「……ん、うん?」

 フェイトは目覚めると体の節々に痛みを感じた。
 起き上がろうとして気付く。
 手足が拘束され、まったく動かなかった。

 フェイトは、台の上に仰向けに寝かされ、両腕をまっすぐ真上に伸ばす万歳の格好で拘束されていた。
 両手首足首に頑丈な枷がはめられて、体を引っ張り伸ばされている。
 変装用のローブははぎ取られ、バリアジャケット姿である。

「おはよう」

「き、君は……っ」

 フェイトは目の前に現れた女性の姿を見て、絶句する。
 茶色のフード付きローブに身を包んだ小さな少女。顎の下からおさげがのぞいている。

「ごめんね。フェイトお姉ちゃん。私が、この家の三女なの」

 ここ第八世界で初めて出会った少女モルが、黒幕のひとりだったのだ。
 フェイトは自身の浅はかさを悔やんだ。

「異世界から転送魔法が使われたら、私たちぐらいになるとすぐわかるからね。転送場所で待ち伏せしてたの」

 モルはにっこりと笑った。
 無邪気な笑みに、フェイトはぞっとする。

「こういうの。飛んで火に入る夏の虫っていうのかな? フェイトお姉ちゃん。さっき、ムル姉のこちょぐり見てたんだよね? だったらいまから何されるか、わかるよね?」

 モルは言いながら、両手をフェイトに向けて伸ばしてくる。
 フェイトはエレンのくすぐられる姿を思い出した。
 エレンをくすぐっていたのはムル姉というらしい。呼び名からして、おそらくモルの姉なのだろう。

「……き、君たちは、なんのために、こんなことをしているの?」

 フェイトはおそるおそる訊ねた。
 すると、モルは手を一瞬止めて、くすりと笑った。

「いまにわかるよ」

 直後、フェイトの露出した腋の下に冷たい指先の刺激が伝わってくる。

「――ひぁぃんっ!!?」

 フェイトはびくんと体を仰け反って声をあげた。

「わあ、フェイトお姉ちゃん敏感だね! これはやりがいがあるよ~」

 モルは言いながら、小さな指先をこちょこちょ動かし始める。

「ふやっ……!? あひっ、あはぁあんっ……やめっ、もるっ、やはぁぁあんっ!!」

 フェイトは腋の下の刺激に、ぷるぷると体を震わせて悶えた。
 腕を下ろしたくても手首の枷はびくともしなかった。

 幼いモルの細くて小さな指が、フェイトの腋をなで回す。

「やはあんっ、ひっ、いひっ……!! やひぃぃいんっ」

「お姉ちゃん、顔真っ赤っかだよ? そんなに笑いたくないの? そっか! 私みたいなちっちゃいこにこちょぐられて笑っちゃうのはプライドが許さない? ねえ」

 モルはにやにやと笑いながら、フェイトの腋をくりくりとくすぐり続ける。

「くひぃいっ!! そんな……わけじゃぁあ、あひぃあああ!! んぎぎぎひぃぃ」

 フェイトは必死に奥歯を噛みしめた。
 ちょっとでも力を抜くと笑い出してしまいそうだ。
 モルの煽り文言は、肯定したくないものの、言い得て妙なり。くすぐられて笑い出す、という自分自身の体の反応に対して、恥ずかしさと屈辱感を覚えてしまう。

