城を抜け出し、ただの娘として町を歩くのは、エレンの楽しみのひとつだった。
 その日も彼女は長い白銀の髪を首筋あたりで束ね、麻の服を着、まるで市井の娘のような風体だ。
 道行く人の誰も彼女が戦姫などと思いもしない。
 道中、露店でジャガバターを買って食べた。
 素焼きのカップを道ばたへ投げ捨てた。拾い上げた少女が、おそるおそるといった風に近づいてきた。
「あの……」
「ん? どうした?」
 少女はボロ布のような服を着、靴も履いていなかった。
「これ、いただいてもよろしいのでしょうか?」
「ああ。もう私のものではないからな。好きにして良い」
 途端に少女は、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます!」
 小銭拾いにここまで感謝されたのは初めてのことだった。
 少女の笑顔は無垢で飾り気がなく、エレンの警戒心を薄めた。
「……あと、その、つかぬことをお伺いしますが……」
「ん? なんだ?」
 小首を傾げおどおどと顔を寄せてくる少女に、エレンは聞き返す。
 エレンは、迂闊だった。
 少女に一歩、たった一歩、懐に踏み込ませることを許してしまったのだ。
「七戦姫、みぃつけた」
 笑う少女の顔は、邪悪だった。

~~~

 エレンが目を覚ますと、そこは薄暗い牢屋のような空間だった。
 立ち上がろうとして、ガチャリと音が鳴る。
 手首足首に、鉄の枷がはめられていた。
 エレンは、四肢を大きく伸ばし、仰向け大の字に寝そべるような形で拘束されていた。
「……く、ここは……?」
 エレンは首をもたげ、自分の体を見下ろす。
 衣服の乱れはない。強姦されたわけではないようだ。
 エレンの目覚めを見計らったかのように、部屋の扉が開いた。

「わー綺麗な髪の毛!」
「かわいい服! この人が七戦姫ー?」
「強そう!」

 バタバタと騒がしく入ってきたのは、先の少女と同い年かそれ以下の小さな少女や少年達だった。一様に、ボロ衣を体にまとっている。五人、六人、と徐々に増えていく。

「な、なんだ、お前達は?」

 エレンにはまったく状況が飲み込めない。
 小道で少女に何をされ、どうして気を失ったのかも、まったく把握できなかったのだ。

 そんなエレンの言葉を無視して、少女のひとりが、両手をエレンの脇腹に乗せ、くすぐりはじめた。

「はひゃっ!!? なっ、何をするっ!!?」

 ますます状況が飲み込めない。
 部屋に入ってくる少年、少女は、エレンの体に群がるや、その小さな手で、こちょこちょとエレンの体中をくすぐり始めるのだ。

「やっ、こらっ!! きみたっち……っ、ひ、ひ、――あはっ、あはははははははははっ!!!」

 あっという間に10人に増えた少年少女に全身をくすぐられ、エレンは笑い出した。
 腋の下、脇腹、お腹に数十本の指が這い回る。
 足元ではブーツが脱がされ、素足にされた。
 狭い足の裏には、20本の指が突き立てられた。

「あひゃははははははははっ!!? ひぃぃ~~っひっひっひっっひっひなんだ君たちはぁぁあっはっはっっはっははやめれぇぇ!!」

 エレンは訳も分からず馬鹿笑いする。
 薄い服に突き立てられる指の刺激は、戦姫といえ、わずか16歳の少女に耐えられるような生ぬるいものではなかった。

「いひゃぁぁっはっははっはっはっはは!!! くすぐったぁいぃひひひひっひひひひひおねがぁっはっはっはっっは、やめてぇぇぇ~~っひっひっひひひひひひひ!!!」

 少年少女達は、一端くすぐり始めると、私語も挟まず、ただひたすらエレンの体をくすぐり続けた。
 エレンの全身を襲う計100本の指は、まるで機械のように無慈悲で、その動きは、まるでムカデの足のように不規則だった。

「いやぁああひゃひゃひゃひゃひゃひゃぎゃぁぁぁっはっはっはっはっはっはやだぁぁあぁ!!!」

 エレンは美しい銀髪を振り乱し、びくびくと美しい体をのけぞらせて笑い狂った。
 口元からは涎がしたたり、鼻水が吹き出し、せっかくの美貌が台無しだ。

「おねがいぃぃひひっひひひひひひひひひっ!!! やめてぇぇぇやべっ、……やべでぇぇぇうひゃひゃひぇひぇひぇひぇ!!!」

 エレンは涙を流して笑う。
 少年少女達の指の動きは、抑えられるどころか、どんどん激しくなるようだった。

 腋の下では複数の少女達が我先にと指をつっこみ蠢かせ、脇腹では少年少女が穴掘りでもするようにほじくり返し、スカートの中では頭を突っ込んだ少年少女が内ももや下着の上のへそにまで指を伸ばし、足の裏では少年達がガリガリ貪るようにくすぐっている。

「ひぎゃぁぁあぁああいやぁぁあああひゃっひゃっひゃっ!! ひゃっはがぁぁぁっはっはっはっはっは!!! あぎゃぁぁああ~~!!!」

 あまりのくすぐったさに、エレンは失禁して気を失ってしまった。
 目覚めたとき、そこは城内のエレンの部屋だった。
 傍らにいたリムが優しく微笑んだ。
 エレンはますます状況が飲み込めず、困惑した。


(完)