ハンバーガーショップへ、『特別券』を使いにやってきた。
この『特別券』を使用すれば、クルーのお姉ちゃんの足の裏を好きなだけ触ることができるのだ。
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がり――げっ」
クルーのお姉ちゃんが俺の顔を見るなり眉を寄せた。
「お姉ちゃん。客に向かって『げ』はないんじゃない?」
「大変失礼、いたしました」
クルーのお姉ちゃんはマニュアル通り頭を下げる。
まあ、彼女の気持ちもわからなくない。
前回『特別券』を使ったのが、このお姉ちゃんだからな。
「今日も『特別券』を使いたいんだけど」
「……わかりました」
お姉ちゃんは嫌そうに頷いた。
「あ、いや、今日は君じゃなくて。新しい子、いないの?」
「ここはそういったお店ではございませんので――」
「何言ってる! 『特別券』の裏側に書いてあるじゃないか! 『お好きなクルーの足の裏をご自由にお触りいただけます』って! ちゃんとサービスわかってるのか!」
俺の激昂に不快そうに眉をひそめるお姉ちゃん。
正直、彼女には同情する。
バイトか社員か知らないが、採用されたときにはこんなサービスなかったはず。
ひと月ほど前、突然、筆頭株主を限定に導入されたサービスなのだ。
すべて、頭のおかしな社長のせいだ。
だが、客の俺にはそんな事情知ったこっちゃない。
店の奥を覗き込むと、腸詰め豚肉卵マフィンを包装しているクルーに、知らない顔があった。
キャップの後ろからポニーテイルがのぞく、小柄な女の子。ぶすっと不機嫌そうに口を窄めて作業している。
たぶん新しいアルバイトだろう。高校生か。それとも童顔の大学生か。
ちなみに、アルバイトの公募には『特別券』のことは書かれていない。
たとえ黒い噂が流れたとしても、なんやかんや大企業でのアルバイト経験は就活に有利なため、志願者は減らない。
「あの子。お願い」
俺が言うと、クルーのお姉ちゃんは深々とため息をついて、店の奥へ。
「……え。嫌です」
「ごめん。我慢して。株主さんだから」
「でも……」
「お願い」
なんて会話が聞こえてくる。
ポニーテイルの女の子は本気で嫌がっている様子。
なかなかそそられるじゃないか。
しばらく待っていると、観念したのかポニーテイルのクルーの女の子がカウンターまでやってきた。
名札を見ると『工藤』と言うらしい。クドッチと呼ぼう。
「い、……いらっしゃいませ。と、『特別券』のご利用で、お間違いないでしょうか」
クドッチは緊張しているのか、目を合わせてくれない。
「そうだよ。ささ、足を出して」
クドッチは嫌そうに顔をしかめる。
俺が待っていると、しぶしぶといったように、片手を台の下へ。
俺は身を乗り出して覗き込む。
クドッチは右足のスニーカーを脱ぎ、黒いソックスに指をかける。
「あの……見ないで、いただけますか」
俺は無視してガン見する。
クドッチは諦めたのか、一気に自分の足からソックスを脱ぎ取った。
彼女はそのまま自分の足首を掴んで、台の上へ素足を載せた。
俺はにやけがとまらない。
クドッチの顔が赤い。
足の裏をまじまじと見られて恥ずかしいのだろう。
黒いソックスの糸がところどころ付着した白い足。
親指が長い、いわゆるエジプト型だ。
俺はわずかにくぼんだ彼女の土踏まずのアーチを、すすーっと人差し指でなぞった。
「ひっ……ひゃぁ」
彼女の艶めかしい声が響く。
足の指が嫌そうにくねくねとよじれた。
硬い表情が緩み、口元がほころんでいる。
「ほら。おとなしくして。動いたらだめだよ。立ち仕事は大変だろう。おじちゃんがマッサージしてあげるよ」
俺は優しく言いながら、二本の指で彼女の土踏まずを引っ掻いた。
「ぷふっ――やははははっ、や、やだぁっ!」
彼女はたまらず足を引っ込めてしまう。
「おいおい。俺の好意を無駄にするのか。ほら。台の上に足をもどして」
「う、うう……」
クドッチは泣きそうな顔で、右足を台の上にもどす。
よほど刺激が嫌だったのか、足の指がきゅっと縮こまっている。
俺は、彼女の足の指を掴んだ。
「いっ――!?」
土踏まずに寄った皺を引き伸ばすように反らし、こんどは五本の指を立てて彼女の足の裏をくすぐった。
「いひゃっ!!!? ――あ、あひっはっはっはっはっははっはっは!!? や、やぁぁあはははははははははは!!!」
