霊和清(れいわ きよめ)がアパートで独り暮らしを始めて、一週間が過ぎたころだ。
(もう……、明日、一限から講義あるのに、寝つきが悪いとか最悪だわ……)
清は、ベッドに入ってから数時間、謎の息苦しさに悩まされ熟睡できずにいた。
体は疲れているはずなのにおかしい。
だるさだけが積み重なってくる。そんな気がする。
(どうせ眠れないなら、動画でも見て気を紛らわそうかな……)
ふと目を開けると、
「え……?」
目の前に、黒髪の少女がいた。顔は長い髪の毛に隠れて見えない。
仰向けになった清のからだに馬乗りになって、両手を首に巻き付けていた。
「ちょ……何する気っ!?」
清はガッと黒髪少女の手首をつかんだ。
すると、黒髪少女が「ふぇっ!?」とすっとんきょうな声をあげてひるんだ。
清は、そのままぐりんと体をねじり、バランスを崩した黒髪少女をベッドに押し倒した。
「きゃんっ」
清は、ひっくり返った黒髪少女を布団でぐるぐる巻きにして動きを封じた。
「ええっ!!? ちょ、待って!? なんで!? ええ!?」
黒髪少女は異様に驚いている。
黒髪の隙間から見えた彼女の顔立ちは、のっぺりとした和風美人という印象。年齢は清と同じ大学生ぐらいか、少し若いかぐらいに見えた。
見覚えはなく、どうしてこんな子に殺されかけたのか、見当がつかない。
清は一呼吸ついて、
「あなた……、どこから入ったのよ。窓も扉も鍵かけてるのに……」
ベランダから侵入した形跡はない。玄関口もしっかりと鍵がかかっている。不思議なことに、黒髪少女の靴がどこにも見当たらなかった。
簀巻きになった彼女に目をやると、布団の端からちょこんとはみ出た左右の青白い素足。足の裏は綺麗で、外を歩いてきたようにも見えなかった。
「あなた、何者?」
清が尋ねると、
「それはこっちの台詞! なんであなた、私の姿が見えてっ……!」
黒髪少女はそこで口をつぐんだ。
「なんて? 『私の姿が見えて』って何? どういうこと?」
「……」
黒髪少女は気まずそうに視線をそらした。
「ちゃんと説明してくれないなら――」
清は、簀巻きになった黒髪少女の上にまたがる。
「う」と苦しそうに声を漏らす黒髪少女に背を向け、むき出しになった素足をコチョコチョとくすぐる。
すると、黒髪少女のからだがびくんと波打った。
「おひゃひゃひゃひゃひゃ!!? ぶひゃっひゃひゃっひゃっひゃひゃひゃなひゃぁあああ!!」
「おほう……! すごい声……」
清が振り返って見ると、黒髪少女はひどく崩れたアヘ笑顔でゲラゲラ馬鹿笑いしていた。
「やべひゃっひひひっひっひっひひ!! ふぎゃぁあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
黒髪少女の足の指がくねくねくすぐったそうに動いた。
「あなた、何者? どこの誰? どうして私を殺そうとしたの? さっきの『私の姿』がどうのこうのって何!?」
清が、黒髪少女の素足、土踏まずをがりがりかきむしりながらたずねた。
「あぎゃはやひゃはやひゃひゃ!! なんでも言ううぅうひゃひゃひゃひゃひゃ!!! ぜんぶこたえりゅかりゃぁあひゃひゃひゃは、それやめでぇぇっへっへっへっへっへっへぇぇぇ!!」
黒髪少女は喉がちぎれそうなほど甲高い声で笑った。
清が手を止めると、黒髪少女は大きくせき込んだ。
「げほ……あ、あの……、ど、どいて、くれませんか?」
こちょこちょこちょ。
「うひゃひゃひゃひゃ!?! ごめんなひゃあぁあああ!! そのままでっ、そのままでいいれしゅからひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
「次はないと思えよ」
清がそういって手を止めると、黒髪少女は息を切らして話し始めた。
