「このたびはうちの部員がご迷惑おかけして、申し訳ございませんでした」
 玄関の方から菊池美央の声が聞こえた。
 男の声はぼそぼそしていて聞き取れない。
「お詫びはなんでもしますので、二人を許してやってもらえないでしょうか」
 美央がそう言うと、また男がぼそぼそ言っている。
 少し沈黙があって、
「……わかりました」
 美央はずいぶんと聞き分けが良いようだった。
 ぎぃ、と床のきしむ音が聞こえる。靴を脱いで上がったようだ。
 足音が近づいてくる。
 美央は、部屋に入ると目を見開いた。
 咲良と夕奈は相変わらずベッドに並べて縛り付けられている。
「……菊池先輩、す、すみません」
 咲良はつい謝った。
 しかし、美央は怒っているというよりも悲しそうな表情だった。
 美央は、男に向かって、
「どうすれば、二人を助けてくれますか?」
「……え?」
 咲良は驚いた。てっきり、怒鳴られると思っていたのに。
 男はにやにやしている。

「そうだな。じゃあ、まず、それを鼻にあてて深呼吸してもらおうか?」
 男は床を指さして言った。くしゅくしゅになって落ちている咲良のソックスだ。
「……はい」
 美央は、中腰になってそれを拾い上げる。
 両手で持って、ゆっくりと顔に近づける。

「せ、先輩っ! やっ、やめてください! な、なんでそんなこと」
 咲良はたまらず悲鳴をあげた。

 美央は、咲良をキッとにらんだ。
「……うるさい、井澤。あたしが断ったら、あんたらがもっとひどいことされるでしょうが。そんぐらいわかれ、馬鹿」
 美央は毒づくと、一瞬躊躇したように動きをとめてから、一気に咲良のソックスを自分の鼻に押し付けた。
 美央の眉が苦悶に歪んだ。

「先輩……」
 咲良は心苦しくなって涙が出た。本当に泣きたいのは先輩のはずなのに……。

「深呼吸だ」
 男が促すと、美央は「すーっ」と音を立てて鼻で息を吸った。美央のしかめ面に涙が浮かんだ。
「へへ。後輩思いの先輩でよかったなあ、お前ら!」
 と、男は咲良に向かっていやらしく笑う。
「状況をすぐ察してくれてよ。さすがH高校生は賢いなあ」
 美央は時折嗚咽を漏らしながら咲良のソックスをかぎ続ける。その傍らで男があざけり笑う。

「……先輩、やめて……」
 咲良は声をしぼりだす。
 普段厳しくて怖い菊池先輩。彼女が自分たちのために身を挺してくれている。申し訳なくて、悔しくて、胸が苦しい。

「じゃあ次は、自分でソックス脱いで、その台の上に仰向けになれ」
 男はちゃぶ台を指して言った。
 美央は無言で咲良のソックスを床に置き、立ち上がる。
 するすると手際よく両足のソックスを脱ぎ去る。
 美央の、綺麗な白い素足が露わになった。足の爪はわずかに光沢して見えた。常日頃から身だしなみにうるさい美央は、自身のフットケアも怠っていないようだ。
 美央はちゃぶ台に向かう。
 ちゃぶ台に乗ったカップ麺の残骸と灰皿をどかそうとして、
「おい! 勝手に動かすんじゃねーよ!」
 男が怒鳴った。
「それを避けて寝っ転がるんだよ」
 美央はくっと顔をしかめた。
 薄汚いちゃぶ台。何かがこぼれた痕もあれば、たばこの灰がふけのように散らばっている。灰皿のたばこは何日も掃除されいないように見えるしけもくだらけ。複数積み重なったカップ麺の残骸。一番上のカップにはすでに冷たくなったであろう残り汁が見え、コバエがたかっていた。

 咲良はたまらず、
「そ、そんなのあんまりです……! 先輩、そんなの従わなくていいです」

 すると男は美央のソックスを拾い上げ、咲良の顔に押し当てた。

「ひっ!?」

 咲良は、思わず悲鳴を上げる。しかし、汚れがまったく見えない美央のソックスからは、無臭どころかせっけんの良いにおいがした。

「ちょっ、ちょっと! その子らには手を出さないって!」

 美央が鬼の剣幕で抗議した。

「お前がぐずぐずしてるからだろ! おい、口開けろ」
 男が咲良の口に美央のソックスを押し込もうとしたところで、

「わかった! わかったから! あたしがなんでもやるから! その子たちにはもうひどいことしないでっ!」

 美央は金切り声で叫ぶと、狭いちゃぶ台に腰かけ、ぐっと身をよじって仰向けになった。おろしたてのように真っ白なブラウス、折り目まで綺麗についた彼女の制服が、灰まみれのべたべたのちゃぶ台で汚される。

「最初からそうしてればいいんだよっ」

 男は再び美央の元へ歩み寄ると、彼女の顔にソックスを投げつけた。美央は反射的に顔を背けた。その拍子に顔のそばにあった灰皿の中へ、ソックスが落ちた。灰まみれになった自身のソックスを見て、美央は悲しげな表情を浮かべた。

