「お姉ちゃん。なんで着物の上に革ジャン着てるの?」
「……」
両儀式が路上で立っていると、ガキに声をかけられた。ガキは小学生ぐらいに見える。Tシャツに短パン。口から砂糖のにおいがした。
式は幹也と待ち合わせをしていた。
「ねえ、なんで? ダサくない? テレビでも見たことないよ?」
ガキは式の周囲を歩き回り、顔を覗き込んでくる。、
「オレに話しかけるな」
式はぴしゃりと言った。
「え、ダサいって言われて落ち込んだの? しかも着物にブーツって、坂本龍馬かよ」
「……うるさい」
威圧にまったく動じないガキの対応に、少々怪訝になる式。
「あ、服装いじられるの嫌なんだね」
ガキは笑って続けた。
「でも、いじられるの嫌なら、雑誌とか見れば? はっきり言うよ、お姉ちゃんファッションセンス皆無だよ」
式は舌打ちした。
「黙れ。次しゃべったら、殺すぞ」
こんどはしっかりとガキの目をにらんで言った。
凄みを利かせ、これ以上関わるなと言う意をはっきりと込めて……
「ぷふふ、殺すぞって。おっきなお姉ちゃんが、小学生に服装いじられて、マジになっちゃった?」
ガキはまったく動じる様子もなく、笑う。
「……っ」
さすがに式も動揺した。煽り耐性はままある方だ。しかし、これだけ威嚇しても、煽ってくるなんて。このガキ、危機管理能力ゼロか?
式は相手にしまいと、無視を決め込んだ。
「お姉ちゃん、顔真っ赤?」
「……」
「ダサいの事実だから何も言い返せなくて悔しいの? ねえねえ?」
ガキはそんなことを言いながら、くちゃくちゃ菓子を食べ始めた。
「……っ」
「あれ? 黙っちゃうの? 殺すんじゃ無かったの?」
ガキは言いながら、ジュースを飲む。
「……いい加減に」
式は耐えられず、ガキの方を振り向いた。
その途端、ぶっとガキの口から噴射される緑色の液体。
「……っ、こいつ……っ!」
式は顔面に緑色の液体を吹きかけられた。ぶち切れる寸前、気付いた。
「……ん、これ、……毒霧……!?」
ふらつく式。
「うん。睡眠剤入り」
「……お前、なんだ……オレを……」
式は、その場に倒れ込んで、気を失った。
「……ん、ぐぅ」
式が目を覚ますと、そこは、あまりにも明るいパステルカラーの部屋だった。まるで、こども向け番組のスタジオのような。
式はすぐに自身の体の異変に気付く。
式は仰向けに寝そべったまま、体が動かせない。
縛られている訳では無いのに、手足がまったく動かせないのだ。寝返りすらうつことができない。
頭は左右に動かしたり、もたげたりできる。しかし、首から下が、まるで他人の体のように感じられた。
「あ、お姉ちゃん起きたよー」
「おはよー」
「お楽しみコーナーだよ!」
ガキが三人駆け寄ってきた。
さっき路上で出会ったクソ坊主のガキ、髪の毛を一つにくくったこまっしゃくれた女のガキ、寝癖まみれで鼻水を垂らした青臭いガキだ。
「……なんだ、これは。放せ。ただではすまさないぞ」
式が顔を持ち上げて威嚇する。
しかし、三人のガキはまったく怖じ気づく様子がない。
「いま、お楽しみコーナーやってるの!」
「そう! 街で見かけたダッサいお姉さんを連れてきて、改造するコーナーだよ!」
「今日のゲストは、革ジャンに着物の変な服のお姉さん! 名前は……えっと」
ガキが式に向かって手の平を向けた。
名前を言えってか?
