「なんかまたアカデミーで落第者が出たんだってさ」
「あらま、かわいそうに……。あそこって落第者には容赦ないよね」

 道ばたに突如出現した巨大な壁。
 壁の中央には白い靴下を穿いた足の裏がにょっきりと生え出ている。
 足の指が壁の中にめり込むように固定されており、両足とも指の付け根から踵まで、見事に反り返っている。
 突きだした足の下には、『ご自由にくすぐりください』の文字。
 アカデミーの落第者は、壁足でくすぐられるのが恒例になっている。

「さあて、今回はどんなかわいこちゃんかなぁ?」

 通りすがりのおっさんがひとり、指をワキワキさせながら近づいてきた。
 彼はアカデミーの落第者が出る度にお仕置きに協力している常連だった。

 彼が近づくと、突きだした足の上部に、赤毛をツインテールにした女の子の顔が映し出された。さらに、顔の下に『アロエ』という名前が浮かび上がる。
「うお! アロエちゃんかぁ。かわいいねぇ」
 おっさんはひゅうと口笛を吹いた。

「あれ、いつも思うけど、どういう仕組みなのかね」
「魔法かなんかだろ」
 壁足の周囲には、あっという間に人だかりができた。

 映し出されたアロエの眉が、ハッと上がった。
「だっ、誰かいるんですかぁ? ふええ、た、助けてぇ」
 アロエは今にも泣き出しそうな声を出した。
「ダメだよお嬢ちゃん。お嬢ちゃんが落第するのが悪いんだからね。おじちゃんはアカデミーに協力してあげてるだけなんだからね」

 おっさんは言うと、人差し指で両足の裏をくりくりくすぐりはじめた。

「ひゃはぁぁあああああはははははははははははは!!!? な、なんですかぁぁぁあはははははははははは!!」

 アロエの顔がびっくりしたように歪む。

「おやおや。お嬢ちゃんは落第生がどんな処遇になるか聞いてなかったのか。落第生はこうやって晒し足にされて、通りすがりの心優しいボランティア、おじちゃんみたいな人に数日間くすぐられる運命なんだよ」
 おっさんは人差し指で、アロエの踵から反り返った指の付け根までをなぞり上げながら言った。

「ひひゃぁぁっはっはっはっはっははは!! ふへぇぇえええ!? 聞いてないよぉぉぉふひゃははははははははははは!!」

 壁から突き出た足の裏は、くすぐられるたびにヒクヒクと動いた。
 映し出されたアロエの顔はすでに限界というように、歯をむき出しにして笑っている。

「アロエちゃん、よっぽど足の裏が弱いんだねぇ。指一本だけでこれかぁ。なら、二本、三本、と増やしていったらどうなっちゃうんだろうねぇ?」

「やだぁぁぁあははははははははははっ!!! それだけはやめてぇぇぇふひぃぃぃひゃははははははははははは!!!」

 アロエは激しく首を振った。
 おっさんはにっこりと笑い、容赦なく10本の指をアロエの足の裏に突き立てた。

「ぶひいぃぃぃいいいいひひひっひひひひひひひひひっ!!! やめてって言ったのにぃぃぃぃひゃひひひひひひひひひひひひ!!」

「後ろの人も待ってるからね。おじちゃんはそろそろやめてあげるよ」

「ふえぇぇえっっへっへっへ!!? どゆっ!? どゆことぉぉ~~~~!!!」

 間髪を入れなかった。
 おっさんが指を離すと、入れ替わるように小柄なばーさんがアロエの足の裏をくすぐりはじめた。

「ふにゃぁぁあああはははははははははは!! 爪があぁぁああ爪がぁあぁああっはっははっはっははっは!!」

 ばーさんは両手10本の指の爪を長く伸ばしていた。
 硬質な爪がアロエのやわらかい足の裏に食い込み、激しいくすぐったさを生む。

「おやおや。若いのに訓練が足りないねぇ。昔魔女狩りがあった頃にはそりゃもう」

 ばーさんは遠い目をしながら、軽く詠唱した。
 すると、ばーさんが爪を立てた先から白い靴下が消失していく。

「うふぇええぇぇええ~~っひっひっひっひ!!!? なんでぇっぇつめたっ、嫌ぁぁああああっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 アロエの両足の土踏まずの部分の布地が消え、素肌が露出した。
 ぽっかりと空いた靴下の穴へ指をほじくり入れるばーさん。

