「なんだろ……? ここ?」
 高町ヴィヴィオ(たかまち――)は気が付くと、見たことのない空間にいた。
 真っ白な背景の中にピンク色のもやがかかっていて、そこはまるで――
「そっか! 夢だ!」
 ヴィヴィオは自分が寝ていたことを思い出した。
 数時間前、間違いなく自分は家にいて、ベッドに入ったのを覚えている。
(服もなぜか変わってるし……)
 就寝前にパジャマに着替えたはずだったが、ヴィヴィオはSt.ヒルデ魔法学院校初等科の制服を着ていた。
(どうしよう……こんななんにもない場所の夢は初めてだな)
 ヴィヴィオは手持ち無沙汰になってトレーニングを始めた。
 拳を突き出してみたり、脚を振り上げてみたり。
「あれ? なんかいつもより体が軽い?」
 適度に汗もかいて、そろそろ目覚めようかと思った矢先、
『高町ビビオ』
「はいっ!?」
 突然声がしてヴィヴィオはどきりとした。
 きょろきょろあたりを見回すが、声の主の姿はどこにもない。
『高町ビビオ、もう目覚めるのか?』
「あ、えっと……はい」
『ここは君だけのトレーニングルームだ。高町ビビオ』
「あの、……ヴィヴィオです」
『ここのことは、決して誰にも話し――』
「ヴィヴィオー! 朝ご飯できたよー!」
 世界をかき消すような母親の声で、ヴィヴィオは目を覚ました。
 勢いよく起き上がると、自室のベッドの上だった。
 見ると、服もパジャマにもどっている。
「……やっぱり、夢だったんだ」

「――なんて夢見て、びっくりしちゃったよ~」
 ヴィヴィオは学校で、親友のリオ・ウェズリーとコロナ・ティミルに夢のことを話した。
「へぇ! なんか精神と時の部屋みたいでおもしろいね!」
「うんうん。寝ている間にトレーニングできちゃうなんて、うらやましいな」
 リオとコロナも興味を示した。
「ていっても、夢だからね。夢の中でトレーニングしたからって、朝目が覚めて体に変化があったわけじゃないし……」
 ヴィヴィオはたははと笑う。
 その後は三人でたわいもない話をして笑い合い、学校、練習を終え、帰宅した。

 その晩、ヴィヴィオは前日と同じ夢の中にいた。
「あれ? また同じ夢?」 
 ヴィヴィオは周囲を見渡した。
 やっぱり同じだ。
 服装も、就寝時のパジャマから制服に替わっている。
 しかし、少し汗ばんでいた。
 体も少し疲れている気がした。
「……そっか、昨日自主トレした後だから」
『高町ビビオ』
「わっ!?」
 突然声がした。
 昨日と同じく、どこにもその姿はない。
 ヴィヴィオが振り向いた瞬間、突然地面から生え出た手に足首を掴まれる。
「きゃっ!?」
 ヴィヴィオはバランスを崩し尻餅をついてしまう。
 両手両足をそれぞれ揃えて押さえつけられ、悲鳴を上げる。
「なっ、何この夢っ!?」
『夢ではない、現実だ』
「えっ」
 声は続けて、
『お前がこの空間に迷い込んだのは偶然だった。こちらにも落ち度はあった。しかし、お前はここの存在を他人に喋ってしまった』
「……!?」
『お前はもう、ここから出ることができない』
「そ、そんな……」
 ヴィヴィオは、前回目覚める寸前の声の言葉を思い出していた。
(誰にも話しちゃいけないってことだったんだ……)
『お前には罰を受けてもらう……が、その前に』
 ヴィヴィオは「罰」という言葉に不安を感じた。
 一体何をされるのだろうか。
 声は続けて、
『誰にここの場所を喋ったか、教えてもらおう』
「えっ?」
 ヴィヴィオは「罰」が気になって、質問をちゃんと聞いていなかった。
『誰にここのことを喋ったのだ?』
 声が質問を繰り返した。
 ヴィヴィオの頭に、リオとコロナの顔が浮かんだ。
「そ、それを聞いて、どうするんですか?」
『その者にも罰を与えなければならない』
「そんな!」
 ヴィヴィオは二人に喋ったことを後悔した。
 自分のせいで、二人には迷惑をかけられない。
「い、言えません!」
 ヴィヴィオは黙秘することに決めた。
『そうか。ならば、吐かせるまでよ』
 声が消えると、足元の地面から生え出た二本の手がヴィヴィオの靴を脱がした。
「えっ、な、何するの?」
 ヴィヴィオが何をされるのかと足元を見下ろした瞬間、二本の手は、ソックス越しにヴィヴィオの足の裏をくすぐりはじめた。