「……言うわけないだろ」
式が拒絶すると、ガキは肩をすくめた。
「自分の名前も言えないなんて、マナーがなってないよね。ホントに年上なのかなあ」
「いいんじゃない? 名無しのゴンちゃんで」
「権兵衛じゃないんだね」
「うん、ゴンちゃんの方がかわいいから」
ふざけたやり取りに、式はイライラしてきた。
「おい、放せ」
式は再度威嚇するが、ガキたちは無視した。
「じゃあさっそく、名無しのゴンちゃんを改造しまーす」
ガキはそう言うと、三人がかりで、式のブーツを脱がし始めた。
「おい! なんだ! やめろ」
式は体を動かすことができない。よって、あっという間に両足ともブーツを脱がされてしまった。靴下を穿いた足が露わになった。
「一番ありえないのってこれだよねー」
「着物でブーツはねえ」
「ダサいよねー」
「あ、しかも、着物なのに普通の靴下穿いてるし」
「坂本龍馬気取るんなら、素足で履かないとだめだよね」
そんなことを言いながら、今度は靴下まで脱がしにかかる。
足もぴくりとも動かせないため、するりと簡単に脱がされてしまう。
「お前等……いい加減にしろよ! オレは――」
「お姉ちゃん、怒らない怒らない」
式が怒鳴る中、ガキの一人が、式の素足をすっと指で撫でた。
「ふひょっ!?」
式の口から、自分ですら予想外の甲高い声が漏れた。
式自身が驚いた。自分の反応に恥ずかしくなる。
「名無しのゴンちゃん、『ふひょ』だって」
「あ、お姉ちゃんこちょこちょ苦手なんだ」
「じゃあ一緒に、笑顔改造もしちゃおうか」
ガキ達はそんなことを言いながら、指をワキワキさせながら近づいてきた。
「……お、おい! やめろっ」
こちょこちょこちょ。
「――ぷふ、っひゃはははははははは!? ばかっ、やめぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
式は、両方の素足の足の裏を小さな30本の指でくすぐられ、たまらず笑い出した。
「お姉ちゃん、すごい、笑うね」
「さっきまで怒ってたのに嘘みたい」
「頭すっごいねじってるし。こちょこちょ弱すぎ」
ガキたちはへらへら笑いながらくすぐっている。
式の白い素足に30本の指が踊り狂う。
膝を曲げて逃げることも、足の指を動かすこともかなわない式は、ただガキ達の指に笑わされるのみだった。
「やははははははははは、やめろぉぉ~~っはっはっはっはは!!! ふざけるなぁぁああははははははははははは!!!」
顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべて笑う式。
「お姉ちゃん、怒ってる怒ってる」
「笑いながら怒っても全然怖くないね」
「ファッションの改造もやっちゃうよ」
ひとりのガキがくすぐる手を止めて、式のジャンパーを脱がしにかかった。
「こらぁあっはっはっはっは、お前っ! 脱がすなぁあぁはははははははは!!」
式は首を思い切りねじって抗議した。
しかし、体は動かないため、されるがままだ。
「名無しのゴンちゃん、僕らが、かわいく改造してあげるから、大人しく待っててよ」
「んなこと頼んでなぃいいひひひいっひっひっひっひっひ!!」
足の裏をくすぐられ続けているため、笑いをとめることができない。
式は、ジャンパーを脱がしているガキに向かって、唾を吐いた。
「うわっ、きたなっ」
「脱がすなっていってんだぁああははははははははははは!!! くすぐり止めろぉぉお~~!!」
「こいつ唾吐きやがった」
「うわー汚い」
「最悪じゃん。お仕置きしてやれよ」
そんなやり取りがあって、ジャンパーを脱がしたガキは、式の腋の下をくすぐりはじめた。
