くすぐり作文晒し場

カワイイ女の子の靴下脱がしーの足の裏をコチョコチョしちゃう系小説投稿ブログ! 本番行為は一切無しなので、健全な18歳児でも安心してお楽しみいただけます!

2014年07月

宮河家の濡れ衣

「ちょっとあんた達! 何すんのよ!」

 放課後の空き教室にて、たどたどしい口調で激昂するのは宮河ひかげ(みやかわ ひかげ)。ごくごく普通の小学四年生だと自負しているが、オタクの姉の浪費癖のために家計が圧迫され、質素倹約生活(貧乏生活)を余儀なくされている。
 午後四時のタイムセールに間に合うように急いで校舎から出たところを、突然同じクラスの男子五人組に取り押さえられ、空き教室まで連行された。抗う間もなく椅子に無理やり座らされたひかげは、靴と靴下を脱がされ、大きく開脚させられた足首を、縄跳びで天井から水平に吊り下げられたモップにくくりつけられた。両手は背もたれの後ろで縄跳びで縛り付けられた。
 ひかげは、椅子の座部の上でV字開脚をした状態で、男子達をにらみつけた。

「いったい何なのよ! こんな恥ずかしい格好させてぇ!」
 語尾を強め、怒りを露にするひかげであったが、言い方があざとく聞こえ、あまり迫力がない。

「宮河、お前、俺達の給食費返せよ」
 男子の一人が言う。
 ひかげは一瞬ぽかんとして、
「はあ?」
 怒気のこもった声とともに顔をゆがめた。
「ネタはあがってんだよ!」
 別の男子が言う。
「さっき職員室で先生達が話してるのが聞こえたんだ。うちのクラスの給食費がなくなったって。宮河。お前が盗ったんだろ!」
「は……っ」
 ひかげは、怒りのあまり言葉につまった。
 下唇が震えて、うまく声が出せない。
「宮河。給食費返せよ」
「いくら貧乏だからって、他人の金盗んなってんだよな」
「だから貧乏人がいるクラスは嫌なんだよ」
 男子達は口々に悪態をつく。
 ひかげはきゅっと唇をかんだ。気付くと目尻に涙が溜まっていた。

 払えるのに払わないような親がいるときに、お姉ちゃんは毎日一生懸命働いて、私に給食費もたせてくれてるのにっ!

 ひかげは、姉までが侮辱されているようで悔しかった。

「わ、わ、私っ! 盗ってないもんっ!!」
 ひかげは声を震わせて叫んだ。今にも男子達に飛びかかりたかったが、両手両足を縛りつけた縄跳びがそれを許さない。

「おいおい白切る気かよ……」
「嘘つきで泥棒とか最悪じゃね?」
「宮河。正直に言うなら今のうちだぞ?」
 男子達は呆れたという風に笑った。
 そんな態度が余計にひかげの神経を逆なでする。

「盗ってないって言ってんじゃん!!!」
 ひかげは金切り声で叫んだ。

「しかたねーな。お前ら、やるぞ」
「うしっ」「よっしゃ」「おー」「待ってました」
 男子達は口々に大声で気合を入れた。
 その熱に、ひかげはびくっと首をすくめた。

●●●

「な……、何よっ!?」
 ひかげは、意識的に強めに叫んだ。
 意味深な笑みを浮かべて近づいてくる男子達が不気味で、怖かったのだ。

 脚は大きくVの字に開かれ、下着と両足が男子に向けられている。
 下着はもちろん、普段他人にめったに見せることのない足の裏がさらされていることにも、恥ずかしさを感じる。

「宮河。泥棒がどんだけ悪いことか、体で教えてやるよ」
 言うと男子達は、ゆっくりとひかげの足に手を伸ばす。
「だから盗ってないって――きゃはっ!!?」
 突然の予期せぬ刺激に、くんと身をよじるひかげ。男子達は、ひかげの両足の裏をカリカリとくすぐりはじめたのだ。

「きゃはははははははっ!!? なっ、何っ!? やはははははっ!! やめっ、やめてよぉ~~」

 反射的に膝に力が入るものの、モップでしっかりと足首が固定されているため、足をひっこめることができない。

「いやっはっはっはっ!? やめてっ!! やめてってばぁぁぁっはははははははははははははっ!!!」

 ひかげは、自分でも風呂以外で触れることのない足の裏を、男子達に激しくくすぐられ、恥ずかしくてたまらなかった。
 男子達は、一心不乱にひかげの足の裏に指を走らせている。

「うああぁああっはっはっはっはっはっ!!? なにぃぃぃっひっひっひ、なんなのぉぉ~~はっはっは、なんか言ってよぉぉ~~っふぁっはっはっははっはっはっ!!!」

 ひかげの足の指がびくびくと痙攣するように動く。
 激しい刺激により、ひかげの足の裏はあっという間に血色の良い桃色に変化した。

「宮河。本当はお前が給食費盗ったんだろ? 正直に言えよ。言ったらやめてやるよ」
 リーダー格の男子が、ひかげの右足の指と指の間に、自身の手の指をねじ込みながら言った。

「くぁっはっはっはっはっ!!! そ、そんなぁぁぁははははははははっ!! 盗ってないぃぃっひっひっひっひ!! 盗ってないぃぃ~~っひっひっひっひ~~!」

 ひかげは必死に首を左右に振った。
 左サイドアップポニーテールが激しく揺れ動く。
 開きっぱなしの口からは涎が滴り、ぎゅっと瞑った目尻からはとめどなく涙があふれてくる。

「強情な奴だな。おい! 秘密兵器もってこいよ」
「やめてぇぇぇ~~へっひっひひ、秘密っ、秘密兵器って何ぃぃぃっひっひっひっひ~~っ!!」
 笑いすぎて喉が痛い。
 ひかげには、男子達の楽しそうな様子が恐ろしく感じられた。
 一人の男子がくすぐる手を止め、机においてあった鞄からシリコンでできたシャンプーブラシを取り出した。
 リーダー格の男子がシャンプーブラシを受け取ると、
「宮河~~? これが見えるか~~?」
 いやらしい笑みを浮かべ、ひかげに見せ付けた。

「ひぃぃ~~っひっひっひっ!!!? な……っ!!! まひゃっ、まさかぁぁ~~っはははははっ!! そ、そんなのでっ!? ふぁっはっは、絶対っ、っひっひ、絶対やだ!! やだやだ絶対やだぁぁぁっはっはっははっ!!」

 ひかげは必死に男子を見つめ、首を左右に小刻みに振り、拒否を示した。
 流れ出る涙が開きっぱなしの口に入り、しょっぱかった。

「やめるわけないじゃん」
 リーダー格の男子は無慈悲に言うと、シャンプーブラシでごしごしとひかげの右足の裏を擦り始めた。

「はぎゃっ!!!? ――ぎょ、っ、ゎはぁぁぁぁぁっはっはっはっははっ!!!? 嫌あぁああぁぁぁはははははははっ、駄目ぇぇぇえひぇひぇひひひひひひひひひひ!!!」

 これまでの刺激とは次元が違った。
 シリコンの硬すぎず、柔らかすぎない絶妙な触感がたまらないくすぐったさを生み出す。足の裏の皮膚をぎりぎり傷つけない程度の、痛みとも痒みとも判別できないような刺激が脳にびりびりと伝わってくる。

「うぎひひひひひひひひひひひっ!!! ひぃぃぃ~~~っひっひっひひ、あぁぁぁあああああっは、は、は、死ぬっ!!!! 死んじゃぅぅぅぅ~~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 ひかげは叫んだ。
 頭の中が、くすぐったいという感覚、「笑え」という命令に支配され、何も考えることができない。

宮河ひかげ($様作)

「ほらよ。宮河。泥棒ってのはこんぐらい重罪なんだぞ? わかったら自分の罪を認めて謝れよ」
 リーダー格の男子が言う。
 ひかげは必死に耳から入った男子の言葉を解読して、
「ふぎゃぁぁあっはっはっはっはっはっは!!! 違うぅぅぅぅっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! 私じゃないぃぃぃぃっひっひっひっひ、ぎぃぃ~~っひひっひっひ!!」
 全身全霊で否定した。

「じゃあ、謝るまでくすぐってやろうぜ」
 男子達は猛る。
「いやぁぁぁっ!!! いやああ~~っはっはっはっはっはっは、ふぎぃぃ!!!」

 ひかげはその後、異変に気付いた親友えりかとゆきなが助けに到着するまで、延々と笑わされるのであった。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 本文中に挿入いたしました、ひかげちゃんのカワイらしいV字開脚イラスト! 『CoCyo CoCyo』の村長$様に描いていただいた絵に、小説をつけさせていただきました。モップでの開脚拘束、たまんないですね! チャットルームにて、インスピレーションが最高潮に達し、今朝一気に書いてしまいました。万歳!

K女の擽鬼(りゃっき)

「レン。あの女が来てる」
 T高校第二共用棟最上階生徒会執行部室に入るや否や、不満げな声を上げる小林凛(こばやしりん)。本校の生徒会書記である。
「やあ凛。あの女ってどの女かな?」
 机上の書類から目を上げ、佐藤蓮(さとうれん)は問い返す。
「……とぼけんなよ。わかるじゃん。あいつだよ。面倒くせぇ……」

「り~んちゃんよぉ~、誰がめんどいやってぇ~?」

 身長151cm程度の凛よりもさらに8cmほど背の低い色白の西洋人形のような少女が入室する。
 不敵な笑みを浮かべた少女は、すばやく凛の背後に回り、凛の脇腹に指を這わせた。
「ぶひゃっ!? ちょまっ、だひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! うにょぉぉぉ~~っほっほっほっ、やめで……っぎゃははははははは!!」
 凛は身をよじり、涙を流しながらその場に倒れこんだ。
 少女は、両手を凛の脇腹に押し当てたまま馬乗りになり、くすぐり続ける。
「おうおう、相変わらず弱いやっちゃなぁ~」
「ぎゃははははははっちょっ!! やめっ、だめっ、しつこいっ!! しつこいってぇぇぇっひゃっひゃっひゃ」

「これはこれはスズキ総長。ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
 蓮は立ち上がり、来客用の高級ソファを手のひらで示した。
「ようやく生徒会長(かしら)が板についてきたようやんなぁ? 佐藤会長?」
 少女――K女学園生徒会長兼学生自治団総長、鈴木玲奈(すずきれいな)――はニヤリと口角を上げると、勢いよく凛の上から飛び降り、そのままどすんとソファへ身体を投げた。
「凛ー、お茶ー」
 玲奈は脚を投げ出すように正面のテーブルの上で組みながら、間延びした声を上げた。ローファーのかかとが、コチとテーブルの上で音を立てた。玲奈の着ているK女学園の制服はかなりスカート丈が短いため、下着が見えそうになる。
 凛は、床に四つんばいになって、はぁはぁと息を切らしている。
「凛ーっ!」
 玲奈は右目のモノクルを外し白いハンカチで拭きながら声を張った。
「……はぁ……ちょっとは、休ませろっての……このアマ……」
 凛はいまいましげにつぶやき立ち上がる。
「会長、書記の言葉遣いちゃんと指導しときやー」
 玲奈は鼻にかかった声で小姑のように言いながら、モノクルに息を吹きかける。
「ハハッ、失礼。凛? お客様にお茶を」
 蓮は、玲奈の正面のソファに腰掛けた。
「鈴木総長は、この季節でもアイスティーがよろしいんですよね?」
「ノンシュガー、レモン2、茶葉1.5ぉー」
「だって。凛。頼むよ? ハハッ」
 蓮が言うと、凛はしぶしぶという風に隣の給湯室へと姿を消した。

「さて……」
「あの可愛い一年は今日おらんの?」
 蓮の言葉にかぶせるように玲奈が問う。
「……どの一年生のことですかね? ここに出入りする一年生は可愛い子しかいませんので」
「副会長」
「ああ、彼女なら今、心愛(ここな)と一緒にジャーナル部の方にいますよ」
「データバンクと? なんで?」
「校内で未調教の子達のピックアップをしてもらってます」
 蓮の答えに、玲奈は驚いたように目を見開いた。
「はあっ!? まだここ全校生徒奴隷化終わっとらんの!? 会長就任してどんだけ経っとんね、いっくらなんでも遅すぎやろ、おま……っ」
 玲奈はそこで一旦口をつぐんで、
「佐藤生徒会長さんよ」
 一応「お前」呼ばわりを訂正した。
「ハハッ。僕は鈴木さんと違って、じっくり調教する過程を楽しみたいタイプなんですよ」
「まあええけどやなぁ……はよ終わらせてくれな、ウチの選択肢がいつまでも広がらんやん。どんだけ待ちゃぁええの?」
 玲奈はため息をつき、脚を組み直した。
「鈴木さんにお送りした本校の調教済み生徒名簿はかなり充実させたつもりですが」
「穴だらけやん、あれぇ! 課金前で選択項目が部分的にグレーになっとる感じ……見えとるのに選べんストレス! ウチはお宅さんと違って、全部駒揃ってから選ぶ過程を楽しみたいタイプなんやっちゅーに」
「全校生徒となると、調教にはまだ時間がかかりそうですね」
「そうなんや……まあ、しばらくは古参メンバーおるけぇ、ええけどやなぁ」

 凛が戻ってきて、そっとアイスティーの入ったグラスを玲奈の前へ置いた。
 玲奈は一口飲んで、
「さ、取引の話しよか」
 ふーっと天井をあおいだ。
「前回同様、副会長とデータバンクの二人」
 玲奈の言葉に、蓮は頷き、
「鈴木さん、気に入ってますね。レンタル日数はどうしましょう?」
「一泊二日」
「よろしいんですか?」
「今回、こっちの製品がそんなたいしたもんやないけぇ」
「いえいえ、ありがとうございます」
 蓮が軽く頭を下げると、玲奈はポケットから、一対の白い手袋をとりだし、テーブルの上へ放った。
「『擽力増強グローブ』」
 蓮は受け取ると、にやりと笑みをこぼす。
「試すんやろ?」
「もちろん」
「場所は?」
「この下の階、会議室Cを空けてます」
「りょーかい」
 玲奈は胸ポケットから携帯を取り出し、ソファにふんぞり返る。
「あー、モリー? 予定通り。あがっといで」

◆◆◆

 T高校文化祭の一件以来、K女学園は大切な取引相手となっていた。
 何を隠そう、K女学園のトップに君臨する鈴木玲奈は蓮と同じく極度のくすぐりフェチ。しかも、くすぐった人間をその指の虜にする能力にかけては、蓮をはるかに凌ぐ、凄腕のくすぐり師であった。
 文化祭でT高校側がK女学園の女子生徒に手を出してしまったことを発端に一時対立を生んだものの、結果両者とも貴重な情報を得ることができた。

 一度あるくすぐり師によって調教を受けた者は、他のくすぐり師の調教を受けない。

 蓮の指に調教された者はいくら玲奈がくすぐってもその虜とはならず、玲奈の指に調教された者は蓮がいくらくすぐってもその虜とはならなかったのである。

 現在二人は、くすぐり器具やくすぐり奴隷の貸し借り等の、協力関係にある。相手から提供される「決してこちらの指を受け入れることのできないくすぐり奴隷」は、常にこちらへ拒絶反応を示し続けてくれる。絶対に落とせない奴隷達を無理やりにくすぐり笑わせる行為は、互いのS欲求を満たすのに役立った。

◆◆◆

 T高校第二共用棟会議室Cの中央に、黒いセーラー服を着た二人の少女が大の字で並べて拘束された。
 二人とも左胸に名札をつけており、向かって左が『福田(ふくだ)』、右が『西村(にしむら)』とある。
 身長約146cmの福田は、前髪ぱっつんの耳だしボブヘアで、ふて腐れたようにつんとそっぽを向いている。小さな目とふっくらとした頬が、小動物のような印象を際立たせている。
 身長約148cmの西村は、1000円カットで粗く切っただけのようなセミロングで、ボーっと宙を眺めている。能面のような顔立ちが、日本人形のような印象を際立たせている。
 制服の胸に付いたリボンは白で、靴下と運動靴も白に指定されているようだ。

 二人の少女の拘束を終えた黒服女子集団は、K女学園の参謀、森杏(もりあんず)の指示で、壁際へと移動し整列した。
「総長、セッティングが完了いたしました」
「うむ」
 杏の透明感のある声は、か細くとも室内全員の耳を一瞬でひきつける魅力を持つ。身長157cmほどの華奢すぎる体躯を隠すように、ぶかぶかの白衣を羽織っている。
「これはどこの制服かな?」
 蓮は疑問を口にした。
「E中学の冬服です。糞野郎」
 杏は丁寧な口調で言った。
「杏。糞野郎とはご挨拶だね」
 言いながら蓮は、杏の細すぎる腰を白衣の上から両手でくにっと掴んだ。
「ひきゃっ!!? な……、さっ、触らないでください!」
「杏の声は相変わらずかわいいね」
 もがく杏を尻目に蓮は、指をくりくりと動かし始める。
「きゃっ、きゃはっ!!? きゃはははははっ!! やぁっ、いやぁ! やめくださいっ、変態! 糞野郎っ! 総長っ、やめさせ……っきゃははははははっ!!」
 甲高い声で笑いながら、両手を蓮の顔へ押し当てて嫌悪感を示す杏。
「おっと杏、逃げたらだめだよ? こっちはさっきそちらの総長さんに、うちの凛をやられたばかりだからね。取引外での貸し借りは早めに清算しておかないと。……鈴木総長さん、構いませんよね?」
 蓮が指を杏の腋や脇腹へ滑らせながら言うと、
「あぁ、てきとーに」
 玲奈は、拘束された二人の中学生の顔を覗き込みながら、興味なさそうに言い放った。
「きゃはははっ!? 総長ぉぉ~~っはっはっはっはっ! 助けてくださいっ! ひひひひひひ、私っ……この人嫌いですっ! 嫌ぁぁははははははっ」
 杏は必死に腋を閉じ、地団太を踏んで暴れる。
 杏はすでに玲奈の指に落ちているため、蓮の指で落ちることはない。それゆえに示される拒絶反応が、蓮を高揚させた。

「さて……」
 蓮は杏を解放すると、玲奈の隣に並んだ。杏は息を切らして蓮をにらみつけている。
「ここ来る途中、E中張って、校門から出てくる中学生の中から見つけたんよ」
 玲奈は、杏を気遣うそぶりも見せず、二人の中学生の説明を始めた。
「こっちが擽力1」
 玲奈は福田を指す。
「こっちが擽感1」
 そして隣の西村を指す。
「くすぐるのが下手なやつと、くすぐられるのに強いやつ、両方見つけるんは骨やったわ」
 玲奈はふふんと笑いながら、自身のモノクルを人差し指で軽く押し上げた。
「あ、そのモノクル、擽力も表示されるようになったんですか」
「こないだ美咲(みさき)借りたときになー。若干改良したんよ」
 もともと玲奈のモノクルには、レンズ越しに見た人間の『擽感:擽られ感度』を表示する機能があった。今回、新たな表示項目として『擽力:擽り力』が追加されたらしい。

「森ー? そんなところでうずくまっとらんで、はよ説明してー」
 玲奈はモノクルの新機能を自慢して満足したのか、杏に説明を丸投げした。
「……はぁ、はぁ……わ、わか、ってます」
 森は、立ち上がると、一旦蓮をじろりとにらみつけてから、用箋挟を構えた。
「今回提供させていただく『擽力増強グローブ』ですが、名前の通り、手にはめて他者をくすぐっていただきますと、本来の擽力以上の力を出すことができます。えー、山本(やまもと)美咲氏の作成した擽力表に照らしますと、初期値+8~+10程度の擽力増強が期待できます」
「ハハッ、それはすごいn」
「喋らないでください。糞野郎」
 杏は蓮の感嘆をかき消すように言う。蓮は肩をすくめた。
「『擽力増強グローブ』の効果を確認いただく実験では、二種類の女子中学生を使用します。それぞれ擽力1、擽感1を特徴とし、他ステータスは無視をして選出しています。まず、総長もしくは糞野郎に擽力1の女子中学生を落としていただき、擽感1の女子中学生をくすぐらせます。そこで擽力1のくすぐりで擽感1の身体がどの程度の反応を示すのかを確認していただいた上で、今度は『擽力増強グローブ』をはめた擽力1の女子生徒に、擽感1の女子生徒をくすぐらせます。『擽力増強グローブ』の効果により、擽力1の女子生徒の擽力は10程度に増強されることが期待されます。擽力表の表記『擽力1:くすぐりに弱いと自己認識している者を驚かせる程度』『擽力10:くすぐりに強いと自己認識している者を笑わせる程度』から、『擽力増強グローブ』の効果はかなり顕著な反応として確認いただけると思います。実験終了後、使用した女子中学生二名は自由にしていただいて結構です」
 言い終えると、杏は一歩下がる。