途端に彼女は大口を開けて笑い出した。
必死に足を引っ込めようともがいているが、俺が押さえているために叶わない。
「やめて……っ、やめてください、お客さまぁぁああはっっはっはっはっはっはっははっはっは!!!」
「おお。可愛い可愛い。なんだ、笑えば可愛いじゃないか。バーガーを包装するときだって笑顔でいなきゃだめだよ」
俺は言いながら彼女の足の裏をくすぐる。
小さな足の裏だった。
柔らかな感触だった。
指の付け根から踵まで、指の腹から爪先まで使って、こちょこちょカリカリとくすぐってやった。
「あぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっは!!!? やめてぇぇえええひゃははははっははははは、弱いっ!!! 弱いですからあぁぁっはっはっはっははっはっははっは!!!」
ぶんぶんと左右に首を振り回してケタケタ笑うクドッチ。
こうして大笑いしている彼女を見ると、やはりこどもに見えた。
足裏の面が終わった後は、指の間だ。
足の指を一本ずつ広げてやって、股の間をほじくり返す。
「あぁぁひはっははひっはっはいはいあっはっっはは~~!!? ほんどダメえぇぇええっへっへっへっっへっへ!!」
クドッチは指の間も敏感だったらしく、甲高い声を上げてくれた。
いつの間にか、店内でお召し上がりだった客達も、食事の手を止めてコチラの様子をうかがっている。
お行儀悪くカウンターに素足を乗せて、客に足の裏をくすぐられて「やめてぇ~」と大笑いする制服の女子クルー。
横では別の客がこちらをチラチラと見ながら自分の注文を済ませている。
うむ。このハンバーガーショップは狂っている。
(完)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
某ハンバーガーショップのチーズが足の臭いに似ているという発想にて。
なんとチャットルームにて、『アーク放電制造(株)』のアーク様が、絵を描いてくださいました! 圧倒的感謝です!
かわいい絵柄がたまりません。隣で繰り広げられる漫才が愉快です。
この『特別券』を使用すれば、クルーのお姉ちゃんの足の裏を好きなだけ触ることができるのだ。
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がり――げっ」
クルーのお姉ちゃんが俺の顔を見るなり眉を寄せた。
「お姉ちゃん。客に向かって『げ』はないんじゃない?」
「大変失礼、いたしました」
クルーのお姉ちゃんはマニュアル通り頭を下げる。
まあ、彼女の気持ちもわからなくない。
前回『特別券』を使ったのが、このお姉ちゃんだからな。
「今日も『特別券』を使いたいんだけど」
「……わかりました」
お姉ちゃんは嫌そうに頷いた。
「あ、いや、今日は君じゃなくて。新しい子、いないの?」
「ここはそういったお店ではございませんので――」
「何言ってる! 『特別券』の裏側に書いてあるじゃないか! 『お好きなクルーの足の裏をご自由にお触りいただけます』って! ちゃんとサービスわかってるのか!」
俺の激昂に不快そうに眉をひそめるお姉ちゃん。
正直、彼女には同情する。
バイトか社員か知らないが、採用されたときにはこんなサービスなかったはず。
ひと月ほど前、突然、筆頭株主を限定に導入されたサービスなのだ。
すべて、頭のおかしな社長のせいだ。
だが、客の俺にはそんな事情知ったこっちゃない。
店の奥を覗き込むと、腸詰め豚肉卵マフィンを包装しているクルーに、知らない顔があった。
キャップの後ろからポニーテイルがのぞく、小柄な女の子。ぶすっと不機嫌そうに口を窄めて作業している。
たぶん新しいアルバイトだろう。高校生か。それとも童顔の大学生か。
ちなみに、アルバイトの公募には『特別券』のことは書かれていない。
たとえ黒い噂が流れたとしても、なんやかんや大企業でのアルバイト経験は就活に有利なため、志願者は減らない。
「あの子。お願い」
俺が言うと、クルーのお姉ちゃんは深々とため息をついて、店の奥へ。
「……え。嫌です」
「ごめん。我慢して。株主さんだから」
「でも……」
「お願い」
なんて会話が聞こえてくる。
ポニーテイルの女の子は本気で嫌がっている様子。
なかなかそそられるじゃないか。
