ロケット団が解散して数年。
 カントーに新たな巨大組織が誕生した。
 Tickle-Tickle団(ティコティコだん)。
 これは、ポケモンを「くすぐり」の道具としてしか考えない、変態集団の軌跡。

○○○

 ヤマブキシティ北部に位置するヤマブキジム前。黄色のスーツに黄色いサングラスをかけた怪しい男女二人組が、フリーザーの『そらをとぶ』によって、降りたった。
「ここがヤマブキジムでございますね」
 ロン毛で整った顔立ちの男(以下ロン)が、自身の髪の毛をかき上げながら言った。
「R団最大の失敗は、有能なジムリーダー達を利用しなかったこと。カントー征服にあたっては、まず各地のトップ、ジムリーダー達に協力を仰ぐことが必要なのだ」
 ショートボブでマネキンのような顔立ちの女(以下ボブ)が続けた。

「カントー地方最強のエスパータイプのポケモンを味方につければ、我ら野望の達成も目前ぞ」
「ナツメ嬢にはぜひご協力いただかなければいけませんね」

 T-T団幹部二名は、モンスターボールの大量に入ったバッグを携え、ヤマブキジムへと入っていった。

○○○


 さっさとナツメと交渉がしたいT-T団の二人にとって、ヤマブキジム名物のワープシステムはかなり煩わしいものだった。
 全室の四隅には魔方陣が描かれており、そのどれかがジムリーダーのナツメの部屋に繋がっている。


「ナツメさんは若くしてこのポケモンジムを仕切る実力者! 簡単には会わせないぜ!」

 二人が最初のワープで飛ばされた部屋。白衣をまとったおさげの少女は二人を挑戦者と勘違いしたのか、戦う気満々の様子で歩いてくる。各部屋で対戦を強いられるポケモントレーナーのサイキッカーである。

「すべての魔方陣を確かめるのは時間の無駄だな」
 ボブが言った。
「そうですね。ちょうどよくこちらへ向かってくるあのサイキッカーに聞いてみましょう」
 ロンは言うと、その場でモンスターボールを展開した。

 ぼぅんっ、と音がして、アーボックが現れる。

「おっと、お兄さんやる気だな! でもちと勉強不足なんじゃないか? このジムで毒タイプは――」
「『まきつく』攻撃」
 サイキッカーが喋り始めるが、ロンは無視してアーボックへの指示を出した。
「うわっ!? 何をするっ!?」
 サイキッカーは、あっという間にアーボックにぐるぐる巻きにされてしまった。

「なんだお前達! どういうつもりだ!?」
 アーボックとともに床に転がされたサイキッカーはキッとT-T団二人を見上げる。両足をそろえ、両腕を体の脇にぴったりとつけられた、Iの字で拘束されているため、まるでキャタピーのようである。
「お前。名前は?」
 ボブはサイキッカーの言葉を無視して聞く。
「さ、サイキッカーの……カオル」
 しぶしぶという風に答えるカオル。
「僕達はナツメ嬢に会いに来ただけなんですよ。どの魔方陣がジムリーダー部屋に繋がっているか、教えていただけますか?」
 ロンが言うと、カオルは一瞬驚いたような表情をして、すぐに「ふふん」としたり顔を作った。
「へぇ、無駄な戦闘はなるべく避けて体力温存しておきたいってことなんだ? 確かに戦略としちゃ間違ってないけど、あたしを軽々倒せない奴らにナツメさんが果たして倒せるのかな?」
 ボブとロンは顔を見合わせた。
「……質問に答えていただけますか? ジムリーダー部屋へ通じる魔方陣はどれですか?」
「知りたきゃあたしをポケモンバトルで倒すことだね! 正々堂々戦ってくれれば、ヒントぐらい教えてやるよ」
 カオルは不敵な笑みを崩さない。
「まったく会話が成り立たないな」
「仕方ないですね。アーボック」
 ロンが指示を出すと、アーボックは口でカオルの両足から靴を脱がし取った。

◎◎◎

「『まとわりつく』攻撃」

 アーボックは、カオルの素足に、ちろちろと舌を這わせ始めた。

「わっ、わわっ!? なっ……何をするっ!!? ふはっ、ひゃひっ」
 カオルの足の指が、くすぐったそうにもぞもぞと動く。

「カオルさん、どうですか? どの魔方陣が正解か教えていただけませんか?」
「ふははっ、……な、お前たちっ、ふひっ!? 何者だっ」
 カオルは顔を真っ赤にして言った。
 アーボックの舌先はカオルのかかとをチロチロ刺激し続けている。

