「アンチョビ姉さんって足くすぐられるの苦手っすか?」

「はあぁぁ? なんだ藪から棒に」

 アンチョビはペパロニの突然の質問に虚を突かれた。
 ただいま訓練中。
 二人乗り戦車CV33の車内。二人は前衛部隊の連絡を待っている最中だった。
 前衛部隊が目的地に到着するまでの待機時間。手持ち無沙汰なのはわかるが、質問内容があまりにも脳天気すぎる。

「いや。別に大した意味じゃないっすけど~。なんか急に気になって。で、姉さんどうなんすか? 足」

 ペパロニはひょうひょうと質問を繰り返した。
 そんなに気になるのか……。

「そんなもの知らん。考えたこともない」

 アンチョビは正直に答えた。
 ペパロニはそれで満足なのか「そっすかー」と前方に目を向けた。
 と、「あ」と思い出したように振り返り、

「じゃ、試してみていっすか?」

「へ」

 アンチョビは再び虚を突かれた。
 ペパロニは突然、アンチョビをうつぶせに押し倒したのだ。

「こっ、こら! ペパロニっ!? こんな狭い車内で暴れるな!」

「いいじゃないっすか姉さぁん! 女同士っすよぉ~」

「そういう問題じゃなくって……! あ、こら!」

 馬乗りになったペパロニは、ぐいぐいとアンチョビの左足のブーツを引っ張って脱がした。

「うっは。姉さん。汗かいてますねぇ~! 熟成されたカマンベールみたいなニオイっすよ~」

「おい! デリカシー! ペパロニ、いい加減に――」

 アンチョビは、ペパロニがなにをしようとしているのかある程度予想していた。
 そろそろ本気で怒ろうかと体に力を入れた途端。

 つつーっ。

「あひゃんっ!?」

 アンチョビは全身の力が抜け、間抜けな声まで出してしまった。
 なんだいまの……?
 アンチョビは困惑した。
 左足に感じた強烈な刺激。
 ペパロニがアンチョビの足の裏を人差し指でなでたのだ。
 たったそれだけのはずなのに、まるで全身に電流を流したような感覚に襲われた。

「姉さぁん! なんすか! 今の反応!? もしかして、めちゃくちゃ足弱いんじゃないっすか?」

「え……いや……」

 アンチョビは戸惑っていた。
 足が弱い?
 そんなこと考えたこともなかったのに……。

 すると、ペパロニはニカッと笑い、
「ピンときてないみたいなんで、試させてもらいますね~」 

「あ、いや……っ!! ちょっ、ま――」

 こちょこちょこちょこちょ。

「おほっ!!? おひょおおおおおほほほほほほほほほほっ!!? あはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!?」

 アンチョビは足の裏から送られてくる強烈なくすぐったさに、たまらず声を上げて笑い出した。
 ペパロニは五本の指を使って、靴下越しのアンチョビの左足の裏を弾いている。

 な、なんだこの刺激っ!!?
 アンチョビは体の底からわき上がる笑いを抑えることができない。

「あひあぁぁっはっはっはっはっはっはっは!!!! ぺぱっ……やめっ、だぁぁ~~っはっはっは」

 アンチョビは体を必死によじり、両手をじたばたと振り回してもがいた。

「姉さん、すごい反応っすね。もしかして喜んでます?」

「んひゃひゃっ!? んなわけあるかぁぁああはっはっはっははっはっは――あだぁぁっ!? 頭打ったあぁぁあっはっはっはっはっはっはっは~~!!」

 狭い車内で暴れたため、アンチョビは体中を機器に打ち付けながら笑う。
 無邪気にくすぐり続けるペパロニは、頭が弱い。アンチョビの苦痛などまったく想像できないのだろう。

 アンチョビが首を左右に振り乱す度に、巨大なツインテールがびちびちとペパロニの頬を打った。

「痛っ……、姉さぁん。ウィッグ邪魔っすよ~」

「だかっ、ら地毛だっつーのぉぉ~~ほほははははははははははははははははっ!!!」

 ペパロニは手加減を知らない。
 爪を立てて踵を引っ掻いてみたり、指の腹を使って土踏まずをなぞってみたり、なかなかのテクニシャンだ。

「ほんとやめりょ~~~ひゃひゃ!! ぺぱろにぃぃううひっひひっひっひひっひ~~!!」

 と、突然ペパロニが手を止めた。
 アンチョビはがくっと脱力して突っ伏す。
 息を整えながら肘を立てて、

「ペ、ペパロニ、いい加減に……」

「姉さん。くっさい靴下脱がしますね」

「は?」

 アンチョビが制止するまもなく、ペパロニはアンチョビの左足から靴下をすぽんと引っこ抜いた。

「おいおいおいっ!? 待て待て! いくらなんでもそれはやりすぎ――」

 かりかかりかりかり。

「うひょおおおおおおおほほほほほほほおぼぼぼぼぼぼっ!!!?」

 あまりの刺激に、アンチョビは体を仰け反った。
 ペパロニは晒したアンチョビの素足、指の付け根あたりに爪を立て、引っ掻きはじめたのだ。

「やっぱり素足にした方が効くんっすね~」

 ペパロニは感心したように頷きながら指を動かす。

「あったりまえだバカぁぁあああっはっはははっははっはっはっはっはは!!! ホントだめっ……!! 息がっ、……あがぁぁはっははははははははははははは!!!」

 ペパロニは思いのほか器用で、足の小指と薬指の間にまで、指先をねじこんでくる。

「ひぃぃっひっひひひひひひっ!!? ふごごぉおっほっほほほほっ!! ギブギブギブ!! もうだめだってぇえあああひぃぃ~~はははっははははははは!!」

 アンチョビはバンバンと椅子を叩いて笑い続けた。
 ペパロニは楽しくなってしまったのか、まったくくすぐりをやめようとしなかった。

『統帥! A地点到着しました! ……統帥? 統帥!?』
『隊長車から応答がないぞ!』
『指示がないならパスタをゆでればいい!』
 無線の声は、アンチョビの笑い声でかき消された。
 司令塔であるアンチョビの指示無しに、自由なアンツィオメンバーが訓練を継続できるはずがなかった。
 ペパロニをぶっとばしてアンチョビが復帰したころは時すでに遅し。メンバーはどんちゃん騒ぎをはじめていた。

 調子に乗り過ぎたペパロニは、アンチョビにこっぴどくお仕置きされた。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 以前チャットルームでお題をいただいて書いたドゥーチェです。

 いまさらながら気づいたこと。うちのリン、ドゥーチェのコスプレが凄く似合いそう。灯台もと暗し!