オイラの名前はひろし。共学の普通高校に通うごく一般的な男子高校生だ。成績は中の下。運動は苦手。彼女も彼氏もいない。
 そんなオイラが、ある朝鏡を見てびっくり! 透明人間になっちまったのさ!
 健全な男子高校生が透明人間になったらやることはひとつ! みんなもわかるだろう?


「あっははははははははは!!?」
「ミヅキ!? どうしたの!? 急に笑い出して!?」
「わかんなぃっ! わかんないぃひひひひひひひひひひひ~~!」

 オイラは通学路で見かけたクラスメイト女子の後ろから抱きつき、脇腹をくすぐりまわした。

「やはっははっはっは!!? なんでくしゅぐったいのぉ~~ひゃひゃはははははは!!!」

 衆人環視の中クラスメイトのミヅキは激しく身をよじって笑い悶える。通りがかりの学生たちの白い視線が痛い。
 一緒に登校していたアカネはドン引きしていた。
 アカネ達には透明なオイラの姿が見えないので、ミヅキがただ何もないのに爆笑しているようにしか見えないのだ。

「ねぇミヅキ……なにふざけてるの? 先、行くよ?」
「あひゃひゃひゃっアカネ……っ!! 待ってぇぇへへへへへ!! 助けひぃぃ~~っひっひっひっひ……――あれ?」
 オイラがくすぐる指を止めると、きょとんとするミヅキ。
「ミヅキ……一体どうしたっていうの――きゃん!!?」
 そして今度はアカネの胸に抱きついた。
「ちょっ……なにこっ――あにゃぁん!? ぶひゃははははははははははははははは!!?」

 アカネの大きな乳房は柔らかい。
 胸を揉みしだき、乳房の付け根をコリコリほじくると、アカネは体をのけぞって笑い出した。

「だひゃひゃ、何これっ!!? あひゃぁぁんっ!!! 意味不明ぃ~~ひひっひっひひっひっひいっひ!!!」
「えっ……アカネも?」
「あひゃひゃっ、おっぱいやめて!!!! 変なとこ触るなぁぁひゃひゃひゃひゃひゃ――んひぃん!?」

 いやはや。透明人間になったらずっとやってみたかったんだよね。女子を見えないコチョコチョでからかうの。


 ミヅキとアカネをからかってひとまず満足したオイラは学校に到着。
 風紀委員のミナモ先輩が登校してくる生徒達の服装チェックをしていた。

「そこ、ネクタイが曲がってますよ!」「そこの男子、第一ボタン!」
 仁王立ちで圧をかけるミナモ先輩。風紀委員というだけあって制服はぴっちりと着こなしている。

 オイラはミナモ先輩の目の前で舌を出した。
 当然ミナモ先輩には見えていないので無反応。
 いつも目を吊り上げて怖い先輩だが、至近距離で見るとなかなかかわいらしい顔立ちをしている。
 オイラはミナモ先輩の鼻をべろんと舐めた。

「ひゃん!? くさっ!?」

 ミナモ先輩は顔をくしゃっとしかめ、甲高い声を上げた。
 登校してきたほかの生徒たちが一斉にミナモ先輩を見る。突然奇声を上げた先輩が珍しかったのだろう。
 ミナモ先輩は不思議そうにきょろきょろあたりを見渡す。当然オイラには気づかない。堂々と背後に回り込んで、スカートの中に手を差し込んだ。

 ずりっ

「え……?」

 固まるミナモ先輩。周囲の男子どもが一斉に吹き出した。
 一瞬にして、ミナモ先輩のパンティがかかとまでずり下がったのだ。

 みるみる顔を赤くするミナモ先輩。パンティがずり落ちたことに気づくと、急いで引っ張り上げようとかがんで両腕を伸ばした。

 オイラは、そこでがら空きになったミナモ先輩のわきの下をコチョコチョくすぐった。

「うへっ!!? きゃはははははははははは!!!! ちょまっ!! はじゃぁぁはははははは!!?」

 ミナモ先輩は不安定な姿勢で笑いだしたため、前につんのめって転んでしまう。
 オイラはそんな彼女の背中にまたがり、わきの下から脇腹にかけてくすぐり攻撃をしかけた。

「あぎゃはっはっはっはっはっはっはは!!? 何っ、何ぃぃ~~っひっひっひっひひひ!!! 待ってぇぇぇぇえ!!! 見るなぁぁあひゃひゃはははははははは!!!」

 両足のかかとにパンティをひっかけ、地面をのたうち回って笑うミナモ先輩。
 暴れてスカートがめくれ上がると、そこそこ毛の生えた皮膚が露出する。

「やめへぇぇえ~~へっへっへっへっへえ!!! 見ないでぇぇ!!! お願いだからぁあはっはっはははっははっはっははは!!!」

 よほど恥ずかしいのだろう、ミナモ先輩は涙を流して暴れる。
 普段のキリリとした姿からは想像もつかない、情けない姿だった。
 人だかりが大きくなったところで、オイラはくすぐる指を止めた。
「えぐっ……ふぇぇぇ」
 ミナモ先輩の泣き顔は、普段のギャップもあってより一層愛らしく見えた。


