深夜の天上学園教員棟最上階『校長室』には仲村ゆり(なかむら ゆり)一人だけが残っていた。

「なんでここが『対天使作戦本部』だってわかったの?」
 ゆりが聞く。
「あんた、『死んだ世界戦線』とやらに、ここに来たばかりの死人を勧誘したいんだろ? 混乱して大人に助けを求めようとした間抜けが最終的に行き着く場所っつったらここしかねーじゃねーか。最上階だし。不安になったら上に逃げるって人間の心理?」
 小曽橋太郎(こそばし たろう)は言いながら、肩に担いであった荷物を、ごろんと床に下ろした。
「ひっ!?」
 ゆりは、その荷物の顔を見て軽く悲鳴を上げた。

 仰向けに転がった立華かなで(たちばな かなで)は、白目を剥いて引きつった笑顔を張り付けたまま絶命していた。顔中に、涙や鼻水の乾いた痕が見られた。死ぬ直前よほどの苦痛を味わったのだろう。両足とも素足で、ブレザーは前ボタン、ワイシャツのボタンがところどころ引きちぎられている。

「死んだじゃねーか!」
 小曽橋はいきなり叫んだ。
 びくっとゆりが反応する。
「結局こいつ、死にやがった! あんなに元気に、楽しそうに笑ってたのにさぁ! だんだん声が出なくなって、話しかけても、話しかけても、全っ然、反応してくんないの! 最後はひゅーひゅー肺のつぶれるような呼吸音しか出さなくなってさぁ! この世界では死なねーんじゃなかったのかよ! せっかく、壊れない人間を見つけたと思ったのにぃぃっ!!」
 小曽橋は小さなこどものようにかんしゃくを起こして言った。
 涙がにじんでいた。
 ゆりは、「こいつはやばい」と思ったのか、じりっと後ずさりした。
「あんたさぁ」
 小曽橋ににらまれ、足を止めるゆり。
「この世界でも、人って死ぬの?」
 ゆりは、少し間をおいてから、
「いや、……少し時間経てば、生き返る、けど」
「ホントかっ!?」
 小曽橋はぱぁっと笑顔を作った。

「じゃあ、こいつが生き返るまで、ゆりちゃん、一緒に遊んでくんねーか?」

 ゆりは、ゾクっとした。小曽橋の狂気を感じたゆりは、反射的にベレッタを構え、後ろに下がりながら発砲した。
「『ガードスキル・ディストーション』」
 小曽橋が言うと、小曽橋の体の周辺の空間が歪み、銃弾は弾かれた。
「そ、それっ、天使の……!?」
 ゆりは絶句する。
「やっぱり抵抗してくれるほうが嬉しいねぇ~~」
 小曽橋はひひひと笑うと、
「でも終わり」
 冷たく言い放った。
「『バインドスキル・コンプレッサー』」

●●●

 数分後。
 『対天使対策本部』の中央で、『バインドスキル』によって両腕を大きく左右に広げられ両足をそろえて伸ばされたTの字に拘束された仲村ゆりは、両足の裏を小曽橋太郎にくすぐられていた。

「ひゃはははははっ!!! きゃっはっはっはっはっは、やめっ、やめてぇぇぇ~~っはっはっはっはっは!!!」

 小曽橋が指を動かすたびに、ニーソックスの生地がこしゅこしゅと音を立てる。

「やっぱりそうやって元気なうちから拒否反応示してもらえると楽しいねぇ~~」
「お願いぃぃっひっひっひっひっひっひっ!!! 嫌ぁぁっはははははははははははは!」
 ゆりは髪の毛を振り乱して笑っている。

「さぁて、ゆりちゃんの弱点はぁ~~?」
 言うと小曽橋は、ゆりの太ももをくすぐる。

「ふわっはっはっはっはっはっ!!! やだっ、あぁぁっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

 ゆりは膝をがくがくと震わせて悶えた。
「ここも弱いねぇゆりちゃん。どんどん開発していくよぉ?」
「いやぁぁぁははははははっ!!! やめてっ、やめてってばぁぁぁはははははははっ」
 ゆりは必死に首を振って拒否を示すが、小曽橋は両手をゆりの脚を這わせていき、脇腹の上で手を止めた。

「ひっ!? くぅ~~!!」
 脇腹に触れているだけでもくすぐったいようで、ゆりは顔を真っ赤にして唇をかみ締めている。
「へぇゆりちゃ~ん、全身が弱点なんじゃないかなぁ。俺、そういうの好きだぜぇ」
 小曽橋は、中指をゆりの脇腹へ食い込ませると、ぐにぐにと振動させた。

「ぎゃははははははははははははっ!!? だぁははははははははは……っ、それ嫌はははははははっ!!! ぎついぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ!!!!」