「つーわけで、どっち取るか決めよや」
 玲奈は拘束された女子中学生を指差して言った。
「僕はもう喋っていいのかな?」
 蓮は杏を見る。杏は黙って蓮をにらんでいる。
「あー、森はもう出番終わりやけぇ、気にせんで。それより、せっかく二人も中学生おるんやけぇ、おたくとウチで分けよや」
「そうですか。じゃあ……、僕としては、こっちのやさぐれ気味の福田さんが欲しいですね」
「ふふん。らしいなぁ。反抗的な奴を屈服させたいっちゅーいつもの変態趣味かー? ほんなら、ウチはこっちの西村ちゃんか。実験終了と同時に、壊しちゃるけぇなー」
 玲奈はぺろりと舌なめずりをした。
 当の中学生二人は、まったく状況が飲み込めない様子だった。

「最初は佐藤会長さんからやんな。あんま時間かけすぎんといてや?」
「まあ、ほどほどに遊ばせてもらいますよ」
「ほどほど、な。森ー? 椅子ー」
 玲奈は杏の持ってきた肘掛け椅子にどかっと腰掛け、脚を組んだ。
 頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる玲奈を尻目に、蓮は大の字に寝そべる女子中学生のもとへ一歩足を進めた。

●●●

「君、下の名前は?」
 蓮は大の字仰向けに拘束された福田に問いかけた。
「……あんた、誰?」
 福田はつんとそっぽを向いたまましばらく黙っていたが、ぼそりと問い返した。
「僕は佐藤蓮。T高の生徒会長さ」
「……キモ」
 福田は憮然としてつぶやく。
「ハハッ、ひどく嫌われたものだね。僕は君と仲良くなりたいんだけど、駄目かな?」
 福田は答えない。
「じゃあまず下の名前を教えてもらって、距離を縮めるところからはじめようか」

 言うと蓮は、くっと両手十本の指を福田の脇腹へつきたてた。
「うひっ!?」
 びくんと福田の身体がのけぞった。
「おや? 案外くすぐったがり屋さんなのかな?」
「……っ!!!」
 一気に顔を紅潮させ、ひくひくと頬を上下させる福田。
「下の名前を教えてくれるかな?」
「……――ほ、よ」
 観念したように福田は口を小さく動かせた。
「……花帆(かほ)、よ」
 福田の声は震えていた。
「福田花帆ちゃんだね?」
 こくりと頷く花帆。

「よく言えたね、ご褒美だよ」
 蓮は、花帆の脇腹でわしゃわしゃと十本の指を蠢かせた。

「んはっ!!!? ぶぁっはっはっはっはっはっはっ!!?」
 花帆はすっかり油断していたのか、驚いたように目を見開き笑い始めた。
「いやっはっはっはっ、なっ!! 嘘つきぃぃっ、名前言ったのにぃぃっひっひっひっひっひ~~!!」

「別に僕は、『名前を教えてくれたらくすぐらない』なんて言ってないよ?」
 言いながら蓮は、指先をぐりぐりと花帆のあばらへ押し込んだ。
「うひっ!!! やはははははははっ!! だめっ、やはっ!? やみて~~っはっはっはっは」
「『やみて』ってかわいいね。花帆」
 指でぐりぐりと骨をほぐすようにくすぐる。
「ぎゃはははははははっ!!! やっ、言うなぁぁぁっはっはっはっはっは~~っ」

 蓮は蠢く指を徐々に上方へ移動させていく。
「さて、花帆は何年生かな?」
「やははははははっ!! うわっはっはっは」
 ただ笑い続ける花帆。
「ほら、早く言わないと弱そうな腋の下へ到達しちゃうよ?」
 蓮は指の動きをやや抑えいじわるく言う。
「やはははっ……にっ、二年!」
 花帆は首を左右に振りながら叫んだ。ぎゅっと閉じられた目には涙が浮かんでいる。

「そっか。じゃあ来年受験だね」
 言うと蓮は指の動きを速めながら、
「おっと、腋の下に到達しちゃったね」
 花帆の腋の下を勢いよくくすぐった。
「ぎゃっ、だぁぁっはっはっははっはっ!!!? にゃっ、ひぎゃぁぁっはっははははははははっ」
 花帆は首を上下に振り乱して笑う。
 目を見開き、蓮をにらみつける。が、口元が思い切り笑っているのでまったく怖くない。
「だから『言ったらやめる』とは言ってないよ? 花帆は早とちりさんなんだね」
「だっはっはっはっはっ!! やめろぉぉ~~ははははははははははっ!!」
 花帆は背中を浮かせて身体をのけぞり、笑わされつづけた。

 しばらく花帆の腋をくすぐった蓮は、花帆の足下へと移動した。
「どう、花帆? 苦しいかい?」
 花帆は体中汗だくで、顔の横には涙の筋が跡になっている。
「……うぅ……苦しいょぅ」
「だいぶ素直になってきたね。えらいよ花帆」
 蓮は笑いながら、花帆の運動靴を両足から脱がした。
 白い靴下を履いた足の裏は、薄灰色に汚れ、指の形がぼんやりと見えた。

「花帆、部活はやってるの?」
「……ぅう」
 花帆は答えず、涙を流した。
 蓮は、花帆の両足の裏、土踏まずのアーチの部分をこそこそと人差し指でくすぐった。
「きゃはははっ!!!? あはっ、いひゃあぁっ、バっははははっ、バドミントン!」
「そっか」
 蓮はかりかりと、指の動きを速める。
「いやっはっはっはっはっ!! やめっ、ひっひっひ、やだぁぁぁははははははっ」
 ぶんぶんと左右に首を振って笑う花帆。
「練習きつい?」
「やっはっはっはっはっ!! あんまりっ!! きっひひひひ~~」
 靴下の上からでも花帆の足の指がぎゅっと縮こまっているのがわかる。
 蓮は、花帆の足の裏をくすぐりながら、違和感を覚えた。足裏の筋肉のさわり心地が、運動を日常的にやっているような印象を受けないことに加えて、
「今日平日だよね? 部活はなかったの?」
「っ!!! いやっはっはっはっは!! う……はははははははっ」
 花帆はわかりやすく動揺を見せ、笑い続ける。
 蓮は両手の指を三本ずつに増やし、花帆の足の裏を掻き毟った。
「だひゃっ!!? ぎゃははははははははっ!!! サボった! サボったあぁあっはっはっはっはっ! ごめんなさいぃぃっひっひっひっひっひっひ~~!」
 花帆は足をくねくねと左右へ振り動かしながら泣き叫んだ。
「別に僕に謝ってくれなくてもいいんだけどね」

 蓮は微笑むと、花帆の両足から靴下をするりと脱がし取った。
 エジプト型の正常足。
 親指の付け根のふくらみが少し黄色くなって乾燥しており、かかとの部分は一部皮がむけかかっている。
 足の手入れはまったくされていないようだ。

 蓮は花帆の両方の素足に指をあて、かかとから一気になぞり上げた。
「うひゃぁぁんっ!!?」
 花帆が甲高い声を上げる。目からはとめどなく涙があふれ出す。
「どうしたの? 花帆。やめて欲しいかい?」
 蓮は、花帆の両素足の土踏まずの上のふくらみ部分に、それぞれ四本の指を突き立てて言う。
「うふっ……ひ、や、やめて、ください」
 花帆は、搾り出すような声で懇願した。
「やっと敬語が使えたね。えらいよ。花帆」
 言うと蓮は、がりがりと計八本の指で花帆の素足をひっかいた。
「がはっ!!? あはっはっはっはっはっはっ!!! だぁぁぁ~っひゃはははははははは!!」
 花帆の足指がびっくりしたように反り返る。と、花帆は泡を吹かせて笑い出した。
「がははははっはっ!! げほっ、やめっ!! やめてって、ぎぃぃっひっひっひっひ、やめてってぇぇぇぇだひゃはははははははははっ!!」
 花帆の口元からだらだらと涎が流れ出る。
「僕は『やめて欲しいならやめる』とは言ってないよ」
 蓮は笑いながら、花帆の暴れる足指の付け根をほじくるようにくすぐる。
「うひっ、ぎぃぃっひっひっひ、もうやだぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!! 助けてぇえぇぇっはっはっはっはっはっはっ」
 花帆の身体がはちきれんばかりにのけぞる。脚をがにまたに開いて膝をがくがくと揺らし、飛び上がらんばかりである。
 しかし、拘束具のゴム縄が花帆の手足を締め付け、花帆を逃がさない。
「だぁぁぁぁっはっはっはっはっはっ!! ぎにゃぁぁっ」

「どう? 花帆、そろそろやみつきになってきたんじゃないかい?」
 蓮は、花帆の右足の指を押さえ、反らせた素足の裏をくすぐりながら言う。
「ぎにゃっ、あぁぁ~~っはっはっはっははっは!!?」
 花帆は目を見開いて大笑いする。
「僕の指、もっと欲しくないかい?」
 反らせた足の指の付け根をかりかりとひっかく。
「ぐひひひひひひひっ!!! いぃぃぃ~~っひっひっひっひっひ!!!」
 花帆は舌を出して笑い悶える。
 かなり限界の様子で、顔は涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃだ。
「まだ素直になれないかな? なら、やめちゃってもいいかな」
 蓮は言いながら、花帆の右足の縁の部分を両手の指先でさわさわとくすぐった。
「ふわっはっはっはっ!!! ひゃっ、ひゃめっ……っひっひひっひ」
 花帆の身体がびくびくと痙攣する。
 蓮は徐々に、指の動きを弱めていく。
「ひ、ひひひっ……くふ、ふひひひ……」
 花帆は悩ましく眉を寄せ、ぐっと歯を食いしばった。
 ぎゅっと目を閉じ、何かを耐え忍ぶような花帆の表情を見て、蓮は唐突に花帆のかかとを十本の指でがりがりと一気に掻き毟った。
「ぶぎゃひゃはははははははははっ!!!! あぎゃぁぁあっはっはっははっ、やめないでっ!!! ぎゃははははっ、続けてっ、ぎひひひひひひひひっ!!! お願いしますぅぅぅ、ぎゃっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 髪の毛をぶんぶんと振り乱しながら花帆は叫んだ。
 蓮は、もう何人目になるかわからない奴隷の誕生に、笑みを浮かべた。

「おめでと」
 玲奈からは、ぺち、ぺち、と小ばかにしたような拍手が送られた。

◆◆◆

「ああぁぁぁっ!!」
 いきなり蓮が指を止めたため、花帆が落胆の混じった悲鳴を上げた。
「やぁっ!! れ、蓮様っ! やめないでくださいっ!!」
 すっかり落ちてしまったらしい花帆は、涙ながらに蓮を見つめた。
「花帆」
「はい」
 即答。さきほどまでの反抗的な態度とは打って変わって、従順な態度を示す花帆。
「僕の指が欲しいかい?」
「欲しいです!」
「なら、ちょっと実験に協力して欲しいんだ」
「…………」
 考えるように眉を寄せる花帆。
「協力してくれないなら、僕の指はあげないよ?」
 途端、花帆は泣きそうに瞳を潤ませる。
「……実験が終わったら、絶対に、蓮様……くすぐってくれますか?」
「約束しよう」

 花帆の協力の意思を確認すると、玲奈が顎でK女黒服女子へ指示する。
 黒服女子達は、花帆の拘束を解いた。

「あの、……蓮様」
 花帆は身体を起こし、脱がされた運動靴を履き直しながら慎ましい声を出した。
「なんだい? 花帆」
「その……、先に下着を取り替えても、いいでしょうか。……その、……びちょびちょに、濡れちゃって」
 花帆はぎゅっとスカートの裾を握り締め、赤面して言った。
「はっ! か~~いちょ~~っ、女子中学生に何言わせとんね!」
 後ろから、玲奈がご満悦の様子で囃した。

●●●

「西村、……さん?」
 着替えを終えた花帆は、大の字に拘束された西村の前に立った。
 西村は、ぼーっと花帆の顔を見上げると、目をぱちくりさせた。
「……え?」
「全然喋ったことないけど、あなたを笑わせないといけないみたいだから、協力して」
 花帆は、ちらちらと蓮の方を気にしながら不機嫌そうに言う。
「え?」
 西村はとぼけた表情で聞き返した。
 眠そうな目は、まったく覇気がない。
 花帆はちっと舌打ちをした。花帆にとっては、会話がスムーズに進まない西村の性格、何事にもやる気がないように見える態度が気に入らないのだろう。

 花帆と西村は同学年だが別のクラスで、一度も会話したことはないのだそうだ。
 クラスも部活も違い、性格も真反対の花帆と西村に接点がないのはごく当然であろう。

「部活、なんかやってるの?」
 蓮の真似をしてか、花帆は西村に問うた。
「……え?」
 西村は花帆の質問全部を聞き返している。花帆はため息をついた。
「これからあなたをくすぐるから」
 花帆は西村の聞き返しには答えず、両手を西村の腋の下へと伸ばした。

「こ、こちょこちょ」
 花帆は言いながら指を動かす。
 が、さすが擽力1。西村はぴくりとも反応しない。
「くすぐったくないの?」
 しばらくくすぐった花帆は西村に問う。
「……え?」
 再び聞き返す西村。
「イラッ」
 口で言ってしまうほど、花帆は苛立った様子だ。

「ふ、あいつアホやな」
 玲奈は壁際で椅子にふんぞり返ったまま、隣の蓮に小声でささやく。
「あんなもんくすぐったいわけないやん。指先で服のゴミ落としよるだけやないかい」
「まぁまぁ鈴木さん。擽力1ですから」
 蓮もフォローするが、内心「駄目だこいつ」と見限っていた。
 花帆はただ、西村の着ている服の上で指の関節を動かしているだけだ。くすぐる対象がまったく把握できていない上に、力加減が全然駄目だ。あれはくすぐりではなく、指の運動だ。指の運動をしている先に、偶然西村の腋があるに過ぎない。

 花帆にもプライドがあるようで、なんとか西村を笑わせようと画策しているようだ。
 西村の足下へ移った花帆は、そっと西村の運動靴を脱がす。
「え? 何?」
 西村は急に首を起こし、足下の花帆をにらんだ。
 面倒くさそうな声に、花帆のプライドは余計に傷ついたようだ。
「だからくすぐるっていってんじゃん」
「え?」
 西村の侮蔑を含んだようにも聞こえるやる気のない声に、花帆は再び舌打ちをした。
 花帆は反撃のつもりなのか、
「西村さん、ちょっと足、臭うよ? ちゃんと手入れしてんの?」

「「お前が言うな」」
 思わずハモる蓮と玲奈。

 西村も、花帆の発言は気に障ったのか、あからさまに眉を寄せた。
「別に臭くないよ」
「へぇ、西村さん自分の足のにおい嗅いでるんだぁ~~、きっもーい」
 花帆は鼻にかかった声で言う。西村は呆れたという表情で、そっぽを向いた。

「はよせーや!」
 女子中学生のノリにイラついたのか、玲奈が怒鳴った。
 びくっと肩を震わせる花帆。西村の方は、無反応にも見えたが、ワンテンポ遅れて視線を玲奈の方へ向けて反応を示した。肝が据わっている。
 玲奈は用心棒のように椅子の上で膝を立てており、ギラリと光る眼光は、かなりの迫力であった。
「花帆? 君らのやりとりは実験上あまり意味がないんだ。そこやったら、もう次進んでもらえるかな?」
 蓮は苦笑しながら諭すように言った。
「は、はい! す、す、すいませんっ」
 花帆は大声で謝ると、西村のうっすら糸くずのついた白い靴下の上に指をあてた。
「こちょこちょ」
 口に出す花帆。
 しかし、西村は足下を見ようともせず、無反応だ。

 こんなもんか、と蓮は思う。
 布一枚のみに覆われた足裏とはいえ、花帆の力は弱すぎる。あの手の弱いタッチでくすぐるならば、もう少し動きにひねりを加えなければ効果は生まれない。素足ならばまだしも、あれでは、靴下の生地のさわり心地を確かめているだけだ。蓮は、まさか花帆が、最もくすぐったさを感じない人体の触れ方を体得しているのではないかという、錯覚すら覚えた。

 花帆は無反応な西村に苛立ったのか、左足の靴下をいっきに引っこ抜いた。
 西村の素足が露になる。足の指がそれぞれかなり短い、エジプト型の扁平足だった。
 靴下を脱がされた感覚にはさすがの西村も首を起こして足下を見て、はぁと呆れたようなため息をついた。
「何?」
「全然くすぐったくないの?」
 花帆は言いながら、西村の素足に指先を這わせた。
「返して」
 花帆は指先でさわさわと土踏まずからかかとにかけて撫でる。
「えっと、くすぐったくない?」
「ソックス、返して」
 西村は憮然と繰り返した。

 蓮は「これが擽感1か」と感心した。
 花帆のくすぐり方がものすごくへたくそなのを差し置いても、素肌をあれだけ撫でられて、まったくの無反応、しかも平然と喋っている西村はかなりくすぐりに強いと見える。出逢ったばかりの葵(あおい)を連想するが、それ以上かもしれない。

「ほんとに全然くすg」
「早く返して」
 西村に真顔で言われ、花帆は指の動きを止めてしまった。

◆◆◆

「いいよ、花帆。よくがんばったね」
 蓮は花帆にねぎらいの言葉をかけた。
「蓮さm」
「じゃあ、それつけてやってみて? 腋の下からだよ?」
 蓮はいちいち感激しようとする花帆をさえぎり、『擽力増強グローブ』を指した。
 玲奈は用心棒の姿勢のまま、花帆をにらんでいる。「はよやれよ」という風に顎でしゃくると、花帆は少し怯えた様子で、『擽力増強グローブ』を装着した。
「8やな。陽菜(はるな)ぐらいか」
 玲奈はモノクルで、花帆の擽力が1から8へ増強されたことを確認したようだ。
「……なるほど」
 蓮が頷くのと同時に、
「森ぃぃっ!」
 玲奈が怒声を上げた。
「はい、総長」
 杏はすばやく玲奈の傍に膝をついた。
「説明書、訂正しとけよ?」
「……はい?」
 杏が聞き返すと、玲奈は途端般若の形相を作り、
「お前さっき『初期値+8~+10程度の擽力増強が期待』できる言うたやろがっ! 『+7~』に直しとけ言いよんや! わかれや、一回でぇっ!!」
 玲奈の怒鳴り声に、花帆が「ひぃ」と震え上がった。西村はくっと眉をしかめた。
「は、はいっ! 申し訳ございません!」
 杏は全身全霊という風に声を張った。
 目に涙まで浮かべ、実に哀れである。
 玲奈の視線はすでに、花帆と西村へ向けられている。杏の謝罪には見向きもしない。
「のう、佐藤会長さんよ。うちの製品の効能良ぅ見ときな」
 玲奈はにやけ顔を蓮へ向ける。
「ハハッ。オーコワイコワイ」
「なんて?」
「なんでもありませんよ、総長さん。始まりますよ?」
 蓮は、自分に落とされた奴隷達は案外幸せ者の部類だろうと思う。

●●●

「西村s」
「ソックス返してって」
 西村は口調こそ淡々としているがかなり苛立っているようだ。
「今度こそ、笑わせてやるから!」
 花帆は西村に向けて、いーっと歯を見せると、両手を西村の腋の下へとつきたてた。
「……っ」
 ぴくり、と西村の身体が反応する。
「こちょこちょ~」
 言いながら花帆は、指をゆっくりと動かし始めた。
「……何?」
 西村の口調は変わらない。
「えっ? くすぐったくないの?」
「……っ、やめて。ソックス早く返して」
 花帆は不安げに蓮を見る。蓮は「続けて」と目で合図する。

「グローブをはめると、本人が擽力8になるわけではなく、指の動きが擽力8になるってことですね?」
 蓮は小声で玲奈にささやく。
「その通り。さすが佐藤会長。見たらわかるんやんな。……あいつ、もう論外やろ。あの反応見て、『くすぐったいのを我慢』しとるって見抜けんようじゃあセンスないわ」
「まあまあ鈴木総長。もとが擽力1ですから……」
 蓮は、フォローしながらも花帆の先行きが不安だった。美咲や凛にトレーニングしてもらえば、なんとかなるだろうか?

