「ブルーコーナー、ユナ・プラッツ選手、対、レッドコーナー、ファビア・クロゼルグ選手ぅ」

「ブラックカーテン……」

 ストライクアーツ試合開始早々、ファビアはそう呟いたのがユナの耳に届いた。
 気がつくとユナは、薄暗い空間に立っていた。
 さっきまでいた試合リングの上ではない。
 足元は沼。膝上まで不気味な液体に浸かっている。
 ユナは何が起こったかわからず、不安そうにきょろきょろと周囲を見渡した。
「ひ……っ」
 ユナは恐怖に顔を引きつらせた。
 沼から無数の腕が生え出てきたのだ。
 腕は「おいでおいで」をするように、立ちすくんだユナに近づいてくる。
「い、や……っ」
 ユナは構えたクナイの先を近づく腕に向ける。
 が、無数の腕はユナの服にしがみつき、身動きが取れなくなってしまう。さらに、腕は、ユナの体を沼に引き込もうとする。
「いやぁ……っ!」
 ユナはむらがる腕を必死に振り払おうと抵抗した。
(ひ……引きずり込まれる……っ!?)
 そう思った矢先だった。

「――ぃっ!? やはははははははっ!? 何っ!? なにぃぃ~~はははははははは!」

 突如、大口を開けて笑い始めるユナ。
 ユナの体にまとわりついた腕の一本が、ユナの脇腹をくすぐり始めたのだ。
 呼応するように、他の腕もユナの腋、お腹、太ももと、くすぐり始める。

「いやぁあっ!!? ちょっとやだぁあぁははははっははっははっ!!! なんでぇぇ~~っはっはっははっはっはっはっは!!」

 訳もわからず笑わされ、涙を流すユナ。
 隙間の多いくノ一装束は、無数の指の侵入を易々と許してしまう。

「こんなのいやぁぁはははははははは――あだぁぁっ!!?」

 笑い悶え、バランスを崩したユナは、沼の底で足首を掴まれた拍子に、後ろへずっこけてしまった。
 沼の上に大の字に浮かべられたユナの体を貪るように、無数の腕が取り囲んだ。

「やぁぁあっはっははっははっははやめてぇぇ~~あはぁぁあっ!!? そんなとこまでぇぇあひゃはははははははははは!!!」

 全身をくすぐられ悲鳴を上げるユナ。
 首筋や膝裏など、さきほどまで触れられていなかった部位まで、わらわらと指が群がった。
 ブーツを脱がされ、さらにはニーソックスまで引っこ抜かれ、素足の足の裏をくすぐられる。

「嫌あああひひひひひひひひひっ!!! やめてやめてやめてぇえぇえあああぁぁはははっはははははははははははは!!!」

 腕の力は強く、どんなに暴れてもくすぐったさから免れることはできない。
 ユナは逃れられない強烈なくすぐったさに、笑い続けた。

「やだぁああっひゃっはっははっははっはははあひあああっははっははっははっは~~!!! 嫌あああああああああああっ!!!」

 絶望の中で悲鳴をあげるユナ。
 気がつくとユナは、コーチの胸の中で泣いていた。


(完)