「敏感なくせにがんばるよね。お姉ちゃん。もしかしてツボはもっと別にあるのかな?」

 モルはそういうと、徐々に指先を下方へずらしていく。

「あひぁっ、だ、だめぇっ、ひ、ひ、ひ、んひゅいいいっ!!!」

 アバラをくりくりといじるモル。
 フェイトは溜まらず「ぷふっ」と涎をふきだしてしまう。

「うわ、お姉ちゃんきっちゃない! アバラゴリゴリはやっぱり辛い? ご~りご~り」

「やははっ……そやぁぁっ、それだめぇえっ、にひっ!! いひひっ、あひぃぃ~~!!?」

 フェイトは必死にこらえるものの、すでに口からは笑いが漏れている。
 口角が上がってしまうのを抑えられない。

「じゃあ、お腹~」

「くひひひひひっ……あひぃい、んひゃぁああっ!!?」

 フェイトは、脇腹からお腹に指を這わせられると、びくんと体をよじる。

「あ、ちょっと反応よくなった。へえ。お姉ちゃんって、露出した腋の下より、お腹の方が弱いんだね~。んじゃあ……」

 と、モルはフェイトの腰のベルトを外し始める。

「……ん、えっ!? ちょ、ちょっと。なにやって」

 フェイトは慌てて制止を求めるが、ベルトははぎ取られ、

「はーい、ぺろりんちょ~」

 べろん、と服の裾をまくられ、くびれたお腹が外気に晒されてしまう。

「じゃあ、人差し指でちょんちょんっと~」

「うひゃああぁあっ!!!」

「うわぁ、おへそ弱い!! じゃあ、おへその周りもく~るく~る」

 モルは、可愛らしく鼻歌を歌いながら、人差し指でフェイトのヘソ周りをなで始めた。

「ひぃぃいいいいいいいいひひひひひひっ!!!? ふひゅぅぅ~~ふふっ……んぎぃひひぃぃぃぃいい~~!!!?」

 フェイトは体を仰け反った。
 ぴんと上下に引っ張られたお腹を優しくいじられるのは、たまらなくくすぐったい。

「どう? どう!? お姉ちゃん! 生殺し、気持ち悪い? ねえ?」

「ンひゅひひひぃぃいぃい~~……やめぇえぇんぎぃぃ~~んにゅぅぅううあひぃぃっ!!!」

 モルは手遊びするようにフェイトのヘソ周りをなで回す。
 フェイトはお腹を思いっきりよじる。素肌のお腹なんて、他人に触れられたことなどなかった。未知の刺激に、フェイトは首を左右に振って悶えた。

「ほひぃぃい……ほんとにっ、やめひぃぃいいいいんっ!!!? ……あひ、はひ、はひ……、……え?」

 突然指を止めたモル。フェイトは顔をもたげた。
 刺激が急に止んだことで、不覚にも――

「お姉ちゃん、いま、もっとやって欲しいって思ったでしょ?」

 モルはニッコリとフェイトに微笑みかけると、10本の指でわしゃわしゃフェイトのお腹をくすぐりはじめた。

「――ぶふぅうううううううっ!!? っはっはっはっははっははっははっ!!? ぶはっはっはっははははっはははははっははやめぇぇええええ!!!」

 その刺激は、人差し指一本で散々生殺しにされて敏感になったフェイトには絶えられなかった。
 フェイトは盛大に吹きだして笑い出す。

「いひゃはははははははははは!!!? ちょとおっっぁあっはっっはっはっっははっは、くるしぃいいっひひひひひひひひ、うはぁぁぁあああ~はははははははははは!!!」

「お姉ちゃん、やっぱり激しくこちょぐられるの待ってたんでしょ? 涎までたらして喜んじゃって」

「ちがううぅぅひひひひひひひひひっ!!! くすぐるのだめぇぇええええはははははははははははははは!!!!」

 フェイトは自分でも驚くほど甲高い声を上げて笑っていた。
 いままで人前でこんなに声を上げて笑ったことなど無い。
 普段めったに大口を開けることも無いため、顎が外れそうだった。