 花帆は、西村の足下へと移動した。
 蓮は軽くため息をついた。
 腋は十分効果が見られた。もっと時間をかけてくすぐれば、セーラー服の上からでも十分笑わせられるというのに。
 花帆が西村の素足に手を伸ばそうとすると、キッと西村が首をもたげ、花帆をにらんだ。
「……何? やめてって言ってるのに、聞こえないの?」
 西村はやや早口に言った。焦りが見え隠れしている。
「言ったじゃん? 私、西村さんを笑わせないといけないから」
 花帆は言うと、グローブをはめた人差し指をつつーっと西村の素足に這わせた。
「――っ!!! フッ……っ!」
 西村はぴくっと肩を震わせ、吹き出す。
 が、すぐに口をぐっと結び、こらえた。
「なにがしたいの? もう意味ないから。やめたら?」
 西村は苛立ったような声で言った。
 花帆は、再び不安げな表情を蓮に見せた。

 本当にまったくわかってないんだな、と思う。蓮は微笑んで頷いてやる。
 ちらりと隣の玲奈を見ると、花帆の不手際にかなり苛立っているようで、爪を噛み貧乏揺すりを始めていた。
 
 花帆は、再び西村の素足に指をあて、さわさわと撫でる。
「……っ! やっ、やめて。ソックス早く返して。時間の無駄だから」
「くすぐったくないの?」
 花帆は指先で西村のかかとを触りながら言う。
「くっ、……っ」
 西村は一旦言葉をつまらせて、
「くすぐったくないから……っ」
 頬を若干引きつらせて言った。

 西村はかなり饒舌になっている。蓮の目からは西村がかなりくすぐったがっているのは明らかだったが、花帆にはそれが理解できないようで、何度も不安げに指を止め、蓮の顔色をうかがう。
「まるで自動小銃持たされた二歳児やな」
「的確ですね。本人の能力を超えた技術がいかに無益かよくわかります。ただ、『擽力増強グローブ』はすばらしいですね。ある水準以上の人間が使えば、間違いなく有効活用できるでしょう」
「ほんなら、実験は成功ってことでええんか?」
「はい。『擽力増強グローブ』の効能は十分に把握しました」

「……い、いい加減にしてよ」
 西村がくっと顔をしかめて言うと、花帆は指の動きを止めた。
「はい! 花帆、ご苦労様! 下がっていいよ」
 蓮は、今にも泣きそうな表情の花帆にやさしく声をかけた。
「すっ、すいません! 蓮様……っ、私っ」
「いいよ。笑わせられなかったことは気にしなくて。これからゆっくり、花帆のペースで上達していけばいいからね」
「蓮様……」
 花帆はぽーっと呆けたような表情をする。
 蓮は花帆の手にはめられた『擽力増強グローブ』を見て、今後の使用法に思いをめぐらせた。

 玲奈は杏から受け取ったアイスティーを飲み干すと、ゆらりと立ち上がり、ゆっくりと西村の拘束された台へと歩いていく。
「あ、始まるよ、花帆。目をそらせたら駄目だよ?」
「な、何が始まるんです?」
「本物の、くすぐり調教だよ」
 蓮は、玲奈の後ろ姿、左右に広がるロングヘアを見つめ、軽く背筋を伸ばした。

●●●

「名前は?」
「え?」
 玲奈は西村を見下ろすとすぐに質問した。西村は花帆のときと同様に聞き返す。
「下の名前」
「……なんで言わないといけな――ひぃっ!?」
 突然怯えたような表情をする西村。
 玲奈はただ、指先を西村の身体へ向けただけだ。
「……紗那(さな)、です」
 花帆のくすぐりでは、感情をほとんど表に出さなかった西村紗那の声が、明らかに震えている。
「西村紗那? 今日からお前はウチの奴隷や」
「…………」
 紗那は、聞き返さず、
「あなた、……いったい、何者なんですか?」
 顔を恐怖にこわばらせて言った。
 玲奈は「ほやな」と考えをめぐらせるそぶりをし、鼻で笑った。
「調教くすぐり師とでも名乗っとこか」

○○○

 蓮は、美咲の言葉を思い出していた。
『あれは、人間ではありません』
 二泊三日のレンタル期間、美咲が玲奈の何を見て、何を感じたのかはわからなかったが、美咲の言葉は真に迫っていた。
『あれだけの技術を習得するためには、拷問……いえ、そんな生ぬるいものではなく、地獄。本物の地獄です。人一倍感覚過敏の女の子が、いつ終わるかも知れない地獄を、自我形成の段階から延々と見続けなければならなかったはずです』
『地獄?』
『とんでもない数の人間に、代わる代わる、倫理的にありえない非人道的なありとあらゆる手法でくすぐられ続ける毎日。年端もいかない小さな子どもが、24時間、365日、ずっとです。そんな想像にも耐え難い地獄のような環境で、発狂せず、自分を保ったまま生き残る確率は』
 蓮は息を呑んだ。
『一千万分の一です』

○○○

 会議室Cに耳をつんざくような絶叫が響き渡った。
「いぎゃぁぁぁああああっはっはっはっはっはっ!!! あぁぁああひゃひゃひゃひゃっ、ひぎゃぁぁはははははははははははははっ!!!?」
 紗那は、両手両足を引きちぎらんばかりに身体をのけぞらせ、笑い叫んでいる。
 玲奈の指が、セーラー服を着た紗那の脇腹に食い込みくすぐったさを与えているようだ。
「うひゃひゃひゃひゃっぎゃぎぃひひひ、むでぃ無理っ!!! ひひひひひひひひ無理無理無理ぃぃぃぐひゅひゅひひひひひひひひひっ」
 左右に髪の毛を振り乱して笑う紗那。能面のような顔は醜くゆがみ、涙や鼻水を撒き散らす。

『擽力とか、そんな次元じゃないんです。あれは』

「あぁぁばばばばばっ!!!? にゃかぁぁぁっははっはっひゃっひゃひゃっ、中はぁぁわうひぇひぇひぇひぇっ!!!?」
 玲奈の指は、セーラー服の裾から内側へ侵入し、紗那のおなか、素肌を直にくすぐった。
「おぼぉぉぉぉっふぉっほっほっほっほっ!!!! んぎゃぁぁぁはははははははははっだぁぁぁ」
 紗那の身体は前後左右上下に暴れまわる。
 拘束された両手両足の指先がびくびくとめちゃくちゃに動き、そのとてつもない苦痛を物語っている。

「ひ、あ、あんな……」
 紗那をまったく笑わすことのできなかった花帆が絶句している。
「あぎゃぁぁひぇひえぇひぇひぇひぇっ!!! んびゃぁぁぁあっはっはっはっはっはっはっ」
 腋の下をくすぐられ、紗那は白目を剥き始めた。
 ぱっと両手で目を覆う花帆。
「駄目だよ、花帆。ちゃんと見ないと」
 蓮は言うと、花帆も覚えながら指の間から紗那の暴れ狂う姿を垣間見た。

「森ーお茶ー」
 喉が渇いたらしい玲奈は杏を呼びつけた。右手でくすぐり続けながら、左手でアイスティーの入ったグラスを受け取っている。杏は玲奈の要求を予測して、しっかり新しくアイスティーを準備していたようだ。
「ひぎゃぁぁががががが、びゃっ!!! ひゃべっ、ひゃべっでぇぇひぃひぇひぃひぃひっぃいいっひいっひっひっひっひっひ~~っ!!」
 玲奈はまったく紗那の方を見ずに、アイスティーをごくごくと飲み干す。
 右手の親指で、紗那の小ぶりな胸の付け根をいじっているだけだが、紗那は必死に身をよじり、首をねじり、くすぐったさから逃れようと必死に暴れている。

 玲奈は杏へグラスを放り返すと、靴を脱ぎ、紗那の身体に馬乗りになって抱きつくような体勢で、両手で紗那の顔を持ち、至近距離で首筋や耳をくすぐり始めた。
「あひっ、あひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! はぎゃぁああひあひあひあひっ」
 紗那の顔は、苦悶の表情から恍惚の混じった表情へと変化していく。
 眉間の皺が弛緩し、目の焦点がぶれている。

「西村ぁ、どうや? 気持ちええやろ?」
「あひゃはひゃひゃ、はいぃぃいっひっひっひっひ!!! きもちぃれしゅぅぅひひひひひひひひひ」
 紗那の頬はひきつって笑ったまま固まっている。眼球は天井辺りの宙を見つめたままぐるぐるとゆるやかに円運動。本当に壊れたような表情である。
「どうして欲しいんや?」
 玲奈は、紗那を抱きしめるようにくすぐりながら艶かしい声をだす。
「うひょひょひょひょっ、もっとぉぉっ!!!! んほっ、あひゃぁ、からだ中をぉぉ、くしゅぐってくらさぃいひぃ~~っひっひっひっひ」
 喋りながら、紗那の口からはべちゃべちゃと涎が垂れた。

 玲奈はふんと鼻で笑うと、紗那の身体の上に寝そべるように抱きついたまま、身体を反転させる。
「あひゃぁぁ、っひっひっひ、うひぃぃっ!?」
 紗那は身体の上で玲奈がもぞもぞ動くのがくすぐったいようで、笑いがとまらない。
 玲奈は匍匐前進をするように、紗那の下半身にのっかり、紗那の左の素足と靴下を履いた右足の裏をがりがりとひっかきはじめた。
「おぉぉぉ~~~~っふぉっほほほほほほほっ!!! うぎぃぃぎぎぎひひひひひひひひひひひひっ!! あだぁぁぁぁあひゃひひゃひひゃひ」
 玲奈を乗せた紗那の身体が弓なりにのけぞる。
 エジプト型の扁平足はくねくねと左右によじれた。
「ぐげぇぇっぇっひぇっひぇっひぇ、ひぃぃ~っひっひっひっひっ!!!」
 玲奈はしばらく、紗那に靴下ありなしの違いを楽しませたあと、右足からも靴下を脱がしとり、指の間をひっかいた。
「どひゃっひゃっひゃっひゃ、いぎぃぃぃぃひっひっひっひっひっひ~~!!!!」

 玲奈は自身の左足を器用に紗那のセーラー服の裾からつっこむと、足指で紗那のあばらをくすぐる。
「あががががががっ!!!? だひゃっひゃっひゃっひゃ、ぎゃぁぁあっひえぃえひえはっはははっはっ!!!?」
 玲奈の右足は、紗那の身体を服の上からまさぐるように動く。
「ああぁぁあぁひひひっ!!!! ぐぎぎっ!! ぎゃひゃひゃひゃひゃ、あびゃぁぁ~~っ!」
 紗那は玲奈の両手両足に、上半身下半身を同時にくすぐられ続けた。

「ぐひゃひゃひゃ、だあぁぁぁぁああああああっ!!!! ふぎゃぁあぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 笑い声の中に嬌声が混じる。 玲奈の右足が、紗那のスカートの上、ちょうど秘部の辺りで、ぎゅっと握り締められている。
 絶頂を迎えたのだろう。
 紗那の顔は涙と鼻水、涎でぐしゃぐしゃ、恍惚にも苦痛にもとれるわけのわからない笑顔だ。
 そのまま玲奈はスカートの中へ右足を突っ込み、ドドドと紗那の秘部を圧迫した。
「あぎゃぁあぁあひぃひぇひぇひぇっ!!! うびゃぁぁあああああああああっ」
 紗那は何度も絶頂を迎えさせられ、舌を出して笑い叫ぶ。
 玲奈が右足を軽く上げると、黒いニーソックスの先端にねっとりと透明な液体が糸を引いた。
「あーあ、汚れてしもたやろが。お前、どうすんね?」
 玲奈は指の動きを止め、紗那の腹の上で胡坐をかいた。
「ひ……ひひ」
 紗那は余韻でびくっ、びくっと身体を震わせた。
 玲奈は紗那を蔑むように見下ろし、両脇腹をくりくりとつまむようにくすぐった。
「うひゅひゅひゅひゅっ!!!? もっとぉぉひょひょ……っ、くしゅぐってくらさいぃぃぃっきっひっひひっひっひ~~」

◆◆◆

 最終的に、紗那は、一糸まとわぬ姿でくすぐられ、失神した。
 失神する寸前まで「もっとくすぐってください」と言い続けて……。

◆◆◆

「会長、絶対に、鈴木総長になろうだなんて、考えないでくださいね」
 夕暮れの生徒会室。
 T高図書委員長山本美咲の言葉に蓮は顔をあげた。
「ん? どういうことかな? 美咲」
「技術力のことです。今日も鈴木総長が来て、ひとり、やった、そうですね。会長、食い入るように見ていたそうじゃないですか。いくら見ても、あの技術は到底盗めません」
「なんで知ってるの?」
「凛に聞きました」
「……ふーん。美咲はいつから凛の事を『凛』って呼ぶようになったのかな? 凛が美咲のことを『図書委員』から『ミサ』に呼び変えた時期と符合するようだけど?」
「い……っ!? ふ、深い意味はないです」
「珍しいね。美咲が受け答えに失敗するなんて。僕は『いつから』って聞いたんだけど?」
「……選挙の前。会長と鈴木総長が初めて会談した日からです」
「なるほど。あの日は、凛も大活躍だったからね」
「昔話は結構です。それより会長。もし会長が、鈴木総長のような技術を身につけようとしたら、ノルマとして、六十年間、毎日三十人をくすぐって、毎日三十人にくすぐられなければなりません。それでも、鈴木総長に追いつけるかどうか、わかりません。会長はそんな生活を望みますか?」
「……ふふ。美咲は、僕が古参メンバーをくすぐる時間を減らしてしまうんじゃないかと心配しているんだね?」
「はい。枠が減るという事は、蹴落としあいの激化を意味します。そうなると私は……、会長にくすぐられたいがために、ライバル全員の抹殺を企てざるを得ません」
 美咲の表情は真剣だ。
「ハハッ、美咲。僕には僕のスタイルがあるし、鈴木さんには鈴木さんのスタイルがある。彼女と違って、僕はじっくりと調教する過程を楽しみたいタイプなんだ。彼女の技術はいらないし、彼女の体制を真似ようとは思わない」
「それなら、安心です」
 美咲は目をつぶる。
「使い捨ての奴隷は作らないよ」
 蓮は言うと、生徒会室の中央でX字に拘束された体操服姿の美咲の身体に、指を這わせた。

(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 PixivでⅢの2まで見られた方々、突然の時間跳躍驚かせてすみません。玲奈のキャラを出したくて出したくて、勢いで書いてしまいました。
 ブログではこのシリーズに関して、しばらくはぽつぽつ時系列不順で単発をアップしていきます。


 すっとばしてしまった、Ⅲの3以降の内容を簡単に記します。もしかしたらそのうち小説として書くかもしれませんが、未定です。興味のある方は新たな人間関係確認にご活用ください。

・Ⅲ-3 杏奈/未来 蓮のくすぐりで落ちなかった未来を杏奈が拷問。他にも蓮のような指を持った人間がいるのではないかという美咲の疑問を解消しようとする。未来は知らぬ存ぜぬの一点張り。

・Ⅲ-4 K女学園はすでに鈴木玲奈の指によって全生徒がくすぐり奴隷と化していた。未来がT高で行方不明になったと参謀森杏の連絡を受けた総長鈴木玲奈は実働部隊のT高派遣を指示。「やられたらまず頭(カシラ)取るんがうちのやり方や」と玲奈。T高征服をもくろむ。その日(休日)偶然T高にいた生徒会の井上美桜会長、木村花音副会長、美咲、柚希がさらわれ、K女学園による報復を受ける。美桜、花音は玲奈にくすぐり落とされるが、美咲、柚希は玲奈のくすぐりに落ちず。玲奈はすぐに自分と同じ指を持った人間がいることに気づき、T高の次期生徒会長選挙に立候補した蓮に目星をつける。

・Ⅲ-5 未来の調教に失敗したことに加え、美咲と柚希と連絡が取れなくなって動揺していた蓮の元へ、玲奈からじきじきに連絡がある。一度二人きりで話をしようとのこと。蓮は美咲の可能性が的を射ていたのだと察する。T高で対談することに。杏奈の調査で、美咲と柚希がK女子学園に監禁されていることが発覚。玲奈(および引き連れていった大勢の実働部隊)がK女を留守にするタイミングを狙い、杏奈、希、凛でK女へ向かう。杏奈/杏、くすぐり責めをしている隙に、凛が美咲を救出(希は空気を読んで一旦退席)。凛、希、美咲で由希を救出。その頃T高、蓮は同じ指を持った玲奈と意気投合するも、拘留中の美咲と由希の写真を見せ付けられ、人質交換をしぶしぶ了承。そのとき、人質奪還の連絡を受け、自慢げな蓮、ブチ切れる玲奈。蓮は一矢報いたものの、玲奈との圧倒的な力量さを理解している。約束どおり、未来も解放。今後の、T高K女互いの不可侵、安全保障を約束。

 その後玲奈の命で花音は選挙から辞退。蓮は生徒過半数の承認を得て、生徒会長に就任。生徒会執行部の代替わりと同時に、三年生の委員会関係者は引退。美咲は図書委員長に就任。成績の条件をクリアしている凛は、由希を最高責任者とする選出管理委員会の承認を得て、生徒会執行部へ入部。


 ……という感じでした。
 新たに生徒会副会長に就任した一年生(心愛の同じく、4月に副会長候補として選出された)の姿かたちは未定。T高の選出システムについては下図参照。
T高校組織図
 もちろん蓮が会長就任後最初の仕事は、この新副会長の一年生を落とすことで間違いないのですが、そのエピソードもまた機会があれば。
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「チキチキ原点回帰! 晒そう僕らの黒歴史!」第十一弾

ストーカー11

宍戸絵梨はやはり夏喜同様に大の字に拘束されていた。
マジックハンドによって両手首両足首を掴まれ身動きが取れない。
格好は体操着で、相変わらずシャツは出しっぱなし、白いハイソックスにシューズ姿である。
「ちょっと!!!どういうことなのよっ!!!私に何するのよ」
絵梨はツインテールを震わせながらカメラに向かって叫んでいる。
絵梨が落ちるまでにはかなりの時間を要した。
くすぐり始めたときは全く効かないようでひたすら暴言を吐いていた。
そこでかの子は絵梨を笑わせるため、微弱のくすぐりを開始する。
絵梨の全身を取り巻くマジックハンドはこそこそと指先だけで絵梨の体をくすぐった。
シューズとハイソックスはすぐに脱がし、直に素肌をくすぐる。
時間がたつにつれて絵梨は疲労を見せ、徐々に口元がゆるんでくるのがわかった。
そして、攻撃的な言葉に笑いが混じってくると最終段階に突入する。
長時間の微弱なくすぐりによって感覚のマヒした絵梨の体は通常の倍以上にくすぐったい感覚に
敏感になっていた。そんな状態でいきなり強烈なくすぐり攻撃が加えられれば、
絵梨の理性が崩壊するのはしかたがなかった。
「やぁっぁぁははははっははははははははは!!!!
やめてぇぇへへっへへへへひえいひひっひひひひひひひ、
きぃいぃっひひっひっひっひっひっひ!!!!
だめぇぇえへっへはははひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
先ほどまで暴言を吐いていた少女は、もはやかの子の手の中で笑い狂っていた。
体操服の裾からは何本ものマジックハンドが侵入し素肌を直にくすぐっていた。
「うひひひひひひいっひひひひひっ、きゃぁぁはははっははははあはははははっは」
露出した生足にはマジックハンド、羽根がまとわりつき、
素足をくねくねと指を蠢かして笑いまくる絵梨。
「あひゃぁっぁあはっははははははははくすぐったいっ!!!!
くすぐったいぃぃひひひひひひひひひひひひっ!!!!たはははっははははっははははっははは」
かの子は楽しそうに奈美の顔を覗く。奈美は顔面蒼白で、うつむいたままであった。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここからしょーもないコメント)

 こんばんは。ertです。
 本文中の「落ちる」は、「笑う」の意ですね。
 感覚のマヒした体が感覚に敏感になる、というのは興味深いです。
 奈美の顔をのぞきこむかの子はさすがうちの子!