「うぐひひひひひひひひひいひっ!!!? いぎぃぃぃいひひっっひっひひっひやべてぇぇぇぇぇやべてぇぇええあぁあぁぁああがやあぁあはっはっははははっはあっは!!!」

 アロエの泣き声が甲高くなった。
 すでにアロエの顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃだ。目を剥いて大笑いしている。

「ほぅ。土踏まずが死ぬほど弱いのかい。ならいっそ……」

 と、ばーさんは、アロエの露出した土踏まずに爪を立て、ガリガリと掻きむしった。

「うぐひぃぃぃいいぎゃぁああああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 アロエは足指を縮こまらせることすらできない。
 くすぐられる度に、土踏まずに軽く皺が寄る程度である。

「ばーさん、いつまでやってんだよ! 俺たちにもやらせろ!」

 ばーさんと入れ替わりやってきたヤンキーの兄ちゃん三人組は、合計30本の指を駆使してアロエの足の裏を弄くった。

「うひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!? ふぇっふぇっふぇ……おねがっ!! 休ませてっ!! やすませてよぉぉぉああああひゃひゃひゃひゃ!!!」

「何言ってんだ。俺たちはアカデミーのためにボランティアでやってんだぜ?」
「そそ。それにしても足弱ぇなぁ」
「可哀想だからこっちの靴下はもどしてやんよ」

 ヤンキーの兄ちゃんのひとりが詠唱すると、アロエの左足だけ靴下が元に戻った。

「んじゃぁこっちの素足はコレをつかっちゃう!」

 アロエは右の素足を羽根で、左の靴下越しの足を櫛でくすぐられた。

「ふぎゃぁあああっはっはっはっはっはっはっはは!!! どっちかぁぁぁぁあぁあ!! せめてどっちかだけにしてぇぇぇひゃはははははははは!!!」

 左右の足を別々の刺激で責められ、アロエは発狂しそうだった。
 映されたアロエの顔はもう見るも無惨。
 鼻水が垂れ流れ、涎も溢れだし、親が見たら泣いてしまうだろう。

「うわぁー、お姉ちゃんの足の裏やわらかーい」
 ヤンキーの兄ちゃん三人組の入れ替わりにやってきた坊ちゃんは、小さな手で無邪気にアロエの素足をこねくり回した。

「ふひゃぁあああああひゃはははあはははははははっ!!! おねがいだめぇぇぇぇえひぃぃいいいいいいっひっひっひっひ!!! ほんとにしんじゃうよぉぉぉひゃひゃひゃひゃ」

 坊ちゃんの入れ替わりにやってきた暗そうなおねーさんは、まるでピアノを弾くような指使いでアロエの足の裏を掻き殴った。
「どうしていつも私は予選落ちなの? ねぇどうして?」

「ひゃひゃひゃひゃ、知らにゃぃっ!! 知らないよぉぉぉおううひゃははははははははあははは!!!」

「そんなに笑って……みんな私のことを馬鹿にして……」
 おねーさんの指の動きが激しくなった。

「ふひゃぁぁああああああはははあはははあはははは!! あがっぁぁあああ足の裏がぁぁぁあ!!! つちふまじゅがぁぁぁあぁあああ!!!」

 アロエは何十人、何百人という人々にくすぐられ続けた。
 なんども気絶した。
 しかし、気絶した矢先にくすぐられ、くすぐったさのあまりに飛び起きた。
 笑っても笑っても、気を失うことすら許されない……。

 丸二日以上くすぐられ続けたアロエの足は、真っ赤になっていた。
 一睡もせず笑い続け、目は充血、笑い声は枯れていた。
 アロエは、それでも笑わねばならなかった。
 哄笑の中で、次こそは落第するまいと心に誓った。


(完)