ミッコはときどき、自走砲BT-42通称「クリスティ突撃砲」にひとり乗り込み、ドライブする。
 その日も、いつものように、海岸線に沿ってBT-42を走らせていた。
 ふと窓から射し込む太陽の光がいつもより強いような気がした。車体が太陽に照らされて、内部にまで熱がこもってくる。
 突然だった。
 視界が闇に包まれたかと思うと、BT-42は勢いよく落下した。
「いっ!?」
 ミッコはハンドルにしがみついた。
 まるで、地面が一瞬にして消え失せ、地中に吸い込まれていくような感覚だった。
 視界が真っ暗なため、何が起きているのかまったくわからない。
 どこまで落ちるのか。
 ぶよん。
 着地したのは、柔らかいクッションのような地面だった。
 車内のミッコはスーパーボールのように弾き飛ばされた。
「いてて……」
 落下の衝撃が緩和されたおかげで、怪我はなかった。
 ミッコは起き上がり、操縦席から外を見渡す。
 やはり暗くてよく見えない。
 地面は土ではない。色は白っぽく見える。迂闊に車外へ出ない方が良いだろう。
 ミッコはアクセルを踏み込んだ。
 がらがらと履帯の回転する音が響く。
 地面がぶよぶよと上下して、まるでボートにでも乗っているようだ。
 乗り物酔いには強い方だが、不気味だった。
 車体が動くたびに、地面が揺れ動く気がする。地盤が安定していないのかも知れない。
 この道はいったいどこまで続いているのか?
 そもそも道と呼べるのか?
 しばらく進むと、眼前に巨大な丘陵があった。
 丘陵の周囲を走らせてみる。
 越えられるだろうか?
 一時停止して、一気にアクセルを踏み込んだ。
 BT-42は勢いよく丘陵に乗り上げる。
 重力に逆らい突き進む。アクセルを踏み込むと、排出口からバスバスと火が噴いた。
 頂上まで到達し、一時停止。
 なにもない。
 丘陵の頂上にはぷくりと円形の突起があるだけだった。
 地面の色と少し違う。突起の周囲が円形に茶色っぽく変色しているように見えた。
 この突起、どこかで見覚えがある?
 ミッコは意を決して車外へ出てみた。
 踏みしめた地面は柔らかい。水風船の上にのっかっているような感覚だった。
 常に地面がぐらぐらと揺れ動いていて、居心地が悪い。
 茶色の突起はミッコのからだほどの大きさがあった。
 おそるおそる触れてみる。
 ぷにぷにとしていて弾力があった。
 地面の揺れが少し大きくなった気がした。
 突起の直径はだいたい、ミッコが両手を広げたぐらい。
 両手で囲い、引っ張ってみた。
 のびる。が、ちぎれるような様子はなかった。
 と、そのとき、地面が今まで以上に激しく揺れ動いた。地震だ。地盤沈下か!?
 慌ててミッコはBT-42に乗り込んだ。
 ここにはもう何もない。
 いったいここはどこなのか?
 不思議に思いながら、ミッコはアクセルを踏んだ。
 丘陵を慎重に降りる。
 地震は続いていた。

~~~

「ひゃっ!?」
 ミカは突然体に違和感を覚え、カンテラを演奏する指を止めた。
「どうしたの? ミカ?」
 隣でアキが首を傾げてくる。
 が、ミカは返答する余裕がなかった。
「な……んぅ!?」
 服の内側、腋のあたりだった。
 素肌の上を何か虫のような小さなモノが這い回る感覚だった。
 ミカはくすぐったさに顔をしかめた。
 小さな虫はぐるぐると皮膚の上をのろのろ這い続けた。
「ミカ? 具合悪いの?」
「い、や……ちょっと……ひゃぁぁあん!?」
 虫が、乳房にっ!?
 ミカは、虫に乳房の上を這い上られるような感覚に襲われ、パニックに陥った。
 ミカは顔が上気する。
 アキの目を気にしている場合ではなかった。
 ミカは自分の乳房を、服の上から押さえた。
「うぇっ!? ミカ!? 何やってるの!?」
「ひぁっ、む、虫がっ……んぁっ!!」
 いくらまさぐっても、虫の這い回る感覚は消えなかった。
 もう限界だった。
 ミカは服の裾から片手をつっこみ、直に、掻痒感の生じた乳房に触れる。しかし異物は見つからない。
 人前で、自分の乳房に触れるど、普段のミカからは考えられない奇行。アキもあんぐりと口を開けた。
「……なっ!? ミカ!? 虫が入ったの? 服の中!? 大丈夫!?」
 アキの声は、ミカの耳に入ってこなかった。
 ミカはいやらしいくすぐったさに身をよじり耐えながら、必死に自身の胸をまさぐる。
「い、……いひゃ、むひっ、虫、ど、どこに――」
 そんなとき、突然乳首を何かにつままれる。
「ひゃぁぁああああん!!!?」
 ミカは、顔を真っ赤にして、嬌声と共に体を仰け反った。
「ミカぁぁ!?」
 アキも心配そうに声を荒らげた。
「ひやぁぁぁああ!? や、やめっ!! んぁぁあああっ」
 小さな何かが、ミカの乳首をつまみ引っ張っている。
 ミカが激しく体をよじっているうちに、刺激は収まった。
「……はぁ……はぁ」
 虫が、消えた……?
 ミカは前屈みになって胸部を隠すように手で押さえながら、肩で息をした。
「み、ミカ……? 大丈夫……?」
 うずくまるミカの背中に、アキがそっと手をのせた。

