「あの……足を、くすぐらせてもらってもいい?」
 中学二年の夏、僕は、家に遊びに来てくれた彼女にそうお願いしてみた。
 生まれてはじめてできた彼女だった。
 ソフトボール部のエースで、勉強もそこそこできて、誰に対してもやさしくて、かわいくて、自慢の彼女だった。
 本当に、好きだった。大切にしようと思った。だから、スキンシップを図りたかった。もっと近くに、彼女を感じていたかった。
 それなのに、
「え……くすぐりって……なに。……気持ち悪い」
 彼女の蔑むような目をはじめて見た。
 僕はショックだった。
 その日、僕達は破局した。

 彼女の表情が忘れられない。
 まるで汚物を見るような、視線。
 クラスでは変わらず、誰にでも笑顔を振りまいている。
 僕は、彼女の目が怖くて見られない。
 さらにショックだったのは、彼女がクラスの女子たちと一緒に僕を嘲笑していることだった。
 3~4人の女子が彼女の机の周りに集まって、彼女の話を聞き、手を叩いて笑っている。
 僕の名前を出して「変態」だの「きもい」だの、汚い単語が飛び交っていた。
 彼女の口から、そんな汚い言葉、聞きたくなかった。

 僕はしだいに学校へ行きづらくなり、自分の部屋に閉じこもるようになった。

 彼女と別れて、ひと月ほど経ったある日、大学生の兄が心配して僕の部屋を訪ねてきてくれた。
 兄は僕に優しい言葉をかけてくれた。
 僕は泣いた。
 兄に、彼女とのことを赤裸々に告白した。
「お前、くすぐりフェチだったんだな」
「くすぐりフェチ?」
 僕は、兄の言葉にピンとこなかった。
 兄は優しく説明してくれたが、フェティシズムというのが、僕にはよくわからなかった。
 兄は「いいんだよ」と僕の頭をなでた。兄の優しさが身に染みた。
 話をしたおかげで、ずいぶんと楽になった。
「クラス写真はあるか?」
「え?」
 兄の唐突な質問に、僕は聞き返した。
 兄は笑っていた。優しい笑みだった。
「その別れた彼女と、お前を馬鹿にしたって女子がどの子か、教えてくれないか?」

 それから一週間あまりが過ぎた。
 生活は何も変わっていない。
 今日も本当なら学校だ……。
 朝は辛くて起きられない。
 正午も近くなって、スマホが三度目の目覚ましアラームを鳴らした。手に取った。そのとき、身に覚えのない動画ファイルが貼られていることに気がついた。
「なんだろ……?」
 ふと、昨晩のことを思い出す。お風呂上がりに、兄が僕のスマホを触っていた。「便利だろ? これ」といってすぐに返してくれたが、少し不審だった。
 きっと兄が入れたのだろう。
 僕はそう思い、動画を再生した。……


(つづく)
 

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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 時すでに遅しって状況、結構好きです。