはっはっ!! やめろぉぉ~~ははははははははははっ!!」
花帆は背中を浮かせて身体をのけぞり、笑わされつづけた。
しばらく花帆の腋をくすぐった蓮は、花帆の足下へと移動した。
「どう、花帆? 苦しいかい?」
花帆は体中汗だくで、顔の横には涙の筋が跡になっている。
「……うぅ……苦しいょぅ」
「だいぶ素直になってきたね。えらいよ花帆」
蓮は笑いながら、花帆の運動靴を両足から脱がした。
白い靴下を履いた足の裏は、薄灰色に汚れ、指の形がぼんやりと見えた。
「花帆、部活はやってるの?」
「……ぅう」
花帆は答えず、涙を流した。
蓮は、花帆の両足の裏、土踏まずのアーチの部分をこそこそと人差し指でくすぐった。
「きゃはははっ!!!? あはっ、いひゃあぁっ、バっははははっ、バドミントン!」
「そっか」
蓮はかりかりと、指の動きを速める。
「いやっはっはっはっはっ!! やめっ、ひっひっひ、やだぁぁぁははははははっ」
ぶんぶんと左右に首を振って笑う花帆。
「練習きつい?」
「やっはっはっはっはっ!! あんまりっ!! きっひひひひ~~」
靴下の上からでも花帆の足の指がぎゅっと縮こまっているのがわかる。
蓮は、花帆の足の裏をくすぐりながら、違和感を覚えた。足裏の筋肉のさわり心地が、運動を日常的にやっているような印象を受けないことに加えて、
「今日平日だよね? 部活はなかったの?」
「っ!!! いやっはっはっはっは!! う……はははははははっ」
花帆はわかりやすく動揺を見せ、笑い続ける。
蓮は両手の指を三本ずつに増やし、花帆の足の裏を掻き毟った。
「だひゃっ!!? ぎゃははははははははっ!!! サボった! サボったあぁあっはっはっはっはっ! ごめんなさいぃぃっひっひっひっひっひっひ~~!」
花帆は足をくねくねと左右へ振り動かしながら泣き叫んだ。
「別に僕に謝ってくれなくてもいいんだけどね」
蓮は微笑むと、花帆の両足から靴下をするりと脱がし取った。
エジプト型の正常足。
親指の付け根のふくらみが少し黄色くなって乾燥しており、かかとの部分は一部皮がむけかかっている。
足の手入れはまったくされていないようだ。
蓮は花帆の両方の素足に指をあて、かかとから一気になぞり上げた。
「うひゃぁぁんっ!!?」
花帆が甲高い声を上げる。目からはとめどなく涙があふれ出す。
「どうしたの? 花帆。やめて欲しいかい?」
蓮は、花帆の両素足の土踏まずの上のふくらみ部分に、それぞれ四本の指を突き立てて言う。
「うふっ……ひ、や、やめて、ください」
花帆は、搾り出すような声で懇願した。
「やっと敬語が使えたね。えらいよ。花帆」
言うと蓮は、がりがりと計八本の指で花帆の素足をひっかいた。
「がはっ!!? あはっはっはっはっはっはっ!!! だぁぁぁ~っひゃはははははははは!!」
花帆の足指がびっくりしたように反り返る。と、花帆は泡を吹かせて笑い出した。
「がははははっはっ!! げほっ、やめっ!! やめてって、ぎぃぃっひっひっひっひ、やめてってぇぇぇぇだひゃはははははははははっ!!」
花帆の口元からだらだらと涎が流れ出る。
「僕は『やめて欲しいならやめる』とは言ってないよ」
蓮は笑いながら、花帆の暴れる足指の付け根をほじくるようにくすぐる。
「うひっ、ぎぃぃっひっひっひ、もうやだぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!! 助けてぇえぇぇっはっはっはっはっはっはっ」
花帆の身体がはちきれんばかりにのけぞる。脚をがにまたに開いて膝をがくがくと揺らし、飛び上がらんばかりである。