「ぎゃははハハハははははっ!!! ちょぉおお~~指どけろぉぉあっははっはっはっはっはっはっははっはぎゃぁぁ~~!!!」
小さな指が、腋の下に綺麗に入り込む。
ガキに腋の下をこちょこちょくりくりとくすぐられる感覚は、虫に這われているようで気持ちが悪かった。
「あ、腋の下効いてる? 上半身の方が弱いのかな」
そんなことを言って、足をくすぐっていたガキのひとりが、今度は式の脇腹をくすぐりはじめた。
「ひゃははははははひひひひひひひひひひ!! やめろぉぉおおっ、指がくいこもぉぃひひっひっひっひっひひっひっひいっひ!!!」
帯のちょうど下に指を滑り込ませるようにして、くすぐってくるガキ。
帯の下は少しだけ蒸れていた。
汗ばんだ腹部は、より一層くすぐったく感じられた。
「おまえりゃぁぁあはっはっはっはっはっはっは!!! ただじゃすまんぅひぃぃ~~ひっっひっひっひっひ、殺してやるぅううひひひひひひひひひ!! 殺してやるからぁああっはっはっはっはは~~っ!!!」
三人のガキに、腋の下、脇腹、足の裏をくすぐられ悶絶する式。
振り乱した髪の毛が、口に入り、鼻に入り、涎や鼻水でべとべとになる。
ガキにくすぐられて笑い狂うなんて、式にとっては屈辱だった。
「殺されちゃうのやだー」
「お姉ちゃん、自分の立場わかってるの? 馬鹿なの?」
「帯もとってやろうぜ」
脇腹をくすぐっていたガキが、帯に手をかける。
「さわんなぁあっはははっはっはっははっは!!」
式がいくら抵抗しても無駄である。
ごろんと体を転がされ、帯がくるくる脱がされる。
「ぐえー」
式は床をごろごろ転がされ、目を回した。
着物が中央からはだけ、白い素肌とすみれ色の下着が露わになった。
「わ、お姉ちゃん、下着までセンス無い」
「でも肌は白いー」
「直にこちょこちょしてやろうぜ」
「やっ……――だはははははははははははは!!? もうぎづいぁあはははははははははははははは!!!」
目を回したところを、さらにくすぐり追い討ちをかけられる式。
しかも今度は、腋の下やお腹を直にくすぐられる。
「おへそのなか、ゴミ入ってるじゃん。ちゃんと綿棒で掃除しないと」
「うひっひひひひひひひひっ!!? そにゃぁあ、そんなとこ触るにゃっはははっはっははっははっはっは!!」
「あー、着物だとちょっと着太りするのかな? 結構くびれあるね」
「ひひゃぁあああははははははははは!! 腰をぉおおお、腰やめぇえひひひひひひひひひひひひひ~~!!」
ガキに弄ばれくすぐられ、式は気付くと下着のみにされていた。
「……げ、ひぃ……」
くすぐりが止んでも、しばらく式は意識朦朧としていた。
「これ着せてみよっか」
「うん、たぶん似合う」
ガキのそんな会話が聞こえる。
式はふと視線をやって、ぞっとした。
「なんだ……それは……」
「うん? 体操服とブルマだよ。お姉ちゃん。たぶんお姉ちゃんに似合うと思うんだー」
「ふ、ふざけるな……! 誰がそんな服着るか……」
想像するだけでも背筋が寒くなる。
「お姉ちゃんの意志はどうでもいいよ。僕達が着せたいだけだから」
そういって、ガキ達が近づいてくる。
「や、やめろぉ……!」
式は、普段の彼女から考えられないような悲痛なうめきをあげた。
「ぎゃははははははははははは!!!? いぃぃい~~っひっひっひひっひっひっひっひ!!!」
ほんの一分後には、体操服ブルマに素足という格好で、腋、腹、足をくすぐられる式の姿があった。
体を仰向け大の字にされて、こちょこちょとくすぐられる。
まったく四肢を動かせないために、まるで自ら好んでくすぐられているような錯覚さえ覚える。
「全然似合ってるじゃん」
「お姉ちゃん、こっちの方が良い意味でダサいから、オススメだよ」
「なんか昭和の学生みたい」
