「今日の放課後って時間ある? あるよね。久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」
藍越学園学生食堂にて、凰鈴音(ファン リンイン)は積極的であった。
彼女はその日転校してきたばかりであったが、むしろ一年間の不在を盾に、「将来毎日酢豚を食べさせる」と約束をした男、織斑一夏(おりむら いちか)にアプローチをかけていた。
「あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」
応えたのは一夏ではなく、突如割り込んできた篠ノ之箒(しののの ほうき)。一夏の幼馴染みである。
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです」
さらに便乗してきたのはセシリア・オルコット。一夏とは同じクラスの、学園の入学試験で首席通過かつ、イギリス国家代表IS操縦者候補生である。一夏と一戦を交えたことをきっかけに、彼を見直し、好意を抱いている様子。
箒とセシリアは恐ろしい形相だ。
しかし鈴音は特に気にした様子も無く、
「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」
余裕しゃくしゃくという態度で、食べかけのラーメンのスープを飲み干し、足早に立ち去った。
鈴音は小学校五学年から中学校二学年までの丸四年間を一夏と過ごした。その期間の長さ、彼女自身のさばさばとした性格、交わした約束が、その余裕をもたらしたのだろう。
鈴音の後姿を見送った箒とセシリアは、互いに顔を見合わせ、頷き合った。
「一夏、当然特訓が優先だぞ。……と、言いたい所だが」
「わたくし達、少し急用ができてしまいましたので、放課後の特訓には代役を立てておきますわ。くれぐれも、時間一杯、真剣に取り組まれますよう」
箒、セシリアににらまれた一夏は、肩をすくめた。
○○○
「ちょっと!? なにすんのよあんた達!」
放課後、学生寮1025室のベッドの上には、制服姿の鈴音が四肢をロープで縛り付けられ、からだを大の字に引き伸ばされていた。ブレスレットは外されている。
「この状況でよくもそんな口が叩けるものだな」
「代表候補生といえど、こうなってしまえば、ただの生意気な女の子に過ぎませんわね」
鈴音を取り囲み、不敵な笑みを浮かべるのは箒とセシリア。
1025室は一夏と箒の相部屋である。
箒とセシリアは共謀して鈴音を呼びつけ、隙を突いて拘束したのだった。
「単刀直入に言おう。一夏の特訓の邪魔をするな」
「はあ?」
「そうですわ。わたくし、有意義な時間を彼の特訓にささげているんですの。それをあなたに邪魔されては――」
「別に四六時中特訓してるわけないんでしょ? なんで駄目なわけ?」
セシリアの言葉をさえぎるように、鈴音は言った。
ぐっと言葉を詰まらせるセシリア。
それを見た鈴音は、
「ははーん、もしかしてあんた、一夏に惚れてんの?」
「なっ!?」
「あ、図星? でも残念、実はあたし、もう一夏と予約済みなんだよね」
「「何っ!!!?」」
箒とセシリアが同時に声を上げた。
「耳元で叫ばないでよ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないよ。小学校のとき約束したんだから」
鈴音は嘆息する。
「わかった? もうあんたらの出る幕ないんだって。わかったら早くこれ解いて――」
「お黙りなさい!」
突然のセシリアの激昂に、びくっと肩を震わせ口をつぐむ鈴音。
「篠ノ之さん? こんな嘘つき娘にはお仕置きが必要だと思いませんこと?」
「珍しく同感だ」
セシリアと箒はともに頷きあうと、ゆっくりと鈴音の無防備なからだへ、手を伸ばした。
「……なっ!? ちょっと!? あんたたち、何するつもり……?」
二人の恐ろしい笑顔を見て、鈴音は表情をこわばらせた。
●●●
数分後。
「きゃははははははっ!!!? やぁぁあ~~っはっはっはっは、あんたらぁぁあははははは!!! やめなさいよぉぉ~~っはっはっはっは!」
鈴音はツインテールを左右にぶんぶんと振り回し、大笑いしていた。