「お姉ちゃん、お腹、ひくひくしてるよ~? そんなにこちょぐったい?」

「ひぃぃ~~ひぎぃいっひっひっひっひ、当たり前ぇぇええっへっへっへっへ、やめてぇぇええ~~!!!」

 モルはへらへら笑いながらフェイトのお腹をなで回す。
 フェイトは激しく体をよじり、金髪のツインテールを振り乱しながら笑い狂った。

「だめだめ! 『こちょぐったいの弱いからやめてちょんまげ』って言わないと……」

「にあぁぁはっははははっはっははっはっ!!? なにそれぇぇぇええっへっへっへへっへっへっへ~~!!? なんでそんなことぉおおあはははははっはははは!!!」

 モルの悪ふざけなんて、付き合ってられない……。
 しかし、付き合ってやらないと、くすぐりが止まらない……。

 わしゃわしゃわしゃ。

「きぁあぁえひゃはははははははっはははっ!!!?」

 モルの指先の動きが速くなった気がした。
 くすぐったさが増し、腹の底から沸き起こる笑いに歯止めが利かない。

「いひぃひひひひひひひぎぎぃぃぃ~~!!! 息があぁぁはっはっはっはっはっ、いきがぁぁががひゃはははははははははっは!!!!」

 このままでは窒息してしまう。
 背に腹は替えられない。

「こひょっ……いぃぃいいっひっひひいいひひ、こちょぐぐたぃのひょわいぃいひいひひひっひひひ!!!! やめへひょんまべぇぇえっへっっへっへっへっへ!!!」

 フェイトは涙を流しながら、叫んだ。

「えーなになに? お姉ちゃん、いまのじゃ何言ってるか全然わからない。もっかい!」

「そんにゃぁぁああはっはっははははははっははははは!!!! 卑怯なぁぁあっはっははっはははっははは!!!」

 あんな恥ずかしい台詞を、馬鹿みたいに大口を開けて笑いながら、また叫ばなければならないなんて……。

 わしゃわしゃわしゃ。

「ひぎぃいいいあっひひっひっひひっひひひひひひひっ!!!?」

 思考すらままならない。
 お腹から脳に送られてくるくすぐったさで、気が変になりそうだった。

「こちょあおおおおあっはっはっはっはっはっは!!!! こちょぐぅううったいの弱いからぁああああっははははっはっ!!! やひゃひゃ、やめてちょんまげぇぇえぇええひぇへ~~!!!」

 自分はいったい何を言わされているんだ……。
 しかも、こんな小さな子に……。

 フェイトのプライドはずたずただった。呼吸困難による苦しさと、自尊心を傷つけられた悲しさがぐちゃぐちゃに混ざり合って、感情がコントロールできない。

「あ、お姉ちゃん! よく言えたね! いまのはよく聞こえたよ!」

「あひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!? 言ったからぁぁぁあははっははははっはは、言ったからやめへぇぇぇぇえっっへっへへっへへっっへ!!!」

 モルの指は一向に止まる気配が無い。
 それどころか、脇腹のツボに親指をねじこんできて、フェイトは悲鳴を上げた。

「えー。それ言えたらやめるなんて言ってないじゃーん。にひひ。フェイトお姉ちゃん、ちゃんと言えたから、も~っといっぱいこちょこちょしてあげるね」

 モルはそう言うと、片手でフェイトのおへそをほじくりながら、もう片手で脇腹を揉みほぐす。

「ひぎゃぁぁああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!? そんにゃぁぁああああっはっはははははっははっはははっはは~~!!! 頭がへんににゃるゆぅううううひひひひひひひひひひひひひ!!!」

 フェイトが半狂乱で笑い続けていると、突然部屋の扉が開いた。

「ちょっとモル、そろそろ替わりなさいよ」

 そう言って入ってきたのは、薄緑色のフード付きローブを着たフェイトと同い年くらいに見える女の子だった。フードに隠れて見えづらいが、どうやら髪の毛は顎の下あたりでぱっつんに切りそろえている様子。

「あ、メル姉」とモルは手を止める。たったいま入ってきたぱっつん少女、名前と見た目から、おそらく三姉妹の次女であろう。
 急にくすぐりが止んで、フェイトは大きく咳き込んだ。

「もう十分遊んだでしょ。あたしだって新しい子で遊びたいんだから」

「えー。まだ途中なのにー……」

「ワガママ言わないの。順番順番」

「しょうがないなー……」

 フェイトは二人のやりとりをぼんやりと聞いていた。息を整えるのに必死で、内容はほとんど耳に入ってこない。
 そのうちにモルは部屋を出ていき、メルが残った。

「フェイトさん。だよね。あたし、メル。次はあたしと遊ぼうね」

 メルはそう、にっこりと首を傾げて見せた。
 フェイトは、先ほどのモルの無邪気な狂気とは違う、もっと悪質な狂気をその笑顔に認め、戦慄した。



(つづく)



♯1 ♯2 ♯3



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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 久々のなのはモノ。フェイトさんをくすぐって欲しいとご要望いただきました!