ガキ達の煽りなんて、もう耳に入ってこない。
「やだぁあはっはっはははっはっはっははっは!!! こんなぁぁはっはっははっはっはっは、ひぎぃぃい~~!!」
式は、いつの間にか涙を流していた。
ただ、いつものジャケットと着物をはぎ取られただけなのに、自分のアイデンティティが崩れていくような感覚がする。
さらに、生地の薄い体操服はくすぐったさをよく伝え、露出した太ももから足先まで、まんべんなくくすぐられる。
着物でくすがれていたとき以上にくすぐったく感じた。
「ぐやぁああはっはっはっはっはっはは!!? 嫌だああぁあははっはははははっは、もうやめれぇぇええははははははははあははは!!!」
「次はこんな服どうかな?」
「あ、それ可愛いんじゃない?」
「お姉さんにこれ、ちょっと別の意味で笑えるかも」
せっかくくすぐりが止まったと思ったら……。
ガキの声が聞こえてきて、嫌な予感がする。
式は視線をやる。
「ふふふ、ふざけんなぁ……!」
式は、その服を見た瞬間に叫んだ。恥ずかしさで顔が熱くなる。
ガキ達が用意した服は、ゴスロリ系の猫耳メイド服だった。
「はーい、文句言わなーい」
「お姉ちゃん、お着替えしまちょーね」
「はい、ばんざーい」
動けないのをいいことに、ガキ達は式を着せ替え人形として遊んでいる。
「や、やめろぉ……」
式はされるがままに着替えさせられながら、涙を流した。
こんなのは私でも、オレでもない。
「うひゃはっははっはっはっはっははっは!!? ひぎぃぃいい゛ぃ゛いいひひひっひっひっひっひっひっひ~~っ!!!」
ゴスロリ系メイド服に着替えさせられた式は、再び全身をくすぐられた。
わざわざ腋を露出させるデザインで、腋を直にくすぐられる。
「にゃぁぁあはははははははは、んがぁああははははあははは!!」
フリフリのミニスカートからのぞく太ももを、さわさわとくすぐられる。
「ひぃぃ~~ひっひっひっひっひっひ、ぞわぞわするぃぃひひひひひひひ!!!」
髪の毛を整えた櫛で、素足の足の裏をしごかれる。
「ぐぎひっひひひいひひひひひぃ゛ぃ゛い゛~~~~!!? あばばば、そ゛れ゛は無理ぃい゛い゛ぃ~~っひいひひひひひひひひゃははははははは!!!」
式は、猫耳がついた頭をぐるんぐるん振り回して笑い泣き叫ぶ。
もはや自分がなんなのかもおぼろげになってきた。
続いて式が着せられたのは、旧式スク水だった。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ、羽根はだめぇぇえっへへっへっへっへっへっへ~~!!」
式は、露出した太ももを羽根でさわさわとくすぐらていた。
「こういう水着だと意外とむっちりした体付きがエロくみえるよね」
「はい、持ってきたよ。ゴム手袋」
「あ、おっけ。スク水って言えば、やっぱりゴム手袋だよねー」
ガキ二人はゴム手袋をはめると、式の体を水着の上からくすぐりはじめる。
「うひょひょひょひょひょ!!? んぐぎぃいいいひひひひひいいひ、あひぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ、なんだそりゃぁあ゛あ゛あぁががががははははははは!!!」
スク水のすべすべの生地と、ゴム手袋の刺激は絶妙だった。
くすぐったさが倍増され、式は発狂しそうになる。
「も゛ぉお゛ごほほほほ、も゛う゛やう゛ぇでぇぇえっへっへっへっへっへっへ!!! なんでもずる゛ぅうううひひっひひひひひ、な゛ん゛でも゛するからぁぁあはっはっはっはっはっはっはっっはっは~~!!」
式のなかで何かが壊れた。
泣き叫びながらガキ達に懇願する姿は、無様で、情けなくて……。
私は、……オレ? 自分は、……なんだ?