「ホントなんだって!! 今朝突然体中がくすぐったくなっちゃって!!」
「あたしも体験したんだから! 嘘じゃないよ!」
 予鈴が鳴り、もうすぐ一限目がはじまろうかという頃。クラスメイトのミヅキとアカネが、今朝の不思議な出来事を必死にほかの女子たちに訴えていた。
「えー? じゃあ幽霊でもいるの?」
「そんなわけないじゃーん」
 他の女子たちは二人をちゃかして笑っていた。
「信じてよ!」
 ミヅキとアカネが不憫だ。しかし面白い。
 クラスの女子たちが大騒ぎするなか、一人ぽつんと輪から外れて、自分の席で本を読んでいる女子がいた。宮野さんだ。澄ました顔で、うわさ話になんか興味がない、という風な様子。
 クラス中がオイラの話題で持ち切りなのに、興味を持ってもらえないのは悲しい。
 よ~し、宮野さんにも悪戯しちゃうぞぉ~。……と息まいたところで一限目開始を伝えるチャイムが鳴った。

 一限目の数学は小テストだった。
 みんな不服そうにしながら真剣に問題を解いている。
 オイラは宮野さんの机の前でどっかりと胡坐をかいた。
 正面からよく見える。宮野さん、ここでもすました顔で問題を解いている。

 何事にも動じない風の宮野さんが、透明ないたずらをされたらどんな表情になっちゃうのかなぁ?

 オイラは、宮野さんの右足をつかんで、上履きを脱がした。

「……んっ?」
 突然足元に違和感を覚え驚いたのか、宮野さんが声を上げた。
「宮野さん、どうしましたか?」
 不機嫌そうな先生の声。割と怖い先生なのだ。
「いえ……なんで――もぉっ!?」
 宮野さんの「もぉっ」がひっくり返った。
 オイラがソックス越しの宮野さんの足の裏をなぞり上げたのだ。
「宮野さん? なんですか? テスト中は静かにしなさい」
「す、すみません……」
 先生に叱られしゅんとなる宮野さん。
 普段先生に注意を受けることがほとんどない宮野さんの挙動に、ほかのクラスメイト達もざわめいた。
「テスト中です! 静かに!」
 先生が声を荒らげ、再びクラスに静寂がもどる。

 宮野さんの右足は、オイラの手の中。
 今度は靴下を脱がし、足の指をぱくりとくわえてみた。

「んふぅ……っ!?」

 宮野さんは必死に声を殺した。
 しかし漏れ出た声に、先生は顔をしかめる。ぎろっと宮野さんをにらむにとどめ、再度注意することはなかった。

 オイラは宮野さんの足指の股に、レロレロ舌を這わせた。

「んっ……~~~~!!!? ぷ……~~~っ、……~~~~!!!」

 宮野さんは上半身をくねくねさせて悶える。
 必死に声を抑えている。

 5本指を舐めきるまで、宮野さんは耐えた。
 じゅぽっと口を足から外し、宮野さんの表情を確認する。
 宮野さんは額に汗をにじませ、顔を真っ赤にしていた。

 そろそろ楽にしてあげようか。

 オイラは、ふにゃふにゃにふやけた宮野さんの足指を反らし、付け根の部分に爪を立ててくすぐった。

「~~~~!!? ……はっ……~~~ぶふぅぅぅううひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!? あひゃぁぁぁ~っはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 じっくりと刺激を受け続け、我慢の限界に達したらしい。
 宮野さんは口を大きく開け、後ろにひっくり返りそうな勢いで笑い出した。

 先生も我慢の限界らしく、バンと机をたたき立ち上がる。
「宮野さん!! 何がおかしいんですか!! いい加減にしなさい!!」

「やらっひゃっはっははっはっはっは!!? あひぃぃ~~~~センセっ……あひぃぃいっひっひっひっひひっひhっひゃっひゃひゃっひゃっひゃっひゃ~~!!!!」

 宮野さんは右足の異常を必死に先生に伝えようとするが、火に油だ。
「靴まで脱いで何やってるんですか!!! ふざけるなら教室から出て行ってもらいます!!」

「そにゃぁあははっはっはっはっはあ!!? あひぃ~~!! 足がこしょばひぃぃい~~ひっひっひひっひっひっひっひっひ~~!!!!」

 普段おとなしい宮野さんの奇行にクラス中が唖然。
 ミヅキとアカネは今朝の状況と重ね合わせピンときたかもしれないが、怖い数学の先生におびえてか、うつむいていた。

 かわいそうな宮野さん。廊下に立たされてしまった。
 オイラは、廊下で泣きじゃくる宮野さんをさらにくすぐって笑わせ、先生の怒りを増長させて遊んだ。


 透明人間は楽しいなぁ!



(完)