箒とセシリアは、鈴音のからだの左右に立ち、それぞれ腋の下やアバラ、脇腹、腰辺りに指を這わせている。
「9話のお返しに、たっぷり笑わせて差し上げますわ」
セシリアは高慢な笑みを浮かべて言うと、おなかをさわさわと撫で回した。
「ふにゃあぁあはははははははっ!? きゅうわっ、きゅうわってなにぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひ~~っ!!?」
鈴音は激しくからだを揺らし暴れる。四肢を拘束したロープはきつく、ぎちぎちと音を立てた。
「さっき言っていた約束とはなんだ?」
箒が、鈴音の腋の下を激しく指でこそぎまわしながら言った。
「がひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? 嫌あぁぁあはははははははははっ、腋やめっ!!! 腋やめてぇぇぇえ~~ひゃひゃはははははははは!!!」
「約束について説明を要求する」
箒は追い討ちをかけるように、片手で鈴音の首筋を撫でた。
「ふやぁぁあっはっはっはっはっはっ!! しゅぶっ、すぅぅふふふふふっ!! ブタっ! すぶっ、っひっひっひっひ、ブタっぉぉ~~ふぁっはっはっはっはっ」
鈴音は目に涙を浮かべて叫んだ。
「なん……だと……?」
「だ、だっ、誰がブタですって!?」
箒とセシリアは大口を開けて笑う鈴音の顔を一瞥すると、
「この期に及んで何たる言い草。怖いもの知らずなのか、馬鹿なのか」
「わ、わ、わたくしをブタ呼ばわりなんて、良い度胸ですわね!」
二人の指の動きが激しくなった。
「ちがっ、ちがぁぁあはっはっはっはっははっはっ!!! しゅぶひゃはははははははっ! すぶぅぅひっひっひっひっひ!!」
鈴音は首を左右に振りながら、目を見開き箒とセシリアに訴えかけるように叫んだ。
「ぶひぶひうるさいな」
「さらにきついお仕置きが必要ですわね」
すると、セシリアは鈴音の足元に移動し、鈴音の両足から靴下を脱がした。
箒は両手で、鈴音の腋の下をむさぼるようにくすぐり続けている。
「あぁぁ~~ははははははははっ!!! やめてぇぇえっひゃははははははは!! やくそくぅぅひゃひゃっ、きゃっはっはっは、しゅぶっ、ばっはっはっはっはっは!」
鈴音が必死に何かを訴えかけようとするのを無視して、セシリアは鈴音の両方の素足の足の裏をかりかりと引っかき始めた。
「うにょぁあぁああははははははははははっ!!! ひゃめえっ!! あひっ、あひやだぁぁあっはっはっはっはっは!!」
「おやおや、ずいぶんと敏感ですこと。足の指をそんなに動かしては、はしたないですわ」
言いながら、セシリアは鈴音の土踏まずと足指の付け根に爪を立てた。
「くわぁぁあっはっはっはっはっはっは!!! だめぇぇえへへへへ、だめだってぇえひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
鈴音は泣き叫んだ。
「足ばかりに気をとられてもらっては困るな」
箒は、ごりごりと鈴音のあばら骨をほぐすようにくすぐる。
「ふがぁぁはははははははははっ!!! いやぁぁああ無理無理無理ぃぃぃぃひひっひひひひひひひひひひひひひ!!」
鈴音は舌を出して笑いながら、目の前の箒をにらみつけた。
「なんだその顔は」
「まだ懲りていないようですわね」
「さらに仕置きが必要だな」
二人の指が加速する。
「いやぁぁぁあっはっはっはははっはは! だひゃぁあ~~ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
そのとき、
「何やってるんだ?」
突然かけられた一夏の声に、びくっと肩を震わせて振り向く箒とセシリア。
特訓を終えたらしい一夏は首をかしげている。
二人は鈴音をくすぐるのに夢中になって、時間を忘れていた。
「篠ノ之。オルコット」
凄味を帯びた低い声。一夏の後ろから、セシリアが代理を頼んだ織斑千冬(おりむら ちふゆ)がぬっと顔を出した。
「ひっ!?」
「お、織斑、先生……」
箒とセシリアの表情が引きつる。
千冬の表情は「こんなくだらないことのために自分を代理に立てたのか」という非難に満ち溢れていた。
