くすぐり作文晒し場

カワイイ女の子の靴下脱がしーの足の裏をコチョコチョしちゃう系小説投稿ブログ! 本番行為は一切無しなので、健全な18歳児でも安心してお楽しみいただけます!

2014年08月

笑いは百薬の長

 T高校一年G組の保健委員宮崎里奈(みやざきりな)は、クラスメイトの小山春花(こやまはるか)の体調が気になっていた。
 春花は身長150cm程度、髪の毛をツーサイドアップに結んだ病弱な女の子で、よく倒れる。春花が授業中に倒れるたびに、里奈が保健室に送り届けてやる光景は、すっかりG組では見慣れたものになっている。
 本日春花は三時間目の授業中に倒れ、午前中は保健室で休んでいた。昼休憩の後教室にもどってきたのだが、五時間目が始まってからずっと顔色が悪い。
 授業が半分ほど進んだところで、春花は教師に体調不良を訴え、保健室へ行く旨を伝えた。教師が指示を出す前に、里奈は「私が連れて行きます」と席を立った。
「いつもごめんね。宮崎さん」
 保健室に向かう途中、春花は心底申し訳なさそうに顔をゆがませる。
「小山さん。無理しないで……」
 里奈は身長約163cm、ショートボブで、春花と並んで歩くと見事なでこぼこコンビに見えた。
 入学式の日、偶然トイレに訪れた里奈が気分悪そうにうずくまっていた春花の背中をさすってやったのが、二人の出会いだった。里奈が保健委員に立候補したのも、春花を気遣ってのことだった。

「失礼します……」 
 里奈は春花の背中を支え、保健室に入る。
 保健室の中は無人だった。
 里奈は一番奥のベッドに春花を連れていった。
「小山さん。ここで休ん……でっ!?」
 振り向き際に突然、春花が里奈をベッドに押し倒した。

●●●

 突如ベッドの下から現れた四本のマジックハンドが、里奈の四肢を掴み、拘束する。
「え……っ、何?」
 里奈はまったく状況が飲み込めず、当惑する。身体が大の字に引っ張られ、ベッドの上に仰向けに押し付けられる。
 その様子を見下ろす春花の手には、リモコンのようなものが握られていた。
「……小山、さん?」
 里奈が春花の顔を見上げて言う。いやらしくぎらついた春花の眼差しが突き刺さる。いつもおどおどとしていた春花はと別人のように感じられた。
「ごめんね。宮崎さん。もう私、今朝までの私じゃなくなっちゃったんだ」
 春花はベッドの上に膝を乗せ、里奈のブレザーのボタンを上から順に一つずつ外し始めた。
「なっ……それって、どういう……?」
 動揺する里奈。
 春花は里奈の上着を大きく広げると、平坦な里奈の胸にワイシャツの上から手を置いた。
「きゃっ!?」
「ねぇ、宮崎さん。こういうのは嫌い?」
 春花は里奈に添い寝するように横になると、人差し指で里奈の胸の周りをさわさわと触り始めた。
「ひゃっ……ちょっ! ちょっと、小山さんっ……やめっ、く、ふくっ、くすぐったい……」
「あ、宮崎さん、案外くすぐったがりなんだぁ。ちょっとクールなイメージがあったから強そうに見えたんだけど」
 春花は甘ったるい声を出しながら、人差し指で里奈の腋の下をほじくる。
「あはっ、あはははっ……やっ……何っ!? 小山さん……んふっ、やめて」
 突然のくすぐったさに思わず吹き出してしまったが、なんとか耐え、身をよじる里奈。
「へぇ、耐えられるんだぁ? じゃあこんなのはぁ」
 言いながら春花は、指先で里奈の脇腹をつんつんとつついた。
「ひっ!!? ひゃ……っ!! ちょ、やだっ! やめっ……小山さんっ、ホントにっ! いひっ……どうしたのっ! ……んひっ!?」
 里奈は混乱していた。
 明らかにこれまでの春花の態度ではない。彼女にいったい何が起こったのか……?
 ふいに立ち上がる春花。
「教えてあげる。宮崎さん。見て、ここのベッド、全部新調されているでしょう?」
 里奈は、春花の責めの余韻で息を切らせながら、保健室内のベッドを見渡した。
 確かにベッドの形が若干変わっているようだ。
「『こちょこちょベッド』って言うんだって」
 里奈の足下に移った春花は、里奈の両足からローファーを脱がした。
「こ、こちょ、こちょ……?」
 里奈は戸惑い気味に復唱した。
「午前中。私、このベッドにい~~っぱい、こちょこちょされちゃった」
 春花はえへへと笑いながら、言葉をつなぐ。
「最初は苦しかったんだけど、だんだん頭の中がぼーっとしてきて、……そしたらね、昼休みに生徒会長さんがやってきたの……」
 春花がリモコンをいじると、ベッドの下から計十六本のマジックハンドが現れ、里奈を取り囲んだ。
「ひっ!?」
 思わず悲鳴を上げる里奈。
「あ、言われたとおり操作できたぁ」
 春花は嬉しそうに言い、
「会長さんにくすぐられたら、私、本当に、本当に、気持ちよくって頭の中がとろけそうになっちゃったんだぁ……うひっ」
 春花は思い出したのか、涎をたらして笑った。
 里奈はぞっとする。
「こ、小山さん、まさか……」
「書記の人に言われたの。五時間目の間に保健委員さんを連れてきて『こちょこちょベッド』でくすぐっておくようにって。そしたら私、会長さんにまたくすぐってもらえるんだぁ。だから、宮崎さん。ごめんね。うひっ」
 春花がリモコンを操作すると、十六本のマジックハンドが、一斉に里奈の身体へ襲い掛かった。

「――っ、はっ!!! あぁぁぁぁっははっはっはっはっはっはっはっ!!? だっ、駄目ェェぇ~~っはっはっはっはっはっはっは~~っ!!!」
 首、腋の下、胸、あばら、脇腹、脚の付け根、足の裏と、くすぐったい部分を一度にくすぐられ、里奈は悲鳴を上げた。

「宮崎さんが大声で笑うところ、私、はじめてかもぉ」
 ふふっと笑みを浮かべる春花。
「嫌ぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! くすぐったいっ!! くすぐったいよぉぉ~~っふぁっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈にとって、全身をくすぐられるのは初めての経験だった。
 しかも、くすぐってくるマジックハンドの力加減が絶妙で、里奈に耐え難いくすぐったさを与えた。
 首は撫でるように、腋の下はほじくるように、胸はいじくるように、あばらはほぐすように、脇腹はこそぐように、脚の付け根はえぐるように、足の裏はひっかくように……。
 マジックハンドの指がわきわきと、里奈の体中で蠢く。
「やだぁぁぁっはっはっはっはっ、くすぐったいぃぃぃっひっひ、こやっ!!! 小山さんとめてぇぇぇぇっへっへっへっへっへ」
 里奈は必死に身体をよじり、マジックハンドの指から逃れようとするが、左右から押し付けられた指が皮膚に食い込み、どうしてもくすぐったさから逃れらない。
「駄目だよ宮崎さん。機械とめちゃったら、私が会長さんにくすぐってもらえなくなっちゃう……。それに、宮崎さんもすぐ気持ちよくなってくるから」
 里奈は、朦朧とする頭で春花の言葉を咀嚼し、ぶんぶんと首を左右に振り、
「やぁぁっはっはっはっは!!!! 嫌あぁっぁっはっは、きもち……っ!!! 気持ちよくなんかなりたくないぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひ!!」
「やみつきになっちゃうよ」
「やだぁぁぁっはっはっははっはっはっ!!! 狂ってるっ!! ひっひっひ、小山さんおかしいよぉぉ~~っはっはっはっは!!!」
 腹の底からわきあがってくる笑いが抑えられない。
 里奈は、涙を流して春花に抗議した。
「あぁっ、宮崎さんそれはひどいよぉ」
 頬を膨らませて見せた春花は、「えいっ!」とリモコンのボタンを押した。
 途端、マジックハンドの動きが活発になった。
「いっ!!!? いやぁはははははははははっ!!!! 何ぃぃぃぃっ!!! 何したのぉぉぉ!!?」
「宮崎さんが私のこと馬鹿にするからだよ。ちょっとくすぐりを強めてみたの」
 春花は満面の笑みを里奈に見せた。
「やぁぁぁあっははははははははははっ!!!! こやっ!!! 小山さんやめてぇぇ~~っはっはっはっは!!! これっ、ひぃぃぃ~~ひひひひひひひひひ、これきつすぎるぅぅ~~ひゃはははははははっ!!!」
 里奈はびくびくと身体を小刻みに震わせて泣き叫ぶ。

「あ、このボタンは何かなぁ?」
 春花は首をかしげて言うと、再びリモコンの何かしらのボタンを押す。
 すると、首と脇腹をくすぐっていた計四本マジックハンドがベッドの下へひっこむ。
「あっはっはっはっはっ、何っ!!? 何したの小山さんっ、ひっひっひっひっ」
 すぐにもどってきた四本のマジックハンドには羽箒と孫の手が握られている。
「いやぁぁっはっはっはっ!!!? そんなっ……そんなの駄目ぇぇぇっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈の哀願むなしく、羽箒は首筋、孫の手は両脇腹へ襲い掛かった。
「うはぁぁぁ~~っはっはっはっはっは!!! あぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!! ぐほっ、ひゃぁぁぁ~~っはっははっはっはっは!!」
 羽箒のぞくぞくとする感触、孫の手のぞりぞりとひっかかれる感触がたまらなくくすぐったい。
「いぃぃぃ~~っひっひっひっひっ!!! ひぃぃっひっひひ、死ぬぅぅ~~っほっほ、死んじゃうぅぅ~~っはっはっはっは!」