「じゃあこっちも着せてみようか」
「えーこっちの方がいいでしょ」
「僕的には今度こっちがオススメ」
遠退く意識の中で、ガキ達のはしゃぐ声が聞こえる。
(完)
「……」
両儀式が路上で立っていると、ガキに声をかけられた。ガキは小学生ぐらいに見える。Tシャツに短パン。口から砂糖のにおいがした。
式は幹也と待ち合わせをしていた。
「ねえ、なんで? ダサくない? テレビでも見たことないよ?」
ガキは式の周囲を歩き回り、顔を覗き込んでくる。、
「オレに話しかけるな」
式はぴしゃりと言った。
「え、ダサいって言われて落ち込んだの? しかも着物にブーツって、坂本龍馬かよ」
「……うるさい」
威圧にまったく動じないガキの対応に、少々怪訝になる式。
「あ、服装いじられるの嫌なんだね」
ガキは笑って続けた。
「でも、いじられるの嫌なら、雑誌とか見れば? はっきり言うよ、お姉ちゃんファッションセンス皆無だよ」
式は舌打ちした。
「黙れ。次しゃべったら、殺すぞ」
こんどはしっかりとガキの目をにらんで言った。
凄みを利かせ、これ以上関わるなと言う意をはっきりと込めて……
「ぷふふ、殺すぞって。おっきなお姉ちゃんが、小学生に服装いじられて、マジになっちゃった?」
ガキはまったく動じる様子もなく、笑う。
「……っ」
さすがに式も動揺した。煽り耐性はままある方だ。しかし、これだけ威嚇しても、煽ってくるなんて。このガキ、危機管理能力ゼロか?
式は相手にしまいと、無視を決め込んだ。
「お姉ちゃん、顔真っ赤?」
「……」
「ダサいの事実だから何も言い返せなくて悔しいの? ねえねえ?」
ガキはそんなことを言いながら、くちゃくちゃ菓子を食べ始めた。
「……っ」
「あれ? 黙っちゃうの? 殺すんじゃ無かったの?」
ガキは言いながら、ジュースを飲む。
「……いい加減に」
式は耐えられず、ガキの方を振り向いた。
その途端、ぶっとガキの口から噴射される緑色の液体。
「……っ、こいつ……っ!」
式は顔面に緑色の液体を吹きかけられた。ぶち切れる寸前、気付いた。
「……ん、これ、……毒霧……!?」
ふらつく式。
「うん。睡眠剤入り」
「……お前、なんだ……オレを……」
式は、その場に倒れ込んで、気を失った。
「……ん、ぐぅ」
式が目を覚ますと、そこは、あまりにも明るいパステルカラーの部屋だった。まるで、こども向け番組のスタジオのような。
式はすぐに自身の体の異変に気付く。
式は仰向けに寝そべったまま、体が動かせない。
縛られている訳では無いのに、手足がまったく動かせないのだ。寝返りすらうつことができない。
頭は左右に動かしたり、もたげたりできる。しかし、首から下が、まるで他人の体のように感じられた。
「あ、お姉ちゃん起きたよー」
「おはよー」
「お楽しみコーナーだよ!」
ガキが三人駆け寄ってきた。
さっき路上で出会ったクソ坊主のガキ、髪の毛を一つにくくったこまっしゃくれた女のガキ、寝癖まみれで鼻水を垂らした青臭いガキだ。
「……なんだ、これは。放せ。ただではすまさないぞ」
式が顔を持ち上げて威嚇する。
しかし、三人のガキはまったく怖じ気づく様子がない。
「いま、お楽しみコーナーやってるの!」
「そう! 街で見かけたダッサいお姉さんを連れてきて、改造するコーナーだよ!」
「今日のゲストは、革ジャンに着物の変な服のお姉さん! 名前は……えっと」
ガキが式に向かって手の平を向けた。
名前を言えってか?