しかし、拘束具のゴム縄が花帆の手足を締め付け、花帆を逃がさない。
「だぁぁぁぁっはっはっはっはっはっ!! ぎにゃぁぁっ」
「どう? 花帆、そろそろやみつきになってきたんじゃないかい?」
蓮は、花帆の右足の指を押さえ、反らせた素足の裏をくすぐりながら言う。
「ぎにゃっ、あぁぁ~~っはっはっはっははっは!!?」
花帆は目を見開いて大笑いする。
「僕の指、もっと欲しくないかい?」
反らせた足の指の付け根をかりかりとひっかく。
「ぐひひひひひひひっ!!! いぃぃぃ~~っひっひっひっひっひ!!!」
花帆は舌を出して笑い悶える。
かなり限界の様子で、顔は涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃだ。
「まだ素直になれないかな? なら、やめちゃってもいいかな」
蓮は言いながら、花帆の右足の縁の部分を両手の指先でさわさわとくすぐった。
「ふわっはっはっはっ!!! ひゃっ、ひゃめっ……っひっひひっひ」
花帆の身体がびくびくと痙攣する。
蓮は徐々に、指の動きを弱めていく。
「ひ、ひひひっ……くふ、ふひひひ……」
花帆は悩ましく眉を寄せ、ぐっと歯を食いしばった。
ぎゅっと目を閉じ、何かを耐え忍ぶような花帆の表情を見て、蓮は唐突に花帆のかかとを十本の指でがりがりと一気に掻き毟った。
「ぶぎゃひゃはははははははははっ!!!! あぎゃぁぁあっはっはっははっ、やめないでっ!!! ぎゃははははっ、続けてっ、ぎひひひひひひひひっ!!! お願いしますぅぅぅ、ぎゃっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
髪の毛をぶんぶんと振り乱しながら花帆は叫んだ。
蓮は、もう何人目になるかわからない奴隷の誕生に、笑みを浮かべた。
「おめでと」
玲奈からは、ぺち、ぺち、と小ばかにしたような拍手が送られた。
◆◆◆
「ああぁぁぁっ!!」
いきなり蓮が指を止めたため、花帆が落胆の混じった悲鳴を上げた。
「やぁっ!! れ、蓮様っ! やめないでくださいっ!!」
すっかり落ちてしまったらしい花帆は、涙ながらに蓮を見つめた。
「花帆」
「はい」
即答。さきほどまでの反抗的な態度とは打って変わって、従順な態度を示す花帆。
「僕の指が欲しいかい?」
「欲しいです!」
「なら、ちょっと実験に協力して欲しいんだ」
「…………」
考えるように眉を寄せる花帆。
「協力してくれないなら、僕の指はあげないよ?」
途端、花帆は泣きそうに瞳を潤ませる。
「……実験が終わったら、絶対に、蓮様……くすぐってくれますか?」
「約束しよう」
花帆の協力の意思を確認すると、玲奈が顎でK女黒服女子へ指示する。
黒服女子達は、花帆の拘束を解いた。
「あの、……蓮様」
花帆は身体を起こし、脱がされた運動靴を履き直しながら慎ましい声を出した。
「なんだい? 花帆」
「その……、先に下着を取り替えても、いいでしょうか。……その、……びちょびちょに、濡れちゃって」
花帆はぎゅっとスカートの裾を握り締め、赤面して言った。
「はっ! か~~いちょ~~っ、女子中学生に何言わせとんね!」
後ろから、玲奈がご満悦の様子で囃した。
●●●
「西村、……さん?」
着替えを終えた花帆は、大の字に拘束された西村の前に立った。
西村は、ぼーっと花帆の顔を見上げると、目をぱちくりさせた。
「……え?」
「全然喋ったことないけど、あなたを笑わせないといけないみたいだから、協力して」
花帆は、ちらちらと蓮の方を気にしながら不機嫌そうに言う。
「え?」
西村はとぼけた表情で聞き返した。
眠そうな目は、まったく覇気がない。