「じゃあこのボタンは?」
 春花は再びリモコンをいじろうと手をかける。
「ちょっとぉぉ~~っはっはは、遊ばないでっ! 小山さ……なははははははっ!!! 遊ばないでぇぇぇっ!!」
 里奈は叫ぶが、春花はにっこりと何らかのボタンを押す。
 すると今度は、内股をくすぐっていた脚をくすぐっていた一本がスカートの中へ侵入し股間をまさぐり、足裏をくすぐっていた二本がそれぞれ櫛と耳かきを持ち出してきて、足裏をかりかり引っかき始めた。
「あひゃっ!!!? きぃぃぃっひっひっひっひっひっ駄目駄目駄目ぇぇぇはははははははっ!!! 駄目だってばぁぁぁはっはっはっはっはっは!!!」
 スカートの中ではマジックハンドの指がいやらしく踊り、ソックスを履いた両足の裏では櫛と耳かきが的確に土踏まずを責めてくる。
「あぁぁっはっはっはっ!!! もういやっ、もう嫌ぁぁぁっはっはっはっはっはっは~~!!!!」

 五時間目の終了チャイムがなる頃には、すっかり里奈の声は枯れ、全身汗びっしょりになっていた。

●●●

「やあ、里奈、楽しんでるかな?」
 少し前の選挙で就任したばかりの佐藤蓮(さとうれん)生徒会長が、里奈の顔を覗き込んできた。至近距離で見る会長の顔は、なかなか格好良かった。里奈は、きっと鼻水と涎であろうぐしゃぐしゃな顔を見られ、恥ずかしかった。
「……た、楽しく、ないです」
 里奈は、息を荒くして答えた。
「会長さぁん。早く私をくすぐってくださぁい」
 隣の『こちょこちょベッド』で春花が艶かしい声を出した。上着と靴を脱ぎ、自ら大の字に寝そべり拘束されて、準備万端と言った感じだ。
「春花。里奈が終わったらすぐやってあげるから、それまで待っててね」
「そんなっ、会長さぁ~~ん……約束してくれたじゃないですかぁ。私待てないですぅ」
 駄々をこねる春花。
 そのとき、会長の隣にいたポニーテールの女子生徒が会長の袖をちょいちょいと引っ張った。
「佐藤君。休み時間、あと六分しかないよ。あんまり喋ってると……」
「ありがとうハルナ。聞き分けの悪い春花にはちょっとお仕置きが必要だね。ハルナ、そっちは任せるよ」
「うん」
 言うと、ハルナと呼ばれた女子生徒がリモコンを操作した。
 途端、春花の無防備な身体に計十六本のマジックハンドが一斉に襲い掛かった。
「やっ!!!? きゃははははははっ!!? あぁぁぁんっ、会長さぁぁんっ、にゃはははははははっ!!! お願いっっひっひ、会長さんの指でぇぇぇ!! うはははっ、会長さんの指でぇぇぇっ!!! ふにゃぁぁぁ~っはっはっはっはっは~~っ!」
 春花は高くかわいらしい笑い声を上げた。身体をねじり、髪の毛を振り乱し笑い狂う姿は、病弱な春花のイメージと程遠い。
「春花ちゃん。順番は守らないと駄目だよ」
 ハルナは、めっと諭すように春花に声をかけた。

「さて、里奈。くすぐりには慣れたかな?」
 佐藤会長は、言いながら里奈の両足からソックスを脱がし取った。
「……な、慣れません」
 里奈は正直に答えた。
 佐藤会長が何をしようとしているのかは予測できたが、大笑いして疲労困ぱいしており、頭がうまく回らない。
「……か、会長さんは、なんで……こんなこと」
 佐藤会長は里奈の質問には答えず、里奈のエジプト型の扁平足に指を這わせた。
「あっ、あぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!?」
「里奈は今日から、僕のくすぐり奴隷になるんだよ」
 佐藤会長の指が、しゃりしゃりと里奈の足の裏で音を立てる。
「やはははははははっ!!? くすっ、くすぐり奴隷って何ですかぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 佐藤会長は答えてくれない。
 かわりに、右足の親指と人差し指の間に、会長の指がねじ込まれた。
「うひゃっ、ひゃっはっはっはっはっ!!! 駄目ぇぇぁっ、やめてぇぇぇ~~かっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈は、これまでに経験したことのない異様なくすぐったさにパニックに陥る。
 足の裏から送られてくる刺激は強烈で、直接の頭の中へ指をつっこまれ脳をぐるぐるとかき回されているような感覚がした。
「がぁぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっ!!! 何コレぇぇぇっひゃっひゃっひゃ! おかしぃっ!! おかしぃぃぃっひっひっひっひっひ~~」
 里奈は隣から聞こえてくる春花の甲高い笑い声をかき消すような大声で笑い狂う。
「楽しくなってきたかい?」
 佐藤会長の四本指を、左足のかかとに感じた。右足は、土踏まずを二本の指でくすぐられている。
 会長の言葉とくすぐったさが、脳内に一度に流れ込み、雑念が押し出されていく。
「あぁぁぁあっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! 嫌あぁぁぁはははははははっ、狂うっ!!! ひひひひひひ、おかしくなっちゃうぅぅぅううっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈は自分を保とうと必死だった。
 が、見えないはずの足の裏の様子が、頭に浮かぶ。
 佐藤会長の指が踊り狂う。
 くすぐったい。
 左足の指を反らされ、指の付け根をがりがりと掻き毟られる。
 くすぐったい。
 脳裏の映像が鮮明になっていくにつれ、余計にくすぐったさが身体を支配していく。
「がぁぁぁぁっはっはっははっ、だっひゃっひゃっひゃ!!! うひぃぃぃぃ~~ひゃひいひぃひぃひぃ」
 
「どう? 里奈。僕の指、もっと欲しくないかい?」

 あ。

 里奈は、ぷつんと頭の中で何かが途切れる感覚がした。
 途端、強烈な欲求が、頭の内側から温泉のようにあふれ出てきて、からだ中を駆け巡った。

「あははははっ、もっとぉぉぉ~~っはっはっはっはっはっ、もっとくすぐってくださいぃぃぃ~~っひっひひひひひひひひひひひっ!!」
 里奈は涙を流して懇願した。
 里奈は驚き戦いた。

 どうして私は『もっとくすぐられたい』なんておかしなことを思って――

「あぁぁぁあひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? ぐひゃひゃひゃひゃひゃっひぃぃ~~~ひひひひひひひっ!!!」
 両足の土踏まずが思い切り掻き毟られる。
 里奈は、一瞬脳裏をよぎった疑問を完全に忘れてしまった。

「にゃっはっはっは!! 会長さぁんっっはっはっはは、早く私をぉぉ~~、私をくすぐってぇぇ!!」
 隣の『こちょこちょベッド』で春花が叫んでいる。
 里奈は、佐藤会長が『春花ではなく自分をくすぐってくれていること』に、優越感を覚えた。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 このシリーズ、案外受け視点と相性がよさそうだったので、書いてみました。
 就任した明朗快活な新人生徒会長の黒い噂!? 最近、生徒会執行部員に続いて、どうやら専門委員長達の様子もおかしい!? 専門委員会一般生徒に忍び寄る影!

『こちょこちょチャレンジ』

 ごくごく普通の女子高生福田(ふくだ)は、深夜番組『こちょこちょチャレンジ』のバイトスタッフであった。
 仕事内容は、番組収録時に『こちょこちょ隊』としてアイドルをくすぐること。
 普段は前髪ぱっつんの耳だしボブヘアをチャームポイントにしているが、仕事中はいつも、頭からつま先まで全身黄色タイツ姿で、顔に面をつけているため、カメラ越しには性別すらわからない。

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!! うへへへへへへへへ……っ、いぃぃ~~っひっひっひっひっひ!!!」

 X字に拘束され、首、腋、お腹、太腿、足の裏を福田を含む8名の『こちょこちょ隊』にくすぐられているのは、こだまプロダクション所属のアイドルユニット『新幹少女(しんかんしょうじょ)』のロリ担当(?)の、つばめであった。

「ぎゃひひひひひひひひっ、ギブっ!!!! ひぃぃっひっひっひ、ギブギブギブぅぅぅ~~うひゃひゃっ!!!」

 つばめは、黒髪ツインテールを振り乱して笑い狂っている。
 同局の『新幹少女』の冠スポーツバラエティ番組で甲子園特集をやったばかりということもあって、チアリーディング衣装での出演であった。
 タンクトップのためにがら空きになった腋の下や、裾から丸見えのおへそ、短いスカートから伸びる太腿に、サテン手袋やゴム手袋をはめた『こちょこちょ隊』の指が走る。
 福田はつばめの左足の裏を担当してた。足下にはつばめから脱がし取ったチアシューズと、膝まであったラインソックスが散らばっている。
 指にゴムいぼのびっしりとついた手袋によるくすぐりは非常にきついらしく、つばめの足の指は苦しそうに開いたり閉じたり滅茶苦茶に動いていた。

「あひぃぃ~~ひゃひゃひゃっ!!? ギブだってぇぇぇ~~っははっはっはっは!!!」

「おーっと、つばめさん。必死に『ギブアップ』を連呼しますが、残念! 番組のルール上、最低10分はくすぐり続けることになっています! あと2分、がんばってくださいねーっ」
 実況のアナウンサーが無慈悲に煽り立てる。

