「霊夢のやつ、こっちの都合もちょっとは考えて欲しいぜ」

 箒にまたがった霧雨魔理沙は独りごちる。
 博麗神社の上空に到着したところだった。
 神社の巫女博麗霊夢から急に呼び出されたのだ。

「まだ見たい本、いくつかあったんだけどなぁ」

 魔理沙はアリス=マーガトロイドの家で本を物色していたところ、使い魔に連絡を受け、引き上げてきたのだ。
 魔理沙が背中に担いだ風呂敷の中には、アリスの留守中に無断で借りた本が10冊ばかり詰まっている。

「……ん? 誰もいないのか?」

 魔理沙は博麗神社の上空を旋回してみる。
 人の気配がない。

「……留守のわけ、ないよな」

 魔理沙は首を傾げながらゆっくりと下降していく。
 と、そのときだった。
 閃光が目の前を覆い、直後、爆音が響く。
 魔理沙は突然のことでまったく対処できなかった。
 地上から砲撃されたのだ。
 魔理沙はもろに弾幕を食らってしまい、焦げた箒、アリスの本、『P』アイテムと共に落下していった。
 薄れゆく意識の中で、魔理沙はアリスに謝罪した。

~~~

 魔理沙が目を開くと、天井が見えた。
 見覚えがある。屋内。
 頭がぼーっとして記憶が曖昧だった。

「え? あれ? たしか、私……、空の上で弾幕に……――!?」

 記憶をたどっている最中に、魔理沙は気がついた。
 自分の腕と足がまったく動かせない。
 仰向け大の字に寝そべったまま体を起こすこともできない。

「な、なんなんだぜ!?」

 両手両足が札で封印されている。
 そこでようやく覚醒する。
 魔理沙がいる場所は博麗神社の中だ。
 そしてこのお札。
 つまり自分を迎撃した人物は――

「あら魔理沙。起きたの?」

 ふすまが開いて、現れた人物。

「霊夢……」

 博麗霊夢が澄ました表情で魔理沙のもとへ歩いてくる。
 魔理沙は霊夢をにらみつけた。

「なんのつもりだよ!? そっちが呼び出しておいていきなり弾幕撃つって、反則――……ひゃぁぁ!!?」

 魔理沙は予期せぬ刺激に、素っ頓狂な声を上げた。
 霊夢は、両手を魔理沙の腋の下に忍ばせていた。

「れ、霊夢、……くふっ!? なにする――」

 魔理沙は最後まで言わせてもらえず、霊夢はこちょこちょと指を動かしはじめる。

「――だやっ!? きゃははははははっ!? な、なにすんだぁぁあっははっはっはっはっはっは!!?」

 わけがわからない。
 魔理沙は自分の置かれた状況が理解できぬまま笑い出した。

「魔理沙。私ね『指でくすぐった相手を虜にする程度の能力』を手に入れたの。だから魔理沙で実験させてもらおうと思って。被験体第二号」

 霊夢は淡々と言う。

「かぁぁっはっはっはっはっは!!? なんだその能力うううっはっはっはっはっはは!! い、意味がぁぁわからひゃぁぁっはっははっはっは~~!!」

 霊夢の指が魔理沙の体を這い回る。
 魔理沙は経験したことのないくすぐったさを感じた。

「私もよ。意味がわからないから、二人ぐらい試せば確信が持てるかなって」

 霊夢はそう言って、魔理沙の服の裾から手を突っ込み、素肌のお腹をくすぐった。

「いぎゃぁぁあっはっはっはっはっはっはっは!!? やめっ!! くすぐったいぃいぃひひひひひひひひひ!!!」

 魔理沙は涙を流して笑った。
 笑いながら混乱した。
 意味が分からない上にあまりにもくだらない能力。
 そんな能力のために、あの博麗霊夢が踊らされているなんて!

 霊夢はいつのまにか魔理沙の足元まで移動していた。

「げほげほっ……! れ、霊夢……! い、いい加減に、目を覚ますんだ、ぜ」

 魔理沙は体が熱くなるのを感じた。
 霊夢が靴を脱がし、ついで、靴下まで脱がし取る。
 霊夢の指がわきわきと晒された素足に迫る。
 そして、気味の悪い感覚を覚えた。

(私……、くすぐられるのを期待している……のか?)

 霊夢の指が魔理沙の足の裏に突き立てられた瞬間、魔理沙は体中に電流が走るような感覚に襲われる。

「ひあぁぁあああっははっははははははははは!!? なんだこりゃぁぁぁあっはっはっははっはっはっはっはっは~~!!!」

 霊夢は爪を立てて、魔理沙の足の皮を掻きむしった。
 足の裏が熱い。
 魔理沙は足指を必死にくねらせた。

 くすぐったさが紛れることはない。

「やめぇぇぇえ霊夢ぅうううひっひっひっひっひっひっひ!!? 死ぬぅうあううあははははははははは!!!」

「魔理沙。意外と綺麗なアーチね。地面に触れない分、このあたりが弱いのかしら」

 霊夢は言いながら、魔理沙の土踏まずをごりごり激しくほじくり返す。

「あひゃぁぁあああそんなにぃぃぃい~~~!!! そんなにぃいやめあぁぁあっはっははっはっはっはっはっは~~!!!」

 魔理沙は泣いていた。
 体中が熱い。
 笑いたくないのに、体の内側から笑いがこみ上げてくる。
 意識したくないのに、足の裏のくすぐったさが脳に直接響いてくる。

「ひあぁぁああっはっはっははっははっははっはは!!!? ふがぁぁあぁあははははあはははあははははは!!?」

 笑い続けるうちに、魔理沙の中で何かが確実に変化していく。書き換えられていくような感覚に襲われる。
 しかし、そんな感覚も、大笑いしているうちに、どうでもよくなっていった。

「――あがぁぁあっはひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? もふっ! もっとぉぉ~~~~!! もっと強くやってぐれよぉぉひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 気がつけば懇願していた。
 霊夢にもっと強くくすぐってもらえるように……。

 ついさっきまで苦痛だったはずのくすぐったさが、快感に感じられる。
 苦痛だった記憶さえ、今に忘れてしまいそうだ。

「これで、二人目ね」

 霊夢の呟きはどうでもよかった。
 ただ、もっと彼女にくすぐって欲しい。
 魔理沙にはそれしか、考えられなくなった。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 『東方永夜抄@上海アリス幻樂団』より、霧雨魔理沙さんです。