登場キャラクターまとめ
 反町かの子(そりまち かのこ):卓也に関わった娘を擽るストーカー。高校2年生
 後背奈美(うしろ せなみ):卓也の妹。バスケ部。中学1年生
 里川夏喜(さとかわ なつき):奈美の友人。同級生。無口陰っ娘系。中学1年
 宍戸絵梨(ししど えり):奈美の友人。バスケ部。天真爛漫系。中学1年生


「チキチキ原点回帰! 晒そう僕らの黒歴史!」第十一弾・終

心愛の受難

「え、ダメです」

 T高校第一共用棟最上階ジャーナル部の応接室にて、データ管理責任者の1年生、吉田心愛(よしだここな)は、さも当然と言う風に言った。
 ウェーブかかったわかめ髪からは、今日もぴょこんとアホ毛が飛び出している。
 応接室中央に備えられたソファに、机を挟んで座っている訪問者は二名。

「え、ダメなの?」
 聞き返すのは2年生の伊藤莉子(いとうりこ)。快活なテニス部員で、硬質の髪の毛は両耳の後ろで二つくくりにしおさげにして肩に乗っけている。隣でぽかんと口を開けるのは、莉子の同級の高橋結衣(たかはしゆい)。やや(傍からはあざとくも見えるような)天然ボケの放送部員で、髪は、跳ね回る癖毛を肩辺りで切り揃え自然にならしてある。
 莉子と結衣の二人は、ジャーナル部陥落の知らせを聞きつけ、さっそくジャーナル部の管理するデータベースを見せてもらおうとやってきたのだった。

「何故、部外者である先輩達がデータを閲覧できると思ったんですか? ……その発想に至った経緯が、まったく理解できないのですが……」
 心愛は、対面した二名の顔を見比べながら、机上の湯飲みを手にとってすすった。清潔に着こなされたブレザーの右肩に『ジャーナル部 データ管理』の腕章が輝く。
 莉子は結衣と顔を見合わせ、ゆっくりと口を開く。
「えっ、だって、あのリスト。今度文化祭で狙う子達のリストって、ジャーナル部のデータベースから取ったんだよね?」
「そうです」
「だったら、アタシらにも見せて欲しいなーって」
「『だったら』の意味がまったくわかりません」
 莉子の上目遣いに、心愛はやや眉をひそめた。
「……先輩達、何か勘違いされているみたいなので、確認しておきます。ジャーナル部が管理するデータベースにアクセスし、全校生徒の個人情報を閲覧する権利を有するのは、データ管理責任者である私だけです。ジャーナル部の部長と生徒会長及び選管委員長は、個人データの情報開示をデータ管理者に要求する権利を有しますが、自由に閲覧する権利は有しません」
 心愛は淡々と述べた。
 莉子は再び結衣の顔を見、おちょぼ口を作った。
「えっ、佐藤くんや、山本さんに、見せたんじゃないの?」
「情報開示は、部長による正式な要求によるものです。立会人の有無に関しては、情報開示要求者とデータ管理責任者、双方が承認する限り、規則上問題ありません」
「……なんか、ずるくない?」
「現行の生徒会則に明文化されています。『情報開示』の項目を読み直してください」
 心愛は再び湯飲みをすすり、莉子と結衣、二人の顔をを見比べた。苦虫を噛み潰したような二人の表情に、心愛は半ば呆れ気味にため息をついた。
「……情報開示の要求でしたら、目的を明確にした上で、ジャーナル部の田中部長の承諾を得てください。現生徒会長の井上会長でも構いませんが、現会長は何を行うにも必ず部長に『お伺い』を立てるので、結局は部長に承諾を得ることになります。二度手間ですので、直接田中部長を訪ねるのが効率的かと思います。……松本選管委員長は隣の第二共用棟会議室Bにいらっしゃると思います。会長選挙前で、いつもに増して気が立っていると予測されます。アポ無しでの訪問は自殺行為ですので、先にどなたか学級委員長を通すことをお勧めします」
 言い終えると、心愛は席を立った。
「他に無ければ、お引き取り願います」

◆◆◆

 2年K組教室。
「全然取り合ってくれなかったねぇ~」
 結衣が自分の席で「あー」とため息混じりに伸びをしながら莉子に言う。
「心愛ちゃん堅いよねっ! ちょっとぐらい見せてくれてもいいのにさぁ。仲間なんだし!」
「仲間かぁ……。同時に、ライバルでもあるよね」
「ん? あっ、そっか! もしかしてあの子、佐藤くんの個人情報、独り占めする気じゃない!?」

 ジャーナル部の管理するデータベースが、一般生徒に公開されることはまず無い。そのため、生徒の間では様々な憶測が飛び交っていた。ジャーナル部のデータベースには個人の『初恋の相手』から『週間オナニー回数』まで、ほど細かな情報が管理されているという噂さえある。

 結衣はゴテンと机に頭を預けた。
「田中さんとかも一緒だしねぇ~。結衣達がいくら佐藤くんの情報見たいって言っても、絶対阻止してくるよぉ……。て、ことは、松本さん?」
「無理無理無理無理っ!! 松本さんは絶対に無理っ!! 怖すぎて話しかけらんないよっ! くそぅ。私もジャーナル部に入れるぐらい頭良ければ、まだチャンスが……っ!!」

「ジャーナル部に入ったからと言って、データベースが見れるとは、限りませんよー?」
 突如結衣の机の下から這い出てきた、ツーサイドアップミニテールのジャーナル部最低のインチキ記者、佐々木杏奈(ささきあんな)が二人の顔を見上げ、ニィっといやらしい笑みを浮かべた。
「さ、佐々木さんっ!?」
「そんなところからっ!?」
 結衣と莉子は同時に声を上げた。
「呼ばれた気がしたので来ましたー。莉子さん、結衣さん。どうやらお困りのようですねぇ?」
 杏奈は立ち上がり、揉み手をし、両者の顔を交互に見た。
「佐々木さん。今の話、聞いてたのぉ?」
 結衣はおそるおそる尋ねる。
「いやぁー。自分は偶然通りかかった、ただのジャーナル部員ですのでー。何にも聞こえてませんよー? もしかしたらジャーナル部の管理するデータベースをこっそり閲覧する方法のヒントを握っていたり、握ってなかったりする、かーもしれま、せ、ん、が~~?」
「データベースっ! 見る方法があるの!?」
 莉子が食いついた。
「クラスメイトの相談とあらば、仕方が無いですねー。協力しましょう!」

 杏奈は満面の笑みを浮かべ、二人の肩を抱くと、内緒話を始めた。

●●●

「げ、佐々木先輩……」

 第一共用棟ジャーナル部応接室で待っていた莉子、結衣、杏奈の三人の姿を確認すると、途端に心愛は顔を引きつらせた。
「『げ』とは挨拶ですねー、心愛さん。自分はこのお二人に頼まれて、立ち会うだけですから、そんなに警戒しないでくださいよー」
 杏奈は心愛の肩に手を回し、応接室中央のソファへと押しやった。
 後ろ手で、杏奈は心愛が入ってきた扉の鍵を閉める。

「せ、先輩方、今度は、何の御用ですか?」
 三人と向かい合って座った心愛は、かなり動揺した様子で尋ねた。よほど杏奈の存在が気がかりのようだ。
 莉子と結衣は顔を見合わせ、頷きあった。
「データベースの、管理者用パスワードを、教えてくれない?」
 莉子が言うと、心愛はびっくりしたように目を見開き、キッと杏奈を睨んだ。杏奈はすまし顔で返した。
「……先輩。きちんと規則通りの手順を踏んでください。正式な情報開示要求があれば、私は規則通り、ご所望の情報をお渡しします」
「管理者用パスワードがあれば、自由に閲覧できるんだよね?」
「……その質問にお答えすることはできません。我々ジャーナル部員は、一般生徒に対して、データベースのアクセス方法に関する質問は一切受け付けていません。これは、ジャーナル部規則によるものです」
 心愛は、チラチラと杏奈に非難の目を向けた。
「もう一回言うね。アタシ達に、管理者パスワードを教えてくれない?」
 莉子と結衣は、じっと心愛を見つめた。
 心愛は、ゆっくりと息を吐き、覚悟を決めたように目を軽く瞑った。
「絶対に、ダメです」

「そう、なら――」

 莉子が腰を上げようとした瞬間、心愛はすばやく立ち上がり、逃げようとした。が、一瞬で杏奈が心愛の後ろに回りみ、後ろから心愛の両肩を掴んだ。心愛はドスンとソファに尻餅をつく。
 ソファに深く腰掛けた状態で肩を杏奈に押さえつけられた心愛は、立ち上がることができない。
 心愛側のソファに移動した莉子と結衣は、心愛の両脇に座りなおした。
「せ、先輩方……。佐々木先輩に何を吹き込まれたのか、わかりませんが、バカな真似はやめてください」
「心愛ちゃん。どうしても教えてくれない?」
 心愛の左脇に座った莉子が、優しく声をかける。
「ですから。規則で禁止されているんです。……ちゃんと手順を踏んでいただければ」
「…………」
 莉子は結衣を見て頷くと、心愛の左足を取った。
「ちょっ、と、先輩っ!」
 制止させようと前方に差し出そうとした心愛の両手首を、杏奈は後ろからがっちりと掴み、ねじりあげた。
 その隙に莉子は、心愛の左足からローファーをカポっと脱がし取る。
 心愛の右脇に座った結衣も、心愛の右足首を握って持ち上げ、ローファーを脱がした。

 両脇から足を持ち上げられたことで、心愛はソファの上で両腕を万歳にM字開脚させられてしまった。
「せ、先輩っ!? パ、……パンツが見えちゃぅ……」
 顔を赤らめうつむく心愛。
「パスワード教えてくれたら、ここで終わりにしてあげるけど?」
「……っ」
 心愛は唇を噛んだ。
「だんまりなら仕方ないね。結衣ちゃん、やっちゃお」
「了解~」
 二人はにやりと笑い合うと、同時に心愛の足に指を這わせ始めた。

「――っ、ぷ、うはっ!!? やめっ、あはっ、あははははははははっ!!!」
 心愛は二人の人差し指が白いソックス越しの足の裏に触れた途端、びくんと身体を震わせ、笑い出した。
「おおっ!? 弱っ! そんなにくすぐったいの?」
 莉子は、くねくねと捩らせて逃げる心愛の左足を、指で追いかけながら言う。
「あはははははっ!! やめっ、やめてっ!!! きゃっはっはっはっはっはっは、足はっダメなんですぅぅぅぅ」

「なんか、こんなに笑ってくれると、ちょっと楽しくなっちゃうね」
 結衣は感心しながら、心愛の右足の裏で、右手ニ、三本の指を蠢かした。
「くぁっはっはっはっは!!! やめてくださいっ!! いっひっひ、ほんとにぃぃぃっ!! にゃっはっはっはっはっは~~っ!」
「やめて欲しかったら――」
「絶対にぃぃっはっはっは……っ、絶対に言いませんっ!! あっはっはっはっはっ!!!」
 心愛は、首を左右に振って笑いながら、莉子の言葉を遮った。
「ふーん」
 莉子は、心愛のかかとをグシグシとひっかいた。
「うははっははははははっ!!! あはっははははは、やめてぇぇ~~っ!! ダメですぅぅっはっはははっはっははっ!!」

 心愛を万歳にして両手首を押さえていた杏奈が、満足気に微笑みながら、
「どうですかー、お二人とも? なかなか楽しんでいるようにお見受けしますがー?」
「うん……なんか、佐藤くんのいじわるが感染っちゃったのかも。なんか、『絶対言わない』って言われると、余計吐かせたくなっちゃうよね」
 莉子は言いながら、くしゅくしゅと心愛の右足の裏をいじる。
「あひゃぁぁっはっははははははは、やめてっ!! ダメっ!! こんなことしてっ!! はっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

「結衣さんはどうですかー?」
「えっ、結衣? ……吉田さん、笑うとかわいいなぁと、思って」
 結衣は、左手しっかりと心愛の足の甲を持ち、ぎゅっと皺の寄った足裏を右手でわしゃわしゃと引っかいていた。
「いやぁっはっはははっはははは! しゃはぁっ、先輩ぃっひっひ、腕はなしてぇぇぇっはっはっはは~~っ」
 心愛が上半身を激しく捩り、涙ながら杏奈に哀願する。ソファがぎしぎしと音を立てた。

「お二人とも、なかなかの筋ですよー。……ですが、そんなもんじゃ、心愛さんは屈しませんよー? このぐらいは、やらないとっ!」
 杏奈は急に心愛の手首をはなすと、両手をすばやく心愛の腋の下に入れ込んだ。
「ぎゃはっ!!? あぁぁっはっはっはっははっははっはははっ!!? せんぱっ、先輩ぃぃっひっひっひ、あひひひひひひっ!!!」
 心愛は腋をぎゅっと閉じ、両脚をバタつかせて暴れだした。
 心愛の足を掴んでいた莉子と結衣は、振り払われてしまう。
「わわっ!? すごいっ、笑いよう……。心愛ちゃんの弱点、足って聞いてたんだけど……」
「ぎゃぁぁっはっはっははっはっははっ!!? 先輩っ!! ひひひひ、やめっ!! やめてぇぇぇひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃ~~っ!!」
 心愛は座っていられなくなったのか、ごろんとソファの上に転げ、うつ伏せになった。
 杏奈はソファの背もたれを飛び越えて、心愛の背中に馬乗りになると、追い討ちをかけるように腋の下をくすぐる。
「がぁぁっはっはっはっはっはっはっはっ!!! やめっぇぇっひっひっひっひ、きゃぁぁっはっはっははっは!!!」
 ソファの上でバタ足をするように笑いもがく心愛。
 莉子と結衣は、あまりの心愛の暴れように言葉を失い、後ずさった。

「うーん、この感覚! やはり心愛さん、足が弱いようですねー?」
「え、そこ、腋じゃないの?」
 結衣が棒立ちしたまま恐る恐る尋ねる。
「おやおや、お二方にはコレが弱点責められた反応に見えると? まだまだですねーっ! この声、この暴れよう、この感情の昂り! まさに、自らの弱点が足だと、自白しているようなものじゃないですかー」
 杏奈は指を心愛の腋の窪みにむりやり押入れ、ぐりぐりとほじくり回していた。
「ぎゃぁぁっはっはっはっはっははっはっはは、やめっ!!!? だめぇぇぇっへっへっへっへ」
 上着越しにも関わらず、心愛には効果抜群のようで、心愛は涎を垂らしながらえび反りになって笑う。

「佐々木さん、そんなこと、わかるんだ……」
「結衣、全然わかんない……」
 杏奈は棒立ちする莉子と結衣をチラリと横目で見てニヤリと笑うと、くすぐる手をとめた。
「ぶはっ!!? ……げほぉぉ。けほっ、けほっ……」
 心愛は、解放された瞬間大きく咳き込み、ぐでっと脱力した。
「他人と喋っていると、なんとなく『この人もしかしてあの人のこと好き?』ってわかるときあるじゃないですかー。アレと一緒ですよ」
 ソファの上で脱力した心愛の身体を、杏奈はいとも簡単に、ごろんと仰向けに転がした。

「お二方」
 杏奈は、莉子と結衣を呼びつける。
「心愛さんの両手両足をしっかりと持っていただけますかー? ぴんと身体がIの字に張るようにー」
 莉子と結衣は顔を見合わせ、戸惑う。
「何やってるんですかー。自分が心愛さんの身体をくすぐるので、尋問はお二人でやってくださいって言ってるんですよー? 今ので、お二方より、自分の方が責めに適していることは明白じゃないですかー」
「あ、そういうこと……?」
 莉子と結衣は、杏奈に言われたとおり、心愛を押さえた。

「けほっ……せ、先輩達。な、何考えてるん、ですか? ……こんなことして、な、なんになるんですか」
 心愛はうっすらと目を開けて、頭上で両手を押さえつけている莉子の顔を見上げた。
「心愛ちゃんが、パスワードを教えてくれれば――」
「データベースなんか見て、何をするんですか! 興味本位でこんなこと、したことが、わかったら……、佐藤さんが、なんて言うか」
「えっ!? 佐藤くんっ!?」
「わ、私は佐藤さんに――」
 杏奈は、言葉を遮るように心愛の脇腹をぐにっと掴んだ。
「きゃはははははっ!!!?」
「お二人を惑わそうとするなんて、心愛さんも狡いですねー。余計なことを喋る口は、塞いでおかないとですねー」
 杏奈は片手ですばやく、心愛のブレザーのボタンを外すと、ワイシャツ越しにあばら骨をひっかく。
「ぎゃっぁっはっはっはっはっはっはっはっ!!? だぁっぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ」
「お二人とも惑わされないでくださいねー? 心愛さんは、助かりたくて必死なだけですから。パスワードさえ聞き出してしまえば、全校生徒の個人情報はお二人のもの! 情報を制する者には、明るい未来が待ってますよー?」

◆◆◆

 すると、莉子と結衣は手を離し、心愛を解放した。
「おや?」
 杏奈も手を止める。
「今、佐藤くんがどうのっていうの、すごく気になったから。それだけ聞かせてくれない?」
「……おーっと、これは、予定が狂ってしまいましたかねー……?」
 杏奈の呟きを無視して、莉子は、真剣な眼差しを心愛に向けた。
「……けほっ……、さ、佐藤さんは、私を信じて、データベースの管理を全任してくれたんです。パスワードを他人に漏らすなんて、佐藤さんを裏切るような真似、私にはできません」
「えっ!? どういうこと? 佐藤くんは、こうやって心愛ちゃんからパスワードを聞き出そうとしたんじゃないの? アタシらが上手く聞き出せたら、佐藤くんの信用も上がるって……」
 莉子は杏奈の方を見た。杏奈はそっと心愛の身体から下りると、自身の上着のポケットに手を突っ込み、そ知らぬ顔をした。
「パ、パスワードを聞き出すなんて、とんでもないです。佐藤さんは、私に協力を求めただけです。佐藤さんは、私のデータ管理責任者の立場をきちんと理解してくれていましたし、私のデータ管理責任者としての誇りを、尊重してくれました。私の使命は、佐藤さんが無事会長選挙に当選し情報開示を要求する権利を得るまでの間、――私が佐藤さんの『辞書』となる正当な理由を得るまでの間、データベースを守り抜くことです。……さきほどの先輩方の行為は、規則違反どころか、佐藤さんの意志に反するものです」
 心愛はゆっくりと身体を起こし、ソファに座りなおすと、服装を整えた。
 莉子と結衣は、杏奈を睨んだ。
「佐々木さん。話が違っ――」

『パスワードを教えてくれない?』
『先輩。きちんと規則通りの手順を―』
『やっちゃお』

 杏奈は、ICレコーダーを右手に掲げ、莉子と結衣に高圧的な眼差しを向けた。
「えー、さきほどの会話はすべて録音させていただきましたー」
「なっ……」
「さーて、お二人がボスのお気に入りの心愛さんを、拷問した挙句、勝手にデータベースを覗こうとしたなんて、ボスに知れたら、どうなりますかねー?」
 杏奈はふふんと鼻を鳴らす。
「なっ、さ、佐々木さん!? も、もしかして最初から結衣達をはめるつもりで……っ!!? だから佐々木さん、自分の声が入らないように、最初莉子ちゃんに全部言わせて……?」
 結衣は声を震わせた。

「おやおや、人聞きの悪い言い方はよしてくださいよー。自分はただ、従順な門下生が欲しかっただけですからー。ちょーっと最近、美咲さんと凛さんのラインが力をつけてきましてー。自分も実績を上げるためには、鞄持ちが――おっと、門下生が必要なんですよー。お二人に、ご協力願えませんかねー?」
 ニコニコしながら、杏奈はICレコーダーを指先で弄んだ。
「それ、脅してるの?」
 莉子は、杏奈の指先でくるくる回るICレコーダーを見つめた。
「そう取りますかー? 自分が『偶然』手に入れた音源には、それだけの価値があるってことなんですかね~~??」
 押し黙る莉子と結衣。二人の肩を、杏奈はそっと両腕で抱き寄せた。
「自分と一緒にいれば、悪いようにはしませんからー。お二方とも、嫌がる子を無理矢理に笑わせる楽しみは十二分に理解していただけたようですしー。貴重な体験、たっぷりと提供させていただきますよー? ほーら、しっかりと経験を積んでくすぐりスキルを身につければ、ボスに取り入るチャンスもありますよー。自分、テクニックについてはボスに一目置かれておりましてー。自分と一緒に居た方が、お二人の場合、と、く、に、チャンスは多いと思いますがね~~?」
「……チャンス」

「だ、騙されたら、ダメですよっ」
 ソファに座っていた心愛が声を上げた。
「……チッ」
「その音源、まったく証拠能力がありませんよ。お二人とも、そんな見せ掛けの脅しに屈する必要なんて、微塵もありません」
 心愛の言葉を受け、莉子は、
「で、でも……アタシたち。佐藤くんの意に反すること、やっちゃったのは、事実だし……」
「佐々木先輩の口車に惑わされ――、むぐぅっ!!?」
 いつの間にか心愛の後ろに回った杏奈は、心愛の口を塞ぐ。
「そうですよー? ボスにばれたら大変ですっ! 自分に従っていただいて、ボスに取り入るチャンスを作るのが、賢明だと思いますがねー?」
「んぐぅっ!!! んぐぅぅっ!!」
 心愛が暴れる。

「……結衣は、佐々木さんに従うよ」
「結衣ちゃん!?」
 結衣の言葉に、莉子はハッと顔を上げた。
「結衣さんブラボーですよー! 損得計算がきちんとできるのはすばらしいことですよー。莉子さんはいかがですかー?」
「…………」
 うーん、と考える仕草を取る莉子を見、杏奈はダメ押しする。
「おやおや、莉子さん。まさか、算数レベルの損得計算すら、ろくにできないほど、おバカさんなんですかねー?」
「んぐぅぅっ!!」
 心愛が激しく暴れるのを、杏奈はがっちりと押さえつけた。
「……わかったよ」
 莉子が折れた。
 と、同時に杏奈は心愛の口から手を離した。

「……っぷはっ、げほっ……せ、佐々木、先輩……。鼻まで塞いで……、窒息死させる気ですか……」
 杏奈は咳き込む心愛を見下ろすと、
「お二方!」
 莉子と結衣を呼びつけた。
「まずはこの目撃者を口止めしなければなりませんので、押さえていただけますか?」

