「あひゃひひひひひひひひひひっ、もう許してぇえぇぃぃ~~っひっっひっひっひっひっひ!!!!」

「んぐぃぃい゛ぃ゛~~っひっひっっひっひ、だめ゛ぐぎぃいっはっはっははっっはっはっはっはは~~!!!」

 咲良と夕奈の笑い声が折り重なる。
 すでに二人はくすぐられ続けて30分。二人とも体力は限界だった。

 咲良の左足首と夕奈の右足首が、夕奈の片方のソックスで縛り付けられている。
 男は隣り合わせに並んだ二人の素足を抱え込み、一緒くたに掻きむしっている。

 そのとき、咲良のケータイに着信があった。
「なんだよ……」
 男は舌打ちしてくすぐる手をとめると、咲良のスカートのポケットからケータイを奪い取った。
「……あ、げほげほ、……やめてください」
 咲良は力なくつぶやく。
 隣の夕奈は、「いひ……ふひひ……」と余韻でまだ笑いがこぼれている。苦手な足の裏をくすぐられ続け、体力的にも精神的にも限界を超えているのが明らかだ。頬がひきつったまま固まっており、鼻水もよだれも垂れ流し。すっかり破顔してしまった夕奈のだらしない表情を見ると、咲良は罪悪感に胸が苦しくなった。
「『菊池先輩』って誰だよ」
 男は、ケータイの画面を咲良に見せながら言った。
「……ぶ、部活の、先輩です……」
 咲良はしぶしぶ答えた。
「いま、一人かどうか聞け」
 男はそう言って、咲良の耳元へケータイを当てた。

『井澤! あんたいまどこにいるの!? 楽器出しっぱなしでなにしてんの!』

 菊池美央のよく通る怒鳴り声がケータイから聞こえた。
 まだ部活開始じかんには早い。彼女も朝練のために早出してきたのだろう。
「もしも余計なこと言ったら」
 と、男は夕奈の脇腹に指を添えた。
 夕奈はおびえたように顔をしかめ、力なく首を横に振る。
 咲良は、いたたまれなくなった。
「……す、すみません。先輩。あの、……」
『梨本も来てるみたいなんだけど、あんたら一緒にいる? 二人いるならどっちか楽器のそばで見張りつけとかないとダメって。それ無理でも教室に鍵かけろって、いっつも言ってるよね。1年からやりなおす?』
「あの、……先輩、いま、ひとりなんですか?」
『は? あんた自分の立場わかってんの? こっちが聞いてんだけど』
「あ、あの……」
『え? 紬がいれば許してもらえるとか、甘いこと考えてんの? そういうとこたるんでんだよ! 残念でした、いまあたしひとりだから! 救いの手とかないから! さっさと戻ってこい!』
 美央がそう発言したところで、男がケータイを取り上げた。
「あ、オレオレ」
『えっ?』
「H高の向かいの家に住んでるんだけどさ。お前んとこの生徒が迷惑かけたんだよ。朝からぶんちゃかぶんちゃか、うっせーよ。朝六時前からだぜ? お前んとこの教育どうなってんだよ! いま二人に謝罪させてるところだからよ、お前も来いよ。こいつらの先輩なんだろ? 誠意見せろよ」
 電話の向こうの美央はしばらく黙って、
『……わかりました。うかがいます』
 そう言って謝罪した。おそろしく丁寧な口調で、声色まで違って聞こえる。隣で聞いていた咲良は驚いた。


(つづく)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 電話とかメールで呼び出してくすぐるシチュ、狂おしく好きです。