St.ヒルデ魔法学院中等科。
 制服が秋服に衣替えしてまもない頃、アインハルト・ストラトスが同じクラスのクラス委員長ユミナ・アンクレイヴのもとへやってきた。
「あの……ユミナさん」
「何? アインハルトさん」
 アインハルトはもじもじと恥ずかしそうに視線を泳がせた。
 意味深なアインハルトの表情に、ユミナは頭の上に「?」を浮かべて首を傾げる。
「この間、言っていただいたマッサージを、お願いできれば――」
 言いかけた途端、ユミナはがしっとアインハルトの肩をつかんで、
「もちろんッ! 待ってました!」
 目を輝かせた。
「おっ……お願いします」

 ベッドのある部屋に移動したユミナはアインハルトに横になるよう指示した。
 アインハルトがブーツを脱ぐ。
 白い素足が露わになる。
 そのままベッドの上にうつぶせになった。肘を前にやって、腕を内側に曲げ、手の甲に顎を乗せる。
「ちょ……ちょっと、恥ずかしいです……」
 アインハルトは無防備な姿を人前にさらすことになれていないのか、恥ずかしそうに漏らした。
 ユミナもブーツを脱いで素足になり、ベッドの上にあがる。
「アインハルトさん、力抜いてね」
 ユミナはアインハルトの腰に跨がり馬乗りになると、そっとその背中へ手を伸ばした。

「ひゃっ……!」

「あっ! ごめん! くすぐったかった!?」
 突然のアインハルトの小さな悲鳴に、ユミナは手を引っ込めた。
「あっ……いえ、……その、少し……」
 アインハルトは顔を赤らめ、
「くすぐったいのは、……苦手なので……」
 もじもじと恥ずかしそうに言った。
「(あれ?)」
 アインハルトの告白に、ユミナは疑問を抱いた。
「(アインハルトさんのこの言い方って……)」

 ユミナは自分の考えを確かめるために、そっと指先を、アインハルトのがら空きの腋の下へ伸ばす。

「ひひゃぁあぁっ!!?」

 びくっとアインハルトの体が跳ねた。

「ひっ、……ゆっ、ユミナさんっ!? く、くすぐったいです……っ」

 アインハルトは必死な風に言うものの、腋を閉じようとはしなかった。
「(やっぱり……)」
 ユミナは確信すると、にんまりと少しだけ口角をあげて、
「そっか~、アインハルトさんくすぐり苦手だったんだぁ~? じゃあ」
 両手の指を、アインハルトの腋の下で動かした。
「こちょこちょこちょこちょ」

「ひゃっ!? ひひゃはははははははははっ!!! ゆっ、ユミナさんやめあぁあっはっはっはははっはっははっはっはっは!!!」

 アインハルトは、足をばたつかせて笑い始めた。
「こちょこちょ~、アインハルトさんのわきわっきー」

「ひゃはははははっ、やめっ、ふひゃはははは~~」

「脇腹こりこりー」

「うくくくくくくっ……くひゃっ、あはははははははははは!!」

「わっ、アインハルトさん足白い! 足の裏もすべすべー」

「ふひゃひゃひゃひゃひゃっ!? あひゃっ、足はあぁぁっはっはっはっはっはっは!!!」

 しばらくくすぐって、ユミナは手を止めた。
「はぁっ……はぁ……ゆ、ユミナさん……?」
 アインハルトはぐてっとベッドの上で顔を上げる。
 ユミナはその隣に寄り添って横になった。
「こういうの。友達同士のくすぐりあいっこって、ちょっと楽しいよね」
 へへっと笑うユミナ。
 アインハルトは恥ずかしそうに目を泳がせた。

 アインハルトはずっとクラスでひとり浮いていた。
 もしかすると、年下のヴィヴィオやリオ達のじゃれ合いを見て、うらやましく思っていたのかも知れない。
 ユミナはそんな彼女にクラスでできた、初めての友達だった。

「……ユミナさん、……いじわるなので、仕返しします」
 アインハルトはふてくされたように言うと、両手をユミナの脇腹へ押し当てた。

「きゃはっ!? あははっ、もう! アインハルトさんいきなりぃっ! きゃははははっ」

 ユミナは体をよじって笑い、
「やったなーっ」
 おどけて言って見せ、アインハルトの腋をくすぐった。

「ひゃはははっ!? ユミナさんずるいですっははっはははっはは!!」

 ユミナとアインハルトはすっかり息が切れるまで、ベッドの上で互いの体をくすぐりあった。
 疲れた筋肉はほぐすはずが、本末転倒である。
 しかし、二人とも心の緊張がずいぶんとほぐれたようだった。


(完)