「……言うわけないだろ」
式が拒絶すると、ガキは肩をすくめた。
「自分の名前も言えないなんて、マナーがなってないよね。ホントに年上なのかなあ」
「いいんじゃない? 名無しのゴンちゃんで」
「権兵衛じゃないんだね」
「うん、ゴンちゃんの方がかわいいから」
ふざけたやり取りに、式はイライラしてきた。
「おい、放せ」
式は再度威嚇するが、ガキたちは無視した。
「じゃあさっそく、名無しのゴンちゃんを改造しまーす」
ガキはそう言うと、三人がかりで、式のブーツを脱がし始めた。
「おい! なんだ! やめろ」
式は体を動かすことができない。よって、あっという間に両足ともブーツを脱がされてしまった。靴下を穿いた足が露わになった。
「一番ありえないのってこれだよねー」
「着物でブーツはねえ」
「ダサいよねー」
「あ、しかも、着物なのに普通の靴下穿いてるし」
「坂本龍馬気取るんなら、素足で履かないとだめだよね」
そんなことを言いながら、今度は靴下まで脱がしにかかる。
足もぴくりとも動かせないため、するりと簡単に脱がされてしまう。
「お前等……いい加減にしろよ! オレは――」
「お姉ちゃん、怒らない怒らない」
式が怒鳴る中、ガキの一人が、式の素足をすっと指で撫でた。
「ふひょっ!?」
式の口から、自分ですら予想外の甲高い声が漏れた。
式自身が驚いた。自分の反応に恥ずかしくなる。
「名無しのゴンちゃん、『ふひょ』だって」
「あ、お姉ちゃんこちょこちょ苦手なんだ」
「じゃあ一緒に、笑顔改造もしちゃおうか」
ガキ達はそんなことを言いながら、指をワキワキさせながら近づいてきた。
「……お、おい! やめろっ」
こちょこちょこちょ。
「――ぷふ、っひゃはははははははは!? ばかっ、やめぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
式は、両方の素足の足の裏を小さな30本の指でくすぐられ、たまらず笑い出した。
「お姉ちゃん、すごい、笑うね」
「さっきまで怒ってたのに嘘みたい」
「頭すっごいねじってるし。こちょこちょ弱すぎ」
ガキたちはへらへら笑いながらくすぐっている。
式の白い素足に30本の指が踊り狂う。
膝を曲げて逃げることも、足の指を動かすこともかなわない式は、ただガキ達の指に笑わされるのみだった。
「やははははははははは、やめろぉぉ~~っはっはっはっはは!!! ふざけるなぁぁああははははははははははは!!!」
顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべて笑う式。
「お姉ちゃん、怒ってる怒ってる」
「笑いながら怒っても全然怖くないね」
「ファッションの改造もやっちゃうよ」
ひとりのガキがくすぐる手を止めて、式のジャンパーを脱がしにかかった。
「こらぁあっはっはっはっは、お前っ! 脱がすなぁあぁはははははははは!!」
式は首を思い切りねじって抗議した。
しかし、体は動かないため、されるがままだ。
「名無しのゴンちゃん、僕らが、かわいく改造してあげるから、大人しく待っててよ」
「んなこと頼んでなぃいいひひひいっひっひっひっひっひ!!」
足の裏をくすぐられ続けているため、笑いをとめることができない。
式は、ジャンパーを脱がしているガキに向かって、唾を吐いた。
「うわっ、きたなっ」
「脱がすなっていってんだぁああははははははははははは!!! くすぐり止めろぉぉお~~!!」
「こいつ唾吐きやがった」
「うわー汚い」
「最悪じゃん。お仕置きしてやれよ」
そんなやり取りがあって、ジャンパーを脱がしたガキは、式の腋の下をくすぐりはじめた。
「ぎゃははハハハははははっ!!! ちょぉおお~~指どけろぉぉあっははっはっはっはっはっはっははっはぎゃぁぁ~~!!!」
