ぼくには大好きな幼なじみがいた。
 彼女は明るくて天真爛漫でクラスの人気者。小学校までは短めの髪の毛を頭の上の方で二つくくりにしていたが、中学校に上がって髪の毛を下ろすようになった。見慣れた女子の新鮮な姿、かわいらしいセーラ服姿にドキドキした。
 中学二年の春、ぼくは幼なじみに告白した。
「ごめん、そういうのわかんない。友達としか見たことないから……」
 彼女は少し寂しそうに断った。
 ぼくは彼女にそんな顔をさせたことを後悔した。
 それ以来、気まずくなって一緒に遊ぶことがなくなった。
 六月になって、毎年恒例、妹の誕生日会が開かれることになった。妹は一つ下の中学1年で、受験して付属中学に通っている。いつも幼なじみを呼んでいたので、妹は呼びたいという。
 ぼくは気まずくてなかなか幼なじみに連絡ができなかった。
 誕生日会が週末に迫った月曜日の夕方、学校から帰ってきた妹に、幼なじみを誘っていないことがバレ、激怒された。ついでに告白失敗したことも白状させられ、されに怒られた。
「兄貴のいくじなし! 兄貴が誘えないなら、あたしが誘ってくるから! 週末、お姉ちゃんとちゃんと仲直りしてよね!」
 妹は、幼なじみのことをお姉ちゃんと呼んで慕っていた。
 妹は金切り声でぼくに説教をかまし、通学かばんを放り出し、付属中学校のボレロ制服のまま、家を飛び出した。三軒隣の幼なじみの家に向かったのだろう。
 ぼくは、自分の情けなさにしょんぼりしながら、妹の帰りを待った。
 しかし、一時間以上待っても妹は帰ってこない。
 日も落ちてもうすぐ夕飯の時間だ。
 さすがに変だと思い、ぼくは、妹を迎えに、幼なじみの家に向かった。

 幼なじみの家の前まできて、ぼくは躊躇した。
 なんて顔で会えばいいのか、第一声をなんていえばいいのか、まったくわからず、悶々とする。
 幼なじみの家の前を行ったり来たりしてうじうじしていると、ふと家の奥から妙な声が聞こえてきた。

「……ははは」

 笑い声に聞こえた。
 幼なじみと妹が談笑しているのだろうか?
 二人が楽しんでいるのなら、邪魔せずに帰ったほうがいいのだろうか?
 帰ろうか、入ろうか、迷っていると、ぼくはなぜか胸騒ぎを覚えた。
 うっすら聞こえてくる笑い声に、ときどき「嫌だ」とか「やめて」という言葉が混じっている。
 ぼくは笑い声に誘われるように、庭へ回った。
 窓に寄っていって、カーテンの隙間から中を覗き込んだ。

 ……え?

 ぼくは、目を疑った。

 中には小学生ぐらいの男子が七人いて、部屋の中央に幼なじみと妹が並んで床に座っている。
 二人は両手を後ろに縛られていて、両足を前に突き出すような体勢だった。

「いやぁあははっはははははっは! ダメダメェぇええっへっへっへっへっへ!!」

「やだやだやだぁあはっはっはっは! 帰らせてえぇえええっへひひっひっひっひっひ!!」

 幼なじみと妹は、両足の裏を七人の男子にめちゃくちゃにくすぐられていた。
 二人とも制服姿だったが靴下は穿いておらず素足。視線をずらすと、部屋の隅に、幼なじみの白いハイソックスと、妹の黒いクルーソックスがくしゃくしゃになって放られていた。
 くすぐるために脱がされたのだろうが……。
 ぼくには、この状況がまったく理解できなかった。

「いやぁああはっははっははは! 足があぁああ、くしゅぐったいよぉおっひひゃっはっはっははは!」

 幼なじみはかわいらしい顔をくしゃくしゃにして笑っている。
 普段からよく笑う子ではあるが、あんなに大口を開けて、涎と鼻水をまき散らして笑う顔は見たことがない。

「あひゃあぁはっはっはははっは!! なんでぇぇええあたし関係ないのにぃいいひひっひひひひ!!」

 妹もまた整った顔を醜くゆがめて笑い悶えている。
 妹の発する言葉から察するに、どうやら幼なじみが先にくすぐられているところに遭遇し、巻き込まれてくすぐられているようだった。

 ぼくは二人が激しく笑う姿を呆然と見つめていた。

 ふと、部屋の隅に禿げのおっさんがいることに気づいた。
 どうやらおっさんが男子たちに指示を出しているらしい。


(つづく)