昼休み、学校の踊り場にある自販機にパシらされた。

「はぁ……なんで、私ばっかりこんなこと」

 ため息が出る。
 マナカは友人に頼まれると嫌と言えない性格だった。
 肩まで伸びた髪の毛をいじりながら、自販機のボタンを順に押していく。

「えっと……、緑茶が2、ウーロン茶が1、イチゴ牛乳1、コーラ1……」

 ガコン、ガコン、と次々缶が落ちてくる。
 最後のコーラを頼んだ友人は「ペブシじゃないよ! 赤いパッケージに白い文字の方だよ!」と念を押していた。
 自販機に表示されたコーラの二択。マナカは迷わず、『ペブシ』でない方のボタンを押した。
 出てきた赤いコーラ缶を拾い上げようと手を伸ばしたそのときだった。

「きゃっ!?」

 突然手首をつかまれた。
 つかんでいるのは銀光りする腕だった。

「いっ!?」

 にゅるり、とその腕の奥から垂れ流れる液状の物体。
 自販機の前で人間の形に変形した。
 マナカは驚きのあまり、尻餅をついてしまった。
 全身銀光りする謎の男は、腰に手を当てて高笑いする。

「HAHAHA! 私はペブシマン! 君の手に持っているのは何かなぁ?」

「ひっ……あ、あ」

 顔のない銀男の問いに、マナカは声がでない。

「最後に取り出したそれは何かなぁ?」

「え……これ?」

 マナカは、自身の手を見やる。最後に取り出した缶。ペブシと長年競争している赤いコーラだ。

「ペブシを選ばなかった君に、お仕置きだ☆」

 マナカは目の前の光景がまったく理解できなかった。
 ペブシマンの両腕がどろりと液状化したかと思うと、触手のように変形した。

「い、いやぁぁっ!」

 マナカはくねくねと動く触手を眼前に絶叫した。
 腰を抜かしたマナカは逃げられない。複数に分裂した触手によって両手両足を絡め取られ、地面に押さえつけられた。手に持っていた赤いコーラ缶がはじけ飛んだ。
 と、次の瞬間、予想外の刺激が訪れ、

「――ぶっ!! あはっははっはっはっははっはっはははっ!!? なにぃぃぃい!? なんなのぁああっはっはっはっはっはっはっはっははっは~~!!!」

 マナカは盛大に吹きだして笑い出した。
 ペブシマンの体から新たに生え出た手が、マナカの体中をくすぐってくる。
 腋、脇腹、お腹。
 薄手の夏服だったこともあって、余計にくすぐったく感じた。

「あぁぁぁぁっはっはっはっは! やだぁぁ~~! やめてぇぇぇ~~」

 いつの間にか上履きと靴下も脱がされており、素足の足の裏をくすぐられる。

「二択でペブシを選ばない者に人権はないのさ☆」

 ペブシマンの腕は10本に分裂し、マナカの体中をまさぐっている。

「ふやっはっはっはっは! 違ううぅぅ~~ひっひっひっひ、私は頼まれただけでぇぇえぇえっはっはっはっはっははっは!!!」

 昼休みは終わりに近づいており、人通りがなかった。

「助けてぇぇぇえだれぁぁぁっはっはっはっはっはっはっは!!」

 いくら叫んでも誰も助けにこない。
 マナカは体中をねちねちと数分間くすぐり尽くされ、ようやく解放された。

「次は、きっとペブシコーラを買ってくれよな☆」

 ペブシマンはドロドロになって、自販機の中へ帰っていった。
「ふひ……ひへぇ……」
 マナカには乱れた制服を直す余裕も、自力で教室まで帰る体力も残っていなかった。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 ペプ○マンはおそらくくすぐりが上手いだろうという発想にて。

 なんとチャットルームにて、『CoCyo CoCyo (*'-')』の村長$様が、絵を描いてくださいました! 圧倒的感謝です!

コーラの化身に襲われる女子校生 ($様より)

 臨場感があって、想像以上に怖いでございます。





 ※実在するペ○シマンとは関係ありません。