小さな指が、腋の下に綺麗に入り込む。
ガキに腋の下をこちょこちょくりくりとくすぐられる感覚は、虫に這われているようで気持ちが悪かった。
「あ、腋の下効いてる? 上半身の方が弱いのかな」
そんなことを言って、足をくすぐっていたガキのひとりが、今度は式の脇腹をくすぐりはじめた。
「ひゃははははははひひひひひひひひひひ!! やめろぉぉおおっ、指がくいこもぉぃひひっひっひっひっひひっひっひいっひ!!!」
帯のちょうど下に指を滑り込ませるようにして、くすぐってくるガキ。
帯の下は少しだけ蒸れていた。
汗ばんだ腹部は、より一層くすぐったく感じられた。
「おまえりゃぁぁあはっはっはっはっはっはっは!!! ただじゃすまんぅひぃぃ~~ひっっひっひっひっひ、殺してやるぅううひひひひひひひひひ!! 殺してやるからぁああっはっはっはっはは~~っ!!!」
三人のガキに、腋の下、脇腹、足の裏をくすぐられ悶絶する式。
振り乱した髪の毛が、口に入り、鼻に入り、涎や鼻水でべとべとになる。
ガキにくすぐられて笑い狂うなんて、式にとっては屈辱だった。
「殺されちゃうのやだー」
「お姉ちゃん、自分の立場わかってるの? 馬鹿なの?」
「帯もとってやろうぜ」
脇腹をくすぐっていたガキが、帯に手をかける。
「さわんなぁあっはははっはっはっははっは!!」
式がいくら抵抗しても無駄である。
ごろんと体を転がされ、帯がくるくる脱がされる。
「ぐえー」
式は床をごろごろ転がされ、目を回した。
着物が中央からはだけ、白い素肌とすみれ色の下着が露わになった。
「わ、お姉ちゃん、下着までセンス無い」
「でも肌は白いー」
「直にこちょこちょしてやろうぜ」
「やっ……――だはははははははははははは!!? もうぎづいぁあはははははははははははははは!!!」
目を回したところを、さらにくすぐり追い討ちをかけられる式。
しかも今度は、腋の下やお腹を直にくすぐられる。
「おへそのなか、ゴミ入ってるじゃん。ちゃんと綿棒で掃除しないと」
「うひっひひひひひひひひっ!!? そにゃぁあ、そんなとこ触るにゃっはははっはっははっははっはっは!!」
「あー、着物だとちょっと着太りするのかな? 結構くびれあるね」
「ひひゃぁあああははははははははは!! 腰をぉおおお、腰やめぇえひひひひひひひひひひひひひ~~!!」
ガキに弄ばれくすぐられ、式は気付くと下着のみにされていた。
「……げ、ひぃ……」
くすぐりが止んでも、しばらく式は意識朦朧としていた。
「これ着せてみよっか」
「うん、たぶん似合う」
ガキのそんな会話が聞こえる。
式はふと視線をやって、ぞっとした。
「なんだ……それは……」
「うん? 体操服とブルマだよ。お姉ちゃん。たぶんお姉ちゃんに似合うと思うんだー」
「ふ、ふざけるな……! 誰がそんな服着るか……」
想像するだけでも背筋が寒くなる。
「お姉ちゃんの意志はどうでもいいよ。僕達が着せたいだけだから」
そういって、ガキ達が近づいてくる。
「や、やめろぉ……!」
式は、普段の彼女から考えられないような悲痛なうめきをあげた。
「ぎゃははははははははははは!!!? いぃぃい~~っひっひっひひっひっひっひっひ!!!」
ほんの一分後には、体操服ブルマに素足という格好で、腋、腹、足をくすぐられる式の姿があった。
体を仰向け大の字にされて、こちょこちょとくすぐられる。
まったく四肢を動かせないために、まるで自ら好んでくすぐられているような錯覚さえ覚える。
「全然似合ってるじゃん」
「お姉ちゃん、こっちの方が良い意味でダサいから、オススメだよ」
「なんか昭和の学生みたい」
ガキ達の煽りなんて、もう耳に入ってこない。
「やだぁあはっはっはははっはっはっははっは!!! こんなぁぁはっはっははっはっはっは、ひぎぃぃい~~!!」