「我らはTickle-Tickle団。ここカントーを『くすぐり』で支配するために立ち上がった秘密結社だ」
 ボブが口を開いた。
「ひ、ひひっ!? な、なんだそれぇぇっぁああっ!!!」
 カオルはくねくねと、体をキャタピーのようによじった。

「ナツメ嬢の部屋へ繋がる魔方陣はどれですか?」
「ひ、くひひっ……」
 カオルは唇をかんで、笑いをこらえる。

「『ふいうち』攻撃」
 ロンが指示を出すと、アーボックは尻尾の先端をカオルの腋へねじ込み、くねらせた。

「ぶはっ!!! あははははははっ!!? や、やめっ……くぁっはっはっはっはっはっは~~!」
 一度笑い始めると抑えられない。
 カオルは苦しそうに眉間に皺を寄せて笑い始めた。
「あっはっはっはっは、やめろっ、やめろぉぉ~~~~……っ!!」

「質問にお答え願えますか?」
 ボブがカオルの顔を覗き込んだ。
「はははははっ……そんなっ、答えられるわけないだろぉぉ~~っはっはっはっは! せ、正々堂々っ! 勝負しろぉぉ~~っ……ふはははははははっ!!」
 カオルはかなりの戦闘中毒らしい。
 T-T団の二人は顔を見合わせて肩をすくめた。

「『おいうち』攻撃」
 アーボックの舌の動きが速くなった。
「ぐはっ!!! 嫌あぁぁははははははははははっ!!! やめっ、くすぐったいぃぃぃ~~っひっひっひっひ!!!」
 カオルは涙を流して叫んだ。
 アーボックの舌が、カオルの足の指の間に入り込み、びちびちと音を立てる。
「うひひひひひひひひひっ!!? いぃぃ~~っひっひっひ、それ駄目っ、やめっ、やめてぇぇ~~~っはっはっはっは!!」

「『おいうち』攻撃」
 さらにロンが追加指示を出すと、アーボックの尻尾の先端が、ぐりぐりとカオルのアバラをほじるように動く。
「あひひひひひっ、ぶわぁっはっはっはっははっ!!! やめっ、ふざけんなぁっはっはっはっはっはっは~~っ!!」
 体を床に打ち付けたり、反ったり、よじったりして、涙を流して笑い狂うカオル。

 しばらく笑い続けていたカオルだったが、耐えられなくなったのか、意外と早く口を割った。
「わかったぁぁあっはっは、教えるっ!!! 教えますからぁぁぁっはっは、そこっ! その角の魔方陣っ! それが正解っ!!!」

「なんだ。あっけなかったな」
 ボブは軽くため息をつき、魔方陣へと急ぐ。
「では、参りましょうか」
 ロンも続く。

「ちょっとぉぉぉ~~っはっはっは、教えた! 教えたからぁぁっはっは、助けてよぉぉ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!」
 カオルは体を反り返らせて懇願する。
 身動きの取れないIの字の体がびくびく痙攣するように動いている。

「バトル狂はしばらく笑って、脳のリフレッシュでもしていろ」
 ボブはあざけり笑いながら、魔方陣へ飛び乗った。
「そんにゃぁぁぁっはっはははははははっ!!」
 ボブの体がぐるぐると回転をはじめ、ゴムをねじ切るような音とともにワープした。
「『おいうち』攻撃」
 ロンは魔方陣の上で最後の指示を出した。
「あぁぁぁっ!!! ひぎゃぁぁぁあっはっははっははっはっ、だぁぁぁあぁ――」

 カオルの断末魔のような笑い声は、ワープ音にかき消された。


○○○


「ナツメは……、私よりだいぶ年下だが! 彼女を尊敬している!」

 T-T団の二人はワープした部屋で、もんぺを履いた非常に幼く見える祈祷師の少女にからまれた。手には御幣を持っている。
 部屋の四隅には、魔方陣がある。

「ナツメ嬢の部屋……ではないようでございますね」
 ロンが言う。
「あの女、だましたな」
 ボブが忌々しげにつぶやく。
 T-T団の二人に、祈祷師の『私よりだいぶ年下』発言をつっこむ余裕はなかった。

