『こちょこちょ手袋』
効能:指をコチョコチョ動かすだけで、遠くの人間をくすぐることができる
「なんだこれ?」
うららかな午後。ぼくは公園の木のしたで白い手袋を見つけた。
誰かの落とし物か、なんの変哲もないようにみえるただの手袋。裏側に『効能』なる項目あり。『遠くの人間をくすぐることができる』とはいかに?
両手にはめてみると、ぴちりと吸い付くようにフィットする。外目には普通の手袋より一回りほど大きい様子。防寒には好都合だ。
公園のベンチに、学校帰りらしい女子校生が二人座っているのが見えた。
ブレザーの首元にマフラーをまいたショートカットヘアの子と、コートと耳当てで完全防寒のふわふわミディアムヘアの子だ。
二人は笑い合いながら、クレープを食べている。
「うはっ、頭にキーンとくる!」
「こんな時期にアイスの入ったやつ頼むからだよ……」
「いやいや、せっかくのクレープなんだから甘いの食べたいじゃん! あったかい塩気のあるクレープとか、おかずじゃん!」
「ベーコンポテト美味しいのに……」
効能を試してみるか……。
ぼくは、ベーコンポテトクレープをもそもそと食べていたミディアムヘアの子に、両手を向けた。
「指をくすぐるように動かせばいいんだっけ……?」
指をくねくねっと動かしてみると、
「ひゃっ!!?」ミディアムヘアの子はびくんと肩を大きく震わせて飛び上がり、
「――ぷきゃはははは!!? やっ、なっ!? やはははははははははは~~!!!」
クレープと鞄を弾き飛ばして笑いだした。
くねくねと体をよじり、ベンチの上で這いつくばるようになって悶える。
「ちょっ……マリナ!? なにしてんの!?」
隣のショートカットヘアの子が驚いたように立ち上がる。
「やらっ!!? 意味がわかんにゃぁははっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
ミディアムヘアの子は髪の毛を振り乱して大笑いしている。
腋を必死に閉じようとしている様子から、ぼくのくすぐりは腋あたりで機能しているようだ。
他の部位もくすぐれるのかな?
ぼくは両手を上下左右に動かして、くすぐれる部位を探してみる。
「やははは!? やだっ……なにぃひひっひっひっひ!!! あひゃっ、足やめ――きゃぁぁあん!! そんなとこまでぇぇ~~!!」
ミディアムヘアの子は顔を真っ赤にして暴れた。
なるほど。くすぐり始めた位置が相手の腋位置に固定され、そこから上下左右に腕を動かすことで、くすぐる部位を変えられるらしい。
「え……マリナ……? 大丈夫? 救急車呼ぶ?」
突然友達が馬鹿笑いをはじめて、ショートカットヘアの子は戸惑っている様子だ。
ぼくは、両手をミディアムヘアの子から、ショートカットヘアの子へ向けなおした。
「ふぇっ……?」ショートカットヘアの子は、一瞬目をまんまるにして、
「――ぶふぅぅうひゃははははは!!? いへっ!? なにこれぁはああああ~~っはっはっはははっはっはっは!!! げほげほっ……だひゃっはっはっはっはっはっは!!!」
口に入っていたクレープの食べかすを盛大にまき散らして笑いだした。
「ひぃ……ひぃ……いったいなんなの……?」
解放されたミディアムヘアの子が油断していたので、片手を向けなおす。
「……ふぅ……――ぶへっ!!? あひゃひゃひゃひゃ!!? またぁぁあ~~?? やだぁっはっはっはっはっははっはっはっは!!!」
なるほど。どちらか一方の手を向けていれば、複数人でも同時にくすぐれるらしい。
手は二本しかないから、二人が限界かな?
「あひゃはははは!!! やめて……っ! どうなってんのこれぇぇ~~ひゃっはっはっはっはっは!?」
「きゃはははっ~~!! たすけでっ、だれかぁあっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~!!!」
女子校生二人の甲高い笑い声に、やじ馬が集まり始めた。
公開処刑とはまさにこのこと。
傍から見ればなにもないのにのたうちまわって笑い悶えるJK二人。そんな様子をスマホで写真で取られSNSに上げられる……。
可哀そうなことこの上ないな……と思いながら、ぼくはくすぐり続けた。
やじ馬が飽きてきたころを見計らいくすぐる指を止める。
突然くすぐったさがやんでキョトンとした表情を浮かべる女子校生二人組。
直後、自分たちが衆人環視の前で馬鹿笑いしていたことに気づき、顔を真っ赤にした。
ショートカットヘアの子はいそいそと散らばった靴や鞄を拾い、泣き出してしまったミディアムヘアの子の腕をひっぱって、恥ずかしそうにその場を走り去った。
……
この手袋本物じゃないか!
ぼくは喜びのあまり武者震いが止まらなかった。久しく忘れていた感情。こどものころ、親に新しいおもちゃを買ってもらって、帰路に就くまでの時間すら惜しい……そんな感覚だ。
「お?」
スマホを手にしたやじ馬の中に、好みのタイプの可愛い女の子を発見!
