古都の外壁近くの家から、ひとりの少女が出てくる。
 年の頃は13、4歳ぐらいに見える。ミディアムショートの赤毛、グリーンのワンピースを着ている。これから仕事に向かうにしては、ずいぶんと楽しそうである。

「あれに間違いないか?」
「間違いありません」

 そんな彼女の様子を物陰から監視する二つの影があった。

「例の居酒屋のぶの皿洗いです。旦那。確か、名前はエーファとか。夜は衛兵の送迎が付いてるんで、ひとりになるのは出勤前のこの時間だけです」
「よく調べた。連行するぞ」
「はっ」

 男二人は、エーファの背後から忍び寄り、あっという間に目隠して馬車に引きずり込んでしまった。


~~~


 エーファが目を覚ますと、独房のように暗くて冷たい空間だった。

「あ、……れ? 私……?」

 自分の体がまったく動かないことに気付く。
 椅子に座らされたエーファは、両手を背もたれの後ろで縛られ、足首をそれぞれ椅子の脚にくくりつけられている。
 椅子から立ち上がろうとしても、ロープがきしむだけで、無駄だった。
 たしか、居酒屋のぶへ出勤途中だった。それが、突然目隠しされて……。
 思い出してゾッとする。
 自分は、誘拐されてしまったのだ!

「エーファちゃん。目覚めたようだね」

 ひとりの男が部屋に入ってきた。
 立派な口ひげを持ち、ずいぶんと派手な出で立ちである。貴族か、かなりの豪商か。
 男はエーファの目の前までやってきて、嫌らしい目つきで顔を覗き込む。
 エーファは恐怖を感じたが、必死に唇を噛みしめた。
 エーファは直感的に理解していた。怖がったり、泣き叫んだりすることが、この男を喜ばせる。この男が弱者を虐げることに快感を抱く類いの人種であることを。

「今日はね。エーファちゃんに聞きたいことがあって来て貰ったんだよ。なあに、正直に答えてくれればすぐに返してあげるからね?」

 男は甘ったるい声でそう言い、エーファの赤毛を撫でた。
 不快感に鳥肌が立った。

「……聞きたいこと?」エーファは聞き返す。

「居酒屋のぶで出しているラガーについてだ。ああ、『トリアエズナマ』という名前で提供している商品だね。帝都の酒造司で製造されているラガーとはまるっきり違うものらしいじゃないか。どこで製造されているのか、製造元を教えて貰いたいんだ」

 男はにっこりと微笑んだ。
 エーファは、顔を引きつらせる。

「そ、私、知りません!」

「嘘言っちゃいけないよお嬢さん。君が居酒屋のぶで仕入れに関わっていることは調べが付いてる。君がタイショーさんを仕入れのことで叱っている姿を見ている者がいるんだ」

 それは誤解だ。
 たしかに最近、皿洗い以外にも棚卸しや弁当の売り子など様々な仕事を手伝わせてもらってはいる。タイショーがときどきやってしまう仕入れミスを注意することもあるが、その程度だ。
 納入ルートまで把握しているわけではない。第一異国の言葉で書かれた仕入れ書は、区別はできても読めないのである。

「ホントです。私、何も知らないです!」

 エーファがいくら否定しても、男は聞く耳をもたなかった。

「どうやら堅く口止めされているみたいだね。だったら、ちょっと苦しい思いをしてもらないといけないかな?」

 エーファは背筋が寒くなった。
 男はいったいなにをしようというのか。
 エーファは怯えていたが、男が取り出したものを見て、きょとんとしてしまう。

「え……? 羽根?」


~~~


「あはははははははっ!!? なんですかこれぇえ~~っはっははっはっはっはっはっは!!?」

 エーファは自分の置かれた状況がわからないまま、大笑いしていた。
 髪の毛を振り乱し、目に涙を浮かべ、ただただその刺激に翻弄された。

「エーファちゃん、『トリアエズナマ』の製造元を吐いて楽になるんだ。早く言わないとお腹がよじれちゃうよ」

 男は、ふさふさと羽根の付いたハケで、エーファの右足の裏を上下になで回しながら言った。

「あはっはっはっはっはっは、そ、そんなこと言ったって、知らないですぅぅ~~っはっはっははっはっはっはっは~~!!!」

 エーファは靴と靴下を脱がされ素足にされていた。素肌から直に伝わってくる羽根の感触は、たまらなくくすぐったい。
 くすぐりという行為は、むかし異国の魔女狩りで拷問に使用されたという噂を聞いたことがあった。まさか、これほどまで辛いとは……。

「あははははははは、やめてぇぇはっはっはっはっはっは!! あははは、お腹痛いぃいいっひっひひっひっひっひ~~!!!」

 エーファは笑いすぎて頭がどうにかなってしまいそうだった。
 必死に足をよじり、足の指を蠢かせるが、男にがっちりと足首を掴まれており、抜け出すことができなかった。
 男は、エーファの土踏まずや指の付け根を羽根でサワサワとなで続ける。
 羽根の先が足の皺の間に入り込み、指のスキマに入ってくると、エーファは耐えられない。