「仕方がありません。この部屋のトレーナーに尻拭いをしてもらいましょう。おや、こんなところにかわいらしい祈祷師さんがいますね」
「絶対に許すな」
「仰せの通りにいたします」
 ロンはボブの指示乾いた笑いで応じると、モンスターボールを五個一度に展開した。

 ぼぅん、と音がして、五体のゴーストが現れる。

「『まとわりつく』攻撃」
 ロンが指示を出すと、二体のゴーストが祈祷師の少女へ飛びついた。
「なっ、何をするっ! おぬしらっ!」
 祈祷師の少女は、両手両足首をつかまれ、立ちX字に体を引き伸ばされた。

◎◎◎

「ええい、放せいっ!」
 手首を使い、必死に御幣を振る祈祷師。
「威勢の良い祈祷師さんですね。お嬢さん、お名前をお聞かせ願えますか?」
「ふふん。名乗る名などないっ! おぬしら、何も知らぬようだな! 私は三百年もの間、この地を守り続けている巫女! 私にこのような悪態をついて、ただで済まされると――」
「『おどろかす』攻撃」
 威勢よく叫ぶ祈祷師の少女をさえぎるように、ロンは指示を出した。
 浮遊していた一体のゴーストが、祈祷師の脇腹をこちょこちょとくすぐる。
「きゃはははははははっ!!?」
 途端、甲高い笑い声を上げる祈祷師。肘を曲げ、必死に腕をおろそうと体をよじる。

 ゴーストはすぐにくすぐる手をとめた。
「かわいらしい声でいらっしゃいますね。祈祷師さん。お名前は?」
「……はぁはぁ……きゅ、急に何をするのだ……っ! おぬし、たたりにあうぞ、たたりに――」
「『おどろかす』攻撃」
 ゴーストの二本の手が、祈祷師の脇腹に食い込む。
「きゃはははっ、はっはっはっはっ!! やめてっ! あははははははははっ、……フミカっ!! 名前っ、フミカぁぁ~はははははは!」
 地団太を踏んで笑いながら、フミカは答えた。

 ゴーストの手がとまる。
「フミカさんですか。最初から素直にいいましょうね」
「……はぁ、……はぁ、……そ、それは、私が今借りている体の名だ。私はこの者の、霊力に導かれ、現世によみがえって――」
「『おどろかす』攻撃」
 今度は、二体のゴーストがそれぞれ、フミカの腋の下と腰をくすぐり始めた。
「きにゃっ!!? はははははははっ! やめっ、やぁぁっはっはっはっはっはっ! 名前言った! 名前言ったのにぃぃぃっひっひっひっひっひっひ!!」
 フミカは首を左右にふって、けらけらと笑う。

「『まとわりつく』攻撃」
 ロンが指示を出すと、足首を掴んでいたゴーストが、フミカの左足をぐっと体の前まで持ち上げる。
 がに股にさせられ、膝をくの字に曲げた状態で、体の前で足の裏をさらすような形で固定される。
 浮遊していた最後の一体のゴーストが、その足から足袋を脱がし取ると、がりがりとフミカの素足の裏をひっかきはじめた。
「ふひっひっひひっひっひっ!!? やめてぇぇえ~~~あっはっはっはっはっはっ!!! こちょこちょ駄目ぇぇぇえっはっはっはっはっはっは~~」

「『まとわりつく』攻撃」
 腋と腰をくすぐっていたゴーストも、ぐにぐにと指をフミカの体へ食い込ませ、くすぐりを強くした。
「いやぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! やぁぁ~~っはっはっはっ!!! うにゃぁあっぁああやだぁぁぁ~~っ、やめてよぉぉ~~~っはっはっはっは」
 体を上下に揺らせて笑うフミカ。

「おやおや、三百年の霊力はどうしたんですか?」
 ロンはあざけるように言う。
「きゃはははははははっ、やぁぁぁあああっはっはっ……そんにゃのっ!!! 笑ってたら出せないに決まってるじゃないぃぃ~~っひっひっひっひっひ!!」
 フミカは泣き叫んだ。
「ああ、そういう設定でしたか」
 ロンはにやにやと笑う。
「なら、くすぐり終わった後にたたられないように、ここで目一杯笑わせておかないといけませんね」
「にゃあぁあああっはっはっはっ!!!? 嫌っ、っはっはっは、たたらないっ!!!! たたらないからぁぁっはっはっははは、やめてぇぇぇ~~っひゃっひゃっひゃ!」
 甲高い声で大笑いするフミカの姿は、歳相応の女の子であった。