「ぎゃぁあああっはっはっはっはっ!!! 嫌ぁああぁはははは、やめてぇぇぇっはっはっはっ!!! もうやだぁぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!」

 アイドルのかわいらしい顔は、醜くゆがみ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
 番組プロデューサーは鬼だな、と福田は思う。くすぐりながら、カメラの前で舌を出して泣き叫ぶトップアイドル(笑)のつばきに同情する。

 2分たって、『こちょこちょ隊』はセットからはけた。
 セット裏でペットボトルの水を飲む福田。
 つばきの出番が終了した後、実況アナウンサーは声を張り上げた。
「さーて、続いての挑戦者はー?」
 ドラム音と一緒に、セット中央に設置されたカーテンが開く。
「765プロからお越しの、如月千早(きさらぎ ちはや)さんです!」
 効果音とスモークの中、登場した千早は「どうも」と無愛想な挨拶をする。千早はつばきのような気合の入った衣装ではなく、普段着のような、シャツとデニムパンツというスタイルであった。
「おっと千早さん。長袖長ズボンとは、完全武装ですねぇ~~」
「いえ、そういうつもりでは……」
 千早はアナウンサーのノリに絡みづらそうに受け答えをする。
 軽い雑談、アナウンサーによる千早の実績、活躍の紹介、宣伝後、
「運命のルーレットぉぉぉっ!」
 実況アナウンサーが仰々しく言うと、再びスモーク演出とともに華美な装飾を施された電光板が出現する。
「スイッチぃぃぃオン!!」
 千早が手前のボタンを押すと、電光板に大きく『30』『STOCKS』と表示された。
「うぉぉ~~っと! 番組最長の30分がでましたーっ! 100万円獲得のためには30分間『こちょこちょ隊』によるくすぐりに耐えなければなりません! もしギブアップしても、半分の15分間は強制的にくすぐられます! そ、し、て、スト~~ックス! せっかくの完全武装が台無しだぁぁ! 拘束方法はさらし台による足拘束に決定しましたぁ!」
 千早は少しだけがっかりしたような表情を見せた。アナウンサーが言ったように、長袖長ズボンでくすぐりへの耐性を少しでも上げようという意図があったのだろう。
 スタッフである福田は知っている。
 電光板の表示は厳正なる抽選でもなんでもなく、番組ADが恣意的に操作をして表示しているのだ。
 露出の多い服装だとX字、スカートだと各種開脚椅子など、表示項目はだいたい決まっている。くすぐる時間については、ほとんど番組プロデューサーの独断で事前に決定されている。

「千早さん。当番組『こちょこちょチャレンジ』の参加は今回がはじめてということですが、今のお気持ちはいかがですか?」
 靴と靴下を脱がされ、木製のさらし台に、足10本の指までがちがちに拘束された千早にアナウンサーが質問した。
 千早は少し困ったように眉を寄せて、
「……体を触れられるのはあまり好きでないので、正直、あまり気乗りはしません」
「『くすぐり』という行為にどんなイメージをお持ちですか?」
 続いて投げかけられたアナウンサーの質問に、千早は「そうですね……」と考えをめぐらせるように間を空けた。
 そろそろ『こちょこちょ隊』の出番だ。
 福田は面を被り、他のメンバーと一緒にセット裏でスタンバイする。
「こどもの戯れ、という感じでしょうか……」
 千早は自信なさそうに言うが、福田にはかなりのビッグマウスに聞こえた。
「あまり考えたことがありません」
 アイドル如月千早としてのイメージを保つためだろうか、千早はそう付け加えた。
「さきほどのチャレンジャーの笑い乱れる姿を見てどんな感想をお持ちになりましたか?」
「正直、ちょっと節操が無いな、と」
 こちらは即答だった。
 福田は驚いた。他のメンバー達も一様に驚いたような反応をしている。
 おそらく千早はあまり他人にくすぐられた経験がないのだろう。その苦しみを知らないようだ。
 チラリと番組プロデューサーの顔を見ると、ものすごく嬉しそうに笑っていた。
 アナウンサーは嬉々として、
「さすが千早さん。アイドルたるもの、あんなに笑い狂う姿を人前で晒すなんて、恥さらしだ! とおっしゃるわけですね!」
 千早の発言を完全な挑発として昇華させた。
「あ、いえっ、そこまでは――」
「でも千早さん! 当番組屈指の『こちょこちょ隊』の攻撃を耐え切る自信がおありなんですよね?」
 人前で大口を開けて無様に笑うことは、アイドルとしてのプライドが許さないのだろう、千早は焦りを隠すように口を引き締めてから、
「……まぁ、そうですね。あそこまでは、笑わないと思います」

千早前振り(DDD様)

 番組プロデューサーは「全力で」と合図を送ってくる。
 アナウンサーの仰々しい紹介で、『こちょこちょ隊』はセット上に飛び出した。

 千早は『こちょこちょ隊』のくすぐりに、10秒ともたなかった。
 メンバーが足の裏に4人、脚から上半身にかけて4人陣取り、一斉にくすぐりはじめ、千早は数秒間目を見開いて、口元をひくひくと動かして耐えたものの、すぐに歯が見え、こじあけられるように口がゆっくりと開くと、喘ぐような悲鳴を皮切りに、馬鹿笑いを始めた。

「ひゃはははははははっ!!? やめてぇぇ~~ふひゃひゃ、やめてぇ~~っはっはっはっはっはっは~~っ!!!!」

 千早は普段テレビで見せるクールで知的なイメージを壊すような、だらしのない表情で笑い、もがく。
 首を左右にぶんぶんと振り回し、涙や汗が飛び散った。

「はひゃひゃひゃははははははっ!!! 嫌ぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 福田は千早の左足上部を担当していた。
 ゴムいぼ付きの手袋でわしわしと反った足の裏をくすぐり、ぐりぐりと足の指と指の間をほじる。
 拘束された千早の足は、ひくひくと痙攣するように震え続けている。

「ひゃめっ、やめてくださぃ~~っひっひっひっひ!!」

「おんやぁ、千早さん? アイドルが大口開けて笑うなんて節操ないんじゃなかったんですかぁ~~?」
 アナウンサーが意地悪く言う。

「ひゃっはっはっはっ!!! こんなのっ、こんなの無理無理ぃぃっひひひひひひひ~~っ! ギ、ギブぅぅ~~ふぁっはっは、ギブアップぅぅ~~っはっはっはっは!!!」

 千早は口元に涎の筋を垂らしながら言った。
 福田の位置からは、千早の表情が良く見える。
 事前に強気(とも取れるよう)な態度を示した千早が、こうも見事に崩れてくれると実に絵になる。
 おそらく編集によって、千早のビッグマウスはかなり際立たせられるだろう。そうすることで、対照的なこの情けない笑顔が、より一層映える。

「おーっと早くもギブアップ! しかし残りは10分以上。果たして千早さんは耐えられるのでしょうか~~?」
 アナウンサーはご満悦の様子で言う。
 この番組の関係者は、本当に変態ばかりだ。

「はひひひひひひひっ!! お願いぃぃひひひひひひひひひ、やめてぇぇぇえひゃひゃひゃ!!!」

 カンペで「もっと激しく」と指示される。
 福田は両手でがりがりと、千早の白い素足を掻き毟る。

「ふひひひっ、ひぃぃ~~っひっひっひっひ、あひゃぁぁあぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

 千早は恥もプライドもかなぐり捨てたように、舌を出して激しく笑う。
 そんな姿を見て福田は、ゾクゾクと高揚感を得る。
 福田は番組制作陣に漏れず自身もまた変態だと自覚している。
 彼女にとって、現役のトップアイドルを番組に託けてくすぐりまくれるこのバイトは、最高の生きがいだった。

「嫌あぁぁあはははは!!! もぅやだぁぁ、はひゃぁぁあぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!!」

 次回の収録ではいったいどんなアイドルをくすぐることができるのか、福田は胸を躍らせながら、一心不乱に千早の足の裏へ指を走らせ続けた。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 本編に挿入いたしました絵は、『DDD産業』のDDD様に描いていただきました。その絵を元に、妄想を膨らませて書きました。二次創作からの三次創作からの四次創作? 違うか。
 8月2日の記事 ~現役アイドル達の足の裏をくすぐっちゃいました!~ のコメント欄からの派生作品です。
 さらに色つきも! ありがとうございました!
千早本番(DDD様)
 キャラメルが食べたくなりますね! グリコさんとこのハート型のアレ、ミレーの枕みたいに大袋で売ってないかしら。
 今回は番組PとEがかなり権力強い設定。
 前回のAVを作っていた461事務所は裏ルート専門の設定でした。

アニメ化記念で拉致くすぐり

 St.ヒルデ魔法学院初等科四年生高町ヴィヴィオ(たかまち――)は目を覚ました。

「……な、何、コレぇ……?」

 ヴィヴィオは目をしばたたき、声を出した。窓一つ無い薄暗い部屋の真ん中に置かれた台の上で、彼女は、仰向けに寝た状態で、両腕をまっすぐ伸ばして手首を揃えて縛られ、両脚を大きく開いて各足首を縛られた、逆Yの字で拘束されていた。
 首を持ち上げると頭が痛んだ。

(私……、一体何を……)

 ヴィヴィオは自分が、魔法学院初等科の制服を着ていることに気付く。足元を見ると通学用の茶色のローファーを履いたままだった。

(そうか、私、帰る途中……)

 ヴィヴィオは学校からの帰宅途中、突然何者かに襲われたのだった。一瞬のことで、まったく反応できなかった。

「目を覚ましたね」

 いきなり男の声がして、ヴィヴィオはびくっと肩を震わせた。
 見ると、扉の前に覆面をつけた人間が立っている。顔はわからない。
 ぞろぞろと同じように覆面をつけた者達が入ってきた。

