「お前をバターにしてやろうか!」
「……??」
大洗女子学園の女子寮の一室。
宇津木優季は夕食のパンに塗るためのバターを冷蔵庫から取り出したところだった。
バターがしゃべった。……ように聞こえた。
「えっと……バター、……さん?」
優季はしどろもどりになりながら、手に持った450gの直方体固形バターに話しかけてみる。
「お前をバターにしてやろうか!」
もう一度まったく同じ口調。声は、間違いなくバターから聞こえた。
どうしてバターから声が……?
あまりにも予想外な超常現象に優季が固まっているうちに、450gの固形バターは、触ってもいないのにぐにゃぐにゃと変形しはじめた。
「ひっ……!?」
優季は思わず手をはなした。
バターが床に落ちてべちゃりと音を立てた。
「よくもやったな! お前をバターにしてやる!」
再びバターから声がしたかと思うと、バターは小さく分裂しながら、優季に向かって飛びついてきた。
バターは10から20に分かれると、粘土細工のように自在に形を変え、小さな手のような形になっていった。
「きゃっ……!? ――ふぁあっ!?? あははははははははは!!?」
優季は尻餅をついて笑い出した。
赤子よりもさらに小さなバターの手は優季の体中をくすぐりはじめたのだ。
「やっ……あぁぁ~~っはっはっはっはっは!!? くすぐったいっ!! だめぇぇ~~っはっはっはっはっはっはっは~~!!」
およそ20の小さな手の大群に体をまさぐられ、優季はじたばたともがいて笑う。
着替えていたセーラー服のうえから脇腹や腋の下、スカートの裾から侵入にして太ももや脚の付け根、靴下を脱がされた足の裏までくすぐられている。
「きゃぁぁははははははははは!!? ばっ、なんでバターがぁぁははははははははははは~~!!!?」
小さな手、小さな指が体中を這い回る経験なんて生まれてはじめてのことだった。
優季は激しいくすぐったさに、涙を流して笑い狂った。
バターはべちゃべちゃと制服にまとわりつき、黄色い染みをつくってゆく。
「やぁぁぁあぁ!!? よごれっ、……染みになっちゃううああぁっはっははははははははははは~~!!!」
バターの手は小さすぎて振り払えない。
手で掴んで引きはがそうにも、油分を多く含むバターはずるずると滑ってうまく掴めなかった。
しかたなく床に押しつけてみても、アメーバのようにすぐに再生してしまう。
体中をバターでべとべとにして笑う優季。
大笑いしながら、先ほどバターによる「お前をバターにしてやる」発言を思い出す。
「ぁああぁぁっはっはっはっはっはっはは!!!? ば、バターになっちゃいますよおおおおおあははははははははははは~~!!!」
バターになるなんて嫌だ……!
バターにくすぐられるとバターになってしまう……!
優季は、根拠はないが、そんな気がした。
・・・
『ひああぁははははははは、うさぎさんダメぇぇえぇ~~!!』
『う゛ぃあぁぁぁあぁひゃっはっはっはっはっ、強くなるぁぁぁあぁ~~!!』
『やぁあぁぁ見えないぃいい~~ひひひひひひ、えっちぃいい~~!!』
『はずれてぇえへっへっへっへ、無理ぃぃ~~!!』
『バターはいやぁぁあっはっはっはっは、こないでよぉ~~!!』
無線から聞こえてくるM3中戦車の一年どもの哄笑。
澤梓、阪口桂利奈、大野あや、山郷あゆみ、宇津木優季の部屋は盗聴されていた。
アリサは、自室で彼女らの苦しむ声が聞けて、満足だった。
仮にもアリサはサンダース大学付属高校戦車道チームの副隊長。膨大な資産のなかから、復讐のための費用をちょろまかすことは造作も無くできた。
生物兵器や拷問器具の研究開発費、もろもろ材料費、人件費など、しめてファイアフライ一両分程度もかかってしまったが、復讐のためだ。仕方が無い。
「……ん?」
ふと無線に雑音が入った。
『……ぅ、……――』
謎の声。
アリサは耳を澄ませた。
『……ぅ、ちょ』
アリサはその声に聞き覚えはなかった。しかしそこで、あることに気づく。M3中戦車の乗員には、主砲砲手、37mm砲砲手、主砲装填手、37mm砲装填手、操縦手、車長、通信手、7つの役割が課せられるため、兼任しても最低6人は必要のはず……。
ひとり、足りない……。
戦慄する。
無線から漏れ続けるくぐもった声に、アリサは背筋が寒くなった。
『――ちょうちょ』
・・・
・・・・
・・・・・
翌日、アリサは変わり果てた姿で発見された。
(完)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
優季ちゃん。「優」しい「季」節と覚えれば間違えない。
この子、ウサギさんチームの中でかなり好きです。
重戦車きらぁ参上ぉ~。
・M3ウサギさんくすぐリー ( x / ウサギさんチーム) ♯1 ♯2 ♯3 ♯4 ♯5
「……??」
大洗女子学園の女子寮の一室。
宇津木優季は夕食のパンに塗るためのバターを冷蔵庫から取り出したところだった。
バターがしゃべった。……ように聞こえた。
「えっと……バター、……さん?」
優季はしどろもどりになりながら、手に持った450gの直方体固形バターに話しかけてみる。
「お前をバターにしてやろうか!」
もう一度まったく同じ口調。声は、間違いなくバターから聞こえた。
どうしてバターから声が……?