「『たたりめ』攻撃」
 ロンが指示を出すと、フミカの体をくすぐっていたゴースト達が、フミカの服を脱がし始めた。
「きゃっはっはっはっ!!? いやぁぁ~~っ! やだぁっはっは!!!」
 もんぺを膝までずり下ろされ、羽織の内側の襦袢を観音開きのように引き剥がされ、下着をさらされるフミカ。
 フミカは和装にまったく合わないフリルの付いたキャミソールを身につけていた。
「おやおや、三百年前の巫女様はずいぶんと洋風な下着を着用されているのですね」
 ゴーストはキャミソールの裾から手をつっこみ、フミカの脇腹をくすぐる。ふともも、脚の付け根にも別のゴーストの指が食い込む。
「くきゃはははははははっ!!! やめっ、だってぇぇぇっはっはっは、それはお母さんがぁぁぁっはっはっはっはっはっは~~」
 フミカは泣き叫ぶ。

「もうキャラクターを安定させる余裕もなくなってしまいましたかね? 『したでなめる』攻撃」
 フミカの腕を持っていたゴーストが、フミカのうなじに舌を這わせた。
「うひゃぁぁああああんっ!!!?」
 フミカの足下でも、右足から足袋を脱がし取ったゴーストが、べろべろとフミカの足の裏を舐め始めた。
「あぁぁっひゃっひゃっひゃっ!!! やめてっ、嫌だぁぁぁっはっはっはは、うひゃひゃひゃっ!! お母さんっ! お母さァああんにゃははははははははははははっ!!!」

 しばらく体中を舐められ、くすぐられ続けたフミカは涙をぼろぼろと流して謝り始めた。
「ひぎゃぁぁっはははっははははっ!!! ごめんなさいぃっ!! ごめんなさいぃぃ~~っひっひっひっひ」
「『したでなめる』攻撃」
 おなかをくすぐっていたゴーストが、フミカのへそを舐める。
「あひゃぁぁっはっはっはっははっ!!! おかあぁぁぁあんっ、助けテェぇぇぇっひっひっひ!!! あひゃひゃひゃっ、もう変なこと言わないっ!!! 変なカッコもしないからぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!!」
 フミカは限界なようで、その場にいない母親に助けを求め、自身の設定を否定するような発言を繰り返した。
「ひゃぁぁあ~~っはっはっはっ! ごめにゃしゃいっひっひ、こちょこちょいやぁぁぁっはっはっは!! 宿題もちゃんとするからぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!」

「フミカちゃん。ナツメ嬢の部屋に直通する魔方陣を教えていただけますか?」
 じっくりとフミカの泣き喚く姿を堪能した後、ロンは口を開いた。
「あぁぁっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! そこっ!!! 左下の角ぉぉぉははははははははっ」
 すぐに答えるフミカ。
「嘘じゃないだろうな?」
 ボブが念押しした。
「ひひゃひゃひゃひゃっ!!? ほんとだよぉぉぉっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!」
「さっき、サイキッカーに同じ質問をしたら、ここに通されたんだが」
「にゃっ、ナツメの部屋行くにはぁぁぁっはっはっは、ここからしかいけないからぁぁぁっひゃっひゃひゃっひゃっ!!!」

「さきほどの方も、別に我々をだましたわけではなかったようですね」
「そうだな」
 二人は魔方陣に乗った。

「ゴースト、『したでなめる』攻撃、『まとわりつく』攻撃」
「ぐぎゃぁあぁああああああっははははははははははっ!!!!」
 二人はフミカの悲鳴を聞きながら、次の部屋へとワープした。


○○○


「……やっぱり来たわ! 予感がしたのよ! 何気にスプーンを投げたら曲がって以来……、私、エスパー少女なの。戦うの好きじゃないけどあなたが望むなら、私の力、見せてあげる!」

 T-T団の二人を待っていたのは、エリートトレーナーのように鞭を持った長髪のジムリーダー、ナツメである。
「間違いないか」
「ナツメ嬢に間違いございません」
 ボブとロンは細く微笑むと、ロンがモンスーターボールを展開した。

