「帰ったぞー」
玄関から佐倉杏子(さくら きょうこ)の声がして、居間のテーブルで宿題中だった美樹さやか(みき ――)は顔を上げた。
「おかえりっ……て、あんたさ、いっつも裸足でブーツ履いてるけど、蒸れないの?」
「あん?」
玄関で杏子がブーツを力任せに引っこ抜くのを見て、さやかが言った。
杏子は乱雑に両足のブーツを放り捨てると、ぺたぺたと居間に歩いてくる。
「ほら、さやかの分。三百万円」
杏子はさやかの質問には答えず、机上にレジ袋を置いた。
中にはポテチやらプリッツやらおかしが山のように入っている。
「ちょ、あんたまたこんなに買ってきて!」
「今夜テレビであの映画やんだろ? 叛逆のなんちゃら。絶対途中口寂しくなんじゃん?」
「あのさー、テレビの前に宿題やんなよ。――って、うわ!? くさっ」
さやかは顔をしかめた。
床に座っているために、杏子の足の臭いが直に香ってきたのだ。
「ちょっ、あんたいくらなんでも足臭すぎでしょ!? 靴下穿け!」
「なっ、さやか、それは言い過ぎじゃね!? ちょっとは言い方ってもんを……」
さやかのすぐ隣であぐらを掻いた杏子は、軽く自分の左足を持ち上げた。
「あ、確かにちょっと……」
さすがの杏子も、自分の足の匂いに驚いたようだ。
「でしょ!? わかったらさっさと風呂入れ! 寄るな! しっし!」
さやかは手をひらひらさせて、テーブルに向かった。
邪険にされた杏子は「……なんだよ。そんな言い方」と頬を膨らませ、さやかをにらむ。
背中を向けたさやかは、テーブルの上に両手をのせて勉強中。
杏子は何か思いついたように、ニヤリと口角を上げた。
「うりゃっ」
「きゃっ!?」
杏子は、ガラ空きのさやかの脇腹へ両足を押し当てたのだ。
そのまま、足の指を器用に動かし、さやかの脇腹をくすぐり始める。
「たははははははっ!!? ちょっ杏子やめっ!!」
さやかは身をよじって笑い始めた。
「へっ! あたしの足の悪口言うからだよー」
杏子はあざけるように言い、足でぐにぐにとさやかの脇腹をくすぐる。
「こらぁひひひひひひひひひっきたな……っ!!! ひゃはははははっ!! 匂い移るからぁぁははははっ!! やめろぉぉ~!」
「うげ、匂い移るとか失礼すぎじゃね? うりうり」
身をよじるさやかの脇腹にさらに杏子は足を食い込ませる。
「ひひひひひっ!!! ちょっ、もう!!! いひひひひいい加減にしろぃぃっ!!!」
「おわっ!!?」
振り向きざまに、さやかが杏子を押し倒した。
さやかは杏子のお腹に乗り、開脚して杏子の両腕を押さえつけた。
「ちょっ、なっ……えぇ!?」
杏子は突然の形勢逆転に戸惑いを隠せない。
「へっ、杏子調子乗りすぎ。ちょ~っくらお仕置きが必要かなぁ~?」
さやかはニヤッと笑うと、べろんと杏子のパーカーとインナーシャツの裾を一緒にめくり上げ、白いお腹を露出させた。
「げ、さ、さやか、落ち着こ? な?」
途端に青ざめ頬を引きつらせる杏子。
さやかは、その様子を見、したり顔を作ると、
「だ~め!」
いきなり十本の指を杏子のお腹に押し当て、わちゃわちゃとくすぐりはじめた。
「きゃはははははははあはははっ!!! うはぁぁぁははっはっははっはっはっは!!?」
杏子はびくんと体をのけぞるようにして大笑いし始めた。
「何あんた、くすぐり苦手なの?」
さやかはくにくにとお腹を揉みほぐしながら言う。
「弱いぃぃっひっひっひっひっひひ無理無理無理ぃぃぃっひひひひひひいひひひっひひひい~~!!」
杏子はぶんぶんと首を左右に振って拒否を示す。
目には涙が浮かんでいる。
「そんな弱いくせに先に仕掛けてきたんだ、へぇ」
さやかは呆れたように言うと、人差し指を杏子のおへそにつっこんだ。
「うひょっぉおおおっほぉぉ~~~!!!?」
そのまま、くりっくりっとほじくりながら、空いた手で脇腹にこそこそと爪を立てる。
「うほひひひひひひひひっひひひぃぃぃ~~ひっひっひっひっひいっひやべぇぇぇ~~!!!」
