悪の組織『異文化撲滅委員会』の怪人メカラビームマンは、来る12月25日クリスマスに向けて動き始めていた。
「けけけ、西洋文化にかぶれ、自国文化への敬意を忘れた愚かな人間どもめ! わてが正義の鉄槌をくだしてやるでげす!」

・・・

 12月某日、女子大生らしき二人が街角を歩いている。
 短髪で人当たりの良さそうな子と、サイドアップテールの不愛想な子だ。

「エマ、クリスマスって予定ある?」
 短髪が歩きながら聞くと、
「ライブ」
 サイドアップテールがぶっきらぼうに返した。
「あー、便器バンドだっけ?」
「BENK BAND。次そのいじりやったらぶっとばす」
「ごめんて! クリスマスライブとかそんな感じ?」
「そう」
「ライブ後は?」
「……」
「クリぼっち?」
 短髪がサイドアップテールの顔をのぞきこんだ。
 サイドアップテールは少しむっとしたようピクリと頬を動かし、
「要件言え」
「クリスマスコンパやるからさ、エマもどうかと思って。参加者はイツメンプラスアルファ的な。ぼっち勢で集まってわちゃわちゃやるのも楽しいよ?」
「時間」
「20時ぐらいから始めて、たぶん夜通しやってる。ライブ後に気が向いたらおいでよ。飲みにエマがいたら安心するって子、多いんだよね」
「把握。気が向いたら行く」

 そんな二人の背後。
「けけけ、さっそくクリスマスについてしゃべりちらかす愚かな人間を発見でげす!」
 メカラビームマンは二人の前に飛び出した。
「西洋文化にかぶれた愚かな人間に鉄槌をくだすでげす!」

「は? 急になに……? 変質者?」
「意味不明」
 ドン引きの二人に向かって、
「メカラビぃぃぃぃぃぃぃぃム!」
 メカラビームマンは右目からビームを発射した。
 二人は避ける間もなく直撃。
「ちょっ!? なにこれ」
「……は? えっ」
 ビームの明滅が終わると、二人のからだは地面から突き出た十字架に拘束されていた。
 そして、

 こちょこちょこちょこちょ。

「ぎゃはははははははははははははは!?」
「んふぅううふにゃっひゃっひゃひゃひゃっひゃっひゃ!!」

 二人は、十字架の後ろから生え出てきた白い腕に全身をこちょこちょとくすぐられた。

「いやぁはっはっはっはっはっは!? なにこの術ぅうひっひっひっひっひ!!」
「いひひいひ意味がわからにゃはぁぁっはっひゃひゃひゃひゃひゃ!!?」

 がら空きのわきの下、引っ張り伸ばされた脇腹、素足にされた足の裏までまんべんなくくすぐられ、絶叫する二人。

「お前たちのようにクリスマスに現を抜かす愚かな人間は、一生クスグリマスツリーとしてゲラゲラ大笑いしていればいいでげす!」
 メカラビームマンは、二人の甲高い笑い声を背に、次なる獲物を探しに街角に消えていった。


・・・

 公園のベンチに座って読書にふける文学少女がいた。
 メカラビームマンは、危うく素通りしそうになるが、
「むむむ、あやつが読んでいるのは『クリスマス・カロル』……でげす! あやうく見過ごすところだったでげす! クリスマスにかぶれた愚かな人間には鉄槌をくだすでげす!」
「……?」
「メカラビぃぃぃぃぃぃム!」

 文学少女はまたたくまに十字架に拘束され、くすぐり責めにあう。

「きゃはっはっはっはっはっはっは!? なにこれぇぇぇっへへへへへへへへへ!!」

 わきの下や脇腹、素足にされた足の裏を激しくくすぐられ、文学少女はゲラゲラと笑い狂った。

・・・

「ねぇねぇ、千尋、こんどのクリスマス会なんだけど、また千尋のおうち使わせてもらっていい?」
「もちろん大丈夫だよ」
「さっすが千尋!」
「人数は先に教えておいてほしいかな」
「おっけ! 決まったら連絡する」
 学校帰りの中学生らしい二人組。

「メカラビぃぃぃぃぃぃム!」

 二人組はあっという間に十字架に拘束され、

「えっちょっ……なぁあはははははははは!? なぁぁあにこれぇぇえっへっへへっへっへっへっへ!!」
「待ってぇぇえくしゅぐったひぃいひっひひっひっひひっひっひ!!」

 十字架から生え出た白い腕にめちゃくちゃにくすぐられる。
 メカラビームマンのクリスマス狩りはまだまだつづく。

・・・


 メカラビームマンは、クリスマスのにおいを嗅ぎつけ、女子校にやってきた。

「ねぇユリ、男子にクリスマスプレゼントってなに用意したらいいのかなぁ?」
「えー? アタシに聞かれてもわかんないよー」
 廊下で駄弁る女子校生二人を発見。

「メカラビぃぃぃぃぃぃム!」

「ふぁあははははははははは!? なんなのこれぇぇへへへへへへへユリぃいいひひひひひ!! 助けてぇぇえぇえっへっへっへっへ!!」

「あ、……アケミ!? 何!? どうなってるの!?」

 ユリと呼ばれた少女は、偶然にもビームの直撃から免れた。
 直撃を食らったアケミは十字架に拘束されて全身をくすぐられる。見事なクスグリマスツリーと化していた。

「ややや、わてのビームを避けるとは許せないでげす! 西洋文化にかぶれた愚かな人間にはお仕置きが必要でげす!」
「ま、待って意味がわからない!」
 ユリは足をもつれさせながら逃げる。

