「お姉ちゃん。なんで着物の上に革ジャン着てるの?」
「……」
 両儀式が路上で立っていると、ガキに声をかけられた。ガキは小学生ぐらいに見える。Tシャツに短パン。口から砂糖のにおいがした。
 式は幹也と待ち合わせをしていた。
「ねえ、なんで? ダサくない? テレビでも見たことないよ?」
 ガキは式の周囲を歩き回り、顔を覗き込んでくる。、
「オレに話しかけるな」
 式はぴしゃりと言った。
「え、ダサいって言われて落ち込んだの? しかも着物にブーツって、坂本龍馬かよ」
「……うるさい」
 威圧にまったく動じないガキの対応に、少々怪訝になる式。
「あ、服装いじられるの嫌なんだね」
 ガキは笑って続けた。
「でも、いじられるの嫌なら、雑誌とか見れば? はっきり言うよ、お姉ちゃんファッションセンス皆無だよ」
 式は舌打ちした。
「黙れ。次しゃべったら、殺すぞ」
 こんどはしっかりとガキの目をにらんで言った。
 凄みを利かせ、これ以上関わるなと言う意をはっきりと込めて……
「ぷふふ、殺すぞって。おっきなお姉ちゃんが、小学生に服装いじられて、マジになっちゃった?」
 ガキはまったく動じる様子もなく、笑う。
「……っ」
 さすがに式も動揺した。煽り耐性はままある方だ。しかし、これだけ威嚇しても、煽ってくるなんて。このガキ、危機管理能力ゼロか?
 式は相手にしまいと、無視を決め込んだ。
「お姉ちゃん、顔真っ赤?」
「……」
「ダサいの事実だから何も言い返せなくて悔しいの? ねえねえ?」
 ガキはそんなことを言いながら、くちゃくちゃ菓子を食べ始めた。
「……っ」
「あれ? 黙っちゃうの? 殺すんじゃ無かったの?」
 ガキは言いながら、ジュースを飲む。
「……いい加減に」
 式は耐えられず、ガキの方を振り向いた。
 その途端、ぶっとガキの口から噴射される緑色の液体。
「……っ、こいつ……っ!」
 式は顔面に緑色の液体を吹きかけられた。ぶち切れる寸前、気付いた。
「……ん、これ、……毒霧……!?」
 ふらつく式。
「うん。睡眠剤入り」
「……お前、なんだ……オレを……」
 式は、その場に倒れ込んで、気を失った。


「……ん、ぐぅ」
 式が目を覚ますと、そこは、あまりにも明るいパステルカラーの部屋だった。まるで、こども向け番組のスタジオのような。
 式はすぐに自身の体の異変に気付く。
 式は仰向けに寝そべったまま、体が動かせない。
 縛られている訳では無いのに、手足がまったく動かせないのだ。寝返りすらうつことができない。
 頭は左右に動かしたり、もたげたりできる。しかし、首から下が、まるで他人の体のように感じられた。
「あ、お姉ちゃん起きたよー」
「おはよー」
「お楽しみコーナーだよ!」
 ガキが三人駆け寄ってきた。
 さっき路上で出会ったクソ坊主のガキ、髪の毛を一つにくくったこまっしゃくれた女のガキ、寝癖まみれで鼻水を垂らした青臭いガキだ。
「……なんだ、これは。放せ。ただではすまさないぞ」
 式が顔を持ち上げて威嚇する。
 しかし、三人のガキはまったく怖じ気づく様子がない。
「いま、お楽しみコーナーやってるの!」
「そう! 街で見かけたダッサいお姉さんを連れてきて、改造するコーナーだよ!」
「今日のゲストは、革ジャンに着物の変な服のお姉さん! 名前は……えっと」
 ガキが式に向かって手の平を向けた。
 名前を言えってか?
「……言うわけないだろ」
 式が拒絶すると、ガキは肩をすくめた。
「自分の名前も言えないなんて、マナーがなってないよね。ホントに年上なのかなあ」
「いいんじゃない? 名無しのゴンちゃんで」
「権兵衛じゃないんだね」
「うん、ゴンちゃんの方がかわいいから」
 ふざけたやり取りに、式はイライラしてきた。
「おい、放せ」
 式は再度威嚇するが、ガキたちは無視した。
「じゃあさっそく、名無しのゴンちゃんを改造しまーす」
 ガキはそう言うと、三人がかりで、式のブーツを脱がし始めた。
「おい! なんだ! やめろ」
 式は体を動かすことができない。よって、あっという間に両足ともブーツを脱がされてしまった。靴下を穿いた足が露わになった。
「一番ありえないのってこれだよねー」
「着物でブーツはねえ」
「ダサいよねー」
「あ、しかも、着物なのに普通の靴下穿いてるし」
「坂本龍馬気取るんなら、素足で履かないとだめだよね」
 そんなことを言いながら、今度は靴下まで脱がしにかかる。
 足もぴくりとも動かせないため、するりと簡単に脱がされてしまう。
「お前等……いい加減にしろよ! オレは――」
「お姉ちゃん、怒らない怒らない」
 式が怒鳴る中、ガキの一人が、式の素足をすっと指で撫でた。