 ゆりは腰を左右にくねくねと揺らして笑う。
 開きっぱなしの口からはだらだらと涎が流れ出ている。

「ん~~効くねぇ。ここ弱い奴ぁ多いけど、いい反応だぜぇ~、ゆりちゃん?」
「あぁははははははっ、とめてっ!! おねっ、一旦んひっひひひひひひひひ、とめてぇぇぇへっへっへっへっへ!!!」
 ゆりは涙を流して懇願する。
「じゃあくすぐって欲しい場所を言ってごら~~ん?」
「ひゃっ!!? いやっはっはっはっははっはっ!!! そんなとこ、無いぃぃ~~ひひひひひひひひひひひひ!」
 ゆりは、ぶんぶんと首を左右に振った。

「じゃあ言いたくなるようにしてやる」
 小曽橋はゆりのアバラに指を突きたて、ごりごりと揉み解した。

「ぐひゃっ!! いひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! だっ、やだっ、やだぁぁあははっははっはっはっはっ!!!」

 ゆりは両手両足をびくびくと動かして暴れた。

「こんなところはどうかな~~?」
 小曽橋は、指をうりうりと動かしながら、ゆっくり両手を腋の方へ上げていく。
「いひゃっ!!! いやっはっはっはっはっはっ!!! だめぇぇぇっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 ゆりは叫ぶ。
 が、小曽橋の指はそのままゆりの腋の下へ突き刺さり、こちょこちょと激しく蠢いた。

「ふぎゃっはっはっはっはっははっ!!!! ひやぁぁぁ~~はははははははははっ!!! やだやだやだぁぁぁっはっはっはっはっはっ、がぁぁあっぁひゃひゃひゃひゃっ!!!」

 ゆりは首を上下左右に振り乱し大笑いする。
 大きく広げられた腕を必死に下ろそうとしているのか、肘がガクンガクンと下方へ揺れ動く。

 しばらくして、ゆりは腋の下のくすぐりに耐えられなくなったようで、
「がぁぁっはっはっはっははっ!!! わかったっ、っはっはっは、わかったからぁぁひゃひゃひゃひゃ!!!! 足の裏っ、足の裏くすぐってぇぇぇぇはははははははははっ!!!」
 小曽橋の求めた『くすぐって欲しい場所』を言ってしまった。

「そっかぁ。じゃあしばらく腋の下で遊ばせてもらおうかなぁ?」
 小曽橋はこりこりと指を動かしながら言った。
「あぁぁひゃひゃひゃひゃっ!!? 嫌っ、なんでぇぇっはっはっはっはっ、足ぃぃぃっ!!! 足やっていいからぁぁぁははははははははっ!」
 ゆりは涙を流して叫ぶ。
「だって腋くすぐられてそれ言うってことは、腋が一番弱くて、足が一番つよいってことだろ? 心配すんな! あとで足もしっかり開発してやるから!」
 小曽橋は無慈悲に言うと、親指をゆりの腋と乳房の付け根のツボにぐりっとねじ込んだ。
「ぐぎゃぁぁっはっはっはっはっ!!!! だっはっはっは、いぎぃぃひひひひひひひひひひ!!! もうだめぇぇぇはっはっはっはっはっは~~っ!!」

「こことこっち、どっちがいいかなぁ?」
 言いながら小曽橋は、乳房の付け根のツボと、背側の側胸部を同時にくすぐりながら言った。
「いぎゃぁぁはっはっはっはっは、どっちも嫌あぁあぁぁはははははははははっ」
「んじゃあ、どっちもだな」
 小曽橋は指の腹で骨をしごくように、ツボと側胸をくすぐる。
「いぎぃぃぃぃひゃひゃひゃひゃひゃっ、あがぁぁあははっはははははははははは!」

「こんなのも効くんじゃねーの~~?」
 小曽橋は、人差し指を、ゆりの左右の肋骨の先から腋の下のくぼみまで力強くなぞるように往復させた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! いだっ、いだぁぁあっひひひひひひ、ひぃ~~ひっひっひっひっひっひ!」
 ゆりは激しく体を揺らし、肘や膝ががくがくと激しく震わせて笑う。

 しばらくして、小曽橋は手を止めた。
「……ふひぃ……ひぃ……」
 ゆりは汗びっしょりで、荒く息を吐いている。
 小曽橋は、うつろな視線を宙に預けるゆりを尻目に、ゆりの足下へ移動した。
「さぁ、ゆりちゃん、お望みの足の裏だぜぇ」
 言いながら小曽橋は、ゆりの両足から、ニーソックスをするすると脱がしとった。
 ゆりは、力なく天井を向いたままだ。
 小曽橋は、ゆりの両素足のかかとへ指をあて、シュッとなぞり上げた。
「あひぃっ!?」
 途端、ゆりの足の指がびっくりしたように開いた。
「さっきあんなにお願いしてきたもんなぁ? 『足の裏くすぐって』ってな。楽しみでしかたねーんだろ? んー?」
「……ひ、お願っ……やめっ」
 ゆりは、涙を浮かべ、言葉を発する。戦線リーダーとしての威厳はもはやまったく見られない。
 小曽橋は無言で、両手計十本の指を、ゆりの両足の裏へわちゃわちゃと這わせた。