「もとはと言えばあんたの足が臭いのが悪いんだから、笑って反省しろ!」
「臭くないぃぃっひっひっひっひっひひ臭くないぃひひひひっひひひひひいひ!!!」
「あんたさっき自分でにおったじゃん! そんな態度取るなら……」
さやかは体を反転させると、机上の消しゴム付き鉛筆を取り、消しゴム側で杏子の素足の足の裏をぐりぐり引っ掻き始めた。
「うへへへへへへへいぎゃぁぁっはっはっはっははっははははっははっはっ!!!?」
杏子は自由になった手でぽかぽかさやかの背中を叩く。
よほどくすぐったいのか、杏子の足の指がびくびくと開いたり閉じたり暴れている。
「ちょ、こらっ! 痛いって、このぉ!」
さらにさやかは、鉛筆を足の指の間に差し込んだり、角でカリカリと付け根をいじったりした。
「ふぎゃぁあああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひぃぃっひぃひひひひひひひひひっ!!! やべろぉぉぉぉやう゛ぇりゃぁぁっはっはっはっはっっはっは!!!」
「反省した?」
さやかは杏子の足の指を押し広げ、つつきながら言う。
「はひぃぃっひ、……反省……」
杏子は涙を流しながら、
「するかぁぁぁ!!」
空いた両手で、さやかの脇腹をくすぐった。
「きゃはははははははあっ!!!? ちょぉぉ反撃ぃぃいっひっひっっひふひぃぃ!!?」
バランスを崩し押し倒されたさやかの背中に、今度は杏子が馬乗りになった。
「さ~やか? ちょっと、やりすぎたんじゃねぇかなぁ~?」
杏子は歯を見せて笑いながら、ワキワキと指を動かして見せた。
「い……、いやぁ~……その、うん。調子に乗りすぎた、か?」
てへっと笑うさやか。
杏子は「へぇ」と蔑むような視線を剥け、一気に両手をさやかの脇腹へ突き立てた。
結局一時間以上くすぐり合いが続き、二人ともその日のうちに宿題が終わらなかった。
(完)
玄関から佐倉杏子(さくら きょうこ)の声がして、居間のテーブルで宿題中だった美樹さやか(みき ――)は顔を上げた。
「おかえりっ……て、あんたさ、いっつも裸足でブーツ履いてるけど、蒸れないの?」
「あん?」
玄関で杏子がブーツを力任せに引っこ抜くのを見て、さやかが言った。
杏子は乱雑に両足のブーツを放り捨てると、ぺたぺたと居間に歩いてくる。
「ほら、さやかの分。三百万円」
杏子はさやかの質問には答えず、机上にレジ袋を置いた。
中にはポテチやらプリッツやらおかしが山のように入っている。
「ちょ、あんたまたこんなに買ってきて!」
「今夜テレビであの映画やんだろ? 叛逆のなんちゃら。絶対途中口寂しくなんじゃん?」
「あのさー、テレビの前に宿題やんなよ。――って、うわ!? くさっ」
さやかは顔をしかめた。
床に座っているために、杏子の足の臭いが直に香ってきたのだ。
「ちょっ、あんたいくらなんでも足臭すぎでしょ!? 靴下穿け!」
「なっ、さやか、それは言い過ぎじゃね!? ちょっとは言い方ってもんを……」
さやかのすぐ隣であぐらを掻いた杏子は、軽く自分の左足を持ち上げた。
「あ、確かにちょっと……」
さすがの杏子も、自分の足の匂いに驚いたようだ。
「でしょ!? わかったらさっさと風呂入れ! 寄るな! しっし!」
さやかは手をひらひらさせて、テーブルに向かった。
邪険にされた杏子は「……なんだよ。そんな言い方」と頬を膨らませ、さやかをにらむ。
背中を向けたさやかは、テーブルの上に両手をのせて勉強中。
杏子は何か思いついたように、ニヤリと口角を上げた。
「うりゃっ」
「きゃっ!?」
杏子は、ガラ空きのさやかの脇腹へ両足を押し当てたのだ。
そのまま、足の指を器用に動かし、さやかの脇腹をくすぐり始める。
「たははははははっ!!? ちょっ杏子やめっ!!」
さやかは身をよじって笑い始めた。
「へっ! あたしの足の悪口言うからだよー」
