A高校の文化祭で、二年A組は出し物で演劇をすることになった。
 題材は『マーメイド物語』に決まったものの、ヒロインである人魚役を誰にするかでもめていた。
「人魚役は絶対ヒトミちゃんがいいと思う」
「ええっ? そ、その……無理だよ。私なんか……」
「大丈夫。ヒトミちゃん髪長いし、綺麗だし、かわいいし、絶対人魚の服に合うって」
「……でも、うぅぅ」
 いかにも嫌そうにしょぼくれた声を出す上野瞳(うえのひとみ)を必死に説得するのは、クラス委員の田中美月(たなかみづき)だった。
 ボーイッシュな短髪の彼女はテニス部キャプテン。
 仕切りたがりで声がでかいため、誰も逆らおうとしない。
 一方の瞳は、大人しい性格でクラスでもあまり目立たない。
 艶やかな黒髪ロングヘアと整った顔立ちは、完成されたドールを思わせるほど、魅力的なのだが、目立つことが嫌いで、いつも下を向き教室の隅でこそこそと縮こまっているため、その美しさに気付くものは少ない。
「上野さんが、ヒロイン?」
 はぁ? と高圧的な態度をとるのは鈴木花音(すずきかのん)。
 巻き毛をミディアムに切り揃え、自然に肩から下ろした彼女もまた美月と同じテニス部に所属していた。
 美月とはダブルスを組んでいる。
 中学時代からの腐れ縁で、現在クラスで美月に意見できる人間は花音しかいない。
「上野さん。声も小さいし、あんまりこういう目立つ役は向いてないんじゃない?」
 瞳はぱぁっと顔を明るくし、まっとうな意見をワンマン委員長に言ってくれる花音に憧憬の眼差しを向けた。
「花音、この子の顔よく見て」
 下を向いていた瞳の顔を、両側からぐいっと掴み、花音の前へ差し出す美月。
「ふぇっ!?」
「どう? かわいいでしょ? これでもヒロインに向いてないと言えるかしら?」
 瞳は、心の中で「鈴木さん、負けないで! 負けないで!」と必死に訴える。
 花音は、今にも泣き出しそうな瞳の顔を見て、
「……かわいいわね」
 瞳はがっくりと肩を落とした。

 練習が始まると、すぐに弊害が発生した。
「瞳ちゃん! 全然声出てないよ! 動きも、そんなにおどおどしないで! もっと優雅に!」
 美月の声に、びくっと肩を震わせる瞳。
「無、無理……」
 瞳は顔を赤らめながら身体を縮こまらせる。
 瞳はビキニ水着の上から、人魚の衣装をまとっただけの格好のため、上半身は裸に近かったのだ。
 しかも、人魚衣装の下では、両足がバラバラに動かないように足首を縛られているため、行動の制約も厳しい。
 そんな状態で、恥ずかしがりやの瞳が、優雅な演技などできるはずもなかった。
「仕方ないわね! 花音、あれやるわよ!」
「あれって何よ」
「ほら、中学のとき合唱コンクールの練習でやった奴! あれで皆声出るようになったでしょう!」
「え、上野さんにやるの?」
「当然! このままじゃ、ウチのクラス、文化祭で恥かいちゃうじゃない!」
「しょうがないなぁ」
 言うと、花音は瞳の傍に駆け寄る。
「上野さんごめんね。ちょっと仰向けになって」
「……ど、どうして?」
「早く横になりなさいっ!!」
 戸惑う瞳に、美月が大声で命令しながらずいずいと大またで近づいてくる。
「ひぃ」
 瞳は怯え、急いで仰向けに横たわる。
 花音は瞳の両腕を万歳の状態にさせて、その腕の上に座った。瞳の、完全には処理のなされていない腋の下が全開になる。
「えっ? やっ」
 瞳が上目遣いで、花音の顔を見ると、少しだけ申し訳なさそうな表情だった。
「あら? 瞳ちゃん。腋の下、うっすら毛、生えてるじゃない! そういうのは毎朝ちゃんと処理しないと!」
 美月は高らかに宣言しながら、瞳の上に跨り、腰を下ろす。
「うぅぅ……」
「今言わなくてもいいでしょうに……。一応ここ教室だよ?」