「……だ、誰っ?」

 覆面たち十名はヴィヴィオの言葉を無視して、ヴィヴィオの体を取り囲んだ。
「ヴィヴィオちゃん」
 覆面の一人が言う。
「『魔法少女リリカルなのはViVid』アニメ化おめでとぉぉぉっ!!」
 覆面たちが一斉に声を上げた。
「え……っ?」
 ヴィヴィオはきょとんとした。
「アニメ化を祝して、ヴィヴィオちゃんをみんなでくすぐろうということになりました」
 覆面の一人が言った。
「……はぃ?」
 ヴィヴィオは状況が読み込めずきょろきょろと目を動かせた。

「ではさっそく、3、2、……」
「ちょ、ちょっ! ちょっと待って」
 覆面がいきなり秒読みを始め、足下の二人がヴィヴィオの靴を脱がせ始めたので、慌ててヴィヴィオは声を上げるが、
「1、0」
 覆面たちの指が一斉にヴィヴィオの全身へ襲い掛かった。

 二人が腋、二人があばら、二人が脇腹とお腹、二人が腿と内股、二人が足の裏である。

「きゃはははははははははっ!? やっ、なっ!! やぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっは!!!」

 突然の刺激に大声で笑ってしまうヴィヴィオ。
 体中に計百本の指が這い回っている。

「アニメ化おめでとうヴィヴィオちゃ~~ん。お兄さん達うれしいよぉ」
 腋の下をこちょこちょとくすぐっていた覆面男が言う。
 男は半そでの裾から片手をつっこみ、すべすべのヴィヴィオの腋指先で撫でる。

「嫌あぁぁあっはっはっはっはっはっ!!!! やめてぇぇぇ~~っはっはっは、くすぐったいよぉぉ~~っひゃっひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

 ヴィヴィオは必死に腋を閉じようとするが、万歳に固定された腕はびくともしない。

「アニメのヴィヴィオちゃんも、こんな風に動いてくれるのかなぁ~~?」
 肋骨を両手で揉むようにくすぐっていた覆面男言う。
 ヴィヴィオは必死に上半身をよじるが、可動域は狭く、覆面たちの指からは逃れられない。

「やめてぇぇっひゃっひゃ、やめてってばぁぁぁはははははははははっ!!!」

 ぶんぶんと首を左右に振って、目に涙を浮かべてヴィヴィオは笑い続ける。

「ヴィヴィオちゃんのお腹すべすべ~~」
 お腹をくすぐっていた覆面男が勝手にヴィヴィオのベストとシャツを巻くり上げ、白いお腹や脇腹を指先でくすぐる。

「うゎあぁぁっはっはっはっはっ!!! やめっ!! やだぁぁぁはははははははははっ、えっちぃぃ~~えっちぃぃっひっひっひっひっひ!」

「おへそは~~?」
 別の覆面男が、人差し指をヴィヴィオのおへそへずぽっと差し込む。

「うひゃぁあぁぁあっ!!!? ははははははっ!! やめっ、駄目だよぉぉ~~~ひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

 ヴィヴィオは涙を流し叫んだ。

「膝小僧にあざができちゃってるよ~~? ヴィヴィオちゃんお肌には気をつけないと~~。アニメ化するんだからぁ~~」
 脚をくすぐっている覆面男が言う。

「きゃははっ、そんっ、そんなっ!!? アニメ関係ないぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひ!!!」

「いや~~。こんな綺麗な白い脚は大事にしてもらわないとね~~」
 大きく開かれたヴィヴィオの内股をくすぐっていた覆面男は言うと、内股のツボにぐりっと人差し指を入れ、震わせた。

「あひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!? 嫌ァァっ!!! うひぃぃぃっひっひっひ、あにゃあぁぁははははははははははっ!」

 ヴィヴィオは頭を前後左右に揺り動かして泣き叫んだ。
 
「足はどうかなぁ~~? 豆なんかできてないかお兄さんがチェックしてあげよう」
 言いながら足の裏をくすぐっていた覆面男が、ヴィヴィオの白いソックスをぐいっとひっぱった。

「やぁぁっはっはっはっはっはっ!!! やめてぇぇ~~っ!!! 脱がさないでェぇぇぇっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 ヴィヴィオはぶんぶん首を左右に振る。
 足首から先をくねらせて抵抗するが、その抵抗もむなしく、ずぽっと一気にソックスは引き抜かれてしまう。
「おお~~、案外綺麗だねぇ。感心感心~~」
 覆面男は、言いながらヴィヴィオの素足の足の裏へ十本の指を這わせた。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、やぁぁぁっははっはっはっはっはっは!!!?」

 カリカリと両足の裏をくすぐられ、涎をだらだらとたらして笑うヴィヴィオ。
 足の指はぐねぐねとくすぐったそうにもがいている。

「もうやだぁぁぁぁひゃっはっはっはっはっはっ!!!! 駄目だってばぁぁはっははははっはっ!!! 何でっ! 何で、あにゃっ、にゃははははっ! アニメ化されたからってくすぐられるのぉぉ~~ひ~~ひゃはははははははっ!!?」

 ヴィヴィオの疑問は、永遠に解決されない。


(完)

古風な魔女に永笑を

「『魔女の誇りを傷つけたものは、未来永劫呪われよ』」
 頭上からの声に、ファビア・クロゼルグはハッと顔を上げた。
 無限書庫古代ベルカ区画にて、ファビアは複数の本を同時に広げて『エレミアの手記』を探している最中だった。
「だっけ?」
 声の主は続けて、
「そんなこと言ってるから、時代に取り残されるんだよ」
「あなたは――」
「時空管理局嘱託魔導師ルーテシア・アルピーノ! 盗聴・窃視および不正アクセスの件でお話聞きにやって来ました!」
「…………」
 ファビアは表情の乏しい瞳でルーテシアをにらんだ。
 ルーテシアは美しい長髪をなびかせて、ニタッとサディスティックな笑みを浮かべる。
「おとなしく降参したほうがいいよ? でないと、お姉さんが、おしおきしちゃうから」
 ルーテシアの繰り返される挑発にファビアの瞳の奥にわずかな怒りが映る。
「魔女をあまり、舐めないほうがいい」

 数分後、ルーテシアの『キャプチュード・ネット』によって、本棚にX字磔状態になったファビアの姿があった。
「どう? 投降する気になった?」
 してやったりと舌を出すルーテシア。
 一瞬不安げな表情を見せたファビアであったが、すぐに無機質な表情に戻すと、ブツブツと詠唱を始めた。
「警告だよ。詠唱を止めなさい」
 ルーテシアの言葉に耳を貸さないファビア。
「しかたないね」
 ルーテシアが軽く右手を突き出す仕草をとると、ぽんっ、ぽんっ、と音を立て、ファビアの体を囲むように五対のマジックハンドが出現した。
 うち一対のマジックハンドが、ファビアの両脇腹をつんと人差し指でつついた。
「きゃんっ!!?」
 その瞬間、ファビアはびくんと身を震わせて詠唱を中断した。
「ふぅん? もしかして、くすぐり、苦手?」
「く……っ」
 ファビアは悔しそうに唇をかみ締め、キッとルーテシアをにらみつけた。
「へぇ、そんな表情もするんだ? てことは図星ってことだね?」
 ルーテシアは口角をあげた。
 ファビアは怒りか焦りからか、ぴくぴくと片頬を小刻みに震わせている。
「もう一回聞くけど、投降する気は?」
「…………」
 ファビアは、目をつぶって、つんとそっぽを向くと、再びぶつぶつと詠唱を始めた。
「んーじゃ、しょうがないねぇ」
 ルーテシアは人差し指を口元にあて、クスッと笑みを浮かべた。

