「結菜ちゃんでいいよね?」
「うん、結菜しかいないね」
「賛成ー」
「異議無し」
 その週最後のターゲットは、全員一致で結菜ちゃんに決まった。
 結菜ちゃんはいつもふてくされたような表情でうつむいて、クラスの誰ともコミュニケーションを取りたがらない無口な子だった。
 その日も朝からいらいらと貧乏揺すりをしていた。学校にいるのがよほど苦痛なのか眉間に皺を寄せて何度も時計を確認して、クラスメイトと目が合うと、さっと顔を伏せた。笑っている姿なんて想像できなかった。
「結菜ちゃん、待ってー!」
 放課後になって一目散に教室を出た結菜ちゃんを九人で追いかけた。
 結菜ちゃんは一向に止まる気配がなく、足早に廊下をかけていく。
 私達は二手に分かれて、昇降口で結菜ちゃんを挟みうちにした。
「……っ」
 結菜ちゃんは頬を引きつらせてにらんできた。
「結菜ちゃん、この後、遊ばない?」
 奈々がいつものフランクな調子で聞いた。
「……やだよ。めんどくさい」
 結菜ちゃんは吐き捨てるようにつぶやいた。
「まあまあそう言わずに」
「せっかく一緒のクラスになったんだし、結菜ちゃんとも仲良くしたいなー」
 私達のしつこい誘いに嫌気が差したのか、結菜ちゃん「……じゃあ、少しだけ」としぶしぶ了承してくれた。
 そうなればこっちのもの。
 私達は結菜ちゃんを取り囲んで歩いて、澪ちゃんの家まで行った。まるで犯罪者の連行だ。到着するまで、結菜ちゃんは不機嫌そうにぶつくさ言っていた。
 澪ちゃんの部屋に上がって、さっそく奈々が、
「それではこれから! 結菜ちゃんをこちょこちょの刑に処します!」
「は? なっ……やっ――」
 私達は、顔をしかめる結菜ちゃんをカーペットの上に押し倒し、大の字に押さえつけた。
「……何? こら。ふざけんな」
 結菜ちゃんは低い声で私達を威嚇した。
 ちょっと怖い。
 でも、いつものように足担当の私と琴音ちゃんで、結菜ちゃんのソックスを脱がし取る。
「……おい、やめ――」
 私がその素足にした足の裏を人差し指で軽くなぞると、
「ぃひゃあああ~~!!?」
 突然結菜ちゃんが裏返った甲高い声を上げた。
 その場にいた全員がびっくりした。
 結菜ちゃんは唇をかみしめて顔を赤くした。
「や、やめろ……よ」
 結菜ちゃんは相当くすぐったがりだった。
 私達は顔を見合わせてにやりと笑い合うと、九人がかりで一斉に結菜ちゃんの体をくすぐりはじめた。
「あぎゃああああああああぁああああああっ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああ!!!」
 すごい悲鳴だった。
 体中がびくびく痙攣している。
 こんな激しく声を荒らげる結菜ちゃんを初めて見た。
「あ、あ、あ、ああぁああああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃぁああああっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!?」
 九人がかりではさすがに耐えられなかったようだ。
 悲鳴で誤魔化していた結菜ちゃんも、すぐに激しい笑い声を上げ始めた。
「はひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあああぁぁ~~っはっはっはっはっは!!! やめろぉぉおおおうひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
 首を左右に激しく振って、涙を浮かべて笑う結菜ちゃん。
 その笑顔は、普段のイライラした表情とは比べものにならないくらい可愛かった。
 意外と美少女。
 乱れた姿が艶めかしい。
 私はちょっと嫉妬して、足の指を掴んで反らし、付け根の所を思いっきり掻きむしった。
「あひゃあぁあああっはっははっはっはは!!? くすぐりゃにゃああああでぇえええ~~!! にゃあぁあああははははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!?」
 舌足らずになる結菜ちゃん。
 普段の険々した雰囲気からは想像できない乱れようだった。
「ふええええええっへっへっへっへっへっへ嫌ああああひゃひゃひゃひゃひゃ!!! ひやあああぁぁははははははは!!!」
 ちょっとやりすぎた。
 みんな夢中になって一時間ぐらいくすぐり続けてしまったせいで、結菜ちゃんは泣いてしまった。
「もぅ……やべっ、やべでっで、いっだのにぃ……」
 ベソをかく結菜ちゃんに、私達は不覚にもきゅんとしてしまった。
「スッキリしたー?」
 まったく空気を読まない琴音ちゃんが聞いた。
「……ひぐ、ふじゃけんなよぅ……」
 結菜ちゃんはしゃくり上げて、
「あだしにも、仕返しさせろぉ……」
 ちょっと不安だったが、結菜ちゃんもくすぐりの魔力の虜になった。
 私達はそれから、十人でくすぐり合った。

 一番難関に思われた結菜ちゃんを仲間にできた喜びと興奮は大きかった。翌週クラスの女子全員をくすぐり終わると、長期休暇に入るまでの間、私達のクラスでは毎日一人から二人がくすぐられるローテーションができあがった。
 今にして思うと、ずいぶんとバカな遊びをしていたなぁと思うが、中学校時代はそれなりに楽しかった。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 ノリ的な意味で、JCはいいものだなァ!