 ぼぅん、とバリヤードが出現する。

「『でんじは』攻撃」
 ロンがバリヤードに指示を出した。
 バリヤードはパントマイムをするように両手のひらを前に突き出し、攻撃を発動する。

「あなたの手の内は、予知していたわ」
 ナツメはふっと余裕の笑みを浮かべた。
 きぃん、とナツメの正面の空間がゆがんだかと思うと、バリヤードの放った攻撃『でんじは』は、ロンに跳ね返った。
「ぐあっ!?」
 体をピンと硬直させ、両腕を体の脇につけた直立の姿勢で後ろに倒れるロン。『まひ』状態にかかったようだ。
「マジックコートか」
 ボブが感心したように頷く。
「なかなかの手だ。……が、しかし」

「……――うっ!?」
 ナツメは突然、ピンと体を硬直させ、ロンと同じように直立の姿勢で後ろに倒れた。

「我らの方が、……いや、私の方が一枚上手だったようだな」
 ボブがそういうと、ロンの顔がぐにゃりとゆがみ、『へんしん』が解けていく。
「な……っ」
 ナツメは横目でその様子を見て絶句する。
「こいつは『シンクロ』特性を持ったミュウ。私の相棒だ」
 ボブは、すっかり『へんしん』の解けたミュウを見る。体の自由が利かず仰向けに倒れたままである。
「お前の『へんしん』もまだまだだな。あいつは確かに丁寧口調だが、お前は少々へりくだりすぎだ」
「……申し訳ございません。ご主人」
 ミュウは見事に人語を操っていた。

「……こ、こんなことは、予知にはありませんでした」
 ナツメは観念したように目をつぶった。

◎◎◎

「さて、交渉といこう」
 ボブがゆっくりとナツメに近づいていく。
「言わなくてもわかる。あなたの目的は『くすぐり』によって、カントーを笑顔で満たすこと」
 心を読んだらしいナツメは、目をつぶったまま言った。
「ほう?」
「私はヤマブキシティのジムリーダー。断固として、あなたのカントー征服に協力することはできない」
「話が早くて助かるな」
 言うとボブは、バリヤードに指示を出し、『ねんりき』でナツメの気をつけの姿勢のまま宙に浮かべ、両足から靴を脱がした。
 黒いストッキングを履いたナツメの足が露になる。
「……っ」
 少しだけ眉をしかめるナツメ。
 覚悟を固めたようだ。

「バリヤード、『くすぐり』」

 バリヤードは、かかとを揃えたナツメの足の裏をこちょこちょとくすぐり始めた。
「ぷふっ……く……」
 一瞬頬を膨らませ吹き出したものの、ナツメは口をむんずと締め直し笑いをこらえた。
 バリヤードの指の動きにあわせて、くねくねとナツメの足の指が動く。

「ナツメ嬢。顔を真っ赤にして、目には涙まで浮かべて。かなり敏感な癖に無理をしているな?」
 こちょこちょとバリヤードの攻撃は続く。
「くふ……ふ、……そ、そんな、こと……」
 ナツメは嬌声の混じった高めの声を発しながら、ふるふると首を左右に振った。
「バリヤード、『くすぐり』」
 バリヤードはボブの指示を受けると、くすぐる指の動きを速めた。
「くはっ! ……は、……うくぅ……、ひ、く、うふぅ……」
 ナツメは顔を真っ赤にしてくすぐりに耐えている。
 ボブは、ナツメがくねくねと足をよじる様子を満足気に眺めた。しばらくして口を開く。
「その強固な精神力は敵ながら天晴れ」
「く……ふ、ぅ、うるしゃ……ひぅ……ぅ、ぅっ」
 ナツメはぷるぷると唇を震わせた。
 必死に笑い出すのをこらえているようだ。
「だが、目的達成のためにはお前に降伏してもらわねば困るのだ。バリヤード、『ねんりき』」
 バリヤードはくすぐる指を止め、『ねんりき』を発動する。
 すると、ナツメのストッキングがびりびりと激しく音を立てて破け、素足が露になった。
「さらに、『ねんりき』」
 ナツメの足の裏へ向け、バリヤードが両手の平を向けた。『ねんりき』により、ナツメの足の指と指の間がぐぐぐとどんどん広がっていく。両足の指が限界まで広げられたところで、静止する。
「ひっ……こ、これはっ」
 さすがのナツメも怯えたような声を上げた。
 足指が全開に広げられており、素足を守るものは何もない。
 ひきつったようなナツメの表情は必死に恐怖を隠そうとしているようだった。
 ボブはにやりとナツメの顔を覗き込んだ。
「こんな状態でくすぐられたら……ナツメ嬢、想像してみることだな? ぴくりとも動かせない足の裏を、大きく開かれた足の指と指の間を、パントマイムで鍛えたこのバリヤードの両手で、かりかりかりかりと掻き毟られるのだ。その敏感な白い足。エスパーに目覚めて以来念力に頼って、足腰を使ってないんじゃないか? きっと足の裏の神経はびっくりしているんだろうな。これまで味わったことのない強烈な刺激にさらされて、果たして耐えられるかな?」
 ナツメはごくりと生唾を飲み込んだ。

