一介の男子高校生である泉剛(いずみたけし)はひょんなことから『時を止める能力』を手に入れた。
 剛は能力を使って、私立聖マリアンヌ女子高に潜入した。

 ぱちん。

 草むらに身を隠し、能力を解除した。
 校内はちょうど休み時間らしい。女子高生たちの騒がしい声があちこちから聞こえてくる。
 渡り廊下を歩く三人組を見かけた。ベージュのスクールセーターにチェックのスカート、白いクルーソックス。校内は土足禁止らしく、三人ともスリッパをはいている。移動教室のようで、ノートと教科書を抱えている。
 よく見ると、その中のひとりに見覚えがあった。

「今朝ほんっと最悪でさー。ミオの奴が急にあたしに炭酸水吹き付けて爆笑してんの」

 今朝電車の中でイタズラを仕掛けた女子高生二人組の片割れである茶髪のショートカットだ。

「しかもポケットにくっさい靴下入ってて。もろ顔にこすりつけちゃった」

「なにそれ怖っ」
 口元を押さえて反応するロングヘアのつり目の女子。

「……洗濯中にお父さんのが入っちゃった、とか?」
 恐る恐るというように口を挟む巻き毛でたれ目の女子。

「きもっ、じじぃ、帰ったら許さねぇ」
 ショートカットは露骨に顔をしかめて毒づいた。

 彼女の父親にとんだ濡れ衣を着せてしまったようだ。
 剛はいたたまれなくった。

 ぱちん。

 指を鳴らすと、途端に周囲の雑音が消え、しんと静まり返った。目の前の女子三人組は口を半開きにしたまま固まっている。時が停止したのである。
 剛は堂々と草むらから姿を現し、三人組の前に立つ。
 男子禁制のマリアンヌ女子高。男が目の前にいるというのに、誰一人反応を示さない。
 よく見ると茶髪のショートカットは、それなりに整った顔立ちをしている。笑った顔が不細工なだけなようだ。

 剛はショートカットの背後に回り込み、ノートを前に抱えているせいでがら空きになった脇腹をわしわしともみほぐした。セーターの裾から手をつっこみ素肌まで。ぷにぷにとした肌触り。つまめる程度には脂肪がついていた。
 ぐりぐりと指を押し当てて内臓を探り、肋骨の下側をごりごりこそぐってやる。
 2分ほどくすぐり続けるが、ショートカットはまったく反応示さない。

 そのままほかの二人もくすぐるろうかと思ったが、思いとどまる。
 草むらに隠れて、指を鳴らした。

「ひぇぃっ!!?」

 途端にショートカットがびっくりしたように飛び跳ねる。抱えたノートがはじけ飛んだ。

「――ぶひゃっ!!! うひゃっはっはっはっはっはっはっはっ!!!? あだははははははははははは~~!!?」

 突然馬鹿笑いを始めたショートカット。ロングヘアと巻き毛はぽかんとしている。

「どど、どうしたの!? しーちゃん、大丈夫?」
 巻き毛が心配そうに声をかける。

「いひゃっはっはっはっはっは!!? くしゅぐりゃぁあはははははは、あがぁぁあ!? ごりごりだめぇぇっへへっへっへへっへへっへ~~!!!」

 ショートカットは立っていられなくなったのか、地べたにひっくり返り、のたうち回った。

「うわ……」
 ロングヘアはドン引きしている。

 ぱちん。

 そこで、剛は再び指を鳴らし、時を止めた。
 髪を振り乱し舌を出して笑い転げるショートカットと、心配そうに駆け寄る巻き毛、後じさりして頬をひきつらせるロングヘア。三者三様の反応を示したまま固まっている。
 剛はロングヘアの女子生徒に近づく。
 当然の無反応。
 友人の笑い狂う姿を一歩引いた位置から眺めている。その目には明らかに侮蔑が含まれている。
 意外と胸が大きい。
 両手で触れてみると柔らかく弾力があった。
 胸ポケットに硬い感触。
 櫛が入っていた。彼女の美しいロングヘアを整えるために、いつも持ち歩いているのだろう。
 剛は彼女の櫛をもって彼女の背後にしゃがんだ。
 左足を浮かせ、スリッパと靴下を脱がした。
 膝を折り、足の裏を上向きに晒し、櫛の先でがりがり土踏まずを掻きまわした。
 ロングヘアはドン引きの表情のまままったく動かない。
 彼女のの足は指が細くしなやかで非常に形が美しかった。
 指の一本一本を丁寧に広げ、股の間を櫛でこそいでやる。
 指の付け根、かかと、足の甲からくるぶしに至るまで入念にこそぐる。たっぷり10分近く経った。

 ついでに、地べたに寝転がっているショートカットの足も櫛でくすぐり足しておく。
 スリッパははじけ飛んでいたので脱がせる必要がなかった。
 靴下越しに1分程度、両足の靴下を脱がして2分ほどくすぐってから、草むらに隠れる。

