「委員会に、荷物持ってきておけばよかったな……。ミオちゃん待たせて悪いし……」
カオリは小さくつぶやいた。
窓の外は夕日がさして山の端がたいへん近く感じられた。
中学校の校舎内はがらんとしていて、遠くでブラスバンド部と思しき楽器の音が聞こえてくる。
教室に荷物を置いたまま放課後の委員会活動に向かったのは失敗だった。荷物も委員会に持ってきておけば、そのまま帰宅することができたのに。委員会でできた友人のミオと一緒に帰ろうという話になったが、カオリが自教室に荷物を置いたままだったため、取りに行く間ミオに校門前で待ってもらうことになったのだ。
カオリは自身の計画性のなさを自覚していたが、なかなか改善できずにいた。
教室へ向かう途中、管楽器のへたくそな音色に交じって、なじみのない音が耳についた。教室に近づくにつれて大きくなり、それが女の子の笑い声であることに気づいた。
「きゃはっはっはっはっはっはやらぁはははははは~~!?」
甲高い笑い声が廊下に漏れている。
「え……? 誰? まだだれか残ってるの?」
校内に残っているのは部活生かなんらかの委員会活動があった生徒だけのはず。
カオリは恐る恐る教室をのぞき込む。カオリは目を見開いた。
「あははははははは!?」
大笑いしているのはクラスメイトのサキ。部活には入っておらず、今日は図書委員の集まりがあったはずだ。物静かな女の子でこんなに大口を開けて笑う姿、見たことがなかった。
床にあおむけになったサキの小柄な体を、知らない生徒5人が押さえつけてくすぐっていた。
「きゃはっはっはっはっはっは、やめへっ!! 先輩っ……いやはははははあはははははははっ!!」
サキは激しく髪の毛を振り乱して笑っている。
大の字に広げられた腋の下、股の間、足の裏、「先輩」らしい5人の生徒が激しくくすぐる。
制服はよれよれ。ワイシャツがでろんとはみ出、裾から腕をつっこまれていた。よく見ると、片足は靴下まで脱がされていた。
カオリはごくりと生唾を飲み込んだ。
なにがなんだかわからない。
しばらく見ていると、くすぐられて涙を流して笑うサキと目が合った。
「かひゃひゃっ!? カオリちゃっ……たしゅけてぇえぇっへっへへへへへっへへ~~!!」
サキのその言葉で、彼女の足の裏をくすぐっていた先輩のひとりがキッとこちらを見た。
先輩は口角をニチャぁっと上げた。
「みぃ~た~なぁ~?」
カオリはゾッと背筋が寒くなった。
2人の先輩が立ち上がってこちらに向かってくる。
カオリは回れ右をして逃げようとした。
しかし、慌てていたために何もない床でつまづいてしまい前のめりに転倒。追ってきた先輩2人に腕をつかまれ、そのままズルズルと教室に引っ張り込まれてしまった。
「カオリちゃんって言うの? 見ちゃったから、カオリちゃんお仕置きね?」
カオリは先輩たちに口答えできないまま、床に大の字に押さえつけられた。力が思いのほか強く、なんら抵抗できない。さっきまでサキがくすぐられていた位置……。カオリは自分がこれからされることを想像してゾッとした。ブレザーの前ボタンをはずされ、両足の上履きと左足の靴下を脱がされた。
「サキ。先生に言ったら承知せんからね?」
サキは解放されると、片足素足のまま上履きをつっかけ、そそくさと教室から出て行った。カオリには一瞥もしなかった。薄情者め!
