最近、時空飛行士が行方不明になる事件が多発している。
管理局の調査によると、どうやら第八世界に黒幕がいるということらしいが……。
薄暗い路地裏。
突如、びりびりと金色の魔力が可視化し、魔方陣が生じる。転送魔法である。
白い閃光とともに、ひとりの少女が降り立った。
前屈の状態から、ゆっくりと頭を上げる少女。美しい金髪のツインテールが揺れた。クールな表情。フェイト・T・ハラオウンは15歳。将来有望の執務官候補生である。
「ここが、第八世界か――」
フェイトはゆっくりと目を開き、絶句した。目の前に薄汚れた茶色のフード付きローブに身を包んだ女の子が目の前にいたのである。顎の下からおさげがのぞいている。肌つやと背丈から、9歳ぐらいに見える。
転送地点が悪かったのか、いきなり現地民に見つかってしまった。
「……お姉ちゃん、いまの、どうしたの? それに、変な格好だけど……」
女の子が不思議そうに問いかけてくる。
フェイトはたったいま魔法を使用したため黒いバリアジャケット姿。肩と太ももが露出している。
おさげの女の子は目をまんまるにしている。そうだ。この世界ではフード付きのローブで全身を覆い肌を隠す服装が通常。彼女にはよほど奇妙な服装に見えたのだろう。
「そんな格好、みたことない……。もしかして、お姉ちゃん……っ!」
フェイトが答えずにいると、女の子の表情が見る見る笑顔になった。
「異世界のひと!? すごい! 異世界のひと、わたしもついに見ちゃった!! これでクラスの子に自慢できる――」
女の子が声のトーンが一段階上がったため、フェイトは慌てて「しー」と人差し指を口に当てた。
「あ、ごめん……!」
女の子はしゅんとなるが、すぐにぱっと笑顔を見せた。
「お姉ちゃん、ホントに異世界のひとなの? ねえ! ねえ!」
フェイトのマントの裾を引っ張ってはしゃぐ女の子。フェイトは仕方なく頷いてやった。
「すごいっ!! ほんとに――」
再び大声を上げる女の子に、フェイトは「しー」と繰り返す。
フェイトはこどもの扱いには慣れていなかった。
こういうときはどうしたらいいものか……。
フェイトは、同僚の高町なのはが、異世界のこどもを手なずけるときに使う手を思い出した。
「君、私は今、極秘任務の真っ最中なんだ。あんまり大声を立てないでくれるかな……」
「極秘任務っ……!」
女の子の目がきらりと輝いた。
よしよし。こどもが「秘密」とか「極秘」という言葉が好きなことを知っていてよかった……。
「……君、ちょっとお姉さんに協力してくれる?」
「する!!」
フェイトは再び「しー」と人差し指を出すが、女の子の顔は嬉しそうに緩んでいる。
とにかく、情報を仕入れなければ。
「いまは何年?」
「えっと、おぴょぴょ3020年」
おぴょぴょというのは第八世界の元号。転送は上手くいったようだ。
「さっき、異世界のひとを見たら自慢できる、とか言ってたけど、最近異世界人の目撃情報があるの?」
「うん。異世界のひと見つけたら、みんなに自慢できるんだよ!」
「どのあたりで目撃情報が多いか、場所はわかる?」
「んーと、エンゼルタウン方面の通学路の子が見ること多いって言ってたから、『三姉妹の館』付近だと思うよ!」
「『三姉妹の館』?」
「うん! この国で最強の魔法使いって言われてる三姉妹。この前、三姉妹がワープ魔法を構築してくれたおかげで、国同士の行き来がすごく活発になったってテレビで言ってたよ!」
なるほど。転送魔法に明るい魔法使い三姉妹か……。
おそらくこの事件の黒幕とみていいだろう。
「ありがとう。参考になった。君、名前は?」
「モル!」
「そう。モル。今日私にあったことは、クラスのみんなには内緒だよ?」
「ええええ」
「極秘任務だよ」
「う……」
「この世界で私のことを知っているのは、モル、君だけだよ。この世界の平和は君にかかっているんだ」
「わかった……」
モルは、頬をふくらませながらも承諾してくれた。
フェイトは、バリアジャケットの上から、用意しておいた黒いフード付きローブを羽織ると、
「じゃあね。モル、元気で」
「あの……、お姉ちゃん」
踵を返したところで、モルに呼び止められる。
「お姉ちゃんの名前……」
フェイトは振り返らずに、
「……時空管理局、フェイト・T・ハラオウン」
名乗るのは、情報提供の最低限の礼儀を尽くしたつもりであった。
一期一会。モルがどんな表情で見送ってくれているのか、フェイトは知らない。
(つづく)
(♯1)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
久々のなのはモノ。フェイトさんをくすぐって欲しいとご要望いただきました!