そのあと、二人は罰としてめちゃくちゃくすぐられた。
(完)
藍越学園学生食堂にて、凰鈴音(ファン リンイン)は積極的であった。
彼女はその日転校してきたばかりであったが、むしろ一年間の不在を盾に、「将来毎日酢豚を食べさせる」と約束をした男、織斑一夏(おりむら いちか)にアプローチをかけていた。
「あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」
応えたのは一夏ではなく、突如割り込んできた篠ノ之箒(しののの ほうき)。一夏の幼馴染みである。
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです」
さらに便乗してきたのはセシリア・オルコット。一夏とは同じクラスの、学園の入学試験で首席通過かつ、イギリス国家代表IS操縦者候補生である。一夏と一戦を交えたことをきっかけに、彼を見直し、好意を抱いている様子。
箒とセシリアは恐ろしい形相だ。
しかし鈴音は特に気にした様子も無く、
「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」
余裕しゃくしゃくという態度で、食べかけのラーメンのスープを飲み干し、足早に立ち去った。
鈴音は小学校五学年から中学校二学年までの丸四年間を一夏と過ごした。その期間の長さ、彼女自身のさばさばとした性格、交わした約束が、その余裕をもたらしたのだろう。
鈴音の後姿を見送った箒とセシリアは、互いに顔を見合わせ、頷き合った。
「一夏、当然特訓が優先だぞ。……と、言いたい所だが」
「わたくし達、少し急用ができてしまいましたので、放課後の特訓には代役を立てておきますわ。くれぐれも、時間一杯、真剣に取り組まれますよう」
箒、セシリアににらまれた一夏は、肩をすくめた。
○○○
「ちょっと!? なにすんのよあんた達!」
放課後、学生寮1025室のベッドの上には、制服姿の鈴音が四肢をロープで縛り付けられ、からだを大の字に引き伸ばされていた。ブレスレットは外されている。
「この状況でよくもそんな口が叩けるものだな」
「代表候補生といえど、こうなってしまえば、ただの生意気な女の子に過ぎませんわね」
鈴音を取り囲み、不敵な笑みを浮かべるのは箒とセシリア。
1025室は一夏と箒の相部屋である。
箒とセシリアは共謀して鈴音を呼びつけ、隙を突いて拘束したのだった。
「単刀直入に言おう。一夏の特訓の邪魔をするな」
「はあ?」
「そうですわ。わたくし、有意義な時間を彼の特訓にささげているんですの。それをあなたに邪魔されては――」
「別に四六時中特訓してるわけないんでしょ? なんで駄目なわけ?」
セシリアの言葉をさえぎるように、鈴音は言った。
ぐっと言葉を詰まらせるセシリア。
それを見た鈴音は、
「ははーん、もしかしてあんた、一夏に惚れてんの?」
「なっ!?」
「あ、図星? でも残念、実はあたし、もう一夏と予約済みなんだよね」
「「何っ!!!?」」
箒とセシリアが同時に声を上げた。
「耳元で叫ばないでよ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないよ。小学校のとき約束したんだから」
鈴音は嘆息する。
「わかった? もうあんたらの出る幕ないんだって。わかったら早くこれ解いて――」
「お黙りなさい!」
突然のセシリアの激昂に、びくっと肩を震わせ口をつぐむ鈴音。
「篠ノ之さん? こんな嘘つき娘にはお仕置きが必要だと思いませんこと?」
「珍しく同感だ」
セシリアと箒はともに頷きあうと、ゆっくりと鈴音の無防備なからだへ、手を伸ばした。
「……なっ!? ちょっと!? あんたたち、何するつもり……?」
二人の恐ろしい笑顔を見て、鈴音は表情をこわばらせた。
●●●
数分後。
「きゃははははははっ!!!? やぁぁあ~~っはっはっはっは、あんたらぁぁあははははは!!! やめなさいよぉぉ~~っはっはっはっは!」
鈴音はツインテールを左右にぶんぶんと振り回し、大笑いしていた。
箒とセシリアは、鈴音のからだの左右に立ち、それぞれ腋の下やアバラ、脇腹、腰辺りに指を這わせている。
