私立L校正門前。
「ちょっと、いいかい?」「……はい?」
 生徒達は下校の時間である。ベージュの制服姿の女子生徒に混じって、場違いなスーツ姿のおっさんがいた。おっさんに声をかけられたボブカットの女子生徒はきょとんとした表情を浮かべた。
「私、雑誌記者をやっているものです。『メガネっ娘女子特集』という企画がありまして、L校を紹介させていただきたいもんで……。だれか『メガネっ娘』で思い当たる子いるかな?」
「……『メガネっ娘』って、ちょっと古くないですか?」
「いやいや、『メガネっ娘』の時代はこれからさ! コンタクトレンズとレーシックの台頭によって激減したメガネ女子! だからこそ、希少価値があるのだよ!」
「……そ、そうなんですね」
 女子生徒は若干引いている。
「誰かいないかな? メガネをかけてる子、君のクラスにいない?」
 おっさんはぐいぐい押す。
 女子生徒は「うーん……」と小首をかしげ、
「……いるにはいますけど、あんま話したこと無くて」
「大丈夫! 交渉はこっちでやりますから! なんて名前?」
「……えっと、三井佳奈(みつい かな)さんって名前ですね」
「どんな子? 容姿は? 性格は?」
「……背丈は一般的な女子ぐらいで、髪の毛は頭の後ろで雑な感じに一つくくりにしてます。本人があんまり容姿には気を遣ってないみたいで……。いつも黒縁メガネをかけてて、人と目を合わさないんです。無口で、人と喋ってるのはほとんど見たことないです。なので性格はあんまり知らない……」
「あーなるほど、休み時間も教室の隅でひとりで本読んでるタイプ?」
「……ステレオタイプだけど、……そんな感じですね」
「なるほどなるほど。君と同じクラスなんだよね。三井佳奈さん。君のクラスは――?」


 I女学院正門前。
「『メガネっ娘』かあ~」「そりゃあやっぱり」「ね!」
 場違いスーツのおっさんが声をかけた女子生徒三人組はノリノリだった。L校のややませた女子生徒らと比較すると、ずいぶんと無邪気で幼く見える。これも校風だろうか。
 緑を基調としたボレロ型の制服も、見ようによっては園児服に見えるデザインである。
「山形夢穂(やまがた みずほ)ちゃん!」
「三つ編みにしてて、いっつもはわはわしてるの!」
「よく転けるから、膝にいっつも絆創膏つけてるんだよね~」
 おっさんはふんふむと頷きながら三人の言葉をメモした。
「なるほど、……絶滅危惧種か」


 C大学付属校正門前。
「ちょっと失礼、お嬢さん」
「……」
「『メガネっ娘女子特集』なんですが、どなたか良い『メガネっ娘』いませんかね~?」
「……」
「もしもしお嬢さん?」
 ショートカットの女子生徒は、おっさんを無視して早足で歩く。
「……そういうバカバカしいの、興味ないですから」
 女子生徒はイライラと言う。
「まあまあ、そうおっしゃらずに」
「……どうして私につきまとうんですか? 忙しいので。他の人にあたってください」
「お嬢さん、メガネがとてもよくお似合いですね」
「え?」


~~~


 とある倉庫に軟禁された、私立L校の三井佳奈、I女学院の山形夢穂、そして――
「こんなところにつれてきて、どうするつもりですか? 早く帰してください。警察呼びますよ。勝手にバッグを漁らないでください」
 C大学付属校のセーラー服を着たショートカットの女子生徒は早口でまくし立てる。
 おっさんは構わず、彼女のバッグから生徒手帳を抜き出した。
「なるほどなるほど。大垣静(おおがき しず)さんというお名前でしたか。偶然にも、C大付属で最初に声をかけた方がぴったりの『メガネっ娘』だったので、手間が省けました」
「ふざけないでください。早くコレを外して、解放しなさい」
 大垣静は物怖じしない。
「そ、そうです! わ、私たちを、助けてください! こんな恥ずかしい格好……、もういや」
 便乗して叫ぶのは、I女学院の山形夢穂だ。声が震えている。
「……」
 私立L校の三井佳奈は、そっぽを向いている。澄ました表情だ。反応する気がないらしい。

 三人は横一列に並べられたM字開脚診察台に、両手両足を大きく広げて拘束されていた。
 股を広げて身動きの取れない体勢は、彼女らの羞恥心をかき立てる。
 私立L校は、ベージュの上着にミニスカート、胸に大きなブルーのリボン、フリルの付いた白いクルーソックス、ショートブーツという制服。
 I女学院は、濃緑色のベストにライムグリーンのボレロ、薄緑色のプリーツスカート、フリルの付いた灰色のソックス、ローヒールの革靴という制服。
 C大学付属校は、紺のセーラー服に、ピンクのリボンという制服。足元の指定はないらしい。大垣静は、黒いハイソックスにスニーカーである。

 彼女らの足元には半裸のおっさんが二〇人程ひしめきあっている。
「無地の白、くまさん、……チ、スパッツか」
 ひとりのおっさんが、左から順番に、彼女らのスカートの中を覗き込みながらいった。
「……っ」
 さすがに三井佳奈もぴくりと眉を寄せた。
「や、やだあっ!」
 山形夢穂は顔を真っ赤にして、涙を浮かべた。
「……変態」
 大垣静は、侮蔑的な視線をおっさん達へ送った。

「説明しよう!」
 スーツのおっさんが声高に言った。
「我々は、『メガネっ娘』に騙された被害者同盟なのだ!」
「騙されたって、何を……」と返したのは大垣静だった。しかしおっさんは無視して、
「『メガネっ娘』は従来、『メガネを取ると実は美人』というキャラだったはずだ。メガネという殻に自己を封じ、本来の自分を出せずにいる、あるいは気づけずにいる。そんな、女性の二面性を萌へと昇華する担当だったはずだ! それが、現状はなんだ!? メガネがファッションアイテムの一部に成り下がり、はては、メガネをかけた姿こそ本来の自分だ、などという詭弁がまかり通っておる!! メガネとは、秘め事の象徴なのだ! 二面性を暗示させるためのメガネであり、断じて特徴のひとつとしての項目ではありえない! 『メガネっ娘』が『メガネっ娘』たる所以は、メガネという記号、メガネという意図を、そのキャラが含有するからこそなのだ! 秘め事を持たぬ者に、メガネをかける資格は無い!!」
 おっさんの演説に、三人の女子生徒はどん引きして言葉が出ない。
「我々は、ここ数年、メガネをかけていながら『メガネっ娘』としての機能を果たさぬ『メガネっ娘』達に失望させられ続け、とうとう『メガネっ娘』に復讐を誓ったのだ!」
「そ、そんな……私はただ、ちっちゃい頃から本が好きで視力が落ちちゃっただけで……」と、泣きそうな声を出す山形夢穂。
「貴様等にメガネをかける資格などないことを、身をもって思い知るが良い!」
 スーツのおっさんの声で、半裸のおっさんたちは雄叫びを上げ、三人の女子達の体へ群がった。


(つづく)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 清楚系女子くすぐり狩りの別パターン。私の中で、『メガネっ娘』で思い浮かぶのはアラレちゃんか地味子です。ちなみに私自身は、『

×メガネを外すと本当の自分
○メガネをかけている姿が本当の自分

』派です^p^
メガネキャラがメガネを外して露わになる姿は、背伸びした理想像。メガネをかけている姿が素の現実像。そのキャラ軸のストーリー上において、キャラ自身が自己実現を果たすために受け入れるべきは、後者だという認識であります。

#1