花帆はちっと舌打ちをした。花帆にとっては、会話がスムーズに進まない西村の性格、何事にもやる気がないように見える態度が気に入らないのだろう。
花帆と西村は同学年だが別のクラスで、一度も会話したことはないのだそうだ。
クラスも部活も違い、性格も真反対の花帆と西村に接点がないのはごく当然であろう。
「部活、なんかやってるの?」
蓮の真似をしてか、花帆は西村に問うた。
「……え?」
西村は花帆の質問全部を聞き返している。花帆はため息をついた。
「これからあなたをくすぐるから」
花帆は西村の聞き返しには答えず、両手を西村の腋の下へと伸ばした。
「こ、こちょこちょ」
花帆は言いながら指を動かす。
が、さすが擽力1。西村はぴくりとも反応しない。
「くすぐったくないの?」
しばらくくすぐった花帆は西村に問う。
「……え?」
再び聞き返す西村。
「イラッ」
口で言ってしまうほど、花帆は苛立った様子だ。
「ふ、あいつアホやな」
玲奈は壁際で椅子にふんぞり返ったまま、隣の蓮に小声でささやく。
「あんなもんくすぐったいわけないやん。指先で服のゴミ落としよるだけやないかい」
「まぁまぁ鈴木さん。擽力1ですから」
蓮もフォローするが、内心「駄目だこいつ」と見限っていた。
花帆はただ、西村の着ている服の上で指の関節を動かしているだけだ。くすぐる対象がまったく把握できていない上に、力加減が全然駄目だ。あれはくすぐりではなく、指の運動だ。指の運動をしている先に、偶然西村の腋があるに過ぎない。
花帆にもプライドがあるようで、なんとか西村を笑わせようと画策しているようだ。
西村の足下へ移った花帆は、そっと西村の運動靴を脱がす。
「え? 何?」
西村は急に首を起こし、足下の花帆をにらんだ。
面倒くさそうな声に、花帆のプライドは余計に傷ついたようだ。
「だからくすぐるっていってんじゃん」
「え?」
西村の侮蔑を含んだようにも聞こえるやる気のない声に、花帆は再び舌打ちをした。
花帆は反撃のつもりなのか、
「西村さん、ちょっと足、臭うよ? ちゃんと手入れしてんの?」
「「お前が言うな」」
思わずハモる蓮と玲奈。
西村も、花帆の発言は気に障ったのか、あからさまに眉を寄せた。
「別に臭くないよ」
「へぇ、西村さん自分の足のにおい嗅いでるんだぁ~~、きっもーい」
花帆は鼻にかかった声で言う。西村は呆れたという表情で、そっぽを向いた。
「はよせーや!」
女子中学生のノリにイラついたのか、玲奈が怒鳴った。
びくっと肩を震わせる花帆。西村の方は、無反応にも見えたが、ワンテンポ遅れて視線を玲奈の方へ向けて反応を示した。肝が据わっている。
玲奈は用心棒のように椅子の上で膝を立てており、ギラリと光る眼光は、かなりの迫力であった。
「花帆? 君らのやりとりは実験上あまり意味がないんだ。そこやったら、もう次進んでもらえるかな?」
蓮は苦笑しながら諭すように言った。
「は、はい! す、す、すいませんっ」
花帆は大声で謝ると、西村のうっすら糸くずのついた白い靴下の上に指をあてた。
「こちょこちょ」
口に出す花帆。
しかし、西村は足下を見ようともせず、無反応だ。
こんなもんか、と蓮は思う。
布一枚のみに覆われた足裏とはいえ、花帆の力は弱すぎる。あの手の弱いタッチでくすぐるならば、もう少し動きにひねりを加えなければ効果は生まれない。素足ならばまだしも、あれでは、靴下の生地のさわり心地を確かめているだけだ。蓮は、まさか花帆が、最もくすぐったさを感じない人体の触れ方を体得しているのではないかという、錯覚すら覚えた。
花帆は無反応な西村に苛立ったのか、左足の靴下をいっきに引っこ抜いた。