「きゃっ……ぅ、ぷ」
 再び一対のマジックハンドがファビアの脇腹に触れたため、ファビアは詠唱を遮られた。
「ほぉら、こうすると詠唱なんてできないでしょう?」
 マジックハンドの人差し指が上下にゆっくりと動き、ファビアの脇腹から肋骨までを往復する。
「くっ……ふっ……」
 ファビアは顔を赤らめ、唇をかみ締めている。
「可愛いね。必死にくすぐったさをこらえてる、感情丸出しのその表情。魔女っ娘さん、実はこっちが素? さっきの無表情は作り物っぽかったもんねぇ」
 ルーテシアはふふふと笑いながら、マジックハンドの指を往復速度を速めていった。
「うふっ、……ぁふっ、……くぅ~~……」
 ファビアは口をむずむずと動かしながら、プルプルと四肢を震わせた。
「なかなか耐えるねぇ。じゃ、だんだん増やしてみようか」
 一対のマジックハンドがファビアの首に触れる。
「ひゃっ!?」
 きゅっと首をすくめるファビア。
 マジックハンドの指先が顎や首筋をやさしく撫でるようにゆっくりと動き回る。
「ひっ、……ひっ……ひぃんっ~~」
 ぎゅっと目をつぶって、目に涙を浮かべるファビア。
「んー泣いちゃ駄目だよぉ、笑ってごらぁん?」
 ルーテシアはファビアの顔を覗き込んで言うと、さらに一対のマジックハンドをファビアの太腿にけしかけた。
「ふひゃぁぁっ!!?」
 くにっと両太腿をもまれ、ファビアは甲高い声を上げた。
 マジックハンドは、そのままくにくにとゆっくり一定の速さでリズムよく軽くもみ続けた。
「ぁっ、ぁ、……ふくっ!? ……ひ、……つっ、んんんふっ!!」
 ファビアは首をがくがくと上下左右に揺らし色っぽい声を漏らした。
「いっ、きひっ!! ……ふひっ、ひひぃぃっ!!!」
 首、脇腹、太腿のマジックハンドの責めは止まらない。ファビアは唇を閉じていられなくなったのか、断続的に歯を見せ、笑いの混じった息を吐いた。
「どう? 一定のリズムで太腿揉まれるの。最初は余裕に思えても、だんだん効いてくる。ちょっとでも気を抜くと、笑い出しそうになっちゃうんだよね」
「ぃひっ、ひぃぃっ!! ぷひっ、……ぅひひぃぃぃぃ……っ!」
 ルーテシアの説明で、余計にくすぐったく感じてしまったのか、ファビアの震えが大きくなった。
 ファビアは涙の溜まった目を見開き、ルーテシアをにらみつけた。
「あらら、怒っちゃった? でも、口元ゆるっゆるだよ? 目力だけで人を怯ませるには、まだまだ若いって感じかなぁ?」
「くっ……ぷはっ!!? うぐっ……ひ、ひ……ひぃ、ひひひ、んんんぐ」
 ファビアは一瞬何か言いたそうに口を開きかけたが、笑い出しそうになったのか、慌てて唇を噛んだ。
「そんなに我慢しなくてもいいのにねぇ。そろそろお姉さんに、可愛い笑顔を見せてくれる?」
 ルーテシアは残り二対のマジックハンドを、それぞれファビアの腋の傍と足下へとやった。
 足下のマジックハンドが、ファビアのブーツを脱がしにかかる。
 きゅぽっ、と両足ともブーツは脱がされ、ファビアの白い素足が露になった。
 四本のマジックハンドは人差し指で、ファビアの両腋、両足の裏を同時にさわさわと撫で始めた。
「ふひゃぁあぁっ!!! ひはっ、……くはっ、はひっ! ぅひぃぃぃぃ~~っ!!!」
 かろうじて笑い出すのをこらえたファビアはぐっと歯をかみ締めた。
 が、ぎゅっと閉じた目には大粒の涙がたまり、口元からは涎が垂れ、眉もへの字に曲がっているため、笑いの堤防はもはや決壊寸前という様相だった。
「じれったい~~? 魔女っ娘ぉ? ホントはこのままじっくり生殺しにするのも一興なんだけど、お姉さんそこまで鬼じゃないからねぇ」
「ひぅぅ~~~っ!!! ……うぐっ、ひはっ、……んんんん~~っ!!!!」
 ファビアは必死に目を開いて、首を左右にぶんぶんと激しく振って抵抗する。
「大丈夫。心配しなさんなって」
 ルーテシアはすべてのマジックハンドへ指示を下す。
「一気に全部、吐き出させてあげる」
 その瞬間、すべてのマジックハンドが、すべての指を動員して、ファビアの首、腋の下、脇腹、太腿、足の裏を一斉にこちょこちょとくすぐり始めた。
「――っ、ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
 ファビアは一瞬カッと目を見開き頬をぷくっと膨らませたかと思うと、口から激しくつばを撒き散らし、吹き出した。
「ぷはははははははははっ!!!? あぁぁぁははははははははははははっあぁぁ~~はははははははははは!!!!!」
 まさしく笑いの堤防が決壊したという風に、ファビアは激しい笑い声を上げる。
 髪の毛を振り乱し笑い狂うその姿に、誇り高い魔女の面影はない。
 幼く敏感な少女は、全身を襲う激しいくすぐりにただただ翻弄されるのみであった。
「あら可愛い。やっぱり女の子は笑顔が一番だよねぇ」
 ルーテシアは、すっかり破顔して大口を開けて笑うファビアを見て、クスリと笑った。
「やあぁぁあははははははははははっ!!! 呪われろっ!! 呪われりょぉ~~ひゃはははははははは~~っ!!!」
 ファビアは全身を計五十本の指に弄り回され、体中をびくびくと痙攣させながら狂ったように叫ぶ。
「まーだそんなこと言ってる。だから、時代に取り残されるんだよ」
 ルーテシアは言うと、ファビアの足の裏をくすぐっていたマジックハンドにひっかくような動きを付加し、腋の下をくすぐっていたマジックハンドにツボをほじくるよう命令を下した。
「あがははははははっ!!!? いぎひひひひひひひひひひひひ!! ふぎゃあぁぁぁぁ~~はははははははははっ!!!」
 ファビアの手の指や足の指が出鱈目にもがく。
 真っ赤にしたファビアの顔は、汗や涙、鼻水、涎で汚れ、ぐしゃぐしゃだった。
「おにゃがぁぁあぁあはははははははははっ!!! ひゃべでぇえぇぇぇはははははははっ、ひゃべぇえぇひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!」
 しばらくは笑いながらも反抗的な態度を見せたファビアだったが、さすがに限界を感じたのか、ルーテシアに向けて必死に制止を訴え始めた。
「ようやく投降する気になった?」
「ふひゃはははははははははっ!!!! どうごうずるぅぅぅうひひひひひひっ、どうごうずるがだぁあぁぁっひゃひゃひゃひぎぃぃぃぃっ」
 ファビアは泣きながら喚き散らす。
 ルーテシアはぞくぞくと恍惚感をかみ締めるような表情を浮かべた。
「じゃー『やめてください、お姉さま』言ってごらん?」
「ひゃべっ、やべでぐだざいっおねぇぇえぇざまぁあぁははははははははははははっ!!!!」
 ファビアはためらうことなく叫んだ。魔女の誇りもあったものではなかった。
 ルーテシアは、ぺろりと舌なめずりをすると、脇腹をくすぐっていたマジックハンドにぐりぐりとツボをえぐるよう命令を下した。
「ぐびゃひゃひゃははははははっ!!!!? おでぇざまぁあぁははははははははっ、ほにゃっ、にゃんでぎひひひひひひひひ!? やべでぇえぇえぇぇひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
 ファビアは予期せぬ追い討ちに、がっくんがっくん首を振り回して笑う。
「んーなんかお姉さん耳遠くてさぁ。ちょっと聞こえないんだよねー」
「おにゃっひゃははは、おねぇしゃまあ~~はははははははっ!!! やべでぐだざいぃぃひひひひひひひひ、やみゃぁぁあああ!!!! やめでぐだぁああはははははははっ!!!」
 ファビアは何度も繰り返し、ルーテシアに懇願の言葉を投げかける。
 ルーテシアはとぼけた仕草で「んー聞こえなーい」を繰り返した。
「どうごうっ、じゃひゃひゃひゃっ!! どうごひぃぃ~~~っひひひひひ、どぐぅぅじまずうぅぅひひひひひひひひ、おにゃじゃまぁぁははははははっ!!! やめっ、やべで……っ、やびゃぁああはははははははははははっ!!!!!」
 ファビアはとうとう、言葉すらまともに繋げられなくなってきた。
「ほらほらー。最後まで言わないと、お姉さんわかんないよー?」

「るー子、何してんの?」
 突然背後から投げかけられた関西弁に、びくぅっと肩を勢いよく上げて驚くルーテシア。
 ファビアの周りから、マジックハンドが一斉に消え去った。
 ルーテシアはおそるおそる振り返った。
「やっ、八神(やがみ)司令っ」
 ふわりとバリアジャケットを着こんで舞い降りたのは、八神はやて時空管理局海上司令であった。
「出遅れてるうちに状況が解決してもーた……ってことなんやろうけど」
 はやてはやさしくも冷静な眼差しで、ルーテシアとファビアを交互に見た。
「解決法間違えたんちゃう? ん? るー子?」
「い、やっ……八神司令、……これは」
 動揺するルーテシアを尻目に、はやては、ファビアの拘束を自身の魔法で解除する。
「この子にはあとでお話聞かせてもらうとして……」
 はやては虫の息のファビアを抱きかかえたまま、
「るー子。ちーとばかし、おいたが過ぎたなぁ?」
 ルーテシアににっこりと笑いかけた。

 ルーテシアは、このあと、滅茶苦茶くすぐられた。


(完)

夏休み擽り研究

「何やってるの?」

 8月1日の午後、凪紗(なぎさ)が友人の芽依(めい)の家を訪れると、同級生の朱莉(あかり)と萌々香(ももか)がいた。
 凪紗は小学6年生で、夏休み真っ最中。
 今朝、夏休みの宿題が完了したばかりだった。
 宿題を手伝って欲しいと芽依に呼ばれたため、凪紗は勉強道具を持参してやってきたのだが、部屋に入ってみると芽依たちが勉強をしている様には見えなかった。

「きゃぁ~~っはっはっはっは! やめてぇ~~っはっはっはっは」
 
 ベッドの上で仰向けになった芽依の体を、朱莉と萌々香がくすぐっていた。
 芽依はTシャツにデニムショートパンツ姿で、両腕を揃えて伸ばした肘の上に朱莉、両脚をまっすぐ揃えて伸ばした膝の上に萌々香が乗って、Iの字で押さえつけられていた。
 朱莉は芽依の腋の下を、萌々香は芽依の脇腹をこちょこちょとくすぐっている。