「きゃっ!!? ……っ、あ、あははははははははっ!? なにっ!? なにぃぃ~~やぁははははははは!!」

 突然の刺激にヴィヴィオは笑い出してしまう。
 二本の手は、トレーニングで疲れた足の筋肉をほぐすようにくすぐってくる。

「やぁぁっはっはっはっははっはっ!!! やめてぇぇ~~くすぐったいぃいひひひひひひひひひ!!」

 ヴィヴィオは髪の毛を振り乱して笑った。
 両手両足を押さえた手の力が強く、まったく拘束を解くことができない。

「あはははははははやだぁぁあははははははははは!!!」

 足をくすぐる手は、指先で土踏まずをなぞったり、足指の付け根をほじったりと、様々な手法でヴィヴィオを苦しめる。

「やぁぁああ~~ははははははははははははっ!!! やだよぉお~~はははははははは夢ならさめてぇぇえ~~きゃあはははははははは!!!」

『現実だと言っている。ビビオ。先の質問に答えるのだ』

「ヴィヴィオだよぉぉ~~あぁあああっはっははっはっはっははっはっはやぁぁあははははっはあは!!!」

 ヴィヴィオは足の裏を激しくいじられ悲鳴を上げる。
 声はなかなか答えないヴィヴィオに苛立ち始めた。
『強情な娘だ。ならば、好きに笑い死ぬがいい』

 ヴィヴィオの足元の手が、ソックスを脱がし取った。
「やっ、……げほげほっ!! あ、直はやめ――」
 ヴィヴィオの懇願もむなしく、二本の手は、ヴィヴィオの素足の足の裏をがりがりと激しく掻きむしり始めた。

「嫌ぁあああああははははははははははは!!? ふひゃあぁぁああはははははははははははやだぁぁあああははははっはははははは~~!!!」

 ヴィヴィオの笑い声が一段と大きくなった。

「やははっははあはははっはははっ!! ひやぁああああはははははははははだぁぁあ~~!!!」

 足の指はくすぐったそうにびくびくと激しく動いている。
 さらに足元から三本、四本と手が増え、ヴィヴィオの足の指を掴んで反らし、つっぱった親指の付け根や、足指の間まで激しくくすぐられる。

「うぎひひひひひひひひひひっ!!? ひぎゃぁあああひゃひゃひゃひゃひゃやめでぇええええあひゃぁあぁ~~!!?」

『言え。言うのだ。高町ビビオ』

 足の裏を数十本の指がはげしく這い回る。

「あひゃはやひゃはあはははははははっ!!? いやぁあぁあだぁあぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

『言え』

 答えないでいると、さらにくすぐりは激しくなった。
 親指と小指を二本の手に掴まれ、左右に引っ張られると、強制開指された指股を激しくほじくられる。

「あがががははははははははははふぎゃぁぁあはははははははは!!」
 
 かなりの時間くすぐられ続け、とうとうヴィヴィオは根を上げた。

「ぐぎひひひひっひひひひひ言ううぅぅううういうからあぁああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

 ヴィヴィオの顔は涙と涎と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
 白目を剥いて、舌を出して笑う、ひどい有り様だ。

「おにゃあぁああ同じクラスのぉぉひゃひゃひゃ、リオとコロナあぁああひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! 二人ともごめんにゃぁあぁあひゃひゃひゃひゃ~~!!!」

 ヴィヴィオは泣きながら、親友の名前を叫んだ。

『リオとコロナ。把握した。お前は隔絶空間で永久に笑っていろ』

「なにゃあぁあああはははははははっ!!? 答えたぁぁあ答えたのにぃぃっひっひっひっひっひ、くすぐりやめてぇぇえ~~うひゃひゃひゃひゃひゃっ!!?」

『誰が答えたらやめると言った。お前はもう、笑い死ぬ運命なのだ』

「いやぁあああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~~!!! ママあぁああひゃひゃひゃひゃひゃたすけてぇぇええ~~っはっはっはっはっはっは~~!!!」

 声の気配が消えるとともに、空間が暗転した。
 ヴィヴィオは暗闇の中でくすぐられ続け、笑い叫び続けた。


(つづく)

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