 三人がかりで取り押さえられた心愛は、再びソファの上で、両手を万歳にしたIの字に押さえつけられてしまった。

●●●

「さぁ、心愛さん? 覚悟は良いですかー?」
 靴を脱ぎ、ソファの上で心愛に馬乗りになった杏奈は、両手の指をわきわきと動かして見せた。
「うっ、や、やめてください。佐々木先輩は、私を、く、くすぐる口実が、欲しいだけじゃないですか。……伊藤先輩、高橋先輩。ほ、本当に良いんですか!? 佐々木先輩なんかの言いなりになって」
「ごめんね。心愛ちゃん」
「結衣たちも、チャンス、欲しいから……」
 莉子と結衣は申し訳なさそうにしながらも、初めての悪事を楽しむ子供のような表情が垣間見えた。

「な、なんでわからないんですか……、佐々木先輩の言い回しなんて、悪徳商法の手口そのもの――ッ!!? ひぃぃんっ!!?」
 真剣な顔で語りかける心愛の右腋を、杏奈は左手の人差し指でつついた。
「そろそろ黙りましょうか、心愛さーん? まーだ立場が理解できてないようですねー? 自分に逆らったらどうなるのか、教えてさしあげましょーぅ」
「ひぃっ!! ひぃぃうぅぅんっ!!? うひぃぃんっ!! ひょっ!!? やめっ! いひぃぃんっ、くひぃんっ」
 杏奈が心愛の右腋をつんつんと突くたび、心愛の体はビクッビクッと震えた。
「心愛さんどうですかー? ぴーんと体が引き伸ばされてるせいで、余計にくすぐったいんじゃないですかー」
 言いながら、心愛の右肋骨辺りをトントンと指で叩くように突く。
「あはぁっ!!? ひひぃぃっ!! うひぃぃんっ!!? いっぅつっ!! くひひぃ、だっ!! だひゃっ!? だめぇぇっ」
 心愛の体が左側を弧にしてよじれる。

「莉子さん、結衣さん。体重かけてしっかり押さえてくださいねー。これからもっと激しく暴れますから」
 杏奈の命令に、莉子と結衣はコクリと頷いた。
 杏奈は左手でつんつんと心愛の右体側を突きまわしながら、右手で心愛のブレザーのボタンを外す。
「せっかくさっき脱がして差し上げたのにー、心愛さんは神経質さんですねー」
「ひひぃぃぃっ、やめっ!!! あひぃぃんっ……、くひぃぃんっ!!」

 心愛のブレザーを勢いよくバサっと観音開きにした杏奈は、心愛の脇腹を両手でぐにぐにと揉み始めた。
「くきゃはははっ!!? いやっはっはっはっはっは、ちょっと!!! ひぎぃっ!? いきなりっ! あははははははっ、少しは休ませてくださいぃぃ~~っ!!!」
 心愛の体が上下に震える。
「んーっ。良い声ですねぇ心愛さん。週に一度は聞かせていただきたい笑い声ですよー」
「きゃっはっはっっ!!? ぐるじっ、ひっひっひっひ、げほっ!! あははははは、ひひひひひ~~」
 力なく笑い涙を流す心愛を見、杏奈は手をとめた。
「ネクタイ取りましょうか。首がしまって苦しそうですねー」

 杏奈は心愛の赤いネクタイを解くと、心愛のワイシャツのボタンを上から三つ外した。
「……ひぃ、ひぃ。さ、佐々木先輩。わ、私は、ど、どうすれば……助かるんですか?」
「助かる、とは?」
「……く、くすぐるの、やめてください」
「なるほど。『なんでもするから、くすぐらないでくれ』という命乞いですね?」
「……っ」
 心愛は少しだけ顔をしかめた。『なんでもする』『命乞い』というワードが気に入らないようだ。
「ご心配なく。こちらとしても、ボスの辞書を勝手に持ち出したり、汚したりするわけにもいきませんからねー。条件付の交渉しかできないのは重々把握してますよー。……とりあえず、不可侵条約を結んでいただきましょうか」
「不可侵……、中立ってことですか? 佐々木先輩と対立関係にある人間に対し、佐々木先輩が不利になるような援助はしない……?」
「その通り! 心愛さんの口から、我々のことが漏れてしまいますと、我々、非常に動きづらくなってしまいますので、今後我々の行動は、すべて、黙って見過ごしていただきたいわけなんですよー」
「……だ、黙っているだけで、いいんですね?」
「おやおや、ずいぶん聞き分けがいいですねー」
「……この状況で、拒否する選択肢はありません」

 杏奈は心愛の不快そうな顔を眺め、フフンと鼻で笑った。
「心愛さんぐらいカシコイお方なら、後でこっそり告げ口する、なんて愚かな真似はしないとは思いますが……念のため、前払いで罰符をいただきましょうか。もし、口を滑らせたらどうなるか」
「なっ、え、えぇっ!!? ちょ――ッ」
 杏奈は、心愛の脇腹を再びくすぐり始めた。
「きゃっはっはっはっははっ!!!? なぁぁっはっはっはっはぁ、何のためのっ!!! ひひひひひ、何のための交渉だったんですかぁぁぁ~~っ」

 首を左右に振り乱して哄笑する心愛に、杏奈はニヤニヤと笑いかける。
「お~、さっきより生き生きしてますよー。やはり首周りは楽にしておいた方が良いですねぇ。自分、ブレーキのかかった笑いよりも、突き抜けた馬鹿笑いの方が見てて痛快です」
「あぁぁっはっはっはっはっはっはっ!! やめてぇぇっ!! 言いませんっ、誰にも言いませんってぇぇ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」

●●●

 杏奈はしばらく心愛の肋骨から脇腹をくすぐり回した後、心愛のワイシャツのボタンを全て外した。
「ほぉ~、今日はクマさんキャミじゃないんですねぇ」
「キャ……、キャラもの、着たことありませんっ」
 ワイシャツを観音開きにされ、薄紫色のキャミソールを晒された心愛は赤面した。

 杏奈は、心愛の全開になった右腋を、すっと左手の人差し指でひと撫でした。
「ひぁぅぅぅんっ!!」

「相当綺麗にケアされてますねー。それとも、生えない体質ですかー?」
「……っ」
 心愛はぎゅっと目を瞑り羞恥心を露にする。
 腋の下の腕筋がひくひくと動くのが見えた。

 杏奈は心愛の両腋の窪みに、そっと人差し指を近づけていく。
「ひぃっ!? ひぃぃっ、……ひゃっ、や、やめ、くふふ」
 指が触れずとも、心愛は肩をキュッとすくめて悶える。

「こちょこちょ」
「きゃははははっ!!? ……っ」

「口で言っただけですよー?」
 杏奈は、心愛の腋に触れるか触れないかの位置で指を寸止めしていた。
「もっ、ふひひっ……ぷふっ、きひ、……ダメです。やめて、ひひ、ください……。ホントに、くひひ、誰にも、……ぷふっ、告げ口なんてしませんからぁ」
 言いながら、心愛の腕の筋肉がぷるぷると震える。

「心愛さん。こんな無条件降伏のような形、悔しくないんですか?」
「あひっ、……仕方ありませんっ、ぷふふ、降伏しますっ」
 心愛の目には涙が浮かんでいた。頬は、今にも笑い出さんとヒクヒクと上下に痙攣している。

「じゃぁ、コレはすぐ諦めた罰ですよー」
 杏奈は両手の指を心愛の腋の窪みに乗せ、骨に皮膚を擦り付けるように動かした。

「なっ!!? ――あぁっぁぁぁぁっはっはっははっはははっ!!!? だひゃぁぁっひゃっひゃっひゃひゃっひゃっ!! ぐわぁぁぁぁ~~っっはっはっはっはっ、ひぃぃぃっはっはっはっは! 結局ぃぃひぃぃぃっひっひっひ、どう言ってもくすぐるんじゃないですかぁ~~っ」

 心愛はソファの上で上半身を上下に揺り動かして暴れた。
 腕と脚を押さえた莉子と結衣が、慌てた様子で体重をかけた。

「あぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! ほんどにぃぃぃひひひひひひひ、じぬぅぅぅうぅひひひひひひひっ!!! いやぁぁぁぁはっはっはっはっはっは」

 心愛は顔を真っ赤にして、涙を撒き散らしながら笑い狂う。
 口元ではぶくぶくと涎があわ立っていた。

「うーんっ。心愛さんは敏感肌ですねー。指先で弾いても結構効くんじゃないですかー?」
 杏奈は両手の指をワラワラと動かしながら、心愛の腋の縁辺りを弾く。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!? にゃぁっぁぁぁっはっはっははっははっはははっ!!! ひゃめぇぇっへっへへっへっへ、にへへへへへへ~~」

 心愛の鼻がじゅるりと音を立てた。
 発汗がひどく、髪の毛がオデコに張り付いている。

「おっと、心愛さん。もしかして、左腋の方が、弱いんじゃないですかー?」
 唐突に杏奈が言うと、心愛の左腋に顔を近づける。
「ひへぇぇへ……、もぅ……ひへへ、だずげでぇ~」
「良い感じに汗かいてますねー。指先でこそいであげますよー」
 杏奈は両手の指で、わちゃわちゃと心愛の左腋の下をいじくる。

「ぎゃぁぁぁぁひゃひゃひゃっひゃっひゃっひゃひゃっ!!! いひゃぁぁぁぁははは、やめっいぇぇへぇひぃひぇひぇひぇひぇえへっ~~っ!!!」

 心愛はほとんど泣き叫ぶように、甲高い声を上げた。
「一本橋こちょこちょって、いまどきの子でもわかるんですかねー? 腋の下は範囲が狭いので、ムーンウォークですよっ、ムーンウォーク!」
 杏奈はへらへらしながら、右手の中指と人差し指を、テンポよく交互に、心愛の腋の皮膚に擦り付ける。

「にゅへへへへへへへっ!!! きぃぇぇひぇっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇ~~っ!!!」

●●●

 数分ほど心愛の腋を弄んだ杏奈は、
「莉子さん、結衣さん。解放していいですよ」

 莉子と結衣が力を緩めても、心愛はIの字のままぐでっと脱力したまま動かなかった。腕を下ろす気力も残っていないようだ。
「終り?」
 莉子が聞く。
「いえいえっ。おそらくもうそれほど激しく暴れる気力はありませんから、後は自分ひとりで充分です」
 言いながら杏奈は、自身のネクタイを取り、上着の袖をワイシャツごと腕まくりした。

「さぁて心愛さぁん」
 杏奈が、仰向けになった心愛を見下ろす。
「……ひぅぅ。もぅ、勘弁してくださぁい……」
 虚ろな目で、熱っぽい声を出す心愛。
「しおらしい声ですねー。余計に虐めたくなってしまいます」

 杏奈はソファの上で体を反転させ、心愛の左足を掴んだ。
「……さ、佐々木せんぱひ……、らめぇぇ~~」
 心愛は力なく杏奈の背中を掴む。

「おやおや、すっかり元気がなくなってしまいましたねぇ。でも、こうするとー」
 杏奈は、心愛の白いソックスの上から足の裏をくすぐった。
「みひゃひゃひゃひゃひゃっ!! もぅっ!! はひゃひゃひゃひゃぁっ!!?」
 心愛は杏奈の背中をどかどかと叩きながら笑う。

「元気になって何よりです」
「うはははははははっ!!! だめぇぇっ!! やめてぇぇ~~っへっへっへっへ、もうっ!! もう無理っ!! ホントにダメなんですぅぅぅっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
 渾身の力で暴れる心愛。
 杏奈はさらに体をぐるんと翻し、両脚で、心愛の股の間から左足を挟み込むような体位を取った。

「靴下脱がしますよー」
 杏奈は心愛の左足のソックスをつま先からびよんと引っ張り、脱がし取った。スクウェア型のやや偏平足気味の素足にのった小さな指が、一斉にきゅっと縮こまる。
 左手で心愛の足の甲を掴み、右手でカリカリと足の裏をひっかく。
「うひひひひひひひっ!! だまぁぁっはっはっははっははっ!!! もう許してっ! いひひひひっ!!? 許してぐだざいぃぃっひっひっひっひっひっひっ」
 心愛は上半身をねじり、ソファの上を這って逃げるようにもがく。
 杏奈はもがく心愛の左足を、がっちりとブロックした。
「足の指をそんなにくねらせても、逃げられませんよ~? 」
 右手の親指、人差し指、中指で食材を混ぜ合わせるように、心愛の足の裏をかき回す。
「ぎゃぁっぁっひっひっひゃっひゃ、あひひひっ!!! いぃぃぃひゃひゃひひひひひひひひひひっ、ほんろにぃだめぇぇへっへへっへへっへへっへっ」

 杏奈は右手で心愛の右足を押さえたまま、左手で、投げ出された心愛の左足のつま先を持って、力任せに靴下を脱がし取った。
「ふぇぇ、靴下返してぇぇ~~」
 心愛が顔を真っ赤にして弱々しい声を出した。
 杏奈は心愛の靴下をぽいっと投げ捨てると、心愛の両足首を持って開脚させた。自然とスカートがまくれ、薄水色のパンティが露になる。
「ふぁぁ~~……ぱんつぅ」
「今更何恥ずかしがってんですかー? そんなに股間が寂しいならぁ――」

 杏奈は右足を前方に突き出し、ぐりっと心愛の股間に押し当てた。
「はひゃぁぁんっ!!?」
 心愛の体が弓なりに仰け反る。
「おやおや、心愛さんややしっとりしてるじゃないですかー。高校生にもなってお漏らぁすぃですかー? それともぉ」
「ちがっ、ひひゃぁっ!? あせぇぇぇっ! 汗ですよぉっ、うひひ、ひひひっ……ひひひ! だめぇっ!!! 足っ!!! 足離してっ!! きゅひひひっ、ホント無理っ!! くすぐったいっ!! そんなとこっ、ひひひひっ、ひゃめ、やめてくださいっ」

 杏奈は右足の親指をきゅっと微動させた。
「くひゃぁぁぁぁんっ!!? だめぇぇぇっ!!! 動かさないでぇぇぇぇぇひひひひっ」
「秘部への直接刺激も、内股にソックスが擦れる間接刺激も、たまりませんかー? 喜んでいただけて嬉しいですー」
 杏奈はふふんと微笑むと、心愛の股間に右足をドドドと押し付けるように振動させた。
「ひゃぁぁぁっあっあっあっあっあっあぁぁぁ~~~っ!!? くわぁぁっぁ、ひひひ、はひひひひっ!!! ぎゃぁぁっぁっひぁぁぁぁ~~っ!!!」
 心愛は、両腕をバタバタさせながら、上半身をソファに打ち付けてもがいた。
「変になるぅぅぅ~~、くしゅぐったすぎてぇぇ、いやぁぁぁぁっはっははっはは~~っ!!」
 杏奈の掴んだ心愛の足の指先は、びくびくと痙攣していた。
「むでぃぃぃぃぃっ!! やめてぇぇぇっひっひっひっひ、ぃっいっぃっぃっぃ!!」

「ではー」
 杏奈は右足を心愛の股間から引き抜くと、今度は上半身ごと心愛の股の間に陣取る。
 肘を張って、心愛の膝を押さえ込むと、心愛は強制M字開脚の状態で、ほぼ身動きが取れなくなった。
「だずげでぇぇ……」
 心愛の顔は、頬の筋肉が引きつって、笑っているのか泣いているのか、よくわからない状態だった。
「おやおや心愛さん。股関節周り汗でびっしょりじゃないですかー」
「いぅぅぅ、いわなぃでぇぇ……」
「オシメ換えましょうねぇ~~」
 言うと杏奈は、親指を心愛の脚の付け根にぐりっと押し込んだ。
「きゃひゃひゃひゃ!!? うひぃぃっ、だぁぁっ!!」
 心愛の奇声を楽しみながら、杏奈は指を、心愛の股関節周りの汗を掬い取るように蠢かした。
「にぃぃゃぁぁぁっはっはっはっはははっはっ!! あへぇぇあへぇっへっひぃひぇひぇひぇぇ、やめてぇぇ~~っ!! いぃぃっひっひっひっひっひ、きっひっひっひ」
 顔を真っ赤にして、絶叫する心愛。
 体力も限界に近いのか、肘や膝がガクンガクンと鈍く跳ねた。四肢には力が入らないようだ。

 杏奈は両手の指をわちゃわちゃと、心愛の股間で動かす。
「いぃぃぃっひっひっひっひっひっひっひ、はひはひはひっ!!!? ひっひっひっ! おじっ……ぎっひっひっひっひっひ~~」
 目をひん剥いて笑う心愛を見、ついでくすぐったさにヒクヒクと痙攣する股間を見て、杏奈はニヤリと笑った。
「莉子さん。結衣さん。雑巾とバケツ、準備しておいてくださいね」
「えっ?」
 放置されていた莉子と結衣は顔を見合わせた。
「もたもたしないでください。後、隣室、『佐々木』と表示のあるロッカーから、一番大きなバッグ持ってきてください。至急です」

●●●

「ひぃぃー……ヒヒヒ、ぐふぅ、ぅひひひひ……」
 杏奈が手を止めると、心愛は舌を出したまま荒い息を立てた。
「心愛さぁ~ん」
「ヒ、ヒヒ、……もぅゆるじで、ぐれるんでずが?」
 心愛は、焦点の合わない目を杏奈に向けた。
「ずっとおしっこ我慢してたんですよねー? 大丈夫、最後気持ちよぉ~く出させてあげますのでー」
 杏奈のニッコリと満面の笑みを浮かべる。
 心愛はしばし呆然と杏奈の顔を見つめた。数秒ほどかけてようやく言葉を理解したのか、ぎゅっと目を瞑りぶんぶんと首を左右に振った。
「も、もぅいやぁぁ」
 心愛はぼろぼろと涙を流した。

「さぁ、ラストスパートですよー」
「いやぁっ」
 ソファの上を這って逃げる心愛の左足首を掴んだ杏奈は、そのまま心愛の素足の土踏まず辺りを人差し指の爪でガッガッと引っかいた。
「ひゃぁぁぁっはっはっははっはっははは!! あぁぁひゃひゃひゃひゃ、ひぇひぇひぇひぇひぇへぇ。ひぃぃぃひぃひぃひいぃひぃひぃひぃひぃぃぃ」
 ぐでっとソファに突っ伏したまま、狂ったような笑い声を上げる心愛。
「心愛さん、もう暴れることすらできず、ただのくすぐられマシーンのようですねー」
「あひひひひひひひひ、漏れるぅぅぅひひひひいひひひ、漏れぢゃうぅぅぅぅうへへへへへへへへへへ」
 杏奈は心愛の足の指の間をくりくりといじりながら、めくれ上がったスカートからのぞく心愛の内股の痙攣を見る。
「にゃぁっぁぁっはっはっははっははっははっ、だめぇぇぇっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ、もぅっ!!! ぎひひひひひ……」
「さぁ限界ですね。とどめです」
 杏奈は心愛の足の人差し指と中指を持って反らせると、ぴんと張った足の指間、指の付け根を、指先でカリカリ、チロチロとねちっこく弄り回した。

「――ッ!!? ぎゃッ……あぁぁぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、あひゃぁぁああああぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 心愛は白目を剥くと同時に、失神した。
 パンティから流れ出た聖水は、布を湿らせるよりも早く、脚の付け根から零れ落ちた。
 ポタポタとソファから床に落ちる音。杏奈は、ゆっくりと心愛の左足を置きながら、心愛のパンティが湿り気を帯びて変色していく様子を楽しんだ。

◆◆◆

「お二方」
 杏奈は、くるりと首を莉子と結衣に向ける。
「は、はいっ!?」「ふぇっ!?」
 バケツと雑巾を持ったまま突っ立っていた莉子と結衣は同時に素っ頓狂な声を上げた。
「雑巾とバケツとバッグ置いたら、今日のところは帰っていただいて結構ですよー。今後ともよろしくお願いしますー。自分が呼び出したら飛んできてくださいねー」
「えっ……」
 莉子が声を上げた。
「どうしましたー? ぽかんとして」
「アタシ達が掃除するんじゃないの? だって、佐々木さんの門下生って……」
「お掃除したかったんですか?」
「い、いや……その」
 莉子は言いよどんだ。
 杏奈はフフンと鼻でわらった。
「『やらされる』と思ってましたかー……ちょぉっと心外ですねー。では、迷走中の門下生に教訓の一つを伝授しましょうかー」