 ぱちん。

「ふぁっ!?」
 ロングヘアのひきつった表情が一瞬で歪んだ。
 びっくりしたように色っぽい声を上げた直後、

「ひっ――いぎゃあぁあああははははははははははははっ!!!? のぁぁああぁぁ゛あぁばばばばばばばばばばば!!!?」

 前のめりに突っ伏して笑い転げた。

「なにこれっ!!? 足があぁあぁ゛あぁ゛!!! 足がががああぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!?」

 先ほどまで斜に構えていたロングヘアが、狂ったように目をむいて笑う。
 隣ではショートカットが新鮮な魚のように飛び跳ねている。

「ひぁぁぁあぁっはっはっはっははははっは、死ぬぅうう!!! そんなとこまでぇえぇへっへへっへへっへっへ~~!!!」

 素肌の脇腹のくすぐりに加えて、足裏へのくすぐりが足されたために、一段と甲高い笑い声をあげた。

「ふ、二人ともどうしちゃったの……? 怖いっ、ねぇっ!! ねぇってば! なんなのよぉっ!!」

 巻き毛はパニックに陥ったのか、悲鳴を上げて駆け出した。

 ぱちん。

 逃がさない。
 剛は時を止め、逃げる巻き毛の動きを止めた。
 おっとりとした性格に見えた巻き毛は、恐怖に顔をゆがめている。目に涙まで浮かべている。
 剛は、彼女の体をごろんと地面に横たえる。
 先ほどショートカットから脱がした靴下を使って、巻き毛の両手首を背中で合わせて縛る。
 巻き毛の足からスリッパと靴下を脱がし、その靴下で足首も合わせて縛った。

 ロングヘアの靴下が余ったので、ロングヘア自身の口の中に詰め込んでやった。
 
 巻き毛の小ぶりな胸の付け根に親指をつっこみ、ぐりぐりとくすぐりほぐす。
 目の前の巻き毛の表情は、おびえたまま動かない。
 10本の指を使って、丁寧に腋の下をくすぐってやる。後ろ手に縛っているので非常に腋の下がくすぐりやすい。
 腋、あばら、脇腹、順にくすぐり下ろしていく。
 スクールセーターがかなり大きめで裾が余っていた。べろんとめくりあげワイシャツ越しに腰周りをこすり、さらにシャツの裾を引っ張り出して素肌のおなかをなで回しておいた。

 彼女の筆箱の中に三角定規を見つけた。
 プラスチックの角の部分で、彼女の足の裏をひっかき回す。がりがりしゃりしゃり。足裏の垢がこそげ落ちた。
 彼女の白い足の裏は、血行が良くなったのかすっかり桃色になった。

 ついでにロングヘアとショートカットの足裏の垢もこそいでおく。
 三人合わせてたっぷり30分近くくすぐったであろう。
 剛は満足して時をもどす。

 ぱちん。

「誰か助けっ……!!? ぶわぁあひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!? ぐへぇえええぇぇぇえ、なんひゃりゃぁぁあぁぁぁっはっはっはっはっはっは~~っ!!!?」

「んぼぼっ!!? んぼぼぼぼぼぼぼごほほほほほほほほほっ!?」

「いだだだっ!!!? ぎひひぃぃ~~~~っひっひっひ、足いだぁぁあっはっははははははははははっ!!!」

 一斉に笑い声をあげる、巻き毛、ロングヘア、ショートカット。
 巻き毛の恐怖の表情が一瞬で破願する光景は見ものだった。
 両手両足が縛られているにも関わらず、びたんびたん体をのたうちまわらせ笑う。他二人の比ではないほど暴れている。

「ひげぇぇえひゃっひゃひゃっひゃ!!!? んな゛あぁ゛ははははははははははっ!!! あがががが、腋ぃいひひひひひひ、おほほほほおおながぁぁあ!!!? ひぇえっ、あひぃい!!? なんじゃこりゃぁぁあばばばばばばばばっ!!?」

 くすぐった部位が最も多い巻き毛は、全身に強烈なくすぐったさを感じているのだろう。半狂乱だ。

「んごぉぉおお゛ぉ、んぼぉぉぉ~~~ほほほほほほほほ!!?」

 ロングヘアは自分の靴下で口をふさがれて窒息しかている様子。白目をむいて笑い続ける。

「ぎやぁぁはっはっはっはっはっは!!! 助けてっ、だれかぁひゃひゃひゃひゃっ!!! なんでも゛ぉ゛、ひひひひひひ、なんでもずる゛がら゛あぁぁ゛あぁあ~~っはっはっはっはっはっは!!!」

 通算でくすぐられた時間が最も多いショートカットは、蓄積されたくすぐったさに襲われて体が限界のようだ。狂ったように泣き叫ぶ。

 これで濡れ衣を着せられた彼女の父親も浮かばれるだろう。剛は感無量だ。
 いつまでも笑い悶える三人組を背に、剛は次のいたずらの標的を探しに発つ。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 時間停止モノ第二弾です。唐突に書きたくなりました。