管理局の調査によると、どうやら第八世界に黒幕がいるということらしいが……。
薄暗い路地裏。
突如、びりびりと金色の魔力が可視化し、魔方陣が生じる。転送魔法である。
白い閃光とともに、ひとりの少女が降り立った。
前屈の状態から、ゆっくりと頭を上げる少女。美しい金髪のツインテールが揺れた。クールな表情。フェイト・T・ハラオウンは15歳。将来有望の執務官候補生である。
「ここが、第八世界か――」
フェイトはゆっくりと目を開き、絶句した。目の前に薄汚れた茶色のフード付きローブに身を包んだ女の子が目の前にいたのである。顎の下からおさげがのぞいている。肌つやと背丈から、9歳ぐらいに見える。
転送地点が悪かったのか、いきなり現地民に見つかってしまった。
「……お姉ちゃん、いまの、どうしたの? それに、変な格好だけど……」
女の子が不思議そうに問いかけてくる。
フェイトはたったいま魔法を使用したため黒いバリアジャケット姿。肩と太ももが露出している。
おさげの女の子は目をまんまるにしている。そうだ。この世界ではフード付きのローブで全身を覆い肌を隠す服装が通常。彼女にはよほど奇妙な服装に見えたのだろう。
「そんな格好、みたことない……。もしかして、お姉ちゃん……っ!」
フェイトが答えずにいると、女の子の表情が見る見る笑顔になった。
「異世界のひと!? すごい! 異世界のひと、わたしもついに見ちゃった!! これでクラスの子に自慢できる――」
女の子が声のトーンが一段階上がったため、フェイトは慌てて「しー」と人差し指を口に当てた。
「あ、ごめん……!」
女の子はしゅんとなるが、すぐにぱっと笑顔を見せた。
「お姉ちゃん、ホントに異世界のひとなの? ねえ! ねえ!」
フェイトのマントの裾を引っ張ってはしゃぐ女の子。フェイトは仕方なく頷いてやった。
「すごいっ!! ほんとに――」
再び大声を上げる女の子に、フェイトは「しー」と繰り返す。
フェイトはこどもの扱いには慣れていなかった。
こういうときはどうしたらいいものか……。
フェイトは、同僚の高町なのはが、異世界のこどもを手なずけるときに使う手を思い出した。
「君、私は今、極秘任務の真っ最中なんだ。あんまり大声を立てないでくれるかな……」
「極秘任務っ……!」
女の子の目がきらりと輝いた。
よしよし。こどもが「秘密」とか「極秘」という言葉が好きなことを知っていてよかった……。
「……君、ちょっとお姉さんに協力してくれる?」
「する!!」
フェイトは再び「しー」と人差し指を出すが、女の子の顔は嬉しそうに緩んでいる。
とにかく、情報を仕入れなければ。
「いまは何年?」
「えっと、おぴょぴょ3020年」
おぴょぴょというのは第八世界の元号。転送は上手くいったようだ。
「さっき、異世界のひとを見たら自慢できる、とか言ってたけど、最近異世界人の目撃情報があるの?」
「うん。異世界のひと見つけたら、みんなに自慢できるんだよ!」
「どのあたりで目撃情報が多いか、場所はわかる?」
「んーと、エンゼルタウン方面の通学路の子が見ること多いって言ってたから、『三姉妹の館』付近だと思うよ!」
「『三姉妹の館』?」
「うん! この国で最強の魔法使いって言われてる三姉妹。この前、三姉妹がワープ魔法を構築してくれたおかげで、国同士の行き来がすごく活発になったってテレビで言ってたよ!」
なるほど。転送魔法に明るい魔法使い三姉妹か……。
おそらくこの事件の黒幕とみていいだろう。
「ありがとう。参考になった。君、名前は?」
「モル!」
「そう。モル。今日私にあったことは、クラスのみんなには内緒だよ?」
「ええええ」
「極秘任務だよ」
「う……」
「この世界で私のことを知っているのは、モル、君だけだよ。この世界の平和は君にかかっているんだ」
「わかった……」
モルは、頬をふくらませながらも承諾してくれた。
フェイトは、バリアジャケットの上から、用意しておいた黒いフード付きローブを羽織ると、
「じゃあね。モル、元気で」
「あの……、お姉ちゃん」
踵を返したところで、モルに呼び止められる。
「お姉ちゃんの名前……」
フェイトは振り返らずに、
「……時空管理局、フェイト・T・ハラオウン」
名乗るのは、情報提供の最低限の礼儀を尽くしたつもりであった。
一期一会。モルがどんな表情で見送ってくれているのか、フェイトは知らない。
(つづく)
(♯1)
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(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
久々のなのはモノ。フェイトさんをくすぐって欲しいとご要望いただきました!