 杏奈はガチャンとバケツを持ち上げ、雑巾を手に取った。
「自分で遊んだおもちゃは、自分で片付ける。自分で片付けられないおもちゃでは、遊ぶべからずですよ」

(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 左ブックマークにございますブログ"らくがきをば@あい"の管理人であられるAisutea様よりいただいた絵をご紹介いたします。
心愛(ai様より頂戴)
 心愛!
 ダブルピース! 右腕のタグから、アホ毛までばっちり再現していただきました! トマトのように顔を赤らめて、唇をかみ締めている感じがたまりません。冷静なコンピューターをいじり倒して困惑させるのはさぞ楽しいでしょう! 本編ではもっぱら杏奈の専売特許になっておりますが……。
 こちらのイラストは2012年の10月にいただきました。
 メンバー随一の記憶力を誇る頭でっかちのマニュアル人間心愛をいじめまくった本作の表紙に使用させていただきました。

美咲と凛の放課後レッスン

 放課後、ホコリっぽい図書準備室にブレザー姿の女子生徒が二人。
 3mほど間隔をおいて並べられた二つの椅子に、それぞれ反対の足を組んで座った女子生徒は、互いに一切目を合わせようとせず、そっぽを向いていた。
「言っておきますが」
 先に口を開いたのは、山本美咲(やまもとみさき)だった。ボブカットのK組図書委員で、成績優秀、他者を寄せ付けないピリピリとしたオーラ、辛らつな発言と斜に構えたような物言いに定評がある。
 前髪の分け目を左手で軽く整えながら、言葉を繋ぐ。
「私は、陽菜(はるな)さんに頼まれたから、場所と時間を作っただけですので」
「どういう意味だよ」
 小林凛(こばやしりん)は、キッと美咲とはまったく逆方向の壁を睨みつけて、独り言のように言った。腰下まで伸ばした銀髪ツインテールを備えたL組学級委員長で、人情厚く、馴れ馴れしい態度、でかい声といい加減な発言に定評がある。
「そのままの意味ですよ。……どうするんですか? このまま完全下校時刻まで、背を向けていますか?」
「……っ」
「いいんですよ? 私はこの時間を、陽菜さんに差し上げたつもりなので。小林さんが、このままでいいと思っているのなら、私はただ黙って時間が過ぎるのを待つだけです」

 数日前の日曜日、凛が「くすぐり上達の方法」について斉藤(さいとう)陽菜に相談したところ、陽菜は熟練者である美咲の個人レッスンを薦めた。
 陽菜の半ば強引な計らいによって、凛と美咲は「個人レッスン」という建前で引き合わされたのだが、もともと折り合いの良くない二人である。両者とも変にプライドが高いためか、お互いがお互いの出方を窺ってしまい、気持ちの悪い空気の中、10分ばかり無言が続いていた。

 凛はゆっくりと身体をねじり、美咲の横顔を見た。
「……っ。……っ」
 話しかけてみようとするものの、喉につかえてなかなか第一声を発することができない。
「(……わかってんだよ。立場は、こっちが教えてもらう側。こっちからお願いしないと、状況は変わんないんだって!)」

「何を見ているんですか?」
 美咲が窓の方を眺めながら、呆れたような声を出した。
 凛は歯噛みした。
「(このぅっ!? ほらっ! こいつ、こうやってすぐ出鼻くじくようなこと言うからぁっ!! なんであと数秒待てんの!?)」

「……ねがぃします」
「はい?」
 凛がようやくしぼり出した言葉に、ゆっくりと首を回し、シャ○度を作る美咲。
「……図書委員さん、お願いシマス。私に、くすぐりを、教えテ、クだサイ」
 凛は片言で言い終えると、部屋の隅に向かって「○ャフ度うぜぇ」と小声で付け足した。
「……最後の一言は聞かなかったことにします」
「聞こえたっ!?」
「陰口の吐き方がオーソドックスすぎて、バレバレです」
「……くっ」
 凛が悔しそうにギリッと歯軋りをすると、美咲は呆れたように鼻で笑った。

 空気は少しばかり和んだ(?)ようだ。
 美咲は立ち上がると、凛の座った椅子の後ろまでやってきて、背もたれに両手を置いた。
「初めに言っておきますが――」
「陽菜に頼まれたからってんだろ? さっき聞いたよ」
「勝手に人の言葉を予想しないでください。私は、意味もなく、前言を繰り返すことはしません。次、私の言葉を無意味に遮ったら、罰を与えますので肝に銘じてください」
「罰って……すっげぇ上からくんのね」
「私は陽菜さんのように教えるのは上手くないので、レッスン中、頭ごなしの叱責、不快感を与える発言、乱暴な行為等、発生する可能性があることをあらかじめご了承ください」
「…………。はぁっ!!?」
 凛は勢いよく振り返り、美咲の顔を見上げた。
「不快感を与えるって、わかってて言うか!? ってか、乱暴な行為って……つまり、私が言われた通りできなかったら、折檻されるってこと!?」
「そうです」
 美咲はさらりと言った。
「あ、ご心配なく。痛いようにはしませんから」
「いやっ、それはわかってんだけど。く、くすぐる?」
「無論です。……陽菜さんのお話では、小林さんはくすぐり耐性の強化もご所望とのことなので、一石二鳥かと思われます」
「一石二鳥……ん? 私にとっては、プラマイ0な気がすんだけど」
 凛の言葉に、美咲はハァとため息をついた。
「小林さん。あなたはくすぐりの上達のために、ここへ来たはずです。私にくすぐられる不快感をマイナスと表現したのでしょうが、せっかく、くすぐりを自身の身体で実感し、研究する機会を、最大限活用しないでどうするんですか? ただ辛い、悔しいという感情で、くすぐられることを拒絶していては、いつまでたっても上達しませんよ」
 美咲の言葉に、凛は顔を顰めた。
「……別に、そういう意味で言ったんじゃ」
「なら、どういう意味で言ったんですか?」
「…………」
「答えてください」
「……ぐぅ」
「ぐうの音はいりません。答えてください」
「……はいはい、その通り! 図書委員様のおっしゃる通り。私は、お前にくすぐられる不快感をマイナスと表現してましたー、ごめんなさいーっだ」
 凛は、美咲に向かってべっと舌を出した。
 美咲はその様子を眺め、フンと鼻息を立てた。

「……先ほどから、レッスンを受ける側の態度として不適切な言動が目立つので、先にお灸を据えておきます」
「……は?」

●●●

 美咲は、椅子に座った凛の後ろから両腋の下へ、素早く滑らかに両手を差し込んだ。
「……っ!!? ひぅっ!?」
 凛は、キュッと腋を閉じ、肩に力を入れた。
「ちょっ!? ひぅぉほっ、と、図書委員っ!! ちょ、ちょぃまっ……」

「はい。このように人間の身体は、腋窩部に予期せぬ刺激を感知すると、とっさに腋をしめようとします。急所を守ろうとするごくごく自然な反応です」
「くぉぉっ、ふふぉっ!!? きぅぅ、急所!?」
 凛は首を回しながら、うめき声を上げた。

「そうです。……ずいぶんと敏感ですね。まだ上着越しですよ? 続けます。一般的に、『くすぐったい』という感覚は、身体の急所を守るための防衛反応と言われています。よって、人間の動静脈、神経の集中する部位を把握することは、くすぐり上達の第一歩になります」
「ひっ!? くぅぅぅっ、いひ、ひひっ、防衛って、ちょぉぉぉっ!?」
「では、実際に指を動かしてみましょう」

「ちょひぃぃ、こんのっ! 解説口調うざっ……っ!!? ひっ!!? やははっははははっはははっ!!! いゃぁぁはははっはははっはははははははっ!!!」
 美咲が凛の腋の下で指を動かし始めると、凛は椅子の上で仰け反るように笑い出した。
「小林さん。あなたは、その解説を聞きに来たのではないのですか? これもレッスンの一環です。うざったがられる筋合いはまったくありません」

 美咲は凛の腋の下で、凛の第5肋骨を選り分けごりごりとくすぐる。
「うぉほほほほほほほっ!!? ふぎゃぁぁぁっはっははっはっはっ!!! スミマセンっ、ごめんなさいっ!! しひひひひひひっ、真摯にっ!! 真摯な態度に改めるからぁぁはっはっはっはっはっはっ!!!」

「現在小林さんの腋に、親指を除く左右四本ずつの指が挟まれていますが、全ての指を同時にバラバラに動かす方法と、人差し指だけ、中指だけ、のように指を一本だけ使って、局部的に刺激を与える方法があります」
「ちょぉぉうふぉふぉふぉふぉっ!!? わかったぁぁっ!! わかったからやめろぉぉぉぉひひひひひひひひ~~っ!!」
「身体で覚えてください。現在私は中指しか使っていませんが、きちんとポイントを押さえれば、このように効果的な刺激を与えることができます」

 凛は地団太を踏んで暴れた。
「がはははっははははっ!!! ふぉぉぉぉぐぎぃぃひひひひひっ、骨っ!! 骨やめぇぇっぇぎひひひひひひひひっ!!」

 美咲は左手で凛の左腋をくすぐりながら、右手の動きに変化を加えた。
「ぎっ!!? ひぅぅぅっ!!?」
「現在、私の右手人差し指がどこに触れているのか、わかりますか?」

「ぎゃっはっはっははっはっはは、ちょぃぃっ!!? 左っ!! 左手止めてぇぇぇっへっへっへっへっ!!」
 凛の左腋の下では、美咲の人差し指と中指が、交互に引っかくように動き続けていた。

「質問に答えてください。もっと強くしますよ? 右腋に意識を集中させてください。これは集中力の問題です」
「わひゃぁぁっはっはっは、右っ!!? ……っ!! ちょあぁっははっはっは、今っ!! 今っ、左強くしたぁぁはっはっはははっ!!!」
「早く答えてください」
「くぎぎぎぎっ!!? こんのっ!!! ひゃひゃはっはは、右腕の裏側ぁぁあっ!!?」

「正解です。腋の下のちょうどこの部分に、腋窩動脈があります。腋窩動脈は体内でかなり太い血管ですので、損傷するとかなり危険です」
 美咲は右手人差し指を、くりくりと押し込むように動かした。
「うがぁぁぁぁあぁ、ちょいぃぃぃぃぃっ!!! 痛いっ!! 痛いッてぇぇぇっぃひひひひひひひひひひひ」
「急所。つまり、『くすぐったい』という感覚の生じやすい場所です」

 美咲はぎゅっと力を込め、凛の腋の下のくぼみに人差し指を埋めていく。
「ぐはあぁぁぁぁっ!!? ぶふぁぁぁぁっ、壊れるっ!!!? 腕がぁぁぁもげるぅぅひひひひっ!!! ぎひっ!!? うにゃぁぁぁぁっ!!?」

「くすぐったいのか、痛いのか、わからない感覚でしょう。この動きに変化を加えると――」
「ぐぶ……っ!!? だひゃ、だっひゃっひゃっひゃっっひゃっ!!! あひゃひゃひゃひゃっ!!? やめぇぇっぇっ!!! いひひひひ、がっぁはっはひゃっひゃ、きゃぁぁはははははっひゃっひゃ~~っ!!! あぁぁぁぎゃぁぁぁ!!!?」

 凛が激しく暴れたことで、ガタンと椅子が倒れ、凛は床の上に突っ伏した。
「……っ!! ひぎぃ」
 凛は這って部屋の隅まで逃げ込むと、涙目で美咲を睨んだ。
「まぁ、前座はこれぐらいにしておきます。先ほど言った『罰』及び『乱暴な行為』がどういうものか、おわかりいただけましたでしょうか?」
「……わ、わ、わかったから。……これ長時間やられたら、ホント死ぬって」

◆◆◆

「それでは、内容が一部前後しましたが、これより、くすぐり術の個人レッスンを開始します」
 美咲は宣言すると、自身の上着を脱ぎ始めた。
「……何だよ、くすぐり術って」
「小林さん。いつまで部屋の隅で転がっているつもりですか? 時間が勿体無いです。こちらへどうぞ」
 美咲はネクタイを取ると、ワイシャツの袖を折って腕まくりをした。
「……あれ? 図書委員、なんか、張り切り始め、た?」
 凛は顔を引きつらせてツッコミながら、ゆっくりと立ち上がった。

 仁王立ちをして待っていた美咲は、凛の準備が整うと同時に口を開いた。
「さて、小林さん。私をくすぐってください」
「え」
 美咲のいきなりの言葉に、凛は目を白黒させた。
「まずは、小林さんのリャクリョクを把握します」
「は? りゃく、……なんて?」
「擽力。くすぐり行為の技能的な総合力のことです。今回くすぐり術を体系的に教えるにあたって、必要性を感じたので、名前をつけました」
「ぶっ!? え? お前が!?」
 凛は思わず吹き出してしまい、美咲の顔に唾が散った。美咲は汚らしそうに顔をしかめ、右手で拭き取った。
「あ、悪い……あまりにも気合の入れ方が予想以上で、さ。……てかっ、図書委員っ! 実はこの企画ノリノリだったんじゃん! 最初全然乗り気じゃないような態度とってた癖に! あれはなんだったんだよっ!」
「いつ私が『乗り気じゃない』と言いましたか?」

 美咲はチラリと目を伏した。
「……小林さんが、……なかなか切り出してくれないからですよ」
「なんだよっ、結局私のせいかよっ!? ……って、ん? 今一瞬、デレ――」
「時間は30秒間差し上げます。その間に私を笑わせてください。委員長のように、焦らして徐々に感度を高める必要はありません。いきなり身を捩って笑わせるぐらいの意気込みでかかってきてください。では、どうぞ」
 美咲は早口に言うと、両手の平を正面に向け、無防備をアピールした。
「え、さっきのってデレ――」
「早くしてください」
 凛の言葉を遮るように、美咲は語気を強めた。
「……お、おぅ」

 凛は「なんだかなぁ」と首をかしげながら、美咲の正面から、腋の下へ両手を差し込んだ。
「…………」
「…………。ぶはっ」
「なんで、くすぐっている側の小林さんの方が吹き出すんですか? 真面目にやってください」
 急に凛が押し殺すように笑いはじめたので、美咲は眉をひそめた。
「いやっ、なんでそんな真顔で見つめてくんだよっ!?」
「観察しているだけです」
「か……っ、見つめてくんなよっ!! こういうシュールなの、笑いが……『私ら二人っきりで、向き合って何やってんの?』とか、思い始めちゃうからダメなんだって!!」
 美咲は深々とため息をついた。
「……わかりました。私は後ろを向きます。真面目に、笑わずに、私を笑わせることに集中してください」
「なんか、言ってることおかしいって」
「小林さん。まったく先に進まないのでテキパキやってください」

 再度仕切りなおして、凛は美咲の背後から腋の下へ両手を差し込んだ。
 凛の指が、ワイシャツ越しに美咲の腋に触れると同時に、少しだけ美咲の身体が震えるが、それ以上の反応は無かった。
「……っ、……っ。」
「図書委員。くすぐったくないの?」
 凛は指を小刻みに動かせながら、美咲に問う。
「……別に、くすぐったくないわけではないですが、余裕で我慢できる範囲です。まさか、これが本気ですか?」
「いや、その……」
「あの、ちゃんとやっていただけませんか? 焦らす必要はないので、早く、全力で、かかってきてください」
 凛はムッと顔をしかめると、指の力を強めた。
「……っ! そうです。初めから、ちゃんと、やってください」
 美咲は、少しぴくっと肩を上下させただけで余裕そうに言った。
「なかなか、お上手ではないですか。……それが全力なら、もうやめていただいても大丈夫ですよ。小林さんの擽力は、粗方把握しましたので。もし変化を加えるなら、残り20秒以内にどうぞ」
「うわっ!!? なんだその上から目線っ!!? カチンとくるなぁっ、もうっ!!」
「どうぞカチンときて下さい。悔しかったら、どうぞ、遠慮なく」
「こんのっ!!? 覚悟しろよ」

 挑発に乗った凛は1分近く美咲をくすぐってみたものの、結局美咲を笑わせることはできなかった。


「小林さんの擽力をわかりやすく数値で示しますと、3~4といったところでしょうか」
 言いながら美咲は、部屋の隅に置かれたホワイトボードの前に立った。
「はぁ? 数値とか……」
「具体的に言いますと、『親密な関係にある者を存分に笑わせることのできる程度』の擽力になります」
「うん? そう言われても、よくわからんのだけど……」
 凛は首をかしげながら、ホワイトボードの正面に置かれた椅子に座った。
「『くすぐりに弱いと自己認識している者を存分に笑わせることのできる程度』の擽力と表現した方が、わかりやすいでしょうか?」
「余計にわからん! わざわざ難しい表現すんなって!」
「……別に難しく言っているわけではないですが。要するに、小林さんのくすぐり方では、対象の認識に頼るところが大き過ぎるため、初対面の人間や小林さんに敵意を抱いている人間を笑わせることは困難であるということです」
「つまり……? 私のくすぐり方は未熟ってこと?」
「何を基準に『未熟』とおっしゃっているのかわかりませんが。くすぐりという行為の目的をどこに定めるかによって、基準は変わってきます。じゃれあいを目的としたくすぐりにおいては、小林さんはかなり熟達していると評して問題ないかと思われます。私の基準では先ほど申し上げた擽力。数値で表すと3~4、としか言えません」

 凛はしばし考え込むように、額を掻いた。
「……お前はどうなんだよ?」
「はい?」
「お前の基準で、お前自信のその擽力っての、数値で言うと、どんぐらいなんだよ」
「12といったところでしょうか」
 美咲はサラリと言った。
「12ぃぃ!?」
「『笑うまいと身構える者を無理矢理に笑わせることのできる程度』の擽力です」
「十段階じゃねーのかよっ!? ってか、私の三倍かよっ!?」
「数値は段階的な目安なので、単純な加減法に基づいて『三倍』などと表現すると、誤解を招く虞があります」
「うん? ……あー、その数値の設定基準とか色々あんのね……」
 凛は考えすぎて煮詰まったのか、「あぁぁぁっ!!!」と頭を掻き毟った。
「もぅ難しい話はいいや! 聞くだけ混乱するわっ! もうそういう頭使うのは任せるっ! ……で、私はどうすりゃいいの?」
「とりあえず、今日のところは、基礎を大雑把に把握していただきます。当分は、小林さんの擽力を6に上げる練習に力を入れたいと思います」
「……っ!!? 今日のところって、これ明日以降も続けんの!?」
「はい? 個人レッスンを一日だけ受けても意味がないでしょう。一朝一夕で、くすぐり術は習得できませんよ? 私もまだまだ研究中ですので、お互い頑張りましょう」

「…………。(陽菜め。一体どんな焚きつけ方したんだよ……)」
 妙に生き生きとし始めた美咲の演説を聞きながら、凛は顔を引きつらせた。


 美咲は黒い水性ペンのキャップと外すと、ホワイトボードに文字を書き始めた。
「え、まさか、……まだ理屈っぽいことすんの?」
 美咲は書き終えると、椅子に座った凛を見据えた。
「いいですか、小林さん? 基礎知識は大切です。実践練習を行う前に、前提となる知識を習得してください。……では、黒板を見てください」
「……ホワイトボードじゃんよ」
 ブーたれながら凛はホワイトボードを見やる。

“ Physical ” “ Psychological ”

 乱雑に書きなぐられたブロック体の単語二つを見て、凛は「うへぇ……」と顔を歪めた。
「くすぐって、他者を哄笑させようとしたとき、フィジカルとサイコロジカル、大きく二つのアプローチを考えます」
 凛は額に汗を滲ませた。
「あの、カタカナ言われてもわかんないんですが……」
「……っ。物理と心理、二つの側面からの責めを考えます。……訳すと少し違和感があるので、くすぐり術の二大要素として、フィジカルとサイコロジカル、そのまま理解してください」
「はぁ……」
「ここで言うフィジカルとは、『単純な外部刺激によって、対象にくすぐったさを感じさせる』ためのアプローチです。一方、サイコロジカルとは、『対象にくすぐったさを感じさせることによって、外部刺激をより効果的に機能させる』ためのアプローチです」

 凛は「うぐぅ……」と唸った。
 美咲は、水性ペンを巧みに操り、ホワイトボード上の二単語をそれぞれぐるぐると丸で囲みながら、言葉を繋ぐ。
「これら二つ、対象を哄笑させるという到達点は同じでも、『客観的なくすぐったさ』と『主観的なくすぐったさ』にそれぞれ重きを置いている点で、大きく異なります。前者が『外部刺激』によって『くすぐったい』と感じるのに対し、後者は『くすぐったい』という予感によって『外部刺激』が『くすぐったい』と感じられるのです。あらかじめ、対象の認識の中に『くすぐったい』が、在るか無いか違い。言い換えるならば、身体をくすぐるか、精神をくすぐるかの違いです」

“ Physical ”    擽 → 体 → 笑

“ Psychological ”  擽 → 心 → 笑

「あのぅ……、そういう風に書かれても、よくわかんないんだけども……」
「では、小林さん。私が先ほど小林さんに行ったくすぐりは、どちらに属すると思いますか?」
 美咲は、水性ペンでピッと凛を指した。
「あー……、ノッてんのな……。その、フイ、フィ、フィジカル?」
 凛は、なんとなく怒られそうな予感がして、初めの子音は唇を噛んで発音した。
「正解は両方です」
「っ!!? そういうの反則じゃねっ!!?」

