佐倉杏子はとうとう追い詰められた。

「だからあたしじゃねーって!」

 杏子は部屋の角に背をつけ、振り向きざまに叫んだ。
 目の前には、魔女化した美樹さやかが立ちふさがっている。

「嘘ばっかり! あんたがあたしのプリン食べたんでしょ」

「だから濡れ衣だって!」

「じゃあそのほっぺたについてるのは何!?」

「えっ!? いや……これは、……」

 杏子の頬から顎にかけてプリンに載っていた生クリームがついている。これは言い逃れできない。

「お、お前が名前書いておかないのが悪いんじゃねーか! 冷蔵庫に入ってたら普通食うだろ!?」

「あんた、開き直ってんじゃないわよ! あれ高かったんだから! 楽しみにしてたのに……っ!」

 美樹さやかはわなわなと身体を震わせた。

「お、お前っ、その姿で怒りを露わにするんじゃねーよ! こえーよ!」

「絶対に……許さない……っ」

 美樹さやかが慟哭すると、その背後から五本の黒い紐が触手のように出現した。五線譜をかたどったようなそれは、杏子の四肢をあっという間に縛り上げた。

「うわっ! やっ、やめろぉっ!」

 両手両足をまっすぐ上下に伸ばした状態で拘束された杏子。
 いつものパーカーにホットパンツという姿。
 さやかは手を、むき出しになった足元へ伸ばしていく。

「今日こそは反省しろ」

「いっ、きっつ……おまっ、まさか……っ!」

 さやかは杏子の素足の足の裏をこちょこちょとくすぐり始めた。

「やははははははははははっ!!! ちょおまぁああああっはっはっはっははっはっはそれは駄目だってぇぇえ~~!!」

 杏子は大笑いを始めた。
 足首から先くねくねとよじれる。

「あははははははははははっ!! その手ぇぇえやめぁぁああっはっははっはっはっはっはっははっ~~!!」

 魔女化したさやかの指は、長くごつごつと硬質であった。
 指の尖端がかりかりと杏子の土踏まず、踵をひっかき回す。

「ひぃぃぃ~~っひっひっひっひっひ! いっつもそこばっかやめあぁあっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

「ふーん、そんなこと言うなら」

 さやかが言うと、杏子の身体に巻き付いた五線がぎりぎりと杏子の身体を引き伸ばし始めた。

「うははははっ!!? いっ、痛っ、……な、なにすんだぁぁっはっはっはっはっは!!」

 足の裏をくすぐられ続け、杏子は笑いながら抗議した。
 杏子の身体は上下に引っ張り伸ばされ、パーカーの裾がめくれ上がった。
 白いお腹とヘソが露わになる。
 さやかは手を止めた。

「そういえば、こんなところ、くすぐったことなかったわよねぇ?」

「……けほっ、うぇっ?」

 酸欠からまったく回復できていない杏子。
 そんな杏子の脇腹を、さやかはいきなりわしゃわしゃとくすぐり始めた。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!?」

 突然の刺激に、杏子は悲鳴を上げた。

「ほれほれ、伸びきった脇腹はくすぐったいかー?」

「あじゃははははははははははははっ!!? やめっ、やめれぇぇええええっへっへっへっへっへっへっへっへ!!」

 杏子は足をくすぐられることが多かったせいもあり、脇腹の刺激になれていなかった。
 新鮮な刺激に杏子は首を左右に振って泣き叫ぶ。

「へそも広がってんぞー」

 さやかは指揮棒を出すと、その尖端を杏子のヘソの穴に当てた。

「ひぃぃぃぃぃ~~!!!」

 杏子は涎を垂らしながら白目を向いた。

「ほーれ、ちろちろ」

「うひっひひっひっひっ!! ごらぁあぁああひっ、ひぃぃ、ひぃぃ、あじゃじゃ、やべっ!! あぁぁあああ~~!!!」

 細長い指揮棒の尖端が杏子のへそをいじくる。
 くりくりと穴の中を引っ掻く度に、杏子は泡を吹いた。
 
「中をもふもふしてやろう」

 さやかが意地悪く言う。
 すると、ヘソの穴に収まっていた指揮棒の尖端に、無数の羽根が球状に出現し、耳かきの梵天のような形に変形した。

「ふぎゃぁあぁああひぃぃっ!!?」

 甲高い悲鳴を上げる杏子。
 さやかは杏子のヘソを、梵天でさわさわとなで上げた。

「ひゃひゃっ、ひゃっひゃっひゃっひゃ!!? ふひぃぃぃ~~~っひっひひぃぃぃあひゃひぃぃぃ~~~!!!?」

 杏子はお腹をふるふると震わせて笑った。
 食いしばった口の端からだらだらと涎が流れ落ちる。
 顔はすっかり紅潮し、目の焦点は合っていない。

「さひゃああっ、さやかっひゃっひゃっ!! やべっ、やう゛ぇてっ、ふひひっひっひっひ、ホントにぃぃっ!! ほんとにくるううひっひひひひひひっひっひ!!!?」

 慣れない腹回りのくすぐりに杏子は発狂寸前の様相だった。

「反省した?」

 さやかは羽根の先でやさしくおへそを掃除するようにくすぐりながら言う。

「はひっひひっひっひっひっ……はんぜいぃぃじだっうひょっひっひひ!! 反省したからぁぁあひっはひっはひっひっひっひぃぃぃ」

「冷蔵庫の中のもの、もう勝手に食べない?」

「食べにゃひぃぃっひっひっひっひっひっひっ!! 食べませんからぁああふひぃぃぃぃぃぃ」

 さやかはさらに二、三分、無言でくすぐり続けて、ようやく杏子を開放した。
 杏子は開放されてからもしばらく立ち上がれなかった。
 彼女は、いつも素足履きで蒸れた足の裏だけでなく、普段私服でチラリズムを醸し出しているお腹周りもウィークポイントのようだ。その日以来、杏子とさやかの喧嘩に、腹周りのくすぐりが現れるようになった。 


(完)