「どうする? 今ならまだ間に合うぞ? ナツメ嬢。我々に協力する気はないか?」
 ナツメは唇をかみ締めてから、ぐっと目を閉じた。
「断固、拒否する……っ」

「バリヤード、『くすぐる』攻撃」

 バリヤードは、ナツメの素足――『ねんりき』で指を全開に広げられた上に、ピンと反り返っている――を目にも止まらぬ速さでくすぐり始めた。

「あがっ――!」

 ナツメはカッと目を見開き、びくんと首を後ろにのけぞった。
 がりがりがり、とバリヤードの指が、ナツメの足の裏で動き回る。

「――ががっ、ふがっ!!? が、が、が」

 ナツメは鼻を鳴らし、口角を限界まで引き上げた。
 直後、ぐりんと一瞬白目を剥いたナツメは、

「ふぐぁ――がぁあぁあああはっはっはっ!!!! あぁぁぁああぁ~~っはっはっはっはっはっ!!!!!」

 決壊し、金切り声で笑い始めた。

 バリヤードの指がわちゃわちゃと、セメントで固められたように動かないナツメの足の裏を這い回る。
「嫌ぁぁああああっ、いゃぁぁぁああああっはっはっはっはっははっ!!! ひゃあぁあぁははっはっはっははっはぎゃぁぁ~~っ!!」
 自由の利く首から上を、縦横無尽に振り回すナツメ。
 艶やかな黒髪が、激しく振り乱れた。

「ふがぁぁあっはっはっはっは、嫌ぁぁああ、やべでぇぇえええええっひゃっひゃっひゃひゃっひゃああぁ~~!!」
 バリヤードの攻撃は続く。ナツメは口の端からだらだらと涎をたらして笑い狂う。
「エスパー少女もこうなってしまえばただの敏感な女の子にすぎぬな」
 ボブは鼻で笑う。
「協力は?」
「ぐあぁあっはっははっはっは!!! ふぎぃっひっひっひっひ!!」
 ナツメはボブの質問には答えず、大口を開けて笑い続けている。

「バリヤード、『くすぐる』」
 バリヤードは、ナツメのかかとから指の間までを、まんべんなくなぞり上げるようにくすぐる。
「ほぎゃぁぁあああっはっはっはっははっはっ、だぁぁああっはっはっはっはっはっ!!?」
 ナツメの足は、『ねんりき』で固められぴくりとも動かない。
 涙を撒き散らして、鼻水を噴出しながら笑うナツメ。
「ひぎゃっはっはっはっはっはっ!!! あば、ひががははははははははははっ!!」
 ナツメの顔は、断末魔の様相を呈していた。

「ひぎぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっ!!! はぎゃぁぁあはははははははははははっ!!! だひゃっ、だべぇぇええっひぇっひぇっひぇっひぇ!!!」

 ナツメはたった一体のバリヤードに、たかが『こうげき』と『ぼうぎょ』を下げる程度の補助技で、無様に笑わされ続けた。カントー最強のエスパータイプの使い手としての威厳は、見る影もない乱れっぷりであった。

○○○

 Tickle-Tickle団は、数時間に及ぶ拷問の末にナツメを屈服させ、タマムシジムに続いてヤマブキジムを手に入れた。
 彼らの『くすぐり』によるカントー征服計画はまだまだこれからである。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 昔ピクシブにアップロードしたものです。
ヤマブキシティ落城計画表紙