「先ほどフィジカルとサイコロジカルは、まるで拮抗するかのような表現をしましたが、実際は、両者は互いに関係し合い、共存します」
「もーっ……何言ってるかわっかんねぇ~~っ!!!」
「今後のレッスンでは、フィジカルで、的確にくすぐったいポイントをつく練習を行い、サイコロジカルで、くすぐったさをいかに認識させるかの練習を行います」
「は!? え? フィジカルとかサイコロジカルって科目名かなんかなの?!」
「そう捉えていただいても結構です」
 凛は顔をしかめ、再度「ぐぅ……」と唸った。

「わかりました。物凄く簡略化して言いましょう。フィジカルは『責め』の理論、サイコロジカルは『受け』の理論、と言えば、理解できますでしょうか?」
 凛は、ぽかんと口を開けた。
「……なんで最初っから、そう言ってくれんの?」
「誤解を招く可能性があります。サイコロジカルは『受け』と表現しましたが、これはあくまで責める側から、効率的に『くすぐったさを感じさせる』ことを目的としており――」
「あぁぁぁっ!! わかったわかったもうっ!! ダメだって、パンクするっ! 頭パンクするからっ! ……じゃ、なに? サイコとかフィジカルとかやっても、自分がくすぐり強くなるわけじゃぁないってこと?」

 美咲はじとっと流し目で凛を睨んだ。
「……遮りましたね。結論を言いましょう。効果的に責めることができるようになると、効果的に受け流すことができるようになります。つまり、『どのようにすれば、相手がくすぐったさを感じるか』を学ぶことは、『どのようにすれば、相手がくすぐったさを感じないか』を学ぶことであり、それはそのまま、自身の身体に応用できるのです」
 凛は目を泳がせ、
「……今、物凄く納得させられた自分が悔しいんだけど」

「それでは」
 美咲は水性ペンにキャップをすると、パンパンと手をはたいた。
「……チョークの粉とか、ついてないじゃんよ」
「これでイントロダクションは終りですので、先ほど私の言葉を遮った罰をかねて、最初のレッスンに移りたいと思います」
「……っ? ……はぃ?」
 凛は、美咲の発した『罰』という言葉に反応し、目をしばたたいた。

●●●

 美咲は、床に低反発マットを敷きながら、
「こちらへ横になってください」
「え!? こんなの、準備してたのかよっ!」
「あ、靴は脱いでください。文化祭用に購入した新品なので、汚さないようにしてください」
「あ、はぁい……」
 凛は靴を脱ぎ、白いハイソックスに包まれた足をマットの上へ置いた。
「仰向けに」
 美咲が促すと、凛はごろんと寝そべった。
「……ってぇぇっ!!? ふっつーに自分から寝転んだけどっ、罰ってなんだよっ!! 罰ってぇぇっ!!?」
「ずいぶん遅いツッコミですね。言ったはずです。次、私の言葉を遮ったら罰を与えると」
「無意味にっ!! 無意味に遮ったらだろっ!? さっきのは正当な理由が――、……もしもし? 図書委員さん?」
 美咲は、身体を起こしかけた凛の腰辺りに跨り、凛の上着のボタンを下から外し始めた。

「最初のレッスンでは、サイコロジカルの基礎を固めていきましょう」
「あ、もうスルー安定なんスね……」
 美咲は凛の上着をガバッと観音開きにした。
「わわっ!? ちょ、そんな乱暴に――」
 美咲は文句を言う凛の脇腹に両手を置いた。
「うふぉっ!!?」
 ワイシャツ越しに、ゆっくりと指先を優しく動かし始める。
「ひっ!? ひぅっ、ひひひっ!! あひゃっ、ちょ、きゃはははは、ダメ、その辺り、ヤバイって!!!」

「小林さん、まだ指先で脇腹を撫でているだけです。笑うのは我慢してください」
「きひひひひひっ、そ、あひゃぁっ!!? そん、そんなこと言ったってぇぇぇっ!!! あはははっ、ちょ、いひひひひっ」
 凛はぎゅっと握りこぶしを作って、マットを叩きながら身を捩る。

「小林さんは、どうしてご自身が、笑うのを我慢できないのかわかりますか?」
「ひひひっ、ひひひひ!!? そ、そんなの、くすぐったいからに、いひゃぁぁっ、決まって、きゃはははははっ!!! あぁぁ、も、むひひひひひひっ!!!」
「では、どうしてくすぐったいんでしょう?」
「何ぃひひひひひっ!? そんなのっ、お前がっ!! ひゃははは、くすぐってくるからっ!! あははははっ」
 凛は目に涙を浮かべ、首をぶんぶんと左右に振って笑う。

「結論を言いましょう。今、小林さんがくすぐったいと感じているのは、小林さんの中に『くすぐりに弱い』という認識があるからです」
「きゃはっはははっはっ!!? どゅっ、どうゆーことっ!? ひひひひ」

「私は今、フィジカルを無視してくすぐっています。いわば、完全な他人任せのくすぐり。受け手の認識に任せたくすぐりです」
「説明っ!? きひひっひっ、だかっ!! 難しく言うなよぉぉぉっはっはっは」

「私は今、『くすぐりに強い』という認識を持つ人ならば、耐えられるくすぐり方をしています。つまり、今小林さんを笑わせているのは、私の指ではなく、小林さんの中にある『くすぐりに弱い』という認識です」
美咲は指先で凛の脇腹をいじりながら、淡々と言った。

「いやいやっ!!? はっはっはは、私っ!! 現にっ!! 現に弱いしっ!? ってかぁ、指、当たってるからぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!」

「サイコロジカルの領域では、『くすぐりに弱い』という状況は、客観的には存在しないと考えます。『くすぐりに弱い』という状況や『くすぐりに強い』という状況は、主観的なもの。対象の中に『くすぐりに弱い』という状況を作り出すことが、いわば、サイコロジカルの到達点と言えるでしょう」

「またわかんないっ!! わかんないってっ!! ひひゃひゃひゃひゃっ! 最初からっ! 最初から、簡単に言ぇよぉぉっはっはっはっは!! 笑って、ひひひひ、考えらんねぇんだよぉぉっ!」

「……我慢するどころか、笑い方がどんどん激しくなっていますね。先ほどから動きは変えていませんよ。両手の親指と小指を除く計6本の指を交互に微動させながら、優しく左右から脇腹を挟み込むようにくすぐっているだけです」

「ひゃははっ、リアルに描写すんなぁぁっ!!! ひひひっ!! ひひひひっ!! ホントっ、ホントに弱いからぁぁっはっはっははっはっ!!」

「サイコロジカルでは、相手に『くすぐったい』『自分はくすぐりに弱い』と思い込ませれば勝ちなのですよ。ゆえに、私、責め側としましては、サイコロジカルの観点から、もう小林さんに施すことは何もないことになります」

「はぁぁぁっ!!? っはっはっはっはっは、だったらっ!! だったら早くとめっ――」

「そこで、逆行します」

「ひっひっひっひ~~。はいぃいぃぃっ??」

「相手に『くすぐったい』と認識させるための技術を、自分が『くすぐったい』と認識しないための技術に応用します」


 美咲はくすぐりを止め、凛のワイシャツのボタンを下から外していった。
「……わ、私は、どうすりゃいいの? このまま、……じっとしてればいい?」
「はい、結構です。……素直になりましたね」
 美咲は凛のみぞおち辺りまでボタンを外すと、ワイシャツの裾をペロンとめくりへそを露出させた。
 凛は美咲の顔をできるだけ見ないように、口を開く。

「めちゃくちゃだけどっ、押し付けだけどっ、カッコつけてて癪だけどっ、……なんか、理にかなってるし……、あんたが言うと、説得力あんだよ。私だって、あんたぐらい……くすぐり上手くなりたいし、強くなりたいから」

 凛は、両手は握り締めたまま、目を泳がせた。
「あんたのこと、一応、……信頼してんだから」

 美咲は、凛の言葉を聞き、フッと鼻息を立てた。
「……はじめから、そういう真摯な態度で臨んでいれば良いのですよ」
「ちょっ、お前っ! せっかくこっちが、恥ずかしいこといったんだからっ、少しは気ぃ使えよっ!」
「レッスンを再開します。小林さんは、そろそろ黙ってください」
 美咲は淡々と述べた。
「ちょっ、このっ……。もぅいいやっ! レッスン中! レッスン中だけだかんねっ!? 私は自分のために、お前に従ってやってるだけだかんねっ!? お前よりくすぐり上手くなったら、絶対お前っ、事あるごとに無理矢理笑わせてやるからっ! 覚悟しとけよっ!!?」
 凛は、仰向けに寝転んだまま怒鳴り、美咲をにらみつけた。

 美咲は、「そんなの最初から……」と挑発的な笑みを浮かべる。
「……望むところですよ」

●●●

 美咲は両手の人差し指を凛に前に見せ付けると、ゆっくりと凛の白いお腹へ近づける。
「ひっ……うくぅ」
 凛はぎゅっと目を閉じ、奥歯を噛んだ。
「きちんと見てください」
「……だ、見たら、余計くすぐったいじゃん」
 凛は薄く目を開けた。

 美咲は、凛の引きつった表情を確認すると、凛の素肌に触れるか触れないかの位置で指をわきわきと動かした。
「いひひひひひひひっ、ちょぉぉぉうふぅぅぅひひひひ、やめろぉっ」

「触っていませんよ?」
「わかってっ、ひひひひっ、わかってんだけどっ、むりっ! きひひひひ、我慢できないっうくくくひひひ」

「目を開けてください。もう止めました」
 再度目をぎゅっと閉じてしまった凛に、声をかける美咲。凛の目には涙が浮かんでいた。
「な、何がしたいんだよ……」

「このように、小林さんはすでに、私の指を見ただけで『くすぐったい』と認識するようになっています。私が先ほど散々くすぐったことによる条件反射、そして、小林さんの中にある『くすぐりに弱い』という自覚のためです」
 美咲はじっと凛の目を見据える。

「先ほどの説明。『くすぐったい』という感覚が防衛反応だという話を思い出してください。『くすぐったい』という感覚は、予期せぬ刺激から急所を守るための防衛反応です。ということは、予期できる刺激で、なおかつ、明らかに防衛の不要な刺激ならば、『くすぐったい』という感覚は生まれないことになります」

「……ん? でもさっき、私の腋くすぐられたとき、めっちゃくすぐったかった。位置まで説明させられて、刺激自体は予期できたはずだけど……」

「そこを説明し始めると、フィジカルの領域に入ってしまうので、今回は割愛します。私はこれから、小林さんから見える位置に、100%予期できるように、『明らかに防衛の不要な刺激』を与えます。小林さんは、笑わずに耐えてください」
「だから、見たら余計くすぐったいじゃんって……。私は、お前が言ったように、指見ただけで『くすぐったい』て認識するんだから、さ」
「私の指を『くすぐったくない』と思ってください。思い込むようにしてください。それだけで、大分変わります」

 美咲は人差し指を、そっと凛のお腹へ近づけていく。
「ふひっ……」
「我慢してください」
 凛は涙目になりながら、美咲の指を凝視した。口元はぷるぷると震え、今にも吹き出さんとしている。
「いきますよ? 3つカウントしながら近づけますので、しっかり身構えてください。くすぐったくありませんから」
「く、……ど、努力は、する」
 美咲は左右の人差し指を、凛のお腹へゆっくりと下ろしてった。
「3、2、――」
「……っ、ひゃっ! ひ、ひひっ、ひひ、……くひひひ」
 美咲が数え終わる前に、凛は笑い始めてしまった。

 美咲は呆れて、両手を宙に戻した。
「小林さん……。もうちょっと、耐えられませんか?」
「……なんか、こういうの、自己暗示みたいなのって苦手なんだって! くすぐったくない、くすぐったくない、って頭ん中で言い聞かしてるうちに、『なにやってんだろ?』とか思い始めちゃうからっ」
「自分を騙すのが苦手な口ですか」
「それそれ!」

 美咲は少し考える仕草をとる。
「それなら、私の指を、小林さんご自身の指だと思うようにしてください。目に見える分、頭の中だけで思い込むよりも、易いはずです」

「自分の、指?」
「そうです。私はこれから、3つのカウント後、小林さんのお腹、おへそからそれぞれ10cm程度離れた左右脇腹を、両手人差し指でそっと触れます。その一連の動作を、よくイメージしてください。一連の動作は、小林さんの意のままです。自分で自分の身体に触れるのと、なんら変わりありません」
「……わかった。やってみる」

 美咲が再び両手を構えると、凛は目を見開いた。
「3、2、――」
 凛はじっと、徐々に近づいてくる美咲の指を凝視ながら奥歯を噛んだ。
「1」
「……っ。あれ? おっ、えっ!? マジか!? これ、マジかよっ!!?」
 美咲の両手人差し指は、確かに凛の脇腹にのっていた。
「どうですか? 『触れられている』という感覚しかないでしょう。では、左右に動かしていきます」
 言うと、美咲はゆっくりと左右の人差し指で凛の脇腹を撫で始めた。
「……っ!! くっ、……と。全然大丈夫じゃんっ! なんだこれ!? ちょっと気持ち悪いけど」

「サイコロジカルの応用です。この程度の刺激ならば、認識だけで『くすぐったい』という感覚が和らげられるということが、わかっていただけましたでしょうか」
 凛が激しく感動するので、美咲は苦笑した。

「『くすぐったい』というより、なんか『気持ち悪い』感じ」
「正しい感覚だと思います。今、小林さんは私の指を敵と認識していませんので防衛反応が起こりません。しかも、私の指に対する『くすぐったい』という観念も薄れているため、小林さんは『笑い』に至らないのです」
「言ってること半分ぐらいしかわっかんえぇけど、すっげぇなぁ……。へっへーっ! これで、図書委員も怖くないぜぇ!」
「…………」

 美咲は、指の先端をぐりっと凛の脇腹に埋めると、そのままほじるように動かし始めた。
「いぃぃっ!!!? きゃはははははははっ!!! なひゃぁぁぁっ!? いきなりっ、あっはっはっははっはっは!?」

 凛は思い切り吹き出すと、美咲の手首を両手で掴んだ。
「ちょぃいきなりっ、いきなり反則ぅぅぅ、きっひっひっひ~~っ!! やっはっはっはっはっは!!」

「と、フィジカルをきちんと学べば、このようにいくら身構えた相手でも、調子に乗った相手でも、笑わせることができます」
「あははははははははっ、わかった!! わかったからぁぁっはっはっはっははっはっはっ!! ピンポイントでやめぇぇぇっへっへっへっへへっへへへっへっ!」


 美咲が手を止めると、凛は自身の脇腹を押さえた。
「ひぃ……あ、あんた、容赦なさすぎ」
「先ほどの感覚、お忘れのないように。擽力1~2程度のくすぐりならば、平然と耐えることができます。もちろん、笑おうと思えば笑えますが」
「……笑おうと思えば?」

「刺激を『くすぐったくない』と思い込む技術があるように、刺激を『くすぐったい』と思い込む技術もあるのです。先ほどの感覚を応用していただければ簡単です。……まぁ、小林さんの場合、もともと『くすぐりに弱い』という自覚があるようなので、この、いわゆる『盛る』技術を、新しい技術として習得する必要ないでしょう。先ほど私の言った『笑おうと思えば』という表現は、『我慢しようとしなければ』という表現に換えていただいて結構です」

「なっげぇよ! よく噛まねぇな。……とりあえずこれで、私は前よりくすぐりに強くなったってことか?」

 美咲は凛の腰から降りると、立ち上がり、スカートの皺を伸ばした。
「そう取っていただいて結構です。後は実践の中で、ご自身に合った『くすぐられ方』を構築していくのが良いと思います」
「実践って……もっとたくさんくすぐられろってこと?」
「そうですね。できれば、私以外の方にもくすぐってもらった方がよいです。委員長が最適でしょう。委員長は大変奥行きのあるくすぐり方をするので、かなり勉強になります」
 美咲は言いながら、ホワイトボードの傍までゆっくりと歩いていった。
「蓮か……。あぁぁっ!!? もしかして、あんたがくすぐり上手いのって、蓮にくすぐられまくってるからか!?」
 凛は上体を起こして、美咲の背中を目で追った。
「それもあるとは思いますが、絶対とは言えません。陽菜さんも私と同程度くすぐられているはずですが、彼女の擽力は一定です」
「そうなのか……」
「小林さんはL組の学級委員長ですので、文化祭の準備と理由をつけて簡単に委員長と行動を共にできます。機会は充分でしょう」
「あ、なるほど、そっかそっか。……立場で言うと私、実はあんたより、くすぐってもらえるチャンスあんのかぁ」

 納得して「ふむ」とアゴに手を当てる凛の元へ、美咲は水性ペンを持って戻ってきた。

●●●

「では、足を出してください」
「え、足? ……まさか」
「おそらく想像通りだと思います」
 美咲は凛の傍らに腰を下ろすと、凛の右足を取り、白いハイソックスをするすると脱がしていった。
「少し汗かいていますね」
「げっ、臭う!?」
「臭う、というよりは、蒸れたことによってソックスのつま先がややしっとりとしています」
「うぐぐ……リアルに言われると、きついな」

 美咲は凛の右足のソックスを脱がし終えると、人差し指を凛の足の小指と薬指の間にグリッとねじ込んだ。
「うひゃぁっぁぁぁっ!!? ちょっ、いきなり、ひぎぃっ!?」
 ギリシャ型の白い素足が、きゅっと歪んだ。

 美咲は凛の足の小指を二本指で掴むと、ぐりぐり動かし始めた。
「はひゃぁっぁっ!!? なはっ、ひひひひ、ちょ、やめぇっ!!」

 凛が膝を立てて、足を引っ込めようとするが、美咲は右手でがっちりと凛の足を掴んで逃がさなかった。
 美咲は左手の親指を、凛の足の小指の付け根にあて、ゴリゴリと引っかくようにくすぐった。
「ぐわぁぁっはっはっははっはっはっ!!! ちょっとぉぉぉっ!!? なんでいきなりっ! あっはっはっは、説明っ!! なんか説明しろよぉぉぉっはっはっはっはっ!! レッスンっ!! レッスンだろぅがぁぁぁっはっはっはっははっはははははっ!!!」

 美咲が手を離すと、凛は胡坐をかくように膝を曲げ、両足を隠した。
「と、このように、小林さんは、突然の刺激にはまだまだ対応できません」
「い、今のっ!! 突然とか関係なく、めっちゃ強かったと思うんだけどっ!?」
「強く感じたのは、おそらく小林さんが、見えない部位のくすぐりに慣れていないからだと思われます」
 言うと、美咲はペンを片手でくるりと回した。
「これから、小林さんの足の裏にペンで文字を書きます。小林さんは、書かれた文字を当ててください」
「…………。ごめん。先言っとくわ。それ、無理だ。絶ぇっ対、笑って答えらんない自信ある」

「先ほどのレッスンを思い出してください。理屈は同じです。予期できれば『くすぐったい』感覚は軽減できます。見える部位か、見えない部位かという違いだけです」

「それが、でかいんじゃんよ! 見ないと予期とかできんじゃん」
「さっき、目で予期していただいた刺激を、今度は、皮膚で予期していただきます」
「……説明頼む」

「サイコロジカルの応用第二段は、主に『くすぐりに強い』と認識している人間を笑わせるための技術の逆行です。小林さんは、さっき私をくすぐったときのことを思い出してください。私は背後からくすぐられたため、小林さんの指の動きを見ることはできませんでした。にもかかわらず、私はクスリとも笑いませんでした。何故だと思いますか?」

「え、……私のくすぐり方が、下手だった、……から?」
「…………」
「……?」

 美咲は冷たい視線を凛に向け、そっとペンを置いた。くるりと身を翻し凛の右足を左腋に抱えるように持つと、いきなり左手で足の指を握って反らし、右手の人差し指で凛のハイアーチをガリガリと引っかき始めた。
「にょぉぉぉっはっはっはっはっはっ!!? なにゃっばっ!! いぃぃっはっはっはっは!? なんでっ!!? なんでぇぇっひっひっひっひっひっひ~~っ!!?」

「きちんと考えて答えてください。『受け』の技術をレッスンしていたのに、どうして急に『責め』のお話になるのですか? そんな唐突な解答を要求するような質問を、私がするとでも思ったのですか?」

「そんにゃっ!!? 考えたっ!! 私だって考えたんだからぁぁぁっはっはっはっはっははっ!!!」

 凛は上半身を激しく捩りながら喚いた。

「考えてアレですか? 私がこれまでお教えした内容から導き出されたのが、あの解答だったんですか?」
 美咲は、暴れる凛の素足の土踏まずを激しく掻き毟った。
「はひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! やめっ!! だめぇぇぇっへっへっへへっへへへっ!!」