「ひやぁぁああっはっはっはっはっはっは、お願いぃっっ、やめてくだしゃぁぁっはっははっはっはっは~~!! ほんとにほんとにっ!! 知らないんですぅうはっはっはっははは!!!」

「強情な娘さんだ。それなら……」

 と、男は羽根を休めた。

「……ひ、ひぅ、けほけほ」エーファは悩ましいくすぐりから解放され、咳き込んだ。大きく深呼吸して息を整える。笑いすぎで頬の筋肉が痛かった。

 男は部屋を出て2分ほどで戻ってきた。
 男はバケツと白い粉の入った袋を抱えている。男はエーファの足元にしゃがむと、白い粉をバケツに入れ、水と混ぜ始めた。

「……な、なんですかぁ、それぇ……」

 エーファは力なく声を出す。
 さきのくすぐりですっかり体力を消耗している。
 このまま自分はどうなってしまうのか。次はいったい何をされるのか。不安でしかたがない。

「これはね、でんぷん粉だよ」男はにやにやして答えた。

「えっ? でんぷん……」

 エーファは、タイショーがよく料理に使っているカタクリコを想像した。
 たしか、とろみをつけるためにこうして水に溶いていた……。
 こんな場所で何に使おうというのか。

「さあ、エーファちゃん、拷問再開だよ」

 男はそういうと、両手にべったりとでんぷん粉の混ざった水をつけて、エーファの素足に塗りたくった。

「ひゃああっ!?」

 エーファは甲高い悲鳴を上げた。
 ぬるぬるとした液体が、足の指、足の裏に塗りたくられる。

「ひゃはっ、ひゃははっ、あひゃっ!? やめっ、なん、それぇぇ!!!」

 気持ちの悪い刺激に身をよじるエーファ。

「これを塗るとね、滑りが良くなってさらにくすぐったくなるんだよ。エーファちゃん。そぉれ」

 男は、エーファの右足の裏に5本の指を突き立てた。

「きゃあああぁあっ!!? あぁああぁあはははははははははははっ!!!?」

 想像以上のくすぐったさに、エーファは体を仰け反らせて笑い出した。
 男の指が、ねちゃねちゃとエーファの足の指の股にからみつく。

「ひにゃぁぁあああひゃひゃっひゃっひゃ!!! それやめっ、いやぁぁあひゃひゃははははははははははっ~~!!!?」

 足指の股から付け根、ぬるぬるとこそぐられるのはたまらなくくすぐったい。

「やだやだぁああひゃひゃひゃひゃっ!? きもちわるいぃっっひひひっひひひっひひっひゃにゃぁあぁあ゛ぁ゛~~~!!?」

 エーファは激しく首を左右に振って笑う。
 頬の筋肉が引きつって、口を閉じることができない。
 流れ出た鼻水が口に入り、咳き込んでしまう。

「可愛い顔をくしゃくしゃにして台無しだよ? エーファちゃん? いつまでも意地張らず、いい加減教えてくれないか?」

 男は、エーファの足の土踏まずを掻きむしりながら言った。

「あひゃっひゃっひゃっひゃ、それやぁぁあ゛ぁははははは!!? ほん゛どに゛ぃいひひっひひっひ!!! ほんとにしりましぇぇぇぇえ゛ぇ゛んひっひっひひひっひっひっひっひ~~!!!」

 エーファは泣き叫んだ。
 いくら本当のことをいっても、まったくくすぐりが収まる気配がない。
 足の裏からびりびりと伝わってくるくすぐったさに、体がおかしくなりそうだった。

「エーファちゃん。ラガーの製造元は?」

「いひゃははははははははっ!!! ほんにょぉ゛お゛ひっひっひっひ、知らないっいいひぃ゛っひひっひっひっひ!!! なんにもぉ゛ぉひょほほほほほほっ!!?」

「そんなに笑い死にしたいなら、お望み通りにしてあげよう」

「嫌ぁ゛あ゛ぁぁ゛ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~!!!? に゛ゃ゛ァ゛あ゛ぁあ゛あっあ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛~~~!!!」


~~~


 エーファが過酷な足裏くすぐり地獄から解放されるのは、それから二時間後のことであった。
 ミステリードラマ好きのタイショーの名推理によって、監禁場所と犯人グループが特定され、犯人グループは衛兵に連行された。
 無事救出されたエーファであったが、しばらくの間、とろみのある食べ物を見ると足がむずむずする後遺症に悩まされた。



(完)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 水溶き片栗粉をお湯に混ぜると、ローションの代わりになります! 是非お試しあれ!
 youtubeのバンダイチャンネルですっかり『異世界居酒屋「のぶ」』にはまってしまいました。なろうで復習した上で文庫本まで買ってしまいました^p^
 アニメ動画にもお金落としておこうかとアマゾンビデオのページに行ったら、思いのほか評価が低くてびっくり(´・ω・`) 個人的には、酷評されているテロップは斬新で好きなんですけどね。のぶプラスも好き。もやしナポリタン作りたい。