「放せこのやろー!」
 吉永双葉は怒鳴った
 しかし、威勢が良いのは口だけ。
 両手を後ろに縛られリクライニングシートのような拘束椅子に座らされている。
 両足を前に突き出すような姿勢で、靴は脱がされて素足にされている。
 部屋の中は薄暗く、なにやらコンピューターやらディスプレイやらがずらりと並んでいる。研究室のようだ。
 双葉は学校から帰る途中、謎の男達に口を押さえて車に乗せられて連れ去られたのであった。
「お前等! またガーゴイルが目的か!? いい加減にしやがれ!」
 双葉はガチャガチャ拘束具を揺らしながら、三白眼で目の前の白衣の男をにらんだ。
「ガーゴイル? なんのことだ? 我々は君に用があるのだよ」
「私?」
「そうだ。我々は、素足履きの女児の足の感度を検査している」
「は?」
 双葉はぽかんと口を開けた。いままでガーゴイル関連の事件ばかりだったので、てっきり今回もそうだと思っていたのだ。
「君の学校は素足履きの子が少なくて困ったよ。君の他には梨々ちゃんという子ぐらいしか――」
「お前! 梨々になにかしたのかっ!?」
 双葉は友人の名前を出され、激高した。
「梨々ちゃんの感度はなかなかだったよ。良いデータが取れたよ」
「てめぇ!! ゆるさねーぞ!」
「さて、双葉ちゃんの感度はどうかな?」
 白衣の男が手を上げると、ウィンと機械の音が聞こえてきた。

「な、なにするんだよ!」
 双葉は不安に駆られたのかちょっとだけ声を震わせた。
「大丈夫、痛いことはしないからね」
 双葉が前方につきだした素足。
 その傍らに、2本のマジックハンドが生え出てきた。
 同時に、大きなモニタに、足の裏が表示される。
「え?」
 双葉はすぐに、モニタに映し出されたのが自分の足だときづく。
 でかでかと映った素足。母子球の部分に豆ができていて、足の指にゴミがついていたり、踵の部分がちょっと黒ずんでいる。
「なるほど。梨々ちゃんと違って、なかなか元気の良い足の裏だねー」
 男にそんなことを言われ、双葉は少し恥ずかしくなった。
「じゃあ、はじめるよ」

 男の言葉と同時に、マジックハンドがくねくねと動き始める。

「いっ!?」

 マジックハンドはそれぞれ人差し指を立てて、双葉の足の裏をなで回し始めた。

「くひっ!? いひひひっ……な、やめっ!! やめろぉぉぉ~~!!!」

 双葉はぎりりと歯をくいしばってくすぐったさに耐える。
 しかし敏感な小学生。くすぐったそうに身をよじり、目には涙をうかべている。

 モニタには指の動きに合わせて何やら数値が上下している。

「ひひひひひっ、ああぁ゛ぁが……!!! くひひひ、んぅぅ゛~~~~!!!」

 マジックハンドの人差し指が足裏全体をなで終えると、今度は片方のマジックハンドが双葉の左足の指を押さえ、もう片方のマジックハンドが、双葉の足の親指をくすぐりはじめた。

