まるで、無垢な少女と娼婦の妖艶さが同居したような顔立ち。
 人間は、美しさが度を越すと、年齢の概念が消えるらしい。
 そんな美貌を備えた、銀髪の少女が十字架に磔にされている。

 なんやかんやで、ゼロは魔女狩りに遭ってしまった。

「……く、傭兵……」

 ゼロは、連れの獣人の呼び名をつぶやいた。
 本名は知らない。彼は下僕ではなく、友だからだ。
 ゼロが囚われた際、なんとか彼だけは逃がすことに成功した。
 ゼロは、彼の身の安全だけを願っていた。

 ぶかぶかの外套、死ぬほど丈の短いズボン、腿の半ばまでのえらく長い靴下に、ロングブーツという格好のゼロ。
 その周りを、フードを被った男達が取り囲んでいる。
 男の一人が歩み出て、地面から数十㎝浮いた位置で縛り付けられてるゼロの顔を見た。
「可愛い魔法少女さん。最後に言い残すことは?」
「魔法少女ではない」
 ゼロは即座に言い放ち、高らかに宣言する。
「我輩は魔女である。無意味より意味を見出し、無より有を生み出す泥闇の魔女よ!」
 男達の間でどよめきが起こる。
「……なるほど魔女か。そうか。魔女だったな。なら、手加減はいらないな」

 男達が迫ってくる。
 ゼロは覚悟を決める。
 が、ふと誰も、火刑のための火を持っていないことに気付き、ゼロは首をかしげた。

●●●

「やはははははははっ!? あぁぁ~~っはっはっはっはっは! だぁっはっはっはっは!!?」

 数分後、ゼロの上半身に五十本の指が這い回っていた。
 火刑に処されるとばかり思っていたゼロは、突然のくすぐりに耐えることができなかった。
「不浄な魔女よ! 笑滅せよ!」
 男達は各々何度もそう叫びながら、ゼロの腋、胸、お腹、首筋など、細い体に節くれだった指を這わせる。

「なははははっ!? なんだっ!!? ぅにゃ! なんでくすぐるんだぁぁあぁ~~っはっはっはっはっはは!?」

 ゼロは目に涙を浮かべて笑い、叫ぶが、くすぐる男達は反応を見せない。

「やめっ、あはははははははっ!!! やめれぇぇっはっはっはっはっはっは~~!!!」

「不浄な魔女よ! 笑滅せよ!」
 男達のくすぐりは一向に弱まる気配を見せない。ゼロは笑い続け、どんどん体力を消耗させていった。

「ちょっと待ってくれ!」
 突然、男の声が処刑場に響いた。
 ゼロをくすぐっていた男達が一斉に指を止める。
「……けほっ、あ、……き、貴様は……」
 ゼロは息を切らしながら顔を上げた。
 処刑場に駆けつけてきたばかりらしい、盗賊の頭目もかくやのむさくるしい大男は、全身汗だくだった。
「そちらのお嬢さんはっ」
 王都までの中継都市ファーミカムの古着屋――ゼロが連れとともに衣類を買い揃えた――の店主だ。
「俺に靴下をくれると約束してくれたんだ! 処刑はそのあとにしてくれ!」
 店主が叫んだ。
 ゼロは、唖然とした。
「……貴様、何を言っているのだ?」
「お連れの少年が約束してくれたんでございますよ! ほら、お嬢さんの今召されている、靴下をお勧めになった」
 店主は目を輝かせた。
 ゼロが逡巡していると店主は付け加える。
「私めの目の前で脱いでいただけると、確かに約束いただきました」
「……わっぱめ」
 ゼロは、忌々しげにつぶやいた。
 すると、フードを被った処刑人の一人が店主の方へ呼びかける。
「お主が脱がしてよいぞ。ちょうど我々も、ブーツを脱がそうと思っていたところだ」
 店主の顔がぱぁっと明るくなった。

○○○

「よっ、よせ! やめろぉっ」

 一時的に足の拘束を解かれたゼロは、店主の顔を思い切り蹴りつけた。
 が、店主は握り締めたゼロのニーソックスのつま先を離そうとしない。
 ロングブーツは二足とも既に脱がされ、地面に転がっている。

「おやおや、足癖の悪いお嬢さんですねぇ」
 店主は、ゼロが蹴ろうが踏みつけようがにやにやと変態的な笑みを絶やさず、ニーソックスを脱がそうと引っ張り続ける。
「貴様っ! そんなものっ、何に使うつもりだっ!?」
 ゼロは必死に抵抗するが、店主の力は強い。
「お嬢さん! 俺の生きる糧なんです! お願いします! お願いします! ……お願いしますっ!!」
 店主の目がマジで、怖い。
 数分間の格闘の末。
「あぁっ」
 すぽんっとゼロのニーソックスは両方とも脱がされてしまった。
 ゼロの素足が晒されるや否や、フードの男達が取り囲む。
 あっという間に、ゼロの両足は、揃えて、再び十字架にくくりつけられてしまう。
 
 店主は、脱がしたてのニーソックスをさっそく顔にあてて深呼吸している。
 恍惚の表情を浮かべる店主を尻目に、処刑人達は一斉にゼロの素足へ襲い掛かる。

●●●

「あひゃひゃひゃひゃ!!!? やめれぉぉっ、やめりょぉぉ~~ひゃっはっはっはっはっは!!!」

 ゼロは素足の足の裏や、太腿、膝をくすぐられ、美しい銀髪を振り乱して笑う。
 処刑人の男達の指は荒れてガサガサになっており、ゼロの足の裏にとてつもないくすぐったさを与えるようだ。

「あがっ、がははははははははっ!!! いひゃっ!? 頼むぅぅぅ~~っひっひっひ、やめてぐれぇぇぇぇひゃひゃひゃひゃ!!!」

 ゼロの足の裏でジョリジョリと皮膚の擦れる音が響く。
 くすぐったそうに、ゼロの足の指が反り返ってよじれる。

「あぁぁ~~ひゃはははははははは!!? うははははははっ、くすぐったいぃぃぃ~~っひっひっひっひっひ!! くすぐったいってばぁぁぁははははははは!!!」

 ゼロは顔を真っ赤にして笑う。
 男達は、足の指間から膝裏や内股まで、脚の余すところなくくすぐり続けた。

「あひゃひゃっ!!? いひゃっ……はひゃひゃはははは、ひひひひっ、いぎぃぃひひひひひひっ」

 ゼロはだんだん意識が遠のいていく。
 開きっぱなしの口からはダラダラと涎が流れ出続けている。

(よう……へい……)

 焦点の定まらない目。
 ゼロの視線の先に、その待ち人が見えたような気がした。

「おい魔女!」
 処刑場に雄々しい声が響いた。
 男達の指が止まる。
 ゼロは、大きく咳き込み、深呼吸。その声の主をゆっくりと見やった。
「せっかく、逃がしてやったのに……」
 ゼロは忌々しげにつぶやきながら、安堵の涙を流した。
「何故、ここに来たんだっ……、馬鹿者が……っ」


(完)