西村の素足が露になる。足の指がそれぞれかなり短い、エジプト型の扁平足だった。
靴下を脱がされた感覚にはさすがの西村も首を起こして足下を見て、はぁと呆れたようなため息をついた。
「何?」
「全然くすぐったくないの?」
花帆は言いながら、西村の素足に指先を這わせた。
「返して」
花帆は指先でさわさわと土踏まずからかかとにかけて撫でる。
「えっと、くすぐったくない?」
「ソックス、返して」
西村は憮然と繰り返した。
蓮は「これが擽感1か」と感心した。
花帆のくすぐり方がものすごくへたくそなのを差し置いても、素肌をあれだけ撫でられて、まったくの無反応、しかも平然と喋っている西村はかなりくすぐりに強いと見える。出逢ったばかりの葵(あおい)を連想するが、それ以上かもしれない。
「ほんとに全然くすg」
「早く返して」
西村に真顔で言われ、花帆は指の動きを止めてしまった。
◆◆◆
「いいよ、花帆。よくがんばったね」
蓮は花帆にねぎらいの言葉をかけた。
「蓮さm」
「じゃあ、それつけてやってみて? 腋の下からだよ?」
蓮はいちいち感激しようとする花帆をさえぎり、『擽力増強グローブ』を指した。
玲奈は用心棒の姿勢のまま、花帆をにらんでいる。「はよやれよ」という風に顎でしゃくると、花帆は少し怯えた様子で、『擽力増強グローブ』を装着した。
「8やな。陽菜(はるな)ぐらいか」
玲奈はモノクルで、花帆の擽力が1から8へ増強されたことを確認したようだ。
「……なるほど」
蓮が頷くのと同時に、
「森ぃぃっ!」
玲奈が怒声を上げた。
「はい、総長」
杏はすばやく玲奈の傍に膝をついた。
「説明書、訂正しとけよ?」
「……はい?」
杏が聞き返すと、玲奈は途端般若の形相を作り、
「お前さっき『初期値+8~+10程度の擽力増強が期待』できる言うたやろがっ! 『+7~』に直しとけ言いよんや! わかれや、一回でぇっ!!」
玲奈の怒鳴り声に、花帆が「ひぃ」と震え上がった。西村はくっと眉をしかめた。
「は、はいっ! 申し訳ございません!」
杏は全身全霊という風に声を張った。
目に涙まで浮かべ、実に哀れである。
玲奈の視線はすでに、花帆と西村へ向けられている。杏の謝罪には見向きもしない。
「のう、佐藤会長さんよ。うちの製品の効能良ぅ見ときな」
玲奈はにやけ顔を蓮へ向ける。
「ハハッ。オーコワイコワイ」
「なんて?」
「なんでもありませんよ、総長さん。始まりますよ?」
蓮は、自分に落とされた奴隷達は案外幸せ者の部類だろうと思う。
●●●
「西村s」
「ソックス返してって」
西村は口調こそ淡々としているがかなり苛立っているようだ。
「今度こそ、笑わせてやるから!」
花帆は西村に向けて、いーっと歯を見せると、両手を西村の腋の下へとつきたてた。
「……っ」
ぴくり、と西村の身体が反応する。
「こちょこちょ~」
言いながら花帆は、指をゆっくりと動かし始めた。
「……何?」
西村の口調は変わらない。
「えっ? くすぐったくないの?」
「……っ、やめて。ソックス早く返して」
花帆は不安げに蓮を見る。蓮は「続けて」と目で合図する。
「グローブをはめると、本人が擽力8になるわけではなく、指の動きが擽力8になるってことですね?」
蓮は小声で玲奈にささやく。
「その通り。さすが佐藤会長。見たらわかるんやんな。……あいつ、もう論外やろ。あの反応見て、『くすぐったいのを我慢』しとるって見抜けんようじゃあセンスないわ」
「まあまあ鈴木総長。もとが擽力1ですから……」
蓮は、フォローしながらも花帆の先行きが不安だった。美咲や凛にトレーニングしてもらえば、なんとかなるだろうか?