「よし、じゃあ両手を台の下に伸ばして、台の脚を掴め」
 男の指示で美央は両腕を左右に伸ばす。途中、体の右脇に置かれていたカップ麺の山に触れそうになる。なんとか肩を持ち上げてかわす。肘を下へ曲げ、台の両脚を掴んだ。

「動くなよ」
 男はそう言いおいて、美央の足元にしゃがんだ。
 美央の素足は、ちゃぶ台の角でちょうど膝が折れ、だらんと宙ぶらりんになっている。
 男は、両手で彼女の素足の裏をかかとから指先に向けてひっかいた。

「いっ……!? なっ!?」

 美央は、びくんと膝を持ち上げた。

「おい、動くなっていったろ! あいつらがどうなってもいいのか!」
 男は恫喝する。
「……っ」
 美央は歯噛みした。
 どうやらくすぐられるとは思っていなかったらしく、驚きと怒りの入り混じった表情をしている。
 男は、ふたたび垂れ下がった美央の足の裏を撫でる。

「んっ……」

 美央は眉間にしわをよせる。
 足指がくねくねとくすぐったそうによじれた。

「そうだ。動くなよ。かわいい後輩のために」
 男はあざけりながら、爪を立て、彼女の足の裏を上下にひっかきまわす。

「ふっ……くっ……」

 体を左右に震わせる美央。
 しかし、顔のそばに灰皿、体の右脇にカップ麺の残骸があり、大きく体をよじることはできない。

「どうした? 笑っていいんだぞ?」
 男は美央の足裏をこちょこちょくすぐりながら挑発する。
「……っ」
 美央は、歯ぎしりを立てて応じた。
「あれか、先輩の威厳とかそういうやつ? 後輩の前ではぶざまに大笑いする姿なんか見せられないってか」
 男は美央の右足の指を掴んでそらし、指の付け根をこりこりと掻いた。

「んくぅぅ……っ!! ~~っ!」

 美央は、口をへの字に曲げて笑い出すのをこらえている。
 くすぐられていない方の左足が宙を蹴る。
「おい! 動くなって! H高生のくせに理解力ねーのか」
 男はそう言って、左足の足首を掴み、土踏まずをがりがりとくすぐった。

「ひぃっ……くっ、ん~~、~~っ……っ!!」

 美央は、きゅっと足指をまるめて刺激に耐えている。

「足は強いみたいだな」
 男は立ち上がると、彼女の白い太ももをぐにっとつまんだ。

「んふぅっ!?」

 美央の体がびくんと上下に動く。
 衝撃でカップ麺の山が揺れ、美央は慌てた様子で身を左側へ捩った。
 カップ麺の山は倒れずに持ちこたえたものの、男のいやらしい責めは続いている。

「なんだよ。なかなか笑わねーな。そんなに先輩のプライドが大事なのかよ」
 男は嘲笑しながら、両手をゆっくりと上昇させていく。

「ひっ、やっ、やだ……ぁっ、~~!」

 男の指が美央の脇腹に到達すると、明らかに美央の反応が激しくなった。
 体をウナギのようにくねらせ悶え、肘や膝をがくがくと震わせる。脇腹のくすぐったさに耐えるように、足指までピンとつっぱっている。
 しかし、笑うまいとしているのか、顔を真っ赤にして、唇をぐっと引き締めている。
 男は人差し指で美央の両脇腹をつついたり、ほじったり、5本指でもみこんだり、休む間もなくくすぐり続けた。
 
「あ、……んふっ」

 決壊はなんの前触れもなく訪れた。

「くはっ――……はっはっはっはっはっはっはっは!!! あはぁぁ゛あ゛~~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 美央は激しく口を開けて笑い出した。
 きれいな髪の毛をぶんぶん振り回し、顔のそばの灰皿がひっくり返った。

「ぶふぅうっ!!? げほげほぉお~~……っはっはっはっは、ぎっ、ひいひひひひひ、やだぁっ、あがはっははっはっはは!!!」

 美央は、灰まみれになった自分のソックスを顔面に受け咳き込みながら笑う。

 それでもちゃぶ台の脚を掴んだ手は離そうとしない。
 身を精一杯左側に捩り、びくびくとおなかを震わせる。カップ麺の残骸も倒すまいとしているようだ。
 しかし、男は無情にも、そうして突っ張った美央の左脇腹に10本の指を食い込ませ震わせた。

「きやぁあぁああははははははははっ!!!? やめえぇぇ~~!!!」

 びくんと体が飛びのくように反応した瞬間、腰がカップ麺の残骸に当たる。
 食べ残しのカップ麺の山が崩れ、美央のおなかに倒れ込む。
 美央の制服のブラウスに、赤黒いカップ麺の残り汁が盛大にかかった。汁はボタンや紺色の襟、顔にまで飛び散る。

「ひゃぁぁあっ!!? つめたっ」

 突然の冷たい刺激に、右手をちゃぶ台の脚から離してしまった。

「あーあ、やっちまったな。部屋も汚れちまったし、もっときついお仕置きが必要だなあ」
 男は満足げに美央に笑いかけると、床に落ちた彼女のソックスを拾い上げた。


(つづく)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 夏休みのご利用は計画的に!