あまりにも予想外な超常現象に優季が固まっているうちに、450gの固形バターは、触ってもいないのにぐにゃぐにゃと変形しはじめた。
「ひっ……!?」
優季は思わず手をはなした。
バターが床に落ちてべちゃりと音を立てた。
「よくもやったな! お前をバターにしてやる!」
再びバターから声がしたかと思うと、バターは小さく分裂しながら、優季に向かって飛びついてきた。
バターは10から20に分かれると、粘土細工のように自在に形を変え、小さな手のような形になっていった。
「きゃっ……!? ――ふぁあっ!?? あははははははははは!!?」
優季は尻餅をついて笑い出した。
赤子よりもさらに小さなバターの手は優季の体中をくすぐりはじめたのだ。
「やっ……あぁぁ~~っはっはっはっはっは!!? くすぐったいっ!! だめぇぇ~~っはっはっはっはっはっはっは~~!!」
およそ20の小さな手の大群に体をまさぐられ、優季はじたばたともがいて笑う。
着替えていたセーラー服のうえから脇腹や腋の下、スカートの裾から侵入にして太ももや脚の付け根、靴下を脱がされた足の裏までくすぐられている。
「きゃぁぁははははははははは!!? ばっ、なんでバターがぁぁははははははははははは~~!!!?」
小さな手、小さな指が体中を這い回る経験なんて生まれてはじめてのことだった。
優季は激しいくすぐったさに、涙を流して笑い狂った。
バターはべちゃべちゃと制服にまとわりつき、黄色い染みをつくってゆく。
「やぁぁぁあぁ!!? よごれっ、……染みになっちゃううああぁっはっははははははははははは~~!!!」
バターの手は小さすぎて振り払えない。
手で掴んで引きはがそうにも、油分を多く含むバターはずるずると滑ってうまく掴めなかった。
しかたなく床に押しつけてみても、アメーバのようにすぐに再生してしまう。
体中をバターでべとべとにして笑う優季。
大笑いしながら、先ほどバターによる「お前をバターにしてやる」発言を思い出す。
「ぁああぁぁっはっはっはっはっはっはは!!!? ば、バターになっちゃいますよおおおおおあははははははははははは~~!!!」
バターになるなんて嫌だ……!
バターにくすぐられるとバターになってしまう……!
優季は、根拠はないが、そんな気がした。
・・・
『ひああぁははははははは、うさぎさんダメぇぇえぇ~~!!』
『う゛ぃあぁぁぁあぁひゃっはっはっはっはっ、強くなるぁぁぁあぁ~~!!』
『やぁあぁぁ見えないぃいい~~ひひひひひひ、えっちぃいい~~!!』
『はずれてぇえへっへっへっへ、無理ぃぃ~~!!』
『バターはいやぁぁあっはっはっはっは、こないでよぉ~~!!』
無線から聞こえてくるM3中戦車の一年どもの哄笑。
澤梓、阪口桂利奈、大野あや、山郷あゆみ、宇津木優季の部屋は盗聴されていた。
アリサは、自室で彼女らの苦しむ声が聞けて、満足だった。
仮にもアリサはサンダース大学付属高校戦車道チームの副隊長。膨大な資産のなかから、復讐のための費用をちょろまかすことは造作も無くできた。
生物兵器や拷問器具の研究開発費、もろもろ材料費、人件費など、しめてファイアフライ一両分程度もかかってしまったが、復讐のためだ。仕方が無い。
「……ん?」
ふと無線に雑音が入った。
『……ぅ、……――』
謎の声。
アリサは耳を澄ませた。
『……ぅ、ちょ』
アリサはその声に聞き覚えはなかった。しかしそこで、あることに気づく。M3中戦車の乗員には、主砲砲手、37mm砲砲手、主砲装填手、37mm砲装填手、操縦手、車長、通信手、7つの役割が課せられるため、兼任しても最低6人は必要のはず……。
ひとり、足りない……。
戦慄する。
無線から漏れ続けるくぐもった声に、アリサは背筋が寒くなった。
『――ちょうちょ』
・・・
・・・・
・・・・・
翌日、アリサは変わり果てた姿で発見された。
(完)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)
こんばんは。ertです。
優季ちゃん。「優」しい「季」節と覚えれば間違えない。
この子、ウサギさんチームの中でかなり好きです。
重戦車きらぁ参上ぉ~。
・M3ウサギさんくすぐリー ( x / ウサギさんチーム) ♯1 ♯2 ♯3 ♯4 ♯5