花帆は、西村の足下へと移動した。
蓮は軽くため息をついた。
腋は十分効果が見られた。もっと時間をかけてくすぐれば、セーラー服の上からでも十分笑わせられるというのに。
花帆が西村の素足に手を伸ばそうとすると、キッと西村が首をもたげ、花帆をにらんだ。
「……何? やめてって言ってるのに、聞こえないの?」
西村はやや早口に言った。焦りが見え隠れしている。
「言ったじゃん? 私、西村さんを笑わせないといけないから」
花帆は言うと、グローブをはめた人差し指をつつーっと西村の素足に這わせた。
「――っ!!! フッ……っ!」
西村はぴくっと肩を震わせ、吹き出す。
が、すぐに口をぐっと結び、こらえた。
「なにがしたいの? もう意味ないから。やめたら?」
西村は苛立ったような声で言った。
花帆は、再び不安げな表情を蓮に見せた。
本当にまったくわかってないんだな、と思う。蓮は微笑んで頷いてやる。
ちらりと隣の玲奈を見ると、花帆の不手際にかなり苛立っているようで、爪を噛み貧乏揺すりを始めていた。
花帆は、再び西村の素足に指をあて、さわさわと撫でる。
「……っ! やっ、やめて。ソックス早く返して。時間の無駄だから」
「くすぐったくないの?」
花帆は指先で西村のかかとを触りながら言う。
「くっ、……っ」
西村は一旦言葉をつまらせて、
「くすぐったくないから……っ」
頬を若干引きつらせて言った。
西村はかなり饒舌になっている。蓮の目からは西村がかなりくすぐったがっているのは明らかだったが、花帆にはそれが理解できないようで、何度も不安げに指を止め、蓮の顔色をうかがう。
「まるで自動小銃持たされた二歳児やな」
「的確ですね。本人の能力を超えた技術がいかに無益かよくわかります。ただ、『擽力増強グローブ』はすばらしいですね。ある水準以上の人間が使えば、間違いなく有効活用できるでしょう」
「ほんなら、実験は成功ってことでええんか?」
「はい。『擽力増強グローブ』の効能は十分に把握しました」
「……い、いい加減にしてよ」
西村がくっと顔をしかめて言うと、花帆は指の動きを止めた。
「はい! 花帆、ご苦労様! 下がっていいよ」
蓮は、今にも泣きそうな表情の花帆にやさしく声をかけた。
「すっ、すいません! 蓮様……っ、私っ」
「いいよ。笑わせられなかったことは気にしなくて。これからゆっくり、花帆のペースで上達していけばいいからね」
「蓮様……」
花帆はぽーっと呆けたような表情をする。
蓮は花帆の手にはめられた『擽力増強グローブ』を見て、今後の使用法に思いをめぐらせた。
玲奈は杏から受け取ったアイスティーを飲み干すと、ゆらりと立ち上がり、ゆっくりと西村の拘束された台へと歩いていく。
「あ、始まるよ、花帆。目をそらせたら駄目だよ?」
「な、何が始まるんです?」
「本物の、くすぐり調教だよ」
蓮は、玲奈の後ろ姿、左右に広がるロングヘアを見つめ、軽く背筋を伸ばした。
●●●
「名前は?」
「え?」
玲奈は西村を見下ろすとすぐに質問した。西村は花帆のときと同様に聞き返す。
「下の名前」
「……なんで言わないといけな――ひぃっ!?」
突然怯えたような表情をする西村。
玲奈はただ、指先を西村の身体へ向けただけだ。
「……紗那(さな)、です」
花帆のくすぐりでは、感情をほとんど表に出さなかった西村紗那の声が、明らかに震えている。
「西村紗那? 今日からお前はウチの奴隷や」
「…………」
紗那は、聞き返さず、
「あなた、……いったい、何者なんですか?」
顔を恐怖にこわばらせて言った。
玲奈は「ほやな」と考えをめぐらせるそぶりをし、鼻で笑った。
「調教くすぐり師とでも名乗っとこか」
○○○
蓮は、美咲の言葉を思い出していた。
『あれは、人間ではありません』
二泊三日のレンタル期間、美咲が玲奈の何を見て、何を感じたのかはわからなかったが、美咲の言葉は真に迫っていた。