なんでサキがくすぐられていたのかも、なんで自分がサキの代わりにくすぐられることになったのかも、さっぱり理解できない。
先輩たちはなんの説明もしないまま、カオリの無防備な体をくすぐりだした。
「や゛っ!? ぶはっはっははっはっははっは!!? やめっ、くすぐっちゃぁぁあっはっははっははははっはっは~~!!!」
小さいころくすぐり遊びをしたことはあったが、5人がかりで全身をくすぐられたのははじめてだ。
腋の下、脇腹、おなか、股下、足の裏、いたるところで指がうごめく。
どこをくすぐられているのかわからなくなるほどくすぐったかった。
「やめへっ……しぇんぱあぁははっははっはっはっは!!? なんじぇこんなことしゅるのぉ~~ひゃひゃひゃっ!?」
いくら聞いても返事が返ってくることはない。
カオリはわけもわからず強烈なくすぐったさに翻弄され笑い続けた。
やっぱり……、荷物を教室に置きっぱなしにしたのは失敗だった。……
カオリは自分の計画性のなさを呪いたくなった。
しばらく笑い続け、酸欠で頭がぼうっとしてきた頃、突然教室の扉が開いた。
「カオリちゃん? 何してるの? ずっと待ってたんだけど……」
校門で待たせていたミオだった。
あまりにもカオリの帰りが遅いので、心配して教室まで上がってきてくれたようだ。
「なに? カオリちゃんの友達? 見ちゃったならあなたもお仕置きだよ~」
先輩はカオリをくすぐるのをやめ、立ち上がる。カオリは逃げる気力が残っていなかった。
「え……? なんですか? 意味がわからな――」
先輩たちはミオを取り押さえた。
カオリは脱力したままその光景を横目で眺めることしかできない。
数分後。
「ひにゃはあはははははははは!!? なんでっ……私なんにもひゃぁぁぁあ~~っはっはっはっははっはっはっは!!! やめへぇぇ~~!!!」
甲高いミオの笑い声が教室中に響く。
5人の先輩に両腕両足を押さえつけられたミオは、腋、脇腹、おなか、股下、足の裏……全身をくすぐられている。さっきまでのカオリと同じように。
「やらはははっはっはっは、そんなとこっ!! ぷひゃぁぁはははは、そこダメなのぉぉ~~ひぃ~~ひっひっひっひ!!」
ミオは足をくすぐられた反応が激しかったため、両足とも素足にされてくすぐられていた。
足の指の間に鉛筆を突っ込まれたり、かかとを定規でかきむしられたり、 執拗な攻めにミオは涙を流して笑い叫んでいた。
「カオリひゃぁひゃっはっはっはっは!!? 誰これぇひゃっははっはっはっは!!! 説明してぉぉ~~~ひぃひひひひひひひひひひひ!!!!」
ミオは激しく糾弾するような口調で言うが、カオリにもわけがわからないため答えられなかった。
その後は誰も教室付近を通りがからなかったため、カオリとミオは、完全下校ぎりぎりまで交互にくすぐられた。
くすぐられている最中に撮った動画をネタに口止めされ、2人は解放された。
先輩たちが何者でなぜ後輩であるサキをくすぐっていたのかは、最後まで教えてもらえなかった。
ミオはカオリに何も言わず、一人で帰ってしまった。ミオの頬のひきつった泣き顔を思い出すといたたまれない。
カオリは、今後委員会の前には、必ず荷物を持って出ようと誓った。
(完)
カオリは小さくつぶやいた。
窓の外は夕日がさして山の端がたいへん近く感じられた。
中学校の校舎内はがらんとしていて、遠くでブラスバンド部と思しき楽器の音が聞こえてくる。
教室に荷物を置いたまま放課後の委員会活動に向かったのは失敗だった。荷物も委員会に持ってきておけば、そのまま帰宅することができたのに。委員会でできた友人のミオと一緒に帰ろうという話になったが、カオリが自教室に荷物を置いたままだったため、取りに行く間ミオに校門前で待ってもらうことになったのだ。
カオリは自身の計画性のなさを自覚していたが、なかなか改善できずにいた。
教室へ向かう途中、管楽器のへたくそな音色に交じって、なじみのない音が耳についた。教室に近づくにつれて大きくなり、それが女の子の笑い声であることに気づいた。
「きゃはっはっはっはっはっはやらぁはははははは~~!?」
甲高い笑い声が廊下に漏れている。
「え……? 誰? まだだれか残ってるの?」
校内に残っているのは部活生かなんらかの委員会活動があった生徒だけのはず。
カオリは恐る恐る教室をのぞき込む。カオリは目を見開いた。
「あははははははは!?」
大笑いしているのはクラスメイトのサキ。部活には入っておらず、今日は図書委員の集まりがあったはずだ。物静かな女の子でこんなに大口を開けて笑う姿、見たことがなかった。
床にあおむけになったサキの小柄な体を、知らない生徒5人が押さえつけてくすぐっていた。
「きゃはっはっはっはっはっは、やめへっ!! 先輩っ……いやはははははあはははははははっ!!」
サキは激しく髪の毛を振り乱して笑っている。
大の字に広げられた腋の下、股の間、足の裏、「先輩」らしい5人の生徒が激しくくすぐる。
制服はよれよれ。ワイシャツがでろんとはみ出、裾から腕をつっこまれていた。よく見ると、片足は靴下まで脱がされていた。
カオリはごくりと生唾を飲み込んだ。
なにがなんだかわからない。
しばらく見ていると、くすぐられて涙を流して笑うサキと目が合った。
「かひゃひゃっ!? カオリちゃっ……たしゅけてぇえぇっへっへへへへへっへへ~~!!」
サキのその言葉で、彼女の足の裏をくすぐっていた先輩のひとりがキッとこちらを見た。
先輩は口角をニチャぁっと上げた。
「みぃ~た~なぁ~?」
カオリはゾッと背筋が寒くなった。
2人の先輩が立ち上がってこちらに向かってくる。
カオリは回れ右をして逃げようとした。
しかし、慌てていたために何もない床でつまづいてしまい前のめりに転倒。追ってきた先輩2人に腕をつかまれ、そのままズルズルと教室に引っ張り込まれてしまった。
「カオリちゃんって言うの? 見ちゃったから、カオリちゃんお仕置きね?」
カオリは先輩たちに口答えできないまま、床に大の字に押さえつけられた。力が思いのほか強く、なんら抵抗できない。さっきまでサキがくすぐられていた位置……。カオリは自分がこれからされることを想像してゾッとした。ブレザーの前ボタンをはずされ、両足の上履きと左足の靴下を脱がされた。
「サキ。先生に言ったら承知せんからね?」
サキは解放されると、片足素足のまま上履きをつっかけ、そそくさと教室から出て行った。カオリには一瞥もしなかった。薄情者め!