「さて、瞳ちゃんの羞恥心を払拭するわよ!」
「え」
 美月は言うと、瞳の素肌の脇腹を両手の人差し指でツンッとつついた。
「ひゃぁぁんっ!!?」
「お、なかなか敏感ね。優秀優秀」
 美月が楽しそうに言う。
「な、なに!? な、なに、するの?」
「こうするの!」
 美月は、瞳の腹を撫でるように人差し指を這わせた。
「あぁぁぁっ!! あぁぁんっ、あははっ、ははっ……ちょっ……んひぃぃ」
 瞳はくねくねと身体をよじった。
「お、おなかっ……ひゃはっ、おなか、……くすぐっ、……きゃはんっ!!?」
「くすぐったい? 瞳ちゃん? ねぇ? くすぐったい?」
「きゃはっ、んふふっ……な、上野さん、……ひひひ、なんでっ……やめてっ……」
 顔を赤らめ、歯を食いしばりながら悶える瞳を見て、美月はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
 下半身のびちびちと上下に動く様子は、本物の魚のようだ。
「瞳ちゃん? 我慢しなくてもいいのよ? 大声でわらってみなさい? すっきりするから。こんな人だかりの前で大声で笑えば、羞恥心なんて吹っ飛ぶから」
 美月はそういうと、瞳の身体を弄ぶ指を、四本、六本、八本と徐々に増やしていった。
「きゃはんっ!! んんんっ、ひひひひひっ、あぁっ、やめっ、ひははっ、ひゃぁぁぁぁん」
 頭をぶんぶんと左右に振って顔をしかめる瞳。
「瞳ちゃんの肌真っ白ねぇ? ボディソープは何使ってるのかしら」
「ひぃぃっ、ひぃぃっ、ひぃぃぃんっ!!! んふふふふふっ、も、もうやめっ!!! ひひっ、ホントにっ! ホントにっ!!!」
 美月は、瞳のあばらからおなか辺りをさわさわと撫でまわす。瞳は相当苦しいようで、目には涙を浮かべていた。
「さぁ、笑いなさい? すぐ楽しくなるから――」
 一瞬、美月がくすぐる手を止めたことで、フッと瞳の身体の緊張が解けてしまう。
「――ねっ!」
 美月は瞳のがら空きの腋の下を一気に責め立てた。
 計十本の指でわしゃわしゃとむさぼるように。
「きゃっ、きゃっはっはっはっはっはっはっ!!! やはははははははっ!!! いやぁぁっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」
 瞳はタガが外れたように大笑いを始めた。
 口を大きく開け、綺麗な歯を見せつけながら。
「いぃぃぃひひひひひひひひひひっ!!!! やめてっ! やめてっ!! 田中さんっ!! あぁぁぁっはっはっはっはっ!!! 死んじゃうっ!! ひひひひひひひひひ~~!!」
 瞳が必死に制止を求めるが、美月は楽しそうに笑いながら、余計に瞳の腋の下を弄繰り回す。
「ほぉれ、ここがツボかなぁ? 瞳ちゃん、ほら! ちゃんと大きな声でるじゃない」
「きゃぁぁっはっはっはっはっは~~~っ!!! そ、そこっ!!? そこやめてっ! ひぃぃっひっひっひっひっひっ!! ぐりぐりっ!! しないでぇぇぇひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」
 瞳はびったんびったん背中を打ちつけ、下半身を上下左右に振り乱しながら笑い悶える。
 両脚を覆う、人魚の尾ひれがビチビチと床を打ち付ける。まさに、まな板の上の鯉のような状態である。
「やっはっはっはっはっ!!! お願いっ!!! もうやめっ!!! たすけてぇぇぇっへっへへっへへっへへ!!! ひぃぃ~~ひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
「どう? 恥ずかしい?」
「恥ずかしいっ!!! 恥ずかしいよぉぉぉ~~~~やっはっはっはっはっはっは~~!!!」
「そう? じゃぁ、まだまだ続けないとね」
「いやぁぁぁっはっははっはっははっはっ!!! は、恥ずかしくないっ!!! 恥ずかしくないからぁぁぁっはっはっはっは~~!!」
 瞳は涙をまきちらしながら、必死に解答ミスを訂正する。
「もう遅いよ? これはもう、瞳ちゃんが恥ずかしいこと言えるようになるまでしっかり続けてあげないとねー」
「ひぃぃっひっひっひっひっ!!! 恥ずかしいことってぇぇ~~やっはっはっはっは!!?」
「じゃぁまず、瞳ちゃんの好きな人から言ってもらいましょうか?」
「いやぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは~~~っ!!!」

 瞳は大声で笑い続けるが、口を割ろうとはしなかった。
 なかなか好きな人を言わない瞳にしびれを切らした美月は、体を反転させ瞳の脚を覆った尾ひれについたチャックを下から数センチ程度開く。
「たっ!? 田中さん?」
 瞳の呼びかけを無視して、美月はそろえて縛った瞳の両足をひっぱりだす。
「やっ……そ、そこはやめ――」
 引っ張り出された瞳の素足の足の裏を、美月はがりがりと勢い欲引っかき始めた。
「――っ、いぃぁぁあはっはっはっはっはっはっ!!! ひゃっ、やめてぇぇぇ~~っはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 瞳は途端に大声を上げる。
「やっぱり瞳ちゃん、こっちが弱点だったのね!」
「きゃぁぁぁああひひひひひひひひひっ!! 駄目っ、駄目ぇぇぇっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」
 Iの字にピンと体を伸ばされて拘束された瞳は、左右に激しく身をよじって笑う。
「瞳ちゃん。好きな人は?」
 美月は瞳の足の指と指の間に指をつっこむ。
「きゃぁぁぁっははっははははははっ!!! それ駄目っ、はっはっはっは、駄目だってばぁぁ~~っははっはっはっはっはっはっは!!!」
「強情なんだから! 花音も! やっちゃって」
「上野さん。悪いわね。委員長命令だから」
 言うと花音は、瞳のがら空きの両腋の下に、指を這わせ始めた。
「くわぁぁははっははっはははっ!!!? やだっ!!! うひゃひゃひゃ、同時はやだぁぁぁああひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
 腋の下と足の裏を同時にくすぐられ、瞳は狂ったような声を上げた。
「さあ、瞳ちゃんの羞恥心が完全になくなるまで、がんばるわよ!」
「嫌ぁあぁああぁっはっは!!! もうっ、ふがっひゃっひゃっひゃ! なぁぁっはっはっは!!? 何でも言うからやめてぇっぇ~~~っひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 こうして瞳は、教室のど真ん中で、一時間近く笑い叫ばされた。
 好きな人、初めての自慰行為、隠れた性癖、……次々とくすぐり尋問責めされた瞳が、無事羞恥心を払拭して文化祭のヒロインとして活躍できたかどうかは、……また別のお話。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 2012年ごろチャットルームでお題が出て書いたものを蔵出し。『人魚』という私にとってはまるでイヤがらせのようなお題を出され、いかにして足をくすぐろうか頭を抱えた記憶があります^p^