『あれだけの技術を習得するためには、拷問……いえ、そんな生ぬるいものではなく、地獄。本物の地獄です。人一倍感覚過敏の女の子が、いつ終わるかも知れない地獄を、自我形成の段階から延々と見続けなければならなかったはずです』
『地獄?』
『とんでもない数の人間に、代わる代わる、倫理的にありえない非人道的なありとあらゆる手法でくすぐられ続ける毎日。年端もいかない小さな子どもが、24時間、365日、ずっとです。そんな想像にも耐え難い地獄のような環境で、発狂せず、自分を保ったまま生き残る確率は』
蓮は息を呑んだ。
『一千万分の一です』
○○○
会議室Cに耳をつんざくような絶叫が響き渡った。
「いぎゃぁぁぁああああっはっはっはっはっはっ!!! あぁぁああひゃひゃひゃひゃっ、ひぎゃぁぁはははははははははははははっ!!!?」
紗那は、両手両足を引きちぎらんばかりに身体をのけぞらせ、笑い叫んでいる。
玲奈の指が、セーラー服を着た紗那の脇腹に食い込みくすぐったさを与えているようだ。
「うひゃひゃひゃひゃっぎゃぎぃひひひ、むでぃ無理っ!!! ひひひひひひひひ無理無理無理ぃぃぃぐひゅひゅひひひひひひひひひっ」
左右に髪の毛を振り乱して笑う紗那。能面のような顔は醜くゆがみ、涙や鼻水を撒き散らす。
『擽力とか、そんな次元じゃないんです。あれは』
「あぁぁばばばばばっ!!!? にゃかぁぁぁっははっはっひゃっひゃひゃっ、中はぁぁわうひぇひぇひぇひぇっ!!!?」
玲奈の指は、セーラー服の裾から内側へ侵入し、紗那のおなか、素肌を直にくすぐった。
「おぼぉぉぉぉっふぉっほっほっほっほっ!!!! んぎゃぁぁぁはははははははははっだぁぁぁ」
紗那の身体は前後左右上下に暴れまわる。
拘束された両手両足の指先がびくびくとめちゃくちゃに動き、そのとてつもない苦痛を物語っている。
「ひ、あ、あんな……」
紗那をまったく笑わすことのできなかった花帆が絶句している。
「あぎゃぁぁひぇひえぇひぇひぇひぇっ!!! んびゃぁぁぁあっはっはっはっはっはっはっ」
腋の下をくすぐられ、紗那は白目を剥き始めた。
ぱっと両手で目を覆う花帆。
「駄目だよ、花帆。ちゃんと見ないと」
蓮は言うと、花帆も覚えながら指の間から紗那の暴れ狂う姿を垣間見た。
「森ーお茶ー」
喉が渇いたらしい玲奈は杏を呼びつけた。右手でくすぐり続けながら、左手でアイスティーの入ったグラスを受け取っている。杏は玲奈の要求を予測して、しっかり新しくアイスティーを準備していたようだ。
「ひぎゃぁぁががががが、びゃっ!!! ひゃべっ、ひゃべっでぇぇひぃひぇひぃひぃひっぃいいっひいっひっひっひっひっひ~~っ!!」
玲奈はまったく紗那の方を見ずに、アイスティーをごくごくと飲み干す。
右手の親指で、紗那の小ぶりな胸の付け根をいじっているだけだが、紗那は必死に身をよじり、首をねじり、くすぐったさから逃れようと必死に暴れている。
玲奈は杏へグラスを放り返すと、靴を脱ぎ、紗那の身体に馬乗りになって抱きつくような体勢で、両手で紗那の顔を持ち、至近距離で首筋や耳をくすぐり始めた。
「あひっ、あひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! はぎゃぁああひあひあひあひっ」
紗那の顔は、苦悶の表情から恍惚の混じった表情へと変化していく。
眉間の皺が弛緩し、目の焦点がぶれている。
「西村ぁ、どうや? 気持ちええやろ?」
「あひゃはひゃひゃ、はいぃぃいっひっひっひっひ!!! きもちぃれしゅぅぅひひひひひひひひひ」
紗那の頬はひきつって笑ったまま固まっている。眼球は天井辺りの宙を見つめたままぐるぐるとゆるやかに円運動。本当に壊れたような表情である。
「どうして欲しいんや?」
玲奈は、紗那を抱きしめるようにくすぐりながら艶かしい声をだす。
「うひょひょひょひょっ、もっとぉぉっ!!!! んほっ、あひゃぁ、からだ中をぉぉ、くしゅぐってくらさぃいひぃ~~っひっひっひっひ」
喋りながら、紗那の口からはべちゃべちゃと涎が垂れた。
玲奈はふんと鼻で笑うと、紗那の身体の上に寝そべるように抱きついたまま、身体を反転させる。