「やはははははははっ!!? もぅ嫌ぁああぁぁはっはっはっはっはっはっは!!」

 ゆりは体をびくんと反らせて笑い出した。
「あらー? 足の裏は強いんじゃなかったんですかー?」
 小曽橋がおどけて言う。
「ひゃっはっはっはっはっ!! ちがっ、ひっひっひっひ、誰も強いなんて言ってなぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」
 ぶんぶんと首を左右に振って叫ぶゆり。
「ソックス越しと素足、どっちがくすぐったいですかー?」
「いやぁっはっはっはっはっはっ!!! そんなのっ!! いぃぃ~~ひひひひひひひひ、素足に決まってりゃぁぁっはっはっはっはは!!」

「じゃあ次はー」
 小曽橋は、人差し指を鉤状に曲げて、ゆりの右足の土踏まず、左足のかかとを同時にひっかいた。
「やっはっはっはっはっはっ!!!! ひやぁぁははははははは」
 ゆりの足の指がくすぐったそうに激しく暴れる。
「土踏まずとかかと、どっちがくすぐったいですかー?」
「きゃぁぁあっははははははははっ!!!? そんなのどっちっ……ひひひひひひっ、ちがっ! 答えられないぃぃっひっひっひっひっひ!!」
 ゆりは先ほど腋をくすぐられた際に『どっちも』と答えて両方くすぐられたことを思い出したようだった。
「答えないと、とまんねーぜぇ?」
 小曽橋はカリカリと指の動きを速めた。
「いやぁぁはははははっ!!! かははあはっ、かかとぉっ!! かかとのがくすぐったいからぁぁははっはっはっははっはっ!!! やめてぇぇぇ~~」
「へー」
 小曽橋はゆりの右足の指を掴んでそらし、ぴんと反り返った土踏まずをひっかいた。
「あがぁぁぁひゃひゃひゃひゃっ!!!!? なぁぁっはははははは!!? かかとおぉぉ~~っはっはっは、かかとだってぇっぇひゃっひゃっひゃひゃ」
 ゆりはびっくりしたように笑い出す。
「嘘ついてんじゃねーよ。こっちの方が反応いーじゃねーか」
「いやぁっはっはっはっはっはっ!!! お願あぁぁひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! やめてぇはははははははははっ!!」
 くすぐられていない左足がびくびくと激しく揺れ動いている。
「しかたねーな。じゃあこっちで勘弁してやんよ」
 小曽橋は言うと、反らしたままのゆりの右足の指の付け根をガリガリとくすぐった。
「あぎゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!? 嫌ああぁぁぁあははははっ!! それやだっ、それやだあぁあぁあひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
「ゆりちゃーん? さっきの土踏まずと指の付け根、どっちがくすぐったいですかー?」
「いやあぁぁあぁはひゃひゃひゃひゃっ!!! やめてぇぇ~~~っきゃはははははははっ、どっちもやだぁぁああはははははははははっ!!」
 ゆりは限界のようで、涙と涎を撒き散らして懇願するように叫んだ。

「しかたねーな。『バインドスキル・コンプレッサー』」
 小曽橋は指を止め発声した。
 その瞬間、電気を帯びたような透明なリングが十個、ゆりの足の指それぞれの周囲に出現し、きゅっと締め付けた。
「ひっ!?」
 ゆりの足の指が開かれた状態で固定された。
 小曽橋はゆりに覚悟を決める間も与えず、ゆりの右足の土踏まず、左足の指の間を同時にくすぐった。
「ぐぎゃぁああああああひゃひゃひゃひゃっ!!!!? ひぎゃぁああああっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! なんじゃそりゃぁああはははははははははははははっ」
 ゆりは奇声を上げた。
 くすぐられている素足はひくひくと微動している。
「あがはははははははっ、ひぎひひひひひひひひっ!!! 壊れりゅっふがひゃひゃひゃひゃひゃ!!!! 壊れりゃぁああっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
 ゆりは舌を出して白目を剥いて大笑いしている。

「すげぇ効くだろ? ゆりちゃん。最初全然喋ってくんなかったかなでちゃん……『天使』ちゃんも、これですっげぇ反応してくれるようになってさぁ! 『やめて!』『助けて!』って笑いながら泣き叫ぶんだぜ? ずっと俺の言葉、ガン無視決め込んでたくせによぉ」
 
「いぃぃぃひひひひひひひひひ!!!? があぁぁっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
 ゆりは聞こえているのかいないのか、激しく体を震わせて笑い続ける。

「かなでちゃんは一時間ちょっとで壊れちゃったけど……、ゆりちゃんはどうかなぁ?」

「いぎゃぁあっはっはっはっはっは!!! ひだぁぁっ、ぎゃひゃひゃひゃははははっはははははっ!!?」
 ゆりは言葉を作ることができないようで、ただ首を激しく左右に振る。

「せめて、かなでちゃんが『直る』までは、楽しませてくれよ?」

 小曽橋太郎はにやりと笑うと、十本の指の動きを速めた。


(完)