どのような手を使ったのかはわからないが、数分後には梨本夕奈が連れてこられ、咲良の隣に拘束された。
 ひとり用のベッドの上に、女子校生がふたり並んで寝かされている。
 咲良はタオルで、夕奈は、もともと咲良の履いていた片方のソックスで、手首を縛られている。
「夕奈、……ごめん。私が朝練に付き合わせたばっかりに……」
「咲良ちゃんのせいじゃないよ」
 涙目の咲良とは対照的に、夕奈は毅然としていた。
「おじさん、こんなことして、ただで済むと思っているんですか? 拉致監禁、立派な犯罪ですよ」
 夕奈は男をにらみつけている。
 咲良は驚いていた。普段はちょっと天然っぽいところのある夕奈が、こんなに毅然とした態度が取れるなんて……。
「あ? なにが犯罪だ! お前等が俺の家の前で朝っぱらから騒音建ててたのが悪いんじゃねーか!」
 男は恫喝しながら、手に持っていた咲良のもう片方のソックスを、夕奈の顔に押しつけた。

「んぶっ……!!? ちょっ……や゛ぁ゛っ……!!」

 途端に、夕奈は、きゅっと顔をしかめた。ぐっとこらえるように口をつぐんだのは、咲良に気を遣ってのことだろう。悪臭で吐き気を催すのか目尻に涙が溜まっている。
 友人が自分のソックスの臭いを嗅がされて涙目になっている。咲良は恥ずかしさのあまり、顔から火がでそうだった。

「やっ、やめてくださいっ!! ゆ、……夕奈にそんなことしないで!」
 咲良は叫んだ。

「ああ?? 『そんなこと』ってなんだ! ちゃんと具体的に言わないとわかんねーぞ!」
 男は、咲良のソックスのつま先の部分を夕奈の鼻へぐいぐいねじこみながら言う。

「んぶぅぅぅう~~、……や、ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~!!!!」
 夕奈は声にならない不快音を発している。
 真横にそのソックスの持ち主である咲良がいるのだ。むやみに顔を背けることすら憚られるのだろう。

 咲良にとってはそんな夕奈の気遣いが心苦しくてならない。

「ちゃんと言えよ」
 男の催促で、咲良は、

「わ、私の、ソ、ソックス、……夕奈に押しつけるの……、やめて、ください……」

 顔を真っ赤にして言った。

「どんなソックスだ?」
「い……、く、臭い……ソックスです」
「最初からちゃんと言え!」

「う……うぅ……、私の、……臭いソックスを、夕奈の、鼻に押しつけるの、……やめてください……っ!」

 自分のソックスを押しつけられてもがく友人の隣で、そんなことを叫ばされる。
 咲良は知らず知らずのうちに涙を流していた。

「おう、じゃあ、やめてやるよ」
 男はそう言うとソックスから手を離し、夕奈のアバラに指を突き立て、ゴリゴリとくすぐりはじめた。

「んぶぅぅぅうぅぅっ!!? ぅ゛――ん゛ははははははははははははは!!!? んがぁぁ゛あ゛っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはは~~!!?」

 途端に激しく鼻水を噴き出して笑い出す夕奈。
 悪臭によるストレスで緊張していたせいもあってか、たがが外れたように大笑いしている。

「やだっ……ああっはっはっははっはっは!!? んぎぃいいひひひひひひひひひひ、なにこれぇぇえ~~~!!!?」

 夕奈は激しく首を左右に振って笑う。
 耳の後ろで二つに結ばれたおさげが、激しく揺れた。

 よく気の利く優しい友人が隣で笑い狂っている。咲良は、すべてが自分のせいだと思うと、いたたまれない気持ちになる。

 夕奈の顔に乗っていたソックスが、はじけ飛び、咲良の方へ飛んできた。

「ぶえぇぇっ!!?」
 咲良はすぐさま顔を背けた。凄まじい悪臭。しかも、夕奈の鼻水がべっとりとついている。ついさっきまで穿いてた自分のソックスが、不快極まりない汚物となりはてた。

「おいおい。お前のソックスだろうが。自分のソックスがそんなに嫌なら、他人のならいいのか?」
 男はそう言って夕奈のアバラから手をどける。
「んぐ……げほっ、げほぉぉ」途端に夕奈は咳き込む。
 男は、夕奈の足元に周り、彼女の両足からソックスを引っ張り脱がした。
「ほら」
 そうして男は、脱がしたての夕奈のソックスの片方を、咲良の顔へ押しつける。

「う゛ぇ゛っ!!?」

 咲良はたまらず、顔を背けてしまった。自分のソックスほどの悪臭では無いが、酸味が強く、鼻に突き刺さるような臭いだ。
 はっとして隣を見ると、夕奈は涙目で恥ずかしそうに顔を赤くして「ごめん……」と呟いた。
「いゃ……夕奈、違くて……」咲良は申し訳なさすぎてどろもどろになる。

「はっ、お前! 友達はお前のソックスの臭い我慢してたのに、お前は全然だなあ! 友達のソックスがよっぽど臭かったってことかあ? どれ」
 そういって、男は夕奈のもう片方のソックスの臭いを嗅ぐ。
「やっ、やめてぇ!!」
 夕奈が叫んだ。
 男は無視してすんすんと臭いを嗅ぐ。
「全然じゃねーか! そっちの奴の方がよっぽど臭い強いのに、ひでぇなあ、おい!」
 男はそう言って夕奈のソックスを夕奈の顔へ投げた。

