壱級天災(いっきゅう てんさい)ちゃんをくすぐりたいと思い、拉致してきました。

「……ん」

 壱級天災ちゃんが目を覚ましました。
 彼女は台の上にX字に拘束されています。
 ウェーブがかった茶色の髪と、険のある茶色の瞳。
 いつもの探偵衣装ですが、ブーツとニーソックスは予め脱がせてあります。

「こ、これは、……どういうことかね?」

 壱級天災ちゃんが、両手両足首にはめ込まれた枷をがちゃがちゃと言わせ、辺りを見回します。

――あなたは名探偵ですね?

「無論だ」

 即答されました。
 突然の声に驚く様子も見せません。

――きっと壱級天災ちゃんは、このような、名探偵が謎の組織に捕まってくすぐり拷問を受ける、みたいなシチュエーション、お好きかと思いまして。

「…………」

 壱級天災ちゃんは一瞬考えるように眉を寄せ、

「……名探偵壱級天災! 名探偵の名にかけて、依頼人の秘密を教えるわけにはいかないっ!」

 速攻で乗っかってきてくれました。

――そうですか。では、仕方がないですね。

 台の下から10本のマジックハンドが現れます。
 壱級天災ちゃんは目を見開きました。

「……な、何をするつもりだ……?」

 まるで、何をされるかわからない恐怖を必死で隠して毅然と振る舞っているように見せようとしているかのような表情。
 この探偵、ノリノリです。

――体に聞いてみることにしましょう。

 彼女を取り囲んだマジックハンドが、わきわきと指を活発に動かします。

「ま、まさか……、や、やめ――」

 マジックハンドが一斉に壱級天災ちゃんの体に襲いかかりました。
 彼女は目を大きく見開いて、

「うひょあぁぁっはっはっはは!!!!? おひょひょひょひょっ!!!」

 不思議な笑い声を上げました。
 200本の指が激しく彼女の体の上を這い回ります。

「だあぁあはっはっはっはっは!?!?! ちょぉぉおっはっは、おほ!!? あぁあぁぁはっはっははっはっは!!!?」 

 腋から脇腹にかけて縦横無尽に走り回る指。
 太ももをなぞり上げる指。
 内股から膝をこそこそと動き回る指。
 足の裏をかりかりとかきむしる指。

 壱級天災ちゃんは首を左右に振りながら、驚愕の入り交じったような甲高い笑い声を上げています。
 
「きひゃひゃひゃっ!!? うひょああぁぁっひひひひひひひひひひ!!!? きつぃぃ~~ひひひひひひひひ!!!」

 どうやら、予想したよりもくすぐりが強かったようです。

「ちょぉぉ~~~っひゃっひゃっひゃ!!!? いったんすとぉぉぉひゃははは、いったひゃぁぁあぁ、うひょはあはははははあ!!!」

 壱級天災ちゃんは目に涙を浮かべて叫んでいます。
 思い通りのリアクションが取れず、いったん仕切り直して欲しいのでしょう。

 でも、

――では、依頼人の秘密を言いますか? 

 そっちの都合は関係ありません。

「うひょぉぉぉ~~ほほほほほ!!? だひひひひひひっ!!! いひゃっ!! いったんぅぅぅ~~ひゅふふふ、ちょまぁぁぁっひゃはははははははは!!!」

 せっかく壱級天災ちゃんの方から出してきた設定に乗ってあげたのに、まったく返してくれません。
 これはお仕置きが必要です。

 マジックハンドが増えます。

「あひゃあぁっぁあ~~はっはっは!!!? 無理無理無理無理ぃぃ!!!」

 孫の手、羽箒、耳かき、電動歯ブラシを持ったマジックハンドの出現に、壱級天災ちゃんは叫びました。

 問答無用です。

 孫の手でこりこりと脇腹をひっかくと、壱級天災ちゃんはくんっと芋虫のように体をよじります。

「くにゃああっはっはっはっは!!!? だひっ、はひひひひひひひひひひひ~~!!!!」

 羽箒で内股をバサバサとこすってあげると、壱級天災ちゃんは膝をガクガクと揺らせて悶えます。

「おほほほほほほほほっ!!!? ひぃぃ~~っひっひっひっひっっひっひい!!!」

 耳かきで足の指の付け根を、電動歯ブラシでかかとを掃除してあげると、壱級天災ちゃんの足の指がくねくねとダンスします。

「ふにゃあぁぁあ~~っはっはっっは!!!? ふひひひひひっ、うひゃぁぁあひょひょははははははは!!!!」

 びくびくと体を震わせて笑う壱級天災ちゃん。
 顔は真っ赤で、だらしなく開いた口の端からはよだれが流れ出しています。

「がははははははっ!!! ほんどにぃぃいっひっひっひ、ほんとにこではむでぃ~~っひっひっひぅぅぅひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!」

――依頼人の秘密は?

「いひゃひゃひゃ言わないぃぃ~~っひっひっひっひ!!! わひゃひひゃっはっはっは!!! 私は探偵だぁぁぁあ~~っひゃっひゃっっひゃっひゃ!!!!」

 今度はちゃんと乗ってきてくれました。
 壱級天災ちゃんは、名探偵としてのプライドから、決して依頼人の秘密を言おうとしません。
 たとえプライドが折れたとしても、実際には存在しない依頼人の秘密など言えません。
 彼女自身が設定したのですから、仕方がありません。

 終わらないゲームが始まりました。

「あひゃひゃひゃひゃ!!!? うひょぉぉ~っひょっひょっひょおおぉぉひはっははっはっはは~~!!!」


(完)