「メカラビぃぃぃぃぃぃム!」

「あんぎゃぁ!?」
 ビームは偶然通りがかった女子生徒に命中した。

「あびゃぁははははははははは!? なんじゃぁぁこりゃぁああひゃひゃひゃひゃひゃ!! わたしぃいひひいひいひ、トイレ行こうとしただけなのにぃいひひひひひひひ!!」

「ひぃぃ」
 ユリは真っ青になって走る。
 前方不注意で気難しそうな女子生徒にぶつかってしまう。
「ユリさん、廊下を走ってはいけませんよ」
「いやっ、それどころじゃ――」

「メカラビぃぃぃぃぃぃム!」

「んなっ!?」
 またもユリがかわしたため、ビームはすぐそばにいた気難しそうな女子生徒に命中した。

「ひゃひひひひひひひ!? なにゃひひゃひゃひひひひひひ!! ふじゃけにゃぁひゃぁぁあひっひっひっひひっひっひ!!」

「そんな……っ! 誰か助けてぇ!」

 ユリは泣きながら屋上に逃げ込んだ。


・・・

「あぎゃっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
 ユリは十字架に磔にされて全身をくすぐられていた。
 逃げ場のない屋上に追い込まれたのが運の尽きであった。

「けけけ、手こずらせやがってでげす! 西洋文化にかぶれた愚かな人間どもは一人残らず鉄槌をくださねばならないんでげす!」

「いひゃぁあっはっはっはっはっは!? 意味がわかんないよぉぉひゃっひゃっはひゃっひゃ!」

 ユリは腋の下、脇腹、素足にされた足の裏を白い腕にくすぐられ大笑い。

「けけけ、西洋文化にかぶれた愚かな人間どもの代わりに、わてが街中をクスグリマスツリーでイルミネートしてやるでげす!」

 メカラビームマンが次なる獲物を探して飛び立とうとしたそのとき、

「ピリピリパイナポーショットぉぉ!」
「ぐぁっ! でげす!」
 メカラビームマンのからだに黄色い光弾が撃ち込まれる。
「なにやつでげす!?」

「夢中になれる芳醇な香り! ピリピーチ!」
「青春を運ぶ甘酸っぱい香り! ピリアップル!」
「気分をリフレッシュさわやかな香り! ピリパイナポー!」
 爆発とともに、桃色、青色、黄色の戦士がポーズを取った。

「貴様らは! いつも悪の組織『異文化撲滅委員会』の邪魔をする、正義の戦士『がーるず・おぶ・すぴりっつ』略して『がるぴり』でげすか!」

「『異文化撲滅委員会』! みんながワクワク夢中になれるクリスマスイベントを邪魔しようだなんて許せない! ピリピリ白桃アタック!」
「カップルにとって最高の思い出イベント、クリスマスをぶち壊そうだなんて許せない! ピリピリ王林剣!」
「こんなときぐらいしかケーキとかフライドチキンなんて食べないんだから! 気分転換のちょっとした贅沢に、大義名分を与えてくれるクリスマスを邪魔するなんて許せない! ピリピリパイン光線!」

「ぐぎゃぁああでげす!」
 三人の攻撃を食らい、メカラビームマンは爆発した。
 爆風でふっとばされながら、
「がるぴりめぇぇ、覚えてろでげすぅぅぅ!」

 その後、無事クリスマスを迎えた『がるぴり』の三人。
 ピーチこと桃井の家に集まり、クリスマスパーティの準備をしている。
「うまいうまい」
 テーブルに並んだお菓子やチキンをつまみ食いするピリパイナポーこと松林に、
「もう、松林さん! 食べてばかりじゃなくて飾り付け手伝ってよぉ」
 クリスマスツリーに綿をのっけながら文句を言う桃井。
「無駄ですよ桃井さん。クリスマスなんてロマンチックなイベント、花より団子脳の松林さんには理解できません」
 ピリアップルこと青森は、腕を伸ばして壁に輪っか飾りをつけながら嫌味ったらしくいった。
「ひょっとあおもひはん、ひろくなぁい? (ちょっと青森さん、ひどくなぁい?)」
 口いっぱいにお菓子を詰め込んだ松林は、青森の背後から忍び寄り、がら空きのわきの下をくすぐった。
「おひょひょひょひょ!? ちょっ、松林さっ、ふじゃけにゃひぃひひひっひひひひひひ!」
 青森が膝から崩れ落ちると、松林は追撃するようにくすぐりまわした。
「食欲をバカにするやつはお仕置きだー」
「ちょっと二人とも! なに遊んでるの!」
 桃井はぷんすかとかけてきて、
「私も混ぜてよ!」
「あひゃひゃひゃ!? 二人がかりは反則ですうううっひっひひひひひぃぃぃ」

 三人のクリスマスパーティは終始笑顔が絶えなかった。


(完)