(つづく)
(もう……、明日、一限から講義あるのに、寝つきが悪いとか最悪だわ……)
清は、ベッドに入ってから数時間、謎の息苦しさに悩まされ熟睡できずにいた。
体は疲れているはずなのにおかしい。
だるさだけが積み重なってくる。そんな気がする。
(どうせ眠れないなら、動画でも見て気を紛らわそうかな……)
ふと目を開けると、
「え……?」
目の前に、黒髪の少女がいた。顔は長い髪の毛に隠れて見えない。
仰向けになった清のからだに馬乗りになって、両手を首に巻き付けていた。
「ちょ……何する気っ!?」
清はガッと黒髪少女の手首をつかんだ。
すると、黒髪少女が「ふぇっ!?」とすっとんきょうな声をあげてひるんだ。
清は、そのままぐりんと体をねじり、バランスを崩した黒髪少女をベッドに押し倒した。
「きゃんっ」
清は、ひっくり返った黒髪少女を布団でぐるぐる巻きにして動きを封じた。
「ええっ!!? ちょ、待って!? なんで!? ええ!?」
黒髪少女は異様に驚いている。
黒髪の隙間から見えた彼女の顔立ちは、のっぺりとした和風美人という印象。年齢は清と同じ大学生ぐらいか、少し若いかぐらいに見えた。
見覚えはなく、どうしてこんな子に殺されかけたのか、見当がつかない。
清は一呼吸ついて、
「あなた……、どこから入ったのよ。窓も扉も鍵かけてるのに……」
ベランダから侵入した形跡はない。玄関口もしっかりと鍵がかかっている。不思議なことに、黒髪少女の靴がどこにも見当たらなかった。
簀巻きになった彼女に目をやると、布団の端からちょこんとはみ出た左右の青白い素足。足の裏は綺麗で、外を歩いてきたようにも見えなかった。
「あなた、何者?」
清が尋ねると、
「それはこっちの台詞! なんであなた、私の姿が見えてっ……!」
黒髪少女はそこで口をつぐんだ。
「なんて? 『私の姿が見えて』って何? どういうこと?」
「……」
黒髪少女は気まずそうに視線をそらした。
「ちゃんと説明してくれないなら――」
清は、簀巻きになった黒髪少女の上にまたがる。
「う」と苦しそうに声を漏らす黒髪少女に背を向け、むき出しになった素足をコチョコチョとくすぐる。
すると、黒髪少女のからだがびくんと波打った。
「おひゃひゃひゃひゃひゃ!!? ぶひゃっひゃひゃっひゃっひゃひゃひゃなひゃぁあああ!!」
「おほう……! すごい声……」
清が振り返って見ると、黒髪少女はひどく崩れたアヘ笑顔でゲラゲラ馬鹿笑いしていた。
「やべひゃっひひひっひっひっひひ!! ふぎゃぁあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
黒髪少女の足の指がくねくねくすぐったそうに動いた。
「あなた、何者? どこの誰? どうして私を殺そうとしたの? さっきの『私の姿』がどうのこうのって何!?」
清が、黒髪少女の素足、土踏まずをがりがりかきむしりながらたずねた。
「あぎゃはやひゃはやひゃひゃ!! なんでも言ううぅうひゃひゃひゃひゃひゃ!!! ぜんぶこたえりゅかりゃぁあひゃひゃひゃは、それやめでぇぇっへっへっへっへっへっへぇぇぇ!!」
黒髪少女は喉がちぎれそうなほど甲高い声で笑った。
清が手を止めると、黒髪少女は大きくせき込んだ。
「げほ……あ、あの……、ど、どいて、くれませんか?」
こちょこちょこちょ。
「うひゃひゃひゃひゃ!?! ごめんなひゃあぁあああ!! そのままでっ、そのままでいいれしゅからひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
「次はないと思えよ」
清がそういって手を止めると、黒髪少女は息を切らして話し始めた。
(つづく)