ぼくは、そっと、彼女に両手を向けた。
(完)
効能:指をコチョコチョ動かすだけで、遠くの人間をくすぐることができる
「なんだこれ?」
うららかな午後。ぼくは公園の木のしたで白い手袋を見つけた。
誰かの落とし物か、なんの変哲もないようにみえるただの手袋。裏側に『効能』なる項目あり。『遠くの人間をくすぐることができる』とはいかに?
両手にはめてみると、ぴちりと吸い付くようにフィットする。外目には普通の手袋より一回りほど大きい様子。防寒には好都合だ。
公園のベンチに、学校帰りらしい女子校生が二人座っているのが見えた。
ブレザーの首元にマフラーをまいたショートカットヘアの子と、コートと耳当てで完全防寒のふわふわミディアムヘアの子だ。
二人は笑い合いながら、クレープを食べている。
「うはっ、頭にキーンとくる!」
「こんな時期にアイスの入ったやつ頼むからだよ……」
「いやいや、せっかくのクレープなんだから甘いの食べたいじゃん! あったかい塩気のあるクレープとか、おかずじゃん!」
「ベーコンポテト美味しいのに……」
効能を試してみるか……。
ぼくは、ベーコンポテトクレープをもそもそと食べていたミディアムヘアの子に、両手を向けた。
「指をくすぐるように動かせばいいんだっけ……?」
指をくねくねっと動かしてみると、
「ひゃっ!!?」ミディアムヘアの子はびくんと肩を大きく震わせて飛び上がり、
「――ぷきゃはははは!!? やっ、なっ!? やはははははははははは~~!!!」
クレープと鞄を弾き飛ばして笑いだした。
くねくねと体をよじり、ベンチの上で這いつくばるようになって悶える。
「ちょっ……マリナ!? なにしてんの!?」
隣のショートカットヘアの子が驚いたように立ち上がる。
「やらっ!!? 意味がわかんにゃぁははっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
ミディアムヘアの子は髪の毛を振り乱して大笑いしている。
腋を必死に閉じようとしている様子から、ぼくのくすぐりは腋あたりで機能しているようだ。
他の部位もくすぐれるのかな?
ぼくは両手を上下左右に動かして、くすぐれる部位を探してみる。
「やははは!? やだっ……なにぃひひっひっひっひ!!! あひゃっ、足やめ――きゃぁぁあん!! そんなとこまでぇぇ~~!!」
ミディアムヘアの子は顔を真っ赤にして暴れた。
なるほど。くすぐり始めた位置が相手の腋位置に固定され、そこから上下左右に腕を動かすことで、くすぐる部位を変えられるらしい。
「え……マリナ……? 大丈夫? 救急車呼ぶ?」
突然友達が馬鹿笑いをはじめて、ショートカットヘアの子は戸惑っている様子だ。
ぼくは、両手をミディアムヘアの子から、ショートカットヘアの子へ向けなおした。
「ふぇっ……?」ショートカットヘアの子は、一瞬目をまんまるにして、
「――ぶふぅぅうひゃははははは!!? いへっ!? なにこれぁはああああ~~っはっはっはははっはっはっは!!! げほげほっ……だひゃっはっはっはっはっはっは!!!」
口に入っていたクレープの食べかすを盛大にまき散らして笑いだした。
「ひぃ……ひぃ……いったいなんなの……?」
解放されたミディアムヘアの子が油断していたので、片手を向けなおす。
「……ふぅ……――ぶへっ!!? あひゃひゃひゃひゃ!!? またぁぁあ~~?? やだぁっはっはっはっはっははっはっはっは!!!」
なるほど。どちらか一方の手を向けていれば、複数人でも同時にくすぐれるらしい。
手は二本しかないから、二人が限界かな?
「あひゃはははは!!! やめて……っ! どうなってんのこれぇぇ~~ひゃっはっはっはっはっは!?」
「きゃはははっ~~!! たすけでっ、だれかぁあっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~!!!」
女子校生二人の甲高い笑い声に、やじ馬が集まり始めた。
公開処刑とはまさにこのこと。
傍から見ればなにもないのにのたうちまわって笑い悶えるJK二人。そんな様子をスマホで写真で取られSNSに上げられる……。
可哀そうなことこの上ないな……と思いながら、ぼくはくすぐり続けた。
やじ馬が飽きてきたころを見計らいくすぐる指を止める。
突然くすぐったさがやんでキョトンとした表情を浮かべる女子校生二人組。
直後、自分たちが衆人環視の前で馬鹿笑いしていたことに気づき、顔を真っ赤にした。
ショートカットヘアの子はいそいそと散らばった靴や鞄を拾い、泣き出してしまったミディアムヘアの子の腕をひっぱって、恥ずかしそうにその場を走り去った。
……
この手袋本物じゃないか!
ぼくは喜びのあまり武者震いが止まらなかった。久しく忘れていた感情。こどものころ、親に新しいおもちゃを買ってもらって、帰路に就くまでの時間すら惜しい……そんな感覚だ。
「お?」
スマホを手にしたやじ馬の中に、好みのタイプの可愛い女の子を発見!
ぼくは、そっと、彼女に両手を向けた。
(完)