なんでサキがくすぐられていたのかも、なんで自分がサキの代わりにくすぐられることになったのかも、さっぱり理解できない。
先輩たちはなんの説明もしないまま、カオリの無防備な体をくすぐりだした。
「や゛っ!? ぶはっはっははっはっははっは!!? やめっ、くすぐっちゃぁぁあっはっははっははははっはっは~~!!!」
小さいころくすぐり遊びをしたことはあったが、5人がかりで全身をくすぐられたのははじめてだ。
腋の下、脇腹、おなか、股下、足の裏、いたるところで指がうごめく。
どこをくすぐられているのかわからなくなるほどくすぐったかった。
「やめへっ……しぇんぱあぁははっははっはっはっは!!? なんじぇこんなことしゅるのぉ~~ひゃひゃひゃっ!?」
いくら聞いても返事が返ってくることはない。
カオリはわけもわからず強烈なくすぐったさに翻弄され笑い続けた。
やっぱり……、荷物を教室に置きっぱなしにしたのは失敗だった。……
カオリは自分の計画性のなさを呪いたくなった。
しばらく笑い続け、酸欠で頭がぼうっとしてきた頃、突然教室の扉が開いた。
「カオリちゃん? 何してるの? ずっと待ってたんだけど……」
校門で待たせていたミオだった。
あまりにもカオリの帰りが遅いので、心配して教室まで上がってきてくれたようだ。
「なに? カオリちゃんの友達? 見ちゃったならあなたもお仕置きだよ~」
先輩はカオリをくすぐるのをやめ、立ち上がる。カオリは逃げる気力が残っていなかった。
「え……? なんですか? 意味がわからな――」
先輩たちはミオを取り押さえた。
カオリは脱力したままその光景を横目で眺めることしかできない。
数分後。
「ひにゃはあはははははははは!!? なんでっ……私なんにもひゃぁぁぁあ~~っはっはっはっははっはっはっは!!! やめへぇぇ~~!!!」
甲高いミオの笑い声が教室中に響く。
5人の先輩に両腕両足を押さえつけられたミオは、腋、脇腹、おなか、股下、足の裏……全身をくすぐられている。さっきまでのカオリと同じように。
「やらはははっはっはっは、そんなとこっ!! ぷひゃぁぁはははは、そこダメなのぉぉ~~ひぃ~~ひっひっひっひ!!」
ミオは足をくすぐられた反応が激しかったため、両足とも素足にされてくすぐられていた。
足の指の間に鉛筆を突っ込まれたり、かかとを定規でかきむしられたり、 執拗な攻めにミオは涙を流して笑い叫んでいた。
「カオリひゃぁひゃっはっはっはっは!!? 誰これぇひゃっははっはっはっは!!! 説明してぉぉ~~~ひぃひひひひひひひひひひひ!!!!」
ミオは激しく糾弾するような口調で言うが、カオリにもわけがわからないため答えられなかった。
その後は誰も教室付近を通りがからなかったため、カオリとミオは、完全下校ぎりぎりまで交互にくすぐられた。
くすぐられている最中に撮った動画をネタに口止めされ、2人は解放された。
先輩たちが何者でなぜ後輩であるサキをくすぐっていたのかは、最後まで教えてもらえなかった。
ミオはカオリに何も言わず、一人で帰ってしまった。ミオの頬のひきつった泣き顔を思い出すといたたまれない。
カオリは、今後委員会の前には、必ず荷物を持って出ようと誓った。
(完)