式は、いつの間にか涙を流していた。
ただ、いつものジャケットと着物をはぎ取られただけなのに、自分のアイデンティティが崩れていくような感覚がする。
さらに、生地の薄い体操服はくすぐったさをよく伝え、露出した太ももから足先まで、まんべんなくくすぐられる。
着物でくすがれていたとき以上にくすぐったく感じた。
「ぐやぁああはっはっはっはっはっはは!!? 嫌だああぁあははっはははははっは、もうやめれぇぇええははははははははあははは!!!」
「次はこんな服どうかな?」
「あ、それ可愛いんじゃない?」
「お姉さんにこれ、ちょっと別の意味で笑えるかも」
せっかくくすぐりが止まったと思ったら……。
ガキの声が聞こえてきて、嫌な予感がする。
式は視線をやる。
「ふふふ、ふざけんなぁ……!」
式は、その服を見た瞬間に叫んだ。恥ずかしさで顔が熱くなる。
ガキ達が用意した服は、ゴスロリ系の猫耳メイド服だった。
「はーい、文句言わなーい」
「お姉ちゃん、お着替えしまちょーね」
「はい、ばんざーい」
動けないのをいいことに、ガキ達は式を着せ替え人形として遊んでいる。
「や、やめろぉ……」
式はされるがままに着替えさせられながら、涙を流した。
こんなのは私でも、オレでもない。
「うひゃはっははっはっはっはっははっは!!? ひぎぃぃいい゛ぃ゛いいひひひっひっひっひっひっひっひ~~っ!!!」
ゴスロリ系メイド服に着替えさせられた式は、再び全身をくすぐられた。
わざわざ腋を露出させるデザインで、腋を直にくすぐられる。
「にゃぁぁあはははははははは、んがぁああははははあははは!!」
フリフリのミニスカートからのぞく太ももを、さわさわとくすぐられる。
「ひぃぃ~~ひっひっひっひっひっひ、ぞわぞわするぃぃひひひひひひひ!!!」
髪の毛を整えた櫛で、素足の足の裏をしごかれる。
「ぐぎひっひひひいひひひひひぃ゛ぃ゛い゛~~~~!!? あばばば、そ゛れ゛は無理ぃい゛い゛ぃ~~っひいひひひひひひひひゃははははははは!!!」
式は、猫耳がついた頭をぐるんぐるん振り回して笑い泣き叫ぶ。
もはや自分がなんなのかもおぼろげになってきた。
続いて式が着せられたのは、旧式スク水だった。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ、羽根はだめぇぇえっへへっへっへっへっへっへ~~!!」
式は、露出した太ももを羽根でさわさわとくすぐらていた。
「こういう水着だと意外とむっちりした体付きがエロくみえるよね」
「はい、持ってきたよ。ゴム手袋」
「あ、おっけ。スク水って言えば、やっぱりゴム手袋だよねー」
ガキ二人はゴム手袋をはめると、式の体を水着の上からくすぐりはじめる。
「うひょひょひょひょひょ!!? んぐぎぃいいいひひひひひいいひ、あひぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ、なんだそりゃぁあ゛あ゛あぁががががははははははは!!!」
スク水のすべすべの生地と、ゴム手袋の刺激は絶妙だった。
くすぐったさが倍増され、式は発狂しそうになる。
「も゛ぉお゛ごほほほほ、も゛う゛やう゛ぇでぇぇえっへっへっへっへっへっへ!!! なんでもずる゛ぅうううひひっひひひひひ、な゛ん゛でも゛するからぁぁあはっはっはっはっはっはっはっっはっは~~!!」
式のなかで何かが壊れた。
泣き叫びながらガキ達に懇願する姿は、無様で、情けなくて……。
私は、……オレ? 自分は、……なんだ?
「じゃあこっちも着せてみようか」
「えーこっちの方がいいでしょ」
「僕的には今度こっちがオススメ」
遠退く意識の中で、ガキ達のはしゃぐ声が聞こえる。
(完)