「いやぁぁっはっははっはっはっ!! 苦しいぃぃっひっひっひっひ、やぁぁあはっはっははっはっ!!」

 芽依は、おさげにした髪の毛を振り乱して大笑いしていた。普段教室ではあまり大声で笑わないタイプの子なので、凪紗には少し新鮮に感じられた。
 ドアの前に立った凪紗へ向けられた芽依の素足がくねくねと暴れている。
「あ、凪紗いらっしゃい」
 朱莉が芽依の腋を指で弾きながら、顔を上げて言った。左耳の後ろでサイドテールを作ったいつもの髪型で、腰に大きなリボンの付いたワンピースを着ている。
「ちょっと待ってて。萌々香、あと何秒?」
「十秒ー」
 朱莉に聞かれ、セミロングの髪の毛をストレートに伸ばした萌々香が芽依の脇腹を揉み解しながら答えた。萌々香はポロシャツの上にサロペットデニムパンツを履いており、ロールアップされた裾から白い太ももが伸びている。
「ああぁっぁっはっはっははっ!!! もうやめっ!! ひやぁぁはははははははははっ!!」
 芽依は首を振って暴れる。
「ほら芽依っ! あとちょっとだからがんばって」
「……3、2、1、ぜろー!」
 萌々香の合図で、朱莉と萌々香は同時に指を離した。
「げほ、……ごほっ」
 芽依は放心したような表情で咳き込んだ。
「どうー? 芽依ちゃん」
「……はぁ、し、死ぬかと思った」
 萌々香が聞くと、芽依は答えた。萌々香は芽依の膝から下り、何やらノートに書き記し始めた。
「えー、芽依。まだまだ余裕ありそうだったじゃん」
 朱莉はけらけらと笑い、芽依の肘の上に乗せた脚をどける。
「……ま、まぁ……、い、いけなくは、ない、かな?」
 芽依は息を切らして言った。
 くすぐったさの余韻があるのか、軽く腋の下を触って、感覚を思い出しているようだ。
「あのさぁ……」
 放置プレイにげんなりした凪紗が口を開く。
「あ、凪紗ごめん。忘れてた」
「凪紗ちゃん。やっほー」
「……な、凪紗、ちゃん。いらっしゃい」
 朱莉、萌々香、芽依のそれぞれが凪紗へ目をやる。
「これ、自由研究」
 凪紗が怪訝な表情を浮かべていると、朱莉が言った。
「自由研究?」
「そ、人間はくすぐりにどれだけ耐えられるか、実験。3人で共同でやってるの。凪紗もやる?」
 朱莉は期待を込めた眼差しを凪紗へ向ける。
 凪紗はため息をついた。
「やんない。私はもう終わったし」
「えー、凪紗ちゃんやらないの? やろうよー。楽しいよ」
 萌々香が便乗して勧誘する。
「いや、だから私はもう自由研究終わったんだって。やる意味わかんないし」
「なんて研究ー?」
「『昆布が海の中でダシが出ないのなんでだろう』」
「つまんな!」
「余計なお世話よ!」
 朱莉、萌々香はその後もしつこく誘ってきたが、凪紗は断り続けた。
「だから! もう私は自由研究終わったの! それになんか、ちょっと内容がくだらないし……。今日は芽依ちゃんの勉強教えるって来ただけだから。ねぇ、芽依ちゃん、勉強しよ?」
 すると芽依は、
「あ、や……その、今はデータ集めてる途中だから、……後で」
「もう! 芽依ちゃんまで!」
 凪紗は呆れて肩を落とした。芽依は続けて、
「凪紗ちゃん……協力してくれるだけも、駄目?」
 凪紗は眉を寄せた。
「そうそう! あたし達3人だけのデータじゃ足りないからさ!」
「絶対楽しいよー、やろうよ、凪紗ちゃん」
 芽依の言葉に便乗して、朱莉と萌々香が目をきらきらと輝かせて言った。
「協力って……私がくすぐられろって言うの?」
「うん!」
 朱莉、萌々香、芽依の3人が揃って頷く。
「絶対ヤダ」
 凪紗は冷たく言い放つと、
「芽依ちゃん。プレステやってていい? 終わったら声かけてよ」
 芽依たちに背を向けて、部屋に設置されたテレビ前のソファの右端に腰を下ろした。凪紗が芽依の家でゲームをする時の特等席だった。
「……あ、うん」
 芽依は、少しがっかりしたように言った。
「ちぇー、凪紗ちゃんは真面目なんだよねー」
「もうあたしらだけで楽しんじゃお」
 萌々香と朱莉がぶーたれた。
「さ、次は萌々香の番でしょ! 3分30秒」
「うわー、キツそー」
 凪紗は背後で朱莉と萌々香がはしゃぐのを聞ききながら、ゲーム機のスイッチを入れる。
「そういえば、凪紗ちゃん、……なんでウチ来るとき、いっつも靴下、履いてるの?」
「えっ?」
 突然の芽依の質問に、凪紗は思わず振り返り聞き返してしまった。
「暑くない?」
 芽依の言葉に、萌々香と朱莉も凪紗へ視線を向ける。
「あ、ほんとだー。凪紗ちゃん暑ーい」
「凪紗、脱いじゃいなよ」
 よくよく見ると、夏真っ盛りであるためか、芽依、萌々香、朱莉は3人とも素足である。
 凪紗は外はねのミディアムヘアで、セーラー風マリンTシャツにキュロット、クルーソックスを履いていた。
「あ、いや……別に暑くないし」
 凪紗はそれだけ言うと、テレビ画面へ視線を戻した。
 朱莉たちは「ふーん」とたいして気に留めない様子で、すぐに自由研究の話を再開した。
 凪紗は少しどきりとした。
 小さい頃から母親に「お友達の家に行くときはきちんと靴下を履いていきなさい」と教わり、それを当然のこととしてしつけられた凪紗にとっては、人前で靴下を脱いで素足になるなんてたまらなく恥ずかしいことのように感じられるのであった。

●●●

 朱莉、萌々香、芽依たちの自由研究という名のくすぐり合いが始まってからというもの、凪紗は後ろから聞こえてくる笑い声が気になってゲームになかなか集中できないでいた。

「きぃぃっひっひっひっひ、ホントにキツいぃぃ~~っははっはっはっはっは!! ホント……っ、ホントにやめてぇぇ~~」

 萌々香が大声で笑っている。
 普段のんびりと話す萌々香が、激しく息を切らして言葉をつなぐのは新鮮で、凪紗の好奇心をくすぐった。
 凪紗はちらちらと後ろを盗み見る。
「ほらほら萌々香。あと1分あるからがんばんなって!」
 朱莉は芽依をくすぐっていたときと同じように、ベッドの上で万歳をして仰向けになった萌々香の両腕の上にのって、萌々香の腋の下をくすぐっていた。

「あぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっ!!! もう無理っ!! もう無理だからぁぁあはははははははははっ」

 萌々香は目に涙を浮かべ、ぶんぶんと綺麗なストレートの髪の毛を振り乱して笑っている。
 芽依は、まっすぐに揃えて伸ばされた萌々香の脛あたりに足側を向いてアヒル座りをして、萌々香の両足の裏をくすぐっている。

「いやぁぁっはっはっはっははっ、お願いぃぃっひっひっひっひ!! めーちゃん助けてぇぇぇっはっはっはっはっは~~!!」

 萌々香の素足は、くすぐったそうにくねくねと動く。それを芽依が鉤爪のように曲げた人差し指で追いかけるようにくすぐっている。
「うわぁ……」
 あまりにくすぐったそうで、凪紗は声を漏らした。凪紗の声は、萌々香の笑い声にかき消され、朱莉と芽依には聞こえていないようだ。2人とも、「くすぐり」にとりつかれたかのように、一心不乱に萌々香をくすぐり続けていた。

 しばらくして萌々香の笑い声が止んだ。
 凪紗は、意識的にテレビ画面を見つつも、後ろの話し声が気になった。
「萌々香。結構きつそうだったけど、大丈夫?」
 朱莉が心配そうな声を出す。
「……ひぃ、ひぃ……うん、けっこうー、うん、きつい、けど……」
 萌々香の言葉はとぎれとぎれだ。
 カリカリと紙に鉛筆を走らせる音がする。芽依が、萌々香の感想をノートにメモしているのだろう。
「やっぱり……、楽しい……」
 萌々香が息を切らして言った。
 凪紗は驚きのあまり、思わずコントローラーを落としそうになった。
「ねー、凪紗ちゃーん……? 楽しいよー? 次やってみないー?」
 萌々香が勧誘してきたので、凪紗は振り向き、
「だからヤダって」
 即答した。
 見ると、既に萌々香は解放されていたが、両腕両脚をぐでっと大の字に広げベッドに寝そべったまま、首だけを凪紗へ向けている。
「萌々香ちゃん。そんなに苦しそうなのに、なんで楽しいとか言うの?」
 凪紗は聞いた。
「いや、凪紗ね! これはやられてみないとわかんないんだって!」
 答えたのは朱莉だった。
「私は萌々香ちゃんに聞いたんだけど……」
「えー……楽しいもんは、楽しいよー?」
 萌々香はにへーっと笑う。
「くすぐられてるときは『助けて』とか言ってたのに?」
「あ、聞いてたん、だ。凪紗ちゃん」
 凪紗の失言に即座に食いついたのは芽依だった。
 芽依はベッドの端からぶらんと素足を放り出すように座りなおして、
「もしかして、ちょっと、興味、出てきた?」
「あ、いや……っ、そういうわけじゃっ! ていうかっ! あんだけ大声出されたら、聞こうとしなくても耳に入るって!」
 凪紗は無意識に声を張り上げてしまった。
 芽依は、きょとんとしている。
「で、凪紗。やんない?」
 一瞬訪れた沈黙を破って勧誘してくる朱莉。
「やんない」
 凪紗はぷいっとテレビ画面へ体を向け直した。

●●●

 しばらくすると、今度は背後から朱莉の笑い声が聞こえてきた。

「きゃははははははははっ!!!! あぁぁぁははははははははははっ!! くすぐったいぃぃひひひひひひひひひひっ!!」

 くすぐられているのだから当たり前じゃないかと、凪紗は思った。
 朱莉は普段やや高圧的な態度をとっている割りに、可愛らしい声で笑う。そのギャップに凪紗は少しどきどきした。

「ああぁぁぁっはっはっはっはっ!! 嫌あぁぁっ!! そんなの駄目ぇっぇぇっひゃっはっはっはっはっはっは~~!」

 そんなのって、どんなのだろうか?

