なるほど。この世界で私の姿は「猫」と呼ばれるらしい。
 この生物に憑依したのは偶然であった。
 道行く人間達の反応を見るに、猫という生物は人間にとって身近で親しみやすい存在。少なくとも、六本足の生物のように忌み嫌われているわけではないようだ。

「あ。猫ちゃん、こんにちは」

 ひとりの少女が近づいてきた。

「私の名前は月村すずか。野良ちゃんかな。良かったら私の家に来る?」

 好都合だ。
 この「月村すずか」という人間は、私に対してまったく警戒心を抱いていない。
 まずはこの人間を狩るとしよう。

 私は、屈んで手を伸ばしてきた月村すずかの目をじっと見つめた。

「ん? じっとこっち見つめて、お腹空いてるの――……っ!?」

 月村すずかの瞳が七色に輝く。
 その瞬間、彼女の動きが止まった。

「えっ……体が……?」

 魔法をかけた。
 これで彼女の体は完全にコントロールできる。

 さて、足を出してもらおう。

「なっ……きゃっ!?」

 彼女は自分の意志に反して尻餅をついたために、悲鳴を上げた。

「なにっ!? なんで、体が勝手に……?」

 彼女はアヒル座りをした足に手を伸ばし、靴を外す。

「えっ、なんで……っ、こんなところで脱ぎたくないのに……!」

 さらに靴下をつまみ、ぐいぐいと引っ張り抜いた。
 眉をひそめる月村すずか。
 私と目が合った。

「もしかして……猫ちゃんが、やってるの?」

 彼女は脱いだ靴下を丁寧に靴の中へ入れながら言った。
 もちろん彼女の意志ではない。

 準備が整うと、私は彼女の足へと近づく。

「ちょっと、猫ちゃん……。何するの?」

 怯えるような声を上げる月村すずか。
 私は、膝を折り曲げてぺたんとアヒル座りをしているために上を向いた彼女の左足の裏を、ぺろりと舐め上げた。

「きゃはっ!?」

 彼女の体がびくっと震えた。
 美味だ。
 私はさらに、ひくひくと震える足の真ん中のくぼみへ、舌を伸ばす。

「あはっ、あははははっ!! ちょっと、やだっ! 猫ちゃっ……くすぐったぃ、はははははっ!!」

 くすぐったい……。
 彼女の言う「くすぐったい」こそ、私にとってのエネルギー。

「あははははははっ!? お願いっ!! 猫ちゃんやめてぇぇ~~!!」

 私の舌の動きに合わせて、彼女の足の指もぴくぴくと動く。
 体は私にコントロールされているため、立ち上がることも、転げ回って気を紛らわすこともできない。

「やぁぁはははははっははっ!! ひぃっ、くすぐったいぃぃ~~! 舐めないでぇぇっはっはっはっはっは!!」

 月村すずかは涙を流して笑った。
 我々こちょ魔は、生命活動を維持するために、人間をくすぐり続けなければならない。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 『DDD産業』のDDD様に描いていただいた絵から、妄想を膨らませて書かせていただきました! 散らばったソックスも好きですが、靴の中に押し込められたソックスも好きです!
すずかちゃん(DDD様より)