「なはっ!!? なんだそこぁあひっ、ひぃぃい~~、きもちわ゛る゛ぃっひっひ、くぎぃぃ~~!!!」

 双葉は顎をきゅっと引いてくすぐりに耐えている。
 マジックハンドの人差し指が、くりくりと双葉の足の親指だけを、ピンポイントに責めてくる。

 モニタに映し出された双葉の素足。
 親指の部分に『60』という数値が表示された。

「なるほど、親指だけで『60』か。なかなか感度が良いじゃないか」
 男がそんなことを言う。

 次いで、マジックハンドが双葉の足の人差し指を撫ではじめた。

「んひひひぃぃ~~!!?」

 笑い出すまでではないが、微弱なくすぐったさが断続的に双葉を襲う。
 双葉にとっては拷問でしか無い。

 双葉の足の指は、人差し指、中指、薬指、小指、と順にくすぐられていった。

 モニタには、人差し指『45』、中指『50』、薬指『39』、小指『58』と表示された。

「な、なんなんだよ、これぇ~!!」
 小休止。双葉は肩で息をしながら、白衣の男をにらんだ。
「だから、感度を調べると言っているだろう? 次は付け根だよ」

 するとマジックハンドは、双葉の親指の付け根、母子球のあたりをくすぐりはじめた。

「ひっ!!? ――ひひゃはははははははははっ!!? そこはだめだろぉぉ~~~あははははははははは!!!」

 いきなりだった。
 双葉はがばっと口を開けて笑い出す。
 母子球をひっかかれる刺激は、双葉には耐えられなかった。

 モニタでは『90』と表示された。

「いきなり『90』が出たか、これは先が思いやられるぞ」

「ぎゃははははははははは!! そんなこといわれてもしらねぇぇぇあっはっはっはっっはっはっはっは~~!!!」

 次いで、人差し指の付け根『80』。
「ひやぁあははっはははは、ひひひひひひ」

 薬指の付け根『88』。
「きゃひひひひひひひひっひい、うおおおおおおおおお~~!!?」

 小指の付け根『90』。
「ひゃっはっはっはっはっはっは、そこもやだぁぁああははははははははははははは~~!!!」

 指の付け根がすべて終わると、マジックハンドは動きを止めた。
「ひぃぃ……ひぃ……」
 すでに双葉は息絶え絶え。
「いよいよ、みんな大好き土踏まずの検査だよ。双葉ちゃん」
「や、やだっ……やめろぉっ!!!」
 双葉が懇願するのも無視して、マジックハンドは動き出す。

 マジックハンドの指が、彼女の土踏まずに触れると、

「んぅぅぅぅぅ――がはははははははははははははっ!!!? だぁぁぁあっはっはっはっっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 モニタの数値が勢いよく上昇していく。
 マジックハンドの指の動きにあわせて、双葉の足の指もくねくねよじれた。

「おぼぼぼぼぼぼ、そこはほんとだめぇぇえへっへっへっへっへっへ!!! そんなっ、集中てきにやめぇぇぇええいひゃひゃはっはっはっはっはっはっは!!!」

 マジックハンドの人差し指が、ピンポイントに双葉の土踏まずをほじくり続ける。
 双葉はポニーテイルを振り乱し、ぶんぶんと左右に首をふって大笑いしている。

 モニタに映し出された双葉の素足。
 土踏まずの部位に現れた数値は、『100』だった。

「おお! 『100』が出たか。さすが双葉ちゃんだ。素足履きの子でも、土踏まず『100』っていうのは結構珍しいんだよ?」

「ぐああぁ゛ばばば、あがはははははっは!!? そんなの゛しら゛ねぇ゛ぇぇぇ~~え゛げぇっへっへっへっへっへっへっへっへ!!!」

 双葉は泣き叫んだ。

「じゃあこのまま踵もやっちゃおうか」

 そうして、マジックハンドはすぐしたの踵をひっかきはじめた。

「おごっ!!? ふがぁぁぁあああはははははははははは!!? ひぃぃっひっひっひっひっひっっひ、そこもぎづい゛ぃ゛ぃぃ~~~~ひひひひひひひひひひ!!!!」

 モニタに表示された数値は、またも『100』だった。

「あらら、双葉ちゃん、踵も『100』なんだ。『100』が二カ所以上出る子は初めてだね。もしかして、靴下嫌いなのも敏感すぎるからかな?」

「そにゃぁがっははっはっはっはっはは、そんなの関係ねぇ゛ぇ゛え゛えげへへへへへへへへへへへへへ!!!」

 たしかに双葉は靴下をあまり穿かないが、それは単に面倒くさい、動きやすいからだ。
 しかし、このデータ結果を見ると、もしかすると、無意識にそういう意図もはたらいていたのかもしれない。

 踵のデータを一通り採取して、マジックハンドは動きを止めた。
「ひぃ……げほ」
 双葉はだらりと涎を垂れ流して脱力した。
「お疲れ、双葉ちゃん。これで検査は終了だよ」
「や……やった、それじゃあ」
「次は実戦だね」
「……え」
 終わると思った。帰れると思った。
 その瞬間、大量のマジックハンドが双葉の足元へ出現する。
「い、い、……いやだぁああああああああ!!!」
 強気な少女が、決定的に心を折られた。


 一時間後。

「ふぎゃぁぁあひゃひゃひゃっひゃっひゃっ!!!? ぎゃぁああばばばばばっあば、ぐえぇぇえ!!!」

 双葉は、複数のマジックハンドに両足の指を押し広げられるように押さえつけられ、苦手な土踏まず、踵を中心に掻きむしられていた。

「おにゃがぁあああひゃひゃっはっはっははっはは、家帰してぇぇええぐがががひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 目を見開いて、涙を流し、舌をだらんと出して笑う双葉。
 すっかり、緩みきった体。びくびくと痙攣している。
 失禁してしまい、オーバーオールは股間がぐっしょり濡れていた。

「あががががが、いひひひひひひひひいづまでぇぇぇえ゛えっへっへっへっへ!!!? いつまでつづぐの゛ぉ゛ぉ゛おおごごごごっごご!!!!」

 いつ終わるかもわからない謎実験に、プライドを引き裂かれるほど笑わせられ、双葉の精神は崩壊した。


(完)