「9話のお返しに、たっぷり笑わせて差し上げますわ」
セシリアは高慢な笑みを浮かべて言うと、おなかをさわさわと撫で回した。
「ふにゃあぁあはははははははっ!? きゅうわっ、きゅうわってなにぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひ~~っ!!?」
鈴音は激しくからだを揺らし暴れる。四肢を拘束したロープはきつく、ぎちぎちと音を立てた。
「さっき言っていた約束とはなんだ?」
箒が、鈴音の腋の下を激しく指でこそぎまわしながら言った。
「がひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? 嫌あぁぁあはははははははははっ、腋やめっ!!! 腋やめてぇぇぇえ~~ひゃひゃはははははははは!!!」
「約束について説明を要求する」
箒は追い討ちをかけるように、片手で鈴音の首筋を撫でた。
「ふやぁぁあっはっはっはっはっはっ!! しゅぶっ、すぅぅふふふふふっ!! ブタっ! すぶっ、っひっひっひっひ、ブタっぉぉ~~ふぁっはっはっはっはっ」
鈴音は目に涙を浮かべて叫んだ。
「なん……だと……?」
「だ、だっ、誰がブタですって!?」
箒とセシリアは大口を開けて笑う鈴音の顔を一瞥すると、
「この期に及んで何たる言い草。怖いもの知らずなのか、馬鹿なのか」
「わ、わ、わたくしをブタ呼ばわりなんて、良い度胸ですわね!」
二人の指の動きが激しくなった。
「ちがっ、ちがぁぁあはっはっはっはっははっはっ!!! しゅぶひゃはははははははっ! すぶぅぅひっひっひっひっひ!!」
鈴音は首を左右に振りながら、目を見開き箒とセシリアに訴えかけるように叫んだ。
「ぶひぶひうるさいな」
「さらにきついお仕置きが必要ですわね」
すると、セシリアは鈴音の足元に移動し、鈴音の両足から靴下を脱がした。
箒は両手で、鈴音の腋の下をむさぼるようにくすぐり続けている。
「あぁぁ~~ははははははははっ!!! やめてぇぇえっひゃははははははは!! やくそくぅぅひゃひゃっ、きゃっはっはっは、しゅぶっ、ばっはっはっはっはっは!」
鈴音が必死に何かを訴えかけようとするのを無視して、セシリアは鈴音の両方の素足の足の裏をかりかりと引っかき始めた。
「うにょぁあぁああははははははははははっ!!! ひゃめえっ!! あひっ、あひやだぁぁあっはっはっはっはっは!!」
「おやおや、ずいぶんと敏感ですこと。足の指をそんなに動かしては、はしたないですわ」
言いながら、セシリアは鈴音の土踏まずと足指の付け根に爪を立てた。
「くわぁぁあっはっはっはっはっはっは!!! だめぇぇえへへへへ、だめだってぇえひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
鈴音は泣き叫んだ。
「足ばかりに気をとられてもらっては困るな」
箒は、ごりごりと鈴音のあばら骨をほぐすようにくすぐる。
「ふがぁぁはははははははははっ!!! いやぁぁああ無理無理無理ぃぃぃぃひひっひひひひひひひひひひひひひ!!」
鈴音は舌を出して笑いながら、目の前の箒をにらみつけた。
「なんだその顔は」
「まだ懲りていないようですわね」
「さらに仕置きが必要だな」
二人の指が加速する。
「いやぁぁぁあっはっはっはははっはは! だひゃぁあ~~ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
そのとき、
「何やってるんだ?」
突然かけられた一夏の声に、びくっと肩を震わせて振り向く箒とセシリア。
特訓を終えたらしい一夏は首をかしげている。
二人は鈴音をくすぐるのに夢中になって、時間を忘れていた。
「篠ノ之。オルコット」
凄味を帯びた低い声。一夏の後ろから、セシリアが代理を頼んだ織斑千冬(おりむら ちふゆ)がぬっと顔を出した。
「ひっ!?」
「お、織斑、先生……」
箒とセシリアの表情が引きつる。
千冬の表情は「こんなくだらないことのために自分を代理に立てたのか」という非難に満ち溢れていた。
そのあと、二人は罰としてめちゃくちゃくすぐられた。
(完)