いつもの制服スパッツ姿の末原恭子(すえはらきょうこ)は
両腕を万歳、両足を肩幅に開いた状態でベッドの上に拘束されている。

「主将、これは一体?」
恭子が枕元の愛宕洋榎(あたごひろえ)に顔を向ける。
「インハイ終わってから恭子ずっと元気ないやん。皆心配しとんで?」
ぐっと恭子の顔を覗きこむ洋榎。
「……はい?」
「なんボケとんねん!」
恭子のとぼけた声に、洋榎が叱責する。
「昨日のミーティング! あれなんや? 船でも漕いどったんかいな? いっつもやったら、もっとしゃんしゃん仕切りぃのアホみたいな能書き散々垂れ回して、めっちゃうちらに指図してきとったやんか!」
「……その、私のアホみたいな能書きのせいで、インハイは――」
「じゃかぁしわっ!!」
洋榎が吼えた。
恭子は特に驚いた様子もなく、ただ黙った。
少しだけ気持ちの悪い間があって、洋榎はこほんと咳払いした。
「……ちゅーわけで今日は、恭子にちょっくらストレス発散してもらお思て」
「どういうわけですか……」

「恭子なぁ」
洋榎が恭子の身体の横に立ち、手をパンパンと叩く。
「最初。腋と腹、どっちがええか?」
「……は?」

両手をわきわきと動かす洋榎を見た恭子は、サーッと顔を青くさせた。
「あ、……しゅ、主将? ……ま、まさか」
「答えへんなら、うちの好きにすんで」
言うと洋榎は、両手三本ずつの指を、恭子の両腋の下に差込みこしょこしょと動かした。
「わわわっ!!? ちょっ、ちょっと!!! しゅ、……主将っ!? なっ! 何!? うくっ……!! なん……っ!! んくっ!」
洋榎の指が触れた瞬間びくんと恭子の身体が跳ねる。しかし、恭子は寸分のところで笑いを堪え、くねくねと身をよじった。
「なんや、恭子、腋強いんかいな。おもんないなー」
洋榎はニヤニヤしながら、少しだけ指の力を強めた。
「やややっ!!! ちょっぉっ! んくくくっ……なんで、こちょっ……!?? んくっ、うくくっ……! くぅぅんっ」
背中をよじよじ動かせながら悶える恭子だが、問題の腋を閉じることが出来ず、次第に口元が緩んでくる。
「ちょっ、もぅっ!!! ……ホンマにっ!! ふくくくっ……主将っ……やめっ……んくくふっ……あきまへんてっ!!」
「まだ耐えるんかいな。ほな、ちょっち強すんでー」
言うと洋榎は人差し指を、恭子の腋の下にぐいぐいと押し込む。
「うふぁぁぁっ!!!? ふくくくぅぅぅっ~~。やっ! やめっ……ってぇぇぇ~、な、なんでこそばかすんですかっ!!!?」
「さっき言うたやん! 恭子のストレス発散や言うてぇ」
「ふくくくくっ!! スぅ、……ストレスてぇぇ。んんっ!! んくくくくくくっ」
恭子は両膝をがくがく震わせ、腰を振りながら歯を食いしばる。
「そんな腰振ったらシーツが皺なるやん!」
「だはっ……くぅぅぅ!!! 主将の、せいですやん……んふ、くくくくくくく」

「ほな、そろそろゲスト登場してもらおか」
「んくっ……げ、ゲスト?」
「入りぃ」
恭子が洋榎のくすぐりに耐えながら目を扉にやると、おそるおそるな足取りでちっこい少女が入ってきた。
「んくっ!!? す、漫ちゃんっ!?」
「お、おはようございます。末原先輩」
上重漫(うえしげすず)が、ぺこりとお辞儀をする。
「うくくくっ……おはようあるか! んふふっ……って、漫ちゃん? そないなとこで……なっ!!? 何さらしてんねん!?」
漫は恭子の足下に直行すると、恭子の両足から白いローファーを脱がしたのだった。
「す、漫ちゃん……んくくくっ、あかんで? くくくく……なんのつもりか知らんけど」
「え、えっと……」
漫はチラリと洋榎の顔を見やる。洋榎はグッと親指を立てた。こくんと頷く漫。
「末原先輩……」
「んふっっ!!? す、漫ちゃん? わわ、わかってんな? んふぅぅぅ……。ちょちょちょ、ちょい待ちぃなっ!! デコに――」
「失礼します!」
漫は一言叫ぶと、恭子の薄桃色のアンクレットソックスを履いた両足の裏を計十本の指でこしゅこしゅくすぐり始めた。

