細野泉をくすぐった翌日のことです。
 昼休み。
 卓也君は弁当を食べ終えると、いつも中庭の流し台で歯磨きをします。左から2番目の蛇口を使います。
 ところがその日は、卓也君が使うはずの2番目の蛇口で、別の女子生徒が歯を磨いていたのです。
 天然パーマのミディアムヘアで、カチューシャをした目のくりっとした女の子です。
 卓也君は先客に気づき、彼女と目礼をして、隣の蛇口を使いました。

 私は、二人の和やかな雰囲気を見て、カッと顔が熱くなりました。
 嫉妬です。

 カチューシャの女子生徒はその後すぐに歯ブラシを乱雑に片付け、その場を去ろうとします。
 私が彼女の後を追おうとしたところで、「待って」と声がかかりました。卓也君です。自分が呼び止められたのかと思って一瞬ドキリとしましたが、カチューシャの女子生徒に向けられたものでした。
 卓也君は、ハンカチを彼女に差し出しました。
 そそっかしい子だったようで、ハンカチを台に忘れていたのです。
「あ、どうも~!」
 彼女は、卓也君から手渡しもらったハンカチをひったくるようにして、去って行きました。

 私は彼女を尾行してクラスを突き止めます。
 一年生の教室でした。
 まだ昼休みの時間だったので、教室には生徒がまばらです。

「いや~、私以外にも歯磨き中毒者がいたことには驚いたわけなんですよ」
「ふぅん」
 カチューシャの女子生徒の前に、長い黒髪の女子生徒が腰掛けています。カチューシャは「終始話しかけてくるうざい床屋さん」の真似をしているのか、べらべら話しながら、黒髪の女子生徒の髪の毛を櫛で梳かしてやっています。どうやら卓也君とは歯磨きの時間がいつもニアミスしていたようです。
「お客さぁん? かゆいところは?」
「ない」
 ロングヘアの女の子は日本人形みたに色白でした。抑揚のない冷たい声で、楽しそうに語るカチューシャに相槌を打っていました。

 あんなに楽しそうなカチューシャは、卓也君のことが好きに違いない。
 ぶっきらぼうな態度を装っているロングヘアも、きっと卓也君のことが好きになったに違いない。

 耳をそばだてて、カチューシャは『河合みすず』、ロングヘアは『西原まゆ』という名前が、判明しました。


(つづく)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 晒そう企画『ストーカー』の二次創作です。