「あひゃ……あひ……」ミノリはくすぐりから解放されてもなお、へらへらと笑みを浮かべてもだえていた。

 ミノリの罰ゲームが終わった時点で、お開きまで残り10分を切っていた。
 ようやく帰れる。
 ユヅキは安堵するが、
「よーし! ラスト一回いくぞー!」
 キタノの宣言で、罰ゲームくじが再開された。

 ユヅキは絶望のままくじを引かされる。トイレに逃げ込む暇もなかった。

「ユヅキちゃん! 罰ゲーム!」
「えっ」
 ユヅキは自分のにぎった割りばしを二度見した。まぎれもなく赤い印がついている。
 何も考えずに引いたくじが当たり。……
 絶望した。
 そのまま放心状態で罰ゲームを決めるくじを引くと、

「『全身こちょこちょ』……『30分』」

「ユヅキちゃん! 大当たり! 全身こちょこちょ30分きたーっ!」
 キタノが囃し立て、場が一気に沸いた。

「……ま、待って! もうお開きの時間じゃ――」
 ユヅキは、『英研』の女子たちに取り押さえられながら叫ぶが、
「だめだめ! 罰ゲームは罰ゲーム! 最後までしっかり受けてもらうからねー!」
 キタノの言葉に「そうだそうだ」と呼応する男たち。「ユヅキちゃん往生際が悪いぞー!」ノリノリの『英研』女子がユヅキのソックスを脱がしながら言った。

 完全に場の空気にのまれた。

 ユヅキは座敷の上で仰向け大の字に寝かされ、手足にひとりずつ『英研』女子がのっかった。
 まったく身動きが取れない。

「待っ……! こんなの聞いてな――」

「罰ゲームスタート!」

 ユヅキの抵抗むなしく、『全身こちょこちょ』罰ゲームが開始された。
 手足に乗った女子4人に加えて、左右に座った男子2人と足元の女子3人も加わって、総勢9人でくすぐられる。

「――んぶっ」一瞬、思い切り頬を膨らませてこらえるが、「ぷはっ、だははははははははははははは!!!?」耐えきれず思い切り噴き出してしまう。

 首、腋、あばら、お腹、内股、足の裏、……全身で這いずり回る指、指、指。全身が鳥肌立つ。神経がひっくり返るような錯覚を覚えた。
 やばい。やばい。やばい。頭がおかしくなる!

「やはははははははちょぉぉおっ!? ちょっと待ってえぇぇっへっへっへっへへっへっへっへっへっへ~~!!!」

 想像以上のくすぐったさにユヅキは泣き叫んだ。

「うんうん。良い笑顔だ。ユヅキちゃん。仏頂面より笑った方がかわいいよ」
 キタノが挑発するように言った。

「ひゃっはっはっはっは、やめて……っ!!! やめさせてくださいぃいっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ~~!!!」

 ホントに死んじゃう!
 ユヅキはキタノに向かって必死に叫んだ。

「だめだめ。あと29分あるからね。ミノリちゃんだって頑張ったんだから、ユヅキちゃんも、ねぇ?」

「ひひゃぁぁはっはっはっはっはっは、そんなっ……無理ぃいいひひひひひひひひひひひひひひっ!!!」

 こんなにくすぐったいのに、あと20分以上なんて耐えられるわけがない。
 ユヅキは恥を忍んで懇願する。
 泣きわめき、許しを請う。
 キタノは首を横に振るばかりであった。

「ユヅキちゃんさー、そんなつれないこと言わないでよー」
「そんなに笑って実は楽しんでるんでしょ」
 そんなことを言いながら足の裏をくすぐってくる『英研』女子たち。

「うるしゃぁあはっはっはっはっははっは、やめろってぇぇえへっへっへっへへっへっへっへ~~!!!」

 挑発的な言葉にユヅキはついつい反応してしまった。

「うわ、年上に向かってため口じゃん」
「ちょっとお仕置きがいるねー」
 足元の2人はそんなことを言いながら、どこからか取り出したヘアブラシでユヅキの素足をこすりはじめた。

「いひゃひゃひゃひゃっ!!? それやめぇぇぇ~~はっはっはっはっはっはっはっはっはっははっはっははは!!!」

 土踏まず、指の付け根をブラシでこすられる未知の刺激。
 ユヅキは耐えられようもなく泣き叫んだ。

「だれきゃぁぁはっはっはっはっは、誰か助けてぇひぃぃいっひっひひひっひっひっひ~~!!!」

 一瞬目に入るミノリの姿。ミノリは座敷の隅で気まずそうに座っていた。
 ミノリっ……!
 ユヅキは目で訴える。ミノリはさっと目をそらした。

 あ……。

 自分もさっき、助けを求めるミノリを見捨てていた。
 すると、突然罪悪感が押し寄せ、自分がこうしてくすぐられるのも仕方がないことのような気がしてきた。

「ユヅキちゃん、どう? 楽しんでる?」キタノの声が聞こえた。

「やはははははははははっ!!! 楽しいいぃっひひっひっひっひ、楽しいでしゅぅううっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~~!!!」

 ユヅキは涙を流しながら叫んだ。
 笑いすぎて自分の頭は変になったのだろうか?
 何を言われても、何をされても、従わなければならないような気がした。

 もう、どうにでもなれ。そんな気分だ。

「上着、脱がすよ?」
「ひゃっひゃっひゃ、はいぃいっひっひっひっひっひ」

「スカート、取って良い?」
「いひっひっひっひっひ、いいれすぅううひひっひひひっひっひ~~」

 言われるがままに、ユヅキは従った。
 笑えば笑うほど、なにもかもがどうでもよくなってくる……。

 罰ゲームの30分が終わるころには、ユヅキは下着のみの姿になっていた。

「うわ……ユヅキちゃん、さっきとは別人みたいな顔してるよ」
 キタノですら引いている。
 自分がどんな表情をしているのか想像もつかない。
「ユヅキちゃん。この後二次会で家飲みやるんだけど、もちろん来てくれるよね?」

 家にまでついていったら、何されるかわかったもんじゃない……。

「はひ……もちろんでしゅ……」

 理性に反して、口が勝手に動いていた。

 散々くすぐられ、キタノの言いなりになったユヅキは、後日『外検研』から『英研』へサークル替えすることになる。


(完)