奈々の提案は、一日ひとり、クラスの誰かターゲットを決めてくすぐろうというもの。
 私達四人は喜んで賛成した。
 誰にしようか、という相談の中で、私は「千尋みたいに普段あんまり笑わない子がいい」と提案した。
 みんな賛同してくれた。千尋は少しはずかしそうにしていた。
 ターゲットはその日ちょうど良く日直だった琴音ちゃんに決まった。
 ぽわ~っとしていて、いつもぼんやりしている子で、激しく笑い声を立てている姿があんまり想像できなかった。
 私達は、昼休み前の四時間目の授業の後に、琴音ちゃんをくすぐることにした。
 四時間目は技術の授業で、パソコン室には靴を脱いで上がる。
 靴を脱ぐと、なんだかクラスのみんな、ちょっとずつテンションが高くなる。
 琴音ちゃんは、相変わらずぼんやりしていた。
 教科書を忘れて先生に怒られていたが、聞いて無さそうだった。
 授業が終わると、そそくさと部屋を出て行く人に交じって、琴音ちゃんも帰ろうとしていた。
「こらこらお前、日直だろ? ホワイトボード消していけよ」
 先生のナイスアシストで、琴音ちゃんはパソコン室の中に戻ってきた。
 先生が出て行ったのを見計らって、私達はホワイトボードに書かれた字をゆっくり消していた琴音ちゃんに近づいた。
「こ~と~ね~ちゃん」
「あそぼー」
 奈々と智子が声をかけた。琴音ちゃんは「んー? 何がー?」とか眠そうな目をこちらへ向けた。
 私達はそんな琴音ちゃんを押し倒し、カーペットの上に仰向けに寝かせた。
「わ」
 と、緊張感のない声で驚く琴音ちゃん。
 全然抵抗してこない。
 私達はあっさり琴音ちゃんの両足から白いソックスを脱がして素足にした。
「ナニー?」
「これから琴音ちゃんをこちょこちょの刑に処すよ!」
「えーやだー」
 全然緊張感のないやりとりをして、私達は琴音ちゃんの腋の下、お腹、両足の裏をくすぐりはじめた。
 勝手なイメージで、琴音ちゃんはくすぐりに強いのかと思っていた。
 予想に反して、琴音ちゃんの反応は大きかった。
「あああああああああああああああ!!!!」
 びくりと体を震わせて、警報みたいに一定の甲高い声を発する琴音ちゃん。目をぱっちりと見開いて怖い。
 私達はびっくりして一瞬手を止めてしまうが、そのままくすぐり続ける。
 すると、警報のような音の中に、はっきりと笑い声が混ざってきた。
「ああああああああぁぁぁははははっ!!! は、は、は、は、あぁぁぁぁはははははははははははははっ!!!」
 体を上下に揺らして、はっきり琴音ちゃんは笑い出した。
 私は右足を担当していた。
 土踏まずの真ん中辺りを人差し指でカリカリ引っ掻くと、琴音ちゃんの足の指がくすぐったそうにバラバラに動いた。
「はぁぁあああはははははははははははっ!!! あ、は、はははははははははははははははははははっ!!!」
 押さえつけられた四肢にも力が入っていた。
 必死に四人をふりほどこうとしているみたいだった。
 首を左右にぶんぶんと振って、琴音ちゃんは大笑いしていた。
 普段のぼんやりと動きの鈍い琴音ちゃんからは想像できないほどの暴れようだった。
「ああぁぁははははははははは!!! はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
 十分程度くすぐって解放すると、琴音ちゃんは「すっきりしたー」と感想を言った。不思議な子だった。「明日も誰かくすぐるけど、一緒にやる?」と誘ってみると、「やるー」と乗ってきてくれた。
 私達が足をくすぐるために琴音ちゃんのソックスを脱がしたのだが、その後もずっと琴音ちゃんは素足のまま上履きを履いて授業を受けていた。
 休み時間に、「なんで靴下履かないの?」と聞いてみると、「面倒だからー」と返された。やっぱり不思議な子だった。


(つづく)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 ノリ的な意味で、JCはいいものだなァ!