「あひゃぁぁ、っひっひっひ、うひぃぃっ!?」
紗那は身体の上で玲奈がもぞもぞ動くのがくすぐったいようで、笑いがとまらない。
玲奈は匍匐前進をするように、紗那の下半身にのっかり、紗那の左の素足と靴下を履いた右足の裏をがりがりとひっかきはじめた。
「おぉぉぉ~~~~っふぉっほほほほほほほっ!!! うぎぃぃぎぎぎひひひひひひひひひひひひっ!! あだぁぁぁぁあひゃひひゃひひゃひ」
玲奈を乗せた紗那の身体が弓なりにのけぞる。
エジプト型の扁平足はくねくねと左右によじれた。
「ぐげぇぇっぇっひぇっひぇっひぇ、ひぃぃ~っひっひっひっひっ!!!」
玲奈はしばらく、紗那に靴下ありなしの違いを楽しませたあと、右足からも靴下を脱がしとり、指の間をひっかいた。
「どひゃっひゃっひゃっひゃ、いぎぃぃぃぃひっひっひっひっひっひ~~!!!!」
玲奈は自身の左足を器用に紗那のセーラー服の裾からつっこむと、足指で紗那のあばらをくすぐる。
「あががががががっ!!!? だひゃっひゃっひゃっひゃ、ぎゃぁぁあっひえぃえひえはっはははっはっ!!!?」
玲奈の右足は、紗那の身体を服の上からまさぐるように動く。
「ああぁぁあぁひひひっ!!!! ぐぎぎっ!! ぎゃひゃひゃひゃひゃ、あびゃぁぁ~~っ!」
紗那は玲奈の両手両足に、上半身下半身を同時にくすぐられ続けた。
「ぐひゃひゃひゃ、だあぁぁぁぁああああああっ!!!! ふぎゃぁあぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
笑い声の中に嬌声が混じる。 玲奈の右足が、紗那のスカートの上、ちょうど秘部の辺りで、ぎゅっと握り締められている。
絶頂を迎えたのだろう。
紗那の顔は涙と鼻水、涎でぐしゃぐしゃ、恍惚にも苦痛にもとれるわけのわからない笑顔だ。
そのまま玲奈はスカートの中へ右足を突っ込み、ドドドと紗那の秘部を圧迫した。
「あぎゃぁあぁあひぃひぇひぇひぇっ!!! うびゃぁぁあああああああああっ」
紗那は何度も絶頂を迎えさせられ、舌を出して笑い叫ぶ。
玲奈が右足を軽く上げると、黒いニーソックスの先端にねっとりと透明な液体が糸を引いた。
「あーあ、汚れてしもたやろが。お前、どうすんね?」
玲奈は指の動きを止め、紗那の腹の上で胡坐をかいた。
「ひ……ひひ」
紗那は余韻でびくっ、びくっと身体を震わせた。
玲奈は紗那を蔑むように見下ろし、両脇腹をくりくりとつまむようにくすぐった。
「うひゅひゅひゅひゅっ!!!? もっとぉぉひょひょ……っ、くしゅぐってくらさいぃぃぃっきっひっひひっひっひ~~」
◆◆◆
最終的に、紗那は、一糸まとわぬ姿でくすぐられ、失神した。
失神する寸前まで「もっとくすぐってください」と言い続けて……。
◆◆◆
「会長、絶対に、鈴木総長になろうだなんて、考えないでくださいね」
夕暮れの生徒会室。
T高図書委員長山本美咲の言葉に蓮は顔をあげた。
「ん? どういうことかな? 美咲」
「技術力のことです。今日も鈴木総長が来て、ひとり、やった、そうですね。会長、食い入るように見ていたそうじゃないですか。いくら見ても、あの技術は到底盗めません」
「なんで知ってるの?」
「凛に聞きました」
「……ふーん。美咲はいつから凛の事を『凛』って呼ぶようになったのかな? 凛が美咲のことを『図書委員』から『ミサ』に呼び変えた時期と符合するようだけど?」
「い……っ!? ふ、深い意味はないです」
「珍しいね。美咲が受け答えに失敗するなんて。僕は『いつから』って聞いたんだけど?」
「……選挙の前。会長と鈴木総長が初めて会談した日からです」
「なるほど。あの日は、凛も大活躍だったからね」
「昔話は結構です。それより会長。もし会長が、鈴木総長のような技術を身につけようとしたら、ノルマとして、六十年間、毎日三十人をくすぐって、毎日三十人にくすぐられなければなりません。それでも、鈴木総長に追いつけるかどうか、わかりません。会長はそんな生活を望みますか?」