 凪紗は好奇心に負け、チラリと背後を確認した。
 朱莉はベッドの上にぺたんとしりもちをついており、両手首を背後に密着して胡坐をかいた萌々香の膝に締め付けられ、身動きが取れない状態だった。
 萌々香は朱莉の脇腹に両手の人差し指を押し当てて、くりくりと震わせている。
「朱莉ちゃん。キツくて楽しいー? 後2分あるよー」

「きゃぁっはっはっはっはっはっ!!! 脇腹っ!! そんなぐりぐりやめだぁぁぁっはっははははははははははっ!!!」

 芽依は、前方に投げ出された朱莉の左脚の膝の上に体育座りをして、朱莉の体の自由を奪っておいて、朱莉の右足首を抱え込んで右足の裏をカリカリとひっかくようにくすぐっている。
「こっちの、かりかりは?」

「やぁぁぁはっはははっははっ、足もっ!!! 足もやめぇぇぇぇっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 朱莉は笑いながら涎をたらしていた。
 朱莉の足の指がくすぐったそうにもがいている。

「うわ、エグい……」
 凪紗は声を漏らした。
 芽依の指が朱莉の足の裏でクモの脚のように動き回る様子に、ぞくっとする。
 凪紗は足下で、きゅっと自分の足の指を縮こまらせた。靴下とフローリングの擦れる感触が伝わる。
 ふと、芽依と目が合った。
 慌てて凪紗はテレビ画面に視線を移すが、しばらくの間後頭部に芽依の視線を感じた。

 2分経って、ようやく朱莉の笑い声がやんだ。
 ホッと安堵する凪紗。甲高い笑い声を聞き続けるうちに、凪紗は体がむずむずとしていた。ぎゅっと足の指を縮こまらせていたため、靴下の中で、足の指と指の間に少し汗をかいているのがわかる。
 凪紗はテレビ画面を見つめたまま、背後に耳をすませた。
「朱莉ちゃん4分、お疲れ様ー。どうだったー?」
 さっそく萌々香が朱莉に感想を求める。
「……はぁ、ふひぃ……あ、あんたら、……いい加減に、しなさいよ……」
 カサカサとノートのかすれる音。芽依がメモを取っている。
「えー? それって楽しくなかったってことー?」
「……はひぃ……そ、良かったわよ……、すごい……。最後30秒ぐらいなんか……やばい、……良かった」 
 朱莉は、息も整えないままに、とんでもない感想を述べた。
「だよねー」
 萌々香が便乗する。

 あれだけ「やめて」やら「助けて」やら言葉を連発しておいて、「良かった」とはどういうことか……。

 凪紗はふと、芽依たちがぼそぼそと小声で話し始めたことに気づいた。
 何を話しているのかは、まったく聞き取ることができない。
 ハッと凪紗は、何を他人のナイショ話に聞き耳を立てているのかと、恥ずかしくなり、意識的にテレビ画面を注視した。
「凪紗ちゃん?」
 急に芽依に声を掛けられ、咎められたような気がしてどきっとした。
「だからやんないって言ってんじゃん」
 凪紗は、振り向きざまに言った。
「いや、そうじゃなくて……ちょっと、分からない漢字が、あるから、教えて、欲しいなって」
 芽依は言って、ノートを持ち上げて見せた。
「ちょっと……」
 手招きをする芽依。
 凪紗は、はぁとため息をつき、重い腰を上げた。
 
 そんな妙な自由研究に使う漢字じゃなくて、普通に宿題の漢字の勉強の方がやる気でるんだけど……。

 凪紗がベッドの傍まで行くと、突然3人に体を引っ張られ、ベッドに仰向けに押し倒された。
「えっ?」
 突然のことで、何が起こったのかわからなかった。
 凪紗はそのまま腕をつかまれ、強制的に万歳をさせられる。
 ガチャリ、という音と一緒に、手首につめたい感触。
 驚いて頭上を見ると、凪紗の手首には手錠が掛けられ、ベッドのヘッドボード部分のレールにひっかけられている。
「なっ……なにやってんの!?」
 凪紗は、ガチャガチャと手首の手錠を鳴らしながら、見下ろしてくる朱莉、萌々香、芽依の顔を交互に見た。
「やっぱり、あたし達3人のデータだけじゃ足りないからさ! 凪紗、協力してよ」
「うん。凪紗ちゃんも絶対楽しいからー」
 朱莉と萌々香が言った。
 2人とも目が怖い。凪紗はぞっとした。
「やっ……だからヤダって! いやっ、これ!! なんでこんな……っ、意味がわかんな――っ、……放して!」
 凪紗は恐怖と驚きで動揺して、しどろもどろになってしまう。
「めっ、芽依ちゃんまで何っ!? 友達じゃん! なんで助けてくんないのっ!?」
 凪紗は黙って見下ろす芽依に向かって叫ぶ。
「だって、凪紗ちゃん、素直じゃないもん」
 芽依は少し口をすぼめて言った。
「え?」
「ホントは、くすぐられるの、興味あるくせに、ヤダとか言うから」
「そんな……っ! 私は――」
「足の裏、くすぐられて、みたい?」
「……は?」
 凪紗はぽかんとしてしまった。
「ほら。やっぱり。……ずっと私達の足ばっかり見てた」
「いや、ちがっ……」
「いっつも隠してるから、めちゃくちゃ足の裏弱いんじゃないかーって」
 萌々香が凪紗の言葉を遮った。
「そうそう! 凪紗が裸足でいるとこって見たことないし」
 朱莉も便乗してくる。
 凪紗は3人がこれから何をしようとしているのか察し、足を隠そうと膝を曲げ、宙を蹴るように暴れた。
「嫌ぁっ!! やめてっ! こんなこと犯罪じゃんっ! 無理やりなんて……っ! その……っ、今ならまだ間に合うから!」
 3人は、凪紗の脚を掴みにかかる。
「往生際が悪いんじゃない、凪紗?」
「やめっ、やめてぇっ!!!」
 3人がかりではまったく歯が立たず、凪紗は両脚ともひっぱり伸ばされ、大きく左右に広げて押さえつけられた。
 芽依と萌々香がそれぞれ凪紗の右脚と左脚の上に、つま先の方を向いてのっかる。
「ちょっ、ちょっと!! 芽依ちゃん! なんでこんな……っ、芽依ちゃんこんな馬鹿なことする子じゃなかったじゃん!」
「あ、ひどい。それ、あたしと萌々香は馬鹿ってこと?」
 朱莉が頬を膨らませるが、凪紗は無視をした。
 芽依は首を傾け、凪紗を見ると、
「私も、ね、今日くすぐられるまでわかんなかったん、だけど」
 そこで一旦言葉を切った。
「くすぐりって楽しい」 
 芽依はニッと笑った。
 ぞくぞくっと凪紗は背筋が凍る気がした。芽依のそれは、これまで一度も凪紗に見せたこと無い種類の笑顔だった。
「すぐに、凪紗ちゃんも、気づけるよ」

●●●

「うひゃぁぁんっ!?」

 想像以上のくすぐったさが凪紗を襲う。
 芽依が、人差し指で凪紗の右足の裏をなぞったのだ。
 凪紗はぎゅっと足の指を縮こまらせた。
「まだちょっと触れただけなのに、すごい反応ね!」
 朱莉が率直な感想を述べた。
「お願い……っひっひ、芽依ちゃん……や、は、やめて」
 触れられているだけなのに、凪紗は気を抜くと今にも笑い出しそうだ。
 今にも動きそうな指の感触が、たまらないくすぐったさを連想させる。
「駄目」
 途端に、足の裏からちょこちょこと摩るような刺激が送られる。

「――ふはっ!!? はっ……あはっ……ひははっ、はひぃぃぃ!!」

 凪紗は必死に芽依の指から逃れようと足を左右によじるが、くすぐったさは途切れることなく脳へ送り込まれる。

「ひやっ、……はっは、やはぁぁっ!!! やめっ、ひひひひっ、うひっ、ひひひ! くぅぅ~~っ」

「もー凪紗ちゃん。我慢しなくていーのにー」
 萌々香が言うと、凪紗の左足の裏に爪でひっかくような刺激が与えられた。

「うはぁぁっ!!! はははっ、ひっ……あははっ! やめ、2人ともやめてぇぇっ!!」

 凪紗は顔を真っ赤に上気させていた。
 普段他人になど決して見せない足の裏を、見られて、触れられて、恥ずかしくてたまらない。
「靴下の上からでもこんなに敏感なんだ。凪紗。裸足にされたらどうなっちゃうんだろ」
 朱莉が楽しそうに言う。凪紗の足下に移動してしまったため、朱莉の姿は芽依と萌々香の背中に隠れて見えない。
 凪紗が芽依と萌々香のくすぐりに歯を食いしばって耐えていると、突然両足のかかとを指先で突かれた。