~~~

「いっ!!?」
 しばらく平らな地平線が続いていたため、ミッコは油断していた。
 がこん、とBT-42の車体が大きく傾く。
 左後輪が、謎のくぼみに嵌まってしまったのだ。
 いくらアクセルを踏み込んでも、履帯が空回りするだけ。
 ががが、ががが、と激しくエンジン音が鳴り響いた。

~~~

「ひゃひっ!!? はひっひっ!?」
 ミカが突然地面に倒れ込んだために、アキはびくっとした。
「ミカ、また虫!? どこ!?」
「あひぃぃいっっぃ、おへそっ!! だめぇぇひぃぃ」
 ミカの様子から、虫はへそに入り込んでいるらしい。
「ミカ、待ってて! 私が見てあげる」
 アキはミカに断りを入れて、ミカの服の裾をめくり上げた。
 ミカの白いお腹が露わになる。
 アキはミカのヘソあたりに目をこらす。
「どこ!? ミカ! 虫なんて居ないよ!?」
「ひひゃぁぁああひぃぃぃ!!! ひゃえぇぇっ!! おへそぐりぐりぃぃひゃぁぁぁ!!?」
 ミカは左右に身体をよじってもがいている。
 アキは目をこらした。
 すると、ミカのヘソあたりがたしかにひくひくと震えているような気がした。
「なにか? いるの?」
 アキはそっと人差し指をミカのへそへ差し込む。
「あひゃぁぁあああん!!?」
 と、すぐさまびくんとミカが体を仰け反らせた。
「あわわミカ、ごめん!! ごめん! えっと、見えないけど!! なんかいるっぽい! 私、どうしたら……!?」
「とってぇぇえひひっひっひっ!! ふひゃぁぁあひっ! アキぃぃいい」
「と、取ってって言われても……」
 ミカは笑っているような泣いているようなひどい表情だった。
 普段の澄ました表情からは考えられない。
 アキは、ミカのそんな姿を見ていられない。なんとか力になってやりたいと思うものの、為す術がないのだ。

~~~

 ミッコは焦っていた。
 どうしても、BT-42がくぼみから抜け出せない。
 そろそろエンジンがオーバーヒートしそうだ。
 かくなる上は、
「天下のクリスティ式なめんなよ!」
 ミッコはエンジン全開に両輪の履帯を切り外した。
 BT-42は履帯を外すことで装輪装甲車として使用できるのである。
 ぶるんとエンジンが唸り、くぼみから飛び出す。
 BT-42はそのまま、やわらかい地面の上を、猛スピードで疾走した。