杏子はあざけるように言い、足でぐにぐにとさやかの脇腹をくすぐる。
「こらぁひひひひひひひひひっきたな……っ!!! ひゃはははははっ!! 匂い移るからぁぁははははっ!! やめろぉぉ~!」
「うげ、匂い移るとか失礼すぎじゃね? うりうり」
身をよじるさやかの脇腹にさらに杏子は足を食い込ませる。
「ひひひひひっ!!! ちょっ、もう!!! いひひひひいい加減にしろぃぃっ!!!」
「おわっ!!?」
振り向きざまに、さやかが杏子を押し倒した。
さやかは杏子のお腹に乗り、開脚して杏子の両腕を押さえつけた。
「ちょっ、なっ……えぇ!?」
杏子は突然の形勢逆転に戸惑いを隠せない。
「へっ、杏子調子乗りすぎ。ちょ~っくらお仕置きが必要かなぁ~?」
さやかはニヤッと笑うと、べろんと杏子のパーカーとインナーシャツの裾を一緒にめくり上げ、白いお腹を露出させた。
「げ、さ、さやか、落ち着こ? な?」
途端に青ざめ頬を引きつらせる杏子。
さやかは、その様子を見、したり顔を作ると、
「だ~め!」
いきなり十本の指を杏子のお腹に押し当て、わちゃわちゃとくすぐりはじめた。
「きゃはははははははあはははっ!!! うはぁぁぁははっはっははっはっはっは!!?」
杏子はびくんと体をのけぞるようにして大笑いし始めた。
「何あんた、くすぐり苦手なの?」
さやかはくにくにとお腹を揉みほぐしながら言う。
「弱いぃぃっひっひっひっひっひひ無理無理無理ぃぃぃっひひひひひひいひひひっひひひい~~!!」
杏子はぶんぶんと首を左右に振って拒否を示す。
目には涙が浮かんでいる。
「そんな弱いくせに先に仕掛けてきたんだ、へぇ」
さやかは呆れたように言うと、人差し指を杏子のおへそにつっこんだ。
「うひょっぉおおおっほぉぉ~~~!!!?」
そのまま、くりっくりっとほじくりながら、空いた手で脇腹にこそこそと爪を立てる。
「うほひひひひひひひひっひひひぃぃぃ~~ひっひっひっひっひいっひやべぇぇぇ~~!!!」
「もとはと言えばあんたの足が臭いのが悪いんだから、笑って反省しろ!」
「臭くないぃぃっひっひっひっひっひひ臭くないぃひひひひっひひひひひいひ!!!」
「あんたさっき自分でにおったじゃん! そんな態度取るなら……」
さやかは体を反転させると、机上の消しゴム付き鉛筆を取り、消しゴム側で杏子の素足の足の裏をぐりぐり引っ掻き始めた。
「うへへへへへへへいぎゃぁぁっはっはっはっははっははははっははっはっ!!!?」
杏子は自由になった手でぽかぽかさやかの背中を叩く。
よほどくすぐったいのか、杏子の足の指がびくびくと開いたり閉じたり暴れている。
「ちょ、こらっ! 痛いって、このぉ!」
さらにさやかは、鉛筆を足の指の間に差し込んだり、角でカリカリと付け根をいじったりした。
「ふぎゃぁあああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひぃぃっひぃひひひひひひひひひっ!!! やべろぉぉぉぉやう゛ぇりゃぁぁっはっはっはっはっっはっは!!!」
「反省した?」
さやかは杏子の足の指を押し広げ、つつきながら言う。
「はひぃぃっひ、……反省……」
杏子は涙を流しながら、
「するかぁぁぁ!!」
空いた両手で、さやかの脇腹をくすぐった。
「きゃはははははははあっ!!!? ちょぉぉ反撃ぃぃいっひっひっっひふひぃぃ!!?」
バランスを崩し押し倒されたさやかの背中に、今度は杏子が馬乗りになった。
「さ~やか? ちょっと、やりすぎたんじゃねぇかなぁ~?」
杏子は歯を見せて笑いながら、ワキワキと指を動かして見せた。
「い……、いやぁ~……その、うん。調子に乗りすぎた、か?」
てへっと笑うさやか。
杏子は「へぇ」と蔑むような視線を剥け、一気に両手をさやかの脇腹へ突き立てた。
結局一時間以上くすぐり合いが続き、二人ともその日のうちに宿題が終わらなかった。
(完)