「じゃーん! ほら見て!」
 矢沢瑠希(やざわ るき)は、きれいにラッピングされた箱を掲げ、友人の松平定子(まつだいら のりこ)に見せつけた。
「なによ?」
「伊藤からだよ! ホワイトデーのチョコもらっちゃった!」
「へぇ、伊藤、ねぇ。……てか、そんなの自慢するために踊り場まで呼び出したの?」
「朝来たら、下駄箱に入ってたんだ! ナイスなサプライズだよねぇ」
「いや、うざい。伊藤のキャラじゃない気がするし。……で、何が入ってるの?」
「ええっとねぇ……」

~~~

 誠一は階段を上りかけてはっとした。
 踊り場に、クラスメイトの矢沢瑠希がいる。彼女もまたバレンタインデーに自分に菓子をくれたひとりだ。そして、昨夜『チョコお返し代行サービス』に名前を書いたひとり。
「――矢沢! 開けるな!」
 誠一が叫ぶが時すでに遅し。

「えっ?」
 瑠希は包装紙をちょうど解いたところだった。

 びゅるるっ!!

 突然箱のふたが弾け、白い液体が彼女の顔に噴射される。

「うへぇっ!!? なにこれっ!?」
「ちょっ……やだっ、最悪!」
 隣にいた松平定子まで白い液体まみれに。
 そして、二人の首元から、スライムのような白濁液がにゅるりと服の中へ侵入する。

「やっ……えっ、なぎゃっ!!? あはははははははははっ!!! いえぇぇぇぇえっ!? なにこれ、くすぐったぁあぁあっはははっはははっははっはは!!!」

「ふぁっ!!? くふふふふんぐぅううぅぅぅぅぅ――ぶはっ、あはははははははははっ!!? ちょっ、やだぁああははハハハハハ~~!!!」

 二人は腋を必死に閉め、地団太を踏んで笑い出した。

 瑠希はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、
「やははははははだっ、伊藤っ!! これなにぃいっひっひっひっひっひっひ!!?」

 定子はおなかを抱えてしゃがみこみ、
「説明しろぉぉ~~はっはっはっははっははっはっはっは!!!」誠一をにらみつけた。

「すまんっ! すぐに水を持ってくるから」
 誠一は、二人の罵声交じりの笑い声を背中に浴びながら、手洗い場へ急いだ。
 しかし、……

 断水。

 手書きの札がすべての蛇口にひっかかっていた。
「このタイミングで!?」
 誠一は自身の天運を呪いたくなった。
 しかたなく、一階まで降りて、自販機で天然水を買う。

 もどってくると、

「うひゃはははははははっ!!? そんなとこぁあっははっはっはっはっはっはっ!!!!」

「もぉぉ゛おお゛ひゃっひゃっひゃっ、伊藤死ねぇぇええへっへへっへへっへっへ~~!!!」

 さっきよりひどいことになっていた。
 二人とも立っていられないようで、地面にはいつくばるようにして笑いもだえる。
 服が乱れ、ボタンがはじけ飛んでいた。上履きが脱げて階段の下まで転げている。二人とも素足になっており、ソックスはあっちこっちへ散らばっていた。
 ホワイトチョコレートのダマが無数に分裂し、二人の体中にへばりついて震えている。

「あひゃひゃひゃひゃっ!!! ひぃぃいい、パンツの中はらめぇぇえっへへっへっへへ~~!!!」

 瑠希は股間を両手で押さえつけ嬌声を上げた。
 どうやら、ホワイトチョコレートがパンツの中まで侵入してくすぐっているらしい。
 足をじたばたと激しく掻く。スカートがまくれあがってパンツ丸見えだが、気にしている余裕はなさそうだ。

「いひっひっひっひっひっひっ!!? あぎゃっひゃっははっはっは!? あひゃぁぁ伊藤ごらぁっ、早くタスけろぉおひょひょひょひょひょっ!!」

 定子は開脚座りの姿勢で動けないようだった。見るとホワイトチョコレートが足首、膝、股関節にへばりつき、床と固定している。
 彼女の素足の裏を、細長く変形したホワイトチョコレートが撫でまわしている。瑠希に比べるとずいぶんと軽そうな刺激に見えたが、定子にとってはそうでないらしい。定子はかたい体を必死によじってもがく。両手は足にとどきそうにない。

 誠一は、ペットボトルを開け、二人の体に水をかけた。
 どろどろと流れ落ちるホワイトチョコレート。
「ひぃひぃ……いったい、なんだったのぉ……」
「伊藤……ふざけんにゃよぅ……」
 ぐったりとして動けない二人に対して、
「ごめん。いまは説明してる時間ないから」
 誠一はほかの犠牲を食い止めるべく、走り出した。


(つづく)