「ふひょっ!?」

 式の口から、自分ですら予想外の甲高い声が漏れた。
 式自身が驚いた。自分の反応に恥ずかしくなる。
「名無しのゴンちゃん、『ふひょ』だって」
「あ、お姉ちゃんこちょこちょ苦手なんだ」
「じゃあ一緒に、笑顔改造もしちゃおうか」
 ガキ達はそんなことを言いながら、指をワキワキさせながら近づいてきた。
「……お、おい! やめろっ」

 こちょこちょこちょ。

「――ぷふ、っひゃはははははははは!? ばかっ、やめぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 式は、両方の素足の足の裏を小さな30本の指でくすぐられ、たまらず笑い出した。

「お姉ちゃん、すごい、笑うね」
「さっきまで怒ってたのに嘘みたい」
「頭すっごいねじってるし。こちょこちょ弱すぎ」
 ガキたちはへらへら笑いながらくすぐっている。
 式の白い素足に30本の指が踊り狂う。
 膝を曲げて逃げることも、足の指を動かすこともかなわない式は、ただガキ達の指に笑わされるのみだった。

「やははははははははは、やめろぉぉ~~っはっはっはっはは!!! ふざけるなぁぁああははははははははははは!!!」

 顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべて笑う式。

「お姉ちゃん、怒ってる怒ってる」
「笑いながら怒っても全然怖くないね」
「ファッションの改造もやっちゃうよ」
 ひとりのガキがくすぐる手を止めて、式のジャンパーを脱がしにかかった。

「こらぁあっはっはっはっは、お前っ! 脱がすなぁあぁはははははははは!!」

 式は首を思い切りねじって抗議した。
 しかし、体は動かないため、されるがままだ。
「名無しのゴンちゃん、僕らが、かわいく改造してあげるから、大人しく待っててよ」

「んなこと頼んでなぃいいひひひいっひっひっひっひっひ!!」

 足の裏をくすぐられ続けているため、笑いをとめることができない。
 式は、ジャンパーを脱がしているガキに向かって、唾を吐いた。
「うわっ、きたなっ」

「脱がすなっていってんだぁああははははははははははは!!! くすぐり止めろぉぉお~~!!」

「こいつ唾吐きやがった」
「うわー汚い」
「最悪じゃん。お仕置きしてやれよ」
 そんなやり取りがあって、ジャンパーを脱がしたガキは、式の腋の下をくすぐりはじめた。