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「ふひゃひゃはははははははは!!?」
「ミカ!!?」
 いきなりミカが大口を開けて笑い出したため、アキは戸惑った。
「ひぁぁやっはっはっはっはっはっはははっは!!! おなかぁぁぁああはははははははやぁぁ~~!!」
「お腹!? お腹なの!? お腹に何かがあるの!?」
 アキはミカのお腹付近を凝視する。
 やはり何もない。
 手でなでてみるみる。
「ひひゃははははは!!?」
「ごめん!! ミカ! いまのくすぐったかった!?」
 どうしたらいいのかわからない。
 確かに目をこらせば、ミカのお腹から脇腹にかけて何かが這っているようなくぼみが見えるような気がするが……。
 アキには状況がまったく理解できなかった。

~~~

 BT-42は長いトンネルを抜けた。
 といっても、いまだ外の様子は暗いまま。空間を脱出したわけではないようだ。
 しかしようやくハッキリとわだちが見える地帯に到達した。
 地盤が緩い以上、わだちに沿って進むのが吉。
 ミッコはステアリングハンドルを操作して、わだちの上へBT-42を走らせた。

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「ひひゃぁぁぁああひひひひひひひひひひ!! あひの皺ぁぁああっははっはっは皺の間を這われてぇぇぇえっひっひっひっひ!!!」
「待って! ミカ! 今、靴下脱がすから」
 アキはミカの足から靴下を脱がした。
 綺麗な素足。
 しかし、なんの異常も見られない。
 ミカによると、足の裏の皺に沿って、虫が這い回っているという。
 目をこらしてもまったくわからない。
「ひひゃははははははははは! とってぇぇぇえひひっひっひっひアキぃぃいっひっひっひっひ!!! はやくぅぅぅ~~!!!」
「そ、そんなこと言われても……」
 ミカの足の指がくすぐったそうにくねくねもがいている。
 アキが触れると、またミカをくすぐったがらせてしまうかもしれない。
 アキはこれ以上ミカを苦しめることは避けたかった。
「ひゃぁぁあはははははははははひぃぃぃ~~!!!」
 ミカは目を剥いて笑っている。
 アキはいたたまれなくなって、ミカの被っていたチューリップハットをミカの顔面に被せた。
「むごごごごごひひひひひひっ……ひっき……息っ……ふごひぃぃ~~!?」
「ご、ごめんミカ! これじゃ息できないよね」
 ミカの息苦しそうな声を聞いて、アキは慌ててチューリップハットを取る。
 アキはどうしたらよいかわからず迷走していた。
「えっと……お湯とか、かけてみようか」

~~~

 走っても走っても同じ道をループしているような気がする。BT-42の前方のわだちはどこまでも続いていた。
 ミッコは、この空間を脱出する道を探して走り続けた。
 なんとかここを抜け出したい。
 そろそろ燃料も絶えそうだった。
「ん?」
 ミッコはBT-42を停止させた。
 音がしたのだ。
 と、次の瞬間、目の前に水が迫っていた。
「いいいいいっ!!?」
 避ける余裕なんてなかった。
 しかも、
「熱っ!!?」
 窓から侵入してきた水は熱湯だった。
 慌てて窓を閉める。
 が、鉄製の車体は外から温められ、徐々に内部に熱がこもる。
「熱ぃ……」
 あまりの暑さに意識がもうろうとした。
 頭がぼーっとしてきて、だんだんまぶたが重くなる。 
 意識が飛んだのはほんの数秒だろうと思う。
 ミッコはハッと目を見開いた。
 ミッコとBT-42はもといた海岸線に戻っていた。
「いまの……夢?」
 ミッコは首を傾げながら、継続高校へBT-42を走らせた。
 ベッドの上で隊長のミカがアキに介抱されていて、不思議に思った。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 チャットルームで「ミッコ責めミカ受け」のお題をいただいて書きました。
 ミカさんのキャラ崩壊ごめんなさい(>_<) (キャラ崩壊どころじゃない)
 さらに劇中ミッコさんが人間と対話するシーンがなく、ミカさんにどんな口調で喋るのかが不明だったために、こんな謎仕様にしてしまいました。もろもろ反省しています。おそらく一般的な戦車は特殊なカーボンで内部がコーティングされているため、熱を帯びても異空間には飛ばされません。