「はっ、はっ……!」

 我那覇響は息を切らして森の中を走っていた。
 サファリジャケットに短パンといういかにも探検家という服装は、テレビ局の貸し出し衣装だった。
 ジャケットの一部は破け、靴は泥まみれ、白いハイソックスも土で汚れている。
 舗装されていない草木の生い茂る地面を踏みしめる度に、響のポニーテールが揺れ動く。
 背後からは草をかき分ける音がかなりの速さで迫ってきている。
 彼女は、ジャングルに現れる『謎の生物』を追跡するという企画でリポーターに抜擢され、取材班と同伴していた。
 数十分前まで撮影は順調に進んでいた。
 ところが、突如現れた『謎の生物』に襲撃され、取材班はバラバラになってしまったのだ。
 響は若い女性の悲鳴を聞いた。ADが襲われたらしい。
 響は振り返りたい欲求を必死に押しとどめ走る。
 彼女は10人いた取材班の最後の一人になってしまった。
 がさがさと草を切る音が近づいてくる。

「いっ……!」

 響は歯を食いしばる。
 足の速さには自信があったが、足場の悪いぬかるんだ地面を全力で走り続けたために、かなり足の負担が重くなっていたのだ。
 足が痛い。
 しかし、音は迫ってくる。

「あっ、ぐっ、くそぅ……っ!」

 響は必死に土を蹴った。
 首から背中まで汗でびっしょりだった。
 だんだんと視界が狭まってくるような錯覚さえ覚えた。
 もう何日も走り続けているような気がしてきた。

 そんなとき、ふと、背後から追ってくる音が消えた。

「……え?」

 響は足を止めて振り返った。

 振り返ってしまった。

 その瞬間、響の左足首に人間の手首ほど太さのある触手が巻き付いた。

「やっ、だぁっ!?」

 いきなりひっぱられ、転倒する響。
 腹ばいになって地面に生えた草を掴む。が、触手の力は強く、響の身体はずるずると引きずられ、とうとう宙に持ち上げられてしまった。サファリハットがひらひらと地面に落ちる。
 逆さづりになってもがく響。
 新たに現れた三本の触手が、響の残りの手足を絡め取った。

「やっ……めろぅ……!」

 響は、恐怖に顔を引きつらせた。
 何をされるのかは、先に襲われた取材班メンバーを見て予想がついていた。
 別に伸びた触手が響の両足からブーツを脱がし取る。さらに白いソックスに絡みつき、ねじるように脱がし取った。
 あっという間に素足にされた響。

「うっ……うぅぅ……っ」

 うねうねと数本の触手が響の目の前でじらすようにくねる。 
 響はたまらず目を閉じた。
 なかなか予期する刺激がやってこない。
 震える身体。
 まだかとうっすら目を開いた瞬間、複数の触手は一斉に響の身体へ襲いかかった。

「ぐはっ!!? あ、あぁあぁああああ~~!!!」

 触手の先端がくねくねと、響の身体中をくすぐった。

「あぁああああっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!! やめっ!!! やめろぉぉ~~~~あははははははははははははははっ!!?」

 サファリジャケットの裾から入り込んだ触手が腋の下を、脇腹を、さらに脚に取り付いた触手が内股や太ももを、下から生え出た触手が足の裏をくすぐっている。

「やめっ、やめえぇぇええあぁぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっははっははだぁぁぁ~~!!」

 響はびくびくと身体を痙攣させて笑い狂った。
 触手に身体中をまさぐられる感覚は想像を絶するものだった。
 触手は粘液を噴射し、ねっとりと響の身体へ塗りつけながら蠢く。
 大小計数十本の触手は、それぞれ独立してバラバラに動き、響の身体を貪った。

「いがやあああぁぁあっはっはっはっははっははは死ぬぅぅぅ~~~!!! ホントにじぬうぅぅぅぅひっひっひっひっひっひっひっひ!!」

 泣き叫ぶ響。
 腋を閉じよう、股を閉じようと必死に手足に力を込めるが、触手の力には叶わない。
 響はがくんがくんと首を上下に揺らして笑い続ける。

 両腕を引きのばされ、ガラ空きの腋の下に極太の触手がつっこんでくる。

「ああがあああぁああぁやだぁぁぁああああひゃひゃひゃひゃあっ!!! はなせぇぇぇえぇえふぎゃぁぁあっはっはっははっはっはっははっはっは!!!」

 むっちりと露出した太ももには、ぬめぬめと粘液をまとった触手が絡みつく。

「ふひぃぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひやぁああああぎもじわるいぃぃぃひっひっひっひっひっひ~~!!」

 足の裏には細かく尖端の分かれた触手がうねうねとのたうち回っていた。
 綺麗なアーチを作った土踏まずから、敏感な指の股まで、余すところなく触手に覆われている。

「ぎゃぁああああっはっはっはっはっはっはっはっはいひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!! はぎゃぁぁあああ~~~!!?」

 触手の激しいくすぐりに、響の意識は遠退いていく。

「あが、あがっ……! ふがぁあぁああああ、あ、あはは、あは、あは、は、あいぃぃぃぃぃ!!!?」

 響は白目を剥いて失禁した。
 それでも触手の動きは止まらない。

「もおおおいぃぃぃいぃぃやう゛ぇぇええっ!!? あう゛ぇあぁああああっはっははあはあはははははははははは!!!」

――

 その後、アイドル我那覇響を含む計10名の取材班失踪事件は、広く知れ渡った。
 新聞、週刊誌は、『謎の生物』の恐ろしい生態について、様々な憶測を立ててセンセーショナルに報じた。
 おかげで、好奇心旺盛な記者、怖い物知らずのトレジャーハンターなど、多くの者が『謎の生物』を一目見ようとジャングルに発った。

 誰ひとり、帰ってこなかった。
 『謎の生物』の姿は誰も知らない。


(完)