魔法の森。
 茂る木々の上空。
 射命丸文が、写真の束を手に飛行している。首からカメラを提げており、取材帰りの様子。
 写真を一枚ずつめくって「ボツ!」「ボツ!」と放り捨てていく。
 残った数枚の写真を眺め、ため息をつく。


「……はあ、最近平和すぎて、全然面白い写真が撮れませんね。異変が起こってくれれば、弾幕合戦が見られるんだけど――……あやや?」

 文はふと何かに気付き、翼を止める。
 彼女の視線は、森の一角に釘付けである。


「あれは、もしや……っ」

 文は残りの写真も放り捨てて急降下する。
 木々が生い茂る中、不自然な円形に地面が露出している部分がある。まるでクレーターのような。
 文は降り立つと、しゃみこんで土に触れる。


「やっぱり……! これは、幻想入りの兆候……っ、しかもこの形状……かなりの妖力を備えたなにかが、この地に降り立った……これは、スクープです!!」

 文は嬉々としてカメラを構える。
 数枚連写した後、


「ん?」

 文、レンズ越しに、地面にぽっこり盛り上がった隆起部分を見つける。
 おそるおそる近づく。
 被さった土のスキマから緑色の触手のようなものがのぞいている。


「……植物?」

 文、腰を落とし、土を払いのけようと手を伸ばした瞬間、


「――あややっ!!?」

 きゅるきゅるきゅる。

 突如、植物の触手が数本、周囲の土中から飛び出し、文の足首、手首に巻き付き、体を拘束する。
 触手は文を雁字搦めにして、空中で大の字に引き伸ばすと、尖端で腋の下をくねくねとくすぐりはじめる。


「あやっ!? あやははははははっ!!? なななっ、なにこれえ~~!!?」

 にょきにょき。

 地面から次々と触手が生えだし、文の腋、脇腹、太ももをくすぐる。


「あひゃぁぁあああああ!? ど、どんどん増えてっ!!? あはっはっはっはっはっはっはっはっはは~~!!」

 襟や服の裾から触手が入り込み、直に文の体をくすぐる。


「嫌ぁああはははははっ!!! こんな痴態……っ!!」

 服が破け、スキマから触手が侵入する。
 触手は、靴のスキマ、ソックスの口に侵入し、ずるりとエビの皮をむくように文の素足を露出させる。


「いひゃははははははっ!!! そんな技術どこで……くはははあははひひひひひひっ!!」

 首、腋、脇腹、お腹、腿、膝裏、足の裏まで、全身を触手になで回され、笑い狂う文。


「あややややはははははひゃひゃっ!!? しかっ、これうぁあぁぁあぁあははははははははははっ!! 私の笑いをっ……妖力にぃいいひひひひひひっひっひ!?」

 文が笑う度に、植物の触手は勢いを増し、根本の植物が大きくなっている。
 土中の植物は、その肥大化に伴い、ぶるぶると身震いするように、外界へせり上がってくる。


「あひぁあああははははははははははっ!!? まさかぁっ、これはあぁあはっははっはっははっははは――」

 牛一頭分もありそうな大きさのマリモのような物体から、触手が無数に生え出ている。
 その触手の群が、大の字にからめた文の体中に群がり、くすぐっている。


「くひひっひひひひひひひひっ……くすぐりボルボック……っ!! あがひゃひゃははははははあははははは~~!!!!」

 周囲には、無残に破けた服の切れ端、脱がされた靴とソックス、壊れたカメラが転がっている。



(つづく)



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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 ト書き新シリーズ開幕です! 「ボルボック」といふ単語からすぐに「ナマズ」を連想した人はおそらく誤差6年以内の同世代。