「きひひ……、ひっ、――あはぁぁぁっ!!? なっ、ははっははっ! えっ、朱莉ちゃ……くはは、……不意打ち、ひひひひひっ! だめぇ~~っ」

 凪紗は両足の裏を3人にくすぐられる人生初めての体験に、頭の中が混乱してきた。
 
 なんで私はこんな目に……。ただ、宿題手伝いにきただけ、なのに……。

「どう? 凪紗、楽しくなっていた?」
 朱莉が聞く。
「は、ひひひひっ!? そんなっ……ふひ、楽しいわけ……っ」
「朱莉ちゃん。まだ、凪紗ちゃん、大笑いしてないのに、楽しいって感じるわけ、ないよ」
 凪紗の言葉を遮るように芽依が言った。
「そーそー」
 萌々香も芽依に同調する。
「じゃあ早く笑わせよ? 靴下脱がしちゃえ!」
 朱莉が嫌な提案をし、指を止めた。
 すると、芽依と萌々香も、くすぐる手をとめた。
「いっ……嫌っ!! やめてっ、脱がさないで!! お願いっ!」
 凪紗は必死に足首から先を左右に激しく振って抵抗する。
 が、芽依につま先がつかまってしまい、そのまま右足は、すぽっとクルーソックスを脱がし取られてしまった。
 ついで、左足のソックスも口ゴムの部分に萌々香の指が引っ掛けられ、するんっと脱がされた。
「くぅ~~……」
 凪紗は恥ずかしさに、目をきゅっと閉じ、足の指をぎゅっと縮こまらせた。
「おおっ、凪紗の裸足って初めて見た。可愛い」
「結構、肌、白いね」
「指小っちゃーい」
 3人にまじまじと見られている感覚がとてつもなく恥ずかしい。
「や、やめてっ……あんまり、見ないで……」
「あ、凪紗ちゃん、糸くず」
 芽依は言うと人差し指を、凪紗の右足の甲側から足の親指と人差し指の間にくりっと差し込んだ。
 途端、びりりと強烈な刺激が脳に送り込まれる。

「ふひゃぁぁぁぁっ!!!?」

 凪紗は体をびくんとえびぞりにして甲高い声を出した。
「うおっ」
 さすがに驚く3人。

「あ、ぁ、あ、ぁ、ぁ、やっ、は、……ひ、ぃ、……ふぬっ! 抜いて!!! 早く指抜いて、芽依ちゃぁぁあんっ!!」

 凪紗は、足の指の間に芽依の手の人差し指が挟まっている気持ちの悪い感触に耐えられなかった。
 足の指に何かを挟むと言う経験が皆無の凪紗にとって、その刺激は強烈すぎた。
 足指の骨と筋肉を無理やり押し広げられる感覚は、全身を駆け巡り、下腹部をじくじくと疼かせた。

「芽依ちゃぁあああんっ、お願いぃぃ……ひ、ひ、ぃ、い」

「萌々香ちゃん」
「うん」
 芽依と萌々香は互いに顔を見合わせる。
 と、その直後、

「ぁ、……――ひあぁぁあぁぁぁっ!!!!? あがぁぁぁああああはははははははははははっ!!!?」

 両方の素足の裏に、数本の指の刺激が襲い掛かった。

「いぎゃぁああっはっはっはっはっはっ!!? だ、だっ!!!! だぁぁあ~~っははははははははははははっ!!! やあぁあぁっ!!!」

 芽依は人差し指を凪紗の足の指の間につっこんだまま、片手で土踏まず辺りをひっかき、萌々香は両手で足裏全体を満遍なく弾くようにくすぐっている。
 凪紗は、直に足の裏から送り込まれる痒みと痛みのぐちゃぐちゃに入り混じった刺激に、耐えられなかった。
 頭の中がショートしたように熱い。
 足裏から直に送られてくる焼けるような刺激が脳みそをぐちゃぐちゃとかき回しているようだ。
 開きっぱなしの口から駄々漏れになっている自分の笑い声がうるさく、耳が痛い。
 凪紗は、自分が涙を流していることに気づく。
 いったいどんな感情で自分が泣いているのか、まったくわからない。

「やめてぇぇええっ!!! 足がっ……!!! あひゃひゃっ、足がぁああああぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~!!」

「凪紗ちゃん、力、抜いて」
 芽依は言いながら、ぎゅっと握り締められた凪紗の右足の親指を掴んで無理やりに反らすと、ピンとつっぱった親指の付け根のふくらみをガリガリと引っかくようにくすぐってきた。
 
「うひひひひひひひひっ!!? ひぎぃぃ~~っひっひ、嫌あぁあぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

 もうわけがわからない。
 なんでこんなことをされているのか。
 なんでこんなにくすぐったいのか。

「すっごい笑い声……っ! 凪紗ってこんな風に笑うことあるんだ!」
 朱莉は言うと、凪紗の左右のかかとそれぞれを両手の爪を立ててくすぐってきた。

「がぁぁぁっはっはっはっはっははっ!!!! 駄目ぇぇえええっへっへっへっ、やだぁぁあひゃひゃひゃひゃっ!!! うぎぃぃぃゃぁははっはっひゃっは!」

 素足を見られて恥ずかしい。
 素足を触られて辛い。
 芽依ちゃんが怖い。朱莉ちゃんも、萌々香ちゃんも、怖い。
 爪が足の裏にあたって痛い。いや、痒い。くすぐったい。
 笑いたくないのに、……おかしい。
 いろんな感情や感覚が脳の中をかき乱し、ぼーっとする。
 いったい、私の足の裏に、合計何本の指が蠢いているのだろう?

「うひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! あぁぁ~~っははっははっはっははぎゃぁぁぁぁ!!」

 数えようと、足の裏に神経を集中させてしまったのは大失敗だった。くすぐったさが異常なくらい増強された。思考が笑い波に飲まれ、消え去っていくのを感じた。

「足の指、めちゃくちゃ動いてかわいー」
 萌々香は、凪の左足を両手で横から挟み込むように持って、縁の部分を爪でこそぐようにくすぐったり、土踏まずをほじくるようにくすぐったりしてきた。

「あきゃはははははははっ!!!? うへへへへへっ、にぃぃぃ~~っひっひっひっひっ!!! ぐぎぃぃいひひひひひひひひひひひ」

 凪紗は笑いすぎて、息も満足に吸えなくなってきた。
 全身汗だくで、マリンTシャツが肌に張り付いて気持ちが悪い。
「――」
「――」
 芽依と朱莉が何か話しているようだが、自分の笑い声がうるさくて聞こえない。
 と、足裏の刺激が小さくなった。
 左足は依然萌々香がくすぐりつづけているが、右足をくすぐっていた芽依と両足をくすぐっていた朱莉が手を止めたようだ。

「はわぁぁぁっ!!?」

 突然、右足の親指と小指が握られ、ぐっと左右に引き伸ばされた。
 足の指の間に空気が触れ、くすぐったい。
 ぴくぴくと他の足指を動かして抵抗するが、まったく無意味である。
 と、次の瞬間、

「くひゃぁぁぁあっ!!!!? いひゃひゃひゃひゃひゃ!!!?」

 開かれた足の指の付け根を掻き毟られる感覚に襲われ、頭の中が真っ白になる。

「あぁぁああぁぁあ~~ひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! だひゃひゃひゃひゃっ! いひゃぁぁ~~っはっはっはっはっはっはふぎゃぁあ!!!」

「――の間、くすぐったい?」
 芽依が凪紗の方へ顔を向けて言った。最初なんて言ったか聞き取れなかった。
 凪紗は目を見開いて芽依を見る。が、涙でゆがんで、表情がまったくわからない。

「ぐひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ひゃだっ!! ひゃめへっ、ふへへへへへへへへへひぎぃぃひひひひひ~~」

 凪紗は、自分でも何を言っているのか、何を言いたいのか、分からなかった。
 笑いすぎて喉が痛く、口の中にたまったまま飲み込めない涎が、だらだらと口元から零れ落ちる。
「――さちゃん」
 芽依は言葉を続ける。
「楽しい?」

 楽しい?

 芽依の問いは、はっきりと凪紗の耳に届いた。
 その問いの意味を考える間もなく、凪紗は強烈なくすぐったさに飲まれ、ひたすら笑い続けるのであった。

○○○

「――、2、1、ゼロー」
 萌々香の合図に、3人は一斉に指を止めた。
「凪紗! お疲れ」
「凪紗ちゃん……」
 朱莉、芽依がねぎらいの言葉を掛けてくれる。
 くすぐられている間は永遠とも思えたが、実際にくすぐられた時間は笑い始めてからたったの5分だったそうだ。
 手錠を外された凪紗は手首をさすりながら、3人の顔を見渡す。
 本日すでに何回もくすぐったりくすぐられたりを繰り返したからだろう、3人とも少々疲れているようだった。
 だが、
「次、誰の番? くすぐる人数が3人に変わるんだから、もっかい最初から全部実験やり直すよ!」
 凪紗は、一旦協力すると決めた限り、他人の自由研究だろうが妥協する気はなかった。
 小休止を申し出る萌々香を一蹴して、
「順番的に芽依ちゃんね! 早く寝転んで」
 凪紗は指名すると、勢いよくベッドから降り立った。
「あ……っ」
 冷たいフローリングの感触が、汗ばんだ素足に気持ちが良かった。きゅっと親指に力を込めると、むずむずと足の裏をくすぐられた感覚がよみがえってきて、下腹部が疼いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 8月1日に夏休みの宿題を終わらせているような計画性のある子には、お仕置きが必要だと思いました。
 新作ストックをすっとばして時期モノを投下いたします。先週チャットルームでちょいと出た話題からインスピレーションが高まり、勢いで書きました。擬似3人称責め視点の作品も好きですし、擬似3人称受け視点の作品も好きです。
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