しばらく待っていると、観念したのかポニーテイルのクルーの女の子がカウンターまでやってきた。
名札を見ると『工藤』と言うらしい。クドッチと呼ぼう。
「い、……いらっしゃいませ。と、『特別券』のご利用で、お間違いないでしょうか」
クドッチは緊張しているのか、目を合わせてくれない。
「そうだよ。ささ、足を出して」
クドッチは嫌そうに顔をしかめる。
俺が待っていると、しぶしぶといったように、片手を台の下へ。
俺は身を乗り出して覗き込む。
クドッチは右足のスニーカーを脱ぎ、黒いソックスに指をかける。
「あの……見ないで、いただけますか」
俺は無視してガン見する。
クドッチは諦めたのか、一気に自分の足からソックスを脱ぎ取った。
彼女はそのまま自分の足首を掴んで、台の上へ素足を載せた。
俺はにやけがとまらない。
クドッチの顔が赤い。
足の裏をまじまじと見られて恥ずかしいのだろう。
黒いソックスの糸がところどころ付着した白い足。
親指が長い、いわゆるエジプト型だ。
俺はわずかにくぼんだ彼女の土踏まずのアーチを、すすーっと人差し指でなぞった。
「ひっ……ひゃぁ」
彼女の艶めかしい声が響く。
足の指が嫌そうにくねくねとよじれた。
硬い表情が緩み、口元がほころんでいる。
「ほら。おとなしくして。動いたらだめだよ。立ち仕事は大変だろう。おじちゃんがマッサージしてあげるよ」
俺は優しく言いながら、二本の指で彼女の土踏まずを引っ掻いた。
「ぷふっ――やははははっ、や、やだぁっ!」
彼女はたまらず足を引っ込めてしまう。
「おいおい。俺の好意を無駄にするのか。ほら。台の上に足をもどして」
「う、うう……」
クドッチは泣きそうな顔で、右足を台の上にもどす。
よほど刺激が嫌だったのか、足の指がきゅっと縮こまっている。
俺は、彼女の足の指を掴んだ。
「いっ――!?」
土踏まずに寄った皺を引き伸ばすように反らし、こんどは五本の指を立てて彼女の足の裏をくすぐった。
「いひゃっ!!!? ――あ、あひっはっはっはっはっははっはっは!!? や、やぁぁあはははははははははは!!!」
途端に彼女は大口を開けて笑い出した。
必死に足を引っ込めようともがいているが、俺が押さえているために叶わない。
「やめて……っ、やめてください、お客さまぁぁああはっっはっはっはっはっはっははっはっは!!!」
「おお。可愛い可愛い。なんだ、笑えば可愛いじゃないか。バーガーを包装するときだって笑顔でいなきゃだめだよ」
俺は言いながら彼女の足の裏をくすぐる。
小さな足の裏だった。
柔らかな感触だった。
指の付け根から踵まで、指の腹から爪先まで使って、こちょこちょカリカリとくすぐってやった。
「あぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっは!!!? やめてぇぇえええひゃははははっははははは、弱いっ!!! 弱いですからあぁぁっはっはっはっははっはっははっは!!!」
ぶんぶんと左右に首を振り回してケタケタ笑うクドッチ。
こうして大笑いしている彼女を見ると、やはりこどもに見えた。
足裏の面が終わった後は、指の間だ。
足の指を一本ずつ広げてやって、股の間をほじくり返す。
「あぁぁひはっははひっはっはいはいあっはっっはは~~!!? ほんどダメえぇぇええっへっへっへっっへっへ!!」
クドッチは指の間も敏感だったらしく、甲高い声を上げてくれた。
いつの間にか、店内でお召し上がりだった客達も、食事の手を止めてコチラの様子をうかがっている。
お行儀悪くカウンターに素足を乗せて、客に足の裏をくすぐられて「やめてぇ~」と大笑いする制服の女子クルー。
横では別の客がこちらをチラチラと見ながら自分の注文を済ませている。
うむ。このハンバーガーショップは狂っている。
(完)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
某ハンバーガーショップのチーズが足の臭いに似ているという発想にて。
なんとチャットルームにて、『アーク放電制造(株)』のアーク様が、絵を描いてくださいました! 圧倒的感謝です!
かわいい絵柄がたまりません。隣で繰り広げられる漫才が愉快です。
私はブログ主様が前のブログで書かれていたガルパンのくすぐり小説が好きなのですが、再び掲載しては頂けないでしょうか?