「ふぁわっ!!? ……ちぷ、……ぷはっ!!! ぅはははははははははははっ!!!」
恭子がついに吹き出す。
「なんや、恭子。ウチよりもスズの方が好きっちゅーことか!」
洋榎は言いながら、十本の指を恭子の腋の下から側胸にかけてぐりぐりと這わせた。
「うわぁははははははっ! 主将っ!!! それあかんっ!!! あきまへんてぇぇ!!! うひひひひひひひひひひっ!!!」
恭子は首を左右上下に振り回す。
「大好きなスズにこちょばされておもろいかー?」
「おもんないおもんないおもんないっ!!!! あははははははっ!!! 好きってぇぇ!? うはははは、そん、そんなんっ!! なんのこっちゃぁぁーっはっはっはっはっはっはっは~~っ!」
「あれやん、こちょばしって全然知らんもん同士やったら効かん言うで? こちょばされて笑うんは、信頼関係の表れやってなんかの番組で見たわ。ちゅーことは、ウチよりも漫の方が、恭子に信頼されとるゆーことやん!」
「す、末原先輩……」
洋榎の言葉を聞いた漫が少しだけ顔を赤らめ下を向く。
「ちゃははっははははははっ!! ちゃうねんてぇっ!! すっ……漫ちゃんがいきなり強するからやぁぁぁぁっはっはっはっはっはっは~~~!!!」

「うっわっ!! 否定しよった! ほな、スズのことは信頼してへんちゅうことか?」
「あははははははははっ!!! 揚げ足っ!! それっ、揚げ足ですやんっ!!! うははははははははははは~~っ!」
「なぁ~、そんなんスズがかわいそうやんなぁ、スズなぁ?」
洋榎が漫を見ると、漫は少し複雑そうな表情で頬をふくらませていた。
恭子も苦しそうに足下の漫に顔を向ける。
「うははははははっ……すぅぅ、漫ちゃん!!? わひひひひっ、わかってんねやろ!? こそばいて笑うん当たり前っ……って、ちょちょっ!!!? 待ちぃぃって!!!」
漫は恭子の顔を無言で見つめながら、恭子の左足からアンクレットソックスを脱がした。
「すっ!!! 漫ちゃん!!! ひひひひひ……早まったらあかんて!! な? ……」
「ほれ見てみぃ! スズが手止めたら、あんま笑わんなったやん!!」
洋榎は恭子の脇腹をさわさわと優しく撫でていた。
「うはぁっ……そ、それは、主将が手ぇ弱してはるからでぇ……んふふふふ」
「こりゃぁ素直になれへん『末原先輩』にお仕置きしてやらななぁ? スズー?」
「ちょぉぉっ、主将!!! ひひひ、火ぃに油注がんでっ……ひゃぁぁっ!!!? す、漫ちゃっ――」
恭子の言葉を無視して、漫は恭子の左足の甲と裏を、両手で挟みこむように十本の指でくすぐった。
「おゎぁぁぁあっはっはっはっはっはっはっはっは~~~!!! 直はあかんっ!!! 直はあかんてぇぇぇ~っはっはっはっはっはっは~~っ!」
恭子の素足がくねっくねっとよじれる。
「……す、末原先輩。あ、足の指がめっちゃ動いてはりますよ?」
「ひははは、そんな報告いらんわぁぁ!!! あっはっはっはっは!!! 漫ちゃんやめぇぇぇへひひひひひひひひひ!!!」

「ウチも負けへんでー」
洋榎は恭子の脇腹に指をぐにっと突き立てて、ぐりぐりとうごめかした。
「うゎぁぁぁぁあっはっははっはっはっは~~!!? 主将っ!? いきなり強くぅぅぅうァあっはっははははははははははははっ!!!」
漫は一心不乱に十本の指を恭子の足の裏で踊らせ続けている。
「うはははっ、ひ~~っはっはっはっはっはっはっ!!!! ホンマにっ! 二人ともいい加減にぃぃぃっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

数十分間、恭子はくすぐられ笑わされ続けた。
それが恭子のストレス発散の役にたったのかは不明だが、以前のようにめちゃくちゃ恭子に怒られた洋榎と漫は、正座をして下を向いたまま満足気に微笑んでいた。ニヤニヤしているのが見つかって、余計に怒られた。


(完)