「……ふふ。美咲は、僕が古参メンバーをくすぐる時間を減らしてしまうんじゃないかと心配しているんだね?」
「はい。枠が減るという事は、蹴落としあいの激化を意味します。そうなると私は……、会長にくすぐられたいがために、ライバル全員の抹殺を企てざるを得ません」
美咲の表情は真剣だ。
「ハハッ、美咲。僕には僕のスタイルがあるし、鈴木さんには鈴木さんのスタイルがある。彼女と違って、僕はじっくりと調教する過程を楽しみたいタイプなんだ。彼女の技術はいらないし、彼女の体制を真似ようとは思わない」
「それなら、安心です」
美咲は目をつぶる。
「使い捨ての奴隷は作らないよ」
蓮は言うと、生徒会室の中央でX字に拘束された体操服姿の美咲の身体に、指を這わせた。
(完)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
PixivでⅢの2まで見られた方々、突然の時間跳躍驚かせてすみません。玲奈のキャラを出したくて出したくて、勢いで書いてしまいました。
ブログではこのシリーズに関して、しばらくはぽつぽつ時系列不順で単発をアップしていきます。
すっとばしてしまった、Ⅲの3以降の内容を簡単に記します。もしかしたらそのうち小説として書くかもしれませんが、未定です。興味のある方は新たな人間関係確認にご活用ください。
・Ⅲ-3 杏奈/未来 蓮のくすぐりで落ちなかった未来を杏奈が拷問。他にも蓮のような指を持った人間がいるのではないかという美咲の疑問を解消しようとする。未来は知らぬ存ぜぬの一点張り。
・Ⅲ-4 K女学園はすでに鈴木玲奈の指によって全生徒がくすぐり奴隷と化していた。未来がT高で行方不明になったと参謀森杏の連絡を受けた総長鈴木玲奈は実働部隊のT高派遣を指示。「やられたらまず頭(カシラ)取るんがうちのやり方や」と玲奈。T高征服をもくろむ。その日(休日)偶然T高にいた生徒会の井上美桜会長、木村花音副会長、美咲、柚希がさらわれ、K女学園による報復を受ける。美桜、花音は玲奈にくすぐり落とされるが、美咲、柚希は玲奈のくすぐりに落ちず。玲奈はすぐに自分と同じ指を持った人間がいることに気づき、T高の次期生徒会長選挙に立候補した蓮に目星をつける。
・Ⅲ-5 未来の調教に失敗したことに加え、美咲と柚希と連絡が取れなくなって動揺していた蓮の元へ、玲奈からじきじきに連絡がある。一度二人きりで話をしようとのこと。蓮は美咲の可能性が的を射ていたのだと察する。T高で対談することに。杏奈の調査で、美咲と柚希がK女子学園に監禁されていることが発覚。玲奈(および引き連れていった大勢の実働部隊)がK女を留守にするタイミングを狙い、杏奈、希、凛でK女へ向かう。杏奈/杏、くすぐり責めをしている隙に、凛が美咲を救出(希は空気を読んで一旦退席)。凛、希、美咲で由希を救出。その頃T高、蓮は同じ指を持った玲奈と意気投合するも、拘留中の美咲と由希の写真を見せ付けられ、人質交換をしぶしぶ了承。そのとき、人質奪還の連絡を受け、自慢げな蓮、ブチ切れる玲奈。蓮は一矢報いたものの、玲奈との圧倒的な力量さを理解している。約束どおり、未来も解放。今後の、T高K女互いの不可侵、安全保障を約束。
その後玲奈の命で花音は選挙から辞退。蓮は生徒過半数の承認を得て、生徒会長に就任。生徒会執行部の代替わりと同時に、三年生の委員会関係者は引退。美咲は図書委員長に就任。成績の条件をクリアしている凛は、由希を最高責任者とする選出管理委員会の承認を得て、生徒会執行部へ入部。
……という感じでした。
新たに生徒会副会長に就任した一年生(心愛の同じく、4月に副会長候補として選出された)の姿かたちは未定。T高の選出システムについては下図参照。
もちろん蓮が会長就任後最初の仕事は、この新副会長の一年生を落とすことで間違いないのですが、そのエピソードもまた機会があれば。
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