 凛は左足で美咲の背中を押し付けてもがいた。

「一体いつ私が、小林さんのくすぐりを『下手』だと言いましたか? まったく根拠のない当てずっぽうで、勝手に自分を過小評価して、思考停止しないでください」

「っ!!? あ、~~っははっはっはっははっはっ!! わかったっ!! わかった、ごめんなさいっ!!! いひひひひひひひっ!! いーっはっはっはっは、ちゃんとっ!! ちゃんと考えるからぁぁはははははははは!!!」
凛は激しく笑いながら、マットに爪を立てた。

「なら早く答えてください」
 美咲は指に力を込めた。
「ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃっやめぇぇぇぇっ!!! きっつっ!? あひひひひひひひひひっ!!」

「会話の流れを考えれば、わかるでしょう? 何故私は、小林さんのくすぐりで笑わなかったのでしょうか!」
「いひひひひひっ!!? あぁぁっはっはっはっ!!? あぁっ!!! ……よ、予期っ!! ひひひひひ、皮膚でっ!! 皮膚で予期したからぁぁっはっはっははっ!!?」
「その通りです」
 言うと同時に、美咲は凛を解放した。

「……ぁ、ぁ……ヒィ」
「考えられる頭があるのなら、言われる前に考えてください」
「……おゅ、お許し、を」

 マットの上でぐったりと寝そべり肩で息をする凛を見て、美咲は呆れたように鼻を鳴らした。
「……レッスンを再開します。私のように、いわゆる『くすぐりに強い』と自覚している人間は、無意識的なり意識的なり、くすぐりという行為に対して構えができています。具体的に言うと、他者の指が触れた瞬間、皮膚の触覚を頼りに指の動きを予測します。感覚的には、目で指の動きを追う作業と大して変わりません」

「……なんか、想像つきにくいね」
 突っ伏したまま凛はくぐもった声を出した。

「ゆえに『くすぐりに強い』と自覚している人間を笑わせる場合、未知の刺激を与える、複数の部位を同時にくすぐる、全身をくすぐる、もしくは一箇所を集中してくすぐる、などして、触覚において無理矢理ゲシュタルト崩壊を起こさせるのが効果的です」

「……まぁた難しい用語かよ。ゲシュタルト崩壊って、文字とかわかんなくなるあれ?」

「それは視覚におけるゲシュタルト崩壊の一例ですね。『ゲシュタルト』というのは『全体性』という意味ですね。ここでいう『全体性』は、皮膚で感知したある刺激を学習済みの『くすぐったい』感覚に結びつける識別機能、と単純に考えていただければ結構です」
「……モノ珍しい用語に食いついたのが間違いだった。次いってくれぇ」

「足裏文字当て、というのは、皮膚の識別機能を高めるのに効果的です。足裏の『くすぐったい』感覚を、『文字』という認識の上で『追いかける』ことで、触覚を鍛えることができます。『くすぐったい』を生じさせる物体が今どこに当たっているのか、目ではなく、文字通り肌で感じる練習です」

 凛はゆっくりと身体を起こし、ペタンとアヒル座りをした。
「……つまり、えぇーっと……、くすぐりを、目で見るのと同じように皮膚で感じる練習として、足裏文字当てするってこと、か」
「簡単に言うと、そういうことになります」
「ん、あれ? 敏感になる? てことはさ、……くすぐりに強くなるってよりは、弱くなる練習ってこと?」
「認識によっては、そうとも言えますね。意識のもっていき方次第です」
「あのさ、私『くすぐりに弱い』って自覚あんだけど、やばくない?」
「その認識を自由にコントロールする練習でもあるのです。技術を理解したうえで瞭然と『くすぐりに弱い』のと、何も知らずただ漠然と『くすぐりに弱い』のでは、かなりの差があります。前者は強力な武器になりますが、後者はおもちゃにしかなりません」
「う~ん……、なんとなくわかったような、わかんないような」
「始めましょう。足を出してください」
 美咲が凛の足首を掴んで前方へ引っ張り出す。
「ちょっ、タンマ!」
凛があわてて美咲の手首を掴んだ。
「はい?」
「足くすぐられると、あんたを、蹴りそうだからさ。……し、縛って、くんない?」

●●●

「ロープ用意してんだったら、最初からちゃんと縛ろうぜ」
 マットに尻をつき、両足を伸ばして座った凛はぼやく。左足のソックスも脱がされたため、両素足を美咲に突き出すような形になっている。
「……そんなに縛られるのがお好きなんですか?」
 美咲は、凛の両足首をぎゅっとロープで結びつけながら言う。
「そうじゃなくてっ!! 縛ってないと、あんたが危ないじゃんって話っ! 私、くすぐったがりなんだから、さ……、暴れて顔とか蹴ったら、悪いじゃんょ」
 凛が語尾を濁すと、美咲は目を伏した。
「……お心遣い、ありがとうございます」
 美咲がやけに照れくさそうな態度を示したせいで、凛も恥ずかしくなってしまった。
「なんだよ……っ。あんただって、……私がいつでも逃げられるように、一応っ、気ぃ使ってくれてたんじゃんょ。初めからロープ準備してた癖に……」

 お互いが柄では無いと察したようで、とりあえずにらみ合っておいた。

「はい。では始めます」
 美咲は、機械的な口調で言うと、ペンのキャップを外した。
「あ、言い忘れていましたが、わからなかった場合はコレで消して、書き直しますので」
「はぁっ!?」
 美咲はどこから取り出したのか、デッキブラシを凛に見せつけた。
「今回は先端部分のみ使用します」
「いやいやいやっ!? それで足の裏こするってこと!? それはやばくねぇか?」
「新品なので、衛生上は問題ありません」
「いや、そうじゃなくて……」
「始めます」

 美咲は、黒い水性ペンの先端をキュッと、凛の右足の裏、ちょうど小指の付け根のふくらみ辺りに押し付けた。
「っ……!! くふぅっ!? うひぃぃっ」
 凛の足の指がぎゅっと縮こまった。
「力を抜いてください。書きにくいです」
「いひ、ひひひひっ、ひゃははぁっ!! そ、そんなこと、いひぃ、ってもぉっ!!」

「皺がよっていると、縦棒が歪むのですよ」
 言いながら美咲は、ペン先を細かく動かし、凛の足の裏をこそいだ。
「いぃぃはっははっはははっ!!? それ字ぃぃぃっひっひっひひひ!? 字ぃ書く動きじゃないじゃんぁぁっ」
「皺の間にインクがつかないのです。脱力してください」
 美咲は、凛の足の裏の中央に寄った皺の間に無理矢理ペン先を押し込む。
「ぐがぁぁかかかっ!! わ、かぎひひひひ、わかったから、ストップ!!! 一旦やめっ! 一旦っ! うひひひひひ」
「ちょうど書き終わりました」
「……は」
 美咲が手を止めると、凛はきょとんとした。

「書かれた文字を答えてください」
「い……、全然、わかんなかった」
「次からはもっと足裏に神経を集中させてください」

 美咲は、右手でブラシを構え、左手で凛の足指を持って反らせた。
「ま、待って、それはっ! マジでヤバ――」

 凛の言葉を無視して、美咲はブラシでガシガシと乱暴に、凛の足の裏を磨き始めた。
「ぎゃははははははははっ!!? いぃぃゃっはっはっはっははっははっはははっ!!! だひゃぁぁぁっははっはははっはははっ!! ちょぉぉぉっほっほっほっほ!? 左足ぃぃぃ!? 左足は何にも書いてないじゃんぉぉぉぉっ、ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

「このように、プラスティック製のブラシは、やや厚い皮膚を持った足の裏をくすぐるのに非常に効果的です」
「いっひっひっひっひっひひっ、プラシュっ!? いーっひひひひひひ!」

 美咲は指の間までしっかりと磨いてやる。
「材質の違いによる刺激の変化について、詳しくはフィジカルのレッスンでお教えしようと思いますので、今回はほんの一例のみ」
「わかったっ!! わかぁぁっはっはっはっははっはっ!!! もぅ消えた!! もう消えたでしょぉぉっはっはっは、長いってぇぇっへっへっへっへ」

 美咲はブラシを置き、ペンに持ち替える。
「同じ文字を書きますので、今度は当ててください」
「……ヒィ……ヒィ、い、……インターバルとか、まったく、無しかよ」

「わかりやすいように、右足に一文字、左足に一文字にします」
 言うと美咲は、凛の右足の裏、ちょうどハイアーチの小指側にペン先をあてた。
「ぐわっッかっぁ!!! か、かかかっ!!?」
「……やけに変な声を出しますね」
「かかっ!? こ、ぐぎっぎぃいぃ、これでもっ!! 我慢してんだよぉぉっ!! くかぁヵ」

「書き終わるまで、力抜いていてくださいね」
「くひゃっ、かぁぁ! こんっ、画数多っ!? ぐぎっぎぎぎ、あひゃぁぁっ!!? きぃぃ、はひゃぁぁはっ!? ちょぃっ、いきなり強くっ、ぶはっ、ぐぎぃ」
 凛は目に涙を浮かべ、歯を食いしばった。
 力まぬように集中しているため、ペン先が動く度に、ぷるぷると足が震えた。

「次は左足です」
「……あ、あんさぁ。『はね』とか『はらい』んとこで、ぎゅっと力込めるのやめてくんないかなぁ……」
「そこまで把握できましたか。上出来です」
 凛の不平にサラリと返した美咲は、凛の左足、ハイアーチの親指側にペン先を当てた。
「くふぅぅぅっ。ちょっ、またっ!? いははっ!? だかっ、『はね』で力込めんなっ!! ぶはっ! ……あれ、終り?」
「以上です」

 美咲はペンを止めると、すぐにブラシを構えた。
「答えてください」
「……最初の奴、画数多くない?」
「不正解です」

 美咲は再びブラシを凛の右足にこすりつけた。
「ぎゃっはっはっはっはっはっ!!? ちょぉぉぉぉっほっほっほほほっ!! まはぁぁ、まだ答えてっ、答えてにゃってぇぇっへっへっへっへ!!」
「では、次回からはすぐに答えるようにしてください。時間稼ぎは不要です」

 足の指を反らし、引っ張り伸ばされた凛の土踏まずを思い切り掃除する美咲。
「ぐひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! だめぇっぇひひひひひひひひ、いぃぃぃっはっはっはっはっはは~~っ!!」
「画数が多いという所まで把握できたのであれば、もう後一歩です。動き方に注意が向けられるようになれば、完璧です」
「最後のっひっひっひっひっひっ!! 最後のは、『力』っ!? 『力』だろぉぉっほっほっほっほ」

 凛が笑いながら叫ぶと、美咲は「ほぅ」と感嘆の声を上げた。
「二回目で、字面を追えるほどの認識ができるとは、大変素晴らしいことです。この調子で――」
「ひははっ!? わかった!! わかったぁぁっはっはっははっは、『擽力』っ!! あんた書いたの『擽力』だろ! やめれぇぇっへっへっへっへ」
「……っ!」
 美咲は咄嗟に手を止めた。

◆◆◆

「……せ、正解?」
 凛は、肩で息をしながら美咲に問うた。
「何故、わかったのですか?」
「あんたの、ことだから、……今日教えてもらった知識の中から、単語選ぶかと思って」
 凛が顔を赤くしたまま、涙目で美咲を見る。
 美咲は思わず目をそらした。
「そ、そんなの。不正ですよ。皮膚感覚を鍛える訓練で、勝手に予測とか、しないでください」
「……はぁ?」
 凛はごくりと生唾を飲み込むと、再び口を開く。
「無茶言うなよ……。脳の回路まで、コントロールしろってか?」
「…………」
 美咲は凛の顔を見直し、考える仕草を取った。
 凛は、美咲の顔を上目遣いに見ながら言葉を繋いだ。
「思ったんだけど、足の裏に字ぃ書いて当てるって言っても、最終的には、予想で答えることになる気がする。いやっ! もちろん、目に見える感覚に近づけるって目的はわかんだけどさっ! さすがに、頭の中に『あれ、これじゃね?』ってよぎっちゃうからさ。あんたからじゃ、私の答えが、ちゃんと皮膚感覚だけで出されたもんか、予想も混じってんのか判断できないわけだし」
 美咲は大きく頷いた。
「小林さんの意見は、全面的に正しいと思います。今回は、私の方に不備がありました。先ほどの発言と重ね、申し訳ありませんでした」
 美咲は頭を下げた。
「いやいやいやっ!? 頭下げるほどのことじゃないじゃんよっ! やる前は私だって納得したんだし……」

 しばらく腕を組んで考え込んだ美咲は、「あ」と声を出した。
「理解しました。やはり、アプローチの仕方は間違っていませんでした。問題は、認識の対象として『字』を選択したことにあったのです」
 美咲はすばやく立ち上がると、新たに紙とボールペンを準備し、凛の元へ持ってきた。
「これから私は、小林さんの足の裏に一筆描きの図を描きます。小林さんは、それと同じ図をこの紙に描き写してください」
「この、紙に……。あぁっ!! なるほどぉ。あんた、やっぱ、すげぇな。それだと、描かれる側に、予測の余地ねぇもんなぁ」
 凛は、感嘆の声を上げて何度も頷いた。
「ありがとうございます。小林さんのおかげで……」
 美咲は柔和な笑顔を作りかけて、言葉を切った。それを受け、凛はハッとした。
 凛と美咲は互いに顔を合わせて、不服そうな顔を作る。
 美咲はコホンと咳払いをし、まくしたてるように、
「高次の練習ならば、交差や離しを含む図もありですが、今回は初日ですので――」
「はいはいっ! 完全下校まで時間もあんま無いし、とっとと始めようぜ? こっちはもう準備できてんぜぇ?」
 凛はマットに寝そべって、ボールペンを構えた。
「……遮りましたね?」
「だ~か~らぁっ! さっさとやれ!」
 二人はにらみ合ったまま苦笑した。

◆◆◆

「小林さんは、充分素質があると思いますよ」
 下校時刻寸前、二人は互いに背中を向け合って帰り支度を進めていた。
「何それ、褒めてんの?」
「私は客観的に判断したことを言ったまでです。小林さんは、くすぐりという行為にかなり興味をお持ちのようですし、その技術に対する向上心も持っています。なにより、自尊心が高く負けず嫌いな性格は、このように鍛錬を要する技術力の向上には有利です。今後の擽力開発に期待が高まります」
「それ、褒めてないんだ」
「褒めては、いません。ギャンブルには向かない性格ですので、賭け事には絶対に手を出さないでください。必ず『負ける側』になります」
「あー、なんか中和された気がする」

 凛は、美咲の背中に向かって、
「ソレ、あんたも、だろ?」
「はい?」
 美咲はワイシャツ袖のボタンを留めながら、首をやや後ろへ傾けた。
「その、鍛錬に向く性格、プライド高いっての」
「まぁ、そうですね。私は理性で自尊心をある程度コントロールできますが」
「はぁっ!!? バレバレじゃんよ! お前、プライド高すぎっ!!」
「外面ににじみ出ている印象については気にしていません。他人がどう思おうが、知ったことではありませんから。私は、内面における統制の話をしています」
「いやっ……悪い。長くなりそうだし、いいわ……。振っといてなんだけど、時間結構危ないし」
「大きな疑問があるのです」
「……続けんのかよ」

「何故、私は、委員長に落とされてしまったのか?」

「……んぅ!? 話、変わってない!?」
 凛が素っ頓狂な声を出す。美咲は身体ごと凛の方へ向けると、腕を組んだ。
「私は、私自身が委員長に『くすぐり』というおかしな行為によって落とされてしまったことが、疑問でならないのです。本来、ありえないはずのです。強がりや根拠のない自信ではなく、論理的にありえないはずなのです」
「……ありえてんじゃん」
「だから疑問なのです。私は自分なりに、『くすぐり』という行為について研究しました。不完全ながら理論を構築し、体系化しました。擽力をフィジカルとサイコロジカルの二つの観点から考える手法は、現段階での私の到達点です。……それでもですよ!」
 急に美咲が声を張ったため、凛は「おおっ」と声を上げて驚いた。
「『くすぐり』という行為が、何故、私を感化したのか、わからないのです。どれだけ擽力を高めたところで、他人の価値観の根幹を揺り動かす……、いえ、完全に置き換えてしまうほどの力が、『くすぐり』にあるとは思えないのです」
 美咲は、身振り手振りをつけて言葉を繋ぐ。
「紛れも無い事実として、委員長の指を欲していながらです。明確な事実として、まるで初めからそう決まっていたかのように、私は、あの指の必要性を自覚している。自分自身の価値観の根底にある、この前提の存在が、果てしなく疑問なのです」
「……う~ん。それ言われて、私はどう反応すりゃ――」
「そこで私は、一つの可能性にたどり着きました」
「……へいへい、どのような?」

 美咲は動きを止めると、ゆっくりと口を開いた。

「委員長の指には、擽力とは別の、理屈では説明不可能な能力が備わっています」

「…………」
「…………」
「……っ!?」
「…………」
「はぁぁぁぁあぁぁっ!!!? 何それ何それっ!? SF!? ファンタジー!? 意味わかんねぇ意味わかんねぇ意味わかんねぇっ!!」
 凛はアワアワと、頭を掻き毟った。
「落ち着いてください」
「いやいやいやっ!!? あんた、頭の中煮詰まりすぎて、沸いたんじゃねっ!!? レッスン中もところどころ意味わかんないこと言ってたけど、今回は本当に意味わかんないって!!」
 凛は、美咲の正面で両手をおっぴろげ、オーバーリアクションを取った。
「『訳がわからない』の間違いだと思います。意味を把握したから、そんなに動揺しているのでしょう?」
「揚げ足とんなって! え、え!? さっきまで一応筋通ったっぽいこと言ってたのに、いきなりどうしたっ!? ホントに! ホントにどうしたっ!?」
「私は説明できないことを説明できないといっただけですよ? ……信じられないのも無理はありませんが、そういう不思議な能力、ある種魔法のような能力が委員長の指に備わっていると考える方が、無理矢理説明付けるよりも自然です」
「だっけど、さぁ……」
「なら、小林さん? どうして私たちは、委員長のあの十本の指を欲して、張り合ったり、蹴落としあったりしているのですか? 私たちが委員長に何をされましたか? 薬を飲まされたわけでもなく、脳をいじられたわけでもなく、ただくすぐられただけです。くすぐるだけで他人を服従させる能力を、理屈で説明できるのならっ、是非お聞かせ願いたいです」
 美咲はまくし立てるように言い、凛の肩を掴んだ。
「いやいやっ、わ、私は説明なんか、できないけど、さ。ちょ、あんたの方が落ち着けよ」
 美咲はハッとして手を離す。
「……すみません。熱くなりすぎました。委員長は確かに、言葉巧みに私たちを落とそうとしました。が、それは所詮ちょっと格好付けな男子高校生の『ごっこ遊び』の範囲を出ないものです。私が落ちるはずなかったのです……。私が、……この私が、こんなにも委員長の指を欲している。その事実を私は割り切っていても、未だ信じることができないのです。私だけではありません。葵さんだって……、葵さんは今やすっかり、委員長の指を受け入れてしまって、彼女自身疑問にすら思っていないようですが、……彼女が落ちたことこそ、委員長の能力が理屈で説明不可能であることを証明していると思いませんか?」
「……うーん。まぁ、確かに……」
 美咲はふぅと息をついた。
 凛の困ったような表情に気付くと、美咲はばつの悪そうな顔をした。
「すみません。ちょっと話が込み入りました。……その、『くすぐり』という行為に疑問を抱いているからこそ、私の技術は上達したのかもしれませんので、小林さんも自分なりの『くすぐり』を探求していってください。……という趣旨の話のつもりだったのですが」
「脱線したな」
「申し訳ありません。委員長の指の可能性についての話は忘れてください。ただの私の仮説なので」
「いやいやいやっ!? あれ聞いて忘れるのは無理だって! ……いや、まぁ、ぶっちゃけ、すげぇこと考えてんなぁって感心したし」
 凛はこめかみをぽりぽりと掻きながら目をそらした。合わせて、美咲も目線をずらした。

「……その、能力って、さ」
 少し気まずい間を味わった後、凛が神妙な面持ちを作った。
「……はい」
「ホントにっ。そういうのが、あったとしたら、……蓮だけ、かな?」

(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 再びこんばんは。ertです。
 こちらでも"わんだりあ"のDaria様よりいただいた絵をご紹介いたします。
美咲(ダリア様より頂戴)
 美咲!
 すました表情と、なんか決めたポーズ、凛と対照的なぴっちりと生真面目そうな制服の着こなしが、まさに美咲らしくてステキやん!
 凛絵と並べて見ますと、美咲がどやぁっと頭のよさそうなアホな理屈こねくり回すのを、呆れて聞く凛の関係性が見えてきてインスピレーションが高まりました。
 そんな美咲×凛の関係性を描いた本作の表紙として、イラストは使用させていただきました。
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