「んぶぅ!? ……っ」

 夕奈は、自分のソックスが顔に乗ると、すぐさま顔を背けた。しかしすぐ複雑な表情に変わったのは、彼女自身、自分の臭いよりも咲良のソックスのほうが臭いことに気付いたからだろう。

「な! お前の友達ひでぇだろ?」
 男が夕奈に向かって言う。
「…………」夕奈は無言で眉をひそめた。
「なっ、っていってんだろ!」
 そういって男は、夕奈の素足の足の裏をガリガリ爪を立ててくすぐりはじめた。

「ん゛がぁあ゛っはっはっっはっはっはっは!!? やめぇぁ゛ぁぁ゛ぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっはっは!? なんならぁぁあははははははははははははははは~~!!!」

 途端に身をよじって笑い始める夕奈。

「や、やめてください! ゆ、夕奈を、これ以上……」
 咲良はいたたまれなくって叫ぶが、男ににらまれ、すぐに語尾を濁してしまう。

「あがひぃぃ゛ぃぃ゛ひひひひひひひひひひひっ!!! 足やめてえぇぇ~~ふひっひっひっひっひっひっっひっひ~~!!」

 男は夕奈の土踏まずをカリカリと掻きむしっている。
 夕奈の足の指がくすぐったそうにびくびくと動く。
 どうやら、夕奈は足の裏をくすぐられるのに弱いらしい。
「や、やめて……」
 咲良は隣で笑う夕奈の姿を見ていられない。
 しかし、男を止めることも、彼女を救うこともできない。
 咲良は泣きながら制止を求めることしかできなかった。

 たっぷり数分間経った後、
「お前、ソックス顔に乗せたまま、落とさなかったら、ふたりとも解放してやるよ」
 男は夕奈の素足をくすぐりながら、隣の咲良に向けて言った。
「え……? 私が……?」
「お前以外いないだろうが」
 男は夕奈の足の指を押し広げ、親指と人差し指の付け根辺りをカリカリくすぐっている。

「いぎゃあぁ゛あ゛はっはっはっはっはっはっはっは!!? だめ゛ぇ゛ぁあぇひひひひひひっひっひひひひ、そこ無理ぃい゛ぃ゛ぃっひひひっっひっっひっっひっひ~~!!!」

 夕奈のけたたましい笑い声を聞いていると、つらい。
「わ、わかりました……」
 咲良が承諾すると、男は片手で夕奈をくすぐりながら、もう片手で夕奈のソックスを拾い上げ、咲良の顔に乗せた。

「う゛っ」
 わかっていても、声が漏れてしまう。自分のものよりはマシとは言え、臭い。反射的に顔を背けそうになるが、ギリギリのところで我慢した。

「あ゛はっはっはっはっはっはっはっは!!! い゛ぃぃ゛ぃ゛~~ひひひひひひひひひひひひひぐひぃ~~!!」

 隣で笑い続ける夕奈を横目で見やる。
 鼻水を垂れ流し、あごから首にかけて涎でべとべとになっている。
 夕奈には本当に悪いことをした……。
 自分が朝練さえしようとしなければ……。
 夕奈を誘ったりしなければ……。
 咲良は、夕奈のソックスの臭いに耐えながら、後悔の念を募らせた。

 しばらくして、男が夕奈の足元で動くのが目に入った。
 気になるが、顔を動かせないため確認できない。

 男は、拾い上げた咲良のソックスを、咲良の顔、夕奈のソックスの上へ被せてきた。

「ん゛ぐぅぅ゛ぅぅ~~!?」

 咲良は悪臭に目を開けていられなかった。
 頭が反射的にびくんと動く。振り払いたい衝動に駆られるが、必死に抑える。
 涙が出るほど気持ちが悪い……。
 夕奈のソックスの上に重ねられた自分のソックスは、先ほど夕奈の噴き出した鼻水が染みこんで、湿っている。
 湿気によってさらに発酵臭がきつくなったように感じた。

「ん゛……う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……」
 咲良の体がぷるぷると震えた。体中から脂汗がにじんでいるのがわかる。臭いということが、これほどつらいとは思わなかった。酸欠で目がちかちかした。

「ぎひぃぃぃ~~ひひひひひっひっひ、ん゛あだぁぁあ゛ぁ゛あぁぁはっはっはっははっははっははっはっはっは~~!!」
 夕奈は長時間笑い続けているためか、声がかすれている。

「ち」と男の舌打ちが聞こえ、男が足元で動くのが見えた。
 そのとき、咲良はようやく気付いた。

 いったいいつまで、ソックスを顔に乗せていれば、解放してくれるのだろう……?

 制限時間が決まっていないのなら、最初からこの取引は成立してない……?

 そんな考えがよぎった直後だった。

「あひゃっ!!? ひああぁははははははっ!!?」
 咲良は突然足の裏にくすぐったさを感じ、笑い出す。とっさのことで大きく体を揺らしてしまい、顔に乗ったソックスは二足ともずり落ちてしまった。
 男は、夕奈の足をくすぐりながら、もう片方の手で咲良の足の裏をくすぐったのだ。

「あーあ。落としたな」
 男は手を止めて嘲笑する。

「ぢ、ちがぅ……っ、こんなの、……卑怯、げほげほ……!」
 咲良は、鼻の上に染みついたソックスの臭いに、激しく咳き込んだ。
 夕奈も長時間のくすぐりから解放されて、ぜぇぜぇと肩で息をしている。

「落としたからお前らの負けな。もう二人とも許さねーからな!」

 にやりと笑う男の目に、狂気を感じ、咲良は戦慄した。


(つづく)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 羞恥と罪悪感の妙!