「ぎゃははハハハははははっ!!! ちょぉおお~~指どけろぉぉあっははっはっはっはっはっはっははっはぎゃぁぁ~~!!!」

 小さな指が、腋の下に綺麗に入り込む。
 ガキに腋の下をこちょこちょくりくりとくすぐられる感覚は、虫に這われているようで気持ちが悪かった。

「あ、腋の下効いてる? 上半身の方が弱いのかな」
 そんなことを言って、足をくすぐっていたガキのひとりが、今度は式の脇腹をくすぐりはじめた。

「ひゃははははははひひひひひひひひひひ!! やめろぉぉおおっ、指がくいこもぉぃひひっひっひっひっひひっひっひいっひ!!!」

 帯のちょうど下に指を滑り込ませるようにして、くすぐってくるガキ。
 帯の下は少しだけ蒸れていた。
 汗ばんだ腹部は、より一層くすぐったく感じられた。

「おまえりゃぁぁあはっはっはっはっはっはっは!!! ただじゃすまんぅひぃぃ~~ひっっひっひっひっひ、殺してやるぅううひひひひひひひひひ!! 殺してやるからぁああっはっはっはっはは~~っ!!!」

 三人のガキに、腋の下、脇腹、足の裏をくすぐられ悶絶する式。
 振り乱した髪の毛が、口に入り、鼻に入り、涎や鼻水でべとべとになる。
 ガキにくすぐられて笑い狂うなんて、式にとっては屈辱だった。

「殺されちゃうのやだー」
「お姉ちゃん、自分の立場わかってるの? 馬鹿なの?」
「帯もとってやろうぜ」

 脇腹をくすぐっていたガキが、帯に手をかける。

「さわんなぁあっはははっはっはっははっは!!」

 式がいくら抵抗しても無駄である。
 ごろんと体を転がされ、帯がくるくる脱がされる。

「ぐえー」
 式は床をごろごろ転がされ、目を回した。

 着物が中央からはだけ、白い素肌とすみれ色の下着が露わになった。

「わ、お姉ちゃん、下着までセンス無い」
「でも肌は白いー」
「直にこちょこちょしてやろうぜ」

「やっ……――だはははははははははははは!!? もうぎづいぁあはははははははははははははは!!!」

 目を回したところを、さらにくすぐり追い討ちをかけられる式。
 しかも今度は、腋の下やお腹を直にくすぐられる。

「おへそのなか、ゴミ入ってるじゃん。ちゃんと綿棒で掃除しないと」

「うひっひひひひひひひひっ!!? そにゃぁあ、そんなとこ触るにゃっはははっはっははっははっはっは!!」

「あー、着物だとちょっと着太りするのかな? 結構くびれあるね」

「ひひゃぁあああははははははははは!! 腰をぉおおお、腰やめぇえひひひひひひひひひひひひひ~~!!」

 ガキに弄ばれくすぐられ、式は気付くと下着のみにされていた。

「……げ、ひぃ……」
 くすぐりが止んでも、しばらく式は意識朦朧としていた。

「これ着せてみよっか」
「うん、たぶん似合う」
 ガキのそんな会話が聞こえる。
 式はふと視線をやって、ぞっとした。
「なんだ……それは……」
「うん? 体操服とブルマだよ。お姉ちゃん。たぶんお姉ちゃんに似合うと思うんだー」
「ふ、ふざけるな……! 誰がそんな服着るか……」
 想像するだけでも背筋が寒くなる。
「お姉ちゃんの意志はどうでもいいよ。僕達が着せたいだけだから」
 そういって、ガキ達が近づいてくる。
「や、やめろぉ……!」
 式は、普段の彼女から考えられないような悲痛なうめきをあげた。


「ぎゃははははははははははは!!!? いぃぃい~~っひっひっひひっひっひっひっひ!!!」

 ほんの一分後には、体操服ブルマに素足という格好で、腋、腹、足をくすぐられる式の姿があった。
 体を仰向け大の字にされて、こちょこちょとくすぐられる。
 まったく四肢を動かせないために、まるで自ら好んでくすぐられているような錯覚さえ覚える。

「全然似合ってるじゃん」
「お姉ちゃん、こっちの方が良い意味でダサいから、オススメだよ」
「なんか昭和の学生みたい」
 ガキ達の煽りなんて、もう耳に入ってこない。

「やだぁあはっはっはははっはっはっははっは!!! こんなぁぁはっはっははっはっはっは、ひぎぃぃい~~!!」

 式は、いつの間にか涙を流していた。
 ただ、いつものジャケットと着物をはぎ取られただけなのに、自分のアイデンティティが崩れていくような感覚がする。

 さらに、生地の薄い体操服はくすぐったさをよく伝え、露出した太ももから足先まで、まんべんなくくすぐられる。
 着物でくすがれていたとき以上にくすぐったく感じた。

「ぐやぁああはっはっはっはっはっはは!!? 嫌だああぁあははっはははははっは、もうやめれぇぇええははははははははあははは!!!」


「次はこんな服どうかな?」
「あ、それ可愛いんじゃない?」
「お姉さんにこれ、ちょっと別の意味で笑えるかも」
 せっかくくすぐりが止まったと思ったら……。
 ガキの声が聞こえてきて、嫌な予感がする。
 式は視線をやる。
「ふふふ、ふざけんなぁ……!」
 式は、その服を見た瞬間に叫んだ。恥ずかしさで顔が熱くなる。
 ガキ達が用意した服は、ゴスロリ系の猫耳メイド服だった。
「はーい、文句言わなーい」
「お姉ちゃん、お着替えしまちょーね」
「はい、ばんざーい」
 動けないのをいいことに、ガキ達は式を着せ替え人形として遊んでいる。
「や、やめろぉ……」
 式はされるがままに着替えさせられながら、涙を流した。

 こんなのは私でも、オレでもない。

「うひゃはっははっはっはっはっははっは!!? ひぎぃぃいい゛ぃ゛いいひひひっひっひっひっひっひっひ~~っ!!!」

 ゴスロリ系メイド服に着替えさせられた式は、再び全身をくすぐられた。
 わざわざ腋を露出させるデザインで、腋を直にくすぐられる。

「にゃぁぁあはははははははは、んがぁああははははあははは!!」

 フリフリのミニスカートからのぞく太ももを、さわさわとくすぐられる。

「ひぃぃ~~ひっひっひっひっひっひ、ぞわぞわするぃぃひひひひひひひ!!!」

 髪の毛を整えた櫛で、素足の足の裏をしごかれる。

「ぐぎひっひひひいひひひひひぃ゛ぃ゛い゛~~~~!!? あばばば、そ゛れ゛は無理ぃい゛い゛ぃ~~っひいひひひひひひひひゃははははははは!!!」

 式は、猫耳がついた頭をぐるんぐるん振り回して笑い泣き叫ぶ。
 もはや自分がなんなのかもおぼろげになってきた。


 続いて式が着せられたのは、旧式スク水だった。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ、羽根はだめぇぇえっへへっへっへっへっへっへ~~!!」

 式は、露出した太ももを羽根でさわさわとくすぐらていた。
「こういう水着だと意外とむっちりした体付きがエロくみえるよね」

「はい、持ってきたよ。ゴム手袋」
「あ、おっけ。スク水って言えば、やっぱりゴム手袋だよねー」

 ガキ二人はゴム手袋をはめると、式の体を水着の上からくすぐりはじめる。

「うひょひょひょひょひょ!!? んぐぎぃいいいひひひひひいいひ、あひぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ、なんだそりゃぁあ゛あ゛あぁががががははははははは!!!」

 スク水のすべすべの生地と、ゴム手袋の刺激は絶妙だった。
 くすぐったさが倍増され、式は発狂しそうになる。

「も゛ぉお゛ごほほほほ、も゛う゛やう゛ぇでぇぇえっへっへっへっへっへっへ!!! なんでもずる゛ぅうううひひっひひひひひ、な゛ん゛でも゛するからぁぁあはっはっはっはっはっはっはっっはっは~~!!」

 式のなかで何かが壊れた。
 泣き叫びながらガキ達に懇願する姿は、無様で、情けなくて……。

 私は、……オレ? 自分は、……なんだ?

「じゃあこっちも着せてみようか」
「えーこっちの方がいいでしょ」
「僕的には今度こっちがオススメ」
 遠退く意識の中で、ガキ達のはしゃぐ声が聞こえる。



(完)