学校へ到着するとすぐに正面玄関前に人だかりができていることに気付いた。
 奥から女子の笑い声が聞こえてくる。
 あー……やっぱりか。
 誠一が人込みをかき分けて進むと、

「あはははははははっ!!! な、なにこれぇぇぇ~~きゃっはっはっはっは!!」

 下駄箱の前でひっくり返って笑いもだえる女の子がいた。
 桃田寧(ももた ねい)。クラスメイトで、学級委員長を務めている。2月14日にはバレンタイン菓子を大量に作って教室にもってきて、クラス中に配っていた。献身的で、男子にプレゼントを渡すことに対して抵抗がない様子。誰にでも人懐っこい笑顔を向けるので、自分に好意があると勘違いする男子も多数いた。
 そのせいか、ギャラリーには男子が多い。

「やだぁぁっはっはっはっは!!! 見ないでっ!! 見てないで助けてってぇぇえっへっへっへっへっへ~~!!」

 桃田寧は激しく髪の毛を左右に振り乱し、大口を開け笑っている。
 体にまとわりついている白い液体は間違いなくホワイトチョコレートだ。トリモチのように床にへばりついて、彼女は身動きが取れない様子。
 服の隙間から出たり入ったり、にゅるにゅると動き回るホワイトチョコレート。まるでヒルのようだった。
 上履きと靴下は脱げており、そのすぐそばに、見覚えのある包装紙が破れて落ちていた。

「あっはっはっはっ!!? いっ、伊藤くんっ!!? これなぁにぃいっひっひひひっひ、なんなのぉぉあぁぁはっはっはっはっはっは~~!!!」

 誠一の存在に気付いた彼女は叫んだ。
 ギャラリーの目が一斉に誠一へ注がれる。
 昨夜『チョコお返し代行サービス』で彼女の名前を書いた。そのせいで彼女はこんな目にあっているのだ。早く水をかけてやらないと――
「伊藤、貴様のせいか? 貴様のせいで桃田がこんな痴態を……!」
 踵を返そうとして、男子生徒のひとりに腕をつかまれた。
 あまりの剣幕にすくんでしまい、動けなかった。男子生徒は反対のこぶしを握り締める。
 殴られる!? 覚悟を決めるが、……
「最高だ!」彼はガッツポーズをかました。
「へ?」
「桃田のこんなかわいい姿見られるなんて! 貴様は神か!」
 彼が誠一をあがめると、周囲の男子生徒も「神!」「神!」と叫びだした。
 誠一は唖然とした。

「ちょっとぉぉ~~っはっはっは!!? 男子ぃいぃっ、ふざけてないで助けてよぉぉ~~っはっはっはっはっはっはは馬鹿ぁぁ~~!!!」

 桃田寧は、欲望をむき出しにする男子生徒たちにあきれ果てたのか、ののしり喚いた。

「おお! 桃田の『馬鹿』いただきっ」
「違う! 今のは俺に言ったんだ!」
「いいや俺だ!」
 変態男子どもは喜んでいる。

 これは、このままで、いいのか?
 誠一もあきれ果て、
「勝手にやっててくれ……」去ろうとする。

「待ってぇぇえへへへへへ、伊藤くんっ!!! これ止めてっ!!! なんで私がぁぁぁっはっはっははっはっはっはっは~~!!?」

「あーごめん。桃田。水かけたらソレ取れるから。みんな、気が済んだら水かけて助けてあげてくれ」
 誠一はそう言いおいて、自身の下駄箱で上履きに履き替えた。楽しんでいるところを邪魔しては悪い。

「くあぁはっはっはっは、そんな!!!! 無責任なぁぁあっははっはっは!!? 誰かっ、早く水かけろよぉぉ~~いひひひひひひひひ!!!」

「うほっ、桃田は口悪くてもかわいいなぁ」
「もう少し、もう少し……」

 誠一は、変態